俺の懺悔を聴いてくれ【彼氏の顔が覚えられません 第33話】
人は恋をするとき、相手のどこにホレるのだろう。顔が7割、心はたった3割だなんて話も聞くが、もし相手の顔がまったくわからなかったらどうなるのか。
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そんな相手に好かれたとしたら、それほど誇らしいことはないと思っていた。純粋に、心だけを見て判断してくれているのだから。だけど今は、いろいろ悩みを抱えてしまっている。
俺の恋人、イズミはまさに人の顔を覚えられない。失顔症という、ブラッドピットなんかと同じ病を抱えているそうだ。
***
せまいライヴハウスの中、再び俺は客としてきてくれた彼女、イズミと対面することができた。
うさぎを脱ぎ捨てたタイミングは、少々早すぎたかもしれない。ガマンの限界だった。すぐにでも彼女に俺の姿を見せたかった。
だが俺が顔を出した瞬間、彼女は後ろを向いて逃げるような姿勢を取った。周りの客に阻まれ、実際にはどうすることもできなかったが、俺を前にしてイヤがっているのは明らかだった。
「一回、イズミに全力で嫌われてみたらいいのに」
半年前シノザキにそうそそのかされてから、今までいろんなことがあった。テキトーだと言われても、それこそが俺の生き方だと思っていたのに。そのテキトーさ加減にここまで絶望してきたことは人生で初めてだ。
けれどすべての失敗は、きょうこの日のためにあるのだと思う。これから彼女の心を取り戻してみせる。いま渾身のラブソングを彼女に捧げ、そして――。