単位と食事デート【彼氏の顔が覚えられません 第23話】

わかった。これ、誘われてるんだ。デートに。

「いいですよ、行きましょう」

誘いに応じることにする。ブラウザを閉じ、先輩を見る。まだ見慣れない感じがする短い髪の彼を。

「えっ、マジ…?」

「マジですけど。まさか誘ったの、冗談ですか?」

「いや、ちょっと…断られるんじゃないかって思って…」

ふだん通り、たどたどしく言う。
こんなに自信なさげなのに、急に告白したり、デートに誘ったり、変な先輩だ。男性としての魅力がこんなに乏しい人はなかなかいない。

けど、だからこそ。信頼できるし、いっしょにいて安心できるのかもしれない。

「行きましょう」

と言い、手を差し出す。「えっ」と先輩が言って、数秒。ためらいがちに、彼も手を伸ばす。私は、彼の中指一本だけをさっと握る。
カズヤとは違って冷たい指。長いけど、細くて筋張っている。

単位のことが頭をよぎる。一年で履修した科目の単位は、確かにぜんぶ取れた。だけど、友達と恋人は。ユイとカズヤが科目だったとしたら、その単位は落としてしまった。何がいけなかったのか、どう改善すればいいのか。そもそも再履修できるのかどうか。
やれたとしても、さらに悪い結果に終わりそうな気しかしない。

それでいいじゃないか。だったらまた、新しい科目を受けるまでだ。いま指を握っている先輩を、彼を新しい友達か、恋人に迎えてはどうか。

また失敗するかもしれないけど、それでいい。失敗は人生において大きな損失ではない。また新しい相手を見つけるための経験値として積み重なっていく。そうやって人は成長していくハズだ。


夜の街に繰り出す。先輩の指を握ったまま。

「イ、イズミちゃん…指一本、だけ…?」

「手、ちゃんと握ってほしいんですか」

「う、うん…できれば」

「ダメです、調子に乗らないでください」

「そ、そんなぁ…」

「だって私たち、恋人同士じゃないんですからね」

今は、まだ。

(つづく)

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