NPO法人えじそんくらぶ代表。臨床心理士、薬剤師。ADHD等高機能発達障害のある人のカウンセリングと教育を中心にストレスマネジメント講座にも力を入れている。注意欠陥/多動性障害(以下、ADHD)の正しい理解の普及と、ADHDを持つ人々を支援し、ADHDを障害としてクローズアップするのではなく、豊かな個性の一つとして長所を伸ばし、弱点を克服できるよう支援する団体として「NPO法人えじそんくらぶ」を立ち上げる。 「ママのストレスを少しでも減らしたい!」が活動の原動力。保育所・幼稚園などへの巡回指導を通じて、子育ての現場支援に携わる。子育てのスキルのわかりやすい解説には定評がある。著書『しからずにすむ子育てのヒント(高山恵子/Gakken)』ほか
子どもがちっとも言うことを聞かないと嘆く前に、子どもとの信頼関係が築けていることが大切と語るのは、カリスマ的な人気がある映画「みんなの学校」の舞台となった大空小学校の初代校長である木村泰子先生と、子育てスキルの解説に定評がある高山恵子先生。 そう言われても、そもそも「子どもに信頼してもらう大人」になるのが難しい! どうしたらいいですか? 引き続き、木村泰子先生と高山恵子先生の対談から筆者が探ります。 「子どもが言うことを聞かないのは、ママとの信頼関係に問題があった!」 の続きです。 ■大人が画一的な価値観を押しつけない ―子どもが信頼できる大人になるためには、何から始めれば良いでしょうか? 木村泰子先生 (以下、木村):自分が子どもに信頼してもらえているのか? それは、いわば、 子どもにとって自分が安全基地になれているのか? という問いです。言い換えれば、この問いは、「子どもにとって、自分が安全基地になるためには、どうしたらいいのか?」ということです。 これについて、私は何段階かに分けて考えました。いろいろと考えた結果、最終的に、子どもにとって自分が安全基地になるためには、大人が持っている『限られた画一摘な価値観』を、子どもに一方的に押しつけないということなんだと思い至りました。 高山恵子先生 (以下、高山):自分が受けてきた 過去の教育 や、 自分の親の育て方 が正しいと信じている方は多いですよね。 木村 :そう、そこが問題の「核心」とも言える点なんです。 いま、自分がやっている子育てが、自分がもっている「画一的な価値観」を押し付ける行為になっていないか? そこに対して、 ママは主体的に自分の頭で考えてみて 欲しいのです 高山 :たしかに。そこを考え始めてみることが、今、一番大切なことですね。 ■子どもにどんな人になって欲しいですか? ―主体的に自分の頭で考えてみる…。なかなか、ハードルが高いですね 木村 :この話をしていたら、ある県の教員研修会に呼ばれた時のことを思い出しました。 そのときは、大きな体育館に先生方が集まって、映画「みんなの学校」の上映後、「何かお話しをしてください」と言われていました。 高山 :どんなお話しをされたのでしょうか? 木村 :新任の先生が最前列に座っていらしたので、新任の先生方に向かって、「ご自身がどんな先生になりたいか、言えますか?」と聞いてみました。みなさん、意気揚々と「僕に当ててください!」「私が話したいです!」という顔をされていました。 そこで、私は言いました。「そんなん、どうでもいいんです。自分が、どんな先生になるかなんて、どうでもいいんですよ。では、 どんな子どもを育てたいですか? はい、どうぞ!」と、言ったんです。そうしたら、誰も手を挙げませんでした。 高山 :ああ、本当に先生と気が合います。私は講演会の最初によく、「みなさんは、子どもにどんな人になってほしいですか?」という質問から始めるんです。 ■家でも学校でも、教育の目的はたったひとつだけ ―「子どもにどんな人になってほしいか?」…ですか? 木村 :たとえば、教員になる人たちは、教員養成課程で「自分がどんな先生になりたいか?」ばかりを勉強させられています。「子ども理解ができて、授業がうまくてなんとかかんとか…」と。 そうしたら、自分がそういう教員になることが、すべての「目的」になってしまい、 子どもは目的を達成する「手段」になってしまう んです。「目的」と「手段」が逆になってしまっているんです。 高山 :家庭でも、同じことが起きています。 木村 :「どんな親でありたいか、どんな教員になりたいか」ではなく、 「自分は、どんな子どもを育てたいのか」 ということだけを考えていればいい。 もっと、言ってしまえば、「家庭や学校での教育の目的とは何か?」という話です。家庭や学校での教育の目的は、 その子がその子らしく育つ こと。それ以外にありません。 高山 :おっしゃるとおりだと思います。私は、アメリカの大学院で、教授法には「教師中心法」と「生徒中心法」があると学びました。「教師中心法」は、文字通り、教師中心の教授法で、従来の日本の一斉教育のイメージですね。 一方で、生徒中心法は、子どもありきの教授法です。この「生徒中心法」の考え方が、これからの教育で、非常に大切なのだと私も思います。 ■親が変われば子どもも変わる ―大空小学校には、保護者の方、ボランティアで来て下さる地域の方など、たくさんの大人がたくさんいました。学校に多様な大人がいて混乱はありませんでしたか? 木村 : 私たち教職員がすごく大事にしていたのは、「私らが子どもを一番見ていて、わかってへんかったら、給料返さなあかんで」ということです。 「この子にとっていい関わりか? いい関わりでないか?」。そこを判断するのは、教員の仕事です。授業中に、地域の方がその子にとってプラスにならないような関わりをするときは、やっぱりキッチリ言わないと。専門家である私たちが、「いま、ちょっと邪魔やねん」と言う。それが教員の仕事です。 高山 :「この子にとっていい関わりか? いい関わりでないか?」を判断すると思えば、親も自分の感情に流されることは減るかもしれませんね。でも、そこまでキッパリ言って、気を悪くされる方はいらっしゃいませんでしたか? 木村 :そういうこともあるでしょう。「邪魔やねん」と言われて、「そんなん言われたし、もう行かへん」と思われる方は、それ以後、自らいらっしゃることはないでしょうね。 一方で、「邪魔やねん」と言われたときに、「あ、そうか。いまの私の関わり、あかんかったな」と学んでくださる方は、それ以後、同じような関わりはされません。 高山 :なるほど。その方自身を否定するのではなく、その方の言動がNGなのですから、そこを変えればいいのですね。 木村 :自分の意思で学びつづけようとする。そういう人が増えて、そういう方が、どんどん学んでいってくだされば、家庭や学校、ひいては地域全体の「学びの場」としての空気が変わっていくわけです。ですから、大空の校門には、こんな看板をかけていました。 ●大空小学校の校門の看板 木村 :大人が 「主体的な深い学び」 を行えるようになってくれば、子どもたちも自然に「主体的な深い学び」を獲得していきます。親が変われば、必然的に子どもも変わっていくんです。 高山 :本当にそうですね。それにしても、木村先生は、行動の人ですよね。 木村 :「誰が、いつやるか?」というだけの話なんです。私の話を聞いて、「いいのはわかっているんですが、私の現実はそうではないんです」ではなく、「そうするためには、どうしたらいいですか?」なんです。 「自分自身を、まず変えようよ!」 と。自分自身を変えることからしか、何も始まらないのです。 ■今、自分自身を変えることから始めよう! いかがでしたか? 筆者は、「私の生きづらさは、どこからくるのだろう?」 そんなことをよく考えます。私が子どもだった頃、「その子がその子らしく育つこと」を最優先に考える大人に囲まれていたのなら、「私は、私であっていい」と、力みなくストンと思えたのかもしれません。 そう思うのであれば、いま、自分が、そんな大人になればいい。「その子がその子らしく育つこと」を保障できる大人に、自分がなればいい。そんなふうに、考えるようになりました。 下記の対談本は、筆者が取材・執筆を担当しました。取材を通じて、木村・高山両先生と多くの時間を過ごさせていただくなかで、実践してきた人しか持ちえない、「言葉の力」を体感しました。本書を通じて、それが少しでも読者さまに伝わるとうれしいです。 <親の意識を変えるポイント> 1)自分が持っている画一的な価値観を子どもに押しつけていないかセリフチェックを! 2)教育の目的は、その子がその子らしく育つこと。それ以外には、ない 3)大人が主体的な深い学びを獲得すれば、子どもも自然とそれに続く ■参考文献 『「みんなの学校」から社会を変える: 障害のある子を排除しない教育への道』 (木村泰子・高山恵子 著/小学館刊 本体800円(税)) ●木村泰子(きむら・やすこ)先生 文部科学省特別選定にもなったドキュメンタリー映画「みんなの学校」は、2015年2月に封切られてロングラン、今もなお全国の自治体などで自主上映され続けています。木村泰子先生は、この映画の舞台である大阪市立大空小学校の初代校長。2015年に退職後は、全国各地で公演活動を行っています。 》 「『みんなの学校』流「生き抜く力」の育て方」 ●高山恵子(たかやま・けいこ)先生 NPO法人えじそんくらぶ代表。保育所・幼稚園などへの巡回指導を通じて、子育ての現場支援に携わっています。著書に『しからずにすむ子育てのヒント(高山恵子/Gakken)』など、子育てのスキルをのわかりやすい解説に定評があります。「ママのストレスを少しでも減らしたい!」が、活動の原動力。 》 「ママのためのアンガーマネジメント」
2019年11月18日毎日、子育てをしていて、何となく不安…。それは、もしかしたら「子どもを育てる土台」が整っていないからなのかもしれません。 では、子どもを育てる土台とは、何なのでしょうか? カリスマ的な人気がある元小学校校長の木村泰子先生と、子育てスキルの解説に定評がある高山恵子先生の対談から筆者が探ります。 ●木村泰子(きむら・やすこ)先生 文部科学省特別選定にもなったドキュメンタリー映画「みんなの学校」は、2015年2月に封切られてロングラン、今もなお全国の自治体などで自主上映され続けています。木村泰子先生は、この映画の舞台である大阪市立大空小学校の初代校長。2015年に退職後は、全国各地で公演活動を行っています。 》 「『みんなの学校』流「生き抜く力」の育て方」 ●高山恵子(たかやま・けいこ)先生 NPO法人えじそんくらぶ代表。保育所・幼稚園などへの巡回指導を通じて、子育ての現場支援に携わっています。著書に『しからずにすむ子育てのヒント(高山恵子/Gakken)』など、子育てのスキルをのわかりやすい解説に定評があります。「ママのストレスを少しでも減らしたい!」が、活動の原動力。 》 「ママのためのアンガーマネジメント」 ■「子どもが言うことを聞く」ために必要なこと ―子どもが全然言うことを聞きません! そんな時、どうしたらいいですか? 木村泰子先生 (以下、木村):子どもへの関わり方は、「手法」ではありません。子どもが「この目の前の大人は、自分のために言っているよな」と感じるときは、「うるせぇな」などと表面的にどれだけ悪態をついていようが、必ず自分の身体のなかに、その言葉をトンと沁み込ませています。 子どもは、目の前の大人が、 「本当に自分のために言ってくれている」 と感じたときは、必ず大人を信用します。これはすべての子どもがもっている「本能」なんです。 高山恵子先生 (以下、高山):子どもに言うことを聞いてもらうには、まず 信頼関係 が基本です。「教える」という土台には、人間同士の信頼関係が大切です。「自分のことをわかってくれている人だ」と子どもが感じられることが基本なんです。 ■子どもが信頼できる大人の条件とは? ―では、子どもと信頼関係を築くには、どうすれば良いのでしょうか? 木村 :子どもが本当に困ったとき、 「信頼できる大人の条件」 って、どんなことだと思われますか? これについて、大空小学校の校長をしているときに「そこなのね?」と、衝撃的に学んだ事実があるのです。 高山 :ぜひ、伺いたいですね。 木村 :(他人を信頼していなかった子どもが校長である木村先生だけ信頼した理由を)「だってな、校長先生は最後までずっと横にいとってくれる」と、言ったんです。それだけです。 「ただ、横にそっとおるだけや」 という話です。助けてくれるわけでも、ためになる話をするわけでもないけれど、最後の最後まで横にいる。 高山 :たしかに「寄り添う」ということ、とても大事ですね。大人は、頭では理解をしていると思うんです。ただ、じつは、「子どものかたわらに、ただいる」って、すごく難しいですよね。 子どものかたわらにただいるということが、「すごく難しいこと」になってしまっているのは、ママたちが 「この子を、自分が正しく導かなければならない!」 という使命感をもっていらっしゃるからなんだと思うんです。 ―毎日、「子どもにやらせるべきToDo」に追われています 高山 :子どもに対して、いろいろなことをやらなければいけないという思いが強くて、ママたちは、なかなか「まず寄り添う」という気持ちになれないと思います。 だからこそ、 「寄り添う」 ということを 「意識して、やっていこう」 という気持ちが、大切だと思います。そうするうちに、だんだんと子どもに自然と寄り添い、評価せずにただ話を聴くことができるようになって、信頼関係も生まれていくのだと思います。 ■子どもと信頼関係を結ぶために知っておきたいこと ―おっしゃることはわかります。でも、なかなか、そう切り替えられません。 高山 :子どもが大人の言うことを聞く、つまりは子どもがスムーズに学ぶためには、 子どもの心身が安定 していないと難しいんです。これに関して、私はよく「マズローの欲求階層図」のお話しをしています。難しい理論のように聞こえるかもしれませんが、これは大学の教育系学部では必ず学ぶ、教育のベーシックな知識なんですよ。 ●マズローの欲求階層図 高山 :アメリカの心理学者マズローは、人間には基本となる欲求が5つあり、それは階層になっていて、下から順に満たされると良いと考えました。(上記の図参照) ここでのポイントは、「欲求には優先順位があり、下から順に満たしていくことが大切」という点です。どういうことかというと、人はまず図の①から④までの欲求が満たされてから、⑤の「自分の能力を発揮して何かを成し遂げたいという気持ち(自己実現欲求)」が起こる、という考え方なんです。 つまり、ママが子どもと信頼関係を結ぶことができれば、「②(安全欲求)」「③(所属・愛情欲求)」、「④(自己承認欲求)」が満たされます。そうして初めて、「子どもが言うことを聞く耳を持つ」状態になるんです。この理論が頭に入っていると、急がば回れ、子どもが言うことを聞くためには、 「親子関係の土台づくりから」 という気持ちになりませんか? いかがでしたか? ママは、溢れかえる育児情報の中で、ついつい「アレもコレも」と思ってしまいがち。けれども教育学の知識が少しあるだけで、情報を「間引き」するヒントになりそうです。 <親の意識を変えるポイント> 1)子どもは、信頼関係が築けている大人の言うことは聞く 2)子どもと信頼関係を築くには、「寄り添う」ことが大事 3)マズローの欲求階層図で、「子どもが言うことを聞く耳を持つ」までの過程を理解する ■参考文献 『「みんなの学校」から社会を変える: 障害のある子を排除しない教育への道』 (木村泰子・高山恵子 著/小学館刊 本体800円(税))
2019年11月17日「怒り」そのものは、人間として、ごく自然な感情です。本質を知り、付き合い方を知っていればむやみに恐れるものではありません。そうは言っても毎日子どもを怒ってばかりという日々から抜け出したいと思っているママたち。 では怒りの感情を持ってしまったら、どうすれば抜け出すことができるのか、最終回の今回は、 アンガーマネジメントの手法を3つ ご紹介しましょう。NPO法人えじそんくらぶ代表の 高山恵子さん にお話しを伺いました。 ■「アイメッセージ」で、「怒り」から抜け出す 自分の中に怒りを感じ、「腹が立つ!」と言ったときは、 「私=怒り」 です。 「でも、『私は、怒りを感じている』と言うと、 『私=感じている』 となり、感情(怒り)から少し距離をおけます」 (高山先生) 自分と感情の間に距離ができて、少し冷静になったら、怒りの種である「第一の感情」を言葉にして、アイメッセージで伝えます。まず、 「私は」 と言い始めてください。次に「○○(思考)なので、 ●●(感情)です 」と続けます。これが、 アイメッセージ です。自分の思考や感情を比較的冷静に、具体的に伝えることができます。 ●アイメッセージに言い換える方法 「なんで、いつも遊びながらご飯を食べるの!」 (本当の気持ち:ご飯をモリモリ食べてくれなくて悲しい) ↓(言い換える) 「ママ、○○くんが遊びながらご飯を食べていると悲しいな」 (「ママは」「わたしは」を使うと、本当の感情が伝えられて、冷静な会話がなりたつ) 「不満を言うだけでは、単なる親子げんかです。けれど、『ママは』をつけて、自分の気持ちを言い表すと、『意見』になり、子どもと少し冷静に話すことができるようになります」(高山先生) ■「なんで」は失敗の原因を探る言葉 怒っているときに、つい口から飛び出てしまう 「なんで」 という言葉。「なんで」、は、 失敗の原因 を探る言葉です。物事の解決につながりにくく、子どもや自分への怒りを招きがちです。 このような後ろ向きの言葉が口ぐせになっている場合は、 「どうしたら」 を口癖にするように意識してみると良いかもしれません。「『どうしたら』は、物事を、 『次の成功』 に導くための、前向きな問いかけです」(高山先生) 「どうしたら」と結びつくのは、「できる」です。「どうしたら」と自問すれば、「できるかな?」と、前向きな言葉が自然に出てくるのです。 ■怒りの記録をつけてみよう 最後に長期的な視点にたった、怒りに対しての抜本的な方法をご紹介しましょう。それは、「イライラした」「腹が立った」「気持ちが落ち込んだ」といった出来事の記録である 「アンガー・ログ」 をつけること。ほんのメモ程度でかまいません <「アンガー・ログ」の5つのポイント> ①いつ、どこで? 自分が怒りやすい時間帯や、場所を見極めるための項目。日付だけでなく時間も書き、場所も具体的だとgood ②どんなことがあったか? 怒りを感じた場面を描写。感情は抜きにして、場面を描写することに徹します ③そのとき自分が思ったこと その時、自分が思ったことを素直に書き出します。自分で読み返すだけのものなので、人目を気にする必要はありません ④どんな感情を持ったか イライラした、怒り、失望・・など、感情の種類を書きます。 例)〈感情〉イラっとした ⑤怒りのレベル 感じた怒りがどのくらいか、ランク付けをします。ランクは目安を、前もって決めておきます 例)〈怒りのレベル〉5点くらいだから、レベル2 出典: 『イライラしない、怒らない ADHDのためのアンガーマネジメント』 (高山恵子監修/講談社)より抜粋 <怒りのレベル例> 出典: 『イライラしない、怒らない ADHDのためのアンガーマネジメント』 (高山恵子監修/講談社)より抜粋 ■「怒りのきっかけ」を減らすには 「アンガー・ログ」は、 自分の観察日記 です。書いたときには「怒るのは無理もない」と思ったことでも、あとで読むと「こんな些細なことで怒っていたのか」「このときに怒ったのは、第一次感情(※)が、こうだったからだ」など、気づくことがあるでしょう。 こんなふうに、アンガー・ログを読み解いていくと、自分の 怒りのパターン が見えてきます。「アンガー・ログから浮かび上がることのなかで、いちばん対策を立てやすいのが 『怒りのきっかけ』 です。きっかけを減らすと、行動も変えやすくなります」(高山先生) ※第一次感情とは 怒りの下に隠れている感情を、第一次感情といいます。第一次感情のなかには、「不安」や「悲しみ」といったマイナスの感情だけではなく、「希望」や「期待」などの前向きな感情もあります。 ●「怒りのきっかけ」を減らす例 例1) <自分の「怒り」の傾向> 疲れがたまった夕方や空腹時にイライラして子どもに怒りやすい <対策> 大切な仕事は午前中、少なくとも午後の早めには終わらせておく。夕方になったら軽食をとる 例2) <自分の「怒り」の傾向> ママ友が思ったようなリアクションをしてくれないとき、怒りやすい <対策> 「期待・希望」といった第一次感情が大きすぎる。無意識に自分の「期待・希望」が大きくなっていないかノートに書き出してみる 「『アンガー・ログ』で怒りの傾向がつかめたら、まずは改善策をひとつ決めて実行してみましょう」(高山先生) 「怒り」という感情は、価値観、いわば、「自分らしさの根っこ」に関わる問題と感じている人も多いでしょう。でも、自分が「価値観」だと思っていたことが、単なる 「思い込み」 の可能性もあります。「アンガー・ログ」を使って、「自分の考え方の癖」を意識してみるだけで、怒りを感じる回数は減っていくことでしょう。 喜怒哀楽という感情の中でも、とりわけ強いエネルギーを持つ「怒り」。この「怒り」のエネルギーに自身が振り回されないように、「怒りとの付き合い方」を知り、コントロールできるようになっていけると良いですね。 「ぜひ、ご自身に合った方法をみつけて、怒りと上手に付き合っていただきたいと思います。そして、みなさまのハッピーな時間が一秒でも長くなることを心から望んでいます」(高山先生) ■今回のお話を伺った高山恵子さんのご著書 『イライラしない、怒らない ADHDのためのアンガーマネジメント』 (高山恵子監修/講談社)¥1300円(税別) 高山恵子(たかやまけいこ)さん NPO法人えじそんくらぶ代表。ハーティック研究所 所長。臨床心理士。薬剤師。 専門はAD/HD等高機能発達障害のある人のカウンセリングと教育を中心にストレスマネジメント講座などにも力を入れている。 注意欠陥/多動性障害(以下、ADHD)の正しい理解の普及と、ADHDを持つ人々を支援し、ADHDを障害としてクローズアップするのではなく、豊かな個性の一つとして長所を伸ばし、弱点を克服できるよう支援する団体として「NPO法人えじそんくらぶ」を立ち上げる。 NPO法人えじそんくらぶ公式サイト: <イベント情報> 「成人ADHD等の理解と対応」 (2018年1月~6月/全6回・東京) 第1回 『アンガーマネジメント概論』怒りのメカニズムとクールダウンの方法を学び、自責・他責を減らしましょう。(2018年1月23日(火))
2018年01月17日いつも子どもにイライラしてしまう。どうして子どもに怒りをぶつけてしまうのだろう。そんな風に毎日怒っている自分に悩み、夜はひとり反省会をしてしまう。 そんなママのための怒りの応急処置を前回教えていただきました。今回は、 「怒り」のメカニズム について教えていただきます。じつは「怒り」自体は、人間ならだれもが持つ、ごく自然な感情なのです。「怒り」の本質を知れば、むやみな恐れは消えるはず! NPO法人えじそんくらぶ代表の 高山恵子さん にお話を伺いました。 ■「怒り」は、悪なの? 高山先生は、言います。 「怒りは、 単なる感情のひとつ で、危機や攻撃に対する、人間としての自然な反応です」 。人間にとって、もっとも根源的な怒りは、「自分を傷つけるものへの怒り」。ヒトが、「獲物をとる」か「獲物になる」しかなかった原始時代には、危険に立ち向かうために怒りのエネルギーを使ってきました。 怒りを感じると、意識しなくても、脈拍や呼吸が速くなります。これは、交感神経が働いているサインで、交感神経のスイッチが入ったために、自然に体が活動に備える状態になったからです。こんなふうに、怒りは、「生きるエネルギー」そのものであり、大切な身を守る手段でもあったのです。 でも、現代では野生の猛獣と戦ったり、必死で逃げたりすることはまずありません。私たちは怒りのエネルギーをムダ使いしてしまっていないでしょうか。 「現代では、怒りの扱い方に、工夫が必要ですよね。そこを、アンガーマネジメントという “技術”で補完 しましょう」(高山先生) ■怒りのもとにある本当の感情とは? ところで、怒りは一瞬で湧き上がると感じていませんか? じつはそうではないのです。「怒りのもとには、必ず タネとなる別の感情 が隠れています」(高山先生) この感情は、感じている時間が短い上に、すぐに頭は怒りでいっぱいになるため、キャッチするのがなかなか難しく、気づきにくい感情です。 たとえば、「子どもが思い通り動いてくれず、悲しい」「想定外のことが起こって、不安だ」…。こういった怒りのもとに隠れている感情を「第一次感情」といいます。 また、「第一次感情」には、「不安」や「悲しみ」といったマイナスの感情だけではなく、「希望」や「期待」などの前向きな感情もあります。そういった感情も、簡単に怒りに変わってしまうのです。 怒りが爆発しているときは、怒りと自分が一体化しています。6秒ルール※で応急手当をしたら、第一次感情に耳を澄ませてあげましょう。こんなふうに、怒りの本質を見つめられるようになってくると、怒りは、 「怖いもの」でない と感じられるのではないでしょうか? ※ 6秒ルール 怒りは6秒間でピークが治まってくるといわれています。このためこの6秒間を我慢すると、怒りを静めることができます。次のような応急手当を試してください。 ・おでこに手を当てて数を数える ・水を飲む ・深呼吸をする <怒りは意外なところからも生まれる> ●不安 「いやだ」という拒否感や、自分の心や体が脅かされそうな不安定感から生じる感情で、怒りと仲良しです。自分を守ろうとするために、怒りを呼び覚まします ●悲しみ 自分のことを理解してもらえなかった、がっかりしたといった悲しみからも怒りは生まれます ●期待・希望 「~したい」「~になって欲しい」という期待や希望には、欲があります。期待や希望がかなわなかった時に、自分の欲が満たされないことへの怒りが生まれやすいのです 出典: 『イライラしない、怒らない ADHDのためのアンガーマネジメント』 (高山恵子監修/講談社)より抜粋 ■「怒らない」よりも「爆発させない」 怒りは自然な感情なので、 「怒らない」 ようにするのは、相当の力が必要です。怒りを、「ただ、我慢」しようとすると、怒りと我慢で二重にエネルギーを消耗し、ヘトヘトになってしまいます。 しかも、「怒るのを我慢している」ことが見てわかるぐらいなら、家族が感じるトゲトゲ感は、 「怒ったとき」とあまり変わりません 。こんなふうに、「ただ、我慢」するのは、消耗するわりに、良い効果はあまりえられないのです。 「怒りを無理にねじ伏せて『怒らない』ようにするのではなく、『爆発させない』方が大切です。そのために 堪忍袋 を上手につかいましょう」 (高山先生) ■堪忍袋を上手に使うポイント3つ 「堪忍袋を上手に使うためのキーワードは、『小さく』と『少なく』です」(高山先生) 堪忍袋の上手な使い方について、ポイントを整理してみました。 ●ポイント1 怒りを拾わない 人が生活をしていれば、怒りを起こす原因は、身の周りにたくさんあります。まずは、怒りを堪忍袋にいれないことが大切ことです。 「時間があるときに、『何が自分をイラっとさせ、怒りの原因になるのか?』を考えてみます。それがわかれば、拾わないように注意できますよね?」(高山先生) ●ポイント2 怒りを大きくしない 堪忍袋の中に怒りのかんしゃく玉が入ったとしても、数が増えず、怒りそのものが大きくならなければ、堪忍袋の緒が切れることはありません。 「長期的には、これからご紹介するアンガーマネジメントの手法を使って、怒りと上手に折り合っていく技術を身につけていきましょう」(高山先生) ●ポイント3 ガス抜きをする 「怒りを拾わない」「怒りを大きくしない」といったことができるようになると、心に余裕が出てきます。そこで、自分の好きなこと、たとえば、「アイドルのDVDを見る」、「大好きなスイーツを食べる」などして、ガス抜きができるようになれば、堪忍袋の中身は、ますます軽くなっていくことでしょう。 次回は、「もう『怒り』に振り回されない! イライラせずに子どもと向き合うには」です。アンガーマネジメントの具体的な手法を教えていただきます。 ■今回のお話を伺った高山恵子さんのご著書 『イライラしない、怒らない ADHDのためのアンガーマネジメント』 (高山恵子監修/講談社)¥1300円(税別) 高山恵子(たかやまけいこ)さん NPO法人えじそんくらぶ代表。ハーティック研究所 所長。臨床心理士。薬剤師。 専門はAD/HD等高機能発達障害のある人のカウンセリングと教育を中心にストレスマネジメント講座などにも力を入れている。 注意欠陥/多動性障害(以下、ADHD)の正しい理解の普及と、ADHDを持つ人々を支援し、ADHDを障害としてクローズアップするのではなく、豊かな個性の一つとして長所を伸ばし、弱点を克服できるよう支援する団体として「NPO法人えじそんくらぶ」を立ち上げる。 NPO法人えじそんくらぶ公式サイト: <イベント情報> 「成人ADHD等の理解と対応」 (2018年1月~6月/全6回・東京) 第1回 『アンガーマネジメント概論』怒りのメカニズムとクールダウンの方法を学び、自責・他責を減らしましょう。(2018年1月23日(火)))
2018年01月16日ママの毎日は、ある意味、戦い。子どもを 感情的に叱った あと、言いようのない後悔に苛まれる…。そんな経験は、どんなママでもしているはず。けれども、 「私って、毒親?」「これって、虐待?」 と、自分で、自分のことが不安になってしまうこともあるのではないでしょうか。 「まずお伝えしたいことは、 『怒りはあなた自身ではない』 ということです」と言うのは、NPO法人えじそんくらぶ代表の 高山恵子(たかやまけいこ)さん 。「怒り」との上手な付き合い方について、お話を伺いました。 高山恵子さん NPO法人えじそんくらぶ代表。ハーティック研究所 所長。臨床心理士。薬剤師。 専門はAD/HD等高機能発達障害のある人のカウンセリングと教育を中心にストレスマネジメント講座などにも力を入れている。 ■「アンガーマネジメント」という技術 「アンガーマネジメント」 という言葉を、聞いたことがありますか? アンガーマネジメントとは、心理学に基づいた怒りを扱う技術のことです。最近は教員採用試験にも出題されるなど、子どもと接するすべての大人にとって、必須な技術として注目を集めています。 じつは、怒りの感情が沸くことは、人間としてごく 自然なこと 。「『怒り』との付き合いで大切なのは、まず『怒りという感情』と 『あなた自身』 を分離することです」(高山さん) 「自分は、いま、怒っている」と、きちんと自分で気づいてあげること。そうすることで、「感情」と「あなた自身」は、少し分離されます。 ■怒りの応急処置は、「最初の6秒」がカギ アンガーマネジメントの第1歩は、 「自分は、いま、怒っている」 と気づき、「いま、ここにある怒り」を、それ以上大きくしないことです。サインが現れた段階で「怒り」に気がつくことができれば、それだけ早く爆発を防ぐための行動に移行ができます。 キーワードは、 「最初の6秒」 。「怒りのサインに気づいた最初の6秒間をどのように使うかが、アンガーマネジメントの重要なポイントです」(高山さん) この時点で「怒りのもと」を深追いするのはご法度! 「どうして、イヤばかり言うの?」「どうして、早くご飯を食べられないの?」。そんな怒りのもとを考え始めたら、炎に燃料をくべるようなものなのです。 <早く気がつこう! 怒りのサイン> ・呼吸が浅くなる ・頭が真っ白になる ・顔がカッと熱くなる ・動悸がする 出典: 『イライラしない、怒らない ADHDのためのアンガーマネジメント』 (高山恵子監修/講談社)より抜粋 なぜ「最初の6秒」がカギになるのでしょうか? それは、怒りには、「アドレナリン」というホルモンが関係しているからです。 怒るとき、体の中では、「アドレナリン」が分泌されています。アドレナリンには体を活発にする作用があり、怒っているときには、まさに「火に油を注ぐ」ように怒りがエスカレートしていきます。 カチンときて、アドレナリンが分泌されても、6秒後にはそのピークは過ぎるといわれています。言い換えれば、怒りの応急処置法とは、「最初の6秒を、いかに上手にやりすごすのか?」の方法論を知っておくことなのです。 ■自分が怒っていると気がついたら 「最初の6秒」を、ただ、我慢するというのは、意外と難しいものです。そんなとき、物理的な「応急処置メニュー」を知っておくと便利です。「あ、ヤバいな!」と思ったら、それをパッと取り出しましょう。 <怒りの応急処置メニュー3つ> ●おでこに手を当てて数を数える 目の真上、おでこの少し出っ張った部分には前頭葉があります。前頭葉は感情を制御する脳。手を当てて血流の動きを促すことで、動きを活性化させます。 ●水を飲む 水は、火を消すもの。水を飲む時には、心の中で燃えている怒りの火を鎮めることをイメージします。水を飲むことで、脳の血流を改善する効果もあります。 ●深呼吸をする 吐く時間のほうが長くなるよう、4秒吸って、6秒かけて吐きます。息は鼻から吸って、口から吐きます。肺から体のすみずみに新しい空気がめぐるイメージです。 出典: 『イライラしない、怒らない ADHDのためのアンガーマネジメント』 (高山恵子監修/講談社)より抜粋 ■怒ってしまった自分に声をかける また、自分で、自分に声をかけてあげることも有効です。「 言葉の力 は、思っているよりも強く、確かなものです」(高山先生) セリフトークは、短く簡潔に! 大切なのは、しっかりと何度も唱えることです。 もうひとつ。「『ママ、ちょっとあっちの部屋で休んでくるね』と、その場を離れることも効果的です」(高山先生) その場を離れたら、子どもへの「続きのお説教」を考えることはやめましょう。怒りの原因から心も離すことで、気持ちは切り替えやすくなります。 <怒りをしずめるセルフトーク例> ・落ち着いて。 ・私は大丈夫。 ・コントロールできる。 出典: 『イライラしない、怒らない ADHDのためのアンガーマネジメント』 (高山恵子監修/講談社)より抜粋 次回は、「また子どもを怒鳴ってしまった…。『怒り』をぶつけてしまう本当の理由」です。怒りのメカニズムについて教えていただきます。 ■今回のお話を伺った高山恵子さんのご著書 『イライラしない、怒らない ADHDのためのアンガーマネジメント』 (高山恵子監修/講談社)¥1300円(税別) 高山恵子(たかやまけいこ)さん NPO法人えじそんくらぶ代表。ハーティック研究所 所長。臨床心理士。薬剤師。 専門はAD/HD等高機能発達障害のある人のカウンセリングと教育を中心にストレスマネジメント講座などにも力を入れている。 注意欠陥/多動性障害(以下、ADHD)の正しい理解の普及と、ADHDを持つ人々を支援し、ADHDを障害としてクローズアップするのではなく、豊かな個性の一つとして長所を伸ばし、弱点を克服できるよう支援する団体として「NPO法人えじそんくらぶ」を立ち上げる。 NPO法人えじそんくらぶ公式サイト: <イベント情報> 「成人ADHD等の理解と対応」 (2018年1月~6月/全6回・東京) 第1回 『アンガーマネジメント概論』怒りのメカニズムとクールダウンの方法を学び、自責・他責を減らしましょう。(2018年1月23日(火)))
2018年01月15日