モテる男の破局は早い【彼氏の顔が覚えられません 第39話】
恋人のヤマナシイズミは、人の顔が覚えられない。それどころか、表情も読みとれないし、自分で表情を作ることもできない。いつも真顔で、何を考えているか。
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「次からは、なるべくデート中も離れないようにしような」
ただ、俺と別の男を間違え、なんとなく落ち込んでいるように見えたとき。そう声をかけて見せてくれた、うれしそうなイズミの表情が、また可愛くてしょうがなかった。
いつもポーカーフェイスのイズミが、俺に対してだけ見せる表情がある。本人も気づいていないだろう。それを見るために、俺はイズミと、恋人になったのかもしれない。
***
けれど3月中頃の俺は、そんなイズミから逃げていた。過去の恋愛感情を告白してくれたマナミからも逃げていた。よこはまコスモワールドのトイレ。洗面台で、なんどもバシャバシャ顔を洗って。もう一度出直すために。
鏡に映る、どんよりした顔の男。誰だこいつ。こんなサイテーなのが俺か。
俺なのか。パンッ、と両方の頬を叩く。痛い。痛いが、まだ足りない。相変わらずだらしない。もう一度、パンッ。
と、隣の洗面台の男性が、こっちをチラチラ見ている。あ、やべ、いまの俺、なんだか不審者みたいか…慌てて顔を向けて謝る。
「すいません、うるさくて…」と、目が合って。
「おま…え、やっぱ、カズヤ!?」
「タナカ先輩!?」
大都会、学校以外の場所で知り合いに会うなんて、どんな確率だろう。今年に入って2度目だ。
「こんなところでお前…まさか、デート?」
「えと…これは、その…」
マズい。またイズミを放って、マナミなんかと一緒にいることがバレたら面倒だ。慌てて誤魔化す。
「先輩こそ、デートっすか?」
「あ、うん…俺は…その、カノジョできて、さ…」