パニックと読者モデル【彼氏の顔が覚えられません 第25話】
ガタッ。不意を突かれて、椅子から転げ落ちそうになる彼女。セリフもだけど、リアクションも漫画みたいにオーバーだ。そう考えるとなかなか愛嬌がある。
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「い、い、いまなんとっ、なんとおっしゃったのっ!?」
「だから、好きなんでしょ、タナカ先輩のこと」
ぶるぶるぶるっ、と首を横に高速で振るコモリ。なんだか水をかぶった直後のワンコみたいだ。
「す、好きだなんてそんなっ、そんな陳腐な恋愛感情などっ。わたっ、わたくしは、人として先輩のことをお慕いしているのであり…そう、あこがれよっ、あこがれ…もっと、好きだなんてものよりも、崇高な感情だわ、これはっ…!」
わぁ、めんどうくさい。
世間じゃそれを恋と言うのよ。思ったけど、口にはしないでおく。それより言ってあげなきゃいけないことがある。
「安心して。私、タナカ先輩とはただの友達だから。あなたのあこがれを奪うようなことをするつもりない」
「え…と、友達!?」
もはや、私に対する敵意はなさそうだ。さらに念を押してみる。
「そう、友達。
それに私、一回先輩にコクられたけど、断ってるもの。恋愛感情なんか持ってないから安心して」
「断った…? ほ、ほ、ほ、本当に…?」
動揺が激しくてハトみたいなしゃべり方になってる。
「ここでウソ言ったって、別になにも面白くなんかないでしょ」
「ほ、本当に…タナカ先輩に、こ、告白までしていただいて…こ、断ったの、ね…」