2021年4月末、日本サッカー協会(JFA)より「育成年代でのヘディング習得のためのガイドライン(幼児期~U-15)」が発表されました。昨今、ヘディングによる脳震盪などの影響が報じられていますが、日本サッカー協会から、それに対応する提案が出された形になります。ジュニアから中学生までの育成年代において、ヘディングとどう向きあえばいいのでしょうか?前回の記事では「ヘディングが危険だからといって禁止するのではなく、体に害のない形で取り組もう」というJFAの趣旨や、幼児から小学4年生までの具体的な練習方法を紹介しました。今回は小学5、6年生、中学生のヘディングへの取り組みについて、中山雅雄 JFA技術委員会普及部会長、谷諭 JFA医学委員の会見をもとに解説していきます。(構成・文:鈴木智之)高学年、中学生年代になるとヘディングの機会も増えてくる。体に負担なく正しく身につける方法とは<<前編:年代別ヘディング習得のためのガイドライン【幼児~4年生編】■日本サッカー協会が設定したヘディングの指導内容JFAとしてのヘディングに関する指導内容は以下のようにまとめられています。技術・額でボールに触れる・軽量ボール(風船、新聞ボールを含む)を使って額でボールを扱う(弾く、受ける)・額を使ってボールをコントロール(トラップ、パス、方向を変えるなど)・上体を利用してヘディングでボールを遠くへ飛ばす・身体の軸を安定させてボールを強く、遠くへ飛ばすコーディネーション・空間認知・空間を移動するボールへの身体の適応・グレーディング感覚(力の出力コントロール)・空中や着地の際の身体バランス・走から跳への連続的な身体操作・ヘディングでのジャンプのタイミング・他人との空中での競り合いフィジカル・全身を使って「押す」「登る」「引っ張る」「抱える」などの運動経験・体幹の安定・頭を支える首回りの強化引用:JFA育成年代でのヘディング習得のためのガイドライン(幼児期~U-15)これらを踏まえて、小学5、6年生では、次のようなトレーニングを推奨しています。■年代ごとのJFAが推奨する課題例(練習メニュー)●小学5、6年生の練習メニュー例・テニスボールを使ってキャッチボール、フライボールをキャッチ4 号球+ボールネット・自分でゆらして額に当てる(10 回程度)・高さを変えてジャンプヘディング(10 回程度)・4号球を使って額でキャッチ・バウンドさせて額に当てる・バウンドさせてヘディング引用:JFA育成年代でのヘディング習得のためのガイドライン(幼児期~U-15)JFAの指針:引き続き、空中にあるボールを手でプレーすることを中心に、二人で同時にジャンプしたり、空中のボールを手で取り合うといった運動をおこなう。徐々に 4 号球を使ったヘディングを導入するが、頭部への負荷(衝撃と頻度/量)を考慮して実施する。「ヘディングはやりすぎてもいけないし、少なすぎてもいけないと思っています。指導者の方は、子どもたちの様子を見ながら、適切な回数、量を決めていっていただければと思います」(中山雅雄 JFA技術委員会普及部会長)中学生になると5号球に移行するので、ヘディングに頭や首にかかる負荷は大きくなります。また、筋力がついてくるので、競り合いの強度も大きくなると考えられます。「首や頭を固定していない状態での頭部への衝撃や衝突、地面への落下は注意が必要です。ヘディングの競り合いで、相手と接触して落下し、地面に頭を打つことで、脳震盪になるケースもあります」(谷諭 JFA医学委員)正しいヘディングフォームの習得、競り合い時の身体の使い方は、ケガ予防の観点からも身につけておくべきものと言えるでしょう。そのためのJFAの指針としては、以下になります。・軽量ボールや4 号球を使って、正しいヘディング技術習得ための反復を、頭部への負荷を考慮して実施する・相手との正当な競り合いができるようなトレーニングも積極的に導入する・体幹の安定、首回りの強化といった基礎体力強化も導入する。●中学生の練習メニュー例・テニスボールキャッチボール、フライをジャンプしてキャッチ・軽量ボールを自分で投げ上げて、ジャンプして最高到達点でキャッチ・(4 号球)相手の投げたボールをジャンプして最高到達点でキャッチ・ヘディングでリフティング10 回くらい・首のアイソメトリック(ストレッチ)前後左右・コアトレーニングフロントブリッジ、サイドブリッジ、バックブリッジ10 秒くらい・(5号球)相手が下から投げたボールをヘディング10 回くらい・(4 号球)相手が下から投げたボールをジャンプヘディング10 回くらい引用:JFA育成年代でのヘディング習得のためのガイドライン(幼児期~U-15)JFAの指針:軽量ボールや 4 号球を使って正しいヘディング技術習得ための反復を頭部への負荷を考慮して実施する。相手との正当な競り合いができるようなトレーニングも積極的に導入する。体幹(胴回り)の安定、首回りの強化といった基礎体力強化も導入する。ここでのポイントは、4号球、5号球とボールが重くなるに従い、回数を制限することです。頭や首に強い負荷をかけないように、指導者がコントロールすることが求められます。ヘディングは頭や額に当てる技術、体の使い方、ジャンプするタイミング、競り合い時の腕の使い方など、複合的な運動、知覚要素が必要なプレーです。これらをジュニア年代から、体に負担がないトレーニングで身につけていくことが、将来的なプレーの向上につながるのではないでしょうか。軽いボールやペンデルボール(吊り下げられたボール)を使う、回数を制限する、フォームの習得に力を入れるなど、工夫次第で様々なトレーニングが考えられます。ヘディングに対する正しい知識、やり方を、コーチを含む大人が正しく理解することが、子どもたちを安全に、成長に導くための方法と言えるでしょう。
2021年06月25日