通販サイト「淘宝網(タオバオ)」や「天猫Tmall」を運営する中国のインターネットベンチャー企業、アリババグループ・ホールディングは2014年9月にニューヨーク証券取引所に上場し、世界最大規模となる約250億ドルの資金を調達した。2008年5月にソフトバンクと中国のアリババグループが設立したアリババ株式会社(以下アリババ)は、国際B to Bマッチングサイト「アリババドットコム」と中国のインターネット通販サイト「天猫Tmall」への出展を通じて、日本企業の海外市場開拓を支援するサービスを展開している。○オフィスのフリーアドレス化で固定電話をどうする?事業は順調に拡大し2012年8月には大阪オフィスを開設するが、その際、固定電話を置かず、社員に特定のデスクを割り当てず空いている席を自由に使う「フリーアドレス」を検討したという。しかし、座る席によって内線番号が変わってしまうのは困る。同社では全正社員に対してiPhoneを配布していたので、内線番号が変わらずに使えるソリューションで、iPhoneに対応したものがあれば好都合だった。「当社のサービスをご紹介するにあたり、電話でお客様にファーストコンタクトを行う営業活動を行っています。固定電話を完全に廃止してしまうと、iPhoneから電話を掛ける場合に携帯電話番号がお客様に表示され、不要な電話と判断されて応答してもらえないケースが出てきます。一方で固定電話を廃止できればオフィスをフリーアドレスにできるため、組織変更などで席替えをする際に発生する固定電話の工事コストを削減でき、初期コストの削減と合算して大きなコスト削減効果が得られます。両者を満足させるソリューションを探していた時にソフトバンクテレコムから提案されたのが『Bizダイヤル』というサービスでした」と語るのは情報システム担当の釜田武久氏だ。一般的なFMC(固定電話と携帯電話の融合サービス)はオフィス内にPBXを設置してサービスを提供するものが主流だが、BizダイヤルはPBXをクラウド上に配置するのがユニークな点だ。PBX設置にかかる初期コストを削減でき、運用フェーズでも機器の故障対応などは不要になる。さらにBizダイヤルはiPhone専用アプリから発信する際に、iPhoneが本来持っている携帯電話の発信番号を「03」や「06」などで始まる固定電話番号にクラウドPBXが置き換えるので、相手先から見れば固定電話からかかってきた電話と変わらない。この固定電話番号はBizダイヤルのアカウントごとに1対1で対応しているから、相手がこの固定電話番号に発信すればiPhoneで直接着信でき、外出中に顧客からの電話を受けることが可能となる。「導入に当たって、同様のサービスを比較検討したところ価格面でBizダイヤルが最も有利だったので採用しました。大阪オフィスは室内スペースに余裕はなく、また情報システム部門の担当者も常駐していませんから、クラウドPBXとして設置場所が不要でメンテナンスフリーとなるのは助かります」と語る釜田氏。相手先への固定電話番号表示が可能になったので、固定電話とFAXを各1回線のみ残して、オフィスの電話はiPhoneにすることでフリーアドレスが実現した。ビジネス環境の変化に応じたタイムリーなチーム編成の組み替えが可能になったという。「固定電話を設置する場合に比べ、iPhoneとBizダイヤルの環境構築は約130万円が約30万円へと4分の1ほどに削減できました。通信費は固定電話と同等ですが、年に1~2回は発生するオフィスのレイアウト変更でも、固定電話の工事コストは発生しないのでランニングコストも削減できています」(釜田氏)「固定電話を廃して通話をiPhoneに集約することで利用者の利便性も向上しました。例えば通話履歴が記録されるので折り返しの電話にすばやく対応できます。また、通話履歴から簡単に電話帳へ登録できるうえ、管理性や検索性も紙の電話帳とは比べ物になりません。お客様からWebサイトの画面操作に関するお問い合わせを受けるサポートスタッフは、イヤフォンマイクを使ってハンズフリーで応対しています。こうすると自分のパソコンを両手で操作して、お客様と同じ画面を表示して対応できます」と広報の木村良子氏はBizダイヤルのメリットを語る。○中国のグループ企業と情報共有アリババの東京本社と大阪オフィスは閉域ネットワークで接続され、ディレクトリサービスやファイルサーバ、勤怠管理などの人事系システムなどをセキュアに利用できる環境を構築しているが、さらにこのネットワークは中国・杭州に所在するグループ企業にも閉域ネットワークで接続されている。「このグループ会社とは書類などのやり取りが発生しますので、利便性を高める目的で共有のファイルサーバを構築しています。また、このネットワークを使ったIP電話を導入しているため、日本と杭州オフィスとの通話に料金は発生していません」(釜田氏)端末価格下落や音声定額サービスの開始などを受け、社員の業務用端末としてスマートフォンを配布する企業は珍しくなくなった。外出先でのメールやカレンダーの確認といったモバイル型ワークスタイルのメリットはもちろんだが、スマートフォンと固定電話を併用する無駄はあまり注目されていないようだ。単に固定電話を削減するだけでも通信費のランニングコスト削減にはつながるが、アリババのようにフリーアドレスを導入すればオフィス環境の変革も可能になる。
2015年03月27日