2017年6月6日 17:00|ウーマンエキサイト

突然の死を迎えた祖母… 母に残したのは「特別な絆」【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第25話】


訃報を受けた直後は、祖母を失った悲しみよりも先に、母のことが気になった。いつもはノーテンキで子どものような母の顔を唯一曇らせる、根深い愛情問題。祖母はわだかまりを、わだかまりのまま残していってしまったのだろうか。

……それも仕方がない、と思った。生身の人間の人生は、小説や映画のように美しく着地したりしない。母の問題は母の問題として解決していくしかない、そんな風に思った。

ところが、そうではなかったのだ。

お葬式を終えた日の夜。
最後を看取った日から、通夜、葬儀と休みなしでこなし、疲れ切っていたであろう母は、それでも眠れないというので、私たちは居間で、祖母の遺影を前にお酒を飲んでいた。そんなとき、おもむろにこんなことを言ったのだ。

「最後はね、おばあちゃんは、私からしか薬を飲まなかったんよ」

祖母の命が長くもたないことを知らされてから、4人の姉妹は介護のために、代わる代わる祖母の家に泊まり込んでいた。日増しに体が弱り、目に見えて最後が近づくにつれ、祖母は、ほかの誰が薬を飲ませようとしてもそれを拒み、頑として母を待ったのだという。

祖母の家から一番近くに住み、30年近く祖母の世話を担ってきた母がそれだけの信頼を得ることは、他の姉妹にも当然のこととして受け止められたようだった。祖母が息を引き取った後は、姉妹全員で、ああでもない、こうでもないと言いながら祖母の服を着替えさせ、綺麗にお化粧を施し、棺に納めたのだという。

まるで毒が抜けたように優しい顔で「本当に楽しい時間だったんよ」と、そのときのことを語る母の目には涙が滲んでいた。絡まった糸がこんなにも見事に解けて、誰の心にもわだかまりを残さず、軽やかに迎えるエピローグ。
物語でない現実の人生にも、そんなことがあるのだと震えた。

生まれ持った性格が合う、もしくは合わないということは、親子の間にだって少なからずあるだろうし、そこで生じる摩擦によって、愛の受け渡しがスムーズにいかないことだってあるのだろう。けれども一喜一憂しながら過ごす長い時間の中で、気がつけば子に命を預けるほどの特別な信頼が生まれていたり、そうやって寄せられた親からの特別な信頼に救われたり。私たちは、さまざまな局面を経て、親子としての関係性を、双方から育んでいく。

考えてみれば親子なんて、最初はみんなただの親子、それ以下でもそれ以上でもないのだ。血のつながりを超えた「あなた」と「わたし」の特別な絆は、それぞれの過ごしてきた日々の後ろに、足跡のように残っていくものなのだろう。

突然の死を迎えた祖母… 母に残したのは「特別な絆」【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第25話】
イラスト:片岡泉

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