今年大ブレークした「ぽすくま」。LINEの公式アカウントとして登場した『郵便局[ぽすくま]』(以下ぽすくま)は愛くるしい表情のスタンプで一気にファンを獲得した。画像を送ると年賀状にデザインして、返信してくれるサービスが年末の話題の的となり、ぽすくまの友だち登録者数は一気に590万人を超えた(2014年12月18日現在)。しかしぽすくまの生い立ちが、決して順風満帆なものではなかったことはあまり知られていない…。○「ぽすくま」誕生は2年前。切手デザインがデビューだった「ぽすくま」は2012年9月21日発行の切手、「秋のグリーティング」で切手デザインとして誕生。その後も切手デザインに登場する一方で、ぬいぐるみとして郵便局のイベントに度々登場していた。ストラップやマスキングテープなどのグッズも発売されたが、世間的な認知度は高まらなかった。このような、地道な営業を続けていた下積み時代があったのだ。そんな、ぽすくまは今年10月30日にLINEデビューを果たすが、これも苦難の時を越えたものだった。LINEアカウントとともに登場させたスタンプ作成が、一筋縄ではいかなかったのだ。スタンプはイラストではなく珍しい実写。表情を動かすことができず、焦っている、落ち込んでいる、といった表現が必要なスタンプには向かない。ならば身体で表現しようとしたら、手足が短くてどうしてもかわいくなってしまう。担当者の日本郵便・西村哲課長は頭を抱えた。デザイナーのこだわり、LINEスタンプ側の要望、どちらももっともな意見だ。しかし長い試行錯誤を重ね、吹き出しやイラストを付け加えることで、なんとかこの難関を乗り切って、ぽすくまはLINE上で年賀状のPRの仕事を始める。その「ぽすくま」が年賀状シーズンに入り急に注目される。LINE上でぽすくまへ画像や動画を送ると、年賀状のデザインを作って返信してくれるサービスが大人気となったのだ。干支の羊から劇画風まで50種類以上のデザインで、時には可愛く、時にはシュールなデザインで仕上がってくる年賀状に、「ぽすくま分かってる!」「ぽすくま天才!」「おもしろすぎ!」といった声がネットに飛び交った。そして、SNS上に公開したり、まとめサイトを作る人が続出、一躍大ブレークを果たしたのだ。また、このサービスで遊ぶだけではなく、実際に相当数の年賀状印刷・発送サービスにつながっているという。そんな「ぽすくま」だが、本職は森の郵便局で働くぬいぐるみの郵便屋さんで、好きなものはお花と朝食のはちみつトースト。「みるく」先輩や「とーすと」もいう同僚もいて、お便りを楽しみにしている「じゃむ」や「ぽすこぐま」のためにせっせと配達をしている。ひとりでも多くの方が年賀状に興味を持って出してくれればいいな、と願いながら。
2014年12月28日日本郵便が今年、新たな取り組みとしてLINEと連携し、開始した年賀状サービスのLINE公式アカウント「郵便局[ぽすくま]」が、本格的な年賀状シーズンに入る前からネットでブレ イクしている。画像や動画を送ると自動で年賀状デザインを作成してくれる手軽さがヒットの主な理由だが、それだけではない。ランダムに作成されるデザインには、思わず人に見せたくなるようなユニークさがあり、SNSに公開するユーザーが急増。一種の大喜利のように盛り上がっているのだ。――日本郵便のLINE公式アカウント「郵便局[ぽすくま]」が年賀状を作成してくれるサービスとして大ブレイクしています。年賀状作成としてだけでなく、シュールな画像が生成されるということによりSNS等で大ブレイクしていますが、こうした反響は想定されていましたでしょうか?田端信太郎氏 (LINE 上級執行役員 法人ビジネス担当、以下、田端):反響の大きさはありがたい限りですね。自分で使ってみたときに、これは盛り上がるんじゃないかとは直感的に思いました。なので、してやったりという感じではあるのですが、まさかここまで多くのメディアで取り上げられるとは思いませんでしたね。――もともとはどういった経緯でスタートした取り組みだったのでしょうか?田端:今回の企画は、ユーザーと企業の双方向コミュニケーションを可能にする「LINE ビジネスコネクト」というサービスを使ったものです。日本郵便さん、「ネットで年賀状」のコネクティットさん(株式会社CONNECTIT)と一緒にやっていく中で、最初に取り組むのはオリジナルの年賀状作成がいいだろうということでスタートした企画でした。年賀状は毎年必ずあるものですし、盛り上がる時期も年末の前後だけとはっきりしていますから、最初としてはやりやすかったのもありますね。――今回、日本郵便がLINEと組んだ理由はどこにあるのでしょうか?田端:LINEというプラットフォームを通じて、若年層に対して年賀状というものをどうアピールしていくか、裾野を広げたいという狙いが日本郵便さんにはあったのだと思います。大西貴之氏(コネクティット クリエイティブ・ディレクター、以下、大西):近年、若年層の年賀状利用者は減少傾向にあります。彼らに利用をしてもらうためには"身近さ"と"楽しい体験"が重要だと考えておりましたので、企画の軸はすぐに決まりました。――「郵便局[ぽすくま]」だからこそできる年賀状への貢献とはなんでしょうか?田端:LINE上で年賀状のデザインを作った後にはリンク先の日本郵便さんのサイトに飛んで、オンラインで紙の年賀状を買うというところまで導線はあるのですが、「ぽすくま」で、お気に入りの写真を使って年賀状をデザインして楽しむといったLINEの中だけで完結する方も多いと考えます。しかし、日本郵便さんが、「ぽすくま」に期待することのひとつには、販売ありきではなく、あくまでも"つくる"体験を通してまずは年賀状との接点を増やし、年賀状を送る方の裾野を拡大することが大切だということで、非常にコンセプトが明確でしたね。紙が絶対とか、スマホは敵だとか、そういう考えもなく、ネットらしい感覚をお持ちだなと感じましたね。――自動で加工されて出来上がる年賀状デザインにはシュールで面白いものも多いのですが、田端さんが感じたブレイクした理由などを教えていただけますでしょうか?田端:まずスピードですね。画像を投げたら、すぐに返ってくること。LINEもそうなのですが、サクサク動くことを何よりも優先しています。今回の画像処理は30秒くらいかかってもおかしくない処理をしているのですが、そこは企画、開発を担当していただいたコネクティットさんで、アルゴリズムなどを工夫されたと聞いています。あとは顔認識ですよね。顔にそってうまく切り抜かれますし、ランダム性もあって何度も送ってみたくなります。できあがった写真もLINEですぐにシェアできますし、LINEを活用すると年賀状はこういうこともできるものなんだと提示できたと思います。――顔部分をユーザーに切り取らせるのではなく、顔認識することで写真のはめ込みが自動化されているのは確かに面白いですよね。田端:その通りですね。「LINE ビジネスコネクト」全般に言えることなのですが、企業にも自前のアプリがあり、そちらと住み分けなければいけません。日本郵便さんでいうと、年賀状を簡単に作成できる自前のアプリ「はがきデザインキット 2015」をインストールしてもらわないといけない。そこで、今回のサービスでは、より簡単にサクッとできることを優先して設計されています。また、最初から複雑なことをやらせようとしても、ライトユーザーは必ずしもそこまで温まっていませんし、すぐ面倒になってしまいます。写真の切り抜きやテンプレートを選んで……とやっていると、それは他のアプリと変わりませんから。――ちなみに田端さんご自身は、どんな写真で試してみましたか?田端:いや、私は子どもの写真を投げてみたりしています。そんな特別なことはしていないです(笑)。しかし、使ってみて思いましたが、 サクッとできるわりに素人が無理にレイアウトするよりもセンスの良いものが出来上がったりするんですよね。よくある年賀状ソフトってデザインがいけてないものが多かったりするのですが、いつもは年末だし忙しいからまぁこれでいいかと妥協していました。今回のサービスで、年賀状を作るのが楽しくなると思いますよ。――現在、ユーザーからの投稿数などはどれくらいあるのでしょうか?大西:現在のトータル投稿数は約1000万枚で、「ぽすくま」の友だち人数が約470万ユーザー。なので、一人あたり2~3枚は平均して作成していただいている状況です。中には一人で150回以上も作成していただいた方もいます(2014年11月25日時点)。また、「郵便局[ぽすくま]」では、動画を読み取れるQRコード付きの年賀状が注文できるのですが、そちらも伸びており、全体の2割ほどを占めています。田端:動画が2割ってすごいですね!大西:通常、ウェブサービスでは動画投稿はユーザーに負担してもらうことが多いため、かなりハードルが高いと考えています。しかし、LINEでは画像や動画を日常的なコミュニケーションとして送り合うことが慣習化されているので、ハードルが低くなったのかと思います。今までの年賀状ではできないようなコミュニケーションが実現できたのも、今回の企画ならではですね。――今後、「LINE ビジネスコネクト」を活用した取り組みとして、どのようなものを想定されていますか?田端:「LINE ビジネスコネクト」を使うと、個々のユーザーにもプッシュ通知を送れるのですが、このリマインドの効果がとても高いのです。たとえばマス広告で年賀状を12月25日までに送ってくださいと呼びかけても、それほど効果が期待できるとは限らないのですが、LINEだとプッシュで通知されるので「そうだった!」となりやすいのです。季節ものとの相性が良いので、予備校・塾の夏の体験学習や、七五三、年明けの不動産の賃貸探しなど、そういった呼びかけに役立ちそうですね。また、写真を送ると画像処理して返ってくるという「ぽすくま」で反響が大きかった機能はビジネスコネクトの基本的なパターンとして応用できそうです。たとえば、ヘアサロンで顔写真を送ると髪型がくっついて戻ってくるとか、ダイエット系だと痩せた姿が返ってくるとか、占いや手相などにも使えるかもしれません。色々な企画が考えられそうですね。日頃から親しみのあるLINEというプラットフォームで、楽しく、素早く年賀状作成を可能にし、話題となった「郵便局[ぽすくま]」。本格的な年賀状シーズンはこれからだが、若年層に対して年賀状というカルチャーをアピールするツールとしては、すでに十二分な役目を果たしており、さらに年賀状サービスの普及に一役買いそうだ。筆者も、話題の「ぽすくま」を早速試してみたところ、サクサクとユーモアのあるデザインを作成してくれることが非常に楽しく、今まで面倒だと思っていた年賀状作成の概念が見事に覆された。さらに「ネットで年賀状」にて紙の年賀状を印刷し、自宅への配送も試みたが、翌日にはデザインした年賀状が発送されるそのスピードの速さにも驚かされた。また、「ぽすくま」が作ってくれた紙の年賀状が実際に手元に届いてみると、改めて誰に年賀状を"贈ろうか"、楽しみがこみ上げてきた。直接相手に発送したり、住所を知らないSNSでつながっている知人にも年賀状を送れるなど、発送の選択肢も豊富なため、忙しい師走でも、スマホで簡単に年賀状を作成から発送までできるユーザーのニーズに応えたうれしいサービスであると実感した。
2014年12月05日