おでこと屁理屈【彼氏の顔が覚えられません 第24話】

「タナカ先輩と別れていただけませんこと?」

おでこと屁理屈【彼氏の顔が覚えられません 第24話】

画像:(c)egon1008 - Fotolia.com


いきなりそんなことを言われたのは、授業のあとだった。タナカ先輩が誰かはもうわかっている。先日食事デートをし、それ以来たびたびキャンパス内で会う機会が増えている3年の先輩のことだ。タナカヒロシ。あまりに平凡すぎて、いまのいままで記憶に残らなかった。

で、声をかけてきたこの女性は。今年から履修し始めた文化人類学の第三回目を、隣の席でさっきまで一緒に受けていたコである。

「えと、あなたは? ごめん、私、人の顔覚えられなくて」

髪を後ろでお団子に束ねた、広くつややかなおでこの彼女に尋ねる。
その答えは、丁寧な言葉づかいで返ってきた。

「謝らなくて結構ですわよ。お声をおかけしましたの、初めてですから。わたくし、お隣の付属高校から入学して参りました、コモリといいますの。本大学の一回生ですわ」

付属高校。同じキャンパスの中にある高校のことだ。そこからエスカレーター式に入学してきたということだろう。一回生とは、一年生ってことか。
何やら古風な言い方をしている。口調もそうだけど。

「あなたは付属の方ではないですわよね?」今度は、コモリの方から尋ねてくる。「わたくし、人の顔を覚えるのは得意なんですのよ。なのにあなたのことは、高校でぜんぜんお見かけした覚えがありませんもの」自信ありげに言う。なんとなく、言葉にトゲがあるようにも聞こえる。

「私は地方のぜんぜん関係ない高校出身だけど。2年のヤマナシです」

「そうですの。
地方ご出身の。なるほど」

学年が自分より上と聞いても、コモリは相変わらずこちらを値踏みするような口調を続ける。付属出身者って、そんなに偉いのだろうか。少なくとも家は裕福なんだろう。私もそこまで貧乏人という感覚はないが、一応、奨学金をもらっている身だ。

「それではヤマナシ先輩。お話を戻しますが、我が付属高校ご出身のタナカ先輩と別れてくださらないかしら。これ以上彼とお付き合いされることには、いささか問題があるように思われますの」

「問題」


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