サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜協立大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。聴講者はすでに6万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。(監修/高橋正紀構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)<<前回|連載一覧>>(写真は少年サッカーのイメージです)■勉強を本気で頑張れないやつがスポーツを頑張れるわけがない「小学生のころに"スポーツマンのこころ"に出会っていたら、もっと自分を磨けたのに」"スポーツマンのこころ"の講義を聞いて、そう後悔する学生は少なくありません。今回は学生たちの生の声を紹介します。岐阜県内にある私が勤務する大学では、本格的なオンライン授業が始まっています。運動部活に取り組む学生が7割近くを占めているスポーツ経営学科の必修科目であるスポーツ原論という授業で、入学直後の1年生に「スポーツマンのこころ」を伝えています。オンライン授業は初めての経験ですが、こうやって画面越しでも内容はかなりしっかりと伝わるのだと実感しました。例えば、スポーツは本質本質的には遊びの一種であり「非日常」の時空間で行われるゲームであること、学生にとっての「日常」であるをおろそかにしてしまうと非日常のスポーツでの成長が鈍ること、自分を大切にするということは、大切であるからこそ自分を磨くということ、そしてその"自分を磨く"は自己決定することによってより意味が出てくること、などを理解してもらいます。「文武不岐」の話もします。この連載でもお話ししましたが、文武不岐とは学問とスポーツは別物ではなく、学問を極め何が正しいかを知ることは、スポーツで厳しい練習を積むなかで人間性を向上させることにも通じる。その逆も然りであるという意味です。つまり、学問とスポーツと不離一体になっているわけです。「文武両道」という言葉のほうが一般的に知られていますが、単に両立すること者に価値があると論じるだけでなく、相乗効果をもたらす関係なだと話しました。私は「勉強を本気で頑張れないやつがスポーツを頑張れるわけがないということなんだよね。だからいますべきことがわかるよね」と呼びかけました。新型コロナウイルスの渦中で、このようにして「スポーツマンのこころ」を学んだ学生たちは、心が穏やかにもなるようです。「なんでサッカーできないんだよ!」という葛藤からは少なくとも脱出できているようです。なぜそう思うのかというと、学生たちが授業後に書いたレポートにそういったことを感じさせることが書かれているからです。<一部抜粋>★日常の中で目標を持ってやり抜くことは口で言うのは簡単だけれど、正直難しいと思う。だからこそ、部活動などの非日常で達成感を得る感覚を身につけた後に、日常にも繋げられたら日常も非日常も有意義な時間になると思いました。★私の県ではベスト8にはほぼ進学校が入ってました。勉強が頑張れるからスポーツも頑張れていたんだと思いました。★「文武不岐」は、学校の勉強を頑張ることで競技を強くするという意味をもち、非日常よりも日常のほうが大切であることも意味に含まれていると思いました。★文武不岐を実行するのは今からでも間に合うと思ったので今日からすぐに実行しようと思います。それと同時にスポーツ以外の事で自分が本当に好きなことについて考えてみます。こういう考えに大学一年生のうちに出会えてよかった。「1年生のうちに出会えてよかった」と書かれていますが、「この考え方に小学生のうちに出会っていたら、もっと自分を磨けたのに」と悔しがる学生も多いです。以下のように、授業を受けて、小・中・高校時代を振り返る学生たちです。★今の日本は、スポーツの中で人間性を磨いても、日常につなぐ力がなく、スポーツと日常は全くの別ものだと感じている子は少なくありません。そして、本当にスポーツを楽しんでいる子も少ない気がします。★中学生くらいの頃は、クラブ活動の時だけちゃんとして、学校にいる時(授業)は寝ていたり、クラブの時とそれ以外を分けて考えていました。★野球から目上の人への態度や人間性を学んだりはしてきたが、それを日常に取り入れることができていないと思います。★これまでは、野球という「非日常」の活動のために「日常」を頑張るといった思考だった。そのような心構えでは、非日常がなくなったときに、日常が空っぽになってしまうと思う。日常を頑張ることで、他の強みを手にすることが必要だ。★体を動かすことは楽しい。厳しい練習をやり切った時の爽快感も知っている。練習を重ねて、できなかったことができるようになったときの喜びも何度か味わっている。だから、それを学生の本分である勉強に同じことを当てはめれば良かったのだ。繰り返し練習する。スポーツでは当たり前にやっていたことを、勉強に当てはめて繰り返し数学の問題を解いたり、漢字練習をしていれば、もう少し賢くなっていたかもしれない。これらを書いてくれた学生たちは、野球やサッカーなどさまざまな競技をしていますし、強化指定クラブに所属する学生も5割を超します。少年時代から競技スポーツに取り組んできたであろう彼女・彼らは「スポーツが、実は自身の成長に完全にはつながっていなかった」という気づきを得ています。■学生たちも気づいている。「少年スポーツの指導スタイルやマインドを変えなくてはいけない」私はこれまで十数年にわたって、入学したばかりの1年生に「スポーツの正しい理解」と「スポーツマンのこころ」を授業で伝えてきましたが、その相互コミュニケーションを続けてくる中で、学生たちから同様のリアクションを常に聴き続けてきました。が、部活動や育成の現場で「人間性を高めるためにスポーツをするんだ」などと教えている方たちはこういった声の存在に驚くのではないでしょうか。そして、学生たちは少年スポーツの指導スタイルやマインドを変えなくてはいけないとも書いています。<一部抜粋>★指導者が選手のちょっとしたミスに暴力を振るったり、人前で怒鳴り散らかしたりするのは、「試合に勝ちたい、そのために厳しく指導しなきゃいけない」ということで、頭がいっぱいになり、楽しむという感情が薄れてしまっていることが原因だと思います★「勝ちにこだわる」と「楽しさにこだわる」を両立させたらチームとしても個人としても大きく成長出来ると思います。★日常よりも、非日常の遊びであるスポーツの方を大事にする子どもの考えは、周りの大人の考え方、教育の問題です。★日本のスポーツ界の発展につながるには、スポーツの現場にいる指導者が従来の選手が楽しむことができない育成方法を改めることで、補欠文化がなくなり、欧州のように選手全員が平等になり、スポーツの位置づけが日常の中の非日常になると思いました。いかがでしょうか。■勝ち負けより記憶に大きく残るもの(写真は少年サッカーのイメージです)スポーツの存在意義、人間らしく生きるためにスポーツは大切なものだと、学生たちは気づき始めています。勝ち負けではなく、記憶の中にあるのは、大会までのプロセスです。夢中になれた記憶のほうがはるかに大きいのです。"私たちがこれからスポーツの本当の価値を伝えていきます"と宣言してくれる学生も毎年多数います。成人してしまうと、スポーツが人生の何に役に立ったのかはあくまでも個人の感覚。科学的に証明できません。ただ、その日々が豊かで幸せな時間だったことは間違いないのです。<お知らせ>高橋正紀教授監修の「楽しまなければ勝てない~世界と闘う"こころ"のつくりかた」は、今回でいったん終了します。またどこかでお会いできるのを楽しみにしております。ご愛読ありがとうございました。(スポーツマンのこころ推進委員会)<<前回|連載一覧>>高橋正紀(たかはし・まさのり)1963年、神奈川県出身。筑波大学体育専門学群ではサッカー部。同大学大学院でスポーツ哲学を専攻。ドイツ国立ケルンスポーツ大学大学院留学中に考察を開始した「スポーツマンのこころ」の有効性をスポーツ精神医学領域の研究で実証し、医学博士号を取得。岐阜協立大学経営学部教授及び副学長を務めながら、講演等を継続。聴講者はのべ5万人に及ぶ。同大サッカー部総監督でもあり、Jリーガーを輩出している。Jリーグマッチコミッショナー、岐阜県サッカー協会インストラクター、NPO法人バルシューレジャパン理事等を務める。主な資格は、日本サッカー協会公認A級コーチ、レクリエーションインストラクター、障害者スポーツ指導員中級など。
2020年05月22日緊急事態宣言が解除された地域から学校の分散登校などが始まっているかと思います。地域の状況を確認しながらサッカーのチーム活動なども再開していくかと思いますが、長期休暇で運動不足が心配な親御さんもいるでしょう。チームとしてもケガのリスクなどを考え、いきなり高負荷のトレーニングを行うことはないと思いますが、ケガ予防のために家でできることがあります。これまで、運動したくても中々外に出れず「体を動かしたい」という気持ちを制御するのが難しい子どもたちに、少しでも笑顔になってもらえるように、家でどんなトレーニングを行えばいいか、選手たちからの意見を基にした動画を紹介してくれたジェフユナイテッド千葉・市原レディースや暁星国際女子サッカー部に帯同するアスレティックトレーナーの大橋優花さんが、今回は自宅でできるストレッチを教えてくれました。今回は低学年向けのバランストレーニングです。カカシポーズでグラグラせずに片足立ちキープ、両手と足をぐるぐるさせてバランスキープなど、当たり負けしない強い身体になるために大事な要素が詰まっています。試合の中でもバランスを崩しながらボールを運んだり、パスをしたりする場面が出てきます。低学年のうちからバランスを取る身体の動きを身につけておきましょう。大橋優花(おおはし・ゆうか)アスレティックトレーナー、健康運動指導士、柔道整復師、サッカー・フットサルC級指導者帯同チーム:ジェフユナイテッド市原・千葉レディース、暁星国際女子サッカー部
2020年05月22日人数が増えてチーム分けをしたところ、Aチームは試合で優勝するのに息子が入ったBチームは大差で負けるのもざらで、最近は下を向いて走るように。2チーム同時で試合になった時は、キーパーグローブはAチームの子だけがつけて、Bチームでキーパーを任された息子は素手で試合に......。コーチに「Bチームの子たちにも指導してほしい」と言ったけど、「親の機嫌はとらない。指導は全体を優先する」との答え。サッカーを楽しんでプレーしてもらいたいから、移籍も視野に入れるべき?とのご相談をいただきました。皆さんならどうしますか?今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにお母さんへ3つのアドバイスを送りますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<献身的で頑張り屋だけど覇気がない息子をどうすればいいか問題<サッカーママからのご相談>長男(9歳)が少年団でサッカーをしています。 楽しくサッカーしてましたが、人数が増えて試合によってはAチームBチームに分けて出場するようになりました。チーム分けがなかった時は勝負所で先発してましたが、AチームBチームで分けられるとき息子はBチームです。 親的にはどちらでもいいし 「やる場所でベストを尽くそう、楽しくやろう」と言ってきました。ですが、 チームメンバーは固定で入れ替わりもなく、少し前の試合でもAチームは優勝してBチームは最下位。10-0で負けるのもざらという状況が続き、息子が下を向いて走るようになりました。さすがに可哀想になりコーチに『チームは固定ですか?Bチームの子どもたちにも足りない部分を教えてあげて下さい』と伝えたのですが、『個人差があるし先をみてください。親の機嫌はとりません。個人も見ますがチーム全体を優先します』という返事でした。その後も状況は変わらず息子は下を向いて走ってます。少し前の試合ではAチームとBチームで同時進行の試合になり、一つしかないキーパーグローブはAチームの子が身につけ、Bチームでキーパーを務めた息子は素手でした。前なら他チームに借りたりしてたのですが......。チーム編成も実力はみな息子と似たり寄ったりのレベルに見えるのですが、このままだとサッカーを楽しめなくなってしまいそうです。息子には「辞めてもいいよ、移籍してもいいよ」と伝えています。どうしたものか悩んでいます。アドバイスをいただけませんでしょうか。<島沢さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。いただいたメールの文章だけでは詳しいことがわからないため、こちらの想像の域でお話しします。そのことを踏まえたうえで参考にしてみてください。結論から言うと、現時点で移籍する必要はないと思います。■チーム編成は改善した方がいいけれど、コーチの「先を見て」は間違いでもないその理由は、息子さん自ら「チームを替わりたい」とお母さんに相談に来ている形跡がないからです。9歳ということは、小学4年生。もしかしたら3年生でしょうか。コーチの方がおっしゃった「個人差があるし、先を見てください」というのは間違ってはいません。とはいえ、気になるのは、Aチームが優勝でBチームが最下位という点です。Bチームがかなりの大差で負けることもあるようです。ということは、チーム内でかなり実力差がある。それは、おそらくチームの底上げができていないからでしょう。大会や試合によって、同じ実力で2チーム編成したり「今日は名前の五十音順でチームを作ろう」などと実力に関係なく分けるチームは増えているようです。その点からすると、もう少しコーチの方に勉強してほしいとは思います。ただし、このチーム全体の「底上げ」は、指導者にとっても悩みどころです。少なくない数の方が「力の差が大きくて」と話します。それも、3~4年生の中学年くらいの担当者から聴くことが多いです。なぜなら、低学年ならまだそんなに試合も多くないし、ボールを追うのが楽しいばかりで、高学年になると体格や運動能力の差が縮まってきて、力が平たんになっていきます。一番デコボコが目立つのが、中学年という息子さんの年齢グループなのです。しかも、息子さんのチームは急に人数が増えてきた、と書かれています。上手な子、少しまだ遅れている子など、人数が多ければおいほど濃淡ははっきりしてきます。したがって「先を見る」姿勢は、保護者にとっても重要な時期なのです。■お子さんがサッカーを楽しめないのは「チームのせい」だけなのかそこで、お母さんに三つアドバイスします。ひとつめは、「かわいそう」という感情を自分の中でコントロールしてください。「さすがに可哀想になりコーチに『チームは固定ですか?Bチームの子どもたちにも足りない部分を教えてあげて下さい』と伝えた」と書かれていますね。このあたり、お母さんのかわいそうに感じる気持ちはわかるのですが、親のわが子に対する「かわいそう」という感情が子どもにプラスの成長をもたらすことはほぼ皆無です。例えば「0-10で大敗してしまう」このことが「かわいそうだなあ」と一瞬感じるでしょう。血を分けた親ですから、子どもの身の上に起きたネガティブな出来事に対してそう感じてしまうのは仕方がありません。でも、力の差があるのだから、大差がつくのは仕方がないこと。大人はきちんと受け止めなくてはいけません。もっといえば、スポーツに勝敗はつきものです。その残酷さを乗り越えて、「1点決めてやるぞ」とサッカーを楽しむ態度が少年サッカーでもっとも必要なものではないでしょうか。二つめ。息子さんには、スポーツの残酷さを乗り越えて、「1点決めてやるぞ」とサッカーを楽しむ態度が今のところ見えません。これは、息子さんだけの責任ではないし、指導者にも問題はありそうです。しかしながら、親御さんも、劣勢な試合状況であろうBチームの試合で「下を向いて走っている」息子さんに対し、同情しただけで終わってしまってはいけないような気がします。移籍するか、しないか、といった拙速な判断を彼に求める前に、お母さんは「負けているからと言って下を向いて走ってもいいのかな?」とサッカーを楽しむことを求めてみませんか?サッカーを楽しめないのはチームのせいだ。お母さんの考えは一理あるかもしれませんが、まずは何か努力や工夫をしてください。親として、今の状況で息子さんが息子さんらしくサッカーに取り組めるようになる道はあるはずです。いろんなことをして、本人も頑張ってみたけれど、やはりこのチームではやりたくない。息子さんが自らそう言ったら、そこでまた考えればいいことです。■キーパーグローブの件はチームに対して進言しよう(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)最後の三つめ。「AチームとBチームで同時進行の試合になり、一つしかないキーパーグローブはAチームの子が身につけ、Bチームでキーパーを務めた息子は素手だった」とあります。このことを、お母さんはきっと「AチームとBチームの扱われ方の格差」の実情として書かれたのだと思います。しかし、ここでこそ、お母さんはチームに対し、クレームを言うべきです。グローブなしにキーパーを務めることは危険を伴います。4年生くらいであれば、パワーのある子は強いシュートを打ってきます。突き指や骨折などけがをする可能性があります。AとBが同時進行でやるかもしれないことは大人は予測できたことですし、2チームで参加するなら2つ用意して当然です。危機管理のなさを指摘すべきです。どうか、感情的にならず、冷静に息子さんのサッカーを見守ってあげてください。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年05月20日39の県で緊急事態宣言が解除されましたが、コロナ禍でサッカークラブは活動休止、自粛しているところも多く、大会の中止が相次いでいます。夏の高校総体(インターハイ)も早々に中止が決まるなど、大会を見据えて努力していた選手たちの気持ちはどこに向かうのか。先の見えない日々が続いています。すぐに切り替えられる選手もいるかもしれませんが、多くの選手たちにとっては開催が難しい状況があることを頭で理解していても、気持ちの整理をするのは難しいものです。そんなとき、大人たちはどう接したらいいのか。しつもんメンタルトレーニングの藤代圭一さんにお伺いしました。(取材・文:鈴木智之)■どうしてスポーツをしているの?根本を見つめる機会にインターハイの中止が決まった日、藤代圭一さんは自身のFacebookに次のような投稿をしました。スポーツに関わる人間として「大きな大会がないなら、スポーツやる価値なんてない」と感じてしまう選手がいることに悲しさを感じています。「どうして、スポーツをしているの?」この問いに立ち返ることが大事だと思っています。スポーツを彼らが言う「そこまでの価値」にしてしまったのはぼくたち大人です。ぼくたち大人はきみたち選手に対し、試合に勝てなければ怒り、他者と比較し続け、成長する気がないのなら辞めろと言ってきた。もっとも楽しいであろう「試合」は限られた選手にしか機会を与えず、休息や余白の時間を奪い、TVではメダルの数ばかりを追いかけている。スポーツを通じて、きみたちの土の中に伸び続ける根っこではなく、土の外に綺麗な花を咲かせることばかり考えてきた。でも、スポーツってそんな小さなものでないよね。ぼくたち大人は立ち止まり、見つめたい。「どうしてスポーツをするのか?」誰かに認めてほしくてやってるのか?試合に勝ちたいからやってるのか?一緒に喜びをわかちあいたいからやってるのか?将来の夢のためにやってるのか?成長を感じたいからやってるのか?どれも正解だし、間違ってない。やる気にはいろんな要素があって、どれもが関わり合ってる。でも、根っこにある気持ちも思いだしてほしい。「好きだからやってる」それ以上でも、それ以下でもなくて、シンプルな気持ち。まわりから見たら「努力」に見えたり、いろんなことを「我慢」していると見えることでも、努力や我慢だなんて思っていなくて、夢中になって取り組んでいた時期があったはず。日が暮れるまでボールを追いかけ、やめなさいと言われても、その言葉は耳に入らず、夢中になって取り組んでた。大きな大会がなくたって、上手じゃなくても、自分で目標をつくり、新たな発見をして、自ら工夫し、たくさん汗をかいて遊んでいたはず。そして「好き」がおなじという共通点をもとに、年齢も性別も言語も考え方の違いも越えて一瞬でつながることもできる。「どうしてスポーツをしているのか?」大きな大会は目標であって、目的じゃない。僕たち大人は、立ち止まり、見つめたい。新型コロナウイルスの影響でこうした状況になっても、ぼくたち大人がつくってきた「仕組み」と「構造」は再度、おなじようにつくれられ、新たに生まれ変わることはないかもしれません。自戒と自分の未熟さと今後の活動に活かしていきたいという気持ちを残しておきます。藤代圭一さんFacebook投稿よりまた、前日には頭では分かっていても気持ちがついていかないこともある、という投稿もされています。全中に続き、インターハイの開催も中止の判断となりました。命に代えられるものはありません。と同時に中学三年生・高校三年生の選手たちを思うと、行き場のない悲しさもあります。こんなときに僕たちまわりの大人が気をつけたいことは、無理矢理に「前を向け」というメッセージを送らないことだと思っています。(中略)でも、この悔しさや悲しさをしっかりと感じないと、本当の意味で切り替えることはできないと思っています。藤代圭一さんFacebook投稿より全文はこちら>>これを読んで、選手、指導者、保護者、それぞれの立場から感じること、考えることがあったと思います。藤代さんは言います。「大きな大会がなくなってしまって、何を目標にすればいいのかがわからなくなる。どうすればいいのだろうと不安になる人も多いと思います。その気持ちも、よくわかります。でも、インターハイがないからサッカーを辞めます。甲子園がないから野球を辞めますと考える人には、『どうしてスポーツしているの?』と"しつもん"をしたいです」■勝ちたいなら、プロになりたいならという動機づけだと大会がなくなると心が折れてしまう藤代さんはしつもんメンタルトレーニングを主宰し、しつもんを通じて、アスリートや指導者、保護者の成長をサポートする活動をしています。「自戒を込めて言うと、これまで多くの指導者たちが、『大会で優勝したいのなら、もっと練習しなさい』といったように、大会で優勝することやプロになるといった、外発的な要因で選手を動機づけしていました。でも大会がなくなると、そのロジックは通用しなくなります。サッカーが好きであったり、楽しいと感じたり、もっとうまくなりたいという内発的な動機づけではないので、大会がなくなるとスポーツを辞めてしまう。その図式はシンプルですよね」大会で良い成績を残すためにがんばるという考えは「外発的モチベーション」です。つまり、外側からやる気を与えられている状態です。しかし、本来スポーツは楽しい、おもしろいといった、内側から湧き出る「内発的モチベーション」で始めたもののはず。藤代さんは、「いまだからこそ、もう一度そこに目を向けてみてはどうでしょうか?」と提案します。「私はアイスホッケー日本代表候補の14歳前後の子ども達と接する中で、『日本代表ってすごいな』と思うことがありました。もし、僕たち指導者がひとつの言葉しか話すことができずに指導をするとしたら『きみは日本代表になりたいんだよね?』という一言で、選手の行動を引き出すことができるのだと気がついたのです。同時に、それだけは言ってはいけないと、強く思いました」日本代表になりたいのだったら、集中してトレーニングしなさい。私生活にも意識を向けなさい。このロジックは明快です。「でも、その言葉だけでモチベーションを上げさせるのはとても危険で、もしそう言われて頑張ってきた子達は、代表になれなかったら、心が折れてしまうかもしれません。その競技自体が嫌になることも考えられます。あまりにも代償が大きいので、言ってはいけない言葉だと思いました」■休んで「何のためにサッカーをしているのか」を考えることも大事藤代さんは、「いまだからこそ、子どもに関わる大人のスタンスが問われています」とメッセージを送ります。「コロナの影響で大会はなくなったけど、サッカーって面白いな、ボールを蹴るのって楽しいなと思い出す機会をつくれるかどうか。僕たち指導者のスタンスが問われていると思います。いまのように外出自粛、活動休止など、強制的にスリープ状態に入ることは、そうそうない経験です。だからこそ、ここで立ち止まり、根本的な問いと向き合うタイミングととらえてみるのも良いと思います」藤代さんはサッカーの指導者仲間に、次のような提案をしているそうです。「これを機に、サッカー漬けではなく、休みの重要性にも目を向けてみてはいかがでしょうか?指導者が休んでいないと、余裕がなくなってしまい、練習をしないと不安になります。その結果、子どもたちにサッカーをたくさんやらせてしまいたくなる。そうなるのは、自然な流れだと思います。いまは休まざるを得ない状況なので、どうしてサッカーをしているのか? を、改めて考えるきっかけになればと思います」次回の更新では、自粛期間中の保護者の心の持ち方や、子どもたちがすべきことについて、藤代さんのアドバイスを紹介したいと思います。藤代圭一(ふじしろ・けいいち)スポーツメンタルコーチスポーツスクールのコーチとして活動後、教えるのではなく問いかけることで子どものやる気を引き出し、考える力を育む「しつもんメンタルトレーニング」を考案。全国優勝を目指す様々な年代のチームから地域で1勝を目指すチームまでスポーツジャンルを問わずメンタルコーチを務める。全国各地でワークショップを開催し、スポーツ指導者、保護者、教育関係者から「子どもたちが変わった」と高い評価を得ている。2016年からは「1人でも多くの子どもたち・選手が、その子らしく輝く世の中を目指して」というビジョンを掲げ、全国にインストラクターを養成している。著書に「子どものやる気を引き出す7つのしつもん」(旬報社)などがある。
2020年05月19日新型コロナウイルスの影響で長期のチーム活動停止を経て、活動を再開するときに注意すべきことは。それぞれの自主練強度も違えばモチベーションも異なるみたい。再開後の練習強度、子どもたちへの接し方、どうすればいい?とご相談をいただきました。同じことで悩んでいる指導者の方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが指導者の皆さんに5つのアドバイスを送ります。(取材・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<楽しみながら判断力をつけさせるメニューや考えて動けるようにする声かけはある?<お父さんコーチからの質問>こんにちは。街クラブでU-10 、U-12の指導をしています。この度の新型コロナウイルスの影響でチーム活動を停止しているのですが、再開後の練習についてご相談させていただきたくご連絡いたしました。チームでの活動ができないので、オンラインツールを使って自宅でできる課題を出してはいるのですが、住環境によって十分にできなかったりします。また健康で安全な環境でサッカーを再開できることが何より幸せなことだとは思いますが、こんなに長い期間チーム活動ができないのは初めての経験なので、再開後に集まった時に体力の低下や停止中の過ごし方で子どもたちのレベル差が開くのではないかと少し心配でもあります。中にはサッカーへのモチベーションが下がっている子もいるようです。長期間チーム練習ができず、再開後にこれまでと同じ練習をしたらケガのリスクが高まるのではという不安もあります。池上さんにとってもこのような状況は初めての体験かもしれませんが、再開後の練習の強度や子どもたちへの接し方など、指導者としてどんなことをすればいいか参考になるご意見をいただけませんでしょうか。<池上さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。とてもグッドタイミングな質問ですね。5月14日、政府から39県における緊急事態宣言の解除が発表されました。新型コロナウイルス感染拡大防止のため重点的に対応している13の特定警戒都道府県でも、茨城や愛知、福岡などの5県は解除になります。あとは、東京や神奈川、千葉、埼玉といった首都圏や、私が住む大阪府が残っています。■「休んだ分を取り戻そう」とやりすぎないように解除エリアの小学生は「またサッカーができる!」と笑顔でいっぱいだと思います。そこで、再開において指導者が留意したい5つのポイントをお伝えいたします。1.「休んだ分は取り戻そう」とやり過ぎないように子どもにとっては待ちに待ったサッカーとの再会です。張り切っています。指導者の皆さんも同じ気持ちでしょう。しかし、休んだ分を早く取り戻そうなどと考えないでください。「やり過ぎ」に注意してください。つい長めに練習したり、体力が戻っていないのにハードにやってしまうと、けがや体調を崩す原因になります。特に、子どもたちが練習後に自分たちで「もっとやりたい!自主練だ!」となった場合は、大人がやめさせましょう。「やりたい気持ちはわかるけど、その情熱は次に残しておいてね」と伝えましょう。これは普段でも同じですが、子どもが「もっとやりたい」と言い出すくらいの練習量、強度のほうが、あとで振り返ると成長しているものです。2.「次の大会」から逆算して練習しないように多くのコーチは、練習が再開されるとまず考えるのが「次の大会はいつか」ということでしょう。「いついつが大会だから、そこから逆算するとあと○日しかない。だとしたら、セットプレーの守備だけでもやっておこう」そんな発想になってほしくありません。少年サッカーは、育成期の指導です。チームの結果よりも、個人がどう伸びていくか。そこを見る場所です。大会はあくまでもチームとしての結果です。大会があるのなら「よし、試合でこんなことを試してみよう」「君の課題にして取り組んでみよう」などと、ひとり一人が目標を見つけられるよう導きましょう。子どもが大会で他のチームと力試しをすることを目標にするのは自然なことです。大会を使いながら個人も考えてあげてください。3.走り込みはさせない中学生くらいから心肺能力を育てていく時期ではありますが、小学生から走り込みをやらせるのはやめましょう。私も大学時代に1週間何もしないと、練習に復帰したら息が切れるという経験をしたことがあります。小学生で息が切れることはそんなに経験したことはありません。全員が同じことできないかもしれませんので、もしできなくても決して悪いことではなく、すぐに追いつくことを伝えてください。そもそも、少年スポーツや育成期にバーンアウトしてしまうのは、日本のスポーツの大きな課題です。決してやりすぎないことを心にとめておいてください。■練習再開前に事前のヒアリングをして状況を確認しよう4.ひとり一人事前にヒアリングをしよう自粛生活は、長いところだと、3か月近くに及んだところもあるでしょう。長期間、強度の高い運動をしていないと思いますが、その程度は少なからずばらつきがあるはずです。各々に電話やオンラインで「何してたの?体調は?」と状況を聞いてあげるとよいでしょう。復帰直後は、決して無理をさせず個々に応じた指導を心がけてください。5.少年サッカーも「新しい生活様式」を私たちはしばらくの間、コロナウイルスと付き合っていかなくてはなりません。しばらくは「コロナ前」には戻れないと考えたほうが良さそうです。少年サッカーにおいても、まさに「新しい生活様式」を志向しなくてはいけません。■少年サッカーの適度な練習時間と頻度とは(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)指導者の皆さんも、休みの間にいろいろ考えておられることでしょう。誰が主役なの?育成とは何か?スポーツとは?そういったことを考えながら、小学生年代でやっておくことは何かということを勉強しなおしてもらえたらと思います。「小学生がサッカーをするのは週に2回でいい」私が以前から話していることです。90分ずつ週に2回まで。自粛しながら、気を付けながらサッカーに取り組むのなら、この頻度で十分だと思います。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年05月15日チームメイトの自己主張が強く自分のプレーができていなくて、練習中の覇気がない息子。嫌なこと、気になることを主張できればいいけれど、息子は内気な性格で、個性の強いチームメイトには息子が萎縮していることは伝わらないし保護者も気づいてない。自信を持ってプレーしてもらうためには環境を変えるべき?というお悩みをいただきました。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにお母さんへ3つのアドバイスを送りますので参考にしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<どうすればスイッチが入るの?息子のサッカーに疲れてきた問題<サッカーママからのご相談>こんにちは。小二の息子のことですが、地元のクラブチームを辞めて移籍するか悩んでます。理由はチームメイトの自己主張が強くて息子が自分のプレーができていなくて、練習中の覇気がないのです。あくまでも親の見解ですが。息子は内気な性格ですが、 後から入ってきた仲間には声かけてあげたり、チームメイトの為に献身的に走り、キーパーをやらされても頑張る子です。自分で嫌なことや気になることを主張できればいいのでしょうが、個性の強いチームメイトには息子が萎縮していることは伝わらないし、その親たちも自分の子どもの活躍しか関心がないのです。私も彼らには言えません。自信を持って楽しくプレーしてもらうためには環境を変える事が良いのか、今の環境で頑張る事が良いのか悩んでいます。息子には自分の考えを伝えた上で他のチームの無料体験の話をしたら嬉しそうに「行く」と答えましたが、4月から小学2年生になったばかりなので どこまで理解できているか疑問です。どうしたらいいか、アドバイス頂けるとありがたいです。宜しくお願いします。<島沢さんのアドバイス>ご相談いただき、ありがとうございます。スポーツは、プレーする子どもの性格が、プレーの志向(守ってしまいがち、攻撃にあがっていく)や競技中の態度に色濃く現れます。時には生い立ちや、親や指導者にどう育てられているかまで投影されることもあります。結果ばかりを求める大人に育てられている子は、本人も無意識なうちに安全なプレーを選択したり、ミスをするとわざと転んでみたりします。叱られることを回避したいし、自分でもミスを受け止められないわけです。このことはスポーツ全般にわたって言えることですが、集団競技の中でも選手個人の意思で判断してプレーせざるを得ないサッカーではより関連性が高い気がします。と前置きはさておき、息子さんの話をしましょう。いいところをたくさん持っている。これからが楽しみな男の子です。■保護者の「心配」が子どもにとって「転ばぬ先の杖」になる可能性内気な性格で、後から入ってきた仲間には声かけてあげたり、チームメイトのために献身的に走って、キーパーをやらされても頑張る――。息子さんの姿を、よく見ているし、理解しておられますね。ぜひ、彼の、やさしく、献身的なマインドを大事に育ててあげてください。「自分で嫌なことや気になることを主張できればいいのでしょうが、個性の強いチームメイトには息子が萎縮していることは伝わらない」と書かれています。個性の強い、とうまく表現してくださいましたが、まだ2年生になったばかりのちびっこギャングたちです。他者の気持ちを慮ったり、自分自身をメタ認知(自分を俯瞰で見るように理解する)するにはまだまだ数年かかります。そのギャング集団の中で、お子さんはきっと少し周りより精神的な成長が早い。早熟なのでしょう。もちろん内気な性格でもあるのでしょうが、仲間に気を遣ったりしてやさしくできるのは、ひとつの大きな才能です。でも、お母さんは、息子さんがやさしいゆえに少しばかり苦しんでいるように見える。それがお辛いのでしょうね。だからといって、チームを変えれば解決することでしょうか。新しいチームなら、彼のキャラクターをみんなが理解して、彼に自信を与えてくれるでしょうか。必ずしも、それは確約されないでしょう。「息子をわかってあげてほしい」「嫌なことはしないでほしい」「自信をもって楽しくプレーさせてほしい」お母さんは、周囲にそう願っている。したがって、環境を変えるべきか否か悩んでいる。気持ちはすごくわかります。ですが、その思考は、世にいう「転ばぬ先の杖」です。うまくいくように、わが子に良かれと思って、転んで大けがをする前に親や周囲の大人が杖を渡す。お母さんは、杖を渡したいですか?ただし、わずか7歳の子どもが杖をついて歩き続けたら、どうなるでしょうか?子ども時代は、友達とけんかしたり、挫折を味わったりと、転んでも自分の足で立ち上がって前に進む力をつける時期です。さまざまな経験を糧にして脚力を強化しなくてはいけません。それなのに、ずっと杖を持たされていたら、彼の脚は鍛えられません。今まで取材してきて、そういう子をたくさん見てきました。杖を渡すお母さんも見てきました。アドバイスを求められると、このように杖の話をします。すると、なかには「無駄な挫折は必要ない」とおっしゃる方もいます。私は無駄な挫折などないと思っているし、無駄かどうかは本人が決めることです。少なくとも、味わう前から決めることではないでしょう。■子どもがまだ幼くて自己決定できないことを、親が代役で決めなくていいそのようなことを踏まえて、お母さんに、三つアドバイスをします。ひとつめ。お母さんが息子さんのことを考えるとき、ぜひ、主語を息子さんに転換してください。「ぼくの個性をみんなにわかってあげてほしい」「ぼくに嫌なことはしないでほしい」「ぼくは自信をもって楽しくプレーしたい」そのように、息子さんが自分で考え、その欲求を叶えるために自分で行動に出るまで、お母さんは黙って見守ってあげてください。「見守って」というと、みなさん「我慢しろってことですよねえ。我慢するのって辛いんですよ」とおっしゃいます。でも、私は我慢を強いてるわけではありません。考え方を転換してほしいだけです。「自信を持って楽しくプレーしてもらうためには環境を変える事が良いのか、今の環境で頑張る事が良いのか」と迷っていた。でも、よく考えれば、それは息子が自分で考えて解決することだ、と。「どこまで理解できているか疑問」お母さん自身、率直な気持ちを書いていらっしゃるように、子どもがまだ幼くて自己決定できないことを、親が代役で決めなくていい。これが二つ目です。そして、三つ目。委縮している息子さんを、頑張れ、頑張れと心のなかで応援し続けてください。お母さんが「頑張っているのに、そんなにきつく言われて......」と同情すると、そこに「かわいそう」という感情が生まれますよね。「かわいそう」が生まれると、血のつながった親ですから、何とかして助けてあげたくなる。杖を与えたくなる。感情に負けて杖を与えてしまうと、子どもの成長を阻んでしまいます。したがって、息子さんをぜひ厳しく育ててください。日本では「厳しく育てる」というと、怒鳴ったり、叱って罰を与えることだと考える人が多いですが、それは違います。何かをやらせようと怒鳴るのでは、お尻をたたいてやらせること。無駄なコミットです。甘やかしだと私は思います。■見守ることは、ある意味厳しさでもある(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)見守ることは、ある意味、厳しさです。弱音を吐いてきたら「どうしたらいいか考えてごらん」と言ってあげればいい。今のところ、お子さんは今のチームがすごく嫌なわけではなさそうです。いま、コロナの影響でサッカーが思うようにできないのではないでしょうか。いい機会です。少し落ち着いて考えてみてください。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年05月13日未就学〜小学6年までを指導している。まずはサッカーというスポーツを楽しんでもらうことを前提に、年代が進むにつれ考えて動くプレーを身につけさせたい。おすすめのメニューや声かけはある?とのご相談をいただきました。今回も、これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが練習メニューや声かけをアドバイスします。(取材・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<試合ばかりで練習がつぶれる。技術は試合だけで身に付くの?練習を削ってでも試合を重視するべきか教えて<お父さんコーチからの質問>こんにちは。街クラブで未就学児から小学6年生までを教えています。年代ごとに教えなければいけないことはあると思いますが、まずはサッカーというスポーツを楽しんでもらう事と、学年が進むにつれて、考えて動くプレーを身につけさせたいと思っています。楽しくやりながら、状況を判断して動けるチームにする練習や、自分で考えて動けるようになることを意識させるために伝えるべき言葉(説明)などがあれば教えてください。<池上さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。サッカーというスポーツを教えてあげることが肝要です。そして、それをなるべく早く、低学年でも、幼児からでも伝えてください。■全員がプレーに関わった実感を持てると楽しくなる小さいときは、体格や運動能力の違いが大きいため、他の子より少しできる子がひとりでドリブルをしてゴールを奪う。ボールを持ち続ける。そんな場面がよく見られます。ですので、子どもたちには最初にこう声掛けしてください。「サッカーってみんなでパスをつないで協力してゴールを奪うスポーツですよ。誰かひとりだけが頑張るスポーツではないよ。もしひとりの子の力で点が取れたとしても、それはいいチームじゃないよ」そのことをまずわかってもらったうえで、みんなの力を結集して点を取るためにはどうするか、を伝えていきます。「味方を助けるためにどこへ動く?」「パスをもらうためには?」「得点するためには、どこに行く方がチャンスになる?」そういうところからスタートしましょう。ボールを持っている子は周りをまず見ること。どこにパスすれば点を取れるか、ゴールに近づけるか考えること。相手がやってきて、ボールを取られそうになるかもしれないので、そうなる前に助けてくれる人がいるとしたら誰を使うかを考えましょう。そんな順番でサッカーを学んでもらいます。みんなが味方を使うことを考えられるようになれば、みんなにパスがいきます。そうすると、断然サッカーが楽しくなります。ゲームでない練習、例えば「とりかご」をするときは、10本パスを回すと得点がもらえる。そんなふうに、ちょっとした仕掛けをします。単なる練習にせず、そんなふうにやるだけで子どもたちは大喜びします。みんなにパスが来るから楽しい。そんな感覚をぜひ身に付けさせてください。自分が出したパスが通ると楽しくなる。それがゴールにつながればもっと嬉しい。もちろんゴールを決めてもうれしいのですが、そこにコミットしたという実感を全員が持てることが一番重要です。■FCバルセロナの指導で定義される「いいポジション」とはそこまでもっていくには、最初の段階では流れを止めて説明する必要があります。学年が下がれば下がるほど、ゆっくり説明します。「はい、ストップ。いま、こんなところにみんないたよね。そこにいてパスはもらえますか?」そんな問いかけをして考えさせます。これは、文句とか叱るといったことではありません。スペインでは、質問することを「フィードバック」という言い方をします。このフィードバックでどんな言葉を使うかがとても重要です。例えば「どうしてそんなところにいるの?」は、それは間違ってますよ、と否定することになります。大人なので「いいポジション」は1か所ではないことを理解していますが、具体的にいうといったいどんなポジションなのかをわかってもらう必要があります。FCバルセロナの育成で「いいポジション」とは、「それは自分とボールの間に相手選手がいないから線が引けるね」というふうに説明しています。そのうえで、そこに「顔を出しなさい」と声をかけるわけです。と同時に「でも、ボールに線を引けるところはいっぱいあるよね。できれば、ボールよりも前(ゴールに近いほう)でパスをもらうことを推奨します。ボールを下げないように指導します。例えば、「ボールより前に線が引けるところはどこ?」という言い方をします。このように、ボールをもらえるポジションはいっぱいあります。どこが正しいか、は誰にも決められないと私は思います。しかしながら、日本の指導者は、「もう少し右だよ」と言って一歩の差を指摘するコーチは少なくありません。フリーズさせて(プレーを止めて)「そこじゃもらえないでしょ。あと1メートル動かなきゃ」とアドバイスします。そうではなくて、スペースに出せばいいので、そういう練習をすればいいのです。やりながら互いに理解を深めていけば、悪いポジションにいることがわかってきます。中田英寿さんが現役時代、試合中も誰もいないスペースにスルーパスをよく出していました。味方が反応せず、外に出たり、相手に取られるのですが、それでもそのスペースがあるよと仲間に伝えたかったのだと思います。見ていると、日本は低学年でパスを使うゲームや練習をほとんどやらせません。メニューが個人技術、クローズドスキルに偏っている気がします。「ゲームをたくさんやらせましょう」という話をすると、ゲームではスキルが上達しないのではないかと不安そうです。それなのに、試合になると練習していないことを要求したりします。子どもは戸惑います。スペイン在住の育成コーチでJリーグ理事でもある佐伯夕利子さんがフェイスブックで発信している3~5歳くらいの練習動画と彼女の文章に驚かされたことがあります。小さな幼児が、どんどんパスを回してゴールを奪っていました。俗な言い方ですが「サッカーになっている」わけです。■育て急ぐのか、勝ち急ぐのか......。日本と海外の指導者の違い(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)佐伯さんは「3歳児には3歳児なりの考え方がある」と書いています。だんごになることもある。成長段階ではそうなることを理解しなくてはいけません。「年少さんだからだんごでも仕方ないよね。年中になるとこんなふうになったらいいかな」そんな展望を指導者が持っておく。そのうえで、ゆっくりとサッカーの本質を伝えていきます。コーチたちがゆっくりと問いかけをしながらやります。決して「だんごはサッカーじゃない」といった言い方はしません。「みんなここにいるけど、どうかな?味方もいるし、相手もいるよ。とられないところってどこかな?」そんなやり取りを佐伯さんたちはいっぱいしてきたと思います。3歳は3歳なりに意見がある。すぐに答えをいうのでなく、ダメでしょではなく。「ぼくはここがいいと思った」と言えば、「オッケー。なぜそこがいいのかな?」と常に彼女たちスペインのコーチはやさしく対話します。常にやさしいのです。日本のコーチの指導は性急に見えます。とても急いでしまう。育て急ぐのか、勝ち急ぐのか。両方かもしれません。ぜひそのような哲学的な部分も見直しながら、ゆっくり指導してください。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年04月24日2013年のU-12ジュニアサッカーワールドチャレンジの開幕戦、バルサカンテラ時代の久保建英選手(現・RCDマジョルカ所属)が出場したFCバルセロナU-12対東京ヴェルディジュニアのフルマッチ動画が、WOWOWのYouTubeチャンネルで公開中です!■開始1分、久保建英の左足から放たれた衝撃ゴール2013年8月27日(火)、会場となったヴェルディグラウンドには多くの観客や報道陣が集まりました。そして、なんと開始わずか1分。観客の視線を一身に浴びた久保建英選手(♯11)の左足が振り抜かれると、ボールはそのままゴールへ吸い込まれます。10歳で海を渡り、FCバルセロナの一員として凱旋した久保建英選手の衝撃のゴールで大会は幕を開けました。開幕戦の相手は育成の名門として知られる東京ヴェルディジュニア。伝統的にテクニックに秀でた選手が集まるこのチームですが、バルセロナはヴェルディを上回るボールコントロールとターンテクニックでボールを保持し、試合を支配します。「日本では感じることができない感覚でした。ああいう風にやられることはまずない。バルセロナの選手はサッカーを良く知っている」ヴェルディの松尾洋監督がこう振り返ったように、スコア以上に見ていた人に"衝撃"を与えました。■アンス・ファティなどスター選手も出場終始試合を支配したバルセロナは23分、33分、41分にも追加点を奪い4-0で勝利。その勢いのまま第1回大会となったU-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2013の初代チャンピオンに輝きました。また、この大会に出場したFCバルセロナU-12には多くのタレントが所属していました。すでにFCバルセロナのトップチームでクラブ史上最年少ゴール、クラブ史上最年少CL出場選手、CL史上最年少得点など数々の記録を塗り替えているアンス・ファティ選手(♯10)、マンチェスター・シティFCに所属するエリック・ガルシア選手(♯3)、アドリアン・ベルナベ選手(♯20)などです。そういったトップ選手達の少年期のプレーが見られるのも非常に貴重な映像ではないでしょうか。(アンス・ファティ選手は大会得点王に、エリック・ガルシア選手は大会MVPに選ばれました)この映像の配信は、新型コロナウィルスの影響により、サッカーができない環境にある子どもたちに向けてU-12ジュニアサッカーワールドチャレンジの事務局と、当時中継を担当したWOWOWが企画。さらに、この試合をはじめ、2013年、2014年シーズンのFCバルセロナカンテラのフルマッチ映像を今後も公開予定とのこと。ぜひチェックしてみてください!WOWOWofficialチャンネル>>【この記事もオススメ】・U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2020「街クラブ選抜」セレクション募集開始!>>・FCバルセロナの元コーチが教える「サッカー選手が13歳までに覚えておくこと」【PR】>>・久保建英が先発したバルサvs東京都U-12のフルマッチ動画>>・U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2013の特集記事>>※以下、WOWOWofficialチャンネルより引用≪FCバルセロナ出場選手≫監督:MARCEL SANS NAVARRO19 FW MIGUEL ANGEL RAMIREZ CARRASCO9 FW NILS MORTIMER MORENO7 DF ADRIA ALTIMIRA REYNALDOS18 MF MIGUEL VEGA MORENO22 FW KONRAD DE LA FUENTE21 MF NICOLAS GONZALEZ IGLESIAS16 MF GUILLERMO AMOR TORRES5 DF IVAN BRAVO CASTRO8 MF NIL FABREGÓ COLL10 FW ANSSUMANE FATI3 DF ERIC GARCIA MARTRET11 FW 久保 建英(TAKEFUSA KUBO)15 DF SERGI ROSANAS MORAGAS13 GK ARNAU TENAS URENA12 DF ARNAU VILAMITJANA CIURANA20 MF ADRIÀ BERNABÉ GARCIA4 MF MARCO VILLA CASARES6 MF SERGI ALTIMIRA CLAVELL2 DF JOSE DAVID ALVAREZ ADSUAR17 FW GUILLEM CABOT FOZ14 MF ALEX SALA HERRERO1 GK DAVID TROYA SALCEDO23 FW ROGER VEGAS MIRAS≪東京ヴェルディ ジュニア 出場選手≫監督:松尾 洋1 GK 丸山 虹樹2 DF 松井 陽斗3 DF 佐古 真礼4 MF 山本 理仁5 MF 遠藤 海斗6 MF 石浦 大雅7 FW 坂巻 日向8 MF 松橋 優安9 MF 天満 恭平10 FW 龍前 大翔11 MF 高嶋 祥人12 MF 植村 輝13 DF 山脇 光瑠14 DF 斉藤 大地15 FW 吉長 真優16 GK 成川 航希17 DF 中嶋 基至18 FW 権田 陽大19 MF 家坂 葉光20 DF 冨樫 輝21 MF 安藤 如登22 MF 平尾 春喜23 MF 渡辺 翔
2020年04月23日新型コロナウイルスの影響で学校が休校となり、お友達と会えない時期が続いています。サッカーもチーム活動が停止中で、予定していた試合がなくなったり、子どもたちはこの状況を理解しつつもがっかりしている気持ちもあるのではないでしょうか。早く思いっきりサッカーをさせてあげたいけど......と不安に思うお父さんお母さんもいらっしゃるでしょう。もちろんお子さんたちにも不安な心があると思います。そこで今回は、日ごろオリンピック・パラリンピックを目指すアスリートのメンタルトレーニングに携わり、一方でスポーツを頑張る子の親の学び舎「スポスタ」で保護者の皆さんに心理学的な観点から子どもの人生と向き合う習慣づくりをサポートしている筒井香さんに、今不安に思っているみなさんに、心を少し軽くするアドバイスをいただきました。家にいる時間が増えて子どものテレビ視聴やゲームの時間が長くなってイライラしている保護者の方へのアドバイスもいただきましたのでご覧ください。(文:筒井香)サッカー活動も休止中でがっかりしている子どもも多い今、気持ちを和らげるためにできることとは■不安や苛立ち、今の気持ちに素直になろう新型コロナウイルスの感染拡大防止の影響が相次ぐ中、日本でも緊急事態宣言が出されました。休校延長が続いたり、サッカーの活動も休止中の人が多いと思います。皆様もご存知の通り、2020東京オリンピック・パラリンピックも1年延期されることが決まりました。私は日頃、2020を目指すアスリートの皆さんのメンタルトレーニングに携わっております。大会が延期されることが決まった後にも、それぞれの選手とトレーニングを行いました。こうした経験を踏まえて、そしてスポーツ心理学者として、今こそ皆様にお伝えしたいことがあります。お子様と一緒にお読みいただくか、お読みいただいた内容について子どもと一緒にお話しするなど、ご活用いただけたらと思います。これまでの練習の成果を発揮しようと心待ちにしていたサッカー大会が、中止や延期になったり、そして新生活を楽しみにしていたのに学校が休校になったり、予定外のことが次々と起こっていると思います。普段の休みと違って、サッカーの練習もできないし、友達と遊ぶこともできない日々が続いている今、どんな気持ち(感情)でしょうか?ガッカリしたり、イライラしたり、不安で落ち着かない、そんな気持ちになることも多いのではないでしょうか?子どもだけではなく、今の先の見えない状況に、大人も強い不安や苛立ちを感じていることと思います。そんな皆様に、今、お伝えしたいことは、「どうか自分の今の自分の気持ちに素直になってください」ということです。なぜなら、「ガッカリしていても大会がないことは変わらないから意味がない」「誰のせいでもないのにこんなことでイライラする自分はダメだ」などと、自分の気持ちを否定することは、最大のストレスになります。同様に、子どもを励ましたいという想いから、「残念だけど気持ちを切り替えよう!」などと声をかけたくなることがあると思いますが、実はこれも「自分の気持ちを否定された」という感覚を与えてしまい、ストレスになることもあります。■感情を言語化することで整理され、落ち着いて行動できるでは、周りの大人は子どもにどう接すれば良いのでしょうか?それはまず、子どもに「どんな気持ち?」と尋ねることで、子ども自身が自分の気持ちを言葉にする機会を持てるようにすることです。そして、「なぜ、そんな気持ちになったのかな?」とさらに理由を尋ねてみてください。子どもが、大会に向けて一生懸命練習をしてきたからこそ、好きなサッカーができないからこそ、ガッカリすることもできれば、イライラする気持ちを持つこともできるのです。これらは、子どもの"本気の想いがあったからこそ生じる感情"、つまり"本気の証"なのです。子どもにこのことに気づいてもらうことためにも、保護者の皆様との会話が大切だと思います。感情は私たちに大事なことをお知らせする機能を持っています。感情からのメッセージに耳を傾けることがとても大切です。イラつきは、例えば、何か自分に正論があって、それに相反する出来事が起こっていることを知らせています。焦りや緊張は、例えば、それだけ自分にとって大切な出来事であることを知らせてくれています。そして、落ち込みや悲しみは、例えば、失ったものがどれだけ大事なものであったかを知らせてくれているのです。このような感情は、とても大きなエネルギーを持っているので、簡単に抑え込むことはできないものです。無理に抑え込もうとすれば、誰にこの想い(エネルギー)をぶつけていいのかわからず、もっとガッカリしたり、最初のイライラとは関係のないイライラまで抱えることにもなりかねません。自分の感情を無視して抑え込もうとするのではなく、その感情になった理由を考えてみること、そして、本気だった自分を認めてあげることが、今はまず大事になります。ご家庭で、次のことをしながら時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。1.今の感情と、その感情になった理由をノートに書き出してみる。2.今のような日常とは違うことへの漠然とした不安を感じる場合にも、漠然としたままでは、実態よりも不安が膨れ上がってしまうので、過去、現在、未来の気になることに分けて考えて書き出してみる。3.今は会えないけれど電話やメールでもいいので友達、そして家族とお互いの感情について語り合う。このように感情を言語化することで、感情を客観的にみつめ、整理する力が養われて、感情を制御する力がつくと言われています。本当の意味での「気持ちの切り替え」はそこから始まると思います。ガッカリやイライラした感情エネルギーを、今から自分の行動にどのように使うかを考えることもできるようになります。「活動再開をしたら、もっと練習したい!」、そのために、今、時間のある間に、勉強をやっておく大切さに気づけるかもしれません。■考え方しだいでテレビやゲームも勉強やスポーツでの考える力をつける習慣作りにもなる最後に、保護者の皆様のなかには、子どものテレビやゲームの時間が長くなり、イライラを感じている方もいらっしゃるかと思います。もちろん時間を決めて、勉強する時間も作ることは大切ですが、それに加えて、「テレビやゲームも学びの時間と決めてやる!」というのも一つの方法かと思います。テレビを見て気づいたことは何か?今日より明日ゲームが上手くなるにはどうすればいいか?とお子様と話し合ってみてはいかがでしょうか。こうした力は勉強やスポーツに通ずるものです。また、そのイライラは、元の生活に戻れるのだろうか?この時間は取り戻せるのだろうか?といった、子どもの将来を想うからこそのイライラでもあると考えられます。それに改めて気づくことは、保護者の皆様ご自身の心の健康に繋がるものだと思います。ぜひ、感情からのメッセージを受け取ってみてください。感情エネルギーを有効活用することで、今よりももっと行動の質を高めることができるのです。筒井香(つつい・かおり)株式会社BorderLeSS代表取締役博士(学術)日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング指導士大学・大学院時代に人間行動学、臨床発達心理学、スポーツ心理学などの心理学から「人間の特性」を広範に学び、また、博士論文では、「個別性を重んじたポジティブシンキングの多様性」に関する理論を構築。現在はオリンピック、パラリンピック選手のメンタルトレーニングのほか、スポーツを頑張る親の学び舎「スポスタ」の講師として、スポーツを(アスリートとして)頑張っている子どもの保護者に向けて、人としてのキャリアのなかにアスリートとしてのキャリアも含めた、包括的な人生設計に重要な理論と実践方法を伝え、子どもの「キャリア=人生育て」を心理学の視点からサポートしている。株式会社BorderLeSSスポスタ
2020年04月21日あと1か月ほど休校が続く今、お子さんは日々どのように過ごしていますか。早々に親子で計画を立てた家庭もあるかもしれませんが、あと1か月をどう過ごそう、もう工夫もしつくしたしアイデアが出てこない......と頭を抱えるご家庭も少なくないのでは?新学期までの1か月をどう過ごすか。この機会にお子さん自身に計画させてみてはいかがでしょう。今回は特別にサカイクキャンプ(2019-20冬)から導入した、自分で目標を立てられるようになるサッカーノートの一部をお見せします。サッカーだけでなく日常の目標も立ててみましょう。印刷してご家庭で実践してみてください。=====================★☆今だけ特別に一部公開!!☆★自分で目標設定ができるようになるノートはこちら>>=====================<サカイクキャンプの高峯コーチも絶賛>「これまでよりさらに、自分で考えるきっかけになる工夫がある」ノート「でも、うちの子まともに計画をたてられるかなあ」「計画倒れになりそう......」という心配もあるかと思いますが、しつもんメンタルトレーニングの藤代圭一さんとコラボしたこのノートは、「何を」「どんなときに」するか子どもが自ら考えられるような工夫が施され、自分で目標設定をしやすくなっているのです。自分で立てた目標をやりとげていくのは充実感や自信にもつながります。あと1か月の過ごし方を、お子さん自身に計画させてみませんか。サッカーだけに限らず、勉強やおうちでの過ごし方について少しでも目標をたてるためにご活用ください。=====================★☆今だけ特別に一部公開!!☆★自分で目標設定ができるようになるノートはこちら>>=====================※P6ステップ1「キャンプが終わったときに」⇒「休校期間が終わったときに」など、文言は適宜アレンジしてください
2020年04月15日サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜協立大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。聴講者はすでに6万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。(監修/高橋正紀構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)<<前回|連載一覧>>(写真は少年サッカーのイメージです)■小学生年代でヘディングの「練習」は必要なのかみなさんは、幼児から小学生までのヘディングについて、どうお考えですか?私はずっと以前から子どもを指導する際にはヘディングの練習はやらせていません。1990年代にドイツ留学し、その際に子どもにやらせていなかったこともありますし、「止める」「蹴る」の技術がサッカーでまずやるべきことだという認識や、「こんなに小さい頭では脳にあまり良くないのではないか」という危惧もあったからです。その後、2008年に池上正さんが上梓された『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』を読み、「やはりヘディングはさせてはいけなかった。良かった」と自分が間違っていなかったことに安堵した記憶があります。12年前にみなさんの手に渡ったその本には、こう書かれていました。7~8歳では浮いたボールが蹴れません。ボールが空中に上がらないのだから、ヘディングを練習する必要はありませんね。実は、私もこの考え方に出会ったのは20数年前です。それまでは、幼児にヘディングをやらせていました。ある方との出会いが私に、大人も進化しなくてはいけないことを教えてくれました。その方は、以前ジェフのゼネラルマネジャーを務めていた祖母井(うばがい)秀隆さん(現フランス・グルノーブル社長)です。(中略)私はYMCAにいたのですが、その祖母井さんにアドバイザーとしてYMCAに来てもらったのです。ヨーロッパの少年サッカーの指導法を教えていただいたのですが、幼児はもちろん小学生でもヘディングするなんてありえないと言われました。「今まで、おれら何やってたんだ?」と大ショックでした。すぐに変えました。全国のYMCAのサッカースクールのカリキュラムをすべて変更しました。出典:サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法「今日から、ヘディングはなくなります」と池上さんが発表すると、コーチからは大ブーイングだったそうです。でも、「間違っていたら変えなくてはいけない」と池上さんらが強く主張してYMCAは小学生にヘディングを教えることをやめたそうです。08年時点で20数年前とおっしゃっているので、1980年代のことです。ところが、日本で小学生にヘディングの練習をさせる指導者はなくなりません。先日も、ヘディングが原因と疑われる硬膜下血症の治療をしている小学生の話をきいたばかりです。■イングランドではユース年代の練習でヘディング制限するガイドラインを発表イングランドサッカー協会は先月、ユース年代の練習でヘディングを制限するガイドラインを発表しました。11歳以下の子どもたちは原則禁止。12〜18歳の年代でも最小限に抑え、段階的に増やすようにと伝えています。試合中のヘディングは従来通り可能です。ただし、池上さんが本に書かれていたように、7~8歳では浮いたボールが蹴れないので、ボールが空中に上がらないため試合でもヘディングをすることは、ほぼありません。イングランド協会が子どものヘディング禁止を決めたのは、同国のグラスゴー大学が昨年、元プロサッカー選手を対象にした調査で、認知症やパーキンソン病など脳の病を発症して亡くなる確率が一般の人に比べ3.5倍高くなるという結果を発表したことがきっかけになったと言われています。ガイドラインでは、ヘディング練習が段階的に制限される年代の12歳以下は「月に一度の練習で最大5回」まで。13歳以下は「週に一度の練習で最大5回」まで。14〜16歳の年代は「週に一度の練習で最大10回」まで、18歳以下でさえ「可能な限り減らすように」と通達しています。日本サッカー協会は現時点で、ヘディング練習に関する具体的な制限は設けていません。12歳以下の指導では、ヘディングを教えるときは「生え際のところに首を固定して、ボールに当てる」といったやり方が紹介されています。子どもの脳への影響は語られていません。そもそもボールは浮かないのですから、練習を禁止にすべきです。そうすれば、胸やももで体を入れてコントロールすることを覚えます。それでは、ごく一部とはいえ、日本の指導者がなぜ子どもに、脳へのリスクの高いヘディングを教えてしまうのか。それは二つの理由が考えられます。1.危険だという認識がない2.認識があっても、体の大きな子どもがヘディングを覚えることで得点源になるため勝利に近づくことができる。日本の少年サッカーの指導法は近年、少しずつ変化を遂げています。とはいえ、技術や戦術にばかりエネルギーを注ぐあまり、いかに安全な競技環境にするか、いかに子どもたちにスポーツマンシップを伝えるかといった「勝利にかかわらない部分」が置き去りにされていないでしょうか。■情報のアップデートには迅速に対応しなければならない(写真は少年サッカーのイメージです)日本サッカー協会の指導者ライセンス取得の講習内容は、4年に一度見直します。ただ、情報が書き換えられる部分についてはもっと迅速に対処すべきだと感じています。日本サッカー協会の指導者ライセンスを取得したサッカー指導者は医学的なこともおさえながら指導しています。例えば、中学生年代など身長が急激に伸びる時期(PHV年齢※Peak Height Velosity)には、身長の伸びと同時に内臓も肺も大きくなります。PHV年齢は女子が11歳。男子は13歳ごろですね。その時期には持久力系のトレーニングが必要になります。ただ、単にランニングさせて走らせるやり方ではサッカーの技術との関連性がなくなってしまいます。ボールを使う練習の中で、心肺機能にも負荷を与える練習を意識的に行う事は欧州ではずっと以前から常識です。ところが、ここでも日本は遅れています。単調なランニングをさせるコーチは少なくありません。ヘディングの指導も然りです。間違っていたら、変えなくてはいけません。<<前回|連載一覧>>高橋正紀(たかはし・まさのり)1963年、神奈川県出身。筑波大学体育専門学群ではサッカー部。同大学大学院でスポーツ哲学を専攻。ドイツ国立ケルンスポーツ大学大学院留学中に考察を開始した「スポーツマンのこころ」の有効性をスポーツ精神医学領域の研究で実証し、医学博士号を取得。岐阜協立大学経営学部教授及び副学長を務めながら、講演等を継続。聴講者はのべ5万人に及ぶ。同大サッカー部総監督でもあり、Jリーガーを輩出している。Jリーグマッチコミッショナー、岐阜県サッカー協会インストラクター、NPO法人バルシューレジャパン理事等を務める。主な資格は、日本サッカー協会公認A級コーチ、レクリエーションインストラクター、障害者スポーツ指導員中級など。
2020年03月25日サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜協立大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。聴講者はすでに6万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。(監修/高橋正紀構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)<<前回|連載一覧>>(写真は少年サッカーのイメージです)■今だからできることに目を向けてみよう政府からの休校要請が出てから約2週間が経ち、今週から一部の学校が再開したという報道もありました。育成年代のスポーツでも、状況を見ながらスクールやチーム活動を再開したところもあるようです。チーム活動については、代表の方々の判断でいつから再開するかが決まると思いますが、仮にお子さんのチームが「長い春休み」になったとしてもサッカーのモチベーションや技術を維持、又は向上させることも不可能ではないはずです。Jリーグやプロ野球をはじめ、いくつかのプロのリーグが延期になり、春の高校野球選抜大会の中止も決まりました。野球だけでなく、サッカーの育成年代の大会も中止になったりしています。みなさんのチームでも試合の予定が変更になったり中止になったりして、お子さんががっかりしているご家庭もあるかもしれません。大好きなサッカーをチームのみんなと一緒にできないのは本当に辛いことです。ですが、こんな時だからこそ視点を変えて、サッカーができなくてつまらない、と退屈しながら過ごすのではなく、今の環境でできることをやろう、と前向きに捉えて様々なことに挑戦してみてほしいのです。できないことに嘆きながらだらだら過ごすのと、今だからできることに目を向けて見るのとでは、チーム活動を再開した時に差が出るのではないでしょうか。今回のことは、親御さんや指導者の方々も体験したことのない事態であり、まさしく「何が正解かわからない」状況なわけです。ここで思考を働かせて、自分で考えて行動できるか、来るべきに備えることができるかが問われます。先日、文部科学省が休耕中の子どもたちについて「(休校要請は)屋外での運動や散歩を妨げるものではない」という見解を出しました。ウィルス感染へのリスクには注意を払わなければなりませんが、子どもたちの外出が禁止されているわけではないのです。自宅の庭や近所の公園で苦手克服に挑戦したり、少人数でできる連携プレーを磨いたり......。このようなタイミングだからこそ思考を働かせて休みを有効に活用してほしいものです。■「創造的休暇」にできるかどうかは、大人のありようにかかっている高校生だけでなく、サッカー少年たちにとって一番楽しいはずの遊びの一種である「サッカー」ができない。コーチや保護者のみなさんは対応が大変だろうと思います。しかしながら、歴史を省みてみると、むしろこういったカオスな状態の時にこそ才能が開花する下地ができるのではないかと言えるかもしれません。一例ですがロンドンで腺ペストの大流行があった1665年。世界的科学者のニュートンは、通っていた英ケンブリッジ大学が一時休校となり郊外にある実家に戻っていました。この2年近い休暇を過ごす間に彼の思索は深められ、落ちるリンゴを見てひらめいたことで有名な「万有引力の法則」もこの間のだということす。ニュートンにとってのこのペストによる休校期間は、のちに「創造的休暇」と呼ばれるようになりました。だとすれば、現在の状況を「コロナ疲れ」だなんだと不平不満を言いながら暮らすのと、「創造的休暇」にできるかどうかは、私たち大人のありようにかかっています。私たちこそが試されているのです。みんな一緒のトレーニングができないのなら、それぞれで何ができるか。熱がなく、元気であれば、何人かで公園に集まってサッカーができるでしょう。大人にセッティングされなくても、何をするか考えられるはずです。ボールコントロールを意識してやってみよう。パスでつなぐことを意識してミニゲームしてみよう。相手とのかけひきをもっと意識してプレーしてみよう。いろいろなトライができるといいんだと思います。これは前回の連載でも話しましたが、自己管理能力も試されます。早寝早起きをし、生活リズムを整え免疫力を高めることが重要です。自分を律して、人ごみの中ではマスクをする。手で顔を触らない。手洗いやうがいをする。そして、サッカー以外の、日頃できないことにも目を向けてみる。子どもがそうなるには、まずは親や指導者がどこまで前向きに今の状況をとらえられるかにかかっていると思います。■子どもだけでなく、大人も学ぶ機会にしよう(写真は少年サッカーのイメージです)全国で学校の臨時休校や部活動の休止が続くなか、プロアスリートたちがそれぞれ、自宅で簡単にできるトレーニング法などをネットで公開しています。これも、プロらしい社会貢献です。例えば、プロ野球ロッテのルーキーである佐々木朗希投手が子ども向けのトレーニングを実演する姿をインターネットの動画サイトに投稿しました。サッカーも、乾貴士、岡崎慎司など、さまざまな選手が同様にやってくれています。それらも参考にしながら、「今、何をすべきなのか」をお子さんと話し合ってください。これを機に、コーチやチームメイトとスカイプなどで話し合うリモートミーティングに挑戦してもいいですね。また、子どもにはこの機会に学べと言いながら、自分はスマホでゲームではいけません。大人も学ぶ機会ととらえましょう。創造的休暇を、ぜひ目指してください。<<前回|連載一覧>>高橋正紀(たかはし・まさのり)1963年、神奈川県出身。筑波大学体育専門学群ではサッカー部。同大学大学院でスポーツ哲学を専攻。ドイツ国立ケルンスポーツ大学大学院留学中に考察を開始した「スポーツマンのこころ」の有効性をスポーツ精神医学領域の研究で実証し、医学博士号を取得。岐阜協立大学経営学部教授及び副学長を務めながら、講演等を継続。聴講者はのべ5万人に及ぶ。同大サッカー部総監督でもあり、Jリーガーを輩出している。Jリーグマッチコミッショナー、岐阜県サッカー協会インストラクター、NPO法人バルシューレジャパン理事等を務める。主な資格は、日本サッカー協会公認A級コーチ、レクリエーションインストラクター、障害者スポーツ指導員中級など。
2020年03月18日コロナウイルス感染拡大の影響で学校に休校要請が出たこともあり、先週からお休みになった子どもたちが多いと思いますが、保護者の方からは休校中の過ごし方やサッカーができないことの不安なども聞かれました。そこで先日サカイクは緊急読者アンケートを実施し、チーム活動状況、休校中の過ごし方、保護者の不安を伺いました。たくさんの方にリアルな声を寄せていただいたので、その結果を発表します。早くまた子どもたちが大好きなサッカーを楽しめるようになってほしいものです。写真はサカイクキャンプで夢中でプレーする子どもたち(写真提供:オールスポーツコミュニティ)<アンケートの回答>■お子さんのチームの活動状況について当初、「この1、2週間がカギ」ということで3/15(日)までの自粛要請が出ていたこともあって、約半数の答えが「3/15まで」という結果でした。ですが、日々状況が変わる中での判断にゆだねられることもあり、「状況により変わる可能性があります」という声も寄せられました。スポーツ少年団などは学校のグラウンドを使用しているチームも多いため「校庭が使用できない日は中止」など会場確保がカギになるようです。■休校中の過ごし方について休校中は主に自宅で過ごすという回答が最も多く、82%でした。その他の中には保護者の職場にお子さんの居場所を作ってもらったという回答や、どちらかの祖父母宅で過ごしてもらう、などの回答が見られました。もともと在宅ワークが可能だった方や、今回のことをきっかけにテレワークに切り替えることができる職業の方ばかりではないため、子どものお友達も一緒に自宅で面倒を見ている、など保護者が協力しあっているという声もありました。自宅での主な過ごし方については、多くの方が午前中または普段学校にいる時間は勉強、それ以外は遊んだり、サッカーの自主練をするなど自由にすごしているとの回答が寄せられました。ほかには、日常生活で必要な家事や趣味の楽器、お菓子作り、部屋の整理など、サッカー以外の事を親子で楽しみたいと言う声も多数ありましたので、その一部をご紹介します。<回答の一部>・子ども自身が、自宅内でできるジンガと家の前でリフティングと読書、と目標を立てていた・午前中は1時間ぐらい勉強した後読書、そのあと庭で軽く運動。午後は自由時間→サッカーの自主練かボール遊び、縄跳びなどをします。普段出来ないことをする機会として一緒に料理をしたり、ウクレレを始めたりなど、いろんなことを体験させています・親が仕事の時は留守番。運動不足が気になるので毎日親子で30分、縄跳びをする時間を作る事にしました。サッカーのボールタッチの練習もして欲しいのですが、そちらはあまり......(苦笑)・学校から家庭学習の時間割が決められており、午前中は宿題をしている。午後からはゲームしたりサッカーの練習をするなど(サカイク読者アンケートより)中には「家で勉強、もしくはゴロゴロしてます」「テレビ→テレビ→宿題→テレビ」など親御さんたちが「あー、わかる!」と共感しそうな回答や、「提出期限のある課題も出ているけれど、1時間も机に向かっていない。私が仕事の日はきっとテレビ三昧だと思う......」と、親御さんのため息が聞こえてきそうなご意見も見られました。■休校中の不安について一番多かったのは「運動不足・体力低下」で38%でした。学校やサッカーの活動が停止になり、普段の活動量が減ったためエネルギーを発散することができないことや、お友達と遊べないことなどがストレスにつながっているようです。サッカーの面でも「他の子より遅れそうで不安」という声もありましたが、学習面でも「遅れが心配」というご意見が多くありました。子どもたちも休みに飽きてきて、親が色々工夫するのもアイデアが続かない......と疲労が見えるご意見も。中には「学校から外出も自粛するよう言われているので、公園等に行くのもはばかられる」といった声もありましたが、多くのご家庭は人混みは避けているけれど、まったく家の外に出ないという回答は少なく、自宅の庭や公園、近所の河川敷などで身体を動かしたり親子で練習したりしているようです。活動量の低下は生活リズムの乱れにもつながります。文部科学省からも「屋外での運動を妨げるものではない」という見解が出ているので、いきなり活動を制限されてエネルギーを発散する場がなくなった子どもたちのストレス解消のためにも身体を動かしてリフレッシュしてください。学校だけでなく大人たちもいきなり在宅勤務(テレワーク)になったり、東京ディズニーリゾートやユニバーサルスタジオジャパンなど大型施設の休園、Jリーグやプロ野球をはじめとするスポーツの延期、学生の大会は中止になり、食品や紙製品の買い占めが起こるなど未曾有の事態に不安を抱える方も多いかと思います。しかし、このタイミングだからこそできることがあるはずです。今までできなかったことに挑戦してみたり家族の時間を楽しむための参考にしていただければ幸いです。
2020年03月12日令和最初の全国高校サッカー選手権で優勝を果たした静岡学園高校。足元の技術やドリブルなどの個人技で観客を魅了するスタイルのチームでしたが、連覇をかけた青森山田高校に先制点を許しながらも逆転劇は印象的でした。試合をご覧になった方はご存知かと思いますが、前半は劣勢だった静岡学園のプレーが後半にガラッと変わり、チームが勢いにのって逆転勝利につながったのです。劣勢を跳ね返すことができた理由の一つが、試合後の川口修監督のインタビューで語られた「選手たちに整理する力があった」こと。サッカーでも勉強でも役に立つ「整理する力」とはどんなスキルで、静岡学園ではどう身につけさせているのか、川口修監督にお話を伺いました。(取材・文:元川悦子写真:森田将義)<<齊藤興龍コーチに聞いたタイムマネジメント術近年は東大合格者も生んだ静岡学園が取り組む1日、1週間の効率的な時間の使い方状況をよく見て頭の中を整理できたからこそ、後半戦い方をガラッと変えることができたのです■劣勢でもブレずにスタイルを貫けた理由1月13日に行われた第98回高校サッカー選手権大会決勝で、2019年高円宮杯プレミアリーグ王者・青森山田に前半から2点のリードを許しながら、3点を奪って逆転勝利し、初の単独優勝を飾った静岡学園。彼らのアグレッシブな戦いぶりは多くの高校サッカーファンを大いに勇気づけました。劣勢で折り返したハーフタイム。指揮を執る川口修監督は「ブレるな」と語気を強めたといいます。「青森山田はフィジカル的に強く、強固な守備をベースにセットプレーやロングスローで点を取ってくるチームです。彼らに勝ちたいと思うなら徹底的に相手を分析して、ストロングポイントを消すのが早い。しかし学園は勝利よりも個人の力を伸ばすことに主眼を置いていますから『1対1で負けるな』『個々の力を押し出せ』というベースをあえて曲げずに戦いました。自由度の高いサッカーをするのは選手たちにとっては難しいものです。あの大舞台ですからなおさらでしょう。でも僕らは高い目標を持ち、時間をかけてコツコツと技術と戦術眼を磨いてきた。そういう自信があったから、最後の最後で勝ち切れた。選手権決勝は『静学スタイル』を貫いた1つの成果ですし、埼玉スタジアムに集まった人々や全国のファンが喜んでくれたのも、その姿を目の当たりにしたからだと思います」■指導者の言葉を何でもかんでも鵜呑みにしない、情報取捨選択も必要川口監督が井田勝通前監督(限総合監督)の下でプレーしていた頃から、静学の哲学は変わっていません。96年末に藤枝明誠から母校に戻ってコーチになり、2009年に監督に昇格してからも「自分で考えて行動する力」をつけさせようと意識的にアプローチしてきたといいます。「『選手に教えすぎてはいけない』というのは、井田さんが指導現場に立っていた頃から言い続けていたこと。戦術を1~10まで事細かに教えなくてもサッカーができるようになると僕は考えています。実際、選手権で優勝したチームもこの1年間は課題の改善というのを重要テーマに掲げ、つねに取り組んできました。試合後は必ずミーティングを行って、何が問題だったのか、どうしてうまくいかなかったかをフィードバックし、それを選手たちに考えてもらうように仕向けたんです。それを踏まえて、彼らは選手同士のミーティングもよくやっていましたね。今回のチームはインテリジェンスとアンテナの感度が高く、それぞれ意見を言い合える自主性とコミュニケーション力があった。僕たち指導者が何か言わなくても、『自分たちで変えていこう』と決断してチーム全体に発信することもできましたね。課題改善のサイクルを通じて、状況に応じた良いプレー、良くないプレーの判断基準を身につけることが頭の中を整理することにつながります。監督やコーチの指示も、何でもかんでも鵜呑みにせず、ピッチ内の状況を考え、その時の状況に合わせて取捨選択できるのもスキルの一つで、このスキルは年々高まっていると感じます。実際今回のチームでも、青森山田戦の時も僕が『ブレるな』と言った後、キャプテンの阿部健人が中心となって『前半は自分たちのサッカーができてない。ここからは普通にやろう』と声を掛け合っていました。その姿を見て大丈夫だと感じました。自立心の高い選手たちに恵まれて本当に感謝しています」と川口監督はしみじみと語っていました。■指導者に言われたことを理解し、課題を克服してピッチで実現できることが大事課題の改善に関しては、試合やビッグトーナメントの時だけに行っていたわけではありません。日々の練習の時から地道に取り組んでいたのです。思ったようなパフォーマンスが出せなかったり、技術・戦術面で足りない部分があったり、メンタル的な問題を抱えている選手がいたら、川口監督や齊藤興龍コーチはその選手を呼んで意思疎通を図ることを忘れませんでした。「気になる選手がいれば練習前後に声をかけて『何か不安なことがあるのか』と聞いたり、『もっとこうした方がいいんじゃないか』とアドバイスするようなことは日常的にやっていました。練習の中で意識させるのが選手を伸ばす一番のポイント。指導者に言われたことを理解し、自分なりに努力して課題を克服し、ピッチ上で表現できる選手が最終的に選手権でメンバー入りし、大舞台で活躍するんです。そうやって目覚ましい成長を遂げる選手は『アドリブ力』も高まりますね。サッカーは止める蹴るの基本が最も重要ですけど、余裕が出てきたらもう一段階レベルの高いプレーをやっていい。それこそが個性だと僕は思います。思考力のベースがあって初めてアドリブができるようになる。そこまで行けば、静学の育成としては一応の成功かなと感じます」■高校以降も「伸び続ける力」のベースを身につけさせるのが静学のモットーそんな川口監督が口癖のように言っているのは「武器を大きくしろ」ということ。静学は技術・戦術・フィジカル・メンタルが全て平均点の選手を育てるチームではないという強い自負があるからなのです。「選手の特徴は千差万別。いろんな選手がいていいんです。例えば、今年川崎フロンターレに入った東京五輪代表候補の旗手怜央なんかは1対1とスピードには絶対的な自信を持っていました。本人は順天堂大学に進んでから『守備のプレスのかけ方が分からない』と苦労したようですが、そういうことは自分で考えて判断していけばいい。それによってプレーの幅と思考力が伸びていく。高校年代は個人のベースとなる技術とストロングポイントをしっかりと身に着けていくことが大事、それが伸び続ける力の原動力になる。それを身に着けさせるのが静学のモットーなんです」川口監督が強調する哲学に魅了され、入学希望者は年々増加しています。2020年春にはサッカー部員が280人体制になる見通し。その大所帯で個の力を磨くことは難しいですが、それにあえて取り組んでいくことで、彼らはさらなる高みを目指すつもりなのです。<<齊藤興龍コーチに聞いたタイムマネジメント術近年は東大合格者も生んだ静岡学園が取り組む1日、1週間の効率的な時間の使い方川口修(かわぐち・おさむ)1973年6月生まれ、沼津市出身。92年春に静岡学園を卒業後、プロを目指しレブラジルに渡る。95年4月から藤枝明誠高校でコーチになり、96年12月に母校・静学のコーチに。2009年から監督となり、2020年正月の第98回高校選手権で全国制覇。
2020年03月09日新型コロナウイルス感染症予防には、免疫力を高めるため、適度な運動も必要だと言われています。そこで日本サッカー協会(JFA)は、個人でテクニックを身につけられるプログラム「JFAチャレンジゲーム」(動画)を4月5日(日)まで無料公開しています。■チャレンジゲームとは?子どもに必要な動きづくりを徐々にステップアップしながら取り組んでいく個人向けプログラムです。これは8歳までを対象とした「めざせクラッキ!」、9歳以上を対象とした「めざせファンタジスタ!」の2部構成になっています。ボールがひとつあれば一人でできるものがほとんどで、広い場所がなくても大丈夫です。※「クラッキ」とは、ブラジル(ポルトガル語)で「名手」「サッカーのとてもうまい人」という意味「めざせクラッキ!~ボールはともだち」トレーニング動画はこちらから>>「めざせファンタジスタ!~ボールを意のままに」【1】ボールフィーリング【2】フェイント&ターン【3】ボールフィーリング手トレーニング動画はこちらから>>
2020年03月06日サッカーが上手い下手でマウンティングする言動がチームの中に広がっている。コーチもだけど、子どもたちの中にも。親としてはサッカーが上手くなるのもだけど、小学生に大事なのは技術だけでなく態度や思いやり、協力的な部分だと思っている。ボランティアコーチだから教育的な指導を求めすぎるのも難しいのか......、とモヤモヤする気持ちを抱えるお母さんからご相談をいただきました。皆さんならどうしますか。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとに3つのアドバイスを送ります。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<息子は人見知り?試合に出ても練習に参加しません問題<サッカーママからのご相談>小学生サッカーチームで兄弟ともにお世話になっていました。兄は卒団し、弟(11歳)はまた違う指導者にメインで指導してもらっています。元々、指導者によって考え方が違うため、なんとなくまとまりがないチームであることは分かっていましたが、最近特に上手い下手でマウンティングする言動がコーチ、子どものなかにまで広がっているように感じます。とてもあからさまです。もちろんサッカーが上手くなって勝ちを取りに行くのも大切だけど、それは一部ではなくみんなでそうするべきだと思うし、小学生のサッカーに一番重要なのは、態度とか、相手をおもいやるとか、みんなで協力するとかそういうソフトな部分なのではないかと思い、モヤモヤし続ける日々です。子どもはこのチームで卒団までやりたいようですし、そうなると、親から言えることはなにもなく。ボランティアコーチでまとめてもらっていますので、教育的な部分を求めすぎるのも難しいのかと思いながらもそれでも指導する立場なのに......とモヤモヤがとまりません。<島沢さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。「上手い下手でマウンティングする言動」が具体的にどういったものなのかがわからないので、はっきりしたことは言えませんが、お母さんの感覚でそう思えてしまう。しかも「あからさまに」と書かれているので、看過できない問題であることは確かだと感じます。■サッカーの力の差で仲間を従わせるのはスポーツマンではない私の知っている少年団でも、似たようなことがありました。「一番足を引っ張っているヤツをみんなで指さしてみて。イチ、ニッ、サン!」そのように音頭を取って、子どもたちに指をささせる。そんなコーチがいました。その方の夢は「Jリーグ選手を少年団から輩出すること」で、長く"高学年だけを"見てきた自分にはそのくらいの指導力があると言うのです。すると何が起こったか。小学校の掃除の時間に、レギュラークラスの子が自分の掃除当番をベンチスタートの仲間にやらせたり、下校時にランドセルを持たせるといったマウンティング行動が目立つようになりました。しまいには、そういったことに交わっていない子どものお母さんが、担任教師からこういわれたそうです。「サッカー少年団の子どもたちのなかで、主従関係ができてしまっている。力の強い子が弱い子を家来のように扱っているというか。度を超すといじめにならないか心配です。サッカーのコーチはちゃんとした人が教えているのでしょうか?」そのお母さんは「ちゃんとした人かと言われれば、全く違います。すぐに怒るし、何試合やってもずっと同じレギュラーメンバーを出し続けて、2点差以上開かないと絶対交代させません」とありのままを担任に伝えました。担任は家来のように仲間を扱っていた子たちに「サッカーの力の差で仲間を従わせるのはスポーツマンではない」と叱ってくれました。以来、そういったことはなくなりましたが、ほかにもそういった話はよく聞かれます。■モヤモヤする現状を改善するための3つの方法結論から言うと、お母さんの「モヤモヤ」は、正当な感覚です。三つアドバイスしますね。まず、できればマウンティングをやめていただく努力をしてほしいです。ほかの保護者に意見を聞いてみましょう。同意見であれば、コーチに対してやめてほしい言動を伝えましょう。その際は、いつもお世話になっていて感謝している旨をまず伝えてから話します。それでも伝わらなければ、クラブの代表の方に話します。ふたつめ。他の保護者から後方支援を受けられなさそうであれば、息子さんが傷ついていないかだけでも話を聞きましょう。また、どう感じているのかを聞いても良いでしょう。お母さんはよくないことだと思っていると伝えたほうがいいと思います。よく、コーチのことは悪く言うななどとおっしゃる方がいますが、あくまで主体は子どもです。少年スポーツは大人のメンツや名誉のために存在していません。三つめ。よろしくないコーチだとしても、最終学年まで同じチームで続けてきたお子さんの気持ちは汲んであげましょう。決して、他のチームへ移籍しようといったことは言わずに最後までプレーさせてあげましょう。■子どもの「見本」になる大人か「反面教師」になる大人かの区別をする力も必要「ボランティアコーチでまとめてもらっていますので、教育的な部分を求めすぎるのも難しいのか」と書かれていますが、まったくそんなことはありません。社会の一員として子どもを教えている以上、責任はあります。ぜひ視点を変えてください。「教育的かどうか」というよりも、「大人として正しい言動かどうか」で判断してください。子どものスキルが未熟か成熟しているかによって態度を変えたり、未熟な子に対して強い態度に出るのは大人として失格です。私がそういったことを言ったり書いたりすると、「コーチをしたこともないくせに」とおっしゃる方がいますが、その言葉も意味が分かりません。コーチとしたら、子どもは個々で能力差もあって大変ですね。イライラして子どもに当たりたくなる気持ちはよくわかりますと言ってほしいのかもしれません。大人には、子どもたちが生きていくうえで「こんな大人になりたい」と思える見本になる人と、その逆である「反面教師」になる方がいらっしゃいます。その区別をする力もこれからは必要です。■パワハラ、セクハラがなくならないのは親たちの考えも原因(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)以前、私の子どもが在籍した少年団にも、モヤモヤするコーチがいました。よろしくないのでは?と他のお母さんたちに話したら、ひとりのお母さんはこう言いました。「うちは、大人の言うことは基本的にちゃんと聞くようにしつけてあります。長く生きている人には、それだけの長があるということなので」かなり驚きました。そういう考えの方もいらっしゃいます。だからパワーハラスメントも、セクシャルハラスメントもなくならないのだと思いました。「ママはおかしいと思うよ。あなたは影響されないでね。(マウンティングされている)お友達を支えてあげて」それだけはぜひお子さんに伝えてください。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年03月04日サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜協立大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。聴講者はすでに6万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。(監修/高橋正紀構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)<<前回|連載一覧>>(写真は少年サッカーのイメージです)■新型コロナウイルス感染不安の中、少年サッカー活動はどう判断すればいいのかみなさんご存知のように、Jリーグは新型コロナウイルス感染拡大の状況を重く見て、3月15日までのJ1第2~4節などのJ1から3の全94試合を延期することを決めました。Jリーグが自然災害以外で中断するのは初。日本国内の主要プロスポーツが今回のウイルスの影響で日程変更するのは初めてのことになります。24日に政府の専門家会議が「今後1~2週間が拡大の瀬戸際になる」との見解を発表したことを受け、Jリーグは25日に緊急会議。全会一致で延期を決定したものです。私は3月1日のJ1リーグのマッチコミッショナーを請け負っていたので、リーグから連絡が入りました。さまざま意見はあるかと思いますが、個人的には正しい判断だととらえています。密閉されたドームや体育館内で行われる競技と違ってサッカーは屋外なので「大丈夫なのではないか」という声も聞かれますが、席と席の間が密接したスタンドでは飛沫感染や濃厚接触の可能性は限りなく高いのですから。そのような周囲の状況をみるにつけ、少年サッカーの指導者や保護者の方のなかには気をもんでおられる方もいらっしゃると推測します。練習や練習試合、大会参加など、活動の在り方について「やっていいのか?」「中止にすべきか?」と迷いますね。地域によっても判断が分かれるところでしょう。■子どもがサッカーをしたいと言っても親は説得して止めなければならない少年サッカーの活動について、今考えたいことを五つ挙げてみました。ひとつめ。当然ではありますが、学校閉鎖になった時点で実施は慎むべきでしょう。千葉市などのように、新型ウイルス患者が出てすでに学校閉鎖を行っている自治体があります。厚生労働省は今後、同じ市町村の学校で新型コロナウイルスの感染が拡大した場合、患者がいない学校でも休校や学級閉鎖の検討を要請する方針を示しています。そうなった場合、保護者はお子さんがサッカーをしたいと言っても止めなくてはいけません。その場合、「ダメなものはダメなのよ」と強い言葉で抑えつけるのはやめましょう。これがふたつめです。たとえ低学年であっても、コロナウイルスが蔓延している状況をきちんと説明します。そして、サッカーすることが自分のためにならないばかりか、他の人にも迷惑をかけるかもしれないことをなどもです。三つめ。このようなときだからこそ、"日ごろやりたくてもできなかったこと"に取り組むことを勧めてください。読書をする。漫画でもよいでしょう。攻略したかったゲームをやる。生活リズムを狂わせるものでなく、時間を区切ってやればいいでしょう。海外のサッカーをテレビやパソコンで観る。レベルの高いプレーを観るだけでも、スキルが向上するベースがつくれるでしょう。ほかにも芸術や音楽に親しむ。遅れがちだった算数や漢字をやっておく。そんなふうに、"日ごろやりたくてもできなかったこと" はたくさんあるのではないでしょうか。■危機に関する感覚は人によって違う。各家庭の指針を持って行動をこのような非常事態のなかで、どれだけ平常心で、でも注意を怠ることなく有意義に過ごせるかを親子で話し合うことは大きな学びになります。クラブによっては、学校閉鎖になっても休みにしないところもあるでしょう。複数の異なる市区町村から選手がやってくるクラブは、練習や試合に来れる子どもがいる限り運営を続けるかもしれません。そういったケースは仕方ないかもしれませんが、困ってしまうのは「よそが休んでいるときに練習しよう」とコーチが言うクラブです。クラブの判断をおかしいなと感じたら、きちんと意見を言ったほうがいい。これが四つめです。このようなクライシスに対する認識や感覚は残念ながら人によって違ったりもするので、「うちはお休みします」というように家庭での指針をもって行動しましょう。もちろん、その際も、子どもときちんと話し合って、納得した状態で休むことが肝要です。説明を省略してしまうと「A君は出ているのに」と子どもが疑心暗鬼になります。あくまでも、お父さんやお母さんが「あなたのためにどうしたらいいか」を一生懸命考えた結果だと言うことを知らせましょう。五つめ。こういうときこそ自己管理を教える良い機会ともとらえられます。なるべく人ごみに行かない。手洗いやうがいの正しいやり方を教えて、こまめにやってもらいます。毎朝、自分で熱を測る。そういった自己管理を学んでもらいます。■今、大人がもっとも気を付けなければならないこと(写真は少年サッカーのイメージです)そして、大人がもっとも気をつけなくてはいけないのは、基礎疾患のある子どもへの対応です。すでに報道されているように、子どもでもぜんそくなど持病があると重症化するリスクが高まります。指導者は、こまかく様子を見てあげましょう。ともあれ、Jリーグが国内の主要プロスポーツで最初にリーグ中止という英断を下せたのは、サッカー界が世界の反応を知りえる立場にいることが大きいと思います。リーグ中止を決める前に23歳以下のテストマッチに、南アフリカが来日を拒否しました。サッカーのイタリア1部リーグ(セリエA)は22日、23日に予定されていたインテル・ミラノ対サンプドリア、アタランタ対サッスオロ、ベローナ対カリャリの3試合を、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて延期しました。Jリーグが中止を決める3日前のことです。アメリカの国務省は22日、日本と韓国への渡航警戒レベルをこれまでの1から2(注意の強化)へと引き上げました。Jリーグの村井チェアマンは「ある種の国難。Jリーグとして協力していく必要がある」と述べています。大人として私たち私たちが協力し合って、子どもたちを守りたいものです。<<前回|連載一覧>>高橋正紀(たかはし・まさのり)1963年、神奈川県出身。筑波大学体育専門学群ではサッカー部。同大学大学院でスポーツ哲学を専攻。ドイツ国立ケルンスポーツ大学大学院留学中に考察を開始した「スポーツマンのこころ」の有効性をスポーツ精神医学領域の研究で実証し、医学博士号を取得。岐阜協立大学経営学部教授及び副学長を務めながら、講演等を継続。聴講者はのべ5万人に及ぶ。同大サッカー部総監督でもあり、Jリーガーを輩出している。Jリーグマッチコミッショナー、岐阜県サッカー協会インストラクター、NPO法人バルシューレジャパン理事等を務める。主な資格は、日本サッカー協会公認A級コーチ、レクリエーションインストラクター、障害者スポーツ指導員中級など。
2020年02月26日試合の2時間前からアップさせる指導者。アップ時間が長すぎて子どもたちは試合前に体力消耗してしまっている。休憩ありとはいえ1時間45分程のアップは長すぎない?適切なアップ時間ってどのぐらい?とご質問をいただきました。今回も、これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんがアドバイスを送りますので参考にしてください。(取材・文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<「楽しければ強くならなくていい、レギュラー外して」という選手に勝つ喜びを教えるにはどうしたらいい?<お父さんコーチからの質問>こんにちは。指導者でなく保護者なのですが、子どもたちが心配なので相談させてください。スポーツ少年団で、息子がサッカーをしています。指導者はボランティアの監督、コーチです。チームの悩みですが、試合前のアップが明らかに長いと思っています。11時からの試合開始だと9時からアップを開始して試合開始の15分程前までアップをしています。明らかにアップが長く、子ども達は試合前に体力を消耗してしまっています。さすがに夏場は「猛暑なのでこのままでは、子どもは試合前に倒れてしまいますよ」と、保護者代表から相談を持ち掛けて改善は図られました。いくら寒い時期になったとはいえ、休憩ありでも1時間45分程のアップは長いと思うのですが、少年サッカーの試合前アップは、どれくらいが適切なものでしょうか?<池上さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。1時間45分のアップ(練習)では、休憩もあるでしょう。全体像が見えないとはっきりしたことは言えないのですが、こちらの想像の範囲での話だとご理解いただいたうえでお聞きください。■「アップ」だけと考えるなら長いが、指導者には別の意図があるかも結論から申し上げましょう。アップの適切な時間を尋ねているのなら、1時間45分は長いと思います。ただし、それがトレーニングの一環であれば、試合前に行うという状況であっても問題はないと感じます。小学生は、練習試合や大会の際のウオーミングアップを、練習も兼ねて長く行う場合もあります。そもそも活動が週末だけだったり、もしくは週に行える練習時間はそう多くないという理由でやっている指導者もいます。そういうことはあるだろうと想像します。人数も、一日に何試合行うのかもわからないので何とも言えないのですが、試合で子どもがどれくらいの時間プレーするかを考えると、指導者にとってはひとつの工夫でしょう。一人当たりの時間がそんなに長くないので、アップの時間に練習をさせようというわけですね。そういうことを考えて時間を過ごしているのかもしれません。例えば、冬場で寒い時期であれば「最初に練習するよ」と1時間くらい練習をさせます。試合は前後半交替で出るから、というならまったくおかしいことではありません。指導者として、活動量を増やすという意味で考慮する必要はあります。■試合前のウォーミングアップの適切な時間一方、「どれくらいが適切な時間か」という質問もありました。純粋に試合前のアップだとしたら、子どもたちは20分程度で温まります。その程度の時間で問題ありません。体温を上げて、各部位の関節の可動域を広げるだけで十分なわけです。その時間を指導者がどういう目的で指導しているか。それによって見方は変わるとしか申し上げられないのが実際のところです。違う視点から言うと、ご相談の文章を読んでいてひとつ疑問がありました。「11時からの試合開始だと9時からアップを開始して試合開始の15分程前までアップをしています」「明らかにアップが長く、子ども達は試合前に体力を消耗してしまっています」この二つです。15分前まで行うことは特に問題ではありません。ごくごく普通のことです。また「体力が消耗してしまっている」という心配は、親御さんたちからから見て「試合に勝つためにはマイナスだ」という感覚でしょうか?もし、そうでなかったら聞き流してくださいね。■指導者、保護者間のコミュニケーションがネガティブな疑問解消につながる子どもたちが試合に勝ちたいのは当然ですし、その心は育てなければいけません。が、その気持ちをどう成長させるかが大人の役割です。目の前の試合で一喜一憂するのではなく、おおらかな気持ちで応援してあげてもらいたいと思います。例えば「アップしすぎたから負けた」というような見方ではなくて、この試合、もっといえば、その日の活動機会をどう生かすか、という視点で考えてはいかがでしょうか。また、保護者側からは「もし夏場なら倒れてしまいます」と話されたようですが、もう少し指導者からコミュニケーションがとれたらいいのかもしれません。保護者は、指導者の考えになかなか触れられません。疑問が出てくると、ネガティブなほうに考えていってしまいがちです。私は指導者の方々に「保護者とコミュニケーションをとってくださいね」といつも話します。円陣を組んで子どもに話すのを、保護者に聞いてもらう。その試合や練習、もっといえばその時間を何の目的をもって過ごすのかを一緒に聞いてもらうわけです。そこを理解してもらえば「ああ、コーチは練習の一環でやっているんだな」などと納得してもらえます。■大事なのは時間の長さではない(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)ご相談の文章を読む限りでは、そんなに深刻な問題ではなさそうです。子どもたちが楽しく、熱中して取り組んでいるのであればまったく問題はありません。時間の長さを計るよりも、子どもたちの表情や動きを見てあげてください。例えば、しごきのような、理不尽な練習内容であれば、逆に子どもたちから苦情が出るはずです。決してそういったものでないのならば、親御さんたちもぜひ見守ってあげてください。池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2020年02月21日2020年からの教育改革は、明治維新以来のもっとも劇的な改革であると言われています。新しい学習指導要領がめざすのは「十分な知識・技能」「答えがひとつに定まらない問題に自ら解を見出していく思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」の育成です。これまでの知識偏重の教育から脱却し、「知識をどのように使うのか」に重点が置かれるようになるわけです。大学入試も大きく変わります。この大きな教育改革によって、「頭がいい子」の定義も大きく変わると予想されます。単にたくさんの知識を持っているだけでは不十分で、「自分以外の人ともうまく関わりながら豊富な知識を活用できる子」が高く評価される時代がやってくるのです。中には「うちの子勉強好きじゃないんだよね」「なんか読解力が低い気が......」「スマホばっかりしているんですけど」とお悩みの保護者の皆さんもいるかと思います。ですが、そんな親が心配する行動や変化こそ子どもが伸びるサインなのだそう。サッカーでも勉強でも、子どもが伸びるためには親のかかわりが重要です。今回は、入塾テストなしで難関校に続々合格する塾の先生で、アスリートと学習教育に共通する「成長プロセス」の体系化にも取り組んでいる進学塾VAMOS代表・富永雄輔さんに、子どもの伸びしろを最大限伸ばすヒントが詰まった最新著書「それは子どもの学力が伸びるサイン!」(廣済堂出版)のからいくつかのヒントをいただくこの短期連載。最終回となる今回は、子どもを賢くする「チャンス!」の事例をお届けします。子どもたちが夢に向かい、進路を決める時に納得した決断を出すために大事なことでもあります。「それは子どもの学力が伸びるサイン!」これからは「自分以外の人ともうまく関わりながら豊富な知識を活用できる子」が高く評価される時代がやってくるのです(写真は少年サッカーのイメージです)■日常の出来事は、子どもを賢くするチャンスにつながるこんにちは。私は東京・吉祥寺に本部を置く学習塾「VAMOS(バモス)」の経営者として、10年以上子どもたちの指導にあたってきた富永雄輔です。また、一方で日本サッカー協会登録仲介人として、サッカー選手のエージェント業務も行っています。私の塾では入塾テストを一切行っていませんが、ありがたいことに難関校と言われる学校に合格するお子さんたちが多くいらっしゃいます。そんなお子さんと親御さんのかかわりを見てきた経験から、子どもが気になる行動をしたときは、大人がそれを「サイン」とみなし、適切なタイミングでフォローしていけば、学力も思考力もぐっと伸びると実感しています。今日はこんな過ごし方は、子どもを賢くする「チャンス」!の事例をご紹介します。社会が多様化している今、子どもの生活は親が子どもだった時代とは違ってしまっています。それを踏まえて、日常のさまざまな出来事を子どもを賢くするチャンスにつなげましょう。そのための方法をお教えします。■お金の話をする-生きる力を育てるチャンス日本人はとかく、お金の話を避ける傾向があります。そのため、お金に関する教育も諸外国に比べ、かなり遅れているのが現状です。自己破産を多く扱う弁護士さんの話によれば、そもそも自分の収入に応じた生活を営むという当たり前のことができない若い世代が非常に多いのだとか。金融リテラシー、つまりお金に関する知識や判断力が身につかないまま大人になっているにもかかわらず、一方ではクレジットカード、モバイル決済などのサービスが気楽に利用できる社会は出来上がっています。便利さの裏にあるリスクをきちんと理解せぬまま安易に利用してしまった結果、金銭的な窮地に陥るケースが後を絶たないのだそうです。仮想通貨などの新しい金融商品も続々と登場しましたが、その仕組みを理解できなければ、その恩恵にあずかることはできません。年金などの社会制度の行く末も不透明な未来を生き抜くためには、お金に対する正しい知識と理解は欠かせないでしょう。そのためにも、家庭での会話において、お金の話をタブーにしないことはとても大事です。お金の話は成績の話に通じるものがあります。努力はもちろん大事ですが、受験生に必要なのは客観的な数字。いいか悪いかは別にして、定量的に数字を見せて、現実的かどうか子どもに判断させることが受験には必要です。最近の学校教育では、子どもに定量的な目標をあまりもたせないことが多いのですが、ただ「がんばる」だけでは、子どものモチベーションはなかなか長続きしません。数字で表す目標を掲げることで、それに向かって自分の勉強を続けられます。受験においては、「がんばる」「一生懸命」などの抽象的な言葉をなるべく使わない習慣をつけるほうがよいと私は考えています。■「キラキラした姿」ばかりでなく、現実をきちんと教えるですから、将来の職業の話をするときも、小学生くらいまでは、夢や希望がもてるキラキラした姿だけを話題にしていけばよいでしょうが、中学生以降のお子さんには、その仕事で具体的にどれくらいの報酬があるのかという、シビアな部分に触れておくのも大事だと思います。私はサッカー選手のエージェントの仕事もしているのですが、思うことがあります。小学生ならサッカー選手を無邪気に夢見るのもいいでしょう。でも、中学生くらいからは、海外のチームに所属し、日本代表に選ばれて、夢のような年俸を得られる選手はほんの一握りであること。さまざまな試練を乗り越えてJリーガーにはなれたとしても、J3の選手の場合はサラリーマンの平均年収を稼ぐのがやっとという金銭的な現実から目を背けさせてはいけません。もちろん、お金だけが大事なわけではないですし、「だからあきらめなさい」ではありません。たとえ、年収が高くなくても「夢を与える仕事を選びたい」という判断は尊重すべきだし、ひと握りの日本代表という夢を追いかけ続けるにしても、自分の実力を冷静に見たうえであれば、否定する必要はないです。その夢を肯定するか、調整するか、思い切ってあきらめるのかは、あくまでも本人の判断なのです。しかし、私が言いたいのは、その判断材料に「お金」の情報を与えないのは、大人として無責任ではないか、ということです。みんながお金持ちになれるかのようなイメージだけを抱かせ、現実を見せないのは、少なくとも中学生以上の子どもに対しては、むしろ酷だと思うのです。お金の現実を知り、そのうえで判断し、その夢に対して自分なりの着地点を見つけることも、大事な「生きる力」のひとつなのです。■親も子もスマホの画面にばかり夢中になっていない?コミュニケーション能力を「持って生まれたものだからしょうがない」と諦めないでください。親子の会話で身につけられる力です(写真は少年サッカーのイメージです)そもそも大規模な教育改革が実施される理由がまさに、「十分な知識・技能」「答えがひとつに定まらない問題に自ら解を見出していく思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を備え、自分以外の人ともうまく関わりながら豊富な知識を活用できる、そのような人材を社会が求めているからにほかなりません。これまで経験したこともない大きな改革ゆえに、いったい何が起こるのか、どういう準備が必要なのかと不安を抱えている親御さんも多いかもしれませんが、ひとつ間違いなく言えるのは、「コミュニケーション能力の高さ」はこれからますます大きな武器になることです。コミュニケーション能力を、持って生まれた才能のように勘違いする方が多いのですが、決してそうではありません。多くの子どもたちと接している中で私が強く感じるのは、優れたコミュニケーション能力を発揮する子には、ご家庭でたくさんの会話を重ねているという共通点があることです。ネット時代であろうとも、コミュニケーション能力は顔を突き合わせたコミュニケーションによって磨かれます。大きな力を発揮するのは、日常的な親子間のコミュニケーションなのです。しっかり顔を見て、表情の変化にも気を配りながら、お子さんと会話をしていますか?親も子もスマホの画面にばかり夢中になっていませんか?新しい教育システムであなたのお子さんがチャンスをつかむのか、ピンチに陥るのか──。その鍵を握るのは、新世代のお子さんの価値観に寄り添い、サインをキャッチし、理解しながら、コミュニケーションを図ろうとする、そんな親御さんの姿勢にあることをどうか忘れないでください。富永雄輔(とみなが・ゆうすけ)進学塾「VAMOS(バモス)」代表。京都大学を卒業後、東京・吉祥寺に幼稚園生から高校生まで通塾する進学塾「VAMOS」を設立。入塾テストを行わず、先着順で子どもを受け入れるスタイルでありながら、中学受験から高校受験、大学受験まで、毎年首都圏トップクラスの難関校合格率を誇る。少人数制の個別カリキュラムを組みながら、子供に合わせた独自の勉強法により驚異の合格率を実現して話題に。小さな学習塾ながら、論理的な学習法や、子供の自主自立を促し、自分で考える力の育成に効果的と、保護者から圧倒的な支持を集めている。日本サッカー協会登録仲介人として若手プロサッカー選手の育成も手がけ、アスリートと学習教育に共通する「成長プロセス」の体系化にも取り組んでいる。主な著書に『「急激に伸びる子」「伸び続ける子」には共通点があった!』(朝日新聞出版)、『東大生を育てる親は家の中で何をしているのか?』(文響社)、『男の子の学力の伸ばし方』『女の子の学力の伸ばし方』(共にダイヤモンド社)などがある。
2020年02月19日今年の高校サッカー選手権で青森山田を逆転で下し、優勝を果たした静岡学園。南米のサッカースタイルをベースに世界で活躍できる選手育成を目指し、足元のスキルなど個人技に優れた静学スタイルは多くのファンを魅了しました。高校サッカー選手権に出場する強豪校がどんな練習をしているのか、興味を持っている保護者の方も多いかと思います。静岡学園の部員数は部員は260名。今回の出場校でもトップクラスに選手が多いのです。それなのに練習グラウンドはフルコート1面と小コート1面という環境。グランドを使える時間が限られているからこそ身に付いた「タイムマネジメント」について齊藤興龍コーチにお話を伺いました。(取材・文:元川悦子写真:森田将義)部員数が多く、練習時間が限られているからこそ自分で時間管理する力が身に付いていく■サッカーにフォーカスするだけではダメ、勉強との両立が心身の充実につながる2020年1月13日に行われた第98回高校サッカー選手権大会決勝。静岡学園高校(通称:静学)が高円宮杯プレミアリーグ王者・青森山田高校に前半から2点のリードを強いられながら、3ゴールを奪って、見事な逆転勝利を挙げたのは記憶に新しいですね。74回大会で鹿児島実業と両校優勝してから24年。ついに悲願だった単独優勝を果たしたのです。当時、高校2年で、先輩たちの同校全国優勝を目の前で見ていた齊藤興龍コーチ兼部長は感慨ひとしおだったと言います。「僕らが高校生だった頃のレギュラークラスの選手は、プロか社会人になってサッカーを続ける選手がほとんどで、大学に進学する選手は少なかったんです。自分の代も選手権に出たレギュラーの中で大学に行ったのは僕1人。今は松村優太(鹿島)のようにJリーグに行く選手を除いて、ほとんどが大学に進むようになりました。優勝メンバーの小山尚紀は選手権後にセンター試験を受け、キャプテンの阿部健人はアメリカの大学進学を決意するなど、学業の部分でも非常に意識が高い。そこは大きな違いだと感じています」静学の文武両道路線が加速したのは、井田勝通前監督(現総合監督)時代の2000年代半ば。「中高6年間の一貫指導」を目指し、中学のサッカー部強化に本腰を入れ始めたことが1つのきっかけになったそうです。「12歳から選手たちを預かってよい選手に成長させようと思うなら、単にサッカーにフォーカスするだけでは足りません。挨拶や礼儀作法など生活面の基本から徹底させ、人間的な成熟を図って選手を大人にしていくことも非常に重要です。グランドでは『サッカー小僧』、学校では勉強をしっかりする『学生』というようにメリハリをつけることが心身の充実につながる。そう考えて僕自身も指導するようになりました」と齊藤コーチは言います。■部員数260人!練習前後の空いている時間をどのように使うかが文武両道のカギ井田前監督が退任して川口修現監督が就任し、学校が草薙運動公園前から現在の東鷹匠町へ移転した2009年以降はよりその傾向が強まりました。学力レベル引き上げを目指す学校側の考えもあって、水準は年々上がり、今では中学の内申点が「5教科の合計が最低16点」でなければ入学が許されなくなっています。こういった文武両道のスタンスが選手自身や保護者にも好意的に受け止められ、2015~16年頃から部員数が200人を突破。2019年は260人となり、2020年入学組は280人になる見通しです。しかしながら、練習環境は齊藤コーチが高校生だった頃と変わっていません。静学の練習場は現校舎から自転車で約30分の距離にある谷田グランド。ここはフルコート1面と小コート1面しかないため、300人に迫る勢いの部員全員を一度に練習させるのは不可能です。そこで、200人を超えた4~5年前から午後練習の2部制を導入し、効率的にトレーニングできるような工夫を凝らしているといいます。「静学サッカー部員の1日は6時半の朝練習から始まります。僕らの頃は旧校舎の校庭か草薙運動公園で毎日朝5時半からやっていましたが、現校舎に移ってからは時間を少し遅らせて回数も週4回に減らし、近隣住民への配慮から音の出るリフティングなどを控える形で実施しています。この朝練の際、スタッフ間で選手たちの授業や学校行事などの予定を確認し、話し合いの中で臨機応変に午後練習の時間の振り分けを決めます。学校は8時の朝学習からスタートしますが、1年生は毎日7限まであり、2・3年もコースによっては7限に出席しなければいけない。授業終了は16時15分とかなり遅いので、16時半からの1部練に参加するのは難しくなります。そういった事情をしっかりと把握したうえで、どのチームを何時から練習させるかを決めています。今年の場合は5チーム編成でしたから、A・B・Cチームが16時半~18時半、D・高校1年チームが18時半~20時半か21時までといった2部制で形で活動していました。選手権に出たAチームの選手でも毎日早い組と決まっているわけではない。帰宅が遅くなることもあったと思います」(齊藤コーチ)遅い組になった選手は練習までの待ち時間が生じます。その空いている時間をどう使うかが文武両道の大きなポイントです。川口監督や齊藤コーチは「空いている時間をどうするか自分で考えろ」と常日頃から口癖のように言って自主性を促していましたが、大半の選手が図書館や教室で学校の課題や予習復習をこなしていたというのですから、意識の高さに驚かされます。■誰にとっても1日の時間は有限だから、自ら時間の管理することが重要実際、高校生がサッカーと学業を両立させたいと思うなら、1日のどこかで勉強時間を作らなければいけません。部活動に励んでいる普通の高校生の場合、放課後はグランドに出て練習し、18時頃には終えて帰宅。食事や入浴を済ませてから勉強するというパターンが一般的です。けれども、静学のサッカー部員は練習環境の問題があって全員がそのサイクルで動けるわけではありません。2部練に参加した選手は帰宅が21~22時になるため、その後に勉強するのはかなり難しいです。選手である前に成長期の子どもたちには休養も大事だからです。だからこそ、選手それぞれの空いている時間を有効活用することが肝要なのです。「自ら時間を管理していくことは非常に重要なテーマです。『一日の中での細かい隙間時間や月曜日のオフの使い方、土曜日や日曜日の空いている時間を効率的に使うことが大切である。将来のなりたい自分に近づくために、努力に時間を使おう』といったアドバイスを個別、あるいはチームごとにアプローチを行っています」と齊藤コーチは言います。そういう日々の積み重ねが静学の文武両道の実現につながっている。そこは特筆すべき点と言っていいのではないでしょうか。齊藤興龍(さいとう・おきたつ)1978年生まれ、静岡県田方郡函南町出身。静学DFとして75回選手権ベスト4の原動力に。97年春に国士舘大学へ進み、2001年に母校の教諭に。中学サッカー部強化に着手した1年目から中学でコーチなり、現在は高校サッカー部の部長兼コーチを務める
2020年02月18日2019年12月と今年1月の2回に渡り、東京、大阪で指導者向けのセミナーが実施されました。このセミナーはチームのグループコミュニケーションアプリ「BAND」とCOACH UNITEDが共催。「サッカーを教えるだけのクラブは生き残れない!スポーツの可能性と新しい時代に求められるサッカークラブの作り方」というテーマで行われました。■クラブを運営する指導者の悩みとは?参加者はJリーグのクラブや街クラブ、少年団の代表者、監督・コーチを始め、サッカー以外の競技団体からも集まり、その数は100名近く。北海道や広島など遠方から足を運ぶ人もおり、注目度の高さがうかがえます。事前アンケートによると、セミナー参加者の多くが、時代にあった「チームの価値づくり」「チーム運営・マネジメント」に悩みを抱えており、また保護者とどう連携し協力関係を築いていけるかといった「保護者とのコミュニケーション」に関する悩みが多く見られました。参加者の一人で、埼玉県でジュニアチームのコーチを務める杉本健さんは、このように話します。「私自身、2児の父親でアラフィフ(50歳前後)ですが、現在の親の世代との価値観の多様化・ギャップを感じています。サッカーは競い合うスポーツですし、いわゆる他の"習い事"とは違うと考えています。ただ、そうは思わない親御さんも増えているようで、組織についても、やや旧態依然とした部分があるため、時代に合わせた柔軟性が求められているように感じています」折しも、少子化の時代。子どもの減少にともない、クラブの淘汰も進む中、持続的に子どもたちを育成し、クラブを成長、運営させていくにはどうすればいいかという悩みを持つ指導者は増えてきています。そんな悩みに対し、解決策やヒントを提示するのが、このセミナーの趣旨でした。■勝てば選手が集まる時代は終わった講師はFC市川GUNNERSの代表を務める幸野健一さん。30年以上に渡って育成年代の指導者や環境改善に関わってきました。2014年にアーセナルサッカースクール市川(当時/現・FC市川GUNNERS)を立ち上げ、行政と連動してグラウンドを作るほか、様々な施策を実行し、クラブを日本有数の規模に成長させた、育成年代のスペシャリストです。近年はクラブチームの代表を務めるかたわら、『プレミアリーグU-11』の実行委員長としても活動し、「全員出場」をルールに盛り込んだリーグ戦を全国で開催。FC市川GUNNERSでも選手の出場時間を管理し、「全試合の40%以上に出場させる」ことを実行しています。「"大会で勝てば選手が集まる"という勝利至上主義の時代は終わりました。このまま少子化が進めば近い内に4分の1のクラブは必要なくなってしまいます。子どもたちや保護者に対して我々が提供できる価値とは何か?を真剣に考えなければいけません。レギュラー選手ばかり試合に出して強いのは当たり前。私のチームでは『全員を試合に出して、試合に勝つ。強いチームになる』ことを価値として様々な取り組みを行っています」選手ファーストで様々な施策に取り組むFC市川GUNNERS。トレーニングの量についてもデバイスを使って管理し、トレーニング、試合、休息のサイクルを回し、「休むことや食事をしっかりとることもトレーニングの一貫なんだ」と、選手や保護者に伝えています。「体組成計測定、フィジカルテストなどを通じ、選手個々のデータを見て、成長のどの段階にいるのかを、選手と保護者に説明します。いまは体が小さくて、接触プレーで弾き飛ばされてしまうかもしれないけど、まだ成長の過程なので、しっかりと食事をとっていれば成長しますからとデータを見せて説明すると、子どもも親も安心します」出場時間の確保、選手のフィジカルデータの収集を始め、全コーチが選手を評価するときの基準を作成するなど、チームに所属する子どもたち全員を成長させるためのアプローチを徹底。立ち上げからわずか5年の若いクラブは、今では400名近くの会員を抱える関東有数の人気クラブに成長しました。■みんなを幸せにしながら強いチームを目指す「みんなを幸せにしながら、強いチームを目指しましょう。クラブの価値は強さだけで決まるのではありません。親御さんが何を求めているか、監督の好き嫌いで試合に出られるのではなく、科学的なデータをもとに納得してクラブに子どもを任せられる。子どもが試合に出て、サッカーの楽しさ、プレーする喜びを知ることができる。それがクラブに関わる人たちみんなを幸せにしていくことなんです。」その一貫としてクラブが重視しているのが、セミナー参加者の悩みにも多く挙げられた「保護者とのコミュニケーション」です。FC市川GUNNERSは、チームの考えや育成方針、子どもたちの状況を密に共有していくために、昨年の9月からグルーコミュニケーションアプリである「BAND」を導入しています。幸野さんは話します。「チームを運営してく上で、親御さんの理解や協力を得ることは不可欠です。コミュニケーションの量、質ともに高めていかなければなりません。そのためにBANDを使ってチームの考えを発信したり、週末の試合映像や分析映像、データの共有などを密に行っています。また、コーチの大きな負担になっていた選手の出欠管理や送迎有無などもBANDで一括管理するようになり、コーチの手間と時間が大幅に削減される一方で、保護者とのコミュニケーションの量も増えました。クラブが提供できる価値を高めていくためにこうした新しいテクノロジーを導入していくことも、非常に重要だと思っています」しかし、すべてのクラブがFC市川GUNNERSのようにできるわけではありません。最後に、幸野さんはセミナーをこう締めくくりました。「やれることからやることが大切だと思います。クラブに関わる子どもたち、親御さんをどう幸せにできるかを考えてみてください。残念ながら、その価値観でクラブを運営している人はほとんどいません。ブルーオーシャンだと思います」今回のセミナーを通して、参加者の方々は「自チームの問題点が見えた。新年度に向けて変更できることはしていきたい」「今、何が求められているのか、具体的に気付かされた」「選手、保護者とのコミュニケーションの確立方法がとても参考になった」と多くの気づきを得たようです。少子化やスポーツにおける価値観の多様化が見られる昨今、スポーツクラブやスポーツ指導の在り方が、これまで以上に問われる時代になってきています。まずは『できるところから』あなたのチームでも取り組んでみてはいかがでしょうか?●幸野健一氏によるセミナーの追加開催が決定!3月15日(日)。この記事でも紹介した幸野氏による指導者向けセミナーを都内で追加開催することが決定しました!今回は新たなプログラムもご用意!セミナーの詳細やお申し込みはこちらから>>■FC市川GUNNERSも導入する「BAND」とは?チームのコミュニケーションや管理に適したアプリです。業務連絡や出欠管理、カレンダーや資料の共有、そして写真や動画の管理まですべて一つにまとめることができます。BANDのアプリダウンロードはこちら>BANDの詳しい説明や導入事例を知りたい方はこちら>【BAND利用者の声】AFC茅ヶ崎ジュニアユース:伊藤さん「クラブからの情報発信をBANDで一括管理しています。スケジュールや予定に関する説明、試合会場などもBANDのカレンダー機能を通して共有しています。出欠管理も一緒に確認できるので、コーチにとっても便利だと思います」
2020年02月17日サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜協立大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。聴講者はすでに6万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。(監修/高橋正紀構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)<<前回|連載一覧>>(写真は少年サッカーのイメージです)■練習の「意味」ではなく「やり方」の質問ばかり。反復練習にこだわる日本人以前、ドイツ人のコーチからこんな話をされました。「タカハシ、ドイツに視察に来る日本人コーチは、ぼくらがやっている練習メニューを一所懸命にノートに書きつけている。どうしてそんなことをするんだろう?意味がわからない」聞けば、4対4を行うと「いつもこのグリッド(範囲)で行うのですか?」とか「何分くらい?」「ワンタッチではやらないのですか?」と練習のやり方に関する質問に終始するそうです。「彼らの質問はおかしいよ。その時のそのチームの課題を改善するためにのみメニューは創られるのだから、それを正確に書き写しても彼らには何の意味もない。私がどんな課題に対して、どんな意図でその練習をしているかを聞かれるのならば話す意味があると思うけどね」加えて、ドイツでは育成年代であろうとも、毎日同じ内容の練習はやらない。そこについても日本人コーチは驚きます。私もドイツに行ったとき、驚きました。日本では、例えば1週間のサイクルである程度同じ練習を繰り返すことが多い。いわゆる、反復練習ですね。この反復練習は、意識を高く持てない場合、何も考えずにトレーニングすることになり易い。曜日ごとにほぼ同じメニューをしばらくの間繰り返すので、そこに"慣れ"が生じることで、練習の質が落ちる可能性があるのです。反復練習にこだわるのは、学校でドリル学習を多くやらされてきたからなのか?と考えたりします。同じスポーツで、野球も素振りという反復を繰り返します。これは自分のよい形を探し、定着させる目的があるのでしょうが、米国では素振りはしないそうです。素振りをしている日本人選手に、メジャーの選手が「空振りの練習をしてどうするのだ?」と不思議そうに言った、という話は有名です。私たち指導者は「何のためにこの練習をするか」をもっと考え、そのことを子どもたちに伝えなくてはいけません。と同時に、「いつも頭を使って考えてやる練習」をやっているかも見直すべきです。育成年代の試合を観に行くと、最近はコーチたちが「自分で考えろ」と叱咤激励している場面に出会います。ですが、その前に大人が工夫しなくてはいけません。子どもたちに自分たちで考えるベース作りをする。間違っても、何をしても叱られない空気を生み出す。考えないとできない練習メニューにする。飽きずに意欲的に取り組めるようにしてほしいと思います。■上達のイメージは「らせん階段」海外では子どもが練習中に改善提案してくることもさらに、もうひとつ。みなさんの頭の中にある上達するイメージを変えてください。従来の日本のサッカー指導は「組み立てていくイメージ」でした。まっすぐの階段を一段一段昇っていくイメージです。最初にドリブルをやって、ひとりでボールを運んでゴールできるようにします。ドリブルができたら、次にドリル練習でキックを改善。次はトラップ練習、そしてパス練習と、スキルトレーニングがすべて段階的です。これは、ゲームを中心に行い、その中で出た課題から総合的にスキルを高めていくドイツとはかなり違います。この「総合的にスキルを高める」イメージは、ドイツの哲学者ヘーゲルが提唱した「物事のらせん的発展の法則」と似ています。例えば、サッカーを始めた小学1年生が、らせん階段をゆっくり登っていく姿を見ている。そんな想像をしてみてください。真上から見ると、1年生はひとつの円をぐるぐる回っているようにしか見えません。ちっとも上に進んでいないように見えます。ところが、角度を変えて横から見ると、少しづつ確実に、上へ昇っていることがわかります。このらせん階段の話は、池上正コーチも著書で説明しています。ゲームを軸に、その日ここが足りないなと思ったらそのトレーニングを足す、という考え方もドイツの育成と同じです。ゲームばかりしていて上手くなるのですか?といぶかしげな指導者は多いのですが、技術を切り出してみるのではなく、全体像で見てあげることが重要です。FCバルセロナの現地スクールで長年コーチを務めた村松尚登さんも、自身の著書で「スペインの育成は氷の塊を削っていく作業」だと語っています。スペインでは、選手が練習の途中で「ナオト!この練習、こうしたほうがいいんじゃないの?」とどんどん提案してくるそうです。ただし、日本では指導者と選手、教師と生徒の関係が主従的なので、子どもたちはそんなふうに教育されていません。したがって、大学教員になってドイツ留学した私は、帰国してからの1年間は毎日メニューを変えて練習してみたのですが、残念ながらチームは強くなりませんでした。選手たちの多くは高校までに、説明された練習の意図を理解してトレーニングに主体的に取り組む経験をしていないため、日々の変化についてこれなかったのです。私の力不足もあったと反省しています。唯一、試合前日の土曜日をもオフにしたのは奏功しました。学生たちは自分たちで課題を持って自主練を始めたことでうまくなりました。■学校でも「当たり前」を見直す動きが。サッカーも......(写真は少年サッカーのイメージです)最近は、日本サッカー協会が勧めるマッチ・トレーニング・マッチ(MTM)の実践をするコーチも出てきましたが、まだまだ少数派。街クラブをのぞくと、対面パスから練習が始まるチームは少なくありません。ぜひ、上達のイメージを、普通の階段から、らせん階段に転換してほしいと思います。ヘーゲルは、らせん階段を昇るのは「進歩・発展」しているけれど、もともといた場所に戻るようにも見えるため、それを「復活・復古」と意味づけします。この2つの視点を組み合わせ「物事の発展はただ発展するのではなく、古いものが新たな価値として復活してくる」と定義しました。社会の発展は、例えば手紙がメールになり、SNSになったように、意味は同じでも形を変えて進化することを私たちに教えてくれています。ちなみに、計算ドリルや漢字ドリルといったドリル学習をやめる小学校も出てきています。「当たり前」を見直す動きは、あらゆる場所で始まっています。<<前回|連載一覧>>高橋正紀(たかはし・まさのり)1963年、神奈川県出身。筑波大学体育専門学群ではサッカー部。同大学大学院でスポーツ哲学を専攻。ドイツ国立ケルンスポーツ大学大学院留学中に考察を開始した「スポーツマンのこころ」の有効性をスポーツ精神医学領域の研究で実証し、医学博士号を取得。岐阜協立大学経営学部教授及び副学長を務めながら、講演等を継続。聴講者はのべ5万人に及ぶ。同大サッカー部総監督でもあり、Jリーガーを輩出している。Jリーグマッチコミッショナー、岐阜県サッカー協会インストラクター、NPO法人バルシューレジャパン理事等を務める。主な資格は、日本サッカー協会公認A級コーチ、レクリエーションインストラクター、障害者スポーツ指導員中級など。
2020年02月12日サッカーのプレーでよく聞く「判断力」。最近のサッカーではとくに重視されるものですが、サッカー経験のない保護者には「判断力」と言われてもよくわからないもの。そこで今回は三菱養和サッカースクールU‐12の田中大蔵コーチ、U‐11の冨田将司コーチに、判断力とはなにか?そして判断力を高めるためにどうすればいいのかをうかがいました。(取材・文:鈴木智之写真:新井賢一)自分がいま何をすべきか考えて行動できる選手は、中学以降にグッと伸びることもあると田中監督は言います<<前編:育成の名門、三菱養和サッカークラブに聞いたサッカー上達につながる「判断力」の身につけさせ方■サッカーだけがうまくても良い選手にはなれない――判断力のある選手とは、どのような選手でしょうか?田中:判断力がある=賢い、状況にあったプレーを選択ができる選手だととらえています。そのためには当然ですが、技術も必要になります。チームとして狙っているサッカーがあり、それを「プレーモデル」というのですが、コーチが「こういうプレーをしてみよう」「このスペースを使うことを意識してみよう」と提示する中で、状況に応じて一番良いプレーを選ぶことのできる選手が、賢い選手だと思います。冨田:U‐11もU‐12と同じ考えのもとに指導しているので、私も田中コーチと同じ意見です。三菱養和のジュニアでは、小学5年生が選手育成コースのスタートになります。サッカーでは、基本的な技術や判断を大切にするのですが、サッカー外のところも大事にしていてます。子ども達はサッカーをする一面と、小学生という一面を持っているので、サッカーだけがうまくて、学校生活がダメな子はゆくゆくはいい選手になれないと思っています。たとえば、試合に行くときに、公共の場で他の人に迷惑をかけるような行動をしてはいけないですよね。サッカー面以外の日常生活で、しっかりとした行動ができるのも、判断力だと思います。――日常生活とサッカー面での判断力は、どの程度、関係していると思いますか?田中:2019年度の『全日本U‐12 サッカー選手権大会 東京都中央大会』で準優勝したのですが、大会の優秀選手に選ばれた選手は、日常生活でもしっかりとした行動ができる子たちでした。我々指導者が、合宿でその振る舞いを見て「各部屋のリーダーだな」と納得した子たちが、ピッチの中でも良いプレーをしています。やはり、自分がいま何をすべきかを常に考えて行動ができる子は、試合中も自分で考えて判断して、プレーしていると思います。そのような人としてのベースがあれば、小学生時代に結果を残せなくても、中学生になってグッと伸びることもあります。冨田:日常生活がサッカーに通じることは、たくさんあります。たとえば、練習が終わったあとに、用具をどこに片付ければいいかを考えて実行できる選手は、試合中もよく考えて動いています。私は養和のOBなので、「考えて行動する」という部分を大切にしてきた歴史を肌で感じてきました。いまはコーチの立場として、選手になにか伝言をするときにも「この選手に頼めば、自分の意図が他の選手たちにしっかり伝わるだろう」といったことも考えています。■コーチが言ったプレーがベストとは限らない。選手自身が判断することが大事――サッカー面で判断力を高めるために、どのようなアプローチをしていますか?田中:まずはコーチがチームとしての方向性を整えますが、最終的には「ボールを持って判断して、実行するのはキミだよ」という形です。 そこでいいプレーをすると褒めますし、「いまはのタイミングだと、少し遅かったぞ」「背後のスペースに走ってもいい状況だったよね」といった会話を積み重ねていきます。練習の前には、トレーニング状況の説明と目的を話します。小学生にどこまで理解できるかは未知数ですが、それを積み重ねることで理解が深まっていくのだと思っています。冨田:判断を良くするためには、判断をする材料を持っている必要があります。三つある判断材料の中で、一番良い判断をするという風にすれば、小学生にも伝わりやすいのかなと思っています。ボールを持った選手が、前に行くのか、斜めなのか、横なのか。サッカーはゴールを奪い、ゴールを守るスポーツなので、優先順位はゴールです。ゴールを目指したいけど、前にいる相手にボールを取られたくない。その中で、良い判断をすることが大切で、プレーを成功させるためには技術も必要になります。右足しか使えない選手は両足を使える選手と比べて、選択肢が減ってしまいますよね。そのために、右足も、左足も使えるように練習に取り組んでいます。コーチが言ったプレーとは違う選択をしても、選手自身の決断を削がないようにあえて何も言わないこともあるという冨田コーチ――判断力を高めるために、指導をする上で気をつけていることはなんでしょうか?田中:コーチの言うことが、すべて正解と受け取られないように、気をつけています。サッカーは相手の逆をとると、チャンスになります。難しい局面でも、自分が行けると思えば、ドリブルを仕掛けてもいいわけです。そこで「こうしなさい」と命令はしません。チームが狙っている形をコーチが示して、「だから、このコースを狙っていこう」「状況が変わったら、このスペースも使えるよね」と選択肢を持てるようにしてあげて、そこから選手がベストの選択ができるように働きかけていきます。すべて自由にプレーさせると収拾がつかなくなってしまうので、チームとしてのプレーのイメージ、目指す方向性の中で、選手がよい判断ができるようにアドバイスを送っていきます。冨田:コーチが「こうプレーしよう」と言うと、選手たちはそればかりをしようとするんですね。でも、サッカーは相手があり、状況が変わるスポーツなので、すべての局面でコーチが言ったプレーがベストとは限りません。たとえばパスのことを言い過ぎると、前のスペースが空いていた状態でも、ドリブルではなく、パスをしてしまう。そこには選手自身の判断がありません。プレーを外から見ていて、アドバイスをしたくなることもありますが、あえてなにも言わないこともあります。選手が自分で判断して、決断することを削がないように気をつけています。「目的は何か」を常に考えながら練習に取り組むことで理解力、判断力もついてくるのです田中:いまの話で言うと、試合中、みんながボールを受けに行こうとしすぎてしまうことがあります。でも「ボールを受ける目的は何ですか?」と考えると、ボールを受けて、ゴールに向かっていくことですよね。ボール保持者がフリーであれば、相手のディフェンスラインの裏を狙えばいいわけです。最初はまず、選手たちにやらせてみて、プレーの中で「サッカーの目的は何?」と聞きながら、気づかせていきます。そうすると、相手の背後でボールを受けるようなプレーが増えていくので「ナイスプレー」と褒めて、そこを狙っていこうと伝えます。チームとして、今いる選手の特徴、やりたいサッカーに合わせて、良い判断や選択肢も変わってくると思うので、そこは指導者として常に意識しています。いかがでしょうか。判断力を高めるためにはサッカーのどんな練習をすればいいのか、と思いがちですが、実は学校や家での過ごし方も大事なのです。まずは自分の事を自分で決断する習慣を身につけること、コーチが言ったことをそのままプレーするのではなく、その選択がベストなのかを常に考えながらトレーニングに臨むことで、判断力がついていくということです。ついつい親が色々先導してしまいたくなることもあるかと思いますが、自分で考えて動ける選手になってほしいのであれば、まずは家でも自分で決断させることから始めてみてください。<<前編:育成の名門、三菱養和サッカークラブに聞いたサッカー上達につながる「判断力」の身につけさせ方三菱養和サッカースクールヨーロッパ諸国のクラブをモデルとして創立した日本サッカーのパイオニア的サッカースクール。一貫指導システムによる、発育・発達に応じた練習内容で、段階的な育成を行っている。U‐18年代は日本クラブユースサッカー選手権で優勝3回、準優勝7回、高円宮杯全日本ユース(U‐18)サッカー選手権大会(現高円宮杯 JFA U‐18サッカーリーグ)では3位が2回など輝かしい成績を残している。U‐18年代は高円宮杯 JFA U‐18サッカープリンスリーグでプレーしており、2019シーズンは関東4位。巣鴨と調布でサッカースクールを運営。小中学生年代でも多くの実績路残している。育成クラブとしての成績もさることながら、永井雄一郎、田中順也、加藤大、小川佳純、相馬勇紀、中村敬斗ら多くのJリーガーを輩出している。三菱養和サッカースクールのクラス内容、カレンダーはこちら>>田中大蔵(たなか・だいぞう)三菱養和サッカークラブ巣鴨ジュニア監督武南高等学校サッカー部キャプテンとして、全国高校サッカー選手権大会に出場。東京経済大学に進学し、2004年から三菱養和サッカースクールで指導を始める。巣鴨ジュニアコーチ、巣鴨ジュニアユースコーチを経て、2019年より巣鴨ジュニア監督を務める。日本サッカー協会公認B級ライセンス冨田・将司(とみた・まさし)三菱養和サッカークラブ巣鴨ジュニアコーチ三菱養和SC巣鴨ジュニアユース、ユースチーム出身。ユース時代にはキャプテンとして高円宮杯U‐18プレミアリーグを戦った。その後専修大学に進学し、3度の関東リーグ優勝を経験。大学を卒業とともに現役を引退し指導者の道へ進む。三菱養和SCのスクールコーチ、サポートコーチを歴任し2018年より巣鴨ジュニアU‐11コーチに就任。日本サッカー協会公認C級ライセンス
2020年02月10日息子が2人のチームメイトから暴言を吐かれている。「きもい」「おまえは消えろ」とコーチがいない時に言ってくる子たち。「言い返せ」と言っているが相手は口が達者で「口では勝てない」とのこと。中学に行っても同じチームなので同じようなことが続くのでは、という心配ともう6年生なので自分で解決しないといけない年齢だなぁという感情で揺れているお母さんからご相談をいただきました。皆さんならお子さんがそのような状況にあったらどうされますか?今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、ご自身の体験に基づいたアドバイスを送りますので参考にして下さい。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<人手不足で3学年一緒の活動に。チーム混乱の少年団をやめるべきか問題<サッカーママからのご相談>はじめまして。今、悩んでいる事があり相談させてください。息子が2人のチームメイトから暴言を吐かれています。チームメイトはコーチが近くにいる時は至って普通に、楽しく過ごしているのですが、コーチがいない時に「お前は消えろ」「きもい」など、急に言ってくるようです。私が息子に「ちゃんと言い返してるの?」と聞くと、息子なりに言い返しているようですが、その子たちは口が達者らしく「なかなか口では勝てない」と言っています。チクリだ、とか言われるのが嫌なので息子からコーチに言う選択肢はないようです。私がコーチに相談しようかな?とも思ったのですが、もう6年生なので、自分でどうにかしないといけないよなぁ、とも思っています。ほかのチームメイトとは仲良く楽しくしていて特定の2人だけがいつもコーチがいなくなると文句を言ってくるようです。その子たちは中学に行っても同じチームなので今後も同じような事が続くのでは、とすごく悩んでいます。親としてどうすればいいでしょうか?「言い返せ」だけでなく具体的な方法をレクチャーできればいいのでしょうが、どんなことをすればいいのか、何を助言すればいいのかなどがわからなくて......。アドバイスいただけませんでしょうか。<島沢さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。いただいたご相談の文章だけでは、実際どの程度息子さんが傷ついているか、困っているかという窮状は正確に把握できません。よって、こちらの推測でお答えするという前提でご理解くださいね。■親の前ではいい子なのに......という子はいるお母さんの悩みはよくわかります。私も似た経験をしました。息子が小学3年生。サッカーではありませんが、わが家で同級生とカードゲームをして遊んでいました。最初は楽しそうにやっていましたが、同級生が突然声を荒らげ「おまえ、バカか」と息子をなじり始めました。「脳みそない」「もう遊ばない」と暴言が続きます。息子は黙って下を向いていました。二人は2階のリビングで、私は吹き抜けになっている3階の仕事場にいました。「どうしたの?」私が声をかけたら、息子をなじっていた同級生は本当にびっくりした顔でこちらを見上げました。私が仕事場にいたことに気づいていなかった。だから、息子に暴言を吐いていたわけです。いつもはとてもいい子で、お母さんは非常に教育熱心。早くから大手の塾に通い、遊んでいて「早く帰ってきなさい」と電話があると、息子さんは血相を変えて帰っていきました。彼が帰宅した後、息子に気持ちを聴いたら「少し悲しいけど、別に大丈夫。いつもあんなふうになるわけじゃないから」と言いました。私は息子を抱きしめて「そうか。じゃあ、嫌なことがあったときは言ってね。力になるよ」と伝えました。■お母さんに捧げる3つのアドバイスそこで本題。お母さんには三つアドバイスがあります。まず、チームメートからの「消えろ」「キモい」は、ある意味「いじめ行為」です。みんなでふざけているなかで、「おまえ、もー、消えろよお~」とか「キモいんだよ~」とげらげら笑い合っている、という状況ではありませんよね?であれば、息子さんが暴言を吐かれていることを最初に知ったときの対応。つまり、お母さんの初期対応(初動)は、お子さんのこころに寄り添うことが必要です。「そうなの?それはつらかったね。どんなときに言われたの?どんな気持ちだった?」そのように尋ねて、彼の怒りや辛さ、もしかしたら上手く言い返せなかった自分への情けなさなどさまざまな感情を吐き出させてあげること。今からでも遅くないので、まずは息子さんの辛さに共感してあげてください。「ちゃんと言い返してるの?」は、非常に抽象的です。消えろとか死ねなどと言われたら、同じように消えろ、死ねと言え、ということではありませんよね?おそらくお母さんの「言い返す」は、「そういうの、やめてよ」とか「言わないでよ」というものかと思います。そのあたりが「ちゃんと言い返して」では伝わっていないかもしれません。息子さんなりに、暴言を無視するとか、「やめろよ!」と忽然と向かって行けたらいいのですが、それができる子をいじめっ子たちは標的にはしません。息子さんはきっと優しいお子さんなのでしょう。■お母さんに捧げる3つのアドバイスふたつめ。「チクリだ、とか言われるのが嫌なので息子からコーチに言う選択肢はないようです」とあります。お子さんがそのように話したのなら、そこでお母さんから息子さんに人生において大切なことを伝える良い機会です。「いじめられていることを大人や周囲の人に伝えるのは、チクリではないよ」=これは正義のとらえかた。「自分でやめてほしいと言ってもやめないのなら、どうしたらやめてくれるか、お母さんと一緒に考えない?コーチに相談するのはひとつの選択肢だよ」=こちらは課題解決能力。「あなたが我慢していても、ほかの子も言われて嫌な思いをしているかもしれない。そうすると、ストップがかからないね。誰かが勇気を出して解決したほうがいいと思うよ」=「同調圧力」のマイナス面を教える丁寧に問いかけて、息子さんの意見を聴きながらそんなことを話してください。暴言を吐かれたことはお子さんにとって辛い出来事ですが、お母さんはそこに共感しながらも子どもとは違う視点で物事を見るようにしましょう。例えば、お子さんに「消えろ」「キモい」と言ってしまう二人のお子さんは、どんな家庭で育っていますか?いじめる子は寂しかったり、親御さんから管理されていたり、過度に干渉されていたり、要求が高かったりと、重いストレスを背負ってるケースがほとんどです。問題が起きるときは、必ずそこに背景があります。ぜひ大人として、起きた事象を俯瞰で見る習慣をつけてください。理想は「社会で子どもを育てる」という視点を持てるといいですね。息子さんに「あの二人はこうだから」などと悪口を言うのではなく、そこはスルーしてご自分の胸にしまったうえで、彼らを攻撃するのではなく、この問題を息子さんが自分の力でどう解決できるかを一緒に考えてあげてください。■親は子どものけんかしゃしゃり出ないこと(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)三つめは、子どものけんかに親がしゃしゃり出ないこと。「私がコーチに相談しようかな?とも思ったのですが、もう6年生なので、自分でどうにかしないといけないよなぁ、とも思っています」は、その通りです。ただ、6年生だから、ではなく、何年生でも自分でなんとかしてもらいましょう。息子さんがコーチに相談したと報告してきたら、それを受けて、お母さんからコーチに息子の相談を聴いてもらったお礼かたがた家での様子などを報告する。その後の息子さんやチームメートの様子もそのときに尋ねればよいかと思います。「親としてどうすればいいでしょうか?言い返せだけでなく具体的な方法をレクチャーできればいいのでしょうが、何を助言すればいいのか」とあります。が、ここまで三つのアドバイスを読んでもうお気づきですよね。親の役目は「言わなきゃ、より、聴かなきゃ」です。そういえば、息子は暴言を吐いた子とはずっと仲良しです。大学生になって、道で会うとその子は私にもあふれる笑顔で挨拶をしてくれます。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年02月07日思考力、判断力、表現力といった問題解決能力やコミュニケーション能力などこれからを「生き抜く」力。これからの「教育改革」ではこれまでのような知識偏重ではなく、知識をどう使うか、主体性を持って仲間と強調しながらやり遂げる力など、これまでの「頭の良い子」とは違った賢さが求められるようになります。中には「うちの子勉強好きじゃないんだよね」「なんか読解力が低い気が......」「スマホばっかりしているんですけど」とお悩みの保護者の皆さんもいるかと思います。ですが、そんな親が心配する行動や変化こそ子どもが伸びるサインなのだそう。サッカーでも勉強でも、子どもが伸びるためには親のかかわりが重要です。今回は、入塾テストなしで難関校に続々合格する塾の先生で、アスリートと学習教育に共通する「成長プロセス」の体系化にも取り組んでいる進学塾VAMOS代表・富永雄輔さんに、子どもの伸びしろを最大限伸ばすヒントが詰まった最新著書「それは子どもの学力が伸びるサイン!」(廣済堂出版)のからいくつかのヒントをいただくこの短期連載。今回は、保護者の関心も高い「習い事と塾の両立」についてお届します。「それは子どもの学力が伸びるサイン!」自分で決断できた子の方がモヤモヤがなく集中して取り組めるのです(写真は少年サッカーのイメージです)■習い事はいつ辞める?それとも続けた方が良いもの?こんにちは。私は東京・吉祥寺に本部を置く学習塾「VAMOS(バモス)」の経営者として、10年以上子どもたちの指導にあたってきた富永雄輔です。また、一方で日本サッカー協会登録仲介人として、サッカー選手のエージェント業務も行っています。私の塾では入塾テストを一切行っていませんが、ありがたいことに難関校と言われる学校に合格するお子さんたちが多くいらっしゃいます。そんなお子さんと親御さんのかかわりを見てきた経験から、子どもが気になる行動をしたときは、大人がそれを「サイン」とみなし、適切なタイミングでフォローしていけば、学力も思考力もぐっと伸びると実感しています。さて、受験のシーズンですね。毎年この時期が近づくと多くの保護者の方から寄せられる質問があります。「習い事と塾の両立について」の相談です。お子さんの受験が近づくと、保護者の方から「ほかの習い事はいつやめさせればいいか」「それとも続けたほうがよいのか」といった相談を受けることがよくあります。親としては、「スポーツも続けたほうが体力がついて、勉強にも集中できるのではないか」と思ったり、逆に、「習い事はさっさとやめるべきではないか」という心配も生まれてくるのでしょう。まず、無理に「文武両道」をめざす必要はまったくありません。本人が望んでないのに、親が「スポーツも塾もがんばりなさい」と無理強いするのはNGです。小・中学生はまだそこまで体力はありません。一方で、本人が両立できそうもないと感じているけど、その習い事は好きなので、悩んでいるケース。その場合は、たとえば、「2か月休めば、またチームに戻れるよ」とか「3か月後の試合には出られるように、コーチに話しておくから」とか、親が促すのがよいでしょう。受験が終われば再開できるとわかれば、本人は安心して受験に集中できます。このように本人が迷っているときは、優先順位は親がつけるのがベストです。■自分で決めた子の方が上手に切り替えられる。親が焦りすぎないで子どもが続けたがっている場合は?また、子どもが習い事を続けたいと思っているのに、親に習い事をストップさせられてしまった場合、モヤモヤしたまま、かえって勉強に集中できないケースもあります。そこは無理にやめさせたりはしないでください。「◯◯の大会が終わったら」などと自分自身でやめ時を決められた子や、「このまま両立するのは無理だな」といい意味であきらめられた子は、上手に気持ちを切り替えられます。夏休みが終わっても習い事をやめる気配が一向に見えないと、焦りはじめる親御さんも多いのですが、勉強のギアが一気に上がりはじめる受験直前の11月、12月あたりになると、習い事を一旦やめる決断をする子がほとんどです。中には、結局最後まで両立し続けて、限られた時間の中ですばらしい集中力を発揮し、よい結果をつかみとる子も珍しくはありません。仮に「第一志望校合格」の成功は手に入れられなかったとしても、好きなことに全力で取り組みながら受験にも挑んだ経験は長い目で見れば決してムダにはならないでしょう。そもそも、かんたんにやめる決断ができないほど、熱中できる何かがあるのは、とてもすばらしいことですから、その気持ちは十分に理解してあげていただきたいです。■子どもが無用なトラブルで傷つかないために事前リサーチも大事辞める時のゴタゴタでその後のつきあいが気まずくなったりしないためのリサーチや日頃のつきあいは大事です(写真は少年サッカーのイメージです)ただ、気をつけていただきたいのは、やめたいときに自由にやめにくい習い事もあることです。ここ数年、サッカーや野球、バスケットなどのチームスポーツに取り組んでいた子が、受験を理由にチームをやめようとしても、なかなかやめさせてもらえない話を耳にするようになりました。「1人でも欠けてしまうと試合に出られない」というチーム事情が絡む場合はさらに深刻で、慰留を振り切ってやめた結果、親子ともにその後のつきあいが気まずくなるケースもあります。やめる、やめないでトラブルになれば、子どもも傷ついてしまいますから、それを避けるためにも、野球やサッカーなどのチームに所属する場合は、やめやすいかどうかを事前にきちんと確認しておくと安心です。富永雄輔(とみなが・ゆうすけ)進学塾「VAMOS(バモス)」代表。京都大学を卒業後、東京・吉祥寺に幼稚園生から高校生まで通塾する進学塾「VAMOS」を設立。入塾テストを行わず、先着順で子どもを受け入れるスタイルでありながら、中学受験から高校受験、大学受験まで、毎年首都圏トップクラスの難関校合格率を誇る。少人数制の個別カリキュラムを組みながら、子供に合わせた独自の勉強法により驚異の合格率を実現して話題に。小さな学習塾ながら、論理的な学習法や、子供の自主自立を促し、自分で考える力の育成に効果的と、保護者から圧倒的な支持を集めている。日本サッカー協会登録仲介人として若手プロサッカー選手の育成も手がけ、アスリートと学習教育に共通する「成長プロセス」の体系化にも取り組んでいる。主な著書に『「急激に伸びる子」「伸び続ける子」には共通点があった!』(朝日新聞出版)、『東大生を育てる親は家の中で何をしているのか?』(文響社)、『男の子の学力の伸ばし方』『女の子の学力の伸ばし方』(共にダイヤモンド社)などがある。
2020年02月05日サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜協立大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。聴講者はすでに6万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。(監修/高橋正紀構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)<<前回|連載一覧>>(写真は少年サッカーのイメージです)■トップ選手だった益子直美さんが「怒らない指導」をする意義バレーボール女子日本代表だった益子直美さんが、「監督は選手を怒ってはいけない」という小学生の大会を長年開催しています。昨年サカイクでも紹介されていたので、みなさんはよくご存知だと思います。彼女の取り組みは、最近テレビでも取り上げられていました。「そこ、もっと足動かして!」などと何度も強い口調で選手にげきを飛ばしていた監督さんは、益子さんから「いま、怒りましたね」と言われ、✕入りのマスクをつけさせられます。ご本人は「いや、アドバイスなんだけど」と頭をかいています。元代表選手がこのような活動をするのはとてもいいことです。多くの元オリンピアンは、自分たちが暴力や暴言で圧迫されたから成功したと感じているので、昨今の暴力根絶の動きには懐疑的です。「厳しくしないと勝てないだろう」と思っています。ですが、益子さんたちは「それはやめましょう」と呼びかけている。成功した彼女、彼らが発言してもらえると、非常に説得力があります。私が期待していた切り口です。それに、コーチたちは、指摘されるのが益子さんだから耳を傾けるのだろうなあと思います。これが、同じ地域の怒鳴らないコーチや、見ず知らずの私だったらリアクションは違うかもしれません。■暴言続きの明石市長に見る事例「大義」がないから変われないところで、益子さんのバレーボール大会が注目されるフックになったのは、兵庫県明石市の市長がパワハラを行ったことが明るみになったからです。この方は以前、道路の拡幅工事のために立ち退きを説得していた職員が怠慢だったと怒り「火をつけてこい」などと叱りつけ、問題になりました。それが今年になって、口論になった市議に「議員辞めてまえ」などとまたもや暴言を吐いたのです。市長は会見で「前回のこと(パワハラ騒動)があって、アンガーマネージメントの講習を受けるなど自分でも努力してきた」と自身もキレる自分と向き合ってきたのだと釈明していました。アンガーマネージメントの講習は、教育現場での暴力や暴言が問題視されるようになって以降中学や高校の教員はたびたび受ける研修であり、私もだいたいの内容はよくわかっています。それを聞いて、なるほど、だからまたキレてしまったのかと納得がいきました。なぜなら、市長は「アンガーマネージメント」という方法論に頼るだけで、自分の中に「大義」がないように見えます。簡単に言えば「暴言は我慢しよう」にとどまっている。根っこから自分を変えていないため、我慢できなくなったら、またキレてしまいます。対処療法では生まれ変われません。「私は行政のリーダーとして、こうあろう」「こんなリーダーが理想の姿だ」とか、もっといえば「自分は他者に対してこうあろう」といった、それまでの自分と真逆の自分を目指す。そうすると、根っこが変わるので、咲く花も変わりますね。そういった行動はベクトルがとてもポジティブです。逆に「切れてはダメだから我慢しよう」「抑えよう」といった思考はネガティブです。根っこが変わらない。私は、彼は自分に大義をもたなければ変わるのは非常に難しいと思います。方法論を学ぶのは一定の抑止力になるかもしれませんが、方法論だけでは表面的には分かりにくい別のやり方でやる方向にいく危険性があります。このことは、少年サッカーの指導者のみなさんも同様です。「もう手を挙げられなくなった。言葉で怒るのもダメなら、どう指導していいかわからない」「そういう時代だと言うことはわかるけど、100%納得できない」そんな声はいまだに聞こえてきます。自分たちは叩かれて立派に育った、という自負があります。逆にほめて伸ばすだけでこの子達はちゃんと育つのか?と不安に思っているようです。なぜなら、ほめて伸ばされて立派に育った大人をまだ大量に見ていないからです。■教え子は久保建英レベルじゃないから怒らないと伸びない?(写真は少年サッカーのイメージです)例えば、久保建英選手は怒られて育っていないというのはみなさん十分わかっている。でも、いま目の前にいる自分が教える選手は久保君のような才能はないから、怒ってやらせないと伸びないと思っていないでしょうか。ぜひ今までとは違う指導の仕方を探してほしいと思います。が、そのためには哲学を持たなくてはいけません。なぜ自分はサッカーコーチをしているのか。そこを自問自答してほしいと思います。加えて、これから、どんなサッカー選手を育てるべきかを考えます。そう考えると「自己決定できる選手」「自分磨きをできる選手」「主体的に取り組める選手」といった姿がイメージできます。であれば、暴言を吐くコーチのもとで、そんな選手が育つでしょうか。コーチが怖くて、みんな委縮している。怖いから走る。それは外発的な動機付けなので、確かな成長にはつながりません。子育ても同じですね。「○○ママの子育て」といった書籍は多いですが、それも方法論です。だれかが成功したやり方を真似しようとしても対象になる子どもは違う人物です。「自分はどう育てたいか」「どんな大人になってほしいか」といった大義が抜けていては、うまくいきません。ぜひ「大義は何か」を突き詰めてください。考え終わったときは、怒ることに意味がないことに気づくでしょう。<<前回|連載一覧>>高橋正紀(たかはし・まさのり)1963年、神奈川県出身。筑波大学体育専門学群ではサッカー部。同大学大学院でスポーツ哲学を専攻。ドイツ国立ケルンスポーツ大学大学院留学中に考察を開始した「スポーツマンのこころ」の有効性をスポーツ精神医学領域の研究で実証し、医学博士号を取得。岐阜協立大学経営学部教授及び副学長を務めながら、講演等を継続。聴講者はのべ5万人に及ぶ。同大サッカー部総監督でもあり、Jリーガーを輩出している。Jリーグマッチコミッショナー、岐阜県サッカー協会インストラクター、NPO法人バルシューレジャパン理事等を務める。主な資格は、日本サッカー協会公認A級コーチ、レクリエーションインストラクター、障害者スポーツ指導員中級など。
2020年01月30日サカイクに届く「うちの子は運動が苦手で、動きが鈍いように見えるんです......」という悩み。運動が苦手な子は、何から始めれば良いのでしょうか?いわきスポーツクラブのアカデミー、ドームアスリートハウスアスレティックアカデミー(以降DAHAA)のアドバイザーを務め、選手育成に長年携わる小俣よしのぶさんに聞く、運動能力向上のポイント。後編では、運動の基礎となる身体機能である姿勢維持と重心コントロール機能、運動が上手になるための能力である自己観察能力、運動好きを育てるために必要な「運動有能感」の重要性と大切さについて伺いました。(取材・文:鈴木智之写真:)裸足なのもポイント。DAHAAではあらゆるスポーツの基礎となる体力運動能力向上を図る長期育成プログラムを通してスポーツ万能キッズの育成を行っています<<前編:「うちの子運動神経が悪くて」と悩む親必見!「サッカー以前」に必要な運動スキルとは■猫背はイライラ、エネルギー不足の原因に小俣さんは運動が上手になる前提として「まずは姿勢ですね。猫背などが運動に必要な身体機能の低下を引き起こしたり、あるいはその現れと見ることができます。姿勢は運動が上手になるためには必要なんです。ここから改善する必要があると思います。」とアドバイスを送ります。「いまの子どもたちは携帯ゲームやスマートフォンなどの利用時間が多く、その間は長時間にわたり下を向いていることが多いです。このような姿勢が猫背につながると言われています。猫背は身体機能低下やケガ障害につながるとも考えられていますから猫背である場合は、改善が必要だと思います。まずは背筋を伸ばして骨盤を立てるイメージを作ること。これが運動の基本姿勢になります」人間は地球上で生活する限り重力の影響を受けています。立ったり、座っている、歩いたり、飛び跳ねたりする時にも身体を支える、言い換えると重力に抵抗しながら姿勢を維持しなければなりません。その姿勢を支える筋肉群(抗重力筋群)があるのですが、猫背などによってそれらの筋力や柔軟性が低下します。それによって身体を支えられなくなる、重心のコントロールが苦手になるということが現代の子どもに起きているそうです。「筋肉の中には姿勢を支えたり、重心をコントロールするために必要な身体の状態を感知するセンサーが入っています。運動不足などによる姿勢を支える筋群などの低下はこれらのセンサー機能の低下にもつながります。重力に抗って姿勢を維持できなくなってくると、それが猫背となって現れます。長時間、猫背でいると身体にさまざまな弊害が起こります。例えば、猫背になると前かがみ姿勢になるので胸が圧迫されます。これは言い換えると肺も圧迫されることになり、肺をしっかりと膨らませることが難しい姿勢です。酸素を体内に取り込む器官が肺で、それが圧迫されると呼吸が浅くなります。その結果、酸欠になったりしてイライラしたり、疲れやすくなるとも言われています。さらに人間は酸素を利用して活動のエネルギーを作ります。酸素を取り込む量が少なくなったり、その器官がうまく働かないと運動スポーツに必要なエネルギーも不足してしまいます。」また、腹圧を高めて踏ん張ることができないため、ボールを蹴るときやヘディングなどでジャンプ、あるいはコンタクトするときに力の発揮が弱くなるそうです。「良い姿勢を作ったり、維持することは、運動を行う上でとても大切です。いわきFCでは食事中の姿勢なども注意するようにしています。またDAHAAでは裸足で運動を行い姿勢維持機能の強化を図っています」■運動能力を高める3つのポイント、平衡、リズム、定位とは?姿勢維持が前提要件として整った上で、あるいはそれを改善するために様々な運動をすること。それが結果として、サッカーのパフォーマンス向上につながります。運動能力を高めるための3つのキーワードが「平衡」「リズム」「定位」です。平均台を渡る子どもたち。運動ではバランスが崩れながらもコントロールできることが大事まずは「平衡」とはどういう事を指すのかと伺うと、こんな回答をいただきました。「平衡(へいこう)」というのは、バランスと言えますが、バランスを安定させるだけはなく、バランスを崩したり、崩れたバランスを立て直したり、目まぐるしく変化する運動の中で姿勢を維持するなど、どのような体勢であっても姿勢と重心をコントロールする能力です。これはすべての運動の基礎となります。」と教えてくれました。さらに「器械体操のウルトラH難度やフィギュアスケートの4回転ジャンプ、サッカーのオーバヘッドキックやGKのダイビングキャッチなどは、この姿勢と重心コントロールが適切であるから成せる技なんです。バランスを鍛えるエクササイズというとバランスボードなどの不安定な物の上に乗ってバランスを崩さないようにするエクササイズや、身体の安定性をねらって体幹トレーニングなどをします。これらのエクササイズは、静止状態でのバランスの安定性を作るものであって運動やスポーツに必要なバランスとは異なります。本来、バランスは崩れないと運動できません。走ったり、跳んだり、投げたり、蹴ったりなどの運動はバランスの安定と不安定が目まぐるしく変化する中で行われるのです。したがってバランスを安定させるエクササイズや体幹を強化するだけではなく、バランスが崩れながらもコントロールできる能力が必要なのです」続いては「リズム」について。小俣さんは「運動が上手、運動の勘が優れた選手の特徴として、運動の変化の中における力を入れたり抜いたりする能力に優れています。熟達者のスキルなどが流れるような、あるいは力感を感じられないのはスキルの流れの中で適切に力の出し入れ、それに伴う動きの速度の抑揚とメリハリがスムーズであるからです。サッカーのドリブルで相手を抜くときは、動きの経過と力発揮の強弱が動きの速度の抑揚を生み出し、この動きがリズミカルに見えるので、メッシやネイマールのドリブルの中にリズムを感じ取るのです。力発揮の強弱がぎこちない、あるいはバラバラだと、スムーズに動くことができません。幼児の運動、例えば走ったり、投げたりなどの複雑な運動を見るとロボットのような動きをすることがありますが、あれは動きの中での力発揮の強弱ができていないために、あのようなぎこちない動きなるのです。リズムと言っても、これは音楽のリズムとは異なるものです。例えばダンスをやったところで養成できる能力ではありません。音楽のリズムは『二拍子』や『三拍子』などのビートという単位で構成され、アクセントを持つ音の強弱が連続するものです。音が基本となります。運動のリズムは身体の動きの中に現れる力の強弱と速度の緩急によるものですから、運動と音楽のリズムは根本的に異なります。最近では音楽に合わせてステップワークを行うエクササイズを見かけますが、あれが上達しても運動スポーツの上手さにはつながりません」最後に「定位」ですが、自分と自分の周辺の状況や状況の変化を把握する能力で、例えば自分がグラウンドのどのあたりいるのか、ボールと自分、相手との位置関係はどうかといったことを感覚的に捉えて運動や姿勢を変化させる能力のことを言うのだそうです。小俣さんはサッカーのスキルで例を示して「ドリブルでディフェンダーの間を突破する際に、この定位能力が必要となります。自分をカバーしているディフェンダーとの距離感(間合い)やディフェンダーの動きの変化、それに対して、どちらに切り返してカバーを外すのかを判断して自分の運動(ドリブル)とそれに伴う姿勢や体勢を適切に変化させます。あるいは相手ゴールを背にしてパスを受け、反転してゴールに向かってシュートを蹴る場合、自分とゴール、カバーしているディフェンダーとの位置関係を瞬発に判断してカバーのいない方向に反転します。その際にトラップから反転しながらキックへの運動の変化があり、それに伴い姿勢と重心が変化し、振り返ってゴールまでの距離を瞬時に読み取りながらシュートを打つために適切な力発揮度合いの変化が生じます。このような振り向きざまのシュートにも定位能力が関わっています」「これらの能力が整っていない、あるいは統合されていない、未発達であったりすることが、運動ができない=運動神経が悪いとみなされているのだと思います。これら3つの能力は、運動の基礎をなす要素ですから、これらの発達度合いや養成は非常に重要だと思います。その中でも特に平衡は運動のすべての根幹となります。姿勢の維持と重心のコントロールが適切でないとリズムや定位にも狂いが生じます。これらの能力を鍛えるには、前編で紹介した36の運動にある『姿勢の変化や安定性を伴う運動』と『重心の移動を伴う運動』が効果的であると言われています。サッカーがうまくなるためにドリブルやリフティングなどの練習だけをするのではなく、体育でやっているような器械体操、マット運動、鉄棒、さらに遊びの中に含まれるさまざまな運動など、一見サッカーと関連しない、あるいはサッカーから離れた運動が大事なのです。サッカーがうまくなりたいからといってサッカーばかりしすぎると、特定の能力は鍛えられますが、体力や運動能力が偏ったり、身体形態の健全な発育を阻害したり、それらがロコモティブシンドロームやケガ障害の要因になったりします。サッカーの基礎はスポーツ万能、言い換えると高い基礎体力運動能力です」■自己観察能力は、自分で体験しないと身に付かない小俣さんはスポーツが上達する上で欠かせないのは「運動の最中に、自分の身体や運動を常に感じ取る、自分自身を観察する能力」だと言います。動物の動きをする子どもたち。自分の身体をどう動かせばいいのか常に意識する能力は、子どもが体験の中で身につけていくしかない「このような行為を内省や自己観察と言うのですが、自分の体はどうなっているのか、どう動いたのか、どこに力が入ってるのか。そして、どうやったらうまく出来たのかということを常に意識したり感じ取る能力です。これは動画などの映像を使って自分の運動を見ることとは違います。動画もスキル習得にとって適切な方法ではありますが、そもそもこの自己観察能力がない、あるいは低い選手や、特に競技経験の浅い子どもには適していない指導です。自分の身体と運動の感覚が備わっていない選手に動画を見せて動きを指示したり、イメージを伝えても、それらを理解して指示やイメージ通りの運動に変えることは非常に難しいです。自己観察能力が備わるとスキル習得や運動学習の効率も高くなると言われています。こればかりは、大人が教えるものではなく、子どもが運動体験する中で身につけていくものです」「遊びやスポーツ活動の中で、自分の身体と運動に向き合い自己観察を行いながら感覚を研ぎ澄まし習得するものです。しばしば選手たちに、例えば、練習中にシュートを打った後などに、直ちに蹴った時の感覚を振り返れと言います。チームメートとおしゃべりしたり、ほかのことを考えていると感覚を忘れてしまいます。自己観察は感覚を通して行うものですから運動の最中や直後の感覚の振り返りが重要なのです。また指導者が1プレーごとに細かく指導したり、動きを指摘することも感覚を失わせる行為です。指導者は、選手の動きに変化が見られた時などに『今、どんな感じだった?』とか『今の動きと、さっきまでの動きは、どのように変わった?』などの質問をして選手が自己観察するきっかけを作ることが自己観察能力の養成には肝要です。ブリース・リーの有名なセリフに『Don’t think!Feel!』というのがありますが、正にあれです」「人間は本来、走ったり、投げたり、蹴るなどの複雑な運動を行う能力を持っています。運動ができない子、苦手な子は体験機会がないことが原因のひとつで、運動機会を与えるうちにできるようになるんです」そのときは、なるべく大人がやり方を教えず、自分でチャレンジすることで、自然と身につけていくと言います。「例えば、ボール投げ運動であれば、ボール投げが上手、あるいはフォームが整っている場合は野球のピッチャーの投げ方を指導することも可能で、その際には大人が介入して教えることはできると思います。しかし、元々ボール投げが苦手、あるいはその運動体験や運動感覚が乏しい子どもに高度な体力運動能力が要求されるボール投げ運を教えるのは難しいです。投げる運動が苦手な子どもには投げ方を教えるのではなく、先ずボール投げの楽しさに気づかせて、その後は自分の好きなように投げさせてみることが大事です。投げる運動を繰り返す中で投運動に必要な体力運動能力が鍛えられ、かつ運動の感覚が養われていきます。投運動の基本が備わってきたら、高度な投げ方を指導するというように段階的に取り組むほうが合理的です。これはサッカーのスキル習得も同じです」もともと運動体験が乏しいのに専門的な指導をしてもつまらないのでやる気も出ないし上達しません。まずは「楽しさ」に気づかせてあげましょうスポーツ教室などに行くと、子どもたちが取り組む姿を、近くで保護者が見守っています。微笑ましい光景ですが、小俣さんはその際「できたことを褒めるだけでなく、認めることがポイント」と言います。「子どもは何かの運動に取り組んで、上手にできると保護者の方をチラっと見ます。『いまできたよね、すごいでしょ』という感じで。これは、認めてもらいたいという要求があって、それを認めてもらうと自信ややる気につながります。運動を通して自信や動機が高まることを『運動有能感』と言います。自分はうまくできたんだ、やればできるんだ!という気持ちは心身の健全な成長にとって欠かせません。特に子どもは、運動を通してこれらの能力を身につけやすいと言われています。運動が、子どもの自信や性格を作るんです」■子どもを伸ばす褒め方のコツ登ったり、跳んだり、様々な遊びを通して運動能力を高めていくのです。そして、自信を持つことで積極的にチャレンジするようになりますそして保護者に向けて、次のようにアドバイスを送ります。「子どもの頃は自分に自信を持つことが大切で、この頃に形成された精神構造などは、それ以降の自身のあり方に影響するということも聞きます。うまくできたときに、子どもが『見て!見て!』と言うのは、自分の有能感を示して褒めてもらいたいからなんです。有能感が芽生えると、次はこういうことをやってみようという、チャレンジする気持ちが沸き上がってきます。それが積極性を生み、苦手な運動にも積極的に取り組むようになり、結果として体力運動能力の向上につながるのです」子どもを褒めるときにも、コツがあるようです。それは「他の子と比べずに、できたことを見つけて褒めること」です。「ただし褒めすぎると、子どもは褒められることが目的になり、褒められないと刺激になりません。つまらなく感じてしまいます。だからこそ、認めることが大事で、『いま、できたね。どうやったらできたの、ママに教えて?次はこれをやってみれば』というふうに持っていってください。それが、運動が好きになり、上達するためのひとつの方法です」いかがでしょうか。運動神経云々ではなく、運動機会が子どもたちの体力運動能力の向上につながるのです。前編でもお伝えした36の基本運動は、親子で海や山、川などの自然体験をしたりアスレチック体験など一緒に楽しみながらできるものです。遠出しなくてもご家族で近場の自然でアクティビティを楽しんだり、公園などで一緒に運動体験をしてみてはどうでしょうか。そして楽しみながら「褒めるポイント」を実践して、お子さんのチャレンジする力を引き出してあげましょう。<<前編:「うちの子運動神経が悪くて」と悩む親必見!「サッカー以前」に必要な運動スキルとはドームアスリートハウスアスレティックアカデミーとはアンダーアーマー日本総代理店である(株)ドームのトップアスリート専用のパフォーマンス開発機関「ドームアスリートハウス」が運営するスポーツ万能キッズを養成するアカデミー。その特徴は、①あらゆるスポーツや運動の基礎となる体力運動能力からパフォーマンスアップのための専門的フィジカルを鍛えるプログラム、②日本最高レベルのトレーニング施設、③トップアスリートを指導するパフォーマンスコーチによる専門性の高い指導。育成年代のスポーツや運動についてのご相談やお問い合わせは下記までDAHアスレティックアカデミー>>小俣よしのぶ(おまた・よしのぶ)いわきスポーツクラブ(いわきFC)アカデミーアドバイザードームアスリートハウスアスレティックアカデミーアドバイザーWaisportsジャパン(筑波大学発ベンチャー企業)研究員石原塾アドバイザー筑波大学大学院修了体育学修士育成システム、競技スポーツの一般トレーニング学の研究を専門とし、その知見を活かしJリーグ、競技団体、プロ野球、自治体などの指導者研修や講演活動を行っている。
2020年01月29日思考力、判断力、表現力といった問題解決能力やコミュニケーション能力などこれからを「生き抜く」力。小学生のお子さんがいらっしゃる保護者のみなさんは、2020年からの「教育改革」でもそれらが求められていることを実感されているのではないでしょうか。これまでのような知識偏重ではなく、知識をどう使うか、主体性を持って仲間と強調しながらやり遂げる力など、これまでの「頭の良い子」とは違った賢さが求められるようになるのです。中には「うちの子勉強好きじゃないんだよね」「なんか読解力が低い気が......」「スマホばっかりしているんですけど」とお悩みの保護者の皆さんもいるかと思います。ですが、そんな親が心配する行動や変化こそ子どもが伸びるサインなのだそう。サッカーでも勉強でも、子どもが伸びるためには親のかかわりが重要です。今回は、入塾テストなしで難関校に続々合格する塾の先生で、アスリートと学習教育に共通する「成長プロセス」の体系化にも取り組んでいる進学塾VAMOS代表・富永雄輔さんに、子どもの伸びしろを最大限伸ばすヒントが詰まった最新著書「それは子どもの学力が伸びるサイン!」(廣済堂出版)の中からいくつかのヒントをいただきました。数回に分けてお送りするのでお楽しみください。適切なフォローで学力や思考力など可能性が最大限に伸びるのです(写真は少年サッカーのイメージです)■親世代の「正解」が通用しない現代の子どもの伸ばし方こんにちは。私は東京・吉祥寺に本部を置く学習塾「VAMOS(バモス)」の経営者として、10年以上子どもたちの指導にあたってきた富永雄輔です。また、一方で日本サッカー協会登録仲介人として、サッカー選手のエージェント業務も行っています。私の塾では入塾テストを一切行っていませんが、ありがたいことに難関校と言われる学校に合格するお子さんたちが多くいらっしゃいます。そんなお子さんと親御さんのかかわりを見てきた経験から、子どもが気になる行動をしたときは、大人がそれを「サイン」とみなし、適切なタイミングでフォローしていけば、学力も思考力もぐっと伸びると実感しています。一方、長年塾を経営して、非常に強く感じるのは、子どもたちの様子がここ数年で急激に変わったことです。10年前の子どもと今の子どもは、まったく異質であると言っても過言ではありません。しかし、変わったのは子どもたちだけではなく、この10年の間に人々の生活や社会的な価値観や、学校教育そのものが激変しています。中でも、親御さんが特に感じるのは、インターネット社会、スマホ社会の到来ではないでしょうか?ネットの人口普及率は2005年末には70%を突破。その後、スマホの普及率は、2014年には全世代平均で60%台、2019年2月には80%台となりました。物心ついた頃には、まわりにスマホが当たり前にある――そんな世代こそ、私が近頃、塾で出会うようになった子どもたちです。変化の早いこの時代は、親と子の世代間ギャップが以前とはまるっきり次元が違うのです。このギャップこそが、今の親世代にさまざまな教育の悩みをもたらしています。なぜなら、自分たちが「これが正しい」「こうすべきだ」と教えられてきたことがまったく通用しないからです。また、共働きや、塾や習い事に毎日のように通う子も増えているため、親が子どもと接する時間は短くなってきています。そんな中、「うちの子は本当に大丈夫なのだろうか」と不安になることもあるでしょう。しかし、心配しないでください。親が心配になる子どもの行動や変化こそが、実は伸びる「サイン」です。このサインには、学力だけでなく、好奇心や自立心、思考力なども育まれるヒントが詰まっています。今の子どもたちが発するサインの本当の意味や、子どもを伸ばすための「チャンス」や「ピンチ」の生かし方、そしてスマホなどの「デジタルの生かし方」について解き明かしていきます。ピンチだと思っていたことが実はチャンスだったり、その逆だったりと意外な結果が見えてくるかもしれませんが、かつての常識は今や非常識、というくらいの変化が本当に起こっていることを受け入れていただきたいのです。■勉強は「よい会社に入るために」するものではないまず、お子さんが「勉強は何かになるためにするもの」と思っているのなら、それは違います。勉強する目的を、「自分の可能性を広げるため」とか「おもしろいことを言うためには最低限の知識がいるから」など、幅広い意味でとらえてほしいのです。そのためには、親が「何かになるために、勉強しなさい」とはあまり言わないほうがいいですね。たとえば、「よい会社に入るために」とか「医者になるために」などと言いすぎてはいけません。お子さんが「eスポーツのプレイヤーになりたい」「ユーチューバーになりたい」などと言い出した場合、親はどうしたらよいかわからないでしょう。しかし、それは、親世代がかつて抱いていた「サッカー選手になりたい」「歌手になりたい」という夢と同じようなイメージで捉えるほうがいいと思います。「スポーツ選手になりたい」という夢は健全で、「ユーチューバーやeスポーツのプレイヤーになりたい」という夢はバカバカしいというのは、子どもの価値観からすると納得できません。ユーチューバーやeスポーツのプレイヤーとして、億単位で稼ぐ人たちは大きな話題となりますが、当然ながらそのような人はほんのひと握りです。そういう意味でもスポーツ選手と状況は似ています。その域に達するためには、ある程度の生まれもった才能と、それこそ血のにじむような努力が必要なのです。そのような努力が必須だと、小学校高学年以上の子どもであれば知っていてもいいでしょう。結局、プロスポーツ選手にしろ、ユーチューバーにしろ、eスポーツプレイヤーにしろ、十分な稼ぎを得られるレベルにまで到達できる確率は低いのです。つまり、食べていけない確率のほうが明らかに高いわけですから、そのことだけに集中するリスクは計り知れないという事実も、小学校高学年くらいになったら、しっかり子どもに理解させるべきです。■スポーツや社会で必要な「賢さ」を身につけるための基礎学力は重要サッカーでも海外で活躍したいと思ったら語学の勉強が必要です(写真は少年サッカーのイメージです)もちろん、「スポーツ選手」や「ユーチューバー」「eスポーツプレイヤー」いう夢を描くこと自体を否定する必要はありません。低いとは言っても、それを実現させる可能性もあります。激動する時代を生き抜くために欠かせないのは、できるだけ多くの将来の選択肢です。さまざまな「勉強」をしていれば、選択肢は確実に増えます。だから今、何をめざしているとしても、子どもたちに基礎学力は身につけてほしいのです。スポーツ選手も、ユーチューバーも、eスポーツプレイヤーも、学歴が不要な職業だからと言って、これからの時代も「賢さ」は必須です。そのための基礎学力が重要であることも子どもに伝えましょう。ユーチューバーやスポーツ選手にあこがれる子が、勉強にやる気が出るちょっとしたワザとしては、高学歴のユーチューバー(ネット検索すると複数出てきます)、英語をしゃべれるサッカーの吉田麻也選手や野球の菊池雄星選手、大学受験の一般入試とサッカーを両立させた岩政大樹選手の存在を子どもに教えるとよいでしょう。また、eスポーツでは東大出身の選手がめざましい活躍をしています。学歴自体の価値が下がっている今、「いい大学、いい会社に行くために勉強しなさい」というだけでは、もう子どもには通じません。富永雄輔(とみなが・ゆうすけ)進学塾「VAMOS(バモス)」代表。京都大学を卒業後、東京・吉祥寺に幼稚園生から高校生まで通塾する進学塾「VAMOS」を設立。入塾テストを行わず、先着順で子どもを受け入れるスタイルでありながら、中学受験から高校受験、大学受験まで、毎年首都圏トップクラスの難関校合格率を誇る。少人数制の個別カリキュラムを組みながら、子供に合わせた独自の勉強法により驚異の合格率を実現して話題に。小さな学習塾ながら、論理的な学習法や、子供の自主自立を促し、自分で考える力の育成に効果的と、保護者から圧倒的な支持を集めている。日本サッカー協会登録仲介人として若手プロサッカー選手の育成も手かげ、アスリートと学習教育に共通する「成長プロセス」の体系化にも取り組んでいる。主な著書に『「急激に伸びる子」「伸び続ける子」には共通点があった!』(朝日新聞出版)、『東大生を育てる親は家の中で何をしているのか?』(文響社)、『男の子の学力の伸ばし方』『女の子の学力の伸ばし方』(共にダイヤモンド社)などがある。
2020年01月28日「うちの子は運動神経が悪くて......」「他の子と比べて、動きが鈍いのよね......」。そんな感想を持つ保護者の方から、サカイクに相談のメールがよく届きます。そこで今回は、子どもや成長期のスポーツ選手たちの育成について多くの知見を持つ、いわきスポーツクラブアカデミーアドバイザー、ドームアスリートハウスアスレティックアカデミー(以降DAHAA)アドバイザーの小俣よしのぶ氏に話を聞きました。(取材・文:鈴木智之写真:新井賢一)DAHAAではあらゆるスポーツの基礎となる体力運動能力向上を図る長期育成プログラムを通してスポーツ万能キッズの育成を行っています■サッカーをするための基礎的な運動体験が大事スポーツの現場でよく使われる、運動神経が良い、悪いという表現。耳慣れた言葉ですが、小俣さんは「そもそも、運動神経に良いも悪いもありません」と穏やかな笑みを浮かべて言います。「運動は神経を介して筋肉、骨、関節などの運動器が脳と繋がって行うものなので、神経が良い、悪いというものではないんです。人間の基本構造に優劣はありません。」では、運動ができる子と苦手な子の違いはなんでしょうか?小俣さんは「一番の大きな違いは、運動体験です。運動の得意な子どもは遊びなどの運動を通して、運動に必要な体力と運動能力を身につけています」と教えてくれました。しかし、近年、子どもが外で遊ぶ機会や場所が減り、遊びを通した運動体験を得ることが難しくなっています。代わって、身体活動による遊びではなく、スマートフォンやTVゲームなど運動量の少ない静的な活動時間が多くなっていると言われています。昨年12月、スポーツ庁より平成31年(令和元年)の体力運動能力調査の結果が発表されましたが、それによるとスマホやゲーム機、パソコンの利用増加が体力運動能力低下要因の一つではないかと報告されています。「子どもたちをサッカースクールに入れると、サッカーも運動もできるようになると考える保護者の方もいると思いますが、そもそもいまの子どもたちはサッカーをするための基礎的な運動体験から得られる体力運動能力が低いため、サッカーのスキル習得を中心とした練習や運動をしても、サッカーの難しいスキルをなかなかうまくできないし、体力運動能力も向上しないんですね。その様子を見て、うちの子は運動神経が悪くて...と思う人が多いのではないでしょうか」そのような現状を踏まえて小俣さんがアドバイザーをしている、いわきスポーツクラブが運営する『いわきFC』の中高校生はボールを使ったサッカーの練習と並行して、基礎的な運動体験による体力運動能力の向上を図るトレーニングを行っており、サッカーのスキル練習よりも重要視しているそうです。さらにDAHAAでは、あらゆるスポーツの基礎となる体力運動能力向上を図る長期育成プログラムを通してスポーツ万能キッズの育成を行っています。■じっと立っていることすらできない子が増えている小俣さんによると、現代の子どもたちには、運動スポーツ活動や日常生活に影響を与える大きな3つの問題があるそうです。1つがエネルギー系体力不足、2つ目が子どもロコモティブシンドローム、3つ目がそれらに伴う運動に必要な身体機能の低下や未発達です。小俣さんは、それぞれどのようなことなのかを説明してくれました。「まず、エネルギー系体力とは、大きな力を発揮したり、力の発揮を維持する能力です。体力テストでは握力や立ち幅跳び、持久走などがそれらにあたります。エネルギー系体力不足とは筋力の不足とも言い換えられ、その現象が例えば、すぐに疲れたと言って運動を止めてしまったり、体がフニャフニャしていて運動に力強さを感じられない、あるいはサッカーに多く見られますが腕立て伏せなどの筋力発揮運動をしっかりとできない、ロングパスを蹴ることができない、ジャンプしてのヘディングが苦手というものです。エネルギー系体力不足による運動への影響は、身体活動の基礎となる姿勢維持にも及びます。これは言い換えると立っているときに身体を支える力が弱いんです。人間は重力の影響を受けているので、身体に力を入れないと倒れてしまいます。サッカーの基本である走る運動も身体を支える力が必要です。走運動は、片足ジャンプを交互に連続する運動で、50m走なら50mにわたって交互連続ジャンプをすることと言い換えられ、この間ずっと姿勢を維持し続けなければなりません。そう考えると一見単純に見える走る運動でも、かなりの体力が必要であることを理解できると思います。走るフォームを直してほしいという要望をよく聞きますが、走る運動は総合的な体力運動で、子どもにとっては高負荷の運動なんです。さらに昨今は学校体育のゆとり化の影響、外遊びから得られる運動体験による体力運動能力向上が見込めないため、運動の基本である姿勢さえも維持できない子どもが増えています」。続いては「子どもロコモティブシンドローム」です。以前、サカイクでも取り上げましたが、ロコモティブシンドロームとは、骨、筋肉、関節、靭帯などで構成されている運動器に障害が起こり、「立つ」「歩く」といった日常生活を送るために欠かせない機能が低下している状態のことを言います。片足ジャンプをする子どもたち。一見単純に見える「走る」運動は、総合的な体力運動なのです小俣さんは「ロコモティブシンドロームは、本来高齢者の疾患として認知されていましたが現在では子どもにも蔓延している疾患なんです」と注意をうながします。ある報告によると中学生の約1割が目を開けて片足立ちを5秒以上できない、約4割は前屈して指先を地面につけることができない生徒がいたりするのだそうです。さらにはロコモティブシンドロームはスポーツを専門的に行っていても起こるそうです。そのような観点から幼少期から競技に専門特化することは危険なのです。3つ目が「運動に必要な、身体機能の低下や未発達」です。「いまの子どもたちは遊びの中で運動をする機会が少ないこともあり、運動が苦手な子が多く、運動をしたがりません。その結果、運動に必要な機能が低下するという悪循環に陥っているケースも少なくありません」小俣さんはいわきFCアカデミーやDAHAAのほかに、若年層向けフィジカルトレーニングの指導をしていますが、そこでは運動に必要な「運動動作スキル」の習得に役立つ、基礎運動をメインに取り組んでいるそうです。「運動をするためには筋力や持久力、スピードなどの体の力、いわゆる『体力』と、身長や体重、体型や体格などの『身体形態』が密接に関わってきます。これら体力と身体形態を総合したものが『フィジカル』となります。そして、このフィジカルをまとめて、難しい運動やスポーツを行う、あるいはスポーツの難しいスキルを習得したりする力を『運動能力』と定義されています。運動能力は、言い換えると『コオーディネーションや巧みさ』でもあり、走る、投げる、跳ぶ、蹴るといった運動を器用に行う能力です。この体力と運動能力を一体化させることで運動動作スキルが向上しますから、これらを総合的に養成することが大事になります。さらに、こう続けます。「体力と運動能力は、異なる要素です。よって保護者の方は、お子さんが運動が苦手なように見えたら、体力が低いのか、あるいは運動能力が低いのかという視点で見るといいと思います。例えば、体力や身体形態が同年代の子どもと比べても大きいほうであるが、速く走ることが苦手だったり器用さに欠ける場合は、体力は高いが運動能力が低いと判断できます。逆に身体は小さくて力も弱いが、すばしっこかったり器用だったりする場合は、体力は低いが運動能力は高いと見ることができます。」■家庭でできる身体機能を整える運動そう言って、運動が苦手なお子さんの運動機能を向上させるために、家庭でもできる「身体機能を整える運動」を教えてくれました。36の基本運動(出展:『あんふぁん』 フジサンケイ新聞社 2008年10月号より)36の基本運動で、次のような運動があります。【姿勢の変化や安定性を伴う運動】立つ/両手を相手と組む/乗る/逆立ち/渡る/起きる/ぶら下がる/浮く/回る【重心の移動を伴う運動】走る/登る/歩く/跳ねる/泳ぐ/垂直に跳ぶ/くぐる/滑る/這う【人や物を操作する運動】持つ/支える/運ぶ/押す/当てる/操る/蹴る/押さえる/捕る/振る/漕ぐ/渡す/投げる/倒す/引く/打つ/つかむ/積む※36の基本運動についてはNHKエデュケーショナルの「遊育(あそいく)」ページなどでもご確認いただけます上記の運動をどのように取り入れているかを伺うと、いわきFCやDAHAAで実践していることを明かしてくれました。「これらのアカデミーでは、姿勢の変化や安定性を伴う運動と、重心の移動を伴う運動が整ってきたら、人や物(ボールなど)を操作する運動へと移っていきます。サッカーをするためには、姿勢と重心のコントロールを無意識に行いながら、ボールなどを巧みに操作する能力が必要です。姿勢や重心のコントロールができずに、フラフラした状態でボールを扱っても上手くいきませんよね。運動経験の少ない現代の子どもたちにとっては、基礎的な運動ができるようになってから、サッカーなどの専門種目に取り組むのが良いと思います。算数の難しい問題、例えば四則計算や文章問題なども九九を暗記しているという基礎があるから解けます。運動スポーツも一緒で基礎体力運動能力が整っているから上手くなったり、楽しくなります。36の基礎運動を遊びを通して体験することで体力運動能力を向上させ、それがサッカーなどのスポーツに活かされるのです。現在、サッカー界で流行している例えば体幹トレーニング、ファンクショナルやムーブメントトレーニングは、そもそも基礎体力運動能力が備わっている大人がやるものです。運動体験が未熟だったり体力運動能力が低い子どもがやっても、ねらった通りの効果を得ることは難しいと思います。」次回は、サッカーがうまくなるために必要な姿勢と、子どもが運動が好きになるにはどうしたら良いかについて紹介します。ドームアスリートハウスアスレティックアカデミーとはアンダーアーマー日本総代理店である(株)ドームのトップアスリート専用のパフォーマンス開発機関「ドームアスリートハウス」が運営するスポーツ万能キッズを養成するアカデミー。その特徴は、①あらゆるスポーツや運動の基礎となる体力運動能力からパフォーマンスアップのための専門的フィジカルを鍛えるプログラム、②日本最高レベルのトレーニング施設、③トップアスリートを指導するパフォーマンスコーチによる専門性の高い指導。育成年代のスポーツや運動についてのご相談やお問い合わせは下記までDAHアスレティックアカデミー>>小俣よしのぶ(おまた・よしのぶ)いわきスポーツクラブ(いわきFC)アカデミーアドバイザードームアスリートハウスアスレティックアカデミーアドバイザーWaisportsジャパン(筑波大学発ベンチャー企業)研究員石原塾アドバイザー筑波大学大学院修了体育学修士育成システム、競技スポーツの一般トレーニング学の研究を専門とし、その知見を活かしJリーグ、競技団体、プロ野球、自治体などの指導者研修や講演活動を行っている。
2020年01月21日サッカーも勉強もからっきしダメな息子。去年転校してサッカーチームに入ったけど、運動が得意じゃないから下手だしコーチの言っていることもしっかり理解しているんだか......。近々試合があるけど、親子ともども知り合いがいないから孤独な観戦になりそう。ダメ親かもしれないけれど「ぼっち」が嫌で観戦に行かないのはアリ?とご相談をいただきました。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、「ベンチにいるわが子を見ていられなくて試合中に帰宅した」というご自身の経験などをもとに、あなたに寄り添ったアドバイスを送りますので、参考にして心を軽くしてください。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<サンダル履きで態度も横柄な監督を"名誉棄損"で訴えたい問題<サッカーママからのご相談>二歳まで一緒に暮らしていましたが、離婚後、私の病気などの事情で6年間元夫の母が育ててきました。元夫は育児にかかわる人ではなく、元姑の育児の仕方が理由なのか、運動だけでなく勉強の方もからっきしです。色々な事情があったのですが、2019年の4月から転校して私と一緒に暮らしています。昨年7月からサッカーのチームに入りましたが、はっきり言って下手です。運動が得意でないうえに、勉強も全然ダメなのでそもそもサッカーの動きを理解してないように思います。コーチの指導内容もちゃんと理解できているのかどうか...。今度、試合があります。息子は出場しないと思いますが、親子共々知り合いがいないので、ポツンと孤独な観戦になるのは間違いありません。子どもっぽい考えかもしれませんが、「ぼっち」になりたくなくて試合観戦に行きたくない、息子にサッカーを辞めてもらいたいとまで思っています。こんなダメ母ですが、親が行きたくないから、で試合を観戦に行かなくていいと思いますか?島沢さんにもそんな時はあったのでしょうか。何かアドバイスをお願いします。<島沢さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。わたくしめにも、そんな時があったのかって?もちろんです!いや、威張って言うことでもありませんが、そんな時もありました。■見に行かない自分はダメ母なのか、という苦しさまずは小学生時代。少年団で1学年上のチームに呼ばれるときがあったのですが、そのチームを指導していたコーチは、息子の学年の担当コーチであるわが夫と、少しばかり違う指導法の方でした。ともに何かしら齟齬があったかもしれないのですが、ストレートに言えばそのことで息子は試合に行っても起用されませんでした。一日に練習試合を3つほどやる遠征なのに出場時間ゼロ分。見ていて非常につらかったです。本人が「コーチ、(試合に)出して」と言うと、「おまえのお父さんに、どうしたら試合に出られるか聞いておいで」と言われていました。そんなことがあって、試合を観に行かないことが何度かあったと思いますし、試合途中でベンチにいる息子を見ていられなくて帰宅したこともあります。中学生になってジュニアユースに入ると、なかなか試合には出られませんでした。都大会など大きな大会やリーグ戦の佳境になると、ほかのお母さんたちからメールが来るわけです。「子どもたちのためにも、親も一丸にならなくてはいけないから観戦に来てください」「打ち上げは都合のつく方はぜひ参加してください」50人中試合に出られるのはせいぜい15人ほど。それでも20数人は行かれていたようです。聞けば「高校進学のためクラブ推薦をもらわなくてはいけないから、わが子がBチームでもユニホームを着ていなくてもコーチに応援来ていますよ、という姿を見せなくてはいけない」と言うのです。息子は、高校は受験して入る予定のグループ(50人中わずか3人でしたが)だったので、非常に驚かされました。なによりも、子どもたちのためという名目で強制されている感があり、ほとんど行きませんでした。ただし、自分の中では常に葛藤がありました。めげずにベンチにいる姿を見守ってやるべきではないか、チームの他の子たちを応援してあげるべきではないか......。お母さんと同じ「私はダメ母なのか」という苦しさですね。■子どものサッカーでそんなに悩むことはないそんな話を、仕事で取材したサッカーコーチに吐露したら「息子さんのチーム、面白いサッカーやってるの?」と尋ねられました。「いいえ、大きく蹴ってばかりで面白くないです」「じゃあ、見ても楽しくないね」会話はそれだけです。理屈では、いまだに何が正しいのかわかりません。ただ、私は楽になりました。そこから、時間や心に余裕があるときや、息子に「観に行こうか?」と尋ねたときに「来て。出番があるかもしれないよ」と本人が希望したときなどに行きました。今となれば、たかが子どものサッカーであんなに悩む必要もないのになあと思っています。ただし、下手だから見たくないと思ったことはありません。息子は走るのが苦手で地面ばかり見ている子でしたが、ダメダメでも、試合に負けても、サッカーをしている姿を見るのは楽しかったです。ダメダメを見ていたので、途中で行かないときがあっても、ジュニアユースで試合に出られたときは「すごいね!よく頑張ったねえ」と一緒に喜んであげることができました。■観戦に行くのがストレスなら行く必要なし。その代わり......そこで結論です。無理に見に行く必要はないでしょう。嫌なことをやれば、お母さんもストレスがたまります。その代わり、息子さんがサッカーに行きたいというのであれば、行かせてあげてください。こころのなかで「サッカーを辞めてもらいたい」と考えたとしても、それを口に出すのはアンフェアです。お母さんに嫌なことを回避する権利があるように、子どもにも人権があります。環境が許す限り、好きなことをする、学び、成長する権利です。親はその権利を行使することを、可能な限り支えなくてはいけません。サッカーを取り上げないでください。試合に行かないぶん、心を込めてお弁当をつくり、疲れて帰ってきた夜にお風呂を沸かしてあげて、おいしい夕ご飯を用意してあげればいいと思います。■あなたはダメママじゃない!息子さんにしてあげればいい、ただ一つのこと(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)もうひとつ。見に行かなくていいので、話は聞いてあげましょう。様子は見られないのですから、報告は聞いてあげてください。試合に勝ったか、何点決めたかといったものではなく、ただひとこと「今日、楽しかった?」と聞いてあげましょう。楽しかったと言えば、そのことを一緒に喜んであげてください。悔しいことや悲しいことがあったのなら、そのことを一緒に悔しがり、悲しむこと。でも、お母さんは大人なので、次にどうしたらいいかな?と導くことはしてあげましょう。そのうち、子どもが「次の試合はねえ」と話したり、サッカーの話を始めたら、Jリーグを見に行ったり、テレビで日本代表の試合を一緒に見てもいい。少しずつ歩み寄れるといいですね。まだ小学年です。そして、お母さんのところに来てまだ1年経っていません。サッカーも始めたばかりです。少しずつ距離を縮められるといいですね。息子さんは勉強やスポーツの発達が少し遅れているだけです。ダメな子ではないし、お母さんもダメなママではありません。こうやって、私のところに相談に来てくれました。誰でもできることではありませんよ。それなのに、お母さんは自分と真剣に向き合っている。それだけで、息子さんは幸せなお子さんだと私は思います。焦らず、ゆっくり、ぼちぼちいきましょう。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2020年01月08日