冷たい風【自由が丘恋物語 〜winter version〜 第21話】
「いいかげんにしてよ。どれだけモテ女気取ってんのよ。冬馬君がいいか、慎吾がいいかなんて、人の気持ちをもてあそばないで。それでなくても慎吾はやっと明るさを取り戻したところなの。桃香が離れて行ったら、人を信用しなくなって暗いあの子に戻っちゃう。こんなことになるなら、最初から慎吾にやさしくしないでくれたほうがよかった」
「鮎子、そんな…そんなつもりじゃ」
「うわべだけのやさしさなんて、慎吾に見せないで。あの子は私たちが思う以上に怪我で傷ついてたんだから。夢を失いかけてたけど、桃香のおかげでゆっくり元気になろうとしてるんだから。
今さら突き落とすなんてひどいよ」
「じゃあ、私に無理して付き合えっていうの?」
桃香の口から、絶対に言ってはいけない言葉が出てしまった。遅かった。冷たい空気が氷点に達し、ピリっと固まったような気配。頬を冷たい風がチクリとさしにくる。まずいと思ったが鮎子は唇をキュっと結んで怒りを抑えていた。
(続く)
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