コラーゲンと修羅場【彼氏の顔が覚えられません 第21話】

子豚ちゃんがそうやって媚びたような台詞を吐くたび、ストレスが募る。この女、いや、豚。どう料理して食ってやろう。頬肉のあたりなんかコラーゲンたっぷりではなかろうか。それともただの脂身か? 鉄板の上に載せたらさぞかし、肉の焼けるいい音がしそうだ。

その前に、どうやって殺そう。刃物で刺す、鈍器で殴る。いろいろ方法はあるが、肉を傷つけないためには首を絞め上げるのが一番か…。


「あ、イズミ、ポニーテールにしたんだー。イメチェン? かわいー!」

不自然な話のそらし方をする豚。おかげで気が散って、せっかく考えていた殺害計画が頭から消し飛んだ。もういいやコイツ、殺すのもメンドい。

「いつから付き合い始めたの。2月のデートが初めて? それとも、1月から?」

一応、聞いてみることにする。だいたい想像つくけど、あの三が日の“相談”がキッカケなんだろう。「ギター弾けるようになりたいんだ。
カズヤ軽音部なんでしょー、教えてよー」とか何とか言ってたあれは口実だったのだ。そこからしばらくは友達だったのか、すぐ恋愛に切り替わったのか。

「ち、ちげーよ。いつからも何も、ずっとギター友達だよ」

ようやく顔を上げ、口を開くカズヤ。言い訳じみた口振りから察するに、正直な話を聞くのはもう諦めた方がよさそうだ。

「ふーん、ギター友達。恋人ほっぽって、バレンタインに“デート”だとか言ってはしゃいで、それで友達ね」

「あぁっ…くそっ、先輩が妙な言い方するから…」

「妙な風にLINEに書いたのはカズヤでしょーが」

「書いたまんま伝えられるとは思ってなかったんだよー! 冗談ぐらい通じると…」

「冗談? こっちは本気で落ち込んでたのに、冗談なんて考えられない。サイテー」

「ああっ…ごめ、いまのは俺が…」

「許さない。
ゼッタイ。どう謝られてもムリ」

言って。学食のお盆に載っていたコップを手に取る。バシャッ。勢いのまま、カズヤの顔面にぶっかける。


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