Fコードと一発ギャグ【彼氏の顔が覚えられません 第20話】

部室でギターの練習しているといつも、「俺も混ぜてよ」と、肩をポンと叩いてくる男子生徒がいた。「俺、初心者なんだ。きみ、巧いの? 教えてよ」なんて言って。

Fコードと一発ギャグ【彼氏の顔が覚えられません 第20話】

画像:(c)Africa Studio - Fotolia.com


そんな、人に教えられるレベルじゃないのに。けれど彼の方がよっぽど下手で、なかなかFコードが弾けなかった。ようやくマトモに音が出せるようになるまで、3ヶ月かかった。

彼はよく言っていた。「在学中にメジャーデビューしてやる」と。
それを私は、「なら急がないと、退学までもう秒読みらしいわよ」とからかった。「まじで!? じゃあ時を止めてやる!」なんてノリのいい返事をしながら、彼は一発ギャグをやった。それがいつもサムくて本当に時が止まったようになるから、いってみれば有言実行なのだった。

いつも部活で一緒にいた同級生の男子。彼をカズヤと認識したのは、いつごろだったろうか。人の顔どころか名前すらロクに覚えられない私が、彼をイチ同級生ではなく、個人として見るようになったのは。

おそらく、共に部活へ打ち込んでいたころではなかった。私が部活へ行かなくなり、しばらくして。
いっしょのクラスで受けていたスペイン語の授業が終わった直後だ。

ほかの生徒たちがほとんど教室から出ていった後。自分も、教科書やらノートやら西和辞典やら和西辞典やら、仰々しい量の荷物をなんとか鞄に詰め終え、席を立とうとしたときだった。

「ヤマナシさんさぁ、もう部活こないの?」

声をかけられた瞬間、やっぱり目の前の男子が誰だかはわからなかった。部活と言ったから、あぁきっと軽音部のコだろうな、とは思った。

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