最新の芥川賞受賞者で生成AIを創作に取り入れた九段理江さん。文学について思うことを伺いました。仮想世界を丁寧に描く新芥川賞作家・九段理江さんザハ・ハディド案の新国立競技場が実際に完成し、2020年のコロナ禍に予定通り東京オリンピックは行われた。そんな架空の設定が用意され、あり得たかもしれないもうひとつの東京の姿、そこで生きる人間の思いが描き出される。九段理江さんの『東京都同情塔』は、硬質で理論的な思索の中に、ユーモアとアイロニーがちりばめられた刺激的な作品だ。「ブラックユーモアだとか、皮肉がすごくてだとか、ものすごくよく言われるんですけれど、私自身は全然意識していないというか。自分に見えているままを書いているんですよね。素で性格悪いみたいに思われていないか、心配しています(笑)」2030年、東京・新宿御苑の敷地に完成予定の巨大刑務所。その設計に携わることになった牧名沙羅は、37歳にして成功を収めている女性建築家だ。沙羅はザハの建築を高く評価し、その対をなす建築となることを意図している。だが、高層のタワー型刑務所が〈シンパシータワートーキョー〉と呼ばれるようになると、そのネーミングに沙羅は拭えない違和感を覚え、社会におけるさまざまな概念をも再構築しようと試みる。起こらなかった無数の現実を想像してしまう。「最初に浮かんだのは、アンビルトというモチーフなんです。建築家のスキルって数学的で言語化とは遠いものだと思っていたのですが、実は構想を実現させるにはいま建てる意味や価値を説得できなくてはいけない。言葉を重ねていかないと崩れてしまうわけで、ものすごいバランスを求められる職業なんだなと。それで建築家を主人公にして書きたくなりました。沙羅が関わる建物を刑務所にしたのは『ケーキの切れない非行少年たち』という新書を読んだのもきっかけのひとつです。今の社会は多様性や寛容を強く要請してくるけれど、寛容さと必要な支援のバランス、みんなが幸せになれる、息苦しくない寛容ってどんなものだろうとよく考えていたんです」そんな土台に、ヒトの言葉とAIの言葉、寛容や多様性の受容と矛盾、支配と被支配等々、現代社会を混沌とさせている対立を幾重にも積み上げた〈バベルの塔〉を、読者の眼前にリアルに描き出す。「いま見えている現実というのも偶然の連なりでそこにある現実でしかないと思っていて、だからこそ、起こらなかった無数の現実ってどうだったのだろうと想像してしまうんです。そうしたらある研究者の方に『九段さんってロマンティストですね。ザハ建築が建ってようが、そんなことで世界は変わらないですよ』と言われちゃって。でも、もし東京タワーの外観が今と全く違っていたら、やっぱりそれを眺める人の意識も変わるんじゃないかなと思うんですね。だって、小説の力みたいなものがバタフライエフェクトになることもあるわけですから。私自身もそうだし、誰でも一冊の本を読んで変わってしまったという経験を否定できない。本程度の重量のものでそうなるのなら、巨大な建物がそびえていたときの、その影響力は凄まじいと思うんですよ」そんな九段さんに影響を与えてきたのは、宮沢賢治や三島由紀夫、泉鏡花など古典が多い。「日本文学でしか味わえないような、自然の風景や日本的なもの…何より、日本語の美しさそのものに惹かれていたんだと思います。それぞれの時代で価値が変わっても、また新しい読み方ができる、新しい読者を獲得するのが読み継がれてきた古典の力であり、魅力だと思うので、まだ読めていない古典をもっと読みたい。逆に、同時代の作家で次回作を楽しみにしているような存在はあまりいないんですよね。朝比奈秋さんくらいかな。むしろ、自分が何を書いていくかを楽しみにしていますね」『東京都同情塔』は、思索を言葉にし続ける建築家の沙羅と、彼女の言葉を反射させて語る美貌の青年・拓人、AIが紡ぐ言葉の三位一体が放つ魅力に引き込まれる。新潮社1870円くだん・りえ1990年、埼玉県生まれ。2021年、「悪い音楽」で文學界新人賞、’23年、『Schoolgirl』で芸術選奨新人賞、「しをかくうま」で野間文芸新人賞を受賞。’24年に「東京都同情塔」で芥川賞に輝く。※『anan』2024年5月1日号より。写真・土佐麻理子中島慶子(本)取材、文・三浦天紗子(by anan編集部)
2024年04月26日宮田理江が解説、トレンドをおさえた!ON・OFF着まわし術!会社だから「オシャレしなくてもいい」なんてもう通用しない!その日のT.P.O.によってスタイルを変えるのは当たり前。デキる女子ならどんな時もオシャレでいたいもの。そこでファッションジャーナリスト、宮田理江がトレンドアイテムのON・OFFスタイルを紹介。今まで会社では着られないと思っていた最旬アイテムの着まわし術も伝授。365日好きな服で過ごせるコーディネートを提案します!アシンメトリーワンピースの着まわし術を大公開春夏のおしゃれ気分はカラフルな色使いに象徴される前向きなモチベーション。なかでも、2012年度のカラー・オブ・ザ・イヤー(流行色)に選ばれた、赤みがかった情熱的なオレンジ色「タンジェリン タンゴ」はそんなつやめきモードをまとうのにぴったり。強いトーンの色だけに、エレガントな雰囲気に整えるスタイリングがポイントです。アシンメトリー(左右非対称)フォルムのワンピースやスカートはヒットの兆し。左右丈違いに加えて、近頃は前後アシンメトリーも続々と登場。動きのあるダイナミックな裾景色が視覚効果でレッグビューを美しく見せてくれます。華やか色のアイテムなら、健康的な素肌感まで引き立ててくれそう。1枚でさらりと飾り気なしでまとっても様になる主役級ワンピースは、ジャケットや帽子、アクセサリーなどで味付けすれば、オンでもリゾートでも使えるユーティリティーな1枚に。この春夏にワードローブへ迎え入れたいニュースな1着となるはずです。 お仕事モードノーカラージャケットで合わせて、艶やかフェミニンワンピース ¥89,250 ANNE VALERIE HASH/ジャケット ¥55,650 D’agilita/シューズ ¥29,400 PURPLE (すべてDESIGNWORKS concept store AOYAMA)目を惹く色のワンピだから、オフィスではジャケットを羽織って、見え具合をセーブ。白やベージュ系の控えめ色で合わせれば、穏やかなお仕事ルックに整えやすいでしょう。ノーカラージャケットは物静かなムードが寄り添うので、強めのアイテムと重ねられる上品ウエアとして1枚手に入れておくと重宝します。ワンピースの胸元の美しいデザインも生かされます。注目度が高まっている、先の尖ったポインティッド・トゥのノーブルなベージュ系パンプスで合わせれば、ぐっと落ち着いたムードに。 オレンジはポジティブ感や活動的イメージをまとわせてくれるから、意外にオフィスシーンになじむ色といえそうです。普段と違う印象も打ち出せる分、プレゼンや商談といった、押し出しの求められるシチュエーションに向く着こなしです。リボンやドレープなど、クラシカルなイメージを感じさせるディテールの施されたタイプを選ぶと、シーンを選ばないスタイリングが楽しめます。・ こんなに雰囲気が変わるなんて!?このワンピースの休日のコーディネートはこちら
2012年02月22日