「トイレが鬼門」だった子ども時代。過活動膀胱、迷走神経反射で失神…ASDの私が"助け"を封印した理由
小学校時代はトイレが近くて困った
小学校時代にはすでにトイレの近さを自覚していた私。中年になってから「過活動膀胱」という診断がつきましたが、どうも精神的な緊張からくるようです。調子の悪いときは1時間もたないことがあります。
当時の小学校は個々の児童の心身の調子に無頓着で、一律の厳しいルールで統率しようとするところがありました。授業中にトイレに行かせてくれと訴えると担任から「どうして休み時間中に行っておかなかったの!」と叱責されたり、「トイレの管理もできないなんて赤ちゃんみたいね」という言い方をされる。
いじめられていた私は、こうした出来事がいじめのネタになることを知っていたので怖くて、休み時間ごとに必ずトイレに行く習慣がつきました。これが排尿にまつわる緊張を増幅させて、今の過活動膀胱につながっていると思います。
生理痛と下痢の痛みに苦しむように
中学になると生理が来ました。
私の生理は初潮時からかなりの生理痛と下痢を伴いましたが、30年以上前当時は生理に関する知識が普及していませんでした。
養護の先生には「鎮痛剤を飲みすぎると癖になる」と言われましたし、世間的に「生理は痛みに耐えるもの」という考えが一般的でした。
高校になるとあまりの痛みにトイレに長時間籠もることが多くなり、ときどき脂汗が出てきて耳鳴りがし、意識が遠のくように。そのまま数10分失神することもありました。
いま思えばこの失神は「迷走神経反射」というもので、あまりの痛みに自律神経が混乱し、血圧や心拍が低下して意識を失う状態でした。
助けを求めることができない、求めても助けてもらえない
婦人科にも行きましたが、おじいちゃんの先生に「器質的にはなんの問題もない。まだ子宮が未熟とか、痛みに敏感すぎるとか、そういうのじゃないの?」「子ども産めば治るよ」などと顔も見ずに言われました。
私は大きなショックを受けました。
「つまり、この問題は私が悪いわけで、この苦しみから逃れるには子どもを産むしかないってことなのね? 専門家が言うならそうなのね?」と。
鎮痛剤は効く量をしっかり飲んでもかまわない、ということは教えてもらえたので、強い鎮痛剤を飲むようになりました。ただ、しっかり効く量を飲み続けているうちに必ず胃が荒れて、今度は胃がキリキリしはじめます。現在は婦人科治療も医師側の意識もかなりアップデートされ、「生理で毎度鎮痛剤が必要なほど痛むなら超低用量ピルなどで治療すべき(※)」という意識が徐々に一般にも広がってきています。月経困難症に保険適用できる超低用量ピルもあります。けれど、30年ぐらい前はそうではありませんでした。
※ひどい月経痛が毎度ある場合、画像検査で検出できないような初期の婦人科疾患がある可能性があるそうです。婦人科疾患は進行すると最悪の場合がん化することもありますが、ピルなどでホルモンをコントロールすることで、疾患の進行を抑えることができると教えていただきました。
自分の身体のことを恥じざるをえなかった環境
私がこのように1人で自分の身体や症状を恥じ、ひたすら耐えなければならなかったのには、学校や世間、専門家とだけでなく、家族との関係性も関わっていました。
ASD(自閉スペクトラム症)と、幼児期にはすでにトラウマ症状があったと思われる私は何かと過敏で、ちょっとした刺激で体調を崩しました。特に家族で行楽地に遠出するときなど、車に酔って気持ち悪くなったり、お腹が痛くなったり、音や光やニオイで疲れてしまってグズったりすることがしょっちゅう。
そのたびに父と兄はイライラカリカリし、母はアワアワして不安がる。そして皆で口を揃えて「義子は甘えん坊の根性なしで本当にダメだねえ。せっかく皆で楽しくお出かけしていたのに」と言うのです。そもそも、私はみんなでお出かけするなら、近所の河原やファミレスでよかったのですが……。
皆、私の気分が少し回復するまでもちろん世話はしてくれるのですが、私の不安に寄り添いながら温かく余裕をもってしてくれる人が誰もいなかったのが、いま思い出しても本当に寂しくてつらいです。
それで、私はともかく「私が悪いんだ。私の身体や心がけが悪いせいでみんなに迷惑をかけるんだ」と自分を恥じ、周囲の大人に頼ることをあきらめるようになりました。
こういったこともあって、高校時代生理で迷走神経反射を起こすようになっても、保健室で養護の先生に詳しく相談することはありませんでした。放課後にトイレで倒れたあとはなんとか歩けるようになるまで待ってから、誰に言うこともなく帰っていました。それが普通だと思っていたからです。
20代中盤だったか、生理時の失神が毎度のようになってきたのでさすがに別の婦人科に行き、そのときは「飲んでみたら?」とピルを出されたのですが、母に報告すると「ホルモンをいじるなんてなんて怖いことを!」と過剰反応をされてしまい、(その母の様子が)怖くて飲まずじまい……。
「あのときの剣幕、何かおかしかったよな」とあとで考えていたとき、たぶん母は建前でああ言っただけで、「ピルは『性的にだらしない女性』が飲むもの」という偏見によって、あのような強烈な拒否反応を起こしたのではないかなと思い至りました。
目の前の子ども本人を見てほしい
いま思えば、両親は共働きで忙しい中で、いわゆる「良い家族」の姿を実現しようと必死だったのだろうし、発達障害の知識を誰も持っていない中で、私のような心身にトラブルを抱える子どもを育てるのはとても大変だったでしょう。
同じ立場なら私もきっと同じようにしてしまったと思います。
ですから、今となっては両親には同情しており、彼らなりに精一杯やってくれたことにも感謝しています。
けれどだからこそ、今の大人たちには「世間の良い親・良い子・良い家族」を目指そうとするのではなく、目の前のその子が何に苦しみ、何を望んでいるのかを大事にしてほしい。何に耐えられず、何が幸せなのか、心を開いて本人に確認し、受容してほしい、と願っています。
大事なのは、その子が苦しんでいるかどうか。唯一無二のその子が経験していることに対して、保護者として、時間もエネルギーも限られた中で何をしてあげられるか。どうしても余裕のないときはまずは「苦しいんだね。何もできなくてごめんね」という気持ちのこめた数秒の目線だけでも、子どもの確かな支えになってくれるのではないでしょうか。
宇樹義子/文
トイレ周りの不調や困りについて、具体的に聞かせてくださりありがとうございます。 排泄や月経にまつわる不調や困りごとは、発達特性のある方ではさまざまな形で現れます。便意や尿意の感じ方の偏り、触覚過敏による下着やナプキンの不快感、痛みの感受性の違いに加え、突発的な出来事への対応が難しくパニックになりやすいことや、不安の強さがトイレに関するこだわりにつながることも少なくありません。
また、トイレに関する悩みは非常にプライベートであるがゆえに、コミュニケーションの難しさや対人不安、繊細さなどの影響もあり、「誰にも相談できないまま長く一人で抱え込んでしまう」ということもよくあります。せっかく勇気を出して相談した際に否定的な反応を受けてしまうと、その後さらに相談のハードルが上がってしまうということも少なくありません。月経に関しては、昭和の時代は「我慢が美徳」とされがちでしたが、近年では適切に治療・対応するものへと考え方が変わってきています。鎮痛薬の適切な使用や、必要に応じたホルモン治療なども一般的な選択肢となっています。つらい症状がある場合には無理に耐え続けるのではなく、婦人科での相談を検討することが大切です。
受診先についても、こうした症状に理解のある医療機関を選ぶことで、より安心して相談しやすくなるでしょう。
同時に、周囲の大人の関わりも重要です。トイレや月経の話題は切り出しにくいものですが、あらかじめ「こういうことで困ることもあるよね」と具体例を交えて日常的に言葉にしておくことで、本人が「話してもいい」と感じ、相談しやすくなることがあります。
筆者さんの時代には、こうした理解や支援の選択肢が今ほど整っておらず、ご家族とのご関係もあり誰にも頼れない中で長く耐えてこられたことは、本当に大変なご経験だったと思います。そのような体験を言葉にして共有してくださったことは、同じような困りごとを抱えている方にとって大きな支えになるはずです。貴重な経験を届けてくださったことに、心から感謝いたします。(監修:小児科医 新美妙子先生)
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。