「桃太郎」・「さるかに合戦」など、昔話や民話には有名で分かりやすい名作がたくさんありますよね。今回はそういった名作とは真逆の、あまり知られていなくてなんだかよく分からない「迷作」昔話を2つご紹介します。昔の人のおかしな発想力、ご堪能あれ!(Photo by MShades)■垢太郎最初にご紹介するのは、「垢太郎」というお話。あるところに、貧しい老夫婦が居ました。夫婦の貧しさは相当なもので、もう何年もお風呂に入っていません。子供ができなかった夫婦は寂しさを紛らわすため、自分たちの体から出た垢を固めて人形にすることを思いつきました。いきなり面食らう出だしです。「子供ができないから垢で人形を作る」という発想。お話ではおじいさんが提案したことになっているんですが、なぜおばあさんはこれを止めてくれなかったんでしょうか。ノリノリだったんでしょうか。しばらくすると、垢人形には命が宿り、立派な人間の子供になります。思いがけない子宝に大喜びした夫婦は、この子供に「垢太郎」という名前をつけました。人間になった理由は特に語られません。垢の塊がサラッと生命活動を開始します。そして老夫婦、心待ちにしていたはずの我が息子に、「垢太郎」という身も蓋もないド直球ネーミング。「垢」なんていうワードは、できたら名前の頭に据えて欲しくないですよね……。その後は桃太郎よろしく仲間を引き連れて鬼退治に行って大団円、というストーリーなのですが、後半の王道っぷりが前半のむちゃを引き立たせる結果となっていて、非常に奇妙な印象を受けますね。■たにし長者次に、「たにし長者」というお話をご紹介します。あるところに、子供のいない百姓夫婦がおりました。二人はもう若くなく、それでも「どうしても子が欲しい」と毎日神様にお祈りしていました。ある日、突然妻に陣痛が起こり、子供が生まれました。その生まれた子供というのが、驚いたことにタニシでした。夫婦は生まれたタニシを息子として大事に育てます。20年たち、タニシは急にしゃべりだします。「お父とお母に楽させてやる。おれが長者さまのところに年貢を納めてくるからな」馬に乗って年貢を納めに来たこのタニシを、長者さまはいたく気に入って、自分の娘と結婚させます。こちらもスタートからすごい勢いです。生まれた子供がタニシ。それを普通に育てる夫婦。しゃべるタニシ。馬を自在に操るタニシ。娘をタニシと結婚させる長者。違和感以外見当たりません。登場人物全員がどこかおかしいです。お祭りに出かけたタニシ夫妻は帰り道、お地蔵さまに二人の幸せをお祈りしました。ところが、妻がお祈りしているすきにタニシはカラスに襲われてしまいます。それに気づいた妻は体を投げ出し、すんでのところで夫・タニシを守ります。するとタニシはみるみるうちに大変立派な青年へと変身を遂げたのでした。タニシは長者の跡を継ぎ、タニシ長者と呼ばれました。怒涛の展開。タニシが人間になりました。急激な進化を遂げました。おそらく「愛の力が奇跡を起こした!」という事なんでしょう。しかし、20年もの間ウンともスンとも言わないタニシを育て続けるのも相当な愛情だと思うんですけどね。そして、タイトル「タニシ長者」の「長者」部分は、最後にチャチャッと消化されます。跡を継いだだけです。義父が長者なので、跡を継げば長者です。当然ですね。序盤から終盤までブンブン振りまわして、最後も早足でまとめてしまうという力技。怪作と言って差し支えないと思います!これら2つの民話に共通するのは、夫婦の「子が欲しい」という願いです。あの「桃太郎」も明治以前までは「桃を食べた老夫婦が若返り、そのおかげで子供ができた」というストーリーだったようです。こういったおかしなお話が幾つも生まれるほど、昔の人たちにとって「子宝」というのは貴重でありがたいものだったんですね!僕も子供、大事にしなきゃなあ!(子供は居ません)(永田兄弟/オモコロ)※昔話はシュールな話、よく考えれば残酷な話のオンパレードですよね。こんな怪作たちを「タニシは○○の象徴で…………」などと深読みするのも、大人の昔話の楽しみ方の一興です。子供はまねせずに、素直に王道ストーリーを楽しんでください。(編集部:梅田)【関連リンク】モバイルコンテンツ「NHK他言語むかしばなし」で英語学習「名作」昔話で英語のお勉強!
2009年12月01日