アントニオ猪木が実年齢より上の初老の元プロレスラー役で銀幕デビュー。そう聞いて驚いたが、実際の彼が今年で67歳と知ってさらに驚いた。本人曰く「骨密度は30代後半から40代くらい」だそうだが…。老人たちが暮らす寂れた団地の用心棒の男と母親に半ば捨てられた少年の交流を描いた『ACACIA−アカシア−』。本名は明かされず、ただかつてのリングネーム“大魔神”という名で呼ばれるこの男が背負った過去や後悔、様々な思いを猪木さんはどう受け止めたのか?その思いを語ってもらった。メガホンを握った辻仁成監督は、キャスティングにあたって、猪木さんの存在を思い浮かべていたところ、その場に偶然にも猪木さんが通りかかり、初対面にもかかわらず出演を直談判したのだとか。では、猪木さんはなぜこの申し出に首をタテに振ったのか?実は、猪木さん自身、劇中の大魔神と同様にかつて、幼い娘さんを亡くすという経験をしている。「まあ、俺の経験と重なる部分はあったよ。でも正直、『なぜ?』と聞かれても言葉ではないんだよね。こういう性格なので、感性で動いて深く考えないから。まあ、一回くらい乗ってもいいかな?って(笑)」。猪木さん自身が印象的なシーンとして挙げたのが、大魔神の号泣シーン。獣のように…いや、子供のようにと言うべきか――涙を流すのだが、このシーンを自らふり返ってこう語る。「泣くのは難しい。だって“演技”で泣くことはできないから、本当の感情だから、心の中から感情を思い起こしました。じいさんの葬式、娘の死…感情をもう一度、自分の中で思い起こして…。(撮影は)一発でしたよ。あれは一回しかできないですよ」。家族の話が出たが、早くに父を亡くし「祖父が親代わりだった」と言う猪木さん。大魔神と少年の交流の中で思い出が蘇ってきたという。「じいさんとはひとつの布団で寝てましたからね。じいさん、こんな風だったのかな?って思いました。いまでもじいさんが死んだときのこと、思い出すんですよ。(ブラジルへの移住の)船が、パナマ運河を越えて赤道直下を走ってた頃、船で死んで、水葬だったんですけど、船の後をまるで付いて来るようで…。太陽が真っ赤でそれをずっと眺めてましたね」。静かな口調で語る猪木さんだが、自身、この先どんな歳のとり方をしていきたいか?と尋ねると俄然、エネルギーの満ちあふれた表情になって次々と実現すべき“夢”を説明し始めた。「いま、実現したいのは灯りをともすこと。ブラジルや中南米の電気のないところに電気をもたらして、子供たちにTVを見せたい。それからパラオでサンゴの養殖もしてるし、北朝鮮にだってもう19回も訪問してる。とにかく死ぬまで夢を追い続けたいね。良いパパにはなれないけど、子供たちに背中見せて生きたいよ」。最後にもうひとつ質問。プロレスラーを引退した猪木さんだが、劇中、再びリングに上がっている。「猪木さんをもう一度リングに上げたかった」とは辻監督の弁。映画の中とはいえ、もう一度、キャンバスを踏みしめた感想は?「本音言うと上がりたくなかったんだけどね(苦笑)。当時は膝も腰も悪かったし。いまだったらもっとすごいことできたな、と思ってます(笑)!」“生涯現役”という言葉はこの男のためにあるに違いない。■関連作品:ACACIA−アカシア− 2010年6月12日より角川シネマ新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開© 2008 "ACACIA" Film Partners■関連記事:猪木、初主演映画で爆笑挨拶「観に来いよ!観れば分かるさ!」辻仁成&アントニオ猪木が登壇!『ACACIA』試写会に10組20名様ご招待辻仁成インタビュー「アントニオ猪木さんをもう一度、リングに上げたかった」【TIFFレポート】辻仁成が率いるバンドZAMZA登場!往年の名曲「ZOO」熱唱【TIFFレポート】辻仁成、不在のアントニオ猪木と支えになった家族への感謝を吐露
2010年06月09日監督・辻仁成×主演・アントニオ猪木という異色の組み合わせで製作され、今年の東京国際映画祭で邦画唯一のコンペティション部門出品を果たした『ACACIA』。本作の公式会見が10月22日(木) に開催され、辻監督が出席した。先日、猪木さんが手術を受けたという事実が明かされたが、当初は出席予定だった猪木さんは術後間もないため、大事をとって欠席となった。冒頭、猪木さんからの「元気ですか?元気があれば何でもできる。元気があれば映画祭にも出品できる。スタッフ、キャストが作り上げたこの作品がこうして上映されることに感謝申し上げます」というメッセージが読み上げられた。辻監督は「僕も少し前に倒れてしまいまして、チーム“ACACIA”は元気がないんですが、猪木さんの精神で頑張ります」とコメント。元々、辻監督は猪木さんの大ファンだったということで、その思い入れは相当のもの。「今日、ここにいないことは誰より本人が残念に思ってるはずです。撮影のときから相当腰が悪かったらしく、でも絶対に他人に弱味を見せないんです」と語った。また、猪木さんを主役に抜擢したことについても「いまは、(猪木さんのモノマネ芸人の)アントキの猪木とかがいますが、子供の頃に勇気をもらった猪木さんが、いまは笑いものかよ?と悔しい思いがあった。だからこの映画はアントキの猪木へのアンチテーゼでもあるんです。アントニオ猪木さんの本質が出ていれば嬉しいです」と熱く語った。辻さんは、この映画が離れて暮らす最初の妻との間に生まれた息子さんへの思いから生まれたものだと公言している。最初の家族についてのコメントは「相手の家族のこともあるので」と口をつぐんだが、報道陣からの「いまのご家族はこの映画について何かおっしゃっていますか?」という質問には「書き上げた第一稿を嫁さん(=中山美穂さん)に見せたら、次の朝、赤ペン(で指摘)を入れたものが机の上に置いてありました。『こういう言葉は相手は聞きたくないと思う』といった指摘をしてくれまして、その後もずっと赤ペンが入り続けました。『(この映画を)撮っていいよ』とかそういう言葉はなかったんですが、この赤ペンが許可のようなものだったのかな。家族のバックアップがあったからこそ、完成することが出来ました」とこの場で感謝の言葉を口にした。『ACACIA』はこの東京国際映画祭への出品を通じて劇場公開が正式に決定した模様。東京国際映画祭2009特集■関連作品:第22回東京国際映画祭 [映画祭] 2009年10月17日から25日まで六本木ヒルズ、Bunkamuraをメイン会場に、都内の各劇場及び施設にて開催ACACIA© 2008 "ACACIA" Film Partners■関連記事:【TIFFレポート】辻仁成が率いるバンドZAMZA登場!往年の名曲「ZOO」熱唱【TIFFレポート】中谷美紀、貧血で挨拶を降板広末は「任せきり」と中谷を絶賛【TIFFレポート】井上真央、岡田将生のエスコートに合格点!【TIFFレポート】矢沢永吉が人生初の舞台挨拶!30年前の自分に「生意気なヤツ」【TIFFレポート】川村陽介&ダンテ・カーヴァー箱根のゴールの瞬間の顔は素?
2009年10月23日