●フラッグシップ機に求められる要素とはキヤノン製デジタル一眼レフカメラの最新フラッグシップモデルである「EOS-1D X Mark II」。2月に発表されてからここまでの間、CP+2016や大阪で開催された同社のユーザーイベントでも大きな注目を集めている。発売は4月下旬予定とまだ先だが、このたび報道関係者向けの技術説明会が都内で行われた。○EOSの操作体系は1986年の「T90」が原型説明会ではまず、キヤノン イメージコミュニケーション事業本部 ICP第二事業部 事業部長である戸倉剛氏が登壇し、開発思想やEOS-1D X Mark IIの製品概要を解説した。戸倉氏は28年前から一眼レフカメラの開発に携わっており、1984年の「T70」から2013年の「EOS Kiss X7」まで実際に手掛けたとのこと。Tシリーズが2機種、EOSシリーズが14機種、EOS Digitalシリーズが13機種と数多くの開発現場で活躍してきた。「T70」の頃の設計は、方眼紙に図面をフリーハンドで描いていく手法で、先輩には「エイヤッ!」で設計しろと教わったそうだ。感覚で書けということなのだが、この「エイヤッ!」は料理で言うところの“適量”であり、経験や蓄積された知識の表れだったのではないかと振り返る。1986年に発売した「T90」では、有名工業デザイナーであるルイジ・コラーニ氏にコンセプトモデルを依頼し、今のEOSシリーズにつながる曲線デザインのボディが生まれた。また、右肩サブ液晶ディスプレイやボタン、メイン電子ダイヤルの搭載など、おなじみの操作体系はこのT90の時にできあがったとのことだ。T90が登場した前年の1985年は、ミノルタから実用的なAFを搭載したα-7000、α-9000が発売され、αショックとも呼ばれたムーブメントが起きた。そのような背景もあり、新しい時代を作るために「EOS」プロジェクトがこの頃に立ち上がる。EOSシステムに移行することで、レンズマウントは従来のFDマウントからEFマウントに切り替わったわけだが、メカニカルインタフェース部分は当時のままであり、開発時代含め30年以上も変わらないのは優秀な設計だったと振り返る。○フラッグシップ機に求められる要素とは2000年からは「EOS-1 V」を担当し、初めてフラッグシップ機の開発に携わる。フラッグシップ機はスペックや信頼性、すべてにおいて百点満点が求められるということを感じたそうだ。それゆえに、製品の開発に関しては膨大なリソースを投入するし、品質評価においてもとても厳しい審査基準が設けられている。EOS-1D X Mark IIでもフラッグシップ機ならではのこだわりが受け継がれており、製造工程でもそれは垣間見える。現在は大分工場で生産されているのだが、カメラやユニットの組み立てはクリーンルームで行われ、それも熟練した選抜メンバーによる手で行われているとのことだ。EOSのコンセプトは「快速」「快適」であり、デジタル時代に突入してからは「高画質」と「撮影領域の拡大」が加わっている。その頂点に位置するフラッグシップ機の使命はプロフェッショナルユースであり、スポーツ関係では絶対に譲らない。「イベントや競技内容によって変わるが、現状把握している限りでは6割~7割は弊社のEOS-1Dだろう」とのことだ。戸倉氏が思うブランドとは「ハイスペック」「デザイン」「プロユース」「長い歴史」の4つであり、この考え方をもって、キヤノンのカメラブランドをもっと強くしていきたいと意気込みを語っていた。●読み出し速度が1.6倍にパワーアップ次に、キヤノン イメージコミュニケーション事業本部 ICP第二開発センター 所長である塩見泰彦氏がEOS-1D X Mark IIの技術詳細について解説した。同氏はフィルムカメラの時代からAFやISなどの開発に関わっていたが、EOSシリーズにはデジタルになってから参加したとのことだ。○読み出し速度が1.6倍にパワーアップしたCMOSセンサーEOS-1D X Mark IIのフルサイズCMOSセンサーは新開発された約2,020万画素のもの。前モデルのEOS-1D Xが約1,810万画素なのでスペック的にも向上しているが、中身はそれ以上の進化を遂げているとのことだ。とくに画像情報の読み出し速度に関しては飛躍的に向上。垂直方向の読み出し、水平方向の読み出しを複線化、高速化することにより、EOS-1D Xに対して約1.6倍の読み出し速度を達成しているという。最高約16コマ/秒(ライブビュー撮影時)、4K/59.94fpsの動画撮影を可能にした背景がここにある。また、内部処理回路をできるだけシンプルにすることでノイズを低減、高感度画質はもとより、低感度における暗部のノイズも減らしているそうだ。○DIGIC 6+ならではの高速&高画質画像エンジンも「DIGIC 6+」に刷新している。名称末尾に「+」がつけられている通り、DIGIC 6をさらにパワフルにした別物だ。EOS-1D X Mark IIでは、DIGIC 6+をデュアル搭載し、「静止画の高速処理&NR処理」「4K動画対応」「回折補正を含んだ各種光学補正」「高速外部インタフェース」などの機能を実現している。高速外部インタフェースは、USB 3.0やCFの上位規格であるCFast 2.0の接続を可能にしているとのこと。塩見氏は「とにかく高速かつ高画質というのがDIGIC 6+」と語っていた。○動体にさらに強くなったAFAFに関してもフラッグシップ機らしい進化が見られる。測距点は前モデルと同じ61点だが、中央測距エリアは縦に約8.6%、左右測距エリアは縦に約24%にエリアが拡大されており、激しく動く動体がさらに捉えやすくなっている。また、すべての測距点でF8に対応、低輝度限界も-3EVに対応している。AIサーボも新しい「AIサーボAF III+」となっており、アルゴリズムが強化されている。たとえば、自動車レースでヘアピンコーナーに高速で近づき、突然向きを変えて遠ざかっていくというシーンは今までは苦手だったのだが、被写体の移動速度の変化を瞬時に判定し、複数の移動体予測パターンの中から適合するものをチョイス、それに合わせて直ちにAF駆動方法を変えることで追従性度が飛躍的に向上しているそうだ。○高速連写を実現する新メカニズムEOS-1D X Mark IIの連写機能は、ミラー動作時で約14コマ/秒、ミラーアップ (ライブビュー撮影) 時で約16コマ/秒と秒間2コマほど高速化されている。EOS 7D Mark IIで初めて投入された、モーターの速度制御とカム機構でミラーを動かす方法に変更。これにより、ミラーが上下するときに発生する振動を瞬時に抑制、とくにダウン時における短時間での安定化ができたとのことだ。「たかだか2コマではありますが、この2コマによりさらなる写真表現を提供できるはず」との話だ。とくに今年はリオ五輪を控えている。どのような名シーンがEOS-1D X Mark IIによって切り出されるのか楽しみである。
2016年03月22日