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結果はどうあれ、失敗を恐れずなにごとにも意欲的に挑戦できる人間になってほしいと親は子どもに願います。その願いをかなえるためのアドバイスをしてくれたのは、発達臨床心理学、保育学、児童学を専門とする東京都市大学人間科学部教授の井戸ゆかり先生。井戸先生は「親が子どもの『安全基地』になり、子どもに『失敗してもいい』と思わせることが大切」だといいます。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)親が子どもの「安全基地」になる自己肯定感の低下に伴って、いまの子どもたちは挑戦意欲も失っているように感じます。自己肯定感が低ければ、「どうせ自分にはできない……」と思ってしまって、なにかに挑戦することができません。あるいは、自己肯定感が低いがために、まわりの目を気にすることも子どもが挑戦意欲を失う要因でしょう。友だちや親の前で失敗して恥ずかしい思いをしたくない――。その気持ちが、挑戦から子どもを遠ざけてしまうのです。逆にいえば、自己肯定感が高い子どもには挑戦意欲も備わっているといえます。自分に自信があり、「たとえ失敗してもいい」となにごとにも前向きに取り組むことになりますからね。その、「失敗してもいい」という気持ちを子どもに持たせてあげるには、親が子どもと信頼関係をしっかり築いておく必要があります。どういうことかというと、「失敗してもいい」という気持ちの裏には、なにか問題が起きても「お父さんとお母さんのところにいけば大丈夫」という思いがあるのです。これは、親子が強い信頼関係で結ばれていて、子どもが親を「安全基地」だと感じているということ。その安心感が子どもの挑戦意欲を高めるのです。ときにはおだて上手になって子どもに挑戦させる子どもの挑戦意欲を高めたいと思うのなら、日頃の親子の対話によって信頼関係を築くことがもっとも大切となります。もちろん、なにかに挑戦して子どもが失敗したときにも親がするべきことはあります。そこできちんと対応しておかないと、子どもが「次の挑戦」をしなくなってしまう可能性もありますからね。親がすべきこととは、子どもがどこでどうつまずいたかという分析をすること。たとえば、子どもが目玉焼きをつくろうとして失敗したのなら、そのプロセスを分析するのです。フライパンの熱し方や油の引き方、卵の入れ方はどうだったのか、火の加減や焼き時間は適切だったのか。そういった子どもが行ったプロセスを分析し、つまずいた箇所を発見できれば、そこだけを手伝ってあげればいい。そうすれば、失敗を乗り越えて成功体験を得ることができ、次の挑戦につなげることができます。気をつけてほしいのは、あくまで「失敗した部分」だけを手伝ってあげること。全部を親が手伝ってしまうと、子どもは「お母さんにやってもらえばいいや」と思ってしまって、挑戦しない子どもになってしまうからです。また、なにかがうまくいかなくて子どもが困っているときは、上手に「おだてる」ことも効果的でしょう。わたしが自分の子どもによく使ったのは「格好いいところ、見てみたいな」という言葉です。幼い子どもがうまく着替えができなくてまごまごしているなら、「格好良く着替えるところ、見せてほしいな!」というふうに声をかけるのです。そういう言葉で、子どもは途端にやる気を出します。それでうまく着替えられたら、「格好良かったね」「すてきだね!」というふうに、ちょっと「オーバーアクションかな」と思うくらい大げさに褒めてあげましょう。「格好いい」というと、男の子に向けての言葉のようですが、女の子にもこの言葉は有効であることが多いので、ぜひ使ってみてください。「親だってスーパーマンじゃない」と子どもに教えるそして、親御さんには「失敗してもいいんだ」ということを子どもに教えてあげることも強く意識してほしい。先にお伝えしましたが、親との信頼関係があって「失敗してもいい」と思える子どもはなにごとにも前向きに挑戦できます。もっといえば、失敗した経験がない子どもは、失敗を乗り越える経験もできないのですから、失敗経験がある子どもと比べて弱い人間になってしまいます。そういう意味では、失敗してもいいというより、「失敗する経験も大切」といったほうが正しいかもしれません。その意識を子どもに伝えるためには、きちんと子どもに挑戦させたうえで、ときには親御さん自身の失敗経験を教えてあげることもおすすめです。たとえば、食後の食器の片づけを子どもが手伝ってくれようとしたとします。共働き家庭が増えているいまの忙しい親なら、「子どもが失敗してお皿を割ったりしたら面倒だな」なんて思って、つい自分でやってしまおうとするかもしれません。それでも、まずはきちんと子どもに挑戦させてあげましょう。そして、子どもがお皿を割るなど失敗したときを「チャンス」ととらえるのです。そのとき、頭ごなしにお皿を割ったことを叱ったりしてはいけません。子どもは二度と自分からすすんでお手伝いをしようとは思わなくなるでしょう。そうではなくて、まずは「ケガしなかった?」と子どもを心配してあげる。それから、「お母さんも小さいときにお皿を割っちゃったの」というふうに自分の失敗談を話してあげるのです。子どもからすれば、お父さんやお母さんはなんでもできるスーパーマンのように見えています。でも、そのお父さんやお母さんも失敗したことがあると知れば、たとえ失敗しても挑戦を続けることで、「いつかお父さんやお母さんのような人間になれる」と失敗を恐れない力を得ていくはずです。『保育の心理学 実践につなげる、子どもの発達理解』井戸ゆかり 編著/萌文書林(2019)■ 東京都市大学人間科学部教授・井戸ゆかり先生 インタビュー一覧第1回:あなたの子どもは大丈夫?絶対に見過ごしてはいけない「自己肯定感」低下のサイン第2回:「失敗を恐れない力」の育て方。子どもに「挑戦したい!」と思わせる、効果抜群な言葉かけ第3回:「辛抱強い子」を育てるヒント。「我慢する力」を伸ばすのは“○○上手な親”だった!(※近日公開)第4回:「先生に言いつけるよ」がダメな理由。自己主張できない子が育つ“4つのNGなしつけ”(※近日公開)【プロフィール】井戸ゆかり(いど・ゆかり)東京都出身。東京都市大学人間科学部教授。専門は発達臨床心理学、保育学、児童学。学術博士。横浜市子育てサポート研修講師、渋谷区子ども・子育て会議会長などを務める。二児の母。著書に『子どもの「おそい・できない」にイライラしなくなる本』(PHP研究所)、『「気がね」する子どもたち-「よい子」からのSOS-』(萌文書林)、編著に『保育の心理学Ⅱ 演習で学ぶ、子ども理解と具体的援助』(萌文書林)』、監修書に『1さいのなあに? のびのび育つ! 親子ふれあい絵本』『2さいのなあに? 「知りたい」がいっぱい! であい絵本』(ともにPHP研究所)などがある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月13日子供に文学に親しんでもらいたい、と考えている親御さんは多いはずです。でも、そもそも「文学」とは何でしょう?すぐに思い浮かぶのは、名作小説かもしれませんね。ゲームや漫画は含まれないと思ってはいませんか?「文学」の意味するものは、時代によって変わっていきます。たとえばゲームや漫画のような、一昔前だったら「くだらない」と片付けられてしまったり、教育の場からは締め出されてしまっていたりした表現物が、今では少しずつ現代を代表する文化表現の形として認められつつあります。今回はその中からボードゲームを取り上げて、伝統的な形では「文学」とは呼べない、けれど、豊かな「物語」の世界をご紹介したいと思います。Netflixの双方向ドラマが「文学賞」受賞! 漫画も候補に!?この数年間、英語圏の文学賞には大きな動きがありました。イギリスでもっとも評価の高い文学賞はブッカー賞です。英連邦から広く作品を集め、優れた小説を表彰するもので、ノーベル賞作家であるカズオ・イシグロ氏も1989年に受賞しています。今年からはアメリカ国籍の作家も対象に含まれることになり、まさに英語圏で最も重要な文学賞の一つに数えられるでしょう。そのブッカー賞の候補作に、2018年ニック・ドルナソ氏のグラフィックノベル『サブリナ』(Sabrina)が並びました。これは芥川賞の候補作に漫画が並ぶようなもので、大きな衝撃を与えました。コミック(漫画)作品が同賞の候補となったのはこれが初めてです。同じく2018年、アメリカのサイエンスフィクションおよびファンタジーの重要な賞であるネビュラ賞は新たに「ゲームライティング部門」を設立すると発表しました。初回のゲームライティング賞を受賞したのは Black Mirror: Bandersnatch です。Netflix上で発表されたインタラクティブな映画で、視聴者が様々な選択をすることで物語が変わっていきます。「文学」という言葉を聞くと、私たちはほとんど自動的に、印刷された書籍の形を思い浮かべます。さらに、「主に文字のみで表現された」「小説」を思い浮かべるかもしれません。けれど、これ自体がかなり限られた時代の感覚です。印刷した書籍ではなく、手で写された手稿が一般的だった時代もありますし、詩や戯曲が主流だった時代もあります。文学の主流は何なのかが、今また少しずつ変わりつつあるのかもしれません。前回の記事『テレビ、ゲーム、インターネット。メディアとの付き合い方と、身につけたい能力「トランスリテラシー」』では、子供たちを取り巻くメディア環境の多様性に触れました。もしかしたら様々なメディアを横断するリテラシーが必要になるのかもしれない、といった議論もご紹介しました。本のような伝統的な形の「文学」とは違うものの、豊かな「物語」の世界は無数に広がっています。以下、子供たちが多角的に物語を楽しめるボードゲームに焦点を当ててご紹介しましょう。サイコロを並べて物語を作る:ローリーズストーリーキューブスローリーズストーリーキューブスは、小学校や語学学校、そして家庭での教育でも使われることの多いゲームです。箱を開けると、サイコロが9つ。それぞれの面に絵が書いてあります。9つのサイコロをうまく並べ替えて物語を作り、語ることが主眼の遊びです。勝ち負けを競うゲームではありません。「お話を作りなさい」と言われてしまうと身構えてしまいますが、これだとかなり小さい子供でも、簡単にお話を作ることができます。因果律を考えて、それなりに物語の形を作る格好の練習になるのです。英語版では6歳以上を想定しているとの記載がありますが、ボードゲームのファンサイト Boardgame Geek のコミュニティでは4歳以上ではないか、と言われています。我が家の子供達も4歳ぐらいの頃から遊び始めました。比較的小さいので外出時に持って行きやすいのも嬉しいところ。「冒険」や「アクション」など、様々なシリーズがあります。お話を作って→話して→文字で書く、というような展開もできますから、発展の可能性が大きいのも嬉しいところです。サイコロで長い物語を作る:Rory’s Story Cubes Untoldこのサイコロを使ってさらに長い物語を作るためのゲームも、英語版では発売されています(Rory’s Story Cubes Untold: : Adventures Await)。キャラクターシートを作って話を進めていくのでかなり複雑になりますから、大人の助けが必要になりますが、2年前の発売当時6歳だった下の子はかなり夢中になっていました。ここまで複雑なものではありませんが、ローリーズストーリーキューブ日本語版のサイトでは、プリントアウトできる「ストーリーシート」も用意されていますから、使ってみても良いかもしれませんね。手札を元におとぎ話を作る:ストーリーライン英語版ではハロウィーンのような「怖い話」と「おとぎ話」の2種類がある『ストーリーライン』もまた、評価の高いゲームです。英語圏のボードゲームは先ほども言及した Boardgame Geek というファンサイトでレビューがされているのですが、そこでの評価は6.1。日本でもよく知られているゲームでは『人生ゲーム』(1960年版)が4.2、『モノポリー』が4.3となっていることからもわかるように、非常にシビアな評価付けをするサイトです。ここでの6.1はかなりの好成績だといえるでしょう。渡された手札を元にみんなで協力して物語を作っていきます。勝ち負けが決まるゲームではないので、最後に誰も泣きださないのがいいところ。8歳以上に、と発売側は言っていますが、同サイトのコミュニティは「実際にプレイできる年齢」として5歳をあげています。「おとぎ話」のヴァージョンのみが日本語化されています。手札を元に物語を作る:ワンス・アポン・ア・タイム日本語版も発売されている長寿ゲーム、ワンス・アポン・ア・タイムも非常に楽しいゲームです。発売者、Boardgame Geek のコミュニティ共に、8歳以上が適切なのではないかとしています。『ストーリーライン』よりもずっと古いゲームですが、渡された手札を元に物語を作っていく点は同じです。参加者みんなでお話を作っていくゲームですから、ある程度人数がいた方が楽しいかもしれません。物語を「読む」「作る」体験は、本の世界を飛び出している子供たちが自分で物語を作り、その場で仲間が作った物語も味わえる様々なゲームをご紹介してきました。さらに英語圏では、インタラクティブに物語を「読む」ことが主眼になっているボードゲームも発表されています。例えば、スマートフォンやタブレットでカードについているQRコードを読み込むと、文章や3D画像などの情報が出てきます。それに基づき、与えられたシナリオを読んで謎を解いていくという趣旨のゲームです。様々な技術を用いた双方向型の遊びでありながら、自分で情報を集め、一緒にプレーをしている仲間(多くの場合、子供にとっては親かもしれません)と話して仮説をたて、情報を精査する訓練に、図らずしもなっています。情報を得る順番こそ自分で選ぶことで前後しますが、これもまた一種の「読書」なのです。現在はまだ、こういった「読書体験」は比較的年齢の高い層をターゲットにしていますが、低年齢へのターゲットの移行はおこりつつあるようです。重要なのは、物語を「読む」体験、「作る」体験が、すでに書籍を飛び出して広い世界にあるということです。近年、インターネットの発達と共に、「大人が子供のために書いたものを子供が読む」だけでなく、「子供が書いたものを子供が読む」ことも増えてきているのではないかと言われています。今、文字を覚え始めている子供たちが、歩んでいく先にある物語の世界は、私たちが現在理解しているものよりもはるかに多様なものであるのかもしれません。あらたな「読書」や「物語作り」の可能性を、こうしたゲームは垣間見させてくれるのです。(参考)Nick Drnaso, Sabrina, (Drawn & Quarterly Pubns, 2018)David Slade, Black Mirror: Bandersnatch, (Netflix, 2018)
2019年06月12日現在の子ども教育の重要なキーワードとして、教育メディアでも頻繁に取り上げられる「自己肯定感」。日本人の場合、そもそも自己肯定感が低いことが問題ともされますが、その原因はどんなところにあるのでしょうか。お話を聞いたのは東京都市大学人間科学部教授の井戸ゆかり先生。二児の母でもある先生に、子どもの自己肯定感を高めるために親が果たすべき役割も含めて教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)子どもの自己肯定感を下げてしまう親の「先回り」日本人の自己肯定感は低いとよく指摘されます。それどころか、いまの子どもたち、若い人たちを見ていると、自己肯定感はさらに低くなっているように感じてしまいます。学生に自分の長所と短所をそれぞれ10個挙げるようにいってみても、すぐに挙がるのは圧倒的に短所のほう。一方、長所はなかなか挙がってきません。その要因のひとつとしては、謙虚であることを美徳とする日本の文化があるでしょう。本当は自分でいいところだと思っていても、それを口にすることがはばかられる。加えて、長所というからには、誰からもいいところだと思われるようなものでなければいけないという考え方もあるように思います。でも、長所というのはもっと身近なところ、日常生活のなかにでもあるもので、なにか大きなことを成し遂げたといったことでなくてもいいのです。でも、日本人の場合はやっぱり謙虚ですから……そういうふうに自分を見ることができない場合があるようですね。また、親が先回りしてしまうことも、いまの子どもたちの自己肯定感を下げている要因かもしれません。子どもがなにか問題にぶつかりそうになったら、その問題の芽を事前に摘んでしまう親が多いのです。その先回りを、親は子どものためだと思っています。でも、子どもは成長過程でさまざまな問題に直面し、解決するなかで自信を持つと同時に達成感を感じたり、周囲の人に認められる言葉かけをされたりすることで自己肯定感を高めていくわけです。そのきっかけを奪ってしまっては、子どもの自己肯定感が高まるわけもありません。自己肯定感の高低による子どものちがい自己肯定感の高低によって、子どもにはさまざまなちがいが表れます。自己肯定感が高い子どもは、自分に自信があるのでどんなことにも積極的に取り組むことができます。それから、自分のいいところも悪いところも含めて「いまの自分でいいんだ」という思いがあるので、気持ちにゆとりがあり、情緒が安定して他人にも優しくできます。しかし、自己肯定感が低い子どもは、人からどう見られているかという評価を気にして自分に自信を持てません。すると、友だちに対するジェラシーもあって、大人が見ていないところで友だちに対して意地悪をするといった問題行動を起こすこともあります。自己肯定感が低いというと、ただ自分に自信がないおとなしい子を想像するかもしれません。もちろん、そういうタイプの子どももいますが、自己肯定感が低い子どもであってもどこかで「認められたい」という気持ちがあり、それが友だちへの意地悪などゆがんだかたちで出てしまうこともあるのです。子どもに役割を与えて褒めるきっかけをつくるこれらの話を聞けば、あたりまえですが「自己肯定感が高い子どもに育ってもらいたい」と考えるのが親心でしょう。自己肯定感は、とくに小さい子ども同士の関係性のなかではなかなか育まれません。つまり、子どもの自己肯定感を育てるには周囲の大人、とくに親のかかわり方が重要になってくる。親はしっかりと子どもを観察する必要があるのですが、なかでも注意してほしいのは、「どうせ」という言葉です。だいたい4歳後半くらいから出てくる言葉ですが、子どもが「どうせできない」なんていいはじめたら要注意。「どうせ」という言葉が出たら、子どもを認めたり褒めたりするような言葉かけを増やす必要があると考えてください。あるいは、家のお手伝いなど役割を子どもに与えてあげることも効果的です。ポイントは、その子どもの力では「簡単ではないけどなんとかできる」という無理のないハードルの役割にすること。そして、そのお手伝いを子どもがしてくれたなら、「頑張ったね!」「すごいね!」「ありがとう!」とたくさん褒めてあげましょう。そうすることで、子どもは自己評価が上がり、自然と自己肯定感も高まっていきます。幼児期から小学校低学年くらいまでの子どもの自己肯定感は、親の言葉かけ次第で高くもなれば低くもなります。お手伝いなどの役割を子どもに与えることは、子どもに「自分は必要とされている」と自信を与えるとともに、親が言葉かけしやすい状況をつくる意味もあるのです。「自分の良さ」に目を向けることを教えるまた、親が子どもを見る「ものさし」を意識することも大切です。子どもは4歳頃から「あの子は足が速い」とか「この子は絵が上手」といったものさしで友だちと自分を比べるようになります。小学生になると勉強やテストもはじまるので、子ども自身もつい「できる・できない」のものさしで自分を見てしまうものです。でも、そのものさしのなかで育つと、できる子と自分を比べてしまう傾向が強まり、自己肯定感は高まりません。そこで親の出番です。誰もが万能ではないし、得意なことも苦手なこともあってあたりまえだということを子どもに教えてほしいのです。子どもにとって苦手なことがあれば、「一緒にやろうか」と手伝って達成感を味わわせてあげましょう。そして、なによりも「自分の良さ」に目を向けることを教えてあげてください。たとえば、図工の課題で工作をするにも要領がいい子はささっと終わらせてしまうのに、苦手な子、あるいは丁寧な子はどうしても時間がかかります。その子が居残りまでして作品をつくり上げて、しかもひとりできちんと片づけまでしたとしましょう。最後まで手を抜くことなく頑張れたこと、みんなで使う教室をきちんと片づけたことは間違いなくその子の「良さ」であるはずです。親としては、完成した作品の評価だけでなく、むしろ、完成するまでのプロセスをしっかり褒めて、「お母さんがちゃんと見ていてくれた」と子どもに思わせ、自信を持たせてあげてほしいと思うのです。『保育の心理学 実践につなげる、子どもの発達理解』井戸ゆかり 編著/萌文書林(2019)■ 東京都市大学人間科学部教授・井戸ゆかり先生 インタビュー一覧第1回:あなたの子どもは大丈夫?絶対に見過ごしてはいけない「自己肯定感」低下のサイン第2回:「失敗を恐れない力」の育て方。子どもに「挑戦したい!」と思わせる、効果抜群な言葉かけ(※近日公開)第3回:「辛抱強い子」を育てるヒント。「我慢する力」を伸ばすのは“○○上手な親”だった!(※近日公開)第4回:「先生に言いつけるよ」がダメな理由。自己主張できない子が育つ“4つのNGなしつけ”(※近日公開)【プロフィール】井戸ゆかり(いど・ゆかり)東京都出身。東京都市大学人間科学部教授。専門は発達臨床心理学、保育学、児童学。学術博士。横浜市子育てサポート研修講師、渋谷区子ども・子育て会議会長などを務める。二児の母。著書に『子どもの「おそい・できない」にイライラしなくなる本』(PHP研究所)、『「気がね」する子どもたち-「よい子」からのSOS-』(萌文書林)、編著に『保育の心理学Ⅱ 演習で学ぶ、子ども理解と具体的援助』(萌文書林)』、監修書に『1さいのなあに? のびのび育つ! 親子ふれあい絵本』『2さいのなあに? 「知りたい」がいっぱい! であい絵本』(ともにPHP研究所)などがある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月12日「リベラルアーツ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。日本ではまだ浸透しているとはいえませんが、アメリカの大学ではごく一般的な教育のことです。そのリベラルアーツのエッセンスを子どもに吸収させることが大切だと語るのは、アメリカ・ワシントンDC在住のボーク重子さん。ライフコーチとして日米で講演会やワークショップを展開し、全米の女子高生が知性や才能、リーダーシップを競う大学奨学金コンクール「全米最優秀女子高生」で娘のスカイさんが優勝したことでも注目を集めました。ボーク重子さんが、これからの子育てにおいてリベラルアーツを重視する理由はどんなところにあるのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/櫻井健司(インタビューカットのみ)リベラルアーツの本質は「どう生きるか」と考えること辞書を見れば、リベラルアーツは「一般教養」と訳されています。ですから、わたしも最初は「なんだ、難しい本を読んで知識を得る勉強のことか」と思いました。でも、実際はその真逆といっていいものです。「知識の集積」という側面の強い日本の一般的な勉強とはちがって、リベラルアーツが目指すものは「問いを立てる力」「考える力」を育むこと。その力を身につけるために哲学書などの本を使うのです。哲学書を読むのも、アリストテレスやプラトンなど過去の哲学者たちがどんなことを述べたのか、彼らの生涯がどんなものだったのかといった知識を得るためではありません。そうではなくて、そこからさらに進んで、「彼らはこう考えてこんな答えを出したが、自分はどうだろう」「自分にとっての正義とはなんだろう」というふうに、疑問を持つ、そして考えてみる――。それこそが、リベラルアーツです。具体的には、授業はほとんどがディスカッション形式で行われます。ですから、教官が教壇に立って学生に教えるというものではありません。教官は学生の考えを引き出す進行役です。学生たちは、授業までに教材本の指定箇所を読んできて、それに対する自分の考えを述べる。そして、さらにそれぞれの考えについて各自が意見を述べる。そうして、自分の考えを構築し、相手に伝えるすべを学んでいきます。以前、日本の一般的な勉強とリベラルアーツのちがいについて、娘が面白いことをいったことがあります。彼女いわく、「日本の大学は専攻を決めて専門知識を学ぶところだけど、アメリカの大学は『これから自分がどうやって生きていくか』『自分にとっての幸せとはなにか』と考える、その期間なんじゃないかな」と。「これはリベラルアーツを完璧に表現している言葉だな」とわたしは思いました。リベラルアーツでは、なにを読むのか、なにを知るのかということが重要なのではありません。なにかを読んだり知ったりしたことで自分はなにを感じたのか、そしてそれをどう応用して生きていこうと考えるのか、それこそが大切なのです。これからの社会で必要とされる、考える力と表現する力わたしがこのリベラルアーツを重要だと考える理由は、「考える力」「自分の意見を表現する力」を伸ばすということに尽きます。わたしたちは、すでに多様化したグローバル社会に生きています。にもかかわらず、日本人のなかには「僕は海外で働く予定はないから、グローバルな教養なんて必要ない」という人もいるのは少し残念なことです。グローバル社会というのは、外国だけにあるもの、外国の社会を指すものではありません。そうではなくて、国境を越えた文化や人、お金などの流動のなかにある社会のことなのです。つまり、日本はもう立派なグローバル社会なのです。日本で働き生きていく外国人は、今後ますます増えていきます。しかも、わざわざ日本を目指す外国人の多くは優秀な人材だと思ったほうがいいでしょう。リベラルアーツ教育を受け、しっかりと自分の考えを伝えることができる人たちなのです。そんな社会に能力的には彼らと互角という日本人がいたとしても、自分の意見を論理的に表現することができなければ、彼らと競い合う、あるいは協働することなんてできませんよね。しかも、これからの社会は変化のスピードも増していきます。よく指摘されることですが、AIの進化によって今日まではあった仕事が明日にはなくなるかもしれません。小さい頃に、「タクシードライバーになりたい」といっていた子どもが大人になったときには、自動運転車が普及してタクシードライバーという仕事がなくなっているかもしれないのです。そうなったとき、どうすればいいのかと考える力を持っていなければ、自分の人生を切り開くことはできないでしょう。また、人生にはいいときもあれば悪いときもあるものです。悪いときには置かれた状況を打開しなければなりません。そういう場合も、たとえ誰かがアドバイスをしてくれたとしてもその意見を鵜呑みにすることなく疑問視し、自分できちんと精査してどんな可能性や選択肢があってなにがベストなのかと、やはり考える力が求められるのです。まず親がリベラルアーツの基本姿勢を身につけるただ、日本では、リベラルアーツを行っている大学はいくつかあるものの、公教育の小学校や中学校で行っているところはないといっていいでしょう。それでも、リベラルアーツの考え方を家庭教育に生かすこともできます。学校ではディスカッション形式の授業で学ぶものですが、家庭教育でなら、それは「親子の対話」に置き換えられるでしょう。ただ、親子で対話をする、つまり自分の意見をいうにも、自分の考えがなければそうできません。子どもと対話し、子どもの考える力、意見を表現する力を伸ばすには、まずは親自身が自分の考えをしっかり持って伝えられる必要があります。そこで、パートナーがいる場合なら、お父さんとお母さんでいろいろな意見を交換し、しかもその様子を子どもに見せてあげてください。そのとき、「ディスカッションだから」と変に身構える必要もありません。ちょっと変な意見をいってしまってもいいのです。それを見れば、子どもは「どんな意見を伝えたっていいんだ」と思ってくれるはずです。アメリカで暮らしていてやはり気になるのは、自分の意見をいえない日本人がいかに多いかということ。もちろんわたしもかつてはそうでした。でも、どんなに素晴らしい考えを持っていても、それを表現できなければ意味を持ちません。意見の内容を問わず、まずはとにかく表現できる人間に子どもを育ててほしいと願っています。『世界基準の子どもの教養』ボーク重子 著/ポプラ社(2019)■ ボーク重子さん インタビュー一覧第1回:子どもが親の失敗から学ぶもの。「やり抜く力」を育むなら“格好悪い親”であれ第2回:「親の態度」がカギを握る。子どもの自己肯定感を高める行動、低める行動第3回:「ルールを守れる子ども」はこうして育つ。親が子に与えるべき大事な“時間”第4回:「自分の考えを言えない」問題の解決法。幼い子どもにこそ大切な“リベラルアーツ”【プロフィール】ボーク重子(ぼーく・しげこ)ライフコーチ。福島県出身。30歳の誕生日1週間前に「わたしの一番したいことをしよう」と渡英し、ロンドンにある美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、留学中にフランス語の勉強に訪れた南仏の語学学校でのちに夫となるアメリカ人と出会い1998年に渡米、出産。「我が子には、自分で人生を切り開き、どんなときも自分らしく強く生きてほしい」との願いを胸に、全米一研究機関の集中するワシントンDCで、最高の子育て法を模索。科学的データ、最新の教育法、心理学セミナー、大学での研究や名門大学の教育に対する考え方を詳細にリサーチし、アメリカのエリート教育にたどりつく。最高の子育てには親自身の自分育てが必要だという研究データをもとに、目標達成メソッド「SMARTゴール」を子育てに応用、娘・スカイさんは「全米最優秀女子高生 The Distinguished Young Women of America」に選ばれた。同時に、子育てのための自分育てで自身のキャリアも着実に積み上げ、2004年、念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年アートを通じての社会貢献を評価されワシントニアン誌によってオバマ大統領(当時上院議員)やワシントンポスト紙副社長らとともに「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。2009年、ギャラリー業務に加えアートコンサルティング業を開始。現在はアート業界でのキャリアに加え、ライフコーチとして全米並びに日本各地で、子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについて講演会やワークショップを展開している。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月11日家族といってもそれぞれちがう人間同士の集まりですから、家庭にも「ルール」は必ず必要なものです。全米の女子高生が知性や才能、リーダーシップを競う大学奨学金コンクール「全米最優秀女子高生」で娘のスカイさんが優勝したことで注目を集め、ライフコーチとして日米で講演会やワークショップを展開する、アメリカ・ワシントンDC在住のボーク重子さんは、「家庭におけるルール」についてどんな考えを持っているのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/櫻井健司(インタビューカットのみ)ルールは子ども主導で決めさせる家族というのはひとつのチームです。そして、チームには必ず目的があります。では、家族というチームが目指す目的というと、やっぱり「家族の幸せ」ですよね。だとしたら、その目的のためにそれぞれの家族はなにができるのか――。そういう視点でつくるべきものが家庭におけるルールなのだとわたしは思っています。親はもちろん、小さい子どもであっても、「宿題は自分ひとりでやる」「靴紐は自分で結ぶ」というふうに、やれることはいくらでもあるはずです。その際、親が子どもに押しつけるのではなく、家族全員で相談しながら「あなたは家族のためにどういうことができると思う?」と子どもに聞いて、子ども主導でルールを決めさせることが大切です。なぜならば、押しつけでは子どもの責任感が育たないからです。ただ、子ども自身が決めたルールであっても、問題が起きて守れないということも出てくるでしょう。そういうときに叱ってはいけません。ルールを守れなかった理由を聞けば、「もっともだ」ということも多いものです。大人だって、公私を問わず理由があって約束を守れないということもあるでしょう。家族のルールもそれと同じです。日本人は真面目ですから、「ルールは絶対に守るべきもの」と考えがちです。でも、例外のないルールというものはありません。家庭のルールというのは、あくまでも家族の幸せを目指すための「ガイド」だととらえましょう。子どもは遊びのなかでルールの重要性を学ぶ「ルールは守るべきもの」という考えを持っている人にとっては、ルールの対極にあるように思えるものが「遊び」かもしれません。そういう人からすれば、遊びは禁じたり制限したりするものというとらえ方をしてしまうはず。でも、じつは遊びには子どもの成長を促す大切な要素がたくさん詰まっています。そもそも、「ルールを守る」という姿勢だって、遊びが伸ばしてくれることのひとつです。女の子がお友だちとふたりでおままごとをしていたとしましょう。どちらもママ役をやりたいのに、ひとりだけがママ役をやっていれば、もうひとりは「楽しくないな……」なんて思いながらパパ役ばかりをさせられる。当然、喧嘩になりますよね。でも、そのうち、パパ役とママ役を交代しながらやるというふうに、子どもは自分たちでルールを決めるでしょう。これは、「ルールを守る」ということにとどまらず、問題解決能力を伸ばすということにもつながるものです。この例なら、喧嘩というその場で起きている問題を、ルールを決めることで子どもたちは見事に解決したわけです。それから、ルールというと多くの人がイメージするのがスポーツではないでしょうか。野球やサッカーなどのスポーツは幼い子どもにとっては遊びといっていいものでしょう。でも、それらのスポーツはルールを守らないと成立しません。子どもたちはスポーツという遊びを通じてルールを守ることの重要性を学ぶわけです。さらにいえば、スポーツは子どもの社会性を身につけるためにも大切です。スポーツに親しむ子どもからすれば、もちろん「上手になりたい」と思いながら練習に励むものでしょう。でも、年上のお兄さんやお姉さん、年下の子どもたちと同じスポーツを楽しむというコミュニティーのなかで、子どもは社会性も自然に学んでいるのです。しかも、その学びは大好きなスポーツを通じて楽しみながら得られるのですから、それこそ最高じゃないですか。親の重要な役割は機会を与えることただ、気をつけてほしいのは、子どもの成長に遊びが大切だからといって、「はい、これで遊びなさい!」と親が押しつけてしまってはなんの意味もないということ。この考えは、ルールを決めるときと同じですね。子どもは自分で「こうしよう」と思ったことでなければ、熱中するものではないのですから。ちょっと乱暴ないい方かもしれませんが、ほうっておけばいいのです。というのも、子どもは退屈すれば自分で楽しくしようとするからです。子どもはつねに動いていたいものですから、ぼーっとさせておくとなにかをはじめて自然に遊びだすのです。しかも、そういうときの子どもはものすごく考えています。つまらないからこそ、「なんとか楽しくしよう」と考えてなにかをはじめる。当然、これは考える力を育むことにもなりますよね。子どもにとっては、退屈な時間ってそれほど悪いものではないのです。ただ、ほうっておけばいいとはいいましたが、「機会を与える」ことは親の大事な役割です。本来なら外遊びが大好きになるはずの子どもや、あるお稽古事に強い興味を示すはずの子どもも、それらに触れる機会がなければ自分の好奇心に気づくことはないでしょう。子どもは自分で遊びを見つけますが、自由に出かけることはできません。ですから、なるべくさまざまなものに触れる機会を与えてあげることを心がけてください。『世界基準の子どもの教養』ボーク重子 著/ポプラ社(2019)■ ボーク重子さん インタビュー一覧第1回:子どもが親の失敗から学ぶもの。「やり抜く力」を育むなら“格好悪い親”であれ第2回:「親の態度」がカギを握る。子どもの自己肯定感を高める行動、低める行動第3回:「ルールを守れる子ども」はこうして育つ。親が子に与えるべき大事な“時間”第4回:「自分の考えを言えない」問題の解決法。幼い子どもにこそ大切な“リベラルアーツ”(※近日公開)【プロフィール】ボーク重子(ぼーく・しげこ)ライフコーチ。福島県出身。30歳の誕生日1週間前に「わたしの一番したいことをしよう」と渡英し、ロンドンにある美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、留学中にフランス語の勉強に訪れた南仏の語学学校でのちに夫となるアメリカ人と出会い1998年に渡米、出産。「我が子には、自分で人生を切り開き、どんなときも自分らしく強く生きてほしい」との願いを胸に、全米一研究機関の集中するワシントンDCで、最高の子育て法を模索。科学的データ、最新の教育法、心理学セミナー、大学での研究や名門大学の教育に対する考え方を詳細にリサーチし、アメリカのエリート教育にたどりつく。最高の子育てには親自身の自分育てが必要だという研究データをもとに、目標達成メソッド「SMARTゴール」を子育てに応用、娘・スカイさんは「全米最優秀女子高生 The Distinguished Young Women of America」に選ばれた。同時に、子育てのための自分育てで自身のキャリアも着実に積み上げ、2004年、念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年アートを通じての社会貢献を評価されワシントニアン誌によってオバマ大統領(当時上院議員)やワシントンポスト紙副社長らとともに「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。2009年、ギャラリー業務に加えアートコンサルティング業を開始。現在はアート業界でのキャリアに加え、ライフコーチとして全米並びに日本各地で、子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについて講演会やワークショップを展開している。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月10日世界で活躍しているスポーツ選手は、幼いころからそのスポーツだけに集中して取り組んでいるイメージがあります。そのせいか、わが子に対しても「小さいうちにやらせなきゃ」と焦って、サッカー教室やテニス教室などに通わせている親御さんも多いようです。しかし、幼児期~児童期は、運動能力の発達において非常に重要な時期。近ごろでは、特定の競技で運動バリエーションを制限するのではなく、種目を越えた運動を経験させることを優先しようという動きが出てきています。ここでは、「スポーツの基礎技能」を身につけられる、とっておきのプログラムについてお伝えします。子どもが将来、自分でやりたいスポーツを見つけたときに、必ず役に立ちますよ。バルシューレってなに?ドイツで生まれ、最近では日本でも教室が増えている習いごと『バルシューレ(Ballschule)』。「ボールスクール(Ball school)」を意味するこの運動プログラムは、ボールを投げる、蹴る、跳ぶなどを組み合わせた120を超えるボールゲームで構成されています。スポーツに共通する基礎能力や社会性を幼少期に身につけることを目的に、ドイツ・ハイデルベルク大学スポーツ科学研究所で開発されました。ドイツでは、バルシューレを通して基本的なボールの扱いかたを学びながら、自分の好きな競技を見つけていく仕組みがつくられています。その根底には、教科を学ぶ前に読み書きを覚えるように、スポーツを始める前に身体の動かし方を知ろう、というシンプルな考え方があるそうです。日本には20年ほど前に導入されましたが、一般的にはあまり普及していませんでした。しかし昨今では、子どもたちの外遊びが激減し、オールラウンドな体力や運動能力を身につける機会が少なくなっている問題もあり、この「バルシューレ運動プログラム」が、種目横断的なボールゲーム指導プログラムとして注目を集めているのです。さらに近年の研究によって、小さい頃から特定の競技のみを行なうことによる問題、つまり早期専門化の問題が取り沙汰されるようになりました。たとえば、ひとつの種目だけがずば抜けてできていてもほかの種目はできなかったり、大きく開花するはずの年齢に達する前に燃え尽きてしまったりという問題が危惧されているのです。だからこそ、あらゆるスポーツ競技に共通する基本的な運動能力や、戦術力を向上させるための指導プログラムとして『バルシューレ』が世界中で注目を集めているのでしょう。非言語コミュニケーションを育むプログラムバルシューレは次の3つの領域から成り立っています。1.A領域プレイ力の育成(45種類)戦術の基礎を養う。子どもたちは遊びの中から解決策を見出す。・位置取り(正しいタイミングでプレイコート上に最適な位置取りをする)・個人でのボール確保・協働的なボール確保・個人での優勢づくり・協働的な優勢つくり・隙の認識(パスやシュート、突破のチャンスを与えるような隙間に気づく)・突破口の活用など2.B領域身のこなしの育成(40種類)運動協調性を育てる。さまざまな条件に対応できる身体の使い方を習得する。・時間のプレッシャー・正確性のプレッシャー・連続対応のプレッシャー(次々と連続する課題に対応しなければならないプレッシャー)・同時対応のプレッシャー・変化のプレッシャー(変化する周りの状況に対応しなければならないプレッシャー)など3.C領域モジュールスキルの育成(40種類)技術力を高める。先取りする能力、ボールに対する調整力を身につける。・軌道の認識(飛んでくるボールの距離、方向、速さを先取りし知覚する)・味方の位置、動きの認識・敵の位置、動きの認識・ボールへのアプローチの決定・着球点の決定・キャッチ、キープのコントロール・パス、シュートのコントロールなどたとえば、「敵の穴を見つけよう」「飛んでくるボールのところに走りこもう」という指導プログラムがあります。これらは単純に走る、投げる、蹴るなどの技能だけを身につけるのではなく、判断力や空間把握能力を養うプログラムになっています。つまり、刻々と変化する状況の中で周りの状況を把握して判断し、自分の身体をどうやって動かせばいいのかを考える力にもつながっているのです。このように、チームスポーツで必要とされる『非言語コミュニケーション』が身につくこともメリットのひとつです。講師の役割バルシューレの特徴として、講師からは「投げ方」や「蹴り方」などの具体的な技術指導がない、という点が挙げられます。バルシューレの講師に求められるのは、子どもたちの自由な発想を大事にし、潜在的に備わっている能力を忍耐強く引き出す力です。また、ひとりひとりの考えや成長を認めて積極的に褒めるように努めます。ゲームのルールは教えても技術指導を行なわないのは、「どうやったらうまくできるか?」を子ども自身に考えさせることが目的だからです。子どもたち自身で考える時間やチームで話し合う時間を大切にしつつも、適切なタイミングでヒントを与えてサポートすることが、指導者としての重要な役割だといえるでしょう。バルシューレは子どもをどう変える?バルシューレで身につくといわれている能力は次の3つです。【1】球技に必要な基礎運動能力1. ボールを使う力2. 自分の身体の使い方3. 戦術理解【2】自己肯定感1. “そうぞう”(想像、創造)してチャレンジする力2. 自己発信力3. 意欲的に問題を解決する力【3】変化に対応する力1. コミュニケーション力2. 多様性の理解と受け入れ3. 忍耐力と柔軟性また、ゲームを通して、自分の立ち位置や集団の中でどう動くかを学ぶ『空間認知能力』も育まれますし、仲間たちとゲームに取り組むことで『自発性』や『社会性』『リーダーシップ』も育ちます。最後に、幼児でもできるボールゲームの一部をご紹介します。親子で遊ぶときやお友だちと遊ぶときの参考にしてみてください。○ボールかご入れフィールドに置かれたカゴにボールを入れます。歩いていって入れる、投げて入れる、動くカゴを追いかけながら入れるなど、年齢や経験に応じて変化させましょう。ボールと目標物との距離感をつかむ感覚が磨かれることで、空間認識能力が高まり、着球点を決定してパスやシュートを決める能力を伸ばします。○ボール運びリレーボールを持って走り、次の友だちに渡すというリレーをベースに、ボールを蹴って走る、ディフェンダーを避けながら走る、など変化をつけましょう。正しいタイミングで最適な位置取りをして、協働的なボールの確保ができるようになります。また、パスやシュートなど突破のチャンスになるような隙を認識する能力が高まります。***『バルシューレ』によって、特定の種目に取り組むことでは得られにくい “オールラウンドな基礎運動能力” が向上すると、将来どんなスポーツにも挑戦できる能力を得ることができます。「ボールを蹴るのは苦手だけど、投げるのは得意」といった子は意外と多いもの。しかし、ひとつのスポーツで評価されてしまうと、自分の能力に自信が持てずに、スポーツ自体を嫌いになってしまいます。自分の向き・不向き、好き・嫌いに気づくことができるのも、『バルシューレ』の魅力ですね。(参考)バルシューレ東京|バルシューレについて特定非営利活動法人Ballschule|バルシューレとは産経デジタル|ボール遊びで運動離れ防げドイツ発祥、子供向け「バルシューレ」教室が開校東京成徳大学・東京成徳短期大学|「バルシューレ」とは特定非営利活動法人Ballschule|バルシューレの運動プログラムコドモブースター|バルシューレってどんな習い事?子どもの能力を伸ばす秘密や料金は?
2019年06月10日ライフコーチとして日米で講演会やワークショップを展開する、アメリカ・ワシントンDC在住のボーク重子さん。全米の女子高生が知性や才能、リーダーシップを競う大学奨学金コンクール「全米最優秀女子高生」で娘のスカイさんが優勝したことでも注目を集め、出版された本は軒並みベストセラーになっています。ボーク重子さんが子育ての軸としたのが「非認知能力」でした。非認知能力とは、回復力、やり抜く力、自信、リーダーシップ、主体性、社会性、共感力……など、数字では測れないさまざまな力のことですが、なかでもボーク重子さんは「自己肯定感」の重要性を強く説きます。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/櫻井健司(インタビューカットのみ)「べき」にとらわれる大人が子どもの自己肯定感を下げてしまう日本人の自己肯定感が低いということは耳にしたことがある人もいるかもしれません。その理由を考えると、多くの人が「『べき』にとらわれている」からだと思うのです。男性はこうあるべき、女性はこうあるべき、親は……、子どもは……というふうについ考えていませんか?それを子どもにあてはめるということは、ひとつの決まったサイズの服をすべての子どもに着せようとするようなものだとわたしは思うのです。子どもの体の大きさは一人ひとりちがいますから、その服がぴったり合うとは限りませんよね?ブカブカだったり窮屈だったり丈が足りないという子もいるでしょう。そんなふうにして、「どうして僕はこの服が全然似合わないんだろう」なんて考えさせてしまっては、その子の自己肯定感が高まるはずもありません。そうではなくて、「合う服というものはみんなそれぞれにちがう」「それが個性なんだ」と思わせてあげなければいけないのです。そうすれば、いいところも悪いところも含めて自分をありのままに認めることになる。「これが自分だ!」といえるようになる。それが、自己肯定感を高めるためのスタート地点なのだと思います。どんな子どもも同じように育て、一丸となって国力を上げるといった時代は終わりました。これからは「個の力」が求められる時代です。そういう意味では、子どもを育てる親、大人が子どもの個性をいかに認めるかということを考えなければなりません。多民族国家で「一人ひとりがちがうことが普通」のアメリカとはちがって、日本の場合は基本的に単一民族国家ですから、個性を認める意識が育ちにくいのかもしれませんね。でも幸い、いまも現在進行形で進んでいることですが、日本に移住してくる外国人はさらに増えるでしょう。そうなると、個性があたりまえのように認められ、日本人の自己肯定感も上がってくるということも考えられますよね。自己肯定感を高める最善策は家庭でのお手伝いにありでは、自己肯定感が低い人間にはどんな特徴が見られるのでしょうか。「自己」肯定感という言葉から、自己肯定感の影響は個人のなかで完結しているものと考えてしまう人もいるでしょう。でも、そうではありません。自己肯定感が低い、つまり自分を認められない人間は、「他人も認められない」のです。すると、「僕はなんて駄目なんだ」「また失敗しちゃった」という思いが、「あなたは駄目だね」「あなた、それは失敗だよ」とまわりの人間に向かい、どうしても他人を攻撃したり批判したりしがちになります。そうなると、周囲から煙たがれてしまうことは明白ですよね。自分の個性を生かして他人と協働していくことが求められるといわれるこれからの時代を生きるには、それは致命的なことといっていいかもしれません。では、どうすれば子どもの自己肯定感を高められるのでしょうか?先にお伝えしたように、子どもが、いいところも悪いところも含めて自分をありのままに認める、「これが自分だ!」といえるようになることが、まずは大切なこと。そして、子どもにそうさせるためのベストの方法が、「誰かの役に立つ」という経験をさせることにあるとわたしは考えています。自分の行動によって、まわりの誰かが「ありがとう」といってくれてよろこぶ姿を見る。「自分は誰かの役に立てるんだ!」という思いが、自己肯定感を高めていくのです。そういう経験を得るには、社会貢献活動やボランティアなども考えられますが、小さい子どもの自己肯定感を高めるということを考えれば、わかりやすく周囲から肯定されることが大切です。そうなると、やはり最初は家庭でのお手伝いがベストの方法でしょう。子ども自身が自分の役割として決めたお手伝いをしたのなら、親御さんは「ありがとう」と伝えて、たくさん褒めてあげてください。子どもは親御さんに認められることで自分を認められる。そうやって、自己肯定感が高まるという好循環を生んでいくはずです。叱るときは必ず理由もきちんと伝える加えて、子どもの自己肯定感を高めるにあたってのNG行動もお伝えしておきます。それは「否定する」ということ。頭ごなしの否定は、認めることの対極の行動です。それを繰り返せば、子どもが自分を認められるようになるはずもありません。たとえば、親がつくった料理に対して子どもが「これはあまり美味しくない」といったとします。そこで「そんなこと、いわないの!」なんていってはいけません。意見というものには正解も間違いもないのですから、その意見、子どもの思いをしっかり受け止めてあげるべきです。否定するのではなく、「へえ、そうなんだ」と子どもの発言を認めて、「ほんとに?どんなふうに美味しくない?」と質問してみるのです。そのやり取りは子どもを肯定しているということですから、子どもの自己肯定感を高めていくことにきちんとつながります。とはいえ、危険な遊びをしようとしたときなど、どうしても叱らなければならない場面もあります。そういうときに大切なことが、「必ず理由も伝える」こと。大人だってそうでしょう?「やめなさい!」とだけいわれたら、「どうして?」と思うじゃないですか。小さい子どもにはまだ論理を理解する力がないと思っている人も多いかもしれませんが、そうではありません。丁寧に理由を伝えれば、子どもはその論理をきちんと理解するものです。イコールそれは、子どもと「同じ目線に立つ」ということでもあります。親と子どもではなく、人間対人間という関係性を意識することが大切です。子どもというのは、すべてを親が教えなければならない存在ではなくて、人間同士としてどうやって一緒に生きていくのかと考えるべき存在なのだと思います。『世界基準の子どもの教養』ボーク重子 著/ポプラ社(2019)■ ボーク重子さん インタビュー一覧第1回:子どもが親の失敗から学ぶもの。「やり抜く力」を育むなら“格好悪い親”であれ第2回:「親の態度」がカギを握る。子どもの自己肯定感を高める行動、低める行動第3回:「ルールを守れる子ども」はこうして育つ。親が子に与えるべき大事な“時間”(※近日公開)第4回:「自分の考えを言えない」問題の解決法。幼い子どもにこそ大切な“リベラルアーツ”(※近日公開)【プロフィール】ボーク重子(ぼーく・しげこ)ライフコーチ。福島県出身。30歳の誕生日1週間前に「わたしの一番したいことをしよう」と渡英し、ロンドンにある美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、留学中にフランス語の勉強に訪れた南仏の語学学校でのちに夫となるアメリカ人と出会い1998年に渡米、出産。「我が子には、自分で人生を切り開き、どんなときも自分らしく強く生きてほしい」との願いを胸に、全米一研究機関の集中するワシントンDCで、最高の子育て法を模索。科学的データ、最新の教育法、心理学セミナー、大学での研究や名門大学の教育に対する考え方を詳細にリサーチし、アメリカのエリート教育にたどりつく。最高の子育てには親自身の自分育てが必要だという研究データをもとに、目標達成メソッド「SMARTゴール」を子育てに応用、娘・スカイさんは「全米最優秀女子高生 The Distinguished Young Women of America」に選ばれた。同時に、子育てのための自分育てで自身のキャリアも着実に積み上げ、2004年、念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年アートを通じての社会貢献を評価されワシントニアン誌によってオバマ大統領(当時上院議員)やワシントンポスト紙副社長らとともに「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。2009年、ギャラリー業務に加えアートコンサルティング業を開始。現在はアート業界でのキャリアに加え、ライフコーチとして全米並びに日本各地で、子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについて講演会やワークショップを展開している。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月09日勉強だけでなく、スポーツや習い事など、集中力はさまざまな場面で必要になります。“脳をダマす”ことで、集中状態を作り出し、子どものやる気スイッチをONにしてしまいましょう!■参照コラム記事はこちら↓脳科学者に聞いた!子どもがあっという間に集中する「脳をダマす」方法
2019年06月09日「非認知能力」とは、テストの点数や偏差値など数字で測れる認知能力に対して、数字では測れない力のこと。そこには、回復力、やり抜く力、自信、自己肯定感、リーダーシップ、主体性、社会性、共感力……など、さまざまな力が含まれます。その非認知能力との出会いによって自身の人生を変えたのが、ライフコーチとして日米で講演会やワークショップを展開する、アメリカ・ワシントンDC在住のボーク重子さん。全米の女子高生が知性や才能、リーダーシップを競う大学奨学金コンクール「全米最優秀女子高生」で娘のスカイさんが優勝したことでも注目を集め、出版された本は軒並みベストセラーになっています。もちろん、ボーク重子さんの子育ての軸となったのも、子どもの非認知能力を伸ばすことでした。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/櫻井健司(インタビューカットのみ)はじめての失敗で心が折れた子ども時代子どもの非認知能力の有無によってどんなちがいが生まれるのか――。親であればとても気になるところですよね。ここでは、わたし自身を例にしてお伝えしましょう。子どもの頃のわたしは、「いい高校、大学、会社に入って、いい結婚をすれば一生安泰だから、とにかく勉強をしなさい」といわれて育ちました。わたしの親は少し教育熱心だったかもしれませんが、当時の「幸せへ向かうレール」に子どもを乗せようとする、ごく普通の家庭だったと思います。わたしはいわれるままに勉強をしましたから、最初は学校の成績も優秀でした。ところが、中学生のある日、急に数学ができなくなったのです。いつも100点だったテストがいきなり70点になってしまった。そして心が折れた。いまならその理由がわかります。それは、わたしの非認知能力がまったく育っていなかったからです。当時のわたしは、「やりなさい」といわれたことになんの疑問も持たずに従っていました。いわゆる「いい子」です。だからこそ、自分で考えるということをまったくしたことがありませんでした。勉強も親や先生にいわれたことをやって、とにかく暗記を繰り返すだけ。学習内容の本質を理解していませんから、学習レベルが上がると一気に成績が落ちてしまったのです。そこでわたしがどうしたかというと……勉強をやめてしまいました。というのも、賢くないと思われるのがすごく嫌だったからです。「勉強をしなければ、『やればできるのに』と思ってもらえる……」。そう考えたわけです。そのときのわたしに回復力ややり抜く力といった力があれば、そこで立ち止まって「どうすればいいか」と考えられたでしょう。でも、当時のわたしにはそれらの力はなかった。要するに、わたしには勉強での失敗経験がなかったのです。なにかをして失敗するという経験は、非認知能力を育てるためにはとても大切なものです。あたりまえですが、失敗しないことには回復力なんて育つわけがありませんからね。そもそも、それ以前に主体性が育っていれば、親や先生のいうことにただ従うのではなく、自ら考えて勉強に励むこともできたかもしれません。さらに、そういった主体的な勉強で成績が上がったのなら、自信をつかむこともできたでしょう。でも、当時のわたしはそうではなかった。だから、たったひとつのテストの結果でポキッと心が折れてしまったわけです。教育法のちがいが子どもの人生を大きく変えるそれからはどんどん成績は下がる一方で、自分は「なんてダメなのだろう」という気持ちを拭うことができませんでした。そこからわたしが回復するには、15年ほどの時間がかかりました。20代はそれこそ暗黒時代。ずっと「どうして自分はこんなに駄目な人間なんだろう?」「どうせわたしなんて……」と思いながら過ごしていました。その後、回復するに至ったのは、30歳になる直前に、当時お付き合いしていた男性にフラれたことが大きなきっかけです。そのとき、真剣な顔をしている彼を見たわたしは「プロポーズかな?」と思った。でも、彼は「君は僕と結婚したらどう生きたい?」と聞くのです。当時のわたしは、「え?そんなの決まってる」と思いました。その答えは、「あなたのお世話をして、あなたの子どもを生んで、一緒に年を重ねたい」です。わたしの返事を聞いて、彼はこういいました。「僕、それだけの人はいらない」と。幼い頃から凝り固まった人生観を刷り込まれ、自分というものを持てていないわたしに彼は愛想を尽かしたというわけです。そうして「幸せへ向かうレール」から外れたことで、わたしは一念発起しました。ずっと心のどこかで「いつかやりたい」と考えていたアートの勉強をするため、イギリス、続いてアメリカに渡ったのです。そのうち結婚して娘が生まれると、また強い不安に駆られました。「わたしに育てられたら、いつも自信を持てなくて誰かの指示を待つわたしみたいな人間に娘が育つのではないか」と――。そして、娘のための学校を探しているうちに出会ったのが非認知能力でした。当時のアメリカにおけるいわゆるエリートコースにある幼稚園や小学校は非認知能力教育に重点を置くようになりつつありました。そして、ある研究によって、その潮流は決定的なものとなった。従来の教育を受けるか、非認知能力を高める教育を受けるかによって、その後の子どもたちに大きなちがいが生まれることがはっきりとわかったのです。非認知能力を高める教育を受けた子どもたちの学習は、機械的にやらされるようなものではありません。学習内容に興味を持ち、自ら能動的に学ぶ。勉強したくないときも、責任感があるから「やらなくちゃ」と勉強をする。もちろん、学習成績も上がります。さらには、自分がやったことを肯定してもらえるため、自信を持つようにもなる。子どもたち一人ひとりが認められるから、いじめも減る。やる気、主体性、パッションがあって、自分がやりたいことをやるためにそれ以外のことも自然にできるようになるし、やり抜く力も身についていく――。まさにいいことずくめなのです。親は子どものロールモデルという役割から逃れられないさて、肝心の非認知能力を高める教育ですが、特別な学校でしかできないというわけではありません。むしろ、家庭教育のほうが重要だともいえます。娘を通わせた学校の先生からは、「いちばん小さいけれど最強のコミュニティーである家庭での教育、親との対話が子どもにもっとも影響を与える」といわれました。親は子どものロールモデルという役割から逃れることはできません。親の姿を見て育つ子どもは、ふとしたときに出るしぐさや口癖などまで親に似るものです。子どもは必死に生きて親を愛して、いずれ親のようになる。それだけ親という存在は子どもにとって大事なものなのです。そう気づいたとき、わたしは思い至りました。「だとしたら、まずわたし自身が自分の非認知能力を高めなければいけない」と。それから、わたしはいろいろと行動をはじめました。アートギャラリーを立ち上げたこともそのひとつでしょう。とにかく行動することが大切で、ずっと家にこもっていても心は強くなりません。家でご飯を食べてテレビを観ているだけなら、誰かに共感したり、失敗して回復したりする必要もないし、主体性やリーダーシップを発揮する場面もありませんからね。そして、「ママ、いまはこういうことをしてるんだよ」というふうに、自分の行動を子どもとシェアするのです。子どもは親を見て育つといいますが、見えやすくするのも親の役目です。子どもには、いわれなければわからないこともたくさんあるのですから。親の行動をシェアする際には、「失敗こそシェアする」と心がけてください。当時のわたしはなにもわからないままビジネスをはじめましたから、当然、失敗の連続です。それらの経験を娘に伝え、ときには娘からアドバイスをしてもらうこともありました。それは、失敗か成功かという結果ではなく、なにがどうしてどうなったかというプロセスを娘に見せるということです。そうすることで、子どもは、失敗は通過点であってやり直しができるということ、方法はひとつじゃなくてもしひとつの方法が駄目でも他の選択肢や可能性を試せばいいといったことを学んでいくことができます。それは、回復力ややり抜く力といった非認知能力そのものですよね。そう考えていたわたしは、娘には成功より失敗を重点的に見せてきましたから、娘にとってはじつは格好悪いママなんです……。はじめて「子育ての本を書くんだ」といったときに、いちばん驚いていたのが娘でしたね(笑)。娘のスカイさんと。『世界基準の子どもの教養』ボーク重子 著/ポプラ社(2019)■ ボーク重子さん インタビュー一覧第1回:子どもが親の失敗から学ぶもの。「やり抜く力」を育むなら“格好悪い親”であれ第2回:「親の態度」がカギを握る。子どもの自己肯定感を高める行動、低める行動(※近日公開)第3回:「ルールを守れる子ども」はこうして育つ。親が子に与えるべき大事な“時間”(※近日公開)第4回:「自分の考えを言えない」問題の解決法。幼い子どもにこそ大切な“リベラルアーツ”(※近日公開)【プロフィール】ボーク重子(ぼーく・しげこ)ライフコーチ。福島県出身。30歳の誕生日1週間前に「わたしの一番したいことをしよう」と渡英し、ロンドンにある美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、留学中にフランス語の勉強に訪れた南仏の語学学校でのちに夫となるアメリカ人と出会い1998年に渡米、出産。「我が子には、自分で人生を切り開き、どんなときも自分らしく強く生きてほしい」との願いを胸に、全米一研究機関の集中するワシントンDCで、最高の子育て法を模索。科学的データ、最新の教育法、心理学セミナー、大学での研究や名門大学の教育に対する考え方を詳細にリサーチし、アメリカのエリート教育にたどりつく。最高の子育てには親自身の自分育てが必要だという研究データをもとに、目標達成メソッド「SMARTゴール」を子育てに応用、娘・スカイさんは「全米最優秀女子高生 The Distinguished Young Women of America」に選ばれた。同時に、子育てのための自分育てで自身のキャリアも着実に積み上げ、2004年、念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年アートを通じての社会貢献を評価されワシントニアン誌によってオバマ大統領(当時上院議員)やワシントンポスト紙副社長らとともに「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。2009年、ギャラリー業務に加えアートコンサルティング業を開始。現在はアート業界でのキャリアに加え、ライフコーチとして全米並びに日本各地で、子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについて講演会やワークショップを展開している。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月08日成長期の子どもたちにとって、1日3回の食事はとても大切なものです。その目的は、ただ単に「成長に必要な栄養を取る」ことだけではありません。子どもたちは3度の食事を通して、「食べ物の栄養」「食べる時のマナー」「食べ物の流通や加工」そして何よりも「家族そろって楽しく食べるという心の栄養」など、人間としての成長に欠かせない学習をするのです。今月は「子どもと食事」について、皆さんと一緒に学んでいきましょう!子どもに「朝ごはん」はなぜ必要かお父さんもお母さんも忙しいのか、最近は、家族全員が「朝ごはんを食べる習慣がない」という家庭もあるようですね。大人は空腹でなければそれで大丈夫ですが、子どもは違います。子どもにとっての朝ごはんには、2つの大きな役割があります。1つは、体を元気に動かすエネルギー源としての役割。そしてもう1つは、体が成長していくための栄養やエネルギーとしての役割です。特に脳はブドウ糖を必要としますので、朝、しっかり食べているかどうかは学習に影響します。下のグラフをご覧ください。文部科学省の「平成29年度全国学力・学習状況調査」でも、朝ご飯を食べる子どものほうが学力が高いという結果が出ています。棒グラフの色は、各科目とも左から順に「毎日食べている」「どちらかといえば、食べている」「あまり食べていない」「全く食べていない」です。(Aは主として「知識」に関する問題、Bは主として「活用」に関する問題)(画像引用元:千葉県|千葉県教育委員会|文部科学省「平成29年度全国学力・学習状況調査」及び、スポーツ庁「平成28年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」の結果から見える相関関係)また、『平成28~29年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書(日本学校保健会)』を見ると、朝ごはんを「毎日食べる・食べる日の方が多い」子どもの割合は、小学校低学年・中学年・高学年のいずれも95%を超えており、1・2年生では98%という高さでした。しかしここで注目したいのが、子どもたちが「何をどのように食べているか」です。下のグラフから分かるように、主食しか食べていない子の割合は、低学年で29.9%。主菜のみ・副菜のみの子も含めて、約3割の子どもが朝ごはんを単品で済ませているのです。食べているだけまだ良いように思うかもしれませんが、子どもたちの様子を見ていると決してそうとは言い切れないと感じます。具合が悪くて保健室に来室する子どもたちに、「朝ごはん食べた?」と聞くと「はい」と言うのですが、「何を食べたの?」と聞くと、ヨーグルトとかクッキーと水、あるいはお菓子と答えるような子どもたちがいたのです。子どもには「しっかり朝ごはん」が必要ですから、主食(ご飯かパン)と、主菜(卵焼きやハム)、副菜(みそ汁やサラダ)などが揃った朝ごはんが理想です。特に主食・主菜は必須ですよ。中には、「準備しても食欲がなくて食べてくれない」という親御さんの声を聞くこともありますが、それにはいくつかの原因が考えられます。例えば、前日の夕食の時間や睡眠時間に問題があるのかもしれません。また、「子どもだけで食べなさい」という状態だと、子どもはなかなか食べないことが多いもの。たとえお味噌汁1杯やコーヒーだけでも、親も子どもと一緒に食卓に座り「頂きます!」をいって食べると、子どもの食欲も出てきますよ。また、起きた直後で体が目覚めていない状態では、食べられないのも当然のこと。朝は子どもにも朝食の準備を手伝わせるなど、起床後に体を動かす時間と機会が作れたら最高ですね。朝ごはんを食べているかどうかで、子どもの集中力や意欲、そして学力にまで、大きな差が出ます。ご家庭の朝ごはんの習慣を見直してみてはいかがでしょうか。子どもが「学校給食」から学ぶもの最近の学校給食は、単に栄養を補給するだけでなく、食を通して多様な学びができるような工夫がたくさんされています。「食育」が学校教育の中で重視され、栄養教諭の配置も進んで、子どもに「食に関する力を育てていく」取り組みが広がっています。例えば、「今日の食材は、地元農家の○○さんが育てた大根を使っています」のような地産・地消を推進したり、地域の伝統的な食事を取り入れたりしている学校は珍しくありません。また、バイキング給食やお誕生日給食などによって子どもたちの食への関心を高め、「内容や食べられる量を自分で考え、選んで食べる力」を育てる工夫もされているのですよ。一方で、子どもたちの「偏食」や「食物アレルギー」の問題は、まだまだ対策が必要です。子どもの偏食にも様々なものがあります。「食べたことがないから食べない」というのは分かりやすい偏食の例ですね。他には、ご飯の中に異物が入っていたことがあり、それ以後「白いご飯しか食べられなくなった」というような、心理的な理由による偏食も出てきました。親御さんが「わが子は何でも食べる」と思っていても、それは「“家で作られるものなら”何でも食べる」ということである場合も。親御さんは学校の献立表を見て、おうちのメニューのレパートリーを広げるといいですね。食物アレルギーの問題は、丁寧な学校とのやり取りや、子ども自身に「食べてはいけないものが入っていないかどうか」を見極める力をつけさせることが大切です。人に頼っていると、どこかで間違いが起きる可能性は出てきますので。いずれにしても、学校給食の中で子どもたちは多くの学びを獲得していきます。保護者向けの試食会なども行われていますので、我が子がどのような給食を食べているのかを知る機会として、ぜひ参加してみてください。給食の時間が「楽しみ!」なら問題ない子どもと食事に関する親御さんからのご質問にお答えしましょう。【親御さんからの質問 1】子どもに聞いた話から「給食は毎日完食」だと思い込んでいたのに、家庭訪問で先生から「わりと残しています」と言われ、びっくりしてしまいました。給食を残したことを隠すなんて……と、ちょっと戸惑っています。子どもには給食を完食させたほうがいいですよね?どうしたらいいでしょうか。子どもが給食を残す理由は一律ではありません。単純に量が多すぎるとか、時間が足りなかったとか、嫌いなものがあったなどです。子どもたちの食べる量は、かなり個人差があります。全員に同じ量が配られれば、中には残してしまう子がいるのも当然のことです。また低学年だと、牛乳を1本飲むとそれでおなかがかなりいっぱいになり、他の物を残してしまう場合もあります。牛乳は多くの学校で全学年同じ量になっていますので、ここは改めてほしいところです。大切なことは、徐々に「自分が食べられる量」を自分で判断できる力を育てること。そして、「多いから減らして」「もう少し食べられそうだから増やして」などと言える力をつけるといいですね。また、食べる時間は学年により違いますが、おおよそ15~20分ぐらいで食べ終わるのが目安です。小学校では、「嫌いなものでも食べなさい」と強くすすめる先生もいれば、嫌いなものを無理強いしない先生もいるというように、先生によって指導が違う場合も皆無ではありません。担任の先生によって給食指導の方法はいろいろなので、もし戸惑う場合には先生に相談してみてはいかがでしょうか。ただし、嫌いなものが出たからといっておなかが空いていても食べずに残し、家に帰ってから菓子パンやおにぎり、カップ麺を食べるのは問題です。こういう子を見ると、「好きな時に、好きなものを、好きなだけ食べられる」豊かさの弊害が出ていることを実感させられます。いずれにせよ、食べ方には個人差があることを考えると、親御さんはお子さんが「どれだけ食べたか」をあまり気にする必要はなく、お子さんが給食の時間を楽しみにしているようであれば心配はいりません。「嫌いなものが多いから、楽しみじゃない」などとお子さんが言った場合は、一緒に献立表を見ながら「お家でも同じようなものを作って食べてみようか」と声をかけて、親子で一緒に作って食べてみるといいですね。親が美味しそうに食べると子どももつられて食べる、なんてことも意外によくありますよ。三角食べは高学年からでOK【親御さんからの質問 2】醤油や塩、ケチャップやマヨネーズなどの調味料を多くかけがちです。三角食べができず白いご飯だけが最後に残ってしまうため、味を付けたがって鰹節やふりかけを必ずかけて食べています。また、デザートやおやつも味のしっかりしたものでないと満足できない様子。このままでは子どもの味覚がおかしくならないかと心配です。子どもは濃い味に慣れてしまうといろいろな調味料を使いたがります。給食では一般的に薄味です。家庭では、食材の旨味を味わえるような調理を工夫してみると良いでしょう。一般的に売られているお惣菜は味付けが濃いので要注意。ふりかけなどはいつも準備してあると使ってしまいますので、食卓に常備しないことも1つの方法ですよ。子どもの味覚は、成長につれ発達していきます。赤ちゃんが分かるのは、「うま味(甘味)・苦味・酸味」だけ。昔から苦味や酸味のある食べ物には有害なものが多く、それを判別する味覚が発達した人類だけが、今日まで生き残ってきました。したがって、私たちは生まれた時から苦味や酸味を感じる遺伝子をもっているのです。子どもが苦い食べ物を嫌がるのは、至極当然だと言えます。しかし今では、「苦味や酸味があっても食べてよいもの」が分かっています。人間はこうしたものを食べ続けることで味覚を発達させ、ピーマンやトマトもおいしく感じられるようになりました。子どものうちほど味覚は発達しやすいので、ニンジンでもピーマンでも少しづつ舌に味を覚えさせていく学習をすると食べられるようになりますよ。でも、嫌いなものがいくつかあっても、それはそれでいいと思います。それから、三角食べは日本食の文化です。世界中の食べ物が日常的に食べられる今の時代、子どもが三角食べをしないのも不思議ではありません。小さいうちは三角食べの意義を理解するのは難しいですが、小学校の高学年になって食の文化が理解できるようになったら、日本食の時は三角食べがマナーだと知っていればいいかと思います。最近の学校給食では食べ方を強制することはあまりありません。ご家庭で、親が食べ方の見本を見せることが大切ではないでしょうか。楽しい食卓の基本は「家族そろって」【親御さんからの質問 3】子どもには嫌いな食材を克服してほしいし、量もたくさん食べてほしい。だから、子どもがあまり食べないとつい「ちゃんと食べなさい」と言ってしまい、子どもが機嫌を損ねることも。でも、本当は「食べること」=「楽しいこと」のはずですよね。食卓が楽しくなるヒントが知りたいです。食卓はどうしたら楽しくなるのでしょうか?以前勤めていた学校で、子どもの偏食の克服を目的として、学校で野菜を育てて調理して食べるまでを子どもたちが主体的に行なう活動に取り組みました。トマトやキュウリやナスが嫌いと言っていた子どもたちが、なんと自分が育てた野菜は「おいしい」と言って食べるようになったのです。一方家庭では、親御さんに「1週間に一度、家族そろって素材から調理して食べよう」という取り組みをしていただきました。家族そろって献立を考え、買い物に行き、みんなで手分けして料理して食べる。これに一番はまったのはお父さんだったというご家庭も多かったのですが、子どもたちの偏食が減り家族の関係も良くなったという報告をたくさん聞きました。子どもたちも、「昨日の夕ご飯はね」とおいしく食べた様子をたくさん話してくれました。コンビニや惣菜屋さんで手軽に食べ物が手に入り、後片付けも簡単で忙しい大人にはありがたいですが、子育てにおける食事の基本は「家庭で料理して家族そろって食べる」こと。そのプロセスが大事なのです。子どもに克服してほしい食べ物があるなら、家族で献立を考える時に、親からその食材をメニューに盛り込むことを提案するといいですね。そしてこの食事づくりの時間を家族でコミュニケーションを取る時間にすると、子どもがいろいろ話せるのではないでしょうか。ただし、話の内容には要注意。ここぞとばかり、食事中にテストや宿題の話などをされたら、子どもは嫌な時間だと思ってしまいますから。日本人らしい食のプロセスを大切に最後に少し興味深いエピソードを紹介しましょう。かつて上野動物園の園長を務めておられた中川志郎先生から伺った話です。1970年代のこと、上野動物園ではじめて飼育されたゴリラの発育が良くなく、アメリカから輸入した栄養たっぷりのゴリラケーキを与えたそうです。すると、体重は順調に増えたものの、1か月後にはストレスが溜まって抜毛するようになってしまいました。その原因は、食形態の変化。本来、野生のゴリラは7~8時間かけて餌を探し食べるのですが、ゴリラケーキは15分で食べ終わってしまうのです。そこで、野生のゴリラに近い食形態に戻したところ、抜毛が治ったのだと言います。動物本来の食のプロセスを大切にしないとゴリラでもストレスになる。まして人間は……?どうでしょう、考えてみてください。日本人は農耕民族です。大昔から、農作物を育ててそれを調理して家族そろって食事をしてきました。素材から調理して家族そろって食べるという、日本人らしい食のプロセスを大切にしたいですね。農作物を育てることが奪われ、家庭での調理も奪われ、家族そろって食事をすることも奪われている子どもたち。これでは、おかしくなるのは当たり前です。これまでお話してきたように、子どもは「食べる」ことを通して、人間社会で楽しく逞しく生きていく力をつけていきます。それぞれのご家庭で、もう一度我が家の食事を見直し、「これならできる!」を1つでも2つでも取り入れていただけると嬉しいです。(参考)千葉県|千葉県教育委員会|文部科学省「平成29年度全国学力・学習状況調査」及び、スポーツ庁「平成28年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」の結果から見える相関関係中川志郎(2006),「基調講演:動物の一生からみた人間の発達を考える」,神戸大学発達科学部研究紀要,13(3),pp.2-17.
2019年06月07日10歳くらいで学習面における壁にぶつかることを意味する、「10歳の壁」という言葉を知っている人も多いでしょう。「壁」という言葉のイメージも手伝って、乗り越えるべき難しい時期だと考えてしまっている人もいるかもしれません。でも、発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学の専門家である法政大学文学部心理学科教授の渡辺弥生先生は、「10歳は子どもにとって大きな飛躍の年」だと語ります。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)学習面以外にも現れるさまざまな変化「10歳の壁」というと、一般的には小学3、4年生になった子どもたちがぶつかる学習面での壁を指します。たとえば、算数の問題でもそれまでは「リンゴがいくつ」といったふうに具体物で表されていたものが、突然、○(丸)や□(四角)という抽象的なもので表されることが増えてくる。そこで理解が止まってしまう子どもが非常に多いのです。ただ、10歳という年齢における子どもの変化は、そういった学習面の変化に伴って出てくるものだけではありません。たとえば、ある研究データによると、「人を助ける思いやりの行動」にも変化が見られます。9歳までは困っている人を見れば素直に「助けてあげたい」と行動できていた子どもたちが、10歳になるとなぜかそういう行動を起こさなくなるのです。友だちへの意識も10歳前後で大きく変わります。9歳頃までの子どもの場合、誰もがなんの疑いもなく「みんなと仲良くできる」と思っています。でも、10歳になると「バスの隣の席は○○ちゃんがいい」「○○ちゃんには座ってほしくない」というふうに思いはじめる。ずっと「みんなと仲良くできる」と思っていた自分自身と、自己矛盾を起こすようになるのです。「10歳の壁」をポジティブにとらえようその時期を境にして子どもに見られる変化は他にもいろいろあります。たとえば「時間的展望」がそう。未来や過去、現在といった時間的なものさしが格段に伸びる時期であり、将来のこともしっかりイメージして考えられるようになります。さらに、たとえば中東で起こっている紛争のニュースを見れば、その地域に住む同年代の小学生の生活を想像して心配するように、会ったこともないような人間の気持ちまで考えられるようにもなる。これは、とらえられる対人関係が大きく広がったということを意味します。その広がりは自分自身にも向かいます。自分をモニターして客観視し、「僕はこういう良くないところがあるから、直していかなきゃ」といったふうに、自己コントロールしようともしはじめるのです。そのような自分の内面に向かう視点の獲得によって、作文にも大きな変化が表れます。たとえば明日に運動会を控えているという状況なら、「明日は運動会だけどワクワクするような気持ちだけじゃなくて、不安な気持ちや絶対に負けたくないという気持ちもある。気持ちってひとつだけじゃないんだな」といったことも書けるようになる。これは、しっかり自分の内面をとらえられるようになったということであり、成長の証ですよね。そう考えると、「10歳の壁」を「学習面で行き詰まること」とネガティブなとらえ方をするのはもったいない気がします。子どもは10歳前後でさまざまな面で大きな成長を遂げます。内面が変化する分、行動が停滞したように見えますが、じつは内面が深化しているのです。すなわち、「10歳の壁」ではなく「10歳の飛躍」ととらえれば、親としてもすごく面白い時期に感じられるのではないでしょうか。着実に大人へと成長する子どもの姿を楽しむもちろん、それだけ大きな変化、成長の渦中にいる子どもたちは強いストレスも感じているはずです。当然、親はしっかり子どもを見守って、ときには導いてあげる必要があります。ですが、あまり難しく考える必要はありません。親になったからといって、その瞬間にどこかから親に必要なスキルが降って湧いてくるものではないのですから、子どもと一緒に親も成長していけばいいのです。大切なのは、しっかり子どもを見て、ともに悩み、そして人生の先輩として「こうして教えてあげればいいかな」と親自身が思える方法で導くこと。少しずつ親としての自信をつけていきましょう。そして、子育てをもっと楽しむ姿勢を持ってほしいと思います。たしかに、10歳頃から子どもは難しい時期に入っていきます。でも、裏を返せば子どもが急激に大人に向かって成長している時期でもある。子どもが抱える悩みも大人と同じようなものになってきて、子どもの友だち関係や勉強での悩みを親の人付き合いや仕事の悩みに置き換えて考えることができるようになる。そうすると、悩みの解決方法を親子で一緒に考えたり、あるいは子どもに「なるほど!」と思わされたりするなど、子どもと接する面白味が一気に増してくるのです。もちろん、10歳以降になれば行動範囲も広がってなんらかの危険に巻き込まれるという可能性も高まりますから、そういった点では注意も必要です。難しい時期の子どもに拒絶されないようにちょっと距離を置きながらもしっかりと子どもを見て、「なにかあればいつでも相談に乗るよ」「いつもあなたのことを考えているからね」という気持ちを伝えてあげてください。あとは子どもの成長を存分に楽しめばいいのです。そもそも、10歳頃の子どもの「飛躍」は、それまでの親による教育、インプットが花となって開きはじめたということの表れに他なりません。その花が開くようすを楽しむことこそ、親としての醍醐味ではないでしょうか。『感情の正体 ――発達心理学で気持ちをマネジメントする』渡辺弥生 著/筑摩書房(2019)■ 法政大学文学部心理学科教授・渡辺弥生先生 インタビュー一覧第1回:「あきらめない力」も「あきらめる力」も大切!子どもの決断力を伸ばす家庭教育法第2回:我が子の自己肯定感を育むなら“親の基本”の徹底を。「見返りを求める」は絶対NG!第3回:劣等感を自尊心に!寝る前に親子で実践、「レジリエンス」の簡単トレーニング法第4回:「10歳の壁」ではなくて「10歳の飛躍」!親が我が子の10歳をもっと面白がるべき理由【プロフィール】渡辺弥生(わたなべ・やよい)大阪府出身。法政大学文学部心理学科教授。筑波大学卒業、同大学大学院博士課程心理学研究科で学んだあと、筑波大学文部技官、静岡大学助教授、ハーバード大学在外研究員、カリフォルニア大学客員研究員等を経て現職。同大学大学院特定課題ライフスキル教育研究所所長も務める。専門は発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学。『まんがでわかる発達心理学』(講談社)、『小学生のためのソーシャルスキル・トレーニング スマホ時代に必要な人間関係の技術』(明治図書出版)、『イラスト版 子どもの感情力をアップする本 自己肯定感を高める気持ちマネジメント50』(合同出版)、『子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗り越えるための発達心理学』(光文社)、『考える力、感じる力、行動する力を伸ばす 子どもの感情表現ワークブック』(明石書店)、『図で理解する発達 新しい発達心理学への招待』(福村出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月06日子育てをしていて、「悩みがひとつもない」と言い切れる親御さんは、いないのではないでしょうか。ほとんどの人が、大なり小なり子どもにまつわる悩みを持ちながら、ひとつひとつ解決していく努力や工夫を繰り返しているはずです。今回は、あらゆる悩みや心配事を追求すると必ずたどり着く『生活習慣力』を身につける方法をお教えします。すべての悩みはつながっている!「朝食を食べない」「好き嫌いが多い」「朝起きられない」など生活にまつわる悩みから、「なかなか宿題をやらない」「忘れものが多い」「苦手な教科についていけていない」など学習や学校生活に関する悩み、さらに「お友だちとのトラブルが多い」「休み時間はいつもひとりで過ごしているようだ」「自分の気持ちを言えずに我慢しがち」などメンタルに関する悩みまで、親はいつでも子どもの心配をしてばかりです。どんなに毎日注意しても、子育て本を何冊読んでも解決しない……。すると「私の育てかたが間違っているのかな?」と余計不安になってしまいますよね。しかし、それらの悩みは、生活習慣を見直した途端に驚くほどスムーズに解決できることもあるのです。発達心理学を専門とした目白大学専任講師の荒牧美佐子先生は、次のように解説しています。基本的な生活習慣は、日々の生活の流れの中にありますから、そのうち何か一つだけを身に付けさせようとしてもうまくいかず、それぞれが影響し合い、全体的な成長を遂げていきます。(中略)こうした負のスパイラルに陥らないよう、保護者のかたには、お子さまが気持ちよく生活が送ることができるようなサポートをしていただきたいです。(引用元:ベネッセ教育情報サイト|小学校での学びの土台を作る 子どもの生活習慣【基礎編】)心身ともに不健康な状態だと、集中力が低下したり情緒不安定になったりします。また、どんなに勉強時間を増やしたところで、土台となる生活習慣が乱れていると学習内容は身につきません。ベネッセ総合研究所が実施した「幼児期の家庭教育調査・縦断調査」によると、生活習慣の定着している子どもほど、学びに向かう力が高いことが明らかになっているそう。生活習慣力を身につけることは、先を見通す力につながります。たとえば、休み時間にトイレに行って次の時間の準備をしておくことで、結果的に授業にも集中できる、といった良いサイクルをスムーズにつかめるようになるのです。基本的な生活リズムを固定したうえで勉強時間を確保することが、子どもの健やかな精神や学力向上の支えとなるのは当然ですね。では、高い生活習慣力を身につけるには、どのような工夫が必要なのでしょうか?まずは「現状把握=自分を知る」ことから『PDCAサイクル』という言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。ビジネスシーンではよく耳にするこの言葉、会社の業務や製品を改善するために用いられる考え方を意味します。P目標を設定し(Plan)D行動し(Do)C振り返り(Check)A改善する(Action)簡単にいうと、“計画的に行動して、その成果を評価する” というサイクルを繰り返すことで、仕事のやり方を改善する手法です。最近では、常に変化する現状を把握する必要もあるという考えから、「R自分を知る(Research)」が加えられるようになりました。これによって、自分の強みや弱みに気づき、目標達成までの過程を自己管理できるというわけです。ビジネスシーンでは当たり前のように浸透している「R-PDCA」。実はこの手法、子どもの生活習慣力アップにも活用できるのです。ポイントは、親や教師から “やらされる” のではなく、“自発的・自律的に” 目標を設定して行動し、その行動の成果を振り返って改善する習慣をつける、ということ。つまり、子ども自身に『自己マネジメント力』をつけてもらうのが最終的な目的です。自己マネジメント力をつけると、子どもの思考は次のように変化していきます。「夢を実現するために、自分に合う勉強の仕方に変えていこう」「もっとテレビやゲームの時間を減らして読書に回してみよう」「教科書に出てきた作家のほかの作品も読んでみよう」このように、自分の生活と学習の実態を把握して、改善策を考えて実行するようになるのです。R-PDCAサイクルで子どもの意識がみるみる変わる!早稲田大学教職大学院の田中博之教授が提唱している“小学生向けのR-PDCAサイクル”は、「子どもが自分の時間を可視化して把握するのに役立つ!」と、多くの保護者の方たちから支持されています。実際に始める前に、まず1冊のノートを用意しましょう。市販の書き込み式R-PDCAサイクルノートもあるので、使いやすいものを選ぶといいかもしれません。田中博之 監修(2018年),『3・4年生用 小学生のための生活習慣力アップノート』,日本能率協会マネジメントセンター.■RーPDCAサイクル実践方法○「R」(Research)・まず、自分を知ろう!自分の性格や得意なこと、苦手なこと、好きなことを知るための「マイページ」をつくります。個性を伸ばし、苦手を克服するために何が必要なのかを把握することが目的です。好きな遊び、好きな食べ物、どんなことをしているとき楽しいのか、1年後の目標、将来の夢や目標を書きましょう。↓○「P」(Plan)・今月の予定を書こう!予定が一覧できるようにスケジュール帳形式が◎。今月中にどんなことができるようになりたいのか、いつまでにやらなければならないのか、色つきのペンやシールなどで目立つように印をつけましょう。↓・今週の計画を書こう!早寝、早起きをする。ご飯を残さず食べる。算数のドリルを1日2ページやる、など1週間単位での目標を書きます。そして、1週間の終わりに、目標をクリアできたか見直しましょう。マルをつけてチェックするなど、成果を可視化するのがポイントです。↓○「D」(Do)・計画に沿って実際に行動しよう!計画通りに行動するのが難しい場合は、状況に応じて変更してもかまいません。↓○「C」(Check)・毎日書き込もう!日記のような感覚で、毎日書く習慣をつけます。「今日やることリスト」や「生活チェックリスト」では、犬の散歩をする、家のお手伝いをする、などチェック項目はできるだけ細かくしましょう。クリアしやすいので達成感が得られます。ほかにも「今日のできごと日記」では、絵や文章で1日を振り返ります。最後には必ず「おうちの人からひとこと」を。↓・週の終わり、月の終わりには親子で一緒にノートを見ながら振り返りましょう。チェックリストによって客観的に分析できます。↓○「A」(action)・反省点を次に活かそう!「時間配分がうまくいかなかったから、次回は算数の勉強時間を長めに確保しよう」など具体的な計画を立てます。上記のサイクルを繰り返すことで、生活習慣力がアップして計画通りに行動できるようになります。また、月の終わりに保護者が「できたこと」をフィードバックすると、子どもは自信がつき、自己肯定感アップにもつながるでしょう。***生活習慣を規則正しく整えることが、子どもの健康と学力向上を考えるうえで大切なのはわかりきっていても、実際にどこから整えていけばいいのかわからない……。そうお悩みの保護者の方は、ぜひ、R-PDCAサイクルを試してみてください。1冊のノートを通じて、子ども自身は自分の頭の中を整理でき、親は子どもが何を考えているのかを把握できるので、適切なアドバイスを与えられるでしょう。(参考)ベネッセ教育情報サイト|小学校での学びの土台を作る 子どもの生活習慣【基礎編】ベネッセ教育総合研究所|自己マネジメント力が子どもの総合学力を伸ばす日経XTREND|小学生向け「PDCA本」が親心をつかんだ理由田中博之 監修(2018年),『3・4年生用 小学生のための生活習慣力アップノート』,日本能率協会マネジメントセンター.
2019年06月06日幼い頃はいつでも天真爛漫だった子どもが、小学生になって難しい顔をすることも増えてきた――。子どもが悩みを抱えるようになると、それに比例して親の悩みも増えるものです。悩み多き思春期に差し掛かろうとしている子どもに対して、親はどう接するべきなのでしょうか。発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学の専門家である法政大学文学部心理学科教授の渡辺弥生先生にアドバイスをしてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)子どもが悩みはじめることは成長の証子どもが小学生になると、幼児の頃と比べてさまざまな悩みを抱えるようになります。でも、それは「いいこと」なのです。なぜかというと、幼い頃には悩まなかったようなことにも、心が発達したことで「悩めるようになった」からです。未来を展望し過去を振り返る力を得て、対人関係が広がると、悩みも多くなるものなのです。ですから、悩みを抱えている子どもが、家族のふとした言動によって「うるさい!」なんていってバタンとドアを閉めたりすれば、親として子どもの成長を感じてよろこんでほしいのです。子どもにとって悩みやトラブルは成長の糧です。たとえば、少しは喧嘩もしないと本当の意味で友だちと仲良くなることはできません。何気なくいったことでも「ここまでいうと相手を傷つけちゃうんだ」とか、良かれと思っていったことでも「ここまでいうとおせっかいになっちゃうんだ」というふうに失敗して学ぶのが人間であり、未熟な部分をぶつけ合うことが子どもにとっては大切な学びなのです。ネガティブな感情も人間には必要そうした子どもの悩みには、怒りや嫉妬、それから劣等感といったネガティブな感情から生まれるものもあります。小学生でも中学年、高学年くらいになると、テストの点が悪かったりスポーツがなかなかうまくならなかったりして、誰もが人と自分を比較するようになります。ネガティブな感情を持つのはあたりまえのことですし、もっといえば人間として必要なものです。というのも、それらの感情は進化の過程で人間がサバイバルするために必要なものだったからです。怒りは外敵と戦うときに必要だったでしょうし、嫉妬や劣等感だって他人と自分を比較することでより良い人間になろうとするモチベーションになったことでしょう。また、ネガティブな感情があるからこそ、ポジティブな感情の意味もより感じられるようになるということもあります。日本人の場合は、子どもにも親が「怒っちゃ駄目」というといった具合に、ネガティブな感情を封じ込めようとする傾向にあります。でも、アメリカのドラマなどを観ていると、親友同士や家族が怒りをぶつけ合っていい争うシーンをよく見ますよね。それが彼らにとってあたりまえのことであり、アメリカ人には相手のネガティブな感情に寛容なところがあるのです。そもそも、子どもがネガティブな感情をすでに持ってしまっていれば、どんなに封じ込めようとしてもゼロにはなりません。でも、封じ込める必要はなくとも、ただ感情任せに振る舞うとさらにトラブルを招くこともありますから、やはりマネジメントする力を教える必要はあります。そういうとき、親は子どもに「寄り添う」ということをいちばんに考えてください。「やっぱり怒っちゃうよね」「悔しいよね」と共感し、次に、「そういうときはこう考えたらどう?」「こうしてみたらどうかな?」と、具体的にやれそうな策を教えてあげるのです。とくに道徳的な考えなどは、しつこいくらいに説明してあげないとなかなか子どもの心には入っていきませんから、子どもの成長に合わせてわかるように言葉をかけてほしいと思います。「情けは人の為ならず」という言葉の真意は、子どもにはすぐには実感できないものですからね。劣等感に負けないための「4つのトレーニング」先に劣等感などのネガティブな感情も必要だとお伝えしました。ただ、あまりに劣等感が強くて自尊心を持てなくなってしまっては大問題です。ここで、劣等感に負けないためのトレーニングを紹介します。これは、「レジリエンス」、いわゆる「心の回復力」を鍛える「4つのトレーニング」です。心の力を回復するうえで鍛錬しておく4種類の「筋肉」をイメージするよう子どもに伝えてトライさせてみましょう。【レジリエンスを鍛える「4つのトレーニング」】■1:「I am」マッスルわたしは◯◯(自分を肯定する言葉)例:わたしは優しい■2:「I can」マッスルわたしは◯◯ができる(自分ができること)例:わたしは泳げる■3:「I like」マッスルわたしは◯◯が好き(自分が好きだと思うこと)例:わたしは野球が好き■4:「I have」マッスルわたしには◯◯がいる、わたしは◯◯を持っている(自分が大事にしている人や宝物)例:わたしには頼りになるお父さんがいる、わたしはアイドルのサインを持っているこれは、自分が持ついいところ、いいものをつねに「見える化」することで劣等感に打ち勝ち、自分の強みを資源にするトレーニングです。子どもには、寝る前にそれぞれ3つくらいを思い浮かべさせる、あるいは書き出させてみてください。それこそ、内容は本当に簡単なことで大丈夫。2なら、「歯みがきができる」なんてことでいいのです。きっと、子どもは「できそうだ!」「やれそうだ!」とポジティブな気持ちを持って眠りにつくことができるはずです。子どもの短所は長所の裏返しこういったトレーニングの良さとして、親子問わずに「性格のせいにする」という考え方を変えられることが挙げられます。とくに親の場合、子どもになにかうまくいかないことがあると、「あなたが怒りっぽいから」「暗いからよ」などと性格のせいにするということが見られます。そうすると、子どもにそのレッテルを貼って、むしろその方向に子どもの背中を押すことになりかねません。「怒りっぽい」といわれた子どもは「怒りっぽい人間として生きていかないといけない」と思ってしまうのです。でも、性格ではなく「トレーニング不足だから」ととらえられればどうでしょうか。子どもは「トレーニングしてスキルさえゲットすればいい」とゲーム感覚でとらえ、自分の性格に悩むこともなくなります。親も「こういう性格の子に産んじゃったから」と思うとなにもしようがありませんが、「まだこの子はトレーニングが不足しているだけ」ととらえれば、子どものためになにかやれることがないかと工夫しようと考えられますよね。もっといえば、一見、あまり良くないように思える性格というのは、ポジティブにとらえてみると、実はその子のリソース(資源)で、強みなのです。たとえば、「怒りっぽい」子どもは、見方を変えれば「情熱的」ともいえます。他人から短所だと思われているところはたいてい長所でもありますし、それがその子の本来的なキャラクターなのですから、それを抑えるのではなく生かす方向に考えてあげるのが親の役目ではないでしょうか。『感情の正体 ――発達心理学で気持ちをマネジメントする』渡辺弥生 著/筑摩書房(2019)■ 法政大学文学部心理学科教授・渡辺弥生先生 インタビュー一覧第1回:「あきらめない力」も「あきらめる力」も大切!子どもの決断力を伸ばす家庭教育法第2回:我が子の自己肯定感を育むなら“親の基本”の徹底を。「見返りを求める」は絶対NG!第3回:劣等感を自尊心に!寝る前に親子で実践、「レジリエンス」の簡単トレーニング法第4回:「10歳の壁」ではなくて「10歳の飛躍」!親が我が子の10歳をもっと面白がるべき理由(※近日公開)【プロフィール】渡辺弥生(わたなべ・やよい)大阪府出身。法政大学文学部心理学科教授。筑波大学卒業、同大学大学院博士課程心理学研究科で学んだあと、筑波大学文部技官、静岡大学助教授、ハーバード大学在外研究員、カリフォルニア大学客員研究員等を経て現職。同大学大学院特定課題ライフスキル教育研究所所長も務める。専門は発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学。『まんがでわかる発達心理学』(講談社)、『小学生のためのソーシャルスキル・トレーニング スマホ時代に必要な人間関係の技術』(明治図書出版)、『イラスト版 子どもの感情力をアップする本 自己肯定感を高める気持ちマネジメント50』(合同出版)、『子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗り越えるための発達心理学』(光文社)、『考える力、感じる力、行動する力を伸ばす 子どもの感情表現ワークブック』(明石書店)、『図で理解する発達 新しい発達心理学への招待』(福村出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月05日子どもたちの個性を大切にする『イエナプラン』教育で知られるオランダ。その教育環境の良さや子どもの幸福度の高さ(2013年・世界第1位)から、日本でもオランダ教育の要素を取り入れていこうという動きが出てきています。今回は、教師の役割や通知表の評価の仕方を通して、日本とは何もかも違うオランダ教育について考えていきましょう。イエナプランだけじゃない!?学校ごとに異なる教育方針オランダでは、学校が「子どもの未来を作る場」だと考えられています。そして、学校は「自分の好きなことや得意なことを見つける場所」という考えが、社会に根づいているのです。このように、国全体で子どもの未来につながる教育を目指していて、憲法でも『教育の自由』が保証されているオランダ。よく知られているのは「イエナプラン教育」ではないでしょうか。■イエナプラン教育って?ドイツのイエナ大学教授ペーター・ペーターゼンが生み出した、子どもたちの個性を大切にして対話を重視する教育のこと。<特徴>○異なる年齢の子どもたちが一緒に学習する。○子どもたちが輪になって、さまざまなテーマについて話し合い発表する。教師は進行役に徹する。○教室は「リビングルーム」という考え。グループ活動がしやすいように、自由に移動可能な机・椅子が配置されている。※イエナプランについて、詳しくは過去記事をご覧ください。□尾木ママ絶賛!“日本教育の3周先を行く”オランダの「イエナプラン教育」□オランダで大人気「イエナプラン教育」とは?日本でも開校間近“期待のスクール”の魅力。もちろん、オランダのすべての小学校がイエナプラン教育を取り入れているわけではありません。「100人いれば、100通りの教育方法がある」といわれるくらい多様性に富んでいるオランダ教育には、他国で生まれた教育も積極的に取り入れる柔軟さがあるようです。先生はコーチ!自己肯定感を育む授業の仕組み『子どもを伸ばす共育コーチング』(拓殖書房新社)の著者でコーチングのプロとして活躍中の石川尚子先生は、視察に行ったオランダの学校で次のような授業風景を目にしたそう。オランダの学校では、授業の折々に、先生から質問が投げかけられます。(中略)純粋に、子どもたちの考えを促す質問です。どんな答えが返ってきても、先生はまず受け止めます。ですから、子どもたちにも、先生が求めている正解を答えなければという思考がありません。誰かの評価を得るためではなく、純粋に自分はどう思うかを考え、表現し合います。(引用元:ベネッセ 教育情報サイト|教育にコーチングが根付いている国の子どもは幸福度が高い?[やる気を引き出すコーチング])その質問とは、「ここまでやってみてどう思った?」「どんなことに気がついた?」といった、子どもの内に秘められている言葉を引き出すものばかりだったそうです。そして授業の最後には、必ずこの学びの体験を次に活かす質問を投げかけます。先生から「次やるときは、どうしたらもっとよくなると思う?」などの問いを受けることによって、子どもたちは今回の体験を振り返り、次に活かすための気づきが生まれるのです。やってみて振り返り、またやってみて振り返る。オランダの教育現場ではこの過程が大事にされており、それはまさにコーチングのプロセスと手法だと石川先生は述べます。このプロセスを繰り返し、実践したことがうまくいくと、自己肯定感はより高まるそう。まずは大人が答えを持たずに、子どもの考えを受け止めることが大切です。そして、次に進むためにはどうしたらいいか、この学びからどんな気づきが得られたか、など子どもなりの考えを引き出すように導く「質問力」が必要なのですね。オランダは「先生こそが社会のことを一番知らない」という前提で教育プログラムが作られているそうです。極端な言い方になりますが、それは「社会に出たことがないから」。しかし、私たちが生活している「社会」は、日々ものすごいスピードで変わっていっているという現実があります。だからこそ先生は「教える人」「指導する人」ではなく、子ども一人ひとりの適性を見抜き、適した道に進めるようにアシストしてあげる「コーチ」に徹しているのです。点数で評価しない。通知表は子ども自身の成長の記録博報堂のクリエイティブディレクターを経て、家族の教育環境のためにオランダに移住した吉田和充さんは、小学校に通うお子さんが持ち帰ってきた通知表に非常に驚かされたそう。それは、日本の学校で渡される通知表とはまったく違うものでした。日本との大きな違いは、分厚いバインダーに挟まれた書類のような形式で渡されることです。このバインダーは入学時からずっと同じものを使い続けていて、4歳の最年少学年では絵や工作がファイルされているだけのこともあるそうです。学年が上がるにつれて、全国統一試験の結果なども加わってきます。内容としては、まず担任の先生の総評から入ります。A4サイズ1ページ分にもわたり、生徒のことをかなり詳細に記しているそう。次に生徒自身のコメントです。仲の良い友だちや好きな活動や遊び、授業について自分の言葉で書かれています。このように最初の2ページほどは、先生と生徒双方の総評のようなコメントが書かれているそうです。次にようやく成績に関するページが出てきます。ただし各教科で点数が重視されることはなく、過去の自分と比べた成長率が評価のポイントになります。つまり、すべての評価は『絶対評価』であり、大事なのは「前の学期の自分と比べてどう成長したか」ということだというのです。テストの点数や偏差値を重視しないのは、オランダが国として「学校は自分の適性や好きなことを見つけて、将来の自分の進む道を決める場所」という共通の認識をもっていることにほかなりません。通知表に記されている42個の評価項目の一部をご紹介します。・積極性・人の話を聴く力・リーダーシップ・プレゼン能力・計画性・他人を助ける能力・学校行事への参加度・自己主張力・協調性・独創性日本の学校の通知表でも同じような評価項目がありますが、「プレゼン能力」や「自己主張力」「独創性」などは、これからの社会を生き抜くために、ぜひ身につけたい能力です。我が子の成長と向き合うとき、「テストの点数が上がった」「同級生のほかの子に比べて優れている」という視点で見るのではなく、「1年前に比べて積極的に発言できるようになった」と評価してあげたいですね。***日本でも少しずつオランダ式の教育を取り入れようという動きが出てきているようです。いいところは取り入れつつも、日本独自の優れた教育は否定すべきではありません。目まぐるしく変化する世の中の流れに合わせながらも、常に「子どもにとって何が最善なのか」を考えて導いてあげる必要がありそうですね。(参考)現代ビジネス|「世界一の教育」オランダの小学校は日本とはレベルが違ったStudy Hacker こどもまなび☆ラボ|オランダで大人気「イエナプラン教育」とは?日本でも開校間近“期待のスクール”の魅力。Study Hacker こどもまなび☆ラボ|尾木ママ絶賛!“日本教育の3周先を行く”オランダの「イエナプラン教育」ベネッセ 教育情報サイト|教育にコーチングが根付いている国の子どもは幸福度が高い?[やる気を引き出すコーチング]FINDERS|「通知表」が変われば教育が変わる?オランダの通知表に見る世界一子どもが幸せな理由【連載】オランダ発スロージャーナリズム(11)
2019年06月04日人がきちんと社会生活を営むために欠かせない、ありとあらゆる力を指す「ソーシャルスキル」。ソーシャルスキルが欠乏すると「人とうまくかかわれなくなる」と語るのは、法政大学文学部心理学科教授の渡辺弥生先生。そうであるなら、子どもにきちんとソーシャルスキルを身につけさせたいと親は考えます。その方法を聞いたところ、渡辺先生の答えは「『なんとなく』でいいんです」という意外なものでした。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)必要なソーシャルスキルは年齢によって変わらない親が変に不安ばかりを抱えるのではなく、ポジティブな発想で家庭教育をすれば、子どもは自然にソーシャルスキルを身につけていきます。親がいつもニコニコして「人生って面白いよ!」と伝えてくれたなら、子どもは自然とワクワクした気持ちで毎日を過ごし、友だちや先生といい関係を築くことができるからです(インタビュー第1回参照)。ですが、ソーシャルスキルを子どもに教えるために意識しておいてほしいこともあります。まず、子どもの年齢によるちがいをお伝えします。そもそもソーシャルスキルは人間が社会生活をきちんと営むために必要なものですから、例外こそあれ、基本的には年齢によって必要なスキルは変わりません。たとえば、「人の話はきちんと聞く」ということが大切だということは、大人も子どもも変わりませんよね。でも、年齢によって理解力にはちがいがありますから、それに合わせて教え方も工夫する必要があります。3歳、4歳くらいの幼児なら、「お口はチャックね」というふうに、まずは静かにするということを教えるべきでしょう。年齢が上がって中学生くらいになれば、「相手の方に体を向けて、話の内容に注意しながら」といったように、内面的な部分も含めて教えるという具合です。また、「上手に断る」スキルも年齢を問わずに必要とされるものでしょう。生きている限り、断らなければならない場面はたくさんありますからね。仕事をしている大人ならよくわかると思いますが、なんでも引き受けて結局できないと逆に迷惑をかけることになる。断るスキルも重要なソーシャルスキルのひとつです。なにかを頼まれて断らなければならない場合、大人であれば、まずは「それはお困りでしょうけど……」など相手に共感する言葉をいって、理由と謝罪を添えて断り、できれば代案も出す。これが上手な断り方といえます。でも、幼い子どもがこんな断り方をしたら逆に変ですし、友だちから浮いてしまうかもしれません(笑)。幼児であれば、「駄目〜!」でもいいんです。あとは「どうして駄目なのかを教えてあげてね」と理由を添えることを教えるくらいで十分でしょう。親は子どもに見返りを求めてはいけないしかし、そういった教え方にもガチガチにルールがあるわけではありません。「なんとなく」でいいのです。自分の子どもをしっかり見て、いまの子どもには「『なんとなく』こんなことを教えてあげたらいいかな」という感覚で教えてあげてほしいのです。教育熱心な親たちには、「なんとなく」や「ぼちぼち」「まあいいか」「このくらいで」みたいな感覚が必要だとわたしは思っています。みなさん、教育に対して真面目過ぎるように感じるのです。真面目であることは悪いことではありませんが、その真面目さが弊害を招くことだってあります。真面目な人は一生懸命に努力しますが、人間というのは努力すればするほど相手にも期待してしまうものです。たとえば子どものお弁当に手が込んだキャラ弁をつくったら、やっぱり子どもには「かわいかった!」「美味しかった!」「全部食べたよ!」といってもらいたくなりますよね?でも、子どもからすれば、たとえ幼くてもその期待を感じますから、「『美味しかった』っていわないといけない」「全部食べないといけない」などと思って、伸び伸びと毎日を送れなくなるものです。しかも、子どもがお弁当を残すなどして期待を裏切られると、親は「わたしのお弁当が駄目だったのかな……」なんて無駄に落ち込んだり、不機嫌になったり、ときには理不尽に子どもを怒ったりもする。でも、そもそも親は子どもに見返りを求めてはいけないのです。親が身につけるべき「応答するスキル」子どもに見返りを求めるということは、先に親がなにかをして子どもが応答するというかたちですよね?でも、本来、子どもが発するたくさんの欲求に対して親が応答してやることが大切です。この「応答するスキル」こそ、親に必要とされるもっとも重要なソーシャルスキルです。赤ちゃんの泣き声に対して「なーに?」と応答することは、そのスキルを発揮するべき代表的な場面です。子どもの泣き声を聞いて、なにをしてほしいのか、その要求を親は感じ取ってあげなければなりません。これはソーシャルスキルのなかでいちばんコアなものである、コミュニケーションスキルにも通じるものです。コミュニケーションが上手な人というと話し上手な人をイメージするかもしれません。でも、そうではなくて、「相手にきちんと注意を向けられる」人なのです。子どもを育てる親にはこの力が絶対に必要です。犬を見た幼い子どもが「あ、ワンワン!」といったとします。親は子どもの言葉に応答して犬に注目しながら、「ほんとだ、ワンワンだね」と答えるでしょう。簡単にいえば、これがコミュニケーションです。自分や、自分が関心を向けている「コト」や「モノ」に、相手も関心を持って応じてくれることが、人はもっともうれしいことなのです。コミュニケーションを通じて、子どもは自分が提供した話をちゃんと親が聞いてくれたことの喜びや、親とのつながりを感じます。そして、「自分はここにいていいんだ」と自分の存在価値を感じ取ることになるわけです。これは人間にとって重要なソーシャルスキルである「自尊心」「自己肯定感」を育てることに他なりません。子どものソーシャルスキルを育ててあげたければ、まずは親がきちんと応答してあげること――。それが基本中の基本となります。『感情の正体 ――発達心理学で気持ちをマネジメントする』渡辺弥生 著/筑摩書房(2019)■ 法政大学文学部心理学科教授・渡辺弥生先生 インタビュー一覧第1回:「あきらめない力」も「あきらめる力」も大切!子どもの決断力を伸ばす家庭教育法第2回:我が子の自己肯定感を育むなら“親の基本”の徹底を。「見返りを求める」は絶対NG!第3回:劣等感を自尊心に!寝る前に親子で実践、「レジリエンス」の簡単トレーニング法(※近日公開)第4回:「10歳の壁」ではなくて「10歳の飛躍」!親が我が子の10歳をもっと面白がるべき理由(※近日公開)【プロフィール】渡辺弥生(わたなべ・やよい)大阪府出身。法政大学文学部心理学科教授。筑波大学卒業、同大学大学院博士課程心理学研究科で学んだあと、筑波大学文部技官、静岡大学助教授、ハーバード大学在外研究員、カリフォルニア大学客員研究員等を経て現職。同大学大学院特定課題ライフスキル教育研究所所長も務める。専門は発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学。『まんがでわかる発達心理学』(講談社)、『小学生のためのソーシャルスキル・トレーニング スマホ時代に必要な人間関係の技術』(明治図書出版)、『イラスト版 子どもの感情力をアップする本 自己肯定感を高める気持ちマネジメント50』(合同出版)、『子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗り越えるための発達心理学』(光文社)、『考える力、感じる力、行動する力を伸ばす 子どもの感情表現ワークブック』(明石書店)、『図で理解する発達 新しい発達心理学への招待』(福村出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月04日「ソーシャルスキル」という言葉を知っているでしょうか。直訳すると「社会的な技能」となりますから、なんとなく意味も想像できるかもしれません。いま、子どもたちのソーシャルスキルが不足している、あるいは未熟なままであると危惧しているのが、法政大学文学部心理学科教授の渡辺弥生先生。きちんと社会生活を営むために欠かせないというソーシャルスキル。具体的にはどんなものなのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「バイバイ」のハンドサインもソーシャルスキルソーシャルスキルというと、なにか特別な技能を想像するかもしれませんね。でも、これはみなさんすべてが日常的に使っているしぐさや行動なのです。たとえば、手の振り方次第で相手に「こっちに来て」とも「バイバイ」とも伝えられますよね?このように、社会生活をうまく営むために「こういう場合はこういう振る舞いをする」というフォーム(モジュール:人間の行動のうえで、まとまった社会的機能を有する単位)のようなものです。「うまく営む」というと、「要領良く生きていく」ためのスキルだと勘違いする人もいるでしょう。でも、そういうものではなくて、ある社会に暮らすために誰にも求められているものなのです。電車に乗るときのマナーをイメージしてもらえるとわかりやすいかもしれません。電車でのマナーは、社会生活をスムーズに営むためのものであって、要領良く生きるためのものではないですよね。それらは、かつては親やおじいちゃん、おばあちゃん、近所の大人たちが子どもたちに教えてきたものです。でも、地域との接点が薄れ、核家族化が進んだいまはそれが難しくなってきています。極端にいえば、家庭教育を担うのは親だけという状況。その親が教えることができなければ、子どもはソーシャルスキルを学ぶことができないのです。遊びが多くのソーシャルスキルをもたらすまた、子どもがソーシャルスキルを身につけることが難しくなってきている原因としては、子どもたちが自由に遊べる時間が激減しているということも挙げられます。いまの時代の親は本当に教育熱心です。子どものためを思って塾はもちろんさまざまなお稽古事に子どもを通わせますから、子どもが自由に友だちと遊べる時間はどんどん減っています。でも、本来、子どもは遊びからさまざまなソーシャルスキルを学ぶのです。たとえば、近所の子どもたちと遊ぶうち、年上のお兄さんやお姉さんに優しくされれば、「思いやる力」を学べます。そうして学んだスキルを、今度は年下の子どもたちを相手に発揮することもあるでしょう。また、山の急勾配を登るような遊びなら、何度転げ落ちても粘り強く挑戦を続けるうちに、子どもは「あきらめない力」を身につけます。逆に、遊びのなかで「あきらめる力」を身につけることもあります。たとえば、本当はもっと遊んでいたいのに、日が暮れてしまって遊ぶことを「あきらめた」という経験はみなさんにもあるでしょう?これも立派なソーシャルスキルです。「あきらめる力」は「粘り強さ」の対極にあるものではありません。ときと場合によっては、どこかで妥協することも必要なのです。そうできなければ、次のステップに進んで頑張るということもできないでしょうからね。そういった「決断」が「あきらめる」ということなのです。ソーシャルスキルの不足が招く悪影響ソーシャルスキルは、いってみれば「生きるための総合力」です。それらが不足してしまうと、当然、子どもたちにはさまざまな影響が表れます。その筆頭は、「人とうまくかかわれなくなる」ということ。人間は社会生活を営む動物ですから、「ひとりで生きていける」なんて思っている人であっても、実際にはどこかで人とかかわって生きています。それなのに、人とうまくかかわることができなければ、まわりから「迷惑な人だ」と思われるなどして、幸せな人生を歩むことが困難になります。それから、「うまくかかわれなくなる対象」には「自分」も含まれます。「ソーシャル」というからには他者とのかかわりをイメージすると思いますが、先に挙げた「あきらめない力」や「あきらめる力」がそうであるように、ソーシャルスキルが欠乏すると、自分ともうまくかかわれなくなるのです。「不安ありき」の家庭教育では子どもも不安になるでは、子どもにソーシャルスキルを身につけさせるために親はどうすればいいのでしょうか。わたしは、変に難しく考える必要はないと思っています。なによりも楽しく子育て、家庭教育をすることを心がけてほしいのです。先に、ソーシャルスキルが不足すると人とうまくかかわれなくなるとお伝えしました。すると、「うちの子がそうなったらどうしよう」と思った人もいることでしょう。いまの親を見ていると、多くの人が「不安ありき」の家庭教育をしているように思えてくるのです。自分の子どもが「不登校にならないか」「いじめに巻き込まれないか」といくつも不安があって、そうならないための家庭教育になっているのではないでしょうか。それはすごく残念なこと。子どもは無限の可能性を秘めています。だとしたら、起きてもいない問題をイメージして不安を取り除くような発想ではなく、子どものいいところをどんどん伸ばしてあげるためになにをすべきなのかという発想で、もっとポジティブに家庭教育をしてほしいですね。親が毎日のように不安な顔をしていたら、子どもだって不安になります。でも、お父さんとお母さんが人生を楽しんで、いつもニコニコして「人生って面白いよ!」と伝えてくれたら、子どもはワクワクした気持ちで毎日を過ごせるにちがいありません。「情動感染」という言葉がありますが、気持ちは即時に影響し合うところがあるのです。そうすれば、幼稚園でも小学校でも友だちがどんどんできて、先生ともいい関係を築けるし、自己肯定感が高まり、結果として自然に必要なソーシャルスキルを学んでいくように思うのです。『感情の正体 ――発達心理学で気持ちをマネジメントする』渡辺弥生 著/筑摩書房(2019)■ 法政大学文学部心理学科教授・渡辺弥生先生 インタビュー一覧第1回:「あきらめない力」も「あきらめる力」も大切!子どもの決断力を伸ばす家庭教育法第2回:我が子の自己肯定感を育むなら“親の基本”の徹底を。「見返りを求める」は絶対NG!(※近日公開)第3回:劣等感を自尊心に!寝る前に親子で実践、「レジリエンス」の簡単トレーニング法(※近日公開)第4回:「10歳の壁」ではなくて「10歳の飛躍」!親が我が子の10歳をもっと面白がるべき理由(※近日公開)【プロフィール】渡辺弥生(わたなべ・やよい)大阪府出身。法政大学文学部心理学科教授。筑波大学卒業、同大学大学院博士課程心理学研究科で学んだあと、筑波大学文部技官、静岡大学助教授、ハーバード大学在外研究員、カリフォルニア大学客員研究員等を経て現職。同大学大学院特定課題ライフスキル教育研究所所長も務める。専門は発達心理学、発達臨床心理学、学校心理学。『まんがでわかる発達心理学』(講談社)、『小学生のためのソーシャルスキル・トレーニング スマホ時代に必要な人間関係の技術』(明治図書出版)、『イラスト版 子どもの感情力をアップする本 自己肯定感を高める気持ちマネジメント50』(合同出版)、『子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗り越えるための発達心理学』(光文社)、『考える力、感じる力、行動する力を伸ばす 子どもの感情表現ワークブック』(明石書店)、『図で理解する発達 新しい発達心理学への招待』(福村出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年06月03日明確な答えがない時代を生きる子どもたち。今後、どんな力が求められているのでしょうか?「観察力」「推論する力」「他者を受容して理解する力」「再考する力」「表現力」、そして「自ら学ぶ力」と「コミュニケーション能力」。並べてみれば、きりがありませんね。では、どうすればこれらの能力を身につけることができるのでしょう?その答えとして、上記の全ての力を育てるために有効な手段のひとつ、「対話型鑑賞法」をご紹介しましょう。アメリカ発の新しい美術鑑賞教育法「対話型鑑賞」とは対話型鑑賞法(Visual Thinking Strategies)とは、アメリカ発の新しい美術鑑賞教育法です。対話型鑑賞法について語るうえで欠かせない著作 Visual Thinking Strategies の訳者である、元京都造形芸術大学アートプロデュース学科教授、アート・コミュニケーション研究センターの福のり子氏の言葉をご覧ください。ニューヨーク近代美術館(MoMA)教育部の部長を務めた本書の著者フィリップ・ヤノウィン(Philip Yenawine)は、鑑賞教育における知識偏重型の指導に疑問を抱き、長年の調査・研究・実践を踏まえて新たな指導方法を開発した。それがヴィジュアル・シンキング・ストラテジー(VTS)である。「アート作品は文字に頼らない視覚的なもので、親しみやすい部分と謎めいた部分をあわせ持っている。また、解釈が開かれており、幅広い層に訴えかけるテーマを扱っている。さらに、多様かつ複雑で、概念と感情の両方を喚起するという特性を持っている。」こうした美術作品の特性を活かし、VTSでは対話を介してグループで作品をみるという鑑賞方法を提唱している。ヤノウィンは、対話型鑑賞を通して子ども達にさまざまな力がつくことを、その理論的背景、そして数々の実践例を紹介しながら説得力をもって私たちに語ってくれている。VTSを介して彼らが身につけていく「複合的能力」とは、観察、解釈、根拠をもった考察、意見の再検討、そして複数の可能性を追究する力などである。(引用元:フィリップ ヤノウィン 著, 京都造形芸術大学アートコミュニケーション研究センター 訳(2015),『学力をのばす美術鑑賞』,淡交社.)アートは現象!?鑑賞者と作品の間で何が起こるのか一般的にはアートとは、表現者側の活動として捉えられる側面が強いものです。つまり、表現者が働きかけるためにとった手段、媒体、対象などの作品やその過程が、アートだと思われがちです。しかしアートとは、表現者あるいは表現作品と、鑑賞者とが相互に作用しあうことにより、精神的・感覚的な変動を得ようとする活動だとも言えるでしょう。対話型鑑賞法では、鑑賞者側の活動に重点を移し、作品と鑑賞者の間に起こる現象をアートと捉えています。作品を解釈するのは、鑑賞者自身です。そしてその解釈は、鑑賞者それぞれが育った環境や経験、好みや思考の特性によって異なります。対話を通して鑑賞者の視点から作品を捉えるとき、人間にとっての知覚のメカニズムが反映されます。つまり、個人の認知や認識の過程、さらには思考形成の過程を探ることの手がかりが得られるのです。これは、子どもたちの心や知の発達に大いに役立つことでしょう。対話による鑑賞で「他者を受容して理解する力」が育つ本来人間は、見たいものを見たいようにしか見ません。同様に、聴きたいものを聴きたいようにしか聴きません。これが先入観を生み、相互理解を妨げ、ひいては偏見を生み出す原因となっています。しかし、対話型鑑賞を続けることによって、さまざまな視点や解釈の可能性を受け入れることができるようになります。自分は絶対にAだと思ったのに、隣の子はBだと言っている。さらに、Cだと考えている人もいる。このように、自分とは異なる他者の意見にふれることで、先入観のしがらみから自分自身を解放できるのです。論理的思考力・自ら学ぶ力・観察力・共感力・表現力が養われる対話の経験を通して、論理的な思考力が養われることは言うまでもありません。なぜなら、自身の考えを他者に理解してもらうためには、自分の思考回路を順序立てて説明することが求められるからです。さらに、周囲の人々の様々な意見に出会うことで、もともとの自分の考えを再考する機会にも恵まれることでしょう。同時に、自分自身の視点や思考の特性を知り、検証するという、自己との対話も始まります。自己対話は、自ら自分自身を育て、主体的に学ぶことを学ぶという、セルフ・エディケーション能力への道を拓いていきます。さらに、鑑賞する喜びから感動できる力、作品に対する「観察力」や「共感力」が育まれます。加えて、イメージの構想力や言語による「表現力」、それを相手に円滑に伝え合う「コミュニケーション能力」も伸びていきます。対話を通して培われた「鑑賞する力」は、次第に「表現する力」を育てることにつながっていくのです。もちろん、対話型鑑賞に参加する子どもたちだけでなく、親御さんにも大きなメリットがあります。子どもたちとの対話を通して親御さん自身も、自分の思考の特性に気づかされるはずです。そして、我が子の思考や感性、そこから生じる行動を、より深く理解することができるようになるでしょう。人間の知の基本フレームは、小学生の時期に形成される発達心理学の観点では、人間の知の基本フレームは小学生の時期に形成されると言われています。思考や感性が形成されるこの大切な時期に、あらかじめ定められた解答を単に繰り返すだけの作業や、一問一答式のテスト結果などの目先の成果を優先してしまうと、どうなるでしょう。子どもたちの自ら学び創造する力、じっくりと考える力、他者を理解する力を削いでしまうのではないでしょうか。作品とのまっすぐな対話を通して、将来役に立つであろうさまざまな能力を育んでいくために。他者との深い対話を通して、子どもたちの想像力に富んだ未来を切り拓いていくために。親子の豊かな対話を通して、家族の幸せな時間を共有し、相互理解を実現するために。ぜひ、親子で「対話型鑑賞」に取り組んでいただけたらと思います。次回からは、私がこれまで「対話を通した創造的鑑賞」と称して子どもたちと行なってきた数多くの事例を示しながら、実際の対話による鑑賞の方法をご紹介していきましょう。(参考)■対話型鑑賞法フィリップ ヤノウィン 著, 京都造形芸術大学アートコミュニケーション研究センター 訳(2015),『学力をのばす美術鑑賞』,淡交社.岡崎大輔(2018),「なぜ、世界のエリートはどんなに忙しくても美術館に行くのか」, SB Creative.鈴木有紀(2019),「教えない授業――美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方 」,英知出版.エイミー・E・ハーマン著(2016), 「観察力を磨く 名画読解」,早川書房.上野行一(2011),「私の中の自由な美術-鑑賞教育で育む力」,光村図書出版.上野行一(2014),「風神雷神はなぜ笑っているのか(対話による鑑賞完全講座)」,光村図書出版.奥村高明(2015),「エグゼクティブは美術館に集う(「脳力」を覚醒する美術鑑賞)」,光村図書出版.アメリア・アレナス(2005),「MITE! ティーチャーズ・キット」〈1〉〈2〉〈3〉,淡交社美術手帖編集部(2019),「美術手帖 19年2月号 みんなの美術教育」,美術出版社.■アートを現象として捉えるマルティン・ハイデッガー 著, 関口浩 訳(2008),「芸術作品の起源」,平凡社.ジャック・デリダ著, 高橋允昭 , 阿部宏慈 訳(2012),「絵画における真理」〈上〉法政大学出版局今道友信(1973),「美について」,講談社.佐々木健一(2004),「美学への招待」,中央公論新社.■教育心理学レフ・セミョノヴィチ ヴィゴツキー著, 柴田義松 訳(2001),「新訳版・思考と言語」,新読書社.佐藤公治(2015),「ヴィゴツキーの思想世界――その形成と研究の交流」,新曜社.ジャン・ピアジェ 著, 滝沢 武久 訳(1972),「発生的認識論」,白水社.■対話型鑑賞法造形芸術の効果パウル・クレー 著, 土方定一, 菊盛英夫, 坂崎乙郎 訳(2016),「造形思考」〈上〉〈下〉,筑摩書房.ヴァシリー ・カンディンスキー 著, 宮島久雄 訳(2017),「点と線から面へ」,筑摩書房.
2019年06月02日子どもは、幼年期から児童期、思春期と成長する過程で、変化する環境のなか、たくさんの人と関わるようになります。特に、園生活や学校生活では、友だちとの関係、先生との関係、学習面のことで、不安や悩みを抱えたりストレスを感じたりしてしまうこともあるでしょう。そのようなときに、私たち親はどのような対応ができるのでしょうか。親ができる3つのポイントをご紹介しましょう。不安の感じ方には個人差がある!集団生活が始まるまで、毎日お父さんお母さんと一緒に過ごしていた日常が、ある日を境にがらりと変わり、お友だちや先生との日々が始まります。また、小学校に就学すると、これまで遊び中心だった幼稚園・保育園の生活から、机に向かって勉強をする「学習」が始まります。このような環境の変化は、子どもにとって楽しみでもありますが、同時に不安を感じる原因になることも。不安に感じるかどうかは、個人差があります。同じ場面であっても、子どもによっては不安に感じる子もいれば、そう感じない子もいるでしょう。このように、不安や悩み、ストレスの感じ方はひとりひとり異なるので、親御さんは自分のお子さんがどんなときに不安を感じやすいかをよく観察してみましょう。具体的に、子どもが不安を感じやすいシチュエーションはどんなものが考えられるでしょうか。<幼年期>■母親と離れて、はじめての幼稚園や保育園での生活■園生活や、児童館・プレ幼稚園での集団生活に馴染めない■お友だちとの関係性での不安■トイレで失敗してしまった、失敗してしまうかもという不安<児童期>■じっと座って授業を受けなければいけない■学校の授業中に発言を求められる■苦手な食べ物でも、給食で食べなくてはいけない■勉強や体育などで、友だちができることが自分はできない■クラス替えなどのタイミングなど、友だち関係の不安このように、幼年期や児童期は、園生活や学校生活の中での不安や悩みを抱える場合が多いようです。特に、新生活が始まるタイミングなどは、お子さんの様子を見守っていくことが大切です。子どもの不安やストレスをキャッチするまた、子どもは不安を感じても、大人のように上手に言葉にできないことも。そこで、親御さんがその気持ちを汲み取ってあげたり、体に現れる変化などに気づいてあげたりする必要があります。不安やストレスを感じている子どものタイプは大きく4つに分類できます。■頭に現れるタイプ不安になる、落ち着きがなくなる、悩んでいる様子を見せる■気分や感情にあらわれるタイプイライラする、苦しいと感じる、憂鬱、無口になる、表情がない■身体にあらわれるタイプお腹を痛がる、胃を痛がる、眠れない、おしっこがしたくなる■行動にあらわれるタイプ兄弟などをいじめる、物にあたる、お友達に手を出す、泣く、引きこもる、怒る、抱きつく、指をしゃぶる、甘え行動が増える子どもが不安を抱えている状態では、このような反応を見せる場合が多いと言われています。また、低学年から中学年ぐらいまでの子どもは悩みを言葉にするのは難しいため、「お腹が痛い」など、身体的な不調を訴えるケースが多いのだそう。一方、高学年になると、頭に現れるタイプが優勢になり、頭を抱えて悶々と悩んだり考え込んだりするようになります。どんなことで不安を感じるかに個人差があるように、不安を感じているときの子どもの反応もその子それぞれ。直接不安を口にする子もいれば、口にせず不安な様子を見せる子、身体的なストレス反応で出てくる子などさまざまです。親御さんは、お子さんがどのようなタイプなのかを把握したり、年齢によって反応の現れ方に変化があることを知っておきましょう。子どもが不安を感じていたら、親がすべき3つのことお子さんがいつもと違う様子だったり、不安を口にすることがあったとき、親御さんはどのようなことをすべきなのでしょうか。親御さんがすべき3つのことをご紹介します。<その1>不安やストレスか、病気なのかを判断するNPO法人 子育てひろばほわほわの顧問である永瀬春美さんは、「“おなか痛い”には病気の可能性もあるので、診察を受けることが大事。そのうえで、慣れない新生活に加え、不安な気持ちを表現できないことなどが重なって、腹痛の症状が出ることがあります」と言います。このように、「お腹が痛い」「頭痛がする」など、身体的な不調として訴えてきた場合は、まずは病気かどうかの判断をすることが必要です。毎日一緒に過ごしているご両親であれば、その様子からある程度は判断できると思いますが、やはり小児科へ行って医師の診察を受けることが大切です。医学的に明確な病気や原因が確定できなかった場合に、ストレスを疑ってみるのがいいかもしれません。<その2>子どもの話をじっくり聞いてみる身体的な不調がストレスや不安感からくるものだとわかったら、次は子どもの話をよく聞いてあげましょう。声をかけるときは、困っていることを前提とした声かけをするといいと言います。たとえば「最近〇〇していることが多いけど、大丈夫?」や「何か学校で困っていることはある?」などのように、子どもが困っているのだと訴えやすいように話しかけてみましょう。また、話を聞くときは、子どもの話が終わるまで「聞き役に徹する」ことが重要。子どもの話を聞いている最中、親御さんとしてはさまざまな感情や考えが湧き出てくると思いますが、とにかくまずは聞き役に徹しましょう。子どもの話を遮って、自分の思いを言い出すのは最悪の対応なのだとか。子どもの感情をそのまま受け止めて、「そうだったんだね」と頷いてあげるといいでしょう。教育ジャーナリストのおおたとしまささんも、子どもの気持ちを受け止めることについて以下のように言っています。気持ちが凹んでいるとき、「自分の気持ちをわかってもらえた」と思うだけで、ひとは前に進む意欲を復活させることができます。そういう経験を繰り返すことで「自分は一人じゃない」「やるだけやってみよう」「なんとかなるさ」と思える心の強さが育まれます。(引用元:日経DUAL|子どもの「折れにくい心」を育てるマジックワード)大切なのは、「お母さん(お父さん)はいつでも、あなたの話を聞いてあげるよ」という姿勢を見せること。何か不安なことがあれば、「いつでもお母さん(お父さん)が聞いてくれる」という安心感があるだけで、子どもは勇気を持って不安を乗り越えられるかもしれません。<その3>解決策は子どもに決めさせる「聞く」ことができたら、今度はこれからどうするのかの「相談」をします。子どもがどうしたいのかを聞いて、どのように問題解決をしていくか話し合いましょう。そのときに、親御さんのアドバイスを踏まえたうえで、子どもに今後の方向を選択させます。解決策は子ども自身に決めさせるのがポイントです。谷町こどもセンター(大阪市)で所長を務める、臨床心理士の日下紀子さんも次のように話しています。小学生の場合は、「スモールステップを用意する」「がんばりを認める」ことが大切なのだそう。「勉強や体育で遅れをとっていることがストレスにつながっているのなら、少し頑張れば乗り越えられそうな目標を一緒に立ててあげるのがいいでしょう」(引用元:いこーよ|新生活こそ要注意!)不安を抱くことは、決して悪いことではありません。不安というのは、人間が自己防衛するための本能であり、そのおかげでいろいろなトラブルを回避できたり、乗り越えられたりするのだそう。ですから、無理に不安を取り除いたり回避するのではなく、不安な気持ちが少しでも改善するにはどんなことをしたらいいのか、その方法を親子で一緒に考えましょう。不安や悩みを抱えることは、成長過程において自然なことなのです。***子どもが不安になりやすい時期は、4月の新学期が始まった直後、ゴールデンウィークなど大型連休前後、夏休み明けと言われています。せっかく整って慣れてきた学校生活のリズムが崩れてしまう時期でもあり、子どもは不安やストレスを抱えやすくなりますので、このような時期はとくに注意が必要です。ご家庭では、子どもがサインを出しやすい、不安や悩みを言葉にしやすい環境を作ったり、普段からお子さんの言葉に耳を傾けるようにすることも大切ですね。文/内田あり(参考)さぽナビ|子どものストレス対処法(1)さぽナビ|子どものストレス対処法(2)仙台市教育委員会|子供の不安・変化を見逃さないための生徒指導ハンドブックいこーよ|新生活こそ要注意!子どものストレス原因&親の対処法NHK生活情報ブログ|おなか痛いをわかってほしい日経DUAL|子どもの「折れにくい心」を育てるマジックワード
2019年06月02日2019年3月末にリニューアルオープンした東京都現代美術館(MUSEUM OF CONTEMPORARY ART TOKYO)が、さらに子どもに優しい場所に生まれ変わりました。緑豊かな木場公園に面していて、インドア(美術館)もアウトドア(公園)もたっぷり楽しみながら学べる絶好のロケーション。親子でぜひ訪れたい魅力をご紹介します。東京都現代美術館について東京都現代美術館(通称MOT)は、1995年3月、「現代美術の振興を図り芸術文化の基盤を充実させることを目的として」開館しました。戦後美術を中心にした所蔵作品は約5400点、所蔵図書資料は約27万冊にものぼり、それらは美術図書室で閲覧することができます。展覧会は、絵画、彫刻から建築、ファッションに至るまで幅広く企画され、コンテンポラリー・アートを身近に感じられるようにと考えられています。MOTの基本方針MOTには、3つの基本方針があります。1 文化の創造と魅力あるメッセージの発信(現代美術の国内外への発信/現代美術の保存と継承/変容する価値観への対応)2 現代美術の普及と次世代の担い手を育む(優れた作品等の鑑賞機会の提供/現代美術の普及と子供たちの育成/新進・若手芸術家への支援と創造拠点化)3 あらゆる鑑賞者に開かれた美術館の実現(バリアフリー・ホスピタリティを指向するアートの拠点化/地域の核としての存在)(引用元:MOT東京都現代美術館|MOTについて)特に、当初より次世代アーティストの育成と子どもたちへの教育普及活動に熱心に取り組む姿勢が印象的でしたが、リニューアルでさらに、現代アートと子どもたちをつなぐ架け橋として前進したように感じます。リニューアルのポイントは「子どもに優しい美術館」木場公園に面したガラス張りのMOTはとても開放的で、訪れた全ての人を温かく迎え入れてくれる佇まいです。公園を訪れたファミリーも気軽に利用してほしい、そんな願いもこのリニューアルには込められているそう。MOTの想いが実を結んで、来館者には若いファミリー層も多いといいます。親子を引きつける魅力はどんなところにあるのでしょうか。魅力1:明るくオープンな館内現代アートを扱う美術館ということで、以前はクールな印象があった館内。リニューアル後に訪れると、案内ボードなどの什器には木が多用され、入口から広々と広がるエントランスホールに点在するベンチは円形のコルク製になり、ガラス張りのクールだった空間が柔らかく優しい印象に様変わりしていました。ガラスの外には公園の緑も望め、お子さんにも親しみやすい雰囲気は美術館のハードルを下げるのに一役買っています。魅力2:五感を育む自然豊かなアウトドアスペース木場公園には、植物園、広い芝生の広場、遊具など、子どもの五感を刺激する自然がたっぷりと広がっています。その中にある、MOTのアウトドアエリアにも工夫が。サウンドアーティスト鈴木昭男氏の作品「—道草のすすめー『点音(おとだて)and “no zo mi”』」が、美術館周辺に点在しているのです。耳マークのプレートの上で “音風景” に耳をすませば……音に集中することで、何気ないいつもの風景の中に、新しい発見やイマジネーションが広がります。自然と人工物であるアート、両方を楽しむことで、子どもたちの感性はぐんぐん広がりそうですね。魅力3:こどもとしょしつ一新された図書室の一角に新しくできた「こどもとしょしつ」。黄色いカーペットが子どもの好奇心を盛り上げてくれそうな可愛らしいスペースです。広くはありませんが、アートをテーマにしたこども向けの本が充実しています。日本語コーナーと英語コーナーがあり、英語のお勉強にもなりそう。有名な画家をテーマにした本から、厳選された絵本まで、本屋さんではなかなか見つからない美術に関する貴重なセレクションとなっています。貸し出しはされてないそうですので、丸テーブルやベンチに座って、興味のままに楽しんでほしいですね。魅力4:ギャラリークルーズやワークショップの開催アートの教育普及に熱心に取り組む姿勢はそのまま継続され、一般向けのギャラリークルーズやワークショップ、学校の授業の一環として受け入れるスクールプログラムなどが積極的に行われています。ギャラリークルーズやワークショップは不定期開催ですので、ウェブサイトでときどきチェックされることをオススメします。魅力5:遊びココロいっぱいのカフェやレストラン親子で利用しやすくなった大きな利点が、レストランのリニューアルです。子ども向けメニューの充実、広々した空間に加え、美術館内のレストランならではの、アートをテーマにした楽しい工夫があるのです。■メニューが塗り絵メニューの裏がモナリザの塗り絵になっています。ダ・ヴィンチの気分で色をつけてみましょう。■絵になる席いくつかの席には変わった仕掛けが。壁や天井に鏡の額縁が飾られています。そこに映るのは――なんと自分たちの姿!気がついたら店内を彩る装飾の一部になっています。■アトリエ彫刻が2つ置いてあるキッズスペースで、自由にぺたぺたと色を足したり、引いたり。毎日変化するアート作品となっています。大人がアートを嗜むだけではなく、子どもにも学びがたくさんつまった楽しい美術館に生まれ変わったMOT。実際に楽しそうに館内で過ごすお子さんたちの姿がありました。遊びの延長でアートと触れ合える美術館は貴重な存在となりそうです。【MOT東京都現代美術館】東京都江東区三好4丁目1−1(木場公園内)開館時間:10:00~18:00(入場は閉館30分前まで)休館日:月曜日観覧料:コレクション展(常設)一般 500円(400円)/大学・専門学校生 400円(320円)高校生・65歳以上 250円(200円)/中学生以下 無料***現代アートは、大人の凝り固まった頭と感性では理解しにくいものも正直あります。そんな新しい感性の作品は、まだ頭が柔らかい子どもたちにこそ素直に響くのかもしれません。アーティストの斬新な発想が、子どもたちの自由な発想と出会ったとき、とてもおもしろい反応がありそうですね。企画展は小学生以下、コレクション展(常設)は中学生以下無料ですので、ぜひ気楽に訪れてみてください。写真◎長野真弓(参照)MOT東京都現代美術館100本のスプーン 東京都現代美術館内東京都公園協会|木場公園
2019年06月01日「本選びのプロ」がとっておきの情報を教えてくれる連載『まなびの本棚』第6回です。少しずつ夏の訪れを感じ始めるこの時期、子どもたちにとっては楽しいイベントが盛りだくさんですね。外で遊ぶ機会も増える時期ですが、自然の中で感じた「なぜ?」は家に持ち帰って、親子で一緒に答えを探してみましょう。図鑑や本を活用すれば、子どもの学びはさらに深まっていきます。この連載では、日販図書館選書センターで選ばれた本のランキング、そして選書のプロ・コンシェルジュによるコラムをご紹介します。きっと子どもの本選びのお役に立つはずです。選書センターについて、詳しくはこちらをお読みください→図書館司書や教育関係者が足繁く通う『日販図書館選書センター』って知ってる?今月の人気図書ランキング1位世界一おもしろい国旗の本ロバート・G.フレッソン河出書房新社2位ひなにんぎょうができるまで人形の東宝 監修田村 孝介 写真ひさかたチャイルド3位イニエスタ スペインの天才サッカー選手マッツ・オールドフィールド 著KADOKAWA4位あめだまペク ヒナ 著長谷川 義史 翻訳ブロンズ新社5位チコちゃんに叱られる海老 克哉 文オオシカ ケンイチ 絵文溪堂(※2019年4月集計)1位の『世界一おもしろい国旗の本』は、美しいイラストと文章で国旗の歴史を丁寧に紹介しているので、調べ学習にぴったりです。リビングに置いておけば、テレビでニュースやスポーツの試合を観るときに役立つでしょう。2位の『ひなにんぎょうができるまで』は、新しい切り口のひな祭りの絵本です。ひな人形が製作される過程を通して、日本文化への興味がわいてくるはず。そして5位は、子どもたちに大人気のチコちゃんの“エピソード・ゼロ”が描かれた絵本です。好奇心旺盛でなんでも知っているチコちゃんの誕生秘話がここに!コンシェルコラム"本選びのプロ"選書センターコンシェルジュのおすすめの本小学校の英語教育改革目前!はじめての英語本にぴったりの1冊いよいよ新学期が始まり、何もかも新しくなってウキウキしますね。そんななか、学習指導要領も新しくなります。小学校では来年度から、中学校では再来年度から全面実施となります。新学習指導要領には「小学校の英語教育の改革」が記載されています。英語の科目では、現在5、6年生が学んでいる「外国語活動」が3、4年生で導入され、5、6年生では「英語」が正式な教科として扱われるようになります。そこで今回は『ゆかいなアルファベットだいずかん』(偕成社)をご紹介します。かわいいイラストで、AからZまでのアルファベットを紹介しているのですが、その紹介方法がとってもユニーク。たとえば「Z」は「ZOO(動物園)」のページなのですが、その中で動物園にまつわるAからZで始まる言葉も一緒に掲載しているのです。同じページの中で、「E」はエレファント、「T」はタイガーといったように、AからZすべてを紹介しています。ほかにも「鳥」「昆虫」「洋服」などをテーマとしたページがあり、いろいろな言葉を探すうちに英語に親しむことができるので、はじめての英語本にもぴったり。さがし絵本としても使える工夫がされているので、何度も楽しめるところもポイントです。『ゆかいなアルファベットだいずかん』アラン・サンダース 作高津 由紀子 訳外山 節子 監修偕成社
2019年05月31日「フレームリーディング」という言葉をご存じでしょうか?「文章全体の構造や内容をとらえる力」を育むことを目指した国語の授業スタイルのことです。フレームリーディングによって子どもはどんな力を得ることができるのでしょう。フレームリーディング研究と指導の第一人者である、筑波大学附属小学校の青木伸生先生にお話を聞きました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)文章全体をつかみ、より深く内容を理解するフレームリーディングとは、文章を細切れにして読むのではなく、文章全体をつかんで深く内容を理解するための手法です。まずは文章のなかにいくつの出来事や具体例が書かれているのかといったことを大雑把につかみ、そのあとで必要に応じて詳しく読んでいく。そのふたつの行為をいったりきたりと繰り返すことで、文章をより深く理解し、最終的には自分の考えを持つことが目的です。では、具体例で示してみましょう。次の文章をご覧ください。【1】ドングリのからが落ちています。【2】誰がドングリを食べたのでしょうか。【3】リスがドングリを食べました。【4】リスはドングリに穴を開けて中身を食べます。【5】バナナの皮が落ちています。【6】誰がバナナを食べたのでしょうか。【7】サルがバナナを食べました。【8】サルはバナナの皮をむいて中身を食べます。まずは全体を読んだあとに、子どもたちには登場した動物を数えさせます。この例ではリスとサルの2種類。そして、出てきた順番も聞きます。なぜなら、小学低学年の国語では「順序」をとらえられるようになることが重要だからです(インタビュー第2回参照)。続いて、どこからどこまでがどの動物の話なのかを聞く。【1】から【4】がリスで、【5】から【8】がサルの話ですね。こうして、話のまとまりを目に見えるかたちで整理してあげるわけです。次は、リスとサルの話を比べて、「同じところがあるかな?」と聞いてみます。子どもたちは、「誰が○○を食べたのでしょうか。」が同じだと気づき、それぞれのまとまりのなかで2番目に書かれていること、次の3番目にはその答えが書かれているといったことにも気づきます。そのように、子どもが文章の構造をどんどん発見していくように教員がリードする。こうして、ただ単に動物がものを食べたという話の内容の確認ではなく、文章の構造を子どもたちが自分で発見するという授業内容にしていくわけです。すると、別の文章を読むときにも、子どもたちは「話のまとまりはどうなっているのだろう」とか「どこが同じなのだろう」といった目のつけどころを持つようになります。そういった習慣こそが、文章を読むこと、しっかり理解することの楽しさにつながっていくのです。誰もが苦手な読書感想文も楽々進められる!?じつはこの手法は、2020年から小学校で実施される新学習指導要領で推奨される文章の読み方とほぼ一致しています。新学習指導要領では、「構造と内容の把握」というものが最初にあり、次に「精査・解釈」という詳細な読解がある。そして、それらをいったりきたりと繰り返すことで「考えの形成」ができるとしています。表現はちょっと難しくなっていますが、これは最初に説明したフレームリーディングの手法そのものですよね。このフレームリーディングが身につくと、文章を読むこと以外にも、さまざまな場面でその力を生かすことができます。まずは「思考」する――考えるときです。最初に全体をとらえたり俯瞰したりすることは、ものごとの本質をとらえるための思考パターンとしてとっても大事ですよね。思考の対象となるものごとの全体を見渡してなにが起きているのか、なにが問題なのかをとらえられなければ、思考することはできません。それができたら、今度は大事なポイントをとらえて切り口を見つける。それらを繰り返すことで、自分なりの結論やアイデアをまとめられるようになるわけです。さらに、フレームリーディングは「アウトプット」にも生かせるものです。国語の授業におけるアウトプットというと「作文」ですね。文章全体の構造を理解できるようになれば、物語や説明文の展開のパターンというものが見えてきます。たとえば、文章のはじめに結論が出てくる頭括型、最後に結論がある尾括型、どちらにも結論がある双括型などです。もちろん、低学年のうちから頭括型といった言葉は使いません。わたしの授業では、それぞれ頭型、お尻型、サンドイッチ型と教えています。これらのパターンを文章のスタイルとしてしっかり認識していれば、「今日の校長先生のお話を頭型で書いてみよう」という課題を出しても、子どもたちはスムーズに文章を書けるというわけです。フレームリーディングの基本は「数える」と「選ぶ」にあるフレームリーディングについて学んだことがあるという人はあまりいないでしょうから、「家庭では生かせそうにないな」と思うかもしれませんね。でも、家庭でもできることがあります。フレームリーディングは、先の例で動物の数を数えたように、まずは文章に出てくるものを「数える」ということが基本中の基本です。それが全体を見渡すことになるからです。ある物語の登場人物や出来事の数がわかるだけでも、ストーリー全体の輪郭がなんとなく見えてくるように感じませんか?ですから、家庭で子どもと本を読んだときにも、「お話のなかにいくつの動物が出てきたかな?」といったふうに聞いてみてください。子どもは読み返しながら「2匹!」というふうに答えるでしょう。それで、子どもはお話全体をなんとなく見渡すことができます。それから、重要な内容に的を絞る、つまり焦点化するときには、「選ぶ」ということをします。「お話のなかに出てきた動物のなかで、いちばんすごいと思ったのはどれ?」と聞いてみると、子どもはまた読み返して「きちんと皮をむいてバナナを食べるサルはすごい!」というふうに答える。この時点ですでに内容を詳しく読み込むことになっている、「焦点化した読み」になっているのです。「数える」と「選ぶ」。そのふたつをやらせるだけで、子どもの頭のなかでは、全体を見る、詳しく読むというフレームリーディングの基本を繰り返すことになります。家庭でも簡単にできることですから、ぜひチャレンジしてみてください。『青木伸生の国語授業 3ステップで深い学びを実現! 思考と表現の枠組みをつくるフレームリーディング』青木伸生 著/明治図書出版(2017)■ 筑波大学附属小学校教諭・青木伸生先生 インタビュー一覧第1回:子どもの主張はくみ取らなくていい!親だからこそできる、我が子の国語力アップ法第2回:「宿題の定番」になるのも頷ける。意外だけどすごく重要な「音読」の4つの狙い第3回:「文字を見るのも嫌!」子どもを国語嫌いにさせないために、親がすべき低学年からの工夫第4回:作文力アップも期待できる!文章の読み方の新習慣「フレームリーディング」とは【プロフィール】青木伸生(あおき・のぶお)1965年生まれ、千葉県出身。東京学芸大学卒業後、東京都の教員を経て現在は筑波大学附属小学校教諭。全国国語授業研究会会長、教育出版国語教科書編著者、日本国語教育学会常任理事、筑波大学非常勤講師なども務める。近年はフレームリーディングの専門家としても注目を浴びる。『ことばの事典365日』(小峰書店)、『青木伸生の国語授業 フレームリーディングで説明文の授業づくり』(明治図書出版)、『青木伸生の国語授業 フレームリーディングで文学の授業づくり』(明治図書出版)、『ゼロから学べる小学校国語科授業づくり』(明治図書出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年05月31日「子どもの理科離れ」――。もう何年も前から聞かれる言葉です。では、「国語」の場合はどうなのでしょうか?とくに、子どもの頃に国語が苦手だったという親御さんの場合、自分の子どもも国語を敬遠するようにならないかと心配していることでしょう。お話を聞いたのは、全国国語授業研究会会長や教育出版国語教科書編著者も務める筑波大学附属小学校の青木伸生先生。国語に対する子どもの接し方の現状、さらに、子どもを国語嫌いにさせないための方法を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)二極化している子どもの国語好きと国語嫌いいま、子どもたちの国語に対する好き嫌いは、二極化しているように感じますね。国語が好きな子どもは自分でどんどん本を読んでいますし、逆に教科書の文字を見るのも嫌だという子どももいます。その差が大きく広がっていくと、後者の子どもは学年が上がるほど身につけるべき国語力を取り返すのが難しくなりますから、とても心配しているところです。子どもの国語離れを進行させないためにも、教科書のつくり手もいろいろと工夫はしています。お子さんがいる人なら、以前と比べていまの教科書はイラストや写真が豊富ですごくカラフルになっていることはご存じでしょう。というのも、いまの子どもは生まれながらにして映像などさまざまに刺激的な情報のなかで生きていますから、教科書にもある程度の刺激がないと心が惹かれないからです。ただ、入り口はそれでもいいとは思いますが、そこからいかに文字に意識を向けさせるかということが重要な課題だと感じています。読むことそのものの面白さや楽しさといったものを感じられないと、学年が上がり、教科書がシンプルになって文字が増えたときに拒絶反応を起こしかねないからです。もちろん、そうさせないための努力は小学校でもしています。たとえば、図書室で教員が読み聞かせをして、その本に関連する別の本をみんなで探して読むといった、「図書」の時間の活動もそのひとつ。「今回は昔話を探そう」「『繰り返し』があるお話を探そう」といったふうに、あるテーマを持って読むことの面白さを感じさせるための活動です。教科書の「本の紹介コーナー」に注目こういうことが必要となっている背景には、家庭環境が以前と変わってきたことも大きいように思いますね。いまは誰もがスマホやタブレットを持っています。それらの端末で本を読んでいる親御さんの家庭なら、以前の一般家庭より本や雑誌の数は減っている。新聞を取っていないという家庭も多いでしょう。そうすると、家庭で子どもが文字に触れる機会も自然に減っているはずです。だからこそ、子どもを国語嫌いにしたくないのであれば、家庭でいかに本に親しませるかということが大切になります。そのスタートとしては、やはりむかしながらの絵本の読み聞かせがいちばんでしょうね。親御さんのひざに抱えられて絵本を読んでもらえれば、子どもは間違いなく本に興味を持つようになります。お父さん、お母さんに絵本を読んでもらったという記憶は強く残るものです。みなさんにも、そういう記憶がある人も多いのではないですか?その経験によって、子どもは本の面白さに惹かれるようになっていきます。子どもがもう少し大きくなって小学生になったら、国語の教科書に注目するのもおすすめです。というのも、学習指導要領自体が読書に力を入れているため、いまの教科書には「本の紹介コーナー」がたくさんあるからです。たとえば、宮沢賢治の作品のページなら、宮沢賢治の他の作品がいくつも紹介されています。気に入った作家や作品に関連する作品、シリーズ作品を読んでいくというのは、まさに本が好きな人間の典型的な読書法ですよね。そういったことを教科書が手助けしてくれているわけですから、それを活用しない手はありません。読書を通じた「親との対話」でもっと本が好きになるまた、小学生になってひとりで本を読めるようになったからといって、親が「これを読んでごらん」と押しつけるだけということは避けましょう。そうではなく、子どもが自ら興味を持って読む本に対して、親御さんもしっかり興味を示してあげてほしいのです。日常の読書によって子どもがさらに本に興味を持てるかどうかは、そういった場面での「親子の対話」によって大きくちがってきます。子どもが音読をしてくれたのなら、思ったことを子どもに伝えてみてください。「いま読んでもらったお話、お父さんも子どもの頃に読んだよ」とか「子どもの頃に読んだときと感じ方がちょっとちがったなあ」といったささいなことで十分です。子どもは「むかし、お父さんも読んだんだ」とか「お母さんはそういうふうに思ったんだ」といったことを感じます。そうやって、自分が本を読んだことでお父さんやお母さんがなんらかの反応を示してくれたのなら、子どもは「もっと上手に読みたい」と思うものですし、さらには、自分なりの感想を持っていないと「お父さんやお母さんとちゃんとお話ができないぞ」とも思うもの。親がきちんと反応を示すことで、子どもは本の中身をもっときちんと読もうとするようになるのです。このようにして親と対話をしながら本に親しむうち、子どもはセリフのいいまわしや物語の伏線といったものに自分なりに面白さを感じられるようになっていきます。それは、「自ら発見する」ということに他なりません。これまでの学校の勉強にありがちだった受け身の姿勢ではなく、能動的な姿勢を手に入れるということなのです。その姿勢こそが、国語という教科に限らず、のちのちの学力の向上につながるということは容易に想像できるのではないでしょうか。『青木伸生の国語授業 3ステップで深い学びを実現! 思考と表現の枠組みをつくるフレームリーディング』青木伸生 著/明治図書出版(2017)■ 筑波大学附属小学校教諭・青木伸生先生 インタビュー一覧第1回:子どもの主張はくみ取らなくていい!親だからこそできる、我が子の国語力アップ法第2回:「宿題の定番」になるのも頷ける。意外だけどすごく重要な「音読」の4つの狙い第3回:「文字を見るのも嫌!」子どもを国語嫌いにさせないために、親がすべき低学年からの工夫第4回:作文力アップも期待できる!文章の読み方の新習慣「フレームリーディング」とは(※近日公開)【プロフィール】青木伸生(あおき・のぶお)1965年生まれ、千葉県出身。東京学芸大学卒業後、東京都の教員を経て現在は筑波大学附属小学校教諭。全国国語授業研究会会長、教育出版国語教科書編著者、日本国語教育学会常任理事、筑波大学非常勤講師なども務める。近年はフレームリーディングの専門家としても注目を浴びる。『ことばの事典365日』(小峰書店)、『青木伸生の国語授業 フレームリーディングで説明文の授業づくり』(明治図書出版)、『青木伸生の国語授業 フレームリーディングで文学の授業づくり』(明治図書出版)、『ゼロから学べる小学校国語科授業づくり』(明治図書出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年05月30日“モッタイナイ”何気なく使っている言葉ですが、その意味について深く考えたことはあまりないのではないでしょうか。そんな、日本人には馴染み深いその言葉に、深い感銘を受けた外国の方がいました。環境分野初、そしてアフリカ人女性として初のノーベル平和賞を受賞されたケニア人、ワンガリ・マータイさんです。世界共通語として ”MOTTAINAI” を広めるムーブメントは共感を呼び、日本では大手企業や文科省、金融庁も支援するようになったその活動は、子どもの学びの場としても広がっています。このすばらしい取り組みについてご紹介します。ワンガリ・マータイさんとMOTTAINAIプロジェクトについてワンガリ・マータイさんは、グリーンベルト運動創設者、ケニア共和国の元環境・天然資源省副大臣であり、生物学博士です。国連平和大使も務め、ノーベル平和賞、旭日大綬章を受賞されています。グリーンベルト運動は環境保護と女性の社会参加を植樹を通して推進する運動で、政府の弾圧にも負けず、植えた苗木はこれまでに5,100万本にもなるそうです。そんなマータイさんが2005年に来日した際、出会った言葉が “MOTTAINAI” でした。彼女はそこに、こんな意味を見出しました。環境3R + Respect = もったいないReduce(ゴミ削減)、Reuse(再利用)、Recycle(再資源化)という環境活動の3Rをたった一言で表せるだけでなく、かけがえのない地球資源に対するRespect(尊敬の念)が込められている言葉(引用元:MOTTAINAI|MOTTAINAIについて)サスティナブル(持続可能)な社会や暮らしの実現のために、環境を守るアイコトバとして、“MOTTAINAI” はマータイさんによって世界に発信されたのです。【MOTTAINAIキャンペーン活動】日本では、毎日新聞社、伊藤忠商事、イオンなどの企業の賛同と協力を得て、次のような活動が行われています。■MOTTAINAI GREEN PROJECTマータイさんの意志を継いだ、環境保全のためケニアでの植林活動。■フリーマーケット限りある資源の有効利用を目的に、毎週末東京近郊を中心に行われている。収益金はグリーンベルト運動、教育支援金(アフガニスタン、パキスタン、スーダンなど)、エコバスの燃料などに活用。■オリジナル商品の販売プロジェクトの理念に基づいた商品を販売。得た収益は環境保護活動のために寄付。■イベント開催(MOTTAINAIキッズタウンTOKYO、富士山ゴミ拾い大会)MOTTAINAI活動の認知度を高め、子どもたちに「お金の大切さ」や「モノを大切にする心」を学んでもらうためのイベントを定期的に開催。売るのも買うのも子どもだけ!キッズフリーマーケット活動の中で興味深いのはMOTTAINAIキッズフリーマーケットです。2017年、2018年に池袋で行われた際には、小池百合子東京都知事も視察に訪れています。また、文部省、金融庁も支援するこのイベントは、大人はいっさい関わらず(サポートスタッフ以外)、売るための商品選びから値段決めなどの準備から販売、売上集計まで、全て子どもが行います。会場に入れるのは子どものみ。お買物も子どもが自分で好きに行うのです。決まりごとは次の通りです。出店料:300円(一部がグリーンベルト活動に寄付されます)出店対象:小学3〜6年生価格の上限:500円(カードゲームは300円)売ってはいけないもの:たべもの、のみもの、モデルガン、壊れているもの、くじ引き、福袋お店を出すときに用意するもの:床に敷くビニールシート、袋(お客さん用)、お金を入れるポーチやポシェット、お釣り、電卓、メモ帳とペン(売上記録用)☆売る側も買う側も入場は子どものみ!(大人は柵の外から見学ができます)☆出品商品は自分の持ち物または手作りのものから選びましょう「お店屋さんごっこ」の延長として楽しみながらも、実際のお金の受け渡しが伴うことで、貴重な社会体験の場となります。そして、商品を選んだり、作ったりするときは、お客さんの喜ぶ顔を想像しながら、売るための陳列やPOPの工夫、値段づけにも頭を使うでしょう。そのうえ、現場で商品を売るときは、値段交渉をしたり商品の使い方を説明したりすることでコミュニケーション能力が全開になり、最後に売上集計をすることでお金の扱い方を学びます。「自分のおもちゃを手放す寂しさ」「自分がいらないものでも、ほかの子が喜んでくれる嬉しさ」「お金を稼いだ達成感」など、さまざまな感情を体感した喜びは格別のようです。実際参加したことのある子どもたちは、帰り道にフリマのことを興奮して話してくれるそうのだそう。また、お買い物する側も、予算の中でいかに自分の欲しいものを得るか考えます。いつも隣でアドバイスしてくる親はいないので、何を買うかは完全に自由!そんな体験は滅多にないでしょうから、それも貴重な機会ですよね。これは、大人が思っている以上に、子どもには特別な体験のようです(お買い物は低学年のお子さんでも可能です)。「お金の大切さ」「稼ぐことの大変さ」「モノを大切にする心」「コミュニケーション力」などを実体験として学べるキッズフリーマーケットは、関東近郊を中心に頻繁に行われています。地方で行われることもあるようですので、こちらでスケジュールをチェックしてみてください。***当日は保護者が関われないということで、大人のほうがドキドキしてしまいそうですが、これまでたくさん行われたイベントでも、子どもたちだけで立派にマーケットは成立しているようです。親が子どもの成長に感動する場ともなりそうですね。(参考)MOTTAINAIキッズフリーマーケットMOTTAINAIOZONE|キッズフリーマーケット伊藤忠商事|循環社会型環境ブランド『MOTTAINAI』の展開ウィキペディア|もったいない
2019年05月29日子どもが受けている国語の授業の内容は把握していても、その「狙い」まで理解しているという親御さんは少ないはずです。現在、国語の授業はどんな狙いを持っておこなわれているのか――。全国国語授業研究会会長や教育出版国語教科書編著者も務める筑波大学附属小学校の青木伸生先生に、その狙い、家庭教育にも取り入れることができる勉強法を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)小学校低学年、中学年における国語授業の狙い小学校の国語の授業は、学年ごとにそれぞれ「狙い」が決まっています。現在の学習指導要領でいうと低学年、中学年、高学年でわかれていて、低学年の狙いは「順序」というものです。国語の勉強をはじめたばかりの低学年の場合、まずは物語や説明文の順序をとらえて読むということが出発点になります。物語なら、話のなかにどんな人が出てきたのか、そしてその人たちはどんな順番で出てきたのかといったことをとらえることが、文章の理解には欠かせません。また、説明文なら、どんな話がどういう順番で書かれているのか、「はじめに」「次に」「終わりに」といった説明のプロセス、組み立てを意識できる必要がある。文章のなかに出てくる言葉の順番やつながりを見つけることが、文章を理解するためのはじめの一歩なのです。そして、中学年になると、その狙いは「中心点」というものに変わります。これは、段落のなかの要点や、文章全体で筆者がいちばんいいたいことはどこに書かれているのか、物語なら山場の場面はどこかというような、大事なところを見つけようというものです。「音読」が子どもにもたらすさまざまな効果小学校の国語の授業というと、「音読」を思い浮かべる人も多いでしょう。大人になって音読することはほとんどないと思いますが、小学校では定番、必須の内容ですよね。もちろん、音読にも重要な狙いがあります。これは、とくに低学年の子どもたちにとって大切なものです。その狙いのひとつは子どもたちの「体づくり」。ちょっと意外に思うかもしれませんね。音読では、しっかり両足を床につけておなかから声を出すように指導します。そうすることで、まだ体が小さい低学年の子どもの体幹をつくるということを意識しているのです。また、聞き手を意識させて読ませることで、「声の大きさの調整」をできるようにさせることも重要な狙いです。低学年の子どもたちの場合、近くにいる、遠くにいるといった聞き手のちがいによって声の大きさを調整することがまだ上手にできません。声の大きさのほか、発する言葉の歯切れの良さといったものも含めて、聞き手に的確に声を届ける練習をさせるのです。それから、「日本語のリズムをつかむ」ことも狙いのひとつ。低学年の国語の教科書には谷川俊太郎の『かっぱ』のようなリズム良く読める詩が多く登場します。それを声に出して読むことで、言葉のリズム、日本語の響きを実感しながら体に入れていくわけです。また、音読すれば自分の声を自分で聞くことになりますよね。目で文字を追うだけではなかなか文章を理解できない低学年の子どもも、言葉を目で追いながら耳からも入れることで理解を深めることができるのです。親の問いかけで子どもの読解力を高める子どもの国語力のベースを固めるためにも、とくに低学年、中学年のうちは家庭でも子どもに音読をやらせてみてください。それにあたって、ひとつ親御さんにアドバイスをしておきましょう。物語は会話文とそれ以外の地の文で構成されています。そのうち、会話文の読み方が、子どもがどれだけ登場人物の気持ちを理解しているかの指標になるのです。音読できたことを褒めながら、「さっきのセリフをとっても大きな声で読んだのはどうして?」とか「小さな声で読んだのはどうして?」といったふうに問いかけてみてください。子どもは自分なりに考えて、「すごくうれしそうだったから」「寂しそうだったから」といったふうに答えるはずです。本人は無意識のうちに声の大きさや読む調子を変えていたかもしれません。でも、その振り返りをさせることが、登場人物の気持ちを考えさせ、物語の読解力を高めるということにつながるのです。「書き写し」は範囲ではなく時間を決めるまた、音読と同様に家庭でもできることとしては、「書き写し」もおすすめです。わたしが低学年、中学年の子どもに出す宿題は音読と書き写しが中心です。それだけわたしも重視しているものだということです。書き取りの効果は、先にお伝えした「自分の声を聞いて理解を深める」という音読の効果と似たものです。国語の教科書でも子どもが好きな本でもいいので、ある作品の書き写しをする。手で書いて写すうち、「この言葉はさっきも出てきたな」とか、「さっきの言葉と表現が変わったな」といったふうに子どもにはたくさんの発見があります。目で文字を追っただけでは感じとれないものが明確に見えてくるのです。ただ、書き写しをさせる場合には、「今日はここからここまで」と範囲を決めることは避けましょう。そうしてしまうと、文章を読んだり書いたりすることが苦手な子どもにとってはただただつらい作業になってしまいます。勉強を毛嫌いするようにもなりかねません。そうではなくて、「1日3分」というふうに時間を決めるのです。3分たったら、たくさん書き写しをしていても、全然書けていなくても終わり。これが書き写しを長続きさせるコツです。しかも、これには別の効果も期待できます。範囲を決めた場合、その範囲を書き写さなければ終わりませんから、子どもにとってはただ書き写すことが目的になってしまう。結局、機械的に書くことになって、中身が頭に入っていかないのです。一方、時間を決めた場合は、どれだけ書き写すかは自由ですから、たとえ短時間でも集中することになります。家庭での音読と書き写し。これらをやるだけで、その後の国語の成績は大きくちがってくるはずです。『青木伸生の国語授業 3ステップで深い学びを実現! 思考と表現の枠組みをつくるフレームリーディング』青木伸生 著/明治図書出版(2017)■ 筑波大学附属小学校教諭・青木伸生先生 インタビュー一覧第1回:子どもの主張はくみ取らなくていい!親だからこそできる、我が子の国語力アップ法第2回:「宿題の定番」になるのも頷ける。意外だけどすごく重要な「音読」の4つの狙い第3回:「文字を見るのも嫌!」子どもを国語嫌いにさせないために、親がすべき低学年からの工夫(※近日公開)第4回:作文力アップも期待できる!文章の読み方の新習慣「フレームリーディング」とは(※近日公開)【プロフィール】青木伸生(あおき・のぶお)1965年生まれ、千葉県出身。東京学芸大学卒業後、東京都の教員を経て現在は筑波大学附属小学校教諭。全国国語授業研究会会長、教育出版国語教科書編著者、日本国語教育学会常任理事、筑波大学非常勤講師なども務める。近年はフレームリーディングの専門家としても注目を浴びる。『ことばの事典365日』(小峰書店)、『青木伸生の国語授業 フレームリーディングで説明文の授業づくり』(明治図書出版)、『青木伸生の国語授業 フレームリーディングで文学の授業づくり』(明治図書出版)、『ゼロから学べる小学校国語科授業づくり』(明治図書出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年05月29日ある日曜日のこと、テニスのレッスンから帰って来た下の子供が「何をしようかー」と言いました。私はちょっと困ってしまいます。彼がこう言うときは決まって、インターネットで動画を見たいか、コンピュータゲームがしたいのです。親としては、8歳の子供に、長時間コンピュータのスクリーンを見させたくはありません。自転車を持って近所の公園に行けば、たいていご機嫌ですが、外は雨。残念ながらそういうわけにもいきません。興味をひきそうなボードゲームはありますが、家事もたまっていて、今すぐ彼のそばに座って一緒に遊んであげるわけにもいきません。「そうねえ、テレビを見るのはどうかしら」「えー、テレビー?」「デイヴィッド・アテンボロー(イギリスの有名な自然番組のプレゼンター)の番組を録画してあるわよ。それをつけてあげましょう。嫌だったら日本語のアニメのDVDもあるわよ」言っているうちになんだかおかしくなってしまって、笑い始めてしまいました。新しいメディアが登場するたび、私たちは不安を抱く私が小さい頃は、子供にテレビを見せる親が大きな問題になっていました。マンガも子供の教育上良くないと散々言われていたものです。けれども自分が親になった時には「インターネットは子供に良くないからテレビを見せよう」と考えているのです。マンガに至っては近年、日本を代表する表現芸術の一つとしての地位を世界的に確立しつつあります。今年は大英博物館で日本のマンガの展示会も開かれていますから、みんなで出かけようと話しているところです。ネットで動画を見ているよりは、日本語でマンガを読んでいてくれた方が嬉しいくらいです。メディアの理論ではしばしば指摘されることですが、新しいメディアが登場するたび、私たちは不安を抱きます。インターネットの前は、ファミコンでした。その前はテレビ。ラジオやマンガ、映画も、登場してしばらくの間は問題視されました。そういったメディアは、新たなメディアが他に登場するにつれ、受け入れられるようになっていきます。新たなメディアに対する不安が、かつてあれほど問題視されたメディアを「安全なもの」として受け入れさせるのです。よく言われることですが、自分がやっているのに気づくと苦笑せざるを得ませんでした。自分が無知なモノには不安を抱いてしまいがちけれど、それはある意味仕方のないことです。たとえば本に関しては、私はどんなジャンルが質が良く、どんなジャンルが問題含みなのか、かなりはっきり知っています。ですから「本を読む」と子供が言ったとき、「何を読むのか」の方に意識がまずいきます。子供の教育に関心がある親御さんの多くはそうなのではないかと考えます。けれどもインターネット上の動画チャンネルについては、私は本当に無知です。2言語話者の子供を育てていく上で、ネット上の読み聞かせ動画はとても便利でしたから、ひょっとしたら似たような教育観を持っている親御さんよりは動画に対してオープンかもしれませんが、それでもどのような動画チャンネルが質が良く、どのようなチャンネルが問題含みなのか、把握しているとは言えません。メディアとの付き合い方を、子供は学ばなくてはならないけれど、一つ言えることがあります。好むと好まざるとにかかわらず、新しいメディアは、やがて社会における表現の主流になる可能性が高いですし、そういったメディアとの付き合い方を、ある時点で子供達は学ばなくてはならないだろうということです。今すぐであるかもしれませんし、もっと先のことかもしれません。けれど、どこかで彼らは、情報収集するにあたって、新しいメディアと向き合わなくてはならなくなるはずです。新しいメディアの登場に対して、今まで通りの識字教育では不十分なのではないか、という問題提起は、もうかなり前になされています。何冊もの本が日本語にも翻訳されている児童文学研究者、ピーター・ハント教授は、2002年の段階ですでに、新たなメディアの形は児童小説の物語のあり方そのものを変えて来ていると指摘しています。学校での識字教育がそれに対応できているかについて、彼は疑念を呈します。これからの子供達に求められている「トランスリテラシー」とは同様に2013年に児童文学研究で国際グリム賞を受賞したキンバリー・レイノルズ教授も、文章だけに限らず様々なメディアを包括的に理解することのできる能力、つまり「トランスリテラシー」こそが、これからの子供達に求められているのではないか、と提言しています。メディアの壁にとらわれず、必要な情報を収集し、様々な形で発信していく能力と言い換えることもできるかもしれません。細かい専門的な議論にはここでは立ち入りませんが、現在の子供達を囲むメディアと物語の環境は、たしかにある意味、様々なメディアの特性を子供と考えるのにとても適していると言うことはできます。大人向けの物語や小説に比べ、子供向けの物語の方が、多角的にメディアミックスが行われるという指摘もなされています。代表例は『ポケモン』! 現代の子供を取り囲むメディアミックスかつては「本→映画」ないしは「本→テレビ」といったような比較的一方向のメディア展開が多くありました。ベストセラーになった小説や児童書、絵本などが、ドラマやアニメーションとして動画化されるという形ですね。たとえば『アルプスの少女ハイジ』という本が先にあり、それがテレビアニメ化される。あるいは、『白雪姫』という有名な物語があり、それがアニメーション映画になる、といった形です。けれど今の子供達を取り囲んでいるメディア環境は、それよりもかなり複雑で包括的なものです。コンピュータゲームのソフトとして開発された世界観を元に、マンガが描かれ、アニメ化され、さらにノベライズされて小説になったりもします。『ポケットモンスター』シリーズなどを思い浮かべていただければ良いと思うのですが、単純な「物語の映画化」や「物語のゲーム化」ではありませんよね。それぞれのストーリーラインが緩やかにつながりながらも、同じ現象を異なるメディアから異なる視点で見ているのです。ごく小さい頃からテレビのアニメで親しんだ登場人物が、絵本の主人公にもなっているかもしれません。夏休みには、その主人公が活躍する映画を見に行くこともあるでしょう。同じ登場人物が出てくるゲームもねだるかもしれませんね。まさに、一つの物語を多角的に理解するためのヒントがそこには多くあります。映画や動画、テレビにゲーム、そして本。それぞれの媒体には、どんな違いがあるのか。ちょっと目を向けるだけで、様々な媒体の性質の違いについて、新たな気づきを得やすくもなっているのです。実は1990年代からの日本のポケモンシリーズを、レイノルズ教授はメディアミックスの重要な例としてあげています。日本の子供達はある意味、様々なメディアを行ったり来たりしながらの情報収集方法を、学びやすい環境にいるのかもしれませんね。多様なメディアに触れ、その特性を子供と一緒に考えようどんどん変化していく、子供達をめぐる情報環境。不安を感じるのは、ある意味当然のことでもありますが、同時にこれは大きなチャンスでもあるのかもしれません。縦横無尽に広がるメディアの全てを十把一絡げに取り扱うのではなく、様々なメディアの特性を子供達と一緒に考えていくこと。一つのメディアに偏るのではなく、一緒に多様なメディアに触れながら、子供達と一緒に語り合っていくこと。文章表現だけのリテラシーであればお手の物ですが、動画や、スクリーン上の表現については、私はまだまだ能力不足です。試行錯誤をしながらも、より良いバランスを考えていくべき場所に今、私たちはいるのではないかと考えています。(参考)Hunt, P. (2002). ‘Futures for Children’s Literature: Evolution or radical break? ‘ , Cambridge Journal of Education, 30(1), 111–119.Reynolds, K. (2011). Children’s literature : a very short introduction. (Oxford: Oxford University Press)
2019年05月28日我が子には、あらゆる教科を得意になってほしいというのが親の理想でしょう。でも、多様化が進むこれからの社会に出たときに求められる力の筆頭としてコミュニケーション能力が挙げられるいま、それにつながるであろう「国語力」をとくに伸ばしてあげたいと考える親御さんも増えています。全国国語授業研究会会長や教育出版国語教科書編著者も務める筑波大学附属小学校の青木伸生先生に、まずは「そもそも国語力とはなにか」というお話から伺いました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)国語力はあらゆる学習のベースになる国語力とひとことでいっても、いろいろな階層があると思います。実生活のなかでの国語力というと、文章の内容をきちんと把握する力、自分の伝えたいことを表現できる力などになるでしょうか。小学校における国語力にもいくつかの要素が含まれます。たとえば、物語のテーマを自分なりに感じ取れる力。説明文なら、筆者のいいたいことをつかみ、それに対して読者として自分の考えを返す力。また、ある程度の語彙を持ち、どんな言葉をどんな場面で使えばいいかという言語感覚を身につけているかどうかも小学生にとっての国語力に含まれるでしょう。これらの国語力は、とくに小学校低学年から身につけていくことがとても重要です。というのも、国語以外のあらゆる教科でも学習のためのベースとなるのが国語力だからです。国語力が欠けていると、自分の意見をわかりやすく発表できませんし、重要な内容をノートにまとめることもできません。理科の実験授業でも、実験結果をまとめ、それを基に考察する際に必要となるのは国語力です。また、国語と対極にあると思われがちな算数であっても、国語力がなければ文章題で述べられている状況をイメージできないということにもなります。問題のなかで「リンゴが3個あって、そのうち2個を太郎君が食べて、花子ちゃんがミカンを5個持ってきた」というような文章があったとして、描かれている内容をきちんと把握してその状況を思い浮かべられなければ問題を解くどころではありませんよね。本当なら算数を得意教科にできる能力を持っていて、ドリルのような単発の計算は得意な子どもであっても、国語力が伸び悩んだがために本来の能力を発揮できないということにもなりかねないのです。国語力アップのために読書で得られる重要な要素国語力はあらゆる学習のベースとなります。そうすると、親御さんなら子どもの国語力を伸ばしてあげたいと考えますよね。もちろん、小学校でもわたしたち教員はさまざまな工夫を凝らして子どもたちの国語力アップに努めています。でも、家庭でもできること、それから親御さんだからこそできることもあるのです。ひとつは「読書」です。ただ、残念ながら、テストで高得点を取るためという意味での国語力と読書はそれほど直接的にはつながるものではありません。テストというものは、問われたことに対して的確に答えていくという対応が求められます。「文章のここがポイントで、このことを聞かれている、だからこう答えればいいんだ」というようなある種のテクニックが必要とされますから、一定の練習をしなければなりません。ですから、とにかく読書が好きでたくさん本を読んでいる子どもであっても、意外とテストでは高得点を取れないということもあるのです。でも、読書をしていれば、国語力を高めるための重要な要素を得られることは間違いありません。そのひとつは語彙です。それから、物語の展開のパターンや表現技法といったものも子どものなかにどんどん蓄積されていきます。あとは、それらをどう使えば実際のテストで高得点を取れるのかというところをわたしたち教員が授業で教えてあげれば、一気に成果を出すことができるはず。そのためにも、読書好きになるように家庭でもできる限りの工夫をしてほしいですね。親子の会話で子どもにたくさん考えさせるそして、子どもの国語力アップのため、「親御さんだからこそできること」が「親子の会話」です。なぜ親子の会話が重要かというと、教員と子どもの場合だと、子どもの言葉を教員がくみ取ってしまうことが多いからです。授業をスムーズに進めるためといったこともあって、子どもの言葉がちょっとあいまいであっても、教員は「こういいたいんだね」と、子どもがいわんとしていることを整理してしまうのです。でも、親ならそういうことをする必要はありませんよね。子どもの言葉が本当にわからなければ、「なにをいっているかわからないよ」とストレートにいってあげられます。そうすると、お父さんやお母さんに自分のいいたいことを伝えるために、子どもは言葉を探したり、選んだり、いい方を変えるなどして必死に考えることになる。子どもの国語力アップのためには、そういう場面がとっても大事なのです。逆に、子どもに成長が見られてすごくわかりやすい表現をしたという場合なら、「いまのいい方はすごく良かったよ」といったふうに褒めてあげてください。そうすれば、その表現が子どもに定着していくことになるはずです。ひとつ注意をするなら、親だからこそ教員以上に子どものいいたいことをくみ取れてしまうということ。他人ならなにをいっているかわからない、子どもがぼそっとつぶやいたようなことも、親ならわかるということは多いものです。そこで、「ああ、こういいたいのね、こうしてほしいんだね」とくみ取ってしまうと、先に伝えたような子どもが必死に考えるということが起こりません。そういう意味では、子どもの国語力を伸ばしてあげたいと思うのなら、「ものわかりの悪い親」になるという考えが必要かもしれませんね。『青木伸生の国語授業 3ステップで深い学びを実現! 思考と表現の枠組みをつくるフレームリーディング』青木伸生 著/明治図書出版(2017)■ 筑波大学附属小学校教諭・青木伸生先生 インタビュー一覧第1回:子どもの主張はくみ取らなくていい!親だからこそできる、我が子の国語力アップ法第2回:「宿題の定番」になるのも頷ける。意外だけどすごく重要な「音読」の4つの狙い(※近日公開)第3回:「文字を見るのも嫌!」子どもを国語嫌いにさせないために、親がすべき低学年からの工夫(※近日公開)第4回:作文力アップも期待できる!文章の読み方の新習慣「フレームリーディング」とは(※近日公開)【プロフィール】青木伸生(あおき・のぶお)1965年生まれ、千葉県出身。東京学芸大学卒業後、東京都の教員を経て現在は筑波大学附属小学校教諭。全国国語授業研究会会長、教育出版国語教科書編著者、日本国語教育学会常任理事、筑波大学非常勤講師なども務める。近年はフレームリーディングの専門家としても注目を浴びる。『ことばの事典365日』(小峰書店)、『青木伸生の国語授業 フレームリーディングで説明文の授業づくり』(明治図書出版)、『青木伸生の国語授業 フレームリーディングで文学の授業づくり』(明治図書出版)、『ゼロから学べる小学校国語科授業づくり』(明治図書出版)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年05月28日子どもの頃は算数が嫌いで、「数字を見るだけでげんなりした……」という人も多いかもしれません。そういう自らの実体験から、「子どもも算数嫌いになるのではないか?」と心配している親はかなりの割合でいるといいます。「教育の鉄人」とも呼ばれ、カリスマ教師として知られる、東京の公立小学校教諭・杉渕鐵良(すぎぶち・てつよし)先生は、「国語と算数があらゆる学習のベース」だと語ります。では、どうすれば子どもの算数の力を伸ばしてあげられるのでしょうか。子どものやる気を引き出す独自の授業で注目される杉渕先生に、その秘策を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)四則計算が算数を学習するためのベースになる学校での勉強がはじまる小学校で、とくに重要な教科は国語と算数です。なぜなら、それらが理科や社会などあらゆる他の教科を学習するためのベースとなるからです。では、子どもの算数の力を伸ばしてあげるにはどうすればいいのでしょうか?あたりまえのことですが、足し算、引き算、掛け算、割り算の四則計算をきっちり身につけることです。算数における四則計算は、ある意味で他の教科に対する国語と算数の存在に似ています。というのも、四則計算がしっかりできなければ、その先にある算数の領域、応用問題に進めないからです。つまり、四則計算は算数を学習するためのベースといえます。応用問題に臨む場合、たとえその考え方というものを理解できたとしても、四則計算がきちんとできなければ解答にたどり着けずにつまずいてしまいます。逆に、必要な四則計算がぱっとできるのなら、考えることに集中できる。だからこそ、応用問題の理解も深まりますし、その面白さを感じることもできるのです。スポーツだって同じではないでしょうか。たとえば、テニスをやるにも、素振りすらまったくしていないような基礎ができていない状態なら、まともにボールを打ち返せないでしょう。ボールをラケットで打つスポーツなのに、空振りばかりしていては面白いはずがありませんよね。最初に「できない」ということをわからせるでも、じつは逆の考え方もできます。まったくテニスの経験がない子どもにあえていきなり試合をさせてみるのです。もちろん、まともにボールを打ち返せないのですから、子どもは面白くありません。そこで、「きちんとボールを打てるようになったら試合が面白くなるよ」とリードしてあげて、基礎練習をさせる。子どもは試合の面白さを味わいたいがために基礎練習に一生懸命取り組むことになるはずです。それが、テニスをやりたいといっている子どもに最初から基礎練習ばかりさせてしまうと、「僕はテニスをやりたいのに」と、子どもは不満を抱いて意欲的に練習に取り組めません。そんな心理状態では、大事な基礎練習の成果もなかなかでませんよね?算数の場合も、まず子どもに応用問題をやらせてみて、それができないということをわからせてみるのです。うまくリードできれば、その面白さを味わおうと子どもは四則計算の習得に励むようになります。とはいえ、四則計算の学習はやはり地味で単純なものが多いので、子どもの集中力がなかなか続かないということもある。子どもが自然に四則計算の勉強をできるようにするには、やはりたくさんの工夫が必要です。子どもと一緒に楽しみながら四則計算を勉強する家庭でできることを考えると、日常生活のなかで子どもが楽しみながら四則計算に触れる機会を親がつくってあげることです。「学校の勉強なんて社会に出たら役に立たない」なんてことをいう人もいますが、四則計算は大人なら誰もが日常的に使っていますよね。たとえば、つねに節約しようと考えているお母さんたちは、スーパーで買い物をするにも何度となく四則計算を繰り返しているはずです。その計算を問題として子どもに出してみましょう。リンゴを買おうとしているときに、「3個で500円のリンゴ」と「2個で400円のリンゴ」があったとします。子どもに、「どっちを買えばお得かな?教えてくれる?」と相談するのです。子どもは大好きなお母さんの役に立ちたいと、頑張って計算をしてくれるはずです。自動車でどこかに出かけるときなら、目的地までの距離を教えてあげて、「いま、時速40キロだけど、目的地には何分で着く?」「時速60キロならどう?」というふうに出題することもできるでしょう。時計を使ってみるのもおすすめです。時計というと、時間を知るためのものと誰もが思い込んでいますが、じつは角度の勉強にも有効です。丸いアナログ時計を使って角度の問題を出すのです。「6時のときの長針と短針の間の角度は何度でしょう?」といった具合です。家族でおこなうものと考えれば、もっとふざけてみてもいいかもしれませんね。たとえば、「お父さんは3分に1回怒ります。お母さんは5分に1回怒ります。お父さんとお母さんが一緒に怒って大爆発するのは何分後でしょうか?」といったものはどうでしょうか?(笑)。これは紛れもない公倍数の問題ですが、きっと子どもは笑いながら取り組んでくれるにちがいありません。家庭で子どもに勉強させるときには、「子どもと一緒に楽しむ!」ということをいちばんに意識してほしいとわたしは思っています。勉強をしながらでも、子どもの心からの笑顔をたくさん引き出してあげてください。『たし算ひき算 10マス計算ドリル 左利き用』杉渕鐵良 著/学研プラス(2019)■ 東京都公立小学校教諭・杉渕鐵良先生 インタビュー一覧第1回:先取り学習はこうやれば効果的。「就学前学習ってどうなの?」に“教育の鉄人”が回答!第2回:「ちゃんと宿題やりなさい!」に効果がない理由。子どもに“響く”声かけの方法とは?第3回:子どもを「読書好き」にするきっかけの作り方。国語力アップの決め手は家庭にある!第4回:算数の力は“楽しく”伸ばす!地味で単純な「四則計算」を笑うほど面白いものにする工夫【プロフィール】杉渕鐵良(すぎぶち・てつよし)1959年生まれ、東京都出身。東京都公立小学校教諭。小学校教諭となって7年目に子どもたちのやる気を引き出す独自の授業「ユニット授業」を開発。その成果により、「教育の鉄人」と呼ばれ、2011年には「ユニット授業研究会」を設立。若手教員の指導にあたる他、講演のために全国各地を飛び回っている。『小学校教師だからわかる 子どもの学力が驚くほど上がる 本物の家庭学習』(すばる舎)、『全員参加の全力教室2 燃える! 伸びる! 変わる! ユニット授業』(日本標準)、『1日1枚5分でできる 漢字パズル』(すばる舎)、『自分からどんどん勉強する子になる方法』(すばる舎)、『子どもが授業に集中する魔法のワザ!』(学陽書房)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年05月27日少子化によって子ども同士のかかわりが減ったことや、情報化社会によって自ら求めなくともさまざまなコンテンツがあふれていることなどが影響し、昨今では主体性のない子どもが増えているといわれています。しかし、変化の激しいこれからの時代を強く生きるためには、自ら考えて行動することが重要です。今回は、主体性のある子どもとない子どもの特徴や、主体性を育てるためのコツについてご紹介します。活躍できるのは「聞き分けの良い子」ではないひと昔前の子どもは、「先生や親の言うことを聞きなさい」と言われながら育ってきました。自分の考えを主張することなく、大人の指示通りに動ける子どもこそが「素直でいい子」だとされていたのです。しかし、こうした考え方は時代の変化とともに変わっていきました。大人の指示を仰いで行動する子どもは確かに育てやすいですが、そのまま成長すると、社会に出たときに周りに流されてばかりだったり、指示待ち人間になったりする可能性が高いという側面があります。主体性は将来のリーダーシップに必要不可欠です。そのため、現在では自ら考えて行動することができる、主体性のある子どもこそが「できる子」だといわれるようになってきています。主体性が”ある”子どもと”ない”子どもの違いとは主体性がある子どもとない子どもには、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。いくつか例を挙げてみましょう。■自分の「やりたいこと」に取り組めるか主体性のある子ども:周りに流されずに取り組める主体性のある子どもは、周りに流されることなく、自分がやりたいと思ったことに取り組みます。周囲からの反応よりも「自分がしたいかどうか」が大切であることをきちんと理解しているためです。主体性のない子ども:些細なことでも親の指示を仰ぐ主体性のない子どもは、自分で何かを決めることが不得意で、自分の言動に自信が持てません。そのため、何をするにも「本当にこれでいいのだろうか?」と不安になり、心から楽しむことができなくなってしまいます。■自ら考えて行動できるか主体性のある子ども:想像力や思考力が高く、自ら考えて行動できる自ら考えて行動するというプロセスでは、「行動するためにはどうしたらいいのか」「どうしたら一番スムーズに行動できるのか」「この行動の先にどんな結果が待っているのか」など、考えなければならない項目がたくさんあります。主体性がある子どもは想像力や思考力が高いので、こうしたさまざまな項目を順序立てて考えながら、行動に移すことができるのです。主体性のない子ども:些細なことでも親の指示を仰ぐ主体性のない子どもは、自分で何かを決めることが不得意です。そのため、自分が食べたいものや行きたい場所を決めるといった些細なことでも、その都度親に「どうしたらいい?」と聞くことが多い傾向にあります。■チームワークがあり、きちんとコミュニケーションをとることができるか主体性のある子ども:友だちと積極的にかかわり、あらゆる活動に取り組める友だち同士で何かを協力し合って成し遂げたり、ケンカをして悔しい思いをしたりといった経験が多い子どもは、チームワークの大切さを知り、自らを省みることができるようになります。その結果、「次はこうしてみよう」と新たな活動にも主体的に取り組むことができるのです。主体性のない子ども:「周りと同じ意見かどうか」ばかりを気にする「周りと同じ意見を持っている」というのは、主体性がない子どもにとって安心感があり、楽な状況です。そのため、自分の考えを発表する際などには「自分はこう思う」ということよりも「自分の意見は周りと同じものなのかどうか」を気にしやすくなります。よって、友だちと積極的に意見を交わすなどの経験が乏しくなり、コミュニケーションが不得意になる場合が多いです。■何事にも積極的にチャレンジできるか主体性のある子ども:親との信頼関係が強い心から信頼することができる存在や、どんなときでも自分をバックアップしてくれる存在がいることは、何かに挑戦する際に大きな助けとなります。主体性がある子どもは親との信頼関係が強く、「自分は愛されている」と実感できていることから、「失敗して親に怒られたり、失望されたりしたらどうしよう」と不安になることがありません。そのため、何事にも積極的にチャレンジできるのです。主体性のない子ども:失敗を極度に恐れる失敗を極度に恐れる主体性がない子どもにとって「失敗=悪いこと」でしかありません。そのため、少しでも失敗の可能性があることには絶対に取り組もうとしなかったり、新しい環境に強い抵抗感を覚えたりすることもあります。また、「失敗したら、ママ(パパ)に怒られる」と親からの評価を気にすることも多いです。子どもの主体性を育てるためには?子どもの主体性を育てるために、以下の取り組みを実践しましょう。「失敗は成功のもと」であることを伝える主体性を育てるためには「失敗してもいいから取り組むことが大切」「失敗は成功のもと」という考え方を伝えることが大切です。『東大生を育てる親は家の中で何をしているのか?』(文響社)の著者で、進学塾VAMOSの代表である富永雄輔氏は、失敗と成功の比率の理想を「成功が51・失敗が49」と述べています。49の失敗があるから51の成功が生まれることを意識し、「失敗が成功のもとになるんだよ」「できなくてもいいからチャレンジすることが大切なんだよ」と子どもに伝えてあげましょう。失敗しても決して怒らず、まずは取り組みそのものを褒め、子どもと一緒に「うまくいくためにはどうしたらいいと思う?」と解決策を考えることが重要です。選択肢を与える脳科学者の茂木健一郎氏は、「日本の子どもは”自分で決める力”が絶対的に欠けている」と警鐘を鳴らしています。自分の意見を言えるようにすることは、自ら考えて行動することにつながるため、主体性を育てるのに不可欠です。とはいえ、はじめはなかなか難しいので、まずは選択肢を与えて子ども自身に「どっちがいい?」と決めさせることから始めましょう。食事のメニューやその日に着る洋服などの簡単な選択を積み重ねていくことで、子どもはやがて自分の意見を言うことに慣れ、自分で考えて決断し、行動することができるようになっていきます。年上の友達とのかかわりを持たせる学芸大学客員教授 藤原和博氏は、現代の子どもたちには「斜めの関係」が必要だと述べています。核家族化や地域社会の希薄化が進み、「近所のお兄ちゃん」や「親戚のお姉ちゃん」のような「上下の関係ではない斜めの関係」とかかわる機会が減ってきているのです。斜めの関係は、「親と子」「先生と生徒」のような上下の関係で代替することはできません。神奈川県の私立宮前幼稚園 亀ヶ谷忠宏園長いわく、誰かに対して「自分もあんなふうになりたい」と憧れる経験は、主体性を育てることにつながるのだそう。「ああなりたい」と強く思った瞬間にスイッチが入り、主体的に歩み始めるのだと亀ヶ谷氏は言います。子どもは年上のお友だちに対してそうした感情を抱きやすいもの。「斜めの関係」が不足している今だからこそ、年上の友だちや親戚とのかかわりを積極的に持たせるように心がけ、子どもにとって憧れの存在と出会える場を作ってあげることが大切なのです。愛情をめいっぱい伝える動物学者デズモンド・モリスは著書『デズモンド・モリス子どもの心と体の図鑑』の中で次のように述べています。子どもをほめ、たくさん抱きしめて安心させ大げさなほど愛情表現をする母親は、それより感情表現の乏しい母親に比べて、我が子が世界を探検する準備ができていることに気づくでしょう。そっけなく、ぶっきらぼうな母親は、子どもを心細くさせます。(引用元:デズモンド・モリス(2010) ,『デズモンド・モリス子どもの心と体の図鑑』,株式会社 柊風舎.)子どもが主体性を持って何かに挑戦するためには「どんなときでも自分を受け入れてくれる存在」が必要です。そのために、親は子どもへの愛情を言葉やスキンシップでめいっぱい伝えましょう。また、言葉やスキンシップ以外にもおすすめしたい愛情表現方法が「ほめ写プロジェクト」という取り組みです。ほめ写とは、子どもの写真を自宅に飾り、それを見ながら子どもを褒めてあげるというもの。その際には「生まれてきてくれてありがとう」「見ているだけで幸せな気持ちになるよ」など、子どもの存在そのものを全肯定するような言葉をかけることがポイントです。愛されている自信につながり、自己肯定感を高めるのに有効だといわれています。***子どもの主体性は、環境次第でぐんぐん伸びていきます。子どもを「指示待ち人間」にしないためにも、親ができることから始めてみましょう。文/田口るい(参考)ベネッセ教育総合研究所|集団の中で「主体性」を育むために園ができることダイヤモンドオンライン|子どもの主体性を引き出すには、どうすればいいか? 東洋経済オンライン|こうすれば子どもは「自発的」に学び始める!PHPファミリー|信じて任せて、自発性を引き出す~子どもの「やる気」のコーチングAll About|子供を「指示待ち人間」にしない育て方!言うこと聞く子ほど要注意こどもまなび☆ラボ|“49” の失敗体験が子どもの挑戦力につながる!過干渉にならない会話のコツ『これからの未来を生き抜くできる子の育て方』(2018年),洋泉社MOOK.内閣府|コミュニケーションを高めるためにほめ写プロジェクト|ほめ写プロジェクトとは?デズモンド・モリス(2010) ,『デズモンド・モリス子どもの心と体の図鑑』,株式会社 柊風舎.
2019年05月27日小学生が学ぶ教科には、国語に算数、理科、社会などさまざまなものがあります。そのうち、「国語と算数があらゆる学習のベース」と語るのは、東京の公立小学校教諭・杉渕鐵良(すぎぶち・てつよし)先生。子どものやる気を引き出す独自の授業で注目され、「教育の鉄人」とも呼ばれるカリスマ教師です。今回は、その重要な国語と算数のうち、国語の力を伸ばすために家庭でもできることを教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)子どもを読書好きにするにはまず親が本を読む小学校における教科のうち、とくに重要なものが国語と算数です。それらの力が育っていないと、理科や社会の教科書、そのなかに出てくるグラフなどもきちんと読めないからです。逆にいえば、1、2年生頃にちょっとくらい理科や社会の勉強が遅れてしまったとしても、国語と算数がきちんとできるようになれば、あとからいくらでも遅れを取り返せます。そういう意味で重要な国語と算数のうち、国語の力を伸ばすために家庭でもできることというと、まずはやっぱり読書でしょうね。とくに1、2年生くらいの小さい子どもの場合なら、絵本の読み聞かせをおすすめします。というのも、読書は苦手でも読み聞かせは好きだという子どもが多いからです。また、親が本を読まなければ子どもも本に興味を示さないということも、読み聞かせをすすめる理由です。絵本の読み聞かせをすれば、子どもは文字や言葉、さまざまな概念を知ることになる。それはいまもむかしも変わらない読み聞かせの大きな効果です。そうして絵本の読み聞かせをするうち、「このシリーズものが面白い」というふうに、子どもがハマるものが出てくるでしょう。そういった事象こそ、読書好きになる兆候といえます。子ども自身が自ら本に興味を示さなければ、読書好きになるはずもありません。そう考えると、「○○先生が推薦しているから」なんていって、どこかの誰かがすすめる本を子どもに与えることにもなんの意味もありません。もし、子どもにすすめるのであれば、親御さん自身が本当に面白いと思ったものにしてほしいのです。そういう本であれば、「大好きなお父さんやお母さんがすすめるんだったら」と、子どもが興味を示すということだってあるはずですよ。漢字を覚えさせるにも「楽しさ」が最重要また、小学生なら漢字の学習も重要です。だからといって、漢字をいくつ書くだけというドリルのような学習方法はあまり好ましくありません。1、2年生のような小さい子どもの場合、楽しさが伴っていなければただ機械的にこなすだけになってしまい、なかなか学習効果が上がらないからです。ただの反復には意味がないのです。そういう意味では、いろいろと工夫をすることが必要。たとえば、「木」という漢字を書いて覚えるにも、子どもが「木」と書いたら、「これ、なんの木?」と聞いてみましょう。子どもは「桜の木」なんて答えるかもしれない。そうしたら、「じゃ、桜のピンクに塗ってみようか」と色鉛筆を与えるのです。あるいは、ピンクの色鉛筆で「木」と書かせてもいいですよね。また、漢字の「はらい」や「はね」を覚えさせるためにできる工夫もあります。「木」のはらいの部分を書くときに、親が「滑り台みたいだから、滑り台を想像して『シューッ』と書こう」といって、実際に「シューッ」といいながら書く。子どもも面白がって「シューッ」といいながら書くようになります。どちらも子どもにとっては遊び感覚で漢字の書き取りをすることになりますし、脳をしっかり使ってイメージを膨らませていますから、きちんと覚えられることになります。また、いろいろな漢字が書かれている紙を用意して、「このなかから、食べものの漢字を探そう!」なんて遊びもいいと思います。たとえば「公」という漢字は、「ハム」と読めますよね。そんな工夫がされている教材もたくさん市販されていますから、それらを使ってみてはどうでしょうか。しかも、そういう教材をやって漢字の面白さを知ったあとなら、子どもは一般的な漢字ドリルも楽しんでやるようになるものです。いずれにせよ、まだ小さい子どもには「勉強って面白い!」と思わせてあげることがなにより大切です。小さいうちから成績を気にし過ぎる必要はありませんし、「勉強は面白い」と思っていれば、自然に勉強を続け結果的に成績も伸びてくるものですからね。会話力を上げるには会話を重ねるしかない国語力を伸ばすためには、会話力の向上も外せないものでしょう。人と会話をするには、さまざまな言葉をきちんと使えることが求められますからね。子どもの会話力を向上させたいと思ったら、とにかく親が子どもとたくさんおしゃべりをすることに尽きます。子どものためのスピーチ教室なんてものもありますが、やっていることは、用意された原稿をただうまく読む訓練をしているだけ。実際の会話とは、そういうものではありませんよね?相手のいったことに対して瞬間的に反応し、自分の思いを適切な言葉で表現できてこそ会話になる。そう考えると、やはり実際に会話をすることでしかその力は伸びていかないのです。子どもと会話をするにあたって、親の立場として「いいインタビュアーになろう」と心がけることも重要なポイントです。学校から帰ってきた子どもがどことなくうれしそうにしていたら、「なにかいいことがあったの?」「それでどうしたの?」とどんどん聞き出してあげる。そのとき、親自身がそのインタビューを楽しむことが大切です。親が会話を楽しんでいる気持ちが伝われば、子どもはどんどん冗舌になっていくはずです。『たし算ひき算 10マス計算ドリル 左利き用』杉渕鐵良 著/学研プラス(2019)■ 東京都公立小学校教諭・杉渕鐵良先生 インタビュー一覧第1回:先取り学習はこうやれば効果的。「就学前学習ってどうなの?」に“教育の鉄人”が回答!第2回:「ちゃんと宿題やりなさい!」に効果がない理由。子どもに“響く”声かけの方法とは?第3回:子どもを「読書好き」にするきっかけの作り方。国語力アップの決め手は家庭にある!第4回:算数の力は“楽しく”伸ばす!地味で単純な「四則計算」を笑うほど面白いものにする工夫(※近日公開)【プロフィール】杉渕鐵良(すぎぶち・てつよし)1959年生まれ、東京都出身。東京都公立小学校教諭。小学校教諭となって7年目に子どもたちのやる気を引き出す独自の授業「ユニット授業」を開発。その成果により、「教育の鉄人」と呼ばれ、2011年には「ユニット授業研究会」を設立。若手教員の指導にあたる他、講演のために全国各地を飛び回っている。『小学校教師だからわかる 子どもの学力が驚くほど上がる 本物の家庭学習』(すばる舎)、『全員参加の全力教室2 燃える! 伸びる! 変わる! ユニット授業』(日本標準)、『1日1枚5分でできる 漢字パズル』(すばる舎)、『自分からどんどん勉強する子になる方法』(すばる舎)、『子どもが授業に集中する魔法のワザ!』(学陽書房)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年05月26日自己肯定感を育むことができるのは「存在承認」なのだそう。存在承認とは、「生まれてくれて、ありがとう」「あなたがいてくれるだけで、うれしい」など、存在そのものを承認すること。対して、「行動承認」というのもあります。これは、「テストで満点」「スポーツで1位」など、行動を承認すること。「〇〇ができてえらいね」「△△してくれたから、大好きだよ」というほめ言葉などを指します。この行動承認の言葉――ついつい言いがちですが、子どものためには「ありのままのあなたを愛しているよ!」、そんなふうに伝えたいものですね。■参照コラム記事はこちら↓「大好きだよ!」で子どもは育つ。“愛されている自覚”が自己肯定感を高め、勉強姿勢までも変える
2019年05月26日