何かとサインで済ます欧米とは異なり、契約ごとには判子が必要な日本。江戸時代のことわざにも「印形(いんぎょう)は首とつりかえ」と言われ、判子は命の次に大事なものとされてきました。そんな諺が生まれるほど、庶民にまで判子が浸透した江戸時代。世の中が安定して、商業も発達するなかで商取引やお金の貸し借りなどの契約の証書には、必ず捺印が求められるようになります。暮らしのなかで欠くことのできない道具となった判子。庶民の判子には、細工のしやすい柳から硬くて丈夫な黄楊まで、木の枝が用いられてきました。黄楊はもちろん、桜、竹、山椒、お茶の木、灯台躑躅(ドウダンツツジ)、などさまざまな木の枝を使い、世界にひとつしかない手彫りの判子を作ってくれるお店があります。酉の市で有名な浅草・鷲神社の近くに店を構える「伊藤印房」。2代目の店主・伊藤睦子さんは、東京都優秀技能者として認定された腕の立つ判子職人です。彼女が父の跡をついで判子職人として活躍しはじめたころ、業界には機械化の波が押し寄せます。そんな折、知人の箒職人から「お茶の木で作る判子がある」と聞き、自然木を素材にするとおもしろいかも! とひらめきます。木々に詳しい夫に頼み、お茶の木を獲ってきてもらい、試しにと作ってみたところ、なんとも素朴で味のある判子ができあがりました。その判子に「干支のうさぎを彫ってみたらかわいいかな」と、うさぎからはじまり十二支や花、動物などを彫るうちに話題になり、“小枝判子”名づけます。「うちの猫を」「御神輿を彫って欲しい」「孫の顔を」などオリジナルの依頼にこたえるうちに、どんどん絵柄も増えていったそう。趣味の判子としてだけではなく、絵柄の横に名前を彫ると銀行印として使えるのもうれしい。サイズや絵柄内容にもよりますが、依頼後2~4週間ぐらいで仕上がるそうです。気になるお値段はサイズにより異なりますが、銀行印に使える1本(1.2cm前後)だと大体¥10,000程度(税別)です。干支、猫、兎、お地蔵さん、ほっこりかわいい絵柄判子春生まれだから桜、竹が好きだから竹、この形がいいから躑躅、と素材を選ぶことができる小枝判子。自然木なので、その形はひとつとして同じものがないことが大きな魅力です。木の形に応じて、いろいろな絵柄のアイデアが沸くという伊藤さん。そんな伊藤さんのアイデアから生まれた定番判子をいくつかご紹介します。漢字やひらがなで描かれた十二支シリーズは、飾り物として購入する人も。十二支あるので、これから年賀状の彩りには困ることがなさそうですね。昔から変わらず人気がある猫柄。後ろ姿、横顔、肉球、などの猫のかわいらしい部分を表現した猫シリーズ。猫好きには、たまりません。今年の干支である、お猿さんもいろんな表情が揃います。生まれ年の干支柄に名前を彫って欲しいという依頼も多いとか。うさぎ、お地蔵さん、りんご、鳥などの絵柄判子はいくつあってもいいですね。プロポーズで渡すため判子づくりワークショップを訪れる男子も!伊藤印房では、お店でワークショップを開催しています。手ぶらで判子づくりを体験できるとあって、大人女子にも大人気だそう。なんとプロポーズ時に渡したいと、彼女(未来の妻)の判子を作りにやってくる男子も少なくないとか!? 婚姻契約にむけて判子を贈るのは、なんだか理にかなっていますよね。浅草寺に参拝して甘味処でほっこりして、手彫りの判子を作って、夜は名物どじょう鍋で粋に一杯! そんな楽しそうな浅草散歩コースが浮かんできます。お気に入りの自然木や絵柄の判子は、新たな年の運気アップにつながりそうですね。伊藤印房東京都台東区千束1-19-403-3873-0489営業時間 8時30分~18時30分 不定休 *ワークショップ(¥3,000/材料費込)は電話予約必須。
2016年01月22日