2015年2月26日 10:00|ウーマンエキサイト

失恋とセッション【彼氏の顔が覚えられません 第16話】

「…ここにイズミちゃんがくるってことは、カズヤ自身から聞いたんだよ。きのう、LINEで…。『イズミが明日、部室にチョコ持ってくるってよ』って。それ、カズヤに渡すってことじゃないのか? って聞いたら、『俺はデートの約束があるから』って」

失恋とセッション【彼氏の顔が覚えられません 第16話】

画像:(c)Africa Studio - Fotolia.com


“デートの約束”…。

「てっきりイズミちゃんとのデートだって思ったけど、違うってことなんだよ、ね…?」

先輩の質問に、コクリと頷いた。頷くしかなかった。

そして、先輩を残して部室を飛び出す。割れたチョコレートの箱を抱えたまま、キャンパスの中を駆ける。
参考書を持つ受験生たちをかきわけ、ときどきぶつかっても、謝りもせずに。

そんなところにいるはずもないのに、ただ、消えた彼の背中を探す。こんな、恋愛沙汰とは無関係の入試当日のキャンパスの中を。

と、石につまずく。バタッと派手に転ぶ。手から箱がすり抜け、また地面に叩きつけられる。近くにいた誰かがその箱を拾う。在校生か、受験生か。
「大丈夫ですか」と言って、手を差し伸べる。

その顔を見て、ハッとする。目が、眉が、口元が、ぐねぐねと動いている。表情が読みとれず、厚着して体のラインもわからないから、男か女かも区別がつかない。

そこでようやく気づく。万一このキャンパス内にカズヤがいたとしても、私には彼を判別する手段すらないということを。私はもともと、恋なんてすべき人間じゃないのだ。

「ありがとう、大丈夫です、大丈夫」そう言いながら、性別もわからない人の手を借りて立ち上がり、落としたチョコレートの箱を受け取る。
包装紙の一部が無惨に破れている。中のチョコレートは、さらに細かく砕かれたに違いない。

きびすを返し、とぼとぼと部室棟に戻る。また、ギターの音が聞こえている。部室の扉を開けると、男性が一人。

「…お帰り、イズミちゃん」

「ただいま、先輩」

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