赤ずきんちゃんと黒歴史【彼氏の顔が覚えられません 第27話】
それどころか、いまだ先輩がカッコイイのかどうかもよく判断できていない。整っているほど、無個性で記憶に残らない。…ああ、なら完全に記憶できない先輩の顔は、少なくとも整ってはいるということか。私の琴線にはまったくふれない整い方だけど。
まじめな話、顔を覚えられない私にだって好きな顔というのはある。覚えられもしないくせにどこをどう好きになるのかと言われたら、返答に困るけれど。そういうのってリクツじゃないのだ。
さて、そんなことを考えながら待っている間も、相変わらず黙っているコモリ。
チキン南蛮を箸でつかみながら、私の方から質問する。
「読モやってたなんて知りませんでした。なんで言ってくれなかったんですか。もっと早く知ってたらいろいろ聞いたのに。私、ファッション誌好きなんですよ」
「ああ、ファッション誌の編集長になりたいんだっけ、確か」と先輩。べつに、編集長とまでは言ってないけど。
「イズミちゃんの将来に役立つ話なら、俺も聞かせてやりたいところだったけどさ…その、読モのことだけは…あまり言いたくなかったんだよね…」
「どうしてです?」
歯切れ悪くイライラするようなしゃべり方になる先輩を、急かすように尋ねる。
「…まぁ、いわゆる黒歴史ってやつだから…」
「「黒歴史?」」
と、ハモる。
コモリがようやく口を開いた。
「どういうことなんですの…黒歴史だなんて、そんな…!」
私の陰から前に出たどころか、身を乗り出して先輩に問うコモリ。突然のことに、先輩はたじろぐ。
「そんな、わたくしにとっては読モの仕事をなさっていたときの先輩こそ、憧れでしたのに…ちゃんとっ、ちゃんと説明してください!!」
バンッ。机をたたく。赤ずきんちゃんと思っていたら、いつの間にやら猟師に入れ替わっていたようだ。なんて感情の起伏の激しい子だろう。その剣幕に圧された先輩にとっては、もはや「言いたくない」という選択肢は残されていなかった。
(つづく)
【恋愛小説『彼氏の顔が覚えられません』は、毎週木曜日配信 ※配信時間18:00になりました】
目次ページはこちら