既読スルーより切ないもの【彼氏の顔が覚えられません 第41話】
男と女はなにをもって「恋人になった」というのが正解なんだろう。ネットで調べたりした。告白してから、デートして手をつないでから、キスしてから、体を重ねてから…etc.統計データもいろいろ出てきた。
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よくよく考えたら、どれも正解と言えない。あくまでそれぞれの尺度でしかないんじゃないか。ただイズミと付き合い始めたのは、自分の尺度の中でも微妙な感じに思えたのは確かだ。
「きょうから、俺、タニムラカズヤと、ヤマナシイズミは、恋人同士。で、OK?」
去年の9月下旬ごろ。
あんなにテキトーな告白の仕方をしたのは賭けだった。何せ、タナカ先輩による一世一代の公開告白すら簡単に断ったイズミだ。並大抵の告白の仕方じゃ無理だろうとは思っていた。
「でもあなた、“退学までもう秒読みらしいわよ”」
結果、「ギャグ」と受け取られてしまった。賭けに負けたと思ったが、諦めが悪い俺。ならばこちらも、と、ギャグのフリして頬にキスをお見舞いした。それをイズミは、嫌がらなかった。
ただ、受け入れてくれたんじゃなくて、何も動じなかったというだけかもしれない。
クリスマスに唇を重ねたときも、顔を真っ赤にしながら、照れているような、怯えているような、そのどっちともとれない微妙な表情をしていた。
それは、嫌がっていると言ってもいいくらいだ。
何も色気のないネットカフェだもんな。ファーストキスはもっとロマンチックな場所がよかったに違いない。実際どうかは訊かなかったが。「嫌だ」と言われるのは怖かった。
俺がどんな顔をしているか、イズミはわからない。顔が覚えられないどころか、表情というものを読みとる能力すら欠如しているのだ。
だったら、俺だってイズミの顔色を気にする必要はない…なんて、イジワルなことを考えてしまう。本当は嫌がっているかもしれないのに、なにも動じないでいるイズミを、俺自身も見て見ぬフリしてしまった。
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