誕生日とラブソング【彼氏の顔が覚えられません 第32話】
頭にデカいウサギをかぶったカズヤと、キューピーなんてダサい肩書きが加わった子豚ちゃんマナミの演奏が始まる。二人の姿を見ただけでもう帰りたかったけど、まぁせめて一曲くらい聞いてあげようかと思ってとどまる。
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…そうやって、きっと帰るタイミングを逃すんだろうなとも思った。なんだかんだで、こういうときマジメ過ぎるというか、要領わるい自分が不憫でならない。
ステージの照明が、青く涼しげな色に変わる。まさかいきなりバラード? と思ったら、そのまさかだった。しかも、聞いたことある曲。私が生まれた年くらいに流行った古い曲だけど…よく知っている。
父親が生前よく歌っていたから。
なんで、よりにもよって。久々にその曲を聴いて、悔しいけれど心を揺さぶられてしまう自分がいる。父と一緒にいられた時間というのはそれほど長くはなかった。でもこれまでの人生、ずっと父親に影響され続けてきたから。
父が集めたカセットテープやマキシシングルは、mp3にしてぜんぶPCフォルダに保管されている。中高生のときに読んだ本も、父親の書斎に残っていた本。気になるやつは何冊か抜いて、一緒に上京してきた。
あと実家で、三丁目のタマとか、自分が生まれるより前に流行ってたキャラクターのグッズをずっと大事にとってあるのもそう。
ぜんぶ、もういなくなってしまった父との思い出だから。いきなり一曲目から、178(イナバ)ライダーなんてフザけた名前で、バカみたいな格好しながら私の琴線に触れるような選曲してきて、いったいなんなんだ。
「先ほどの曲は、1995年に流行ったバラードでした。私たち、実は今年で、ぴっちぴちのハタチなんす! ってなわけで、今夜は私たちが生まれた95年当時の曲をお送りする予定です」