キスどころじゃない観覧車【彼氏の顔が覚えられません 第40話】

カモメが飛ぶよりも高い位置から、きらめく夜の横浜を見下ろしている。恋人ではない、マナミと二人。

トイレから戻ったら言うべき言葉があったハズだった。けれど俺が声をかけるより早く、「大観覧車乗りたい」と言い張るマナミに従わざるを得なかった。

キスどころじゃない観覧車【彼氏の顔が覚えられません 第40話】

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全長112.5メートル。そのてっぺんまでもうすぐだ。年頃の男女が乗って、そこですることと言えば…まさかな、と思いながら、なぜか俺の胸の鼓動は少しずつ高鳴りを始めている。

窓に顔を付け、「うわー、きれー」なんてさっきからはしゃいでいるマナミ。
ふと、大人しく座っている俺を振り返って言った。

「ねぇ、タニムラくんの隣に座っていい?」

「えっ」

いいよ、とも、ダメだとも返事をしないうちに、マナミは俺の隣にどすっと腰を降ろす。瞬間、ぐらんとゴンドラが揺れる。

「ひっ」

悲鳴が漏れた。「ん?」と不思議そうな顔で俺を見ているマナミ。それで俺は感じる。この胸の高鳴りは…マナミと密室にふたりきりでいることが原因ではないのでは、と。ひょっとして、怖いのだろうか…この高さが。


「ねえ、タニムラく…ううん、カズヤ」

マナミが、俺の耳元でささやく。片方の手を、そっと俺の心臓のあたりに添えながら。

「キス、しよ」

ドクッ、ドクッ、ドクッ…心拍数が上がる。

「は? キス!? おま…なに言ってんだよ…」

「やだ…かわいい。取り乱しちゃって。体は、正直に求めてるクセに…」

恐らく俺の心拍数を確かめながら言っているのだろう。けど、違う。そうじゃないんだ――あ、一つ先の観覧車が、ほぼ同じ高さに…きた、頂上だ! 


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