オジギソウだった息子【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第3話】
10年前、息子がまだ幼稚園児だったころ。とあるママ友が無邪気な笑顔でこんなことを言った。
「うちの息子ね、家で育てているオジギソウに、モーくんの名前をつけて可愛がってるのよ」
某幼児用教材の付録にオジギソウの種がついてくるそうで、土に植え、立派に発芽し、お辞儀をするようになった知人宅のオジギソウに、なぜか息子の名前がつけられたというのだ。
一体、なぜ……。条件反射で吹き出しつつ、内心さまざまな思いが渦巻いた。
仮にもし、育てているその草がオジギソウじゃなくて、クローバーとか、ミントとか、ローズマリーとかだったらまた別の話になっていたのだろうけれど、よりによってオジギソウである。
ちょっとつつくと、お辞儀をするように葉を閉じることからその名がついた、あのオジギソウ。万年平社員さながら律儀にお辞儀をする、モーの名のついたオジギソウを、息子の友人は一体どんな気持ちで可愛がっているというのか。
決して覗いてはいけない深淵を覗いてしまったような、なんとも言えない複雑な気持ちになったものだ。
しかし、へこへこお辞儀するかはさておき、確かに息子は幼いころから三枚目キャラではあった。仮に草に例えたときにも、決してクローバーや、ミントや、ローズマリーというような、カフェっぽい名前にはならなそうな、そんな子どもだった。
3回経験した幼稚園の運動会。駆けっこで、息子は決まってスキップをした。自己紹介のマイクが回ってきたときには大きな声ではっきりと「ウンコです」と言った。さすがに小学生にもなるとウンコで笑いを取ろうとすることはなくなったものの、代わりに少々知恵をつけて、真面目にやったほうがもっとウケる、ということに気付いた様子。
ある年の学芸会、「どうしても……どうしても彼にしかできない役があるんです!」と担任の先生に熱っぽく語られ楽しみに会場に行くと、息子の担当はなんと“効果音”だった。
といっても、楽器やCDを鳴らすわけではない。嘘みたいな本当の話で、彼にしかできない役とは、他の子の歌の合間に「チャッ!チャッ!チャッ!」と、効果音を発声することだったのだ。
最初から最後まで大真面目にやったことにより、会場はどっと沸いた。終演後のモーは、「オレ、人に笑われるの大好き!」と満足げに語ってくれた。その言い方だとちょっとドキッとさせられるけれど、おそらくモーは「オレ、人を笑わせるの大好き」と言いたかったんだろう。
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