ちょっとしたことでイライラし、何かとすぐに落ち込んで……。もっと精神的に強かったらいいのに、と思うことはありませんか?私はあります。小さいことに一喜一憂せず、常に仏のような穏やかな気持ちでいられたら、もっとラクに生きられるはず。「ああ、強くなりたい」、そんな思いを胸に、都内にある真言宗のお寺『天光寺』にて修行の体験をしてきました。温室育ちの私は果たして、修行によって何か変われるのでしょうか。天光寺は、東京の奥地である西多摩郡という立地。朝早くから電車を乗り継ぎ、バスに揺られて約2時間。バスを降りてからさらに山道を登ってようやくたどり着きました。苦手な早起きに、バス酔い、山登り、慣れない登山による靴ずれ、この時点ですでに"修行"が始まっているような……。到着し、まずは行着(ぎょうぎ)と呼ばれる服装に着替え、さらにけさ懸けを身につけます。本日ご指導いただく僧侶の相賀聖覚(あいが・しょうかく)さんの前に正座。そして、あいさつやお経の練習をたっぷり行います。たとえば、"朝のあいさつ"は「おはようございます、本日も一日よろしくお願い致します」と、普段出したこともないくらいの大声で何度も言います。同じフレーズを何十回も言うため、途中で集中が途切れて足をモゾモゾさせていたら、「集中できませんか?」と諭されました。……いや、その、集中力がないもので、すみません。このとき、「もっと大きな声で、語尾までしっかり発音して、おなかから声を出して!」と腹式呼吸や発声法も学び、まるで演劇部のよう。腹式呼吸は、長い時間お経を読んだり、瞑想(めいそう)をしたり、あらゆる修行を進める上で大事なのだとか。体験修行で学ぶお経の中で、最も大事でよく使うのは「南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)」。これは、真言宗をひらいた空海(=弘法大師)に、お力をくださいませ、と祈るような意味があるのだそう。昼食を終えたあとは、"光明真言(お経の一つ)を1,000回唱える修行"、"瞑想の作法"、"写経"を少しずつ学びました。写経では、書く前に"家内安全"、"良縁成就"などの願い事を思い浮かべ、無心になってひたすら書き写します。お坊さんいわく、「余計なことを考えるなど雑念が入ると、それがすべて字に現れます。写経することのみに集中し、字は強く、濃く書いてください」とのこと。そしていよいよ修行の真骨頂、滝に打たれる時間です。滝行(たきぎょう)の前には、"お百度参り"を必ず行います。お百度参りとは、弘法大師像と、石の間の、約20mの区間を全力で走って往復し、「南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)」と唱える……というのを30分ほど繰り返す儀式のこと。体育や部活でやる"シャトルラン"に近いです。運動部出身としては、ここで音をあげるわけにはいきません。ときおり、お坊さんたちから「もっと速く走ってください!!」とはっぱをかける声が飛んできて、ますます部活を思い出します。お百度参りははだしで全力疾走するため、すっかり張り切ってしまった私の足の裏の皮は、終わるころには無残にむけまくっていました。足裏の生傷に嘆く暇もなく、滝へ参ります。この滝にはつい最近、小島よしおさんも訪れたのだそう。滝へ向かう途中、お坊さんたちが「iPhoneを買ったんですけど、使いこなせてなくて」と、俗世間っぽい会話を楽しんでおり、ぐっと親近感が増しました。滝に入る前に、塩や酒を全身にかけて身を清め、近くの川でくんだ水を頭からかぶります。この日は、だいぶ暖かくなってきた6月半ば。とはいえ、川の水は鬼のような冷たさで、この時点ですでに軽く泣きそうです。グスッ。そしていよいよ、滝の中へ……。「南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)」と繰り返し唱えながら、ゆっくりと入水。滝の下にたどり着き、水が体に当たると……「ぶは……!?べっ!あばぶ……!!!$%#%!&$☆※÷!」(心の中の声)「無理!!寒い!!冷たい!!と言いたいのにそれすら言えないほど寒い!!!」もう、「南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)」を唱えるどころじゃありません。「な」の字すら言えないこの寒さ。全身の震えが止まらず、ゼエゼエゼエゼエ!と息をすることすらままならず。お坊さんは涼しい顔で「心を無にして、もう少し滝の奥の方まで行ってみましょう。滝からいいパワーをもらい、自分の中の悪いものを浄化させましょう」と言いますが、それどころじゃありません。結局、数秒滝に当たり、やっぱり無理、と外に出て、もう一度滝に挑み、やっぱり無理、と外に出て、と出たり入ったりを繰り返して、途中でギブアップ……。本当は、数十秒は滝に打たれ、さらにその場に座って瞑想を数分しなければならないのですが、とてもじゃないけどそんなことできる気がしませんでした。「……これ、真冬にやる人もいるんですよね?」と聞くと、お坊さんは「ええ、もちろん真冬でもやりますよ」とニッコリ。おそろしい話です。滝に打たれた経験は、今まで生きてきた中で、最大級の苦しみでした。ただ、あの苦行を思えば、今までの人生でのつらかった出来事はちっぽけなものに見えてきます。今後も、滝に打たれる以上の苦しいことは、きっとめったなことでは起こらないでしょう。そういう意味では、少し、強くなれたのかもしれません。今回、私は日帰りで体験修行をさせていただきましたが、二泊三日でみっちり修行するコースも用意されています。「うつや引きこもりで悩む人や、自分を変えたいと思っている人が修行にいらっしゃいます。来たときとは、見違えるように変化する人もいますよ」(僧侶・相賀さん)とのこと。日々、何かにくすぶっている方は、思い切って滝に打たれに行ってみてはいかがでしょうか。苦行の先に、新しい世界が見えてくる……かも。(朝井麻由美/プレスラボ)※モテたい、良い人だと思われたい、と煩悩だらけのコブス横丁に、新たな風が吹きました。(編集部:梅田)【関連リンク】【コラム】仏道に入りたいのですが、どうしたらいいですか?【Q&A】神社とお寺の違いって?【まとめ】仕事力を鍛える新着&ランキングページ
2010年07月13日説明も音楽も一切なしの“観察映画”を確立させ、各国の映画祭で喝采を浴びた想田和弘監督が、タブーとされてきた精神科にカメラを入れ、いまの日本人の精神のありようを映し出した『精神』。本作が6月13日(土)に公開初日を迎え、想田監督に加え、本作の舞台である精神科診療所「こらーる岡山」の山本昌知医師、そして参議院議員の川田龍平氏による舞台挨拶が行われた。公開前より、昨年の釜山国際映画祭やドバイ国際映画祭など各国の映画祭で4冠を達成し、そのテーマ性から国内でも高い注目を集めていた本作。初回上映前には、200人以上の観客が長蛇の列を作り、一番乗りの観客に至っては約2時間前から並ぶほど。その後も客足は途絶えず、4回全席満席の盛況スタートとなった。想田監督は「感謝申し上げたいのは、出てくださった患者さん。精神障害や精神疾患というものに対しての差別や生きにくい社会があります。今回はあえてモザイクをかけないで撮影しましたが、不安もある中で最終的に納得して、みんなに見てもらおうという気持ちにまでなってくれました」と感謝の挨拶。自身の経験が本作のテーマと向き合う原点となったことを明かし、「この映画が、議論や話し合いのきっかけになってほしい」と思いを伝えた。はるばる岡山から駆けつけた山本先生は、この盛況ぶりに感激の表情。「常として、当事者の人にはそれぞれ自分たちを理解してほしいと思っているけど、うまく伝わらなくてもどかしいと思っていました。決定するのは患者さん、私たちはそれをどう助けるかだけ。この映画はごく一部、全部と思わないでほしい。みなさん、“らしさ”を尊重して生きていってください」と現場からのメッセージを観客に贈った。自身もHIV訴訟でカミングアウトするという経験がある川田議員は、映画に登場する当事者たちに対し、「出るということは、伝えたいことがあるということ。そこを汲み取ってほしい」と共鳴のコメント。「周りの人が受け入れてくれるかどうかもあるが、まずは自分で作る自分の差別があるのではないか。一方通行のコミュニケーションは伝わらない。いま、私は参議院議員の仕事をしていますが、一方的な法もあります。もっといまの社会に関心を持ってもらい、自分のこととして見ていけばいいと思う」と力強い言葉で現状を語った。さらに、上映終了後には渋谷区の美竹公園にて、青空の下、山本先生による“公開生き方相談”が開催。なかなか相談の場が限られる中で、当事者、介護ヘルパー、精神医療医学を勉強する学生など、様々な相談者が殺到し、約1時間で16人もの相談に答えた。中には、涙を流す人の姿も。『精神』はシアター・イメージフォーラムほか全国にて順次公開中。■関連作品:精神 2009年6月13日よりシアター・イメージフォーラムほか全国にて順次公開© 2008 Laboratory X, Inc.■関連記事:新たなタブーに挑んだ想田和弘監督のトークショー付き『精神』試写会に10組20名様ご招待タブーに切り込む!“精神”から日本社会を照らす想田和弘監督最新作がベルリン出品
2009年06月16日