横浜市(市長:山中 竹春)、公立大学法人横浜市立大学(所在地:神奈川県横浜市、理事長:小山内 いづ美)、日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明)、株式会社NTTデータ経営研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:山口 重樹)は、令和4年4月に締結した「『官民データ活用による超スマート社会の実現に関する包括連携協定書』に基づくよこはまウォーキングポイント事業の影響分析に関する覚書」に基づき、よこはまウォーキングポイント事業(以下「YWP」)の参加による生活習慣病・医療費・メタボリックシンドロームへの影響について分析しました。その結果、YWP参加者のうち、1日10,000歩以上歩いた人は、参加していない人に比べて、糖尿病の新規発症率が62%、重症化率が67%低いことが分かりました。1. 分析の概要2014~2021全年度で横浜市国民健康保険に加入していた人のうち、初年度(2014年度又は2015年度と定義)にYWPに参加登録した人(86,171人)と参加登録しなかった人(1,003,763人)を対象に次の項目について分析を行いました。・生活習慣病(高血圧および糖尿病)の発症率と重症化率・総医療費・高血圧医療費・糖尿病医療費・メタボリックシンドロームの該当率2. 結果(1) 糖尿病の新規発症率(統計的有意差あり(※1))初年度にYWPに参加し、かつ参加後の平均歩数が10,000歩/日以上の群と、YWPに参加しなかった群を5年間追跡し、結果に影響を及ぼす可能性のある背景要因(年齢、性別など)を揃えて分析したところ、参加群の糖尿病新規発症率は0.50%だったのに対し、非参加群は1.31%であり、参加群の方が0.81ポイント低くなっていました。これは、参加群の発症率が非参加群に比べて62%低いことを意味します。糖尿病の新規発症率(2) 糖尿病の重症化率(統計的有意差あり(※1))[1]と同条件で分析した場合、参加群の糖尿病重症化率は0.71%だったのに対し、非参加群は2.13%であり、参加群の方が1.42ポイント低くなっていました。これは、参加群の重症化率が非参加群に比べて67%低いことを意味します。糖尿病の重症化率なお、上記(1)および(2)のほか、糖尿病の新規発症および重症化の予防のために効果的な歩数について分析したところ、事業参加後の1日の平均歩数が8,000歩を超えるあたりから、非参加群との間の新規発症率・重症化率の差に有意な傾向がみられるようになりました。非参加群との間の有意な傾向(3) 医療費への影響(有意傾向あり(※2))2015年度にYWPに参加した群と、参加しなかった群を5年間追跡し、2020年度の医療費を比較したところ、YWP参加者の医療費抑制額は、1人あたり年間15,279円となりました。参加群(9,826人)全体の総医療費で見ると、非参加群全体よりも年間約1.5億円低い結果となりました。※1 統計的有意差あり…比較しているグループの間に、偶然や誤りでない違いが認められること。(0<p<0.05)※2 有意傾向あり…「統計的有意差」はみられないものの、一定の傾向があること。(0.05≦p<0.10)3. 考察今回の分析の結果、YWP参加者は糖尿病の新規発症率および重症化率が低いことが分かりました。このことから事業への参加により、糖尿病の新規発症および重症化予防が期待できると考えられます。具体的な歩数については、事業参加群の1日当たりの平均歩数が8,000歩を超えるあたりから、非参加群との間の発症率・重症化率の差に有意な傾向が見られました。また、日本国民の平均歩数が男性6,793歩、女性5,832歩(※3)であることを考えると、当初の歩数よりも1,000~2,000歩多く歩くと、より効果的だと考えられます。また、医療費への影響についても、YWPが医療費の抑制に一定の貢献をしている可能性があると考えられます。※3 厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」4. 今後の事業方針YWPは、「健康づくりのきっかけの提供と運動習慣の定着化」を目的として、平成26年11月にスタートし、令和5年6月末時点で参加登録者は36万人を超えています。今回の分析で、ウォーキングの継続と歩数の増加が健康増進にとって重要であると確認されましたので、今後もYWP参加者が楽しみながらウォーキングを通じた健康づくりを行えるよう取り組みを進めていきます。なお、参加者の継続サポートと新規参加の促進を目的に、9月1日から「ENJOY WALKING 2023」キャンペーンを実施中です(8月29日記者発表済)。こちらの詳細については横浜市ホームページをご確認ください。 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2023年09月07日大人が学ぶデザイン専門校、東京デザインプレックス研究所(所在地:東京都渋谷区、学校プロデューサー:黒木 公司)は、横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター(以下、YCU-CDC)とStreet Medical Schoolを共同で運営しています。この度、第4期受講生たちによるアイデア・ピッチ大会「Street Medical Talks 2022」を2022年12月24日(土)に東京デザインプレックス研究所で開催いたします。アイデア・ピッチ大会「Street Medical Talks 2022」Street Medical Schoolは、医療従事者とデザイナーが共に、新しい医療を学び創造する教育プログラム。第4期も、多様なバックグラウンドを持つ受講生が集結し、医療やデザインがテーマとなる特別授業を受け、医療の課題に向き合うアイデアのアウトプットを進めて参りました。受講生たちの成果発表の場となる「Street Medical Talks 2022」、今回は当校、東京デザインプレックス研究所を会場とし、現場とオンライン配信のハイブリッド開催となります。主催者である武部貴則氏(YCU-CDCセンター長)、沼田努(東京デザインプレックス研究所共同創立者)のほか、ゲストにフリーアナウンサー町亞聖氏と当校フューチャーデザインラボのジェネレーター山本尚毅氏をお招きし、提案企画に対して議論を行います。現在、参加申し込みを受け付けております。参加ご希望の方は、来場参加またはオンライン参加それぞれの申込ページより、事前登録をお願いいたします。■イベント概要イベント名:Street Medical Talks 2022日時 :2022年12月24日(土)14:00~16:30場所 :東京デザインプレックス研究所〒150-0041 東京都渋谷区神南1-12-10登壇者 :武部貴則(横浜市立大学特別教授、YCU-CDCセンター長)、沼田努(東京デザインプレックス研究所共同創立者)、町亞聖(フリーアナウンサー)、山本尚毅(東京デザインプレックス研究所フューチャーデザインラボジェネレーター)プログラム:1. LECTURE「Street Medical(R)」武部貴則2. 口頭プレゼンテーション 各12分×8組 ※途中休憩20分■参加申込方法ご来場希望の方は、下記URLからお申し込みください。 オンライン参加を希望する方は、下記URLからお申し込みください。 【Street Medical School】Street Medical Schoolは、医師をはじめとする医療従事者と、デザイナーをはじめとする様々な業界のプレイヤーやクリエイターとが共に、新しい医療を学び創る場です。横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センターと東京デザインプレックス研究所の共同運営という形で、2019年に発足しました。この教育プログラムでは、広告・デザイン・医療など各界のトップランナーを講師に迎えた特別授業と医療現場などのフィールドワークを通して、自らで課題を発見し、様々な発想・手法でその解決策を確立・実践することのできる人材(Street Medical Fellow)の育成を目指しています。 【横浜市立大学先端医科学研究センターコミュニケーション・デザイン・センター】ヘルスケア分野のコミュニケーション課題解決を目指す、世界初の医科学研究機関におけるクリエイティブ研究拠点です。医科学研究の拠点においてクリエイティブ研究のための持続可能な開発体制を構築し、コミュニケーションの力を使って、ひとびとの健康や幸福に寄与すること、ひいては、超高齢社会に対応した新たな社会のあり方を提案することを目指しています。 【東京デザインプレックス研究所】「東京発コンテンポラリーデザインの複合型教育機関」として2012年開校(2022年12月現在6,800名超の学生が在籍)。「ボーダレス思考」「ソーシャルデザイン」「経済合理性」「デジタル環境対応力」「コミュニケーション力」を教育コンセプトとした、大人(社会人・学生など)のためのデザイン専門校です。最先端の教育プログラムや独自の教育システムがデザイン業界から注目を浴びています。<教育分野>デジタルコミュニケーションデザイン、空間コンテンポラリーデザイン、WEBインタラクションデザイン、グラフィック/DTP、WEBクリエイティブ、UI/UX、デザインストラテジー、クリエイティブデザイン、商空間デザイン、CAD/3DCG、インテリアデザイン 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2022年12月21日大人が学ぶデザイン専門校、東京デザインプレックス研究所(所在地:東京都渋谷区、学校プロデューサー:黒木 公司)は、横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター(以下、YCU-CDC)と共同で運営する、「Street Medical School」の第4期受講生の募集を開始いたします。第1期受講生によるアイデア・ピッチ大会「Street Medidal Talks」は2020年2月、東京ミッドタウン日比谷BASE-Qにて行われた。Street Medical Schoolは、医療従事者とデザイナーが共に、新しい医療を学び創造する教育プログラムとして、2019年に開講。これまでにも、グラフィックデザイナーや空間デザイナー、Webデザイナー、医師、看護師、歯科衛生士、作業療法士、医大生、看護学生など多様なバックグラウンドを持つ受講生が集結し、現代の医療課題に対する、独創的な解決策を提案してまいりました。今回のStreet Medical School第4期では、「ショッピングモール×運動」「五感×Health」「特定健診×Happy」をテーマに、これらにまつわる問題提起と解決策へのアプローチを目指します。講師には、岡部 修三氏、佐藤 夏生氏、西部 沙緒里氏、山崎 晴太郎氏、山本 尚毅氏、他が登壇。こちらの受講生募集にあたり、YCU-CDCセンター長でありStreet Medical(R)の概念を提唱する武部 貴則氏による特別講演と、受講説明会をオンラインで実施。医療またはデザインに携わっている方はもちろん、社会的な問題解決を目指すデザインに興味のある方、医療や健康に関心がありアイデアを持っている方、自身や身近な人が課題を抱えている状況の方などのご応募をお待ちしております。第2期(2020年8月開講)、第3期(2021年8月開講)は全ての授業をオンラインで実施。画像は、第2期「Street Medidal Talks」の模様。■詳細・スケジュール・応募要項詳細・スケジュール・応募要項を、Miro(ミロ)というオンラインホワイトボードツール上にまとめております。下記URLよりご確認ください。 ■応募方法・選考過程[1]オンライン特別講演&説明会に参加日時 2022年8月31日(水)19:00~20:30Zoomミーティングに参加する ミーティングID:872 9334 3335パスコード :094340[2]選考課題レポート作成[3]応募書類・課題レポート提出締切:2022年9月7日(水)23:00■受講料無料 ※受講料は、東京デザインプレックス研究所と横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センターが共同で全額補助いたします。【Street Medical School】Street Medical Schoolは、医師をはじめとする医療従事者と、デザイナーをはじめとする様々な業界のプレイヤーやクリエイターとが共に、新しい医療を学び創る場です。横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センターと東京デザインプレックス研究所の共同運営という形で、2019年に発足しました。この教育プログラムでは、広告・デザイン・医療など各界のトップランナーを講師に迎えた特別授業と医療現場などのフィールドワークを通して、自らで課題を発見し、様々な発想・手法でその解決策を確立・実践することのできる人材(Street Medical Fellow)の育成を目指しています。 【横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター】ヘルスケア分野のコミュニケーション課題解決を目指す、世界初の医科学研究機関におけるクリエイティブ研究拠点です。医科学研究の拠点においてクリエイティブ研究のための持続可能な開発体制を構築し、コミュニケーションの力を使って、ひとびとの健康や幸福に寄与すること、ひいては、超高齢社会に対応した新たな社会のあり方を提案することを目指しています。 【東京デザインプレックス研究所】「東京発コンテンポラリーデザインの複合型教育機関」として2012年開校(2022年8月現在7,200名超の学生が在籍)。「ボーダレス思考」「ソーシャルデザイン」「経済合理性」「デジタル環境対応力」「コミュニケーション力」を教育コンセプトとした、大人(社会人・学生など)のためのデザイン専門校です。最先端の教育プログラムや独自の教育システムがデザイン業界から注目を浴びています。<教育分野>デジタルコミュニケーションデザイン、空間コンテンポラリーデザイン、WEBインタラクションデザイン、グラフィック/DTP、WEBクリエイティブ、UI/UX、デザインストラテジー、クリエイティブデザイン、商空間デザイン、CAD/3DCG、インテリアデザイン 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2022年08月19日神奈川県内の精神医療を担う横浜市立大学精神医学教室(所在地:神奈川県横浜市、教授:菱本 明豊、助教:宮崎 秀仁)は、県内の中学校・高等学校の教員を対象に子どもの自殺予防を目的とした「神奈川県学校自殺対策支援プロジェクト(ReSPE-K)」を令和3年9月8日(水)に始めました。事業詳細についてはホームページを参照ください( )。■背景新型コロナウイルス感染症の蔓延によりメンタルヘルスの問題を抱える子どもが増加しています。夏休み明けが子どもの自殺が最も増加する時期と言われますが、一方で学校教員の自殺予防に関する知識と経験は十分とは言えません。子どもの自殺予防の実践のために学校教員の自殺に関する知識定着と偏見解消を狙った教育プログラムを実施することとしました。■展開内容(1) 全体の流れ「精神医療編」「心理支援編」「社会支援編」の自殺に関する3つのテーマを精神科医が情報提供します。いずれもテーマでも精神科医とのディスカッション・事例検討を盛り込んでいます。その他、精神科医が現場での困りごとにも相談に乗ります。また役立つ情報を記載した資料提供も行います。(2) 講義内容「精神医療編」:自殺と関係する脳と心の状態や精神疾患の治療と予後について「心理支援編」:自殺を考える子どもの心理的背景と実際の対応について「社会支援編」:自殺総合対策大綱に基づく学校で出来る自殺予防について(3) 研究活動本プロジェクトによって学校教員の自殺に関する偏見を減らすことへの効果を測定するために、知識提供前後にアンケートを行い調査します。■今後の展開現在、すでに初回講義を開始しておりますが、随時県内の中学校・高等学校で参加校を募集中です。当該学校の責任者より以下の連絡先にお問い合わせ下さい。■組織概要組織 : 横浜市立大学精神医学教室代表者 : 教授 菱本 明豊プロジェクト責任者: 助教 宮崎 秀仁所在地 : 〒236-0004 神奈川県横浜市金沢区福浦3-9課題名 : 2020年度研究活動スタート支援(課題番号:20K22246)による「自殺予防のための学校教員を対象とした精神保健教育の効果に関する研究」研究資金 : 150万円URL : 【本件に関するお客様からのお問い合わせ先】横浜市立大学附属市民総合医療センター 高度救命救急センター担当 : 宮崎 秀仁TEL : 045-261-5656E-MAIL: hidem1117pc@yahoo.co.jp 詳細はこちら プレスリリース提供元:@Press
2021年09月14日横浜市立大学(横市大)は1月20日、細胞質のタンパク質合成を制限することにより細胞老化を抑制するメカニズムを発見したと発表した。同成果は、横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科 博士後期課程3年 高氏裕貴氏、藤井道彦 准教授、鮎澤大 名誉教授らの研究グループによるもので、1月5日付けの英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。動物細胞においては、種々の老化ストレスにさらされると肥大化・扁平化をともないつつ細胞増殖を停止し、最終的に分裂能力を失う「細胞老化」と呼ばれる現象がある。近年、細胞老化は生物個体の老化の原因のひとつであることが明らかになりつつあり、たとえば、老化したマウスには老化した細胞が多く存在するが、老化細胞を選択的に除去することで、マウスの老化が遅くなることが報告されている。今回、同研究グループは、細胞老化の共通の特徴であるDNA複製の遅滞と細胞の肥大化・扁平化に着目し、「細胞老化の不均衡増殖モデル」を細胞老化の普遍的モデルとして提唱した。細胞はさまざまな障害を受けるとDNA複製を停止させるが、同モデルでは、この状態が長く続くと、タンパク質の過度な蓄積が起こり、細胞膨張と核膨張が起こる。次いで核膜とヘテロクロマチン複合体の崩壊が起こり、分裂能力の喪失や老化特異的遺伝子の発現が誘導される。同研究グループは、ヒト正常およびがん細胞を用いた解析から、細胞質タンパク質合成の制限が細胞の種類に関係なく不均衡増殖を解消し、細胞老化を抑制することを見出した。この制限はヒト正常細胞の分裂寿命を顕著に延長しただけではなく、細胞老化により分裂を停止した細胞の増殖を再開させることができたという。さらに、タンパク質合成の制限が個体の老化に及ぼす影響を、モデル生物である線虫C.elegansを用いて調べたところ、タンパク質合成の制限は、線虫の平均寿命および最大寿命を延長させ、個体レベルでの老化防止にも有効である可能性が示された。今後の課題は、細胞質タンパク質合成の制限により、ヒトなどの高等動物の老化防止を実現できるかどうかであり、そのためには細胞質タンパク質合成をターゲットとした老化抑制剤の探索や開発を進める必要があると同研究グループは説明している。
2016年01月21日京都大学は1月29日、サントリー生命科学財団、セルフリーサイエンス、横浜市立大学との共同研究により、抗エイズウイルス活性を有するヒトのタンパク質「APOBEC3G(A3G)」の酵素反応を、「NMR(核磁気共鳴)法」によってリアルタイムで追跡し、定量的に解析することに成功し、A3Gタンパク質がエイズウイルスの遺伝子を効率的に破壊する仕組みを明らかにしたと発表した。成果は、京大 エネルギー理工学研究所の片平正人教授、同・古川亜矢子 日本学術振興会特別研究員らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、1月29日付けで独科学誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に掲載された。A3Gタンパク質は、エイズウイルスの遺伝子の「シトシン」塩基を脱アミノ化して「ウラシル」塩基に変換することでウイルスの遺伝情報を破壊し、抗エイズウイルス活性を示す(画像1)。A3GはまずウイルスDNAに非特異的に結合し、その後DNA上をスライディングして標的となるシトシンに到達し、酵素反応を引き起こす。また酵素反応は、ウイルスDNA上の複数の標的シトシンにおいて同時に並行して進行する。「ミカエリス-メンテン法」などの従来の酵素反応の解析手法ではこのような複雑な系を解析することができず、A3Gタンパク質が働く仕組みは謎に包まれていた。そこで研究チームは今回、まずウイルスのモデルDNAとA3Gタンパク質を試料管に入れ、これをNMR装置にセット。そしてDNA上の複数のシトシンで同時並行に進行する塩基変換反応を、各シトシンに由来するNMRシグナルを別個に観測することで、リアルタイムでモニタリングすることに成功した(画像2)。次に、研究チームはA3GのDNAへの非特異的な結合と結合後のDNA上でのスライディングを考慮した反応モデルを構築。そして、画像2で得られた実験結果が定量的に解析された。この結果、A3Gは上流方向にスライディングしながら標的シトシンに到達した際には、下流方向にスライディングしながら到達した際より、脱アミノ化反応の酵素活性が高いことが判明したのである(画像3)。上流に近い標的シトシンほど脱アミノ化されやすいことはこれまでの観測事実として知られていたが、酵素活性がスライディングの方向に依存するという新たな知見により、このことを合理的に説明することが初めてできるようになったというわけだ。また脱アミノ化による遺伝情報の破壊がすでになされた直近の部位には、A3Gはもはやあまり作用しないことも確認された。これは、エイズウイルスのDNA上の広い範囲で効率的に遺伝情報の破壊を行うのに適した性質だと考えられるという。このようにNMRシグナルを用いたリアルタイムモニタリングによって、これまで不明であったA3Gタンパク質の動作機構が解明された形だ。A3Gタンパク質の抗エイズウイルス活性の根幹である脱アミノ化反応の動作機構が解明されたことで、A3Gを活用した抗エイズウイルス薬の創製の活性化が期待されるという。また今回開発されたNMRシグナルを用いた反応のリアルタイムモニタリングと定量解析の手法は、同時並行的に進行するほかの複雑な酵素反応や生体内カスケード反応の解析にも応用可能とした。またNMRシグナルを用いたリアルタイムモニタリング法は、バイオマスを微生物によって分解することでエネルギーや化成品などの有用物質を獲得する際にも、時々刻々変わる物質群の動態を一網打尽に解析することができ、役立つと考えられるとする。研究チームは2009年に、A3Gの立体構造の決定にも成功しており、それをA3Gの動的な側面に関する今回の知見と合わせることで、A3Gを活用した新規の抗エイズウイルス薬創製の基盤を確立していきたいと考えているという。またNMRシグナルを用いたリアルタイムモニタリング法を、バイオマスから有用物質を獲得するのに活用することへの利用も開始しており、この進展を目指すとしている。
2014年01月31日