「俺の子供が欲しいなんていってたくせに、馬鹿野郎!」短歌に学ぶオトコ心
人が人を思う気持ちは、古代から今日まで変わらないものです。文化や生活習慣が変化しても、瞳の色や言葉がちがっていても…。
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しかしなぜ、いつの時代も男と女はわかりあえないものなのでしょうか? 女性の恋心を男性は重く受けとめ、男性の愛情に女性は不安を抱きます。
男性歌人がつむぐ恋の名歌を読みとき、男性の心を探っていきましょう。
■さわやかでういういしい恋愛
「空が傘を見せてほしくて落とす水のようなキスに君は応じる」木下龍也(「短歌研究」2016年2月号)
「君とゆく道は曲がっていてほしい安易に先が見えないように」同
さわやかな短歌。まるで、ミントティのようです。雨が降るのは、空が傘を見たいからだというのは、新しい考え方ですね。はにかむ恋人の顔を傘が隠しているような風情があります。
けれども、彼女と歩く道は曲がっていてほしいという、すこし屈折した感情も…。近づきたい、もっと触れあいたい、けれど安易に先は見えてほしくはない。そんな揺れうごく心が、フレッシュでみずみずしい作品です。
■「恋人」から「妻」に変わるとき
「しばらくは敬称つきできみを呼ぶ晩春の底を象が歩めば」田村元(『歌集 北二十二条西七丁目』)
「家族ではまだない人を連れて行くわれと北風の生(あ)れしところへ」同
「旧姓を木の芽の中に置いて来てきみは小さくうなづいてゐた」同
作者にとって、現在の「きみ」の立ち位置は複雑です。とくに3首目の「旧姓を木の芽の中に置いて来て」という描写に、結婚のよろこびと、覚悟の両方が感じられます。恋人を、「妻」として家族に迎える青年の心が伝わってきました。