駅から徒歩3分ほどの近さながら、前店と同様隠れ家感は満載!コインパーキングの奥というシチュエーションだけでも充分わかりにくいのに、その先で見つけた扉には“火災受信盤”の文字。これにすっかり惑わされ、付近を彷徨うゲストも少なくないようだ。まぁ、鍵までかかっているのだからそれも宜なるかな、ではある。駐車場の奥にある倉庫の扉のような入り口に、迷うゲストも多い。扉横のインターホンを押せば、鍵を開けてくれる扉の隣のインターホンを押せば、鍵は解錠。地下へと続く階段の向こうのドアを開ければ、広々とした空間が目の前に現れる。ここが、新生【薪鳥 新神戸】。前店のゆうに2倍はあろうかというゆったりとした店内には、コの字型のカウンターが12席。その奥には、メラメラと炎をあげる炉窯が、2台設えられている。今回の店では、その薪火をどの席からも見ることができるように設計してもらったそうだ。以前の麻布十番の店に比べ倍以上の広さとなった店内。コの字型のカウンター席は12席。天井も高めで開放感がある「炉窯が二つになったことで、火の調整がやりやすくなり、焼きの精度が格段に上がりました。」とは大将の疋田豊樹さん。火加減の異なる野菜や肉を一つの炉窯でこなさなくてはならなかった前店に比べ、こちらは片方を肉専用にすることで肉と野菜の同時進行が可能になった由。「焼鳥職人は天職です。」と疋田豊樹さん。プライベートでも鶏は大好物とか「熱源に余裕ができたので、一方を熾火にして野菜を焼いてみるとか、薪焼きの可能性をより高めていきたいですね。」と意欲を燃やす疋田さん。だが、コース内容は以前とはそれほど変えていないそうで、それも、コースそれぞれの料理に対し「これを食べたかったんだよね。」という客が多いゆえ。ヘタに変えると「ガッカリする方もいらっしゃるんですよ。」と疋田さん。コースの最初に供される秋田「高原比内地鶏」のもも肉『高原比内地鶏のもも肉の薪焼き』。薪の薫香とほとばしる肉汁とが拮抗するうまさは格別だコースの幕開けは、従来通り秋田「高原比内地鶏」の「もも肉」。見るからに香ばしさが伝わってくる皮は、黄金色に輝き、皿に滴る肉汁も惜しいほど。すかさずアツアツに齧りつけば、薪で焼けばこその薫香が鼻腔を抜ける。そう、この一瞬で、皆、薪焼鳥の虜となるのだ。薫香と共に溢れ出る肉汁で舌を潤わせつつ味わえば、旨みの余韻が後を引く。一串とはいえ、インパクトのある味わいはまさに名刺がわりと呼ぶにふさわしい、相変わらずのおいしさだ。が、心なしか以前に比べ、やや焼きがしっかりとして、より焼鳥感が増したように感じる。兵庫『高坂鶏のとりわさ』。高坂鶏の胸肉と白レバーを交互に重ね、自家製のとりわさ醤油をかけている続く2皿目は「鶏刺し」。こちらは兵庫の高坂鶏の胸肉とレバーをミルフィーユのように重ね、自家製のとりわさ醤油をかけた新作だ。以前も松風地鶏をお刺身にして提供していたが、今回はよりブラッシュアップ。何より高坂鶏の白レバーが素晴らしい。白レバーらしい妖艶な濃厚さを持ちながらも、後味は実にすっきり。綺麗な旨みが印象的だ。柔らかく淡麗な高坂鶏の胸肉で巻くようにしていただけば、おいしさは更に倍増。至福の味が心を満たす。それも、無菌の状態での出荷を可能にした高坂鶏を使えばこそ。飼料の配合や育て方によって鶏を健康的な状態に保ち、屠殺後の処理にも気を使うなど独自の飼育ノウハウが唯一無二の高坂鶏を生み出している。『高原比内地鶏のふりそで・ハリッサ乗せ』。胸肉のようなさっぱりした肉質を持ちつつ、ジューシーさも併せ持つふりそで。自然な甘みを含んだハリッサの辛味とよく合うさて、コースはこの後、山口県産『長州鶏のレバーにマッシュルーム』、『鶏焼売のお椀』に『ハツ』と続いた後、ハリッサをトッピングした『高原比内地鶏のふりそで』が登場。ふりそでとは、鶏の手羽元と胸の中間に当たる稀少部位。人間でいえば肩の部分になるそうで、「程よく脂がのっていながらさっぱりした味わいの部位ですね。」と疋田さん。ハリッサは、チュニジア発祥の辛味調味料だが、ここでは和風にアレンジ。カンズリと赤ピーマンをベースにつくっている。『高原比内地鶏のソリと九条ネギ』。写真の料理はすべて20,000円(税込み・サ別)のおまかせコースから『赤茄子の煮物のチーズ掛け』や薪で焼いた食パンに鶏のリエットを塗った『鳥パン』、『高坂鶏のもも一枚焼き』に『鶏だしの茶碗蒸し』、『蓮根餅』等々でお腹も満たされてきた頃、再び串物が出て〆へと突入。このタイミングで出される串は、日によって変わるそうだが、この日は『九条ネギとそり』と『手羽のネギ巻き』の2串。ソリとは、腿肉の付け根にあたるピンポン玉ぐらいの部位のことで、いわば筋肉の塊。腿肉よりも歯応えがありジューシーな味わいが人気の一品だ。こちらにはカンズリをあしらい、よりアタックの強い一串となっている。また、手羽の骨を一本だけ抜き、そこにネギを詰めて焼く『手羽のネギ巻き』も秀逸。鶏の脂や肉汁を吸った長ネギが、鶏に負けず劣らずのいい味を出している。疋田さんによれば「高原比内地鶏は肉付きも良く、地鶏にしては肉質が柔らか。それでいてしっかりとした噛み応えもあり、やはり薪火に合いますね。」とのこと。一方、高坂鶏は皮がうまいそうで、双方を組み合わせたハイブリッド串も新メニューとして時折登場するとか。もちろん、“熟成”させて旨みの濃度を引き上げるひと手間も以前と変わらない。鶏挽肉を炎にかざし、ダイナミックに炙る疋田さん。薫香が店内に立ち込める〆は、これを目当てに訪れるリピーターも多い超人気メニューの『そぼろ御飯』。大きなザルで炎を上げながら豪快に鶏挽肉を炙り焼く様子は、何回見ても気持ちが上がる。立ち上る煙と共に広がる薫香もおいしさのうち。お腹はいっぱいのはずなのに、早くも胃袋が騒ぎ出す。特注の土鍋は、信楽・雲井窯の七号炊き。これで炊いた6合の米に1kgの鶏挽肉をあわせているそうで、米はほどよい粘りと弾力性に富むあきたこまち。「香りや鶏の旨みによく合う米だと思います。」と疋田さん。ややもちもちとした白飯の食感に香ばしくも旨み豊かな鶏そぼろが最強の組み合わせ。塩味のシンプルな味付けながら、1杯目は炒めたニラ、2杯目は卵かけ、3杯目はカンズリと青ネギというように、味変で楽しませる趣向も心憎いばかり。最後まで舌を飽きさせない秘訣だろう。『そぼろ御飯』。土鍋に薪を入れるのは「ご飯にも薪の薫香をまとわせるため」と疋田さんまず、炒めたニラを乗せて一杯。その後、卵かけ、カンズリとネギなど味変で楽しめるアルコールは、ワインも日本酒も豊富に揃うが、疋田さん曰く「人気があるのは、やっぱり日本酒ですね。」とのこと。希少な三重の「而今」や「新政 水墨 亀の尾」、フルーティで微炭酸の奈良「風の森」、長崎・壱岐の超辛口「よこやま」など銘酒が揃っている。お酒はワインはもとより、「而今」など希少な日本酒も揃っている薪鳥新神戸【エリア】赤坂【ジャンル】焼鳥・串焼き【ランチ平均予算】-【ディナー平均予算】22000円【アクセス】赤坂見附駅 徒歩3分
2024年03月25日キャラメルボックス 2016クリスマスツアー『ゴールデンスランバー』が11月30日、新神戸オリエンタル劇場で開幕した。山本周五郎賞、本屋大賞をダブル受賞した伊坂幸太郎の代表作を初舞台化。劇団公演としても初の伊坂作品は、ハイスピードな逃走劇を芝居の力で見せつける力作となった。キャラメルボックス『ゴールデンスランバー』チケット情報物語の舞台は仙台。総理大臣の凱旋パレード中に、ラジコンヘリが首相を直撃して爆発。日本を揺るがす大事件の犯人に仕立て上げられた青柳雅春は、巨大な陰謀の渦のなか様々な人々の手を借りて逃走を続ける。警官、かつての恋人や友人、花火工場の社長、青柳が救ったアイドルなど。多くの登場人物が青柳に絡みながら、スリルに満ちた物語を導いてゆく。原作を読んで舞台化を熱望したという脚本・演出の成井豊は、怒濤の物語を劇団史上最多の41場で展開。数段の段差や、4つの可動式セットなどシンプルな装置で、車の中やエレベーターと次々に変化する場面を見せる。役者たちの演技力があってこその試みで、31周年の最後に新たな挑戦に打って出た。また原作のエッセンスを凝縮し、肝となるシーンや大切な台詞を丁寧に見せてゆくので原作ファンも納得の仕上がりだろう。生真面目で一見お人よしの宅配ドライバー・青柳雅春を演じたのは畑中智行。急に追われる立場となった彼は走る走る! 出会う人を一端は疑わねばならない運命のいたずらにも、純粋なひたむきさで立ち向かっていく。このあたりはさすがキャラメルボックス。現代の負をも映し出す題材なのに、清々しい感動を与えてくれる。また青柳の葛藤などを、大学時代の友人・森田森吾がストーリーテラーも兼ねて代弁する劇構造が面白い。森田を演じた山崎彬の自然な存在感が光る。青柳に絡むもうひとりの重要人物、連続殺人犯のキルオを演じた一色洋平は、同劇団の『嵐になるまで待って』にゲスト出演中、こっそり公募オーディションに申し込みキルオ役を勝ち取ったユニークないきさつが。やはり登場した瞬間から見事な身体能力と熱量で圧倒する。青柳の大学時代の恋人・樋口晴子(渡邊安理)と青柳との関係性は、酸いも甘いも噛み分けた年代にも心に刺さるのではないだろうか。冷たい空気感で場面を支配した警察庁の課長補佐・佐々木一太郎役の岡田達也、明晰なアナウンサーと青柳の母親を演じ分けた坂口理恵など、ベテラン勢の好演も忘れ難い。疾走感=音楽の多用に傾きがちなところを、ここぞというときだけベストな音楽を聴かせて緩急のある芝居を見せる。それが自ずと“人間同士の繋がり”“信頼”というテーマを浮かび上がらせ、観客の心を揺さぶる。青柳と共に観客も必死で走り抜けるような濃密な2時間。新たな一級エンターテインメントが誕生した。神戸公演は12月4日(日)まで、東京公演は12月10日(土)から25日(日)までサンシャイン劇場にて。チケット発売中。取材・文:小野寺亜紀
2016年12月01日創立30周年を迎えたキャラメルボックスの記念公演第2弾『カレッジ・オブ・ザ・ウィンド』が、5月9日、新神戸オリエンタル劇場で初日の幕を開けた。1992年の初演が開幕したのもこの劇場。劇団屈指の人気作の4回目、8年ぶりの上演とあって、場内は幅広い年代の観客たちの熱で溢れていた。脚本・演出の成井豊が「初期の代表作であると同時に、その後のキャラメルボックスの方向性を決めた記念碑的な作品」と言う通り、劇団が大切にする“人が人を想う気持ち”を真正面から捉えた、清々しくも深みのある快作だ。キャラメルボックス『カレッジ・オブ・ザ・ウィンド』チケット情報大学生の高梨ほしみは、家族6人でキャンプに向かう途中交通事故に遭い、祖母や両親、妹と弟を一瞬で失う。病院でほしみは、幽霊となってついてきた家族5人と明るく会話。コメディの要素も交じった丁々発止のやり取りの中に、実はバラバラだった家族の事情が見えてくる。ほしみの父・ギンペイ役の福本伸一(ラッパ屋)と、ほしみの母・ナミコ役の西牟田恵の頼もしい客演で、複雑だけどシリアスになり過ぎないラインが保たれ、ほのぼのとしたムードも。趣向を凝らした“ゴースト・ダンス”も目に楽しい。さらにほしみの叔父・鉄平が、ほしみの病院に逃げ込んでくる。新聞記者の鉄平はあるメモリーカードを手に入れたことから、事件に巻き込まれていた。彼を追う刑事たちの言動さえあやしく見えてくる二重構造で、謎は深まるばかり。この謎がほしみの家族の物語と巧く絡み合い、同時進行しながら怒濤のクライマックスへと突入してゆく。ほしみ役を演じたのは入団7年目の原田樹里。自然と家族をひとつにする屈託のない笑顔と確かな演技力で期待に応えた。ときに全身を振り絞るかのように訴える一途な想い。交通事故だけでなく彼女に降りかかる苦難は相当なものだが、可愛くも屈強なこのヒロインが放つ台詞に、観客は本当の優しさ、本当の強さを教えられる。きっと誰もが愛する家族を思い出さずにいられないのではないか。魂が浄化されるような瞬間が確かに存在し、客席からはすすり泣きが聞こえた。また菊川(多田直人)という存在ゆえに生まれる鉄平の心の闇も、男女を問わず引きつけるはずだ。鉄平を熱演した畑中智行が、肩をふるわせながら妻・あやめ(渡邊安理)への想いを打ち明けるとき、そしてふたりがある奇跡を起こすとき、夫婦という矛盾だらけな関係の先にある尊さに感動を覚える。舞台上を占める病院のセットは、蜘蛛の巣などでところどころ覆われどこかの廃墟のようだ。ここにテーマ曲である小田和正の『風のように』が流れ、白いライトが照らされると、まるで天国のようにも見える。「あの風のようにやわらかく生きる君がはじめて会った時から誰れよりも好きだった」という歌詞が、いつまでも頭から離れない。神戸公演は5月14日(木)まで。その後、5月30日(土)から6月14日(日)まで東京・サンシャイン劇場で公演。東京公演の終演後イベントの実施も決定。詳細は5月12日(火)発表予定。取材・文:小野寺亜紀
2015年05月11日キャラメルボックス 2014 クリスマスツアー『ブリザード・ミュージック』が、11月22日、新神戸オリエンタル劇場で開幕した。1991年の初演以来4度目の再演となる人気作。心温まるファンタジーながら初日の舞台では、来年30周年を迎える劇団の“決意”のようなものを感じた。それは“一本の芝居を作る”という物語の中に詰め込まれた演劇人の率直な思い、そして4年ぶりに主役を演じる西川浩幸の役者魂ゆえだろう。キャラメルボックス『ブリザード・ミュージック』チケット情報西川は初演よりずっと梅原清吉役を演じている。13年ぶりの再演となった今回も自らの強い意志でこの役に挑んだ。「若人よ来たれ!君もクリスマスに芝居をやらないか!」という新聞広告を出した90歳の清吉。彼はなぜ、宮沢賢治の未発表童話『ペンネンノルデの伝記』を基にした脚本を書き、自ら主演すると言い出したのか。70年前の彼の秘めた想いが次第に明らかになっていく。物語は清吉の芝居を、クリスマスまでの1週間で作り上げるのを軸に展開していくが、いくつもの波乱が巻き起こる。まず大金をはたいた清吉に対して家族たちが大反対。特に息巻く息子の清一郎を演じた阿部丈二の、顔芸とも言える演技に笑いが起きる。3人の孫や清一郎の妻・妙子(坂口理恵)らは、いつの間にかサポート側に転じているのが微笑ましい。家族に向けた成井豊(脚本・演出)の温かい目線、さらに宮沢賢治へのリスペクトが作品を普遍的なものにしている。一方泥臭いぐらい熱いのが役者チーム。頼もしい筋トレを披露する釜石(三浦剛)、元タカラヅカ男役だと言う水沢(前田綾)、ジャッキー・チェーンに憧れる久慈(畑中智行)ら演技スタイルも様々な5人が、エチュードで芝居を作り上げるから支離滅裂でオカシイ。5人は宮沢賢治が生きた時代の若者を演じるうちに絆を深めていく。さらにキーパーソンとなるのが、清吉がつれてきた24歳の看護師・ミハル。彼女は清吉にとっての“ミューズ”なのだが、渡邊安理演じるミハルは現代的で明るくちょっと勝気な女性。だからこそ終盤、彼女が着物で演じ切ったもうひとりのミハルの意外な行動と台詞が心に響く。舞台は劇場という空間のみ。無造作に置かれた大道具を役者自らの手で動かし、命が吹き込まれる。物語は特に後半、ZABADAKの音楽と共に時空の壁を一気に超えるような爽快感と緊張感で加速していく。学生服を着た90歳の清吉じいさん。頑固な中にあるくもりなき純粋さ、死生観にまでたどり着くような台詞を、西川は強い目力で伝え切った。初日のカーテンコールでは、「今日のことは一生忘れないと思います」(西川)と感無量な表情。まさに劇団にとっても観客にとっても、忘れられない再演となるはずだ。神戸公演は11月27日(木)まで。その後東京・サンシャイン劇場で12月5日(金)から25日(木)まで上演。なお、東京公演では10日(水)から24日(水)まで、ほさかよう作、成井演出の新作『太陽の棘彼はなぜ彼女を残して旅立ったのだろう』を同時上演する。取材・文:小野寺亜紀
2014年11月25日