聖心女子大学卒。平成7年、「娘のいいぶん~がんこ親父にうまく育てられる法」で日本文芸大賞女流文学新人賞受賞。平成7年より「細川珠生のモーニングトーク」(ラジオ日本、毎土7時5分)に出演中。千葉工業大学理事。星槎大学非常勤講師(現代政治論)。文部科学省、警察庁、国交省等で有識者会議等委員を務める。元品川区教育委員長。
政治ジャーナリストの細川珠生氏がおくる、「細川珠生のここなら分かる政治のコト」。ママになって子どもの将来を願うと政治のことをちゃんと知っておきたいけど、子育てに仕事に忙しい…。そんなママに向けて、気になる政治のことをわかりやすくお届けまします。
子どもができると自然と気になりだす政治のこと。子どもを育てる環境がどんなふうに変化しているのか、政治を通して知っていくことはとても大切です。自身も小学生の子どもを持つ政治ジャーナリスト細川珠生が政治ビギナーのママに向けて優しく教えてくれます。
女性の姓(氏)の問題、いわゆる「選択的夫婦別姓(氏)制度」については、国会で議論されることも難しく、もう30年も続いているテーマです。石破総理は、「別姓に前向き!」と期待した人も多かった中、ちょっと後退気味になったかのような印象も…。武蔵野市長も務めた立憲民主党・松下玲子衆議院議員に、「選択的夫婦別姓」議論をどう進めていくか、お聞きしました。 お話を聞いたのは… 立憲民主党 松下玲子議員 1970 年生まれ、実践女子大学文学部卒業後、サッポロビール入社。2004 年 早稲田大学大学院経済学研究科修了、松下政経塾での研修を経て、2005 年・2009 年 武蔵野市選挙区で都議会議員選挙に当選。2017 年 市民の要請により武蔵野市長選に立候補して当選、2021 年に再選、2023 年11 月末退任。現在、立憲民主党東京都第18区総支部長。 >>松下玲子公式HP ―立憲民主党としては、今、どのような「選択的夫婦別姓制度」をご検討されていますか。 松下議員 :今、一つの制度の土台となるのは、法務省がこれまで2度、民法の改正案として準備していたものがあると思います。こちらは、子の氏を、婚姻時に決めるというものです。立憲民主党は、旧民主党時代から、子の氏は、出生時に決めるという制度として、法案を何度か出しています。ただ、30年も、この問題、進んでこなかったので、とにかく「別姓制度」を通したい。そのために、これまでの法案ではなく、多くの党と協議して、できるだけ多くの議員が賛同する制度として、法案を作りたいと思っています。 ―子どもの氏の選択は、選択的夫婦別姓論議で、大きなポイントになります。 松下議員 :婚姻時に決めるということにはどうかなと思うのは、結婚は出産が前提ではないし、子どもはやはり授かりものですから、子どもがほしくても授かれない人も多いですよね。個人的な、そして非常にナーバスなことについて決めることには、やはり抵抗がありますね。それに、これからはシニア婚も増えてきますから、そういう人たちにも、子どもの氏を決めておくのかといえば、まあ、必要はないですよね。 ―他には、子どもは全員同じ氏か、後から変えることができるか、変えるとすればどういう方法かなどがありますね。 松下議員 :法制審の案は、子どもは全員同じ氏で、未成年であれば家庭裁判所の許可が必要としています。子どもの氏を出生時に決めるとすると、そんな短期間で決められるのかとよく言われますが、決められますよ。下の名前だって決めているんですから。 ―そうですね。下の名前も、実際には事前に考えている人も多いと思いますが、氏だってその意味では同じですね。 松下議員 :そうです。祖父母まで口出してきて色々揉めても、ちゃんと折り合いをつけられるのですから、それと同じだと思います。ただ、とにかく、この制度、成立させたいので、子どもの氏についても、できるだけ多くの人が賛同できる案を作って、柔軟にしていこうと思っています。 ―この議論、長いですよね。ちょうど私がこの仕事(ジャーナリスト)を始めた頃からありました。それでも、夫婦別氏制度が必要だと思われる理由は何ですか。 松下議員 :氏(姓)と名前があって、初めて個人として識別能力が高まるんです。「松下」といっても、いっぱいいますよね。「玲子」といったって同じです。「松下玲子」でもちろん同姓同名もいるかもしれないけれど、格段に識別能力が高まります。議事録なども、名前が変わったら、一貫性というものも担保できなくなる。事業継承とか、家の名前を残したいとか、本当に困っている人が、現実にいるんです。別氏制度がないと、事実婚のままの人も増えてきました。そういう方たちは、配偶者が病気になったり、亡くなられたりしても、何の保障もないんですね。困っている方の困りごとは、ちゃんと解決したい。政治の責任と思っています。 ―石破総理は、自民党総裁選で別氏制度には前向きに捉えていらっしゃいました。しかし、総理になったら、少し後退しているかなと思う発言も見られます。まずは議論を、といったことですが、国会での議論、ぜひして欲しいと思っています。子どものアンケート調査結果などもありますが、制度について正しく理解するには、まだ国民の理解ももう少し深めないといけないとも思います。 松下議員 :経団連が提言したのは大きかったと思います。今まで、どちらかというと反対だったのが、経団連に加盟する企業の女性たちが、特に海外で困っているという実例があったからだと思います。それに加え、男性の中にも、実は改姓や通称使用で苦労している人も増えているんですよね。当事者が増えるというのは、とても大事だと思います。 ―そうはいっても石破総理は、今までの政権より前向きに見えますから、ぜひ進めて欲しいですね。 松下議員 :この機を逃したら、また30年、できないと思うのです。ですから、できるだけ多くの人が賛同できる案として、立憲民主党も柔軟に対応していきたいと思っています。 取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生 政治ジャーナリスト 細川珠生 聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
2025年04月04日女性活躍のフロンティアでもある小池百合子都知事のインタビュー4回目。小池都知事が構想する、女性と東京の未来とは? お話を聞いたのは… 小池百合子 東京都知事 1952年兵庫県生まれ。92年参議院議員初当選、93年衆議院議員初当選。以降、環境大臣、内閣総理大臣補佐官(国家安全保障問題担当)、防衛大臣、自民党総務会長など歴任後、2016年東京都知事当選(現在、3期目) >>都庁総合HP「知事の部屋」 ―男女雇用機会均等法が成立して、今年で40年。1期生も還暦を超え、女性が働き続けることが当たり前の時代になりました。一方、さまざまな慣習が、女性たちを苦しめている実情がなかなか改善されません。その一つが、私は女性の「姓」の問題、いわゆる「夫婦別姓」の議論が遅々として進まない点にあると思っています。この議論は、小池都知事が国会議員になられたころに始まったと思いますが、石破政権でいよいよ動くのかなと期待しているところです。小池都知事はこの点、どうお考えになりますか。 小池百合子都知事 :現実の動きとして、数年前から、パスポートに旧姓を併記できるようになったと聞きました。 ――私もパスポートに括弧書きで旧姓を入れていますが、「Hosokawaがミドルネームか」と聞かれることが多いです。「違います」というと、「では何か」と。 小池百合子都知事 :そうなのですね。ほかにも、研究論文などさまざまな業績が結婚して名前変わることで引き継がれないといったことも聞きます。結婚・離婚の際にも、金融機関でどんなに苦労したかという話を、色々な方がなさっているので、そこはやはり工夫すべきだろうと思っています。 ―そもそも、法的に担保されていない、いわゆる「通称」で印鑑を押すとか、意味があるのかなと思うことも多いです。 小池百合子都知事 :名前がいくつもあるというのも、整理すべきときなのだろうと思いますね。 ―最高裁は、夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定を「合憲」とする判決(決定)を、2度も出しています。一方、15人の最高裁判事のうち、5人は、憲法24条2項(個人の尊厳と両性の本質的平等)に反することなどを理由に、違憲であるという意見を出しています。 小池百合子都知事 :夫婦の姓に関する制度について、最高裁は「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄」としています。結局、国会としての不作為が問われているということだと思います。議論は色々とあると思いますが、議論を深めて、そして結論を出していく時期なのではないかと思います。 ―わかりました。ところで東京都は最近、「100年後の東京の予測」を「2050東京戦略新聞」として出したそうですね。 小池百合子都知事 :はい(笑)。元々、報知新聞が、明治34年、1901年ですけれども、20世紀のスタートの1月2日と3日に、「20世紀の豫言」という記事を出しているんですね。馬車に代わって車が普及するとか、遠くの人と話ができるようになるとか。これらが何もない時に予測していて、今は、その通りになっていますね。それを参考に、今度は生成A Iを使って、「22世紀の予言」として100年後の東京を予測してみました。従来の発想の延長線上ではなく、これまでにない発想で果敢に挑戦し続けることが重要だと考えたのです。 ―「地球外へお引っ越し」や「ゴミが消えるゴミ箱」、「住所は竜宮城」など、とても面白いですね。 小池百合子都知事 :「健康で120歳まで死ねない」とかもね(笑)。人生設計を改めて考えなければなりません。 東京都が出した「2050東京戦略新聞」。 2050東京戦略 ポケット版 ―女性の100年後はどうでしょうか。 小池百合子都知事 :100歳でも子どもを産めるようになるかはわかりませんが、やはりダイバーシティは大事で、それぞれの持っているものを生かして活躍するような社会になってほしいと思いますね。私は、「男女平等」というのはあまり好きではなくて、男女ともに自己実現ができる社会にしていきたいと考えています。100年後と言わず、今すぐにでもなってほしいくらいです。 今回策定した東京都の新たな戦略「2050東京戦略」には、都民の皆様からいただいた「もっと東京をこうしたい!」という想いを詰め込んでいます。同時に、人口減少や人材育成など大きな課題に向き合い、今後私たちが進むべき道のりも示しています。要点をまとめたポケット版もありますので、たくさんの方にご覧いただきたいと思います。 最後に、「わ」と書かれた色紙の傍らに、新たに東京のランドマークとして外国人に大人気の渋谷スクランブル交差点を模したハンコが。女性も男性も、誰もが自己実現ができることにより、活躍する。私も100年後を待たず、そんな社会を心から願うが、小池都知事には、その道筋をつける役割を大いに期待したい。 取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生 政治ジャーナリスト 細川珠生 聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
2025年03月28日当事者として、そして首長として、子育てと子育て支援の施策に取り組む文京区・成澤廣修区長。2回にわたって「子ども起点」で考える区長の施策についてお聞きしましたが、第3回は、文京区の教育施策について。教育機関が集まる文京区で、どのような教育を進められているのでしょうか。 お話を聞いたのは… 文京区 成澤廣修区長 文京区本郷出身。暁星学園幼小中高、駒澤大学法学部卒業、明治大学公共政策大学院修了、修士(公共政策学)。当時全国最年少の25歳で文京区議会議員に初当選、第37代・第40代文京区議会議長、2007年、文京区長に就任。 >>文京区 区長の部屋HP ―文京区といえば、「教育」。国立の教育機関もあり、人気や期待も高いのではないでしょうか。 成澤区長 :文京区で教育を受けさせたいという人がすごく多いんです。テレビ等で取り上げられたことで、文京区の特定の小学校に行くと中学受験に成功するというような「神話」が勝手に作られたんですね。全く根拠はないんですけどね。その近隣のマンション価格が上がるなどの現象も起きています。それはそれとしても、教育を考えるときには、世界で活躍できる人材をどう育てていくのか、ということが求められていると思っています。その一つが探究学習と思いますが、他区でもなかなか苦戦していますね。 ―文京区では違う方策ですか。 成澤区長 :文京区では2024年度に国際バカロレア機構(IBO =International Baccalaureate Organization)と協定を結んで、今後、IBメソッドを教員研修に取り入れていきます。探究型の思考方法が、世界で羽ばたく青少年たちを育成するために大切だということ、また、インターナショナルスクールも含め世界の高校ではIBスコアをもとに、世界の優秀な大学に行く人たちが増えていることも周知の事実ですね。でも、文京区ではIB認定校を作るのではなく、公立学校の先生たちのマインドセットを変えていくため、まずは教員研修に取り入れることにしました。 ―それは小学校と中学校の先生が対象ですか。 成澤区長 :そうです。探究学習というのは、学習指導要領にもある「対話的な深い学び」につながるものですね。それをまず教員のマインドセットからしていこうと。 ―都内でも都心の区では、中学生となるとそもそも私立や国立の学校に行く子どもが多いですね。文京区もその傾向があると思いますが、その点についてはどうお考えですか。 成澤区長 :文京区は、区立小学校から国立私立などの中学校に進学する子が52%で、区立は48%。区立の中学校に行く子どもが少ないという点においては、23区でトップです。以前は、この傾向を止めるためにどうするのかということが問われましたけれども、そこは本人も含め保護者の選択でもあって、国立私立に行くことが「悪」ではないと思うんです。東京都では、高校への授業料の補助なども始まっていますが、公教育としては、経済的な理由で私立などに行かれなくても、例えば、IBのようなことも取り入れるなど、しっかりとした教育が担保されるように、引き続き考えていきたいと思っています。 ―今の子どもたちは、将来に向けて、いろいろな能力を身につけることが求められています。例えば、「対話的深い学び」に必要な思考力・判断力・表現力、それから批判的思考や主体性など学習指導要領に明記されていますし、従来から言われている英語力なども引き続き求められていると思います。これらに加え、将来世代を担う小学生が、低学年から身につけていくこととしては、どのようにお考えですか。 成澤区長 :よく「ディベート力」が必要だと言われますが、本当かな、と思うんですよね。 ―なるほど。それはなぜですか。 成澤区長 :ディベートって、相手を打ち負かす話法ですよね。例えば、営業マンが、自社の製品を売ろうとして、打ち負かしちゃったら、売れないと思うんですよね。今、特に高校や大学でディベートの授業をやっていますが、私はそれより、合意形成能力とプレゼンテーション能力が必要だと思っているんです。 ―それには私も同意します。 成澤区長 :自分の思ってることを正確に伝えられる力と、それによって合意形成力を高めていくということですね。相手を批判するよりも、自分の「好き」をちゃんと人に伝えられる力がある方が、将来、どこに行っても通用できると思うんです。そのためにプレゼンテーション能力の授業を課外活動でやったりしています。そういう流れの中でIBO との連携も出てきました。具体的なカリキュラムは教育委員会で考えることですが、大きな枠組みという意味で、IBOとの協定を結ぶことにしました。 ―新しい教育などは、なかなか学校単体や、ましてや教師一人ができることではないので、区長が「合意形成能力を育てる」というようなことを掲げることはとても大きいと思います。それによって、区の方針になりますから。 成澤区長 :先日、徳川宗家第19代当主の徳川家広さんにお会いしたときに、一番美しい日本語は「平和」だとおっしゃるんです。「平」はNo War、つまり戦争がない状態。ポイントは「和」である、と。英語のpeaceは、No Warなので、どちらかというと「平」。ですから、「和」こそが日本的であるということなんですね。それは「合意形成」につながることだと思いました。私も学生の頃は大学対抗のディベート大会なども出たりしていましたけれど、社会人になって一度も、使ってないですから(笑)。 ―成澤区長には、「お人柄」によって、ディベート力は必要ないですね(笑)。教育へのリーダーシップも期待しています。 成澤区長 :ありがとうございます。「子ども起点」の教育をしっかり考えていきます。 取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生 政治ジャーナリスト 細川珠生 聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
2025年03月26日全国の首長で初めて育休を取った文京区の成澤区長。当時、ゼロだった文京区役所の男性職員の取得率も、今や77.8%%にまでに上昇。しかし、成澤区長は長時間労働の是正こそが、最大の子育て支援といいます。そんな成澤区長の考える、文京区の子育て支援策とは? お話を聞いたのは… 文京区 成澤廣修区長 文京区本郷出身。暁星学園幼小中高、駒澤大学法学部卒業、明治大学公共政策大学院修了、修士(公共政策学)。当時全国最年少の25歳で文京区議会議員に初当選、第37代・第40代文京区議会議長、2007年、文京区長に就任。 >>文京区 区長の部屋HP ―文京区の子育て支援策の基本的な考え方はどのようなものですか。 成澤区長 :「子ども起点」であるということですね。長時間労働と長時間保育のバランスをどう取るのか、という問題があります。文京区の共働き世帯の場合、子どもが小学生ですと、公的な学童、さらに民間の学童が迎えに来て、そこでお弁当を食べて、夜9時とか10時に帰って、また朝は学校があるので8時くらいには家を出てしまうというケースがあるんですね。そういう働き方しかできないのはどうなのだろうか、と思っているんです。子どもを大切にする子育てのために、親がどう働き方を変えるのかを考える。こういう考えが、社会で共有されないといけないと思っています。もちろん国や都の補助制度を使って他に選択肢がないギリギリの子育てをしている人への支援は検討しますが、これ以上の長時間保育がベストとは思わない。 ―手厚い学童の提供は、起きている時間のほとんどを家で過ごせないことになってしまいます。それは子どもにとってはとても大変なことだと、私も思ってきました。 成澤区長 :週休二日制にするときもでしたが、さまざまな働き方の改革は公務員の世界から始まっているので、そういう意味でも、文京区役所が率先してやっていくという姿勢でいます。いくつかの自治体でも行うようですが、この4月から職員を対象に、現在、子どもが小学校3年生まで認めている育児時短勤務を、6年生までと拡大します。フルスペックで働くより、給料は少し下がるかもしれないけれど、パパとママで交代で取るなどして、少しでも子どもと向き合う時間を作っていくことは、この拡大でできるようになると思っています。 ―長時間労働の是正につながりますよね。 成澤区長 :そうですね。あと勤務間インターバル制度ですが、時差勤務制度の活用や年次有給休暇の取得などにより、終業後翌日の始業までに12時間のインターバルを取ることを原則とすることが、今年の2月から義務化されています。 ―時短勤務は少子化対策のためというのもあると思いますが、私は子育て世帯の男性の時短勤務を進めないと、結局女性の家事負担が減らなくて、女性のキャリアパスにも影響が出てきてしまうと思っているんです。男女共同参画っていっても、公平ではない。ただその時に、2つ問題があるという話になります。一つは、男女共ですが、短い時間の勤務ではキャリアとして経験が積めない、例えば、責任ある仕事を任せられないということですね。もう一つは、早く帰ることに対しての周囲への遠慮。この2つがあって、時短勤務はなかなか取りづらいといわれています。 成澤区長 :時短勤務といっても、午前中丸々休んだりするわけではないので、キャリアロスにつながるということは、私はないと思っています。勤務時間インターバルも義務化するということは、それが一般的になるので、問題ないと思っています。ただ、役所の仕事はどうしても繁忙期があるので、そういうときはテレワークに振り替えるということもできます。それが決してキャリアロスにならないというメッセージを、雇用する側がしっかり出していくことが大切だとも思っています。 ―文京区民の方は、職住接近の方が多いのではないかと思いますが、子育て支援策に何か影響はありますか。 成澤区長 :制度としてあまり影響ないと思いますが、長時間保育へセーブをかける理由にはなると思います。子どもが熱を出したなど、何かあっても、職場から1時間もあれば戻れる距離ということだと思いますので。 ―子育て支援策の検討は、どのような体制でなさっているのですか。 成澤区長 :区の条例で定める「子ども・子育て会議」で、毎年ニーズ量の策定結果を示して、ニーズ量にどうやって事業を当てはめていくかという作業を、毎年更新しています。ただ、子育て支援のメニューというのは、もう出尽くした感があるんです。 ―もうかなりやっている、と? 成澤区長 :というよりは、「子ども支援」と「子育て支援」は違うんですね。子育て支援というのは、えてして親支援なんですね。保育園を作ることも、親の両立支援です。心理的負担感の軽減という意味では相談機能の強化としての、「地域の子育て支援拠点」づくりとか。あとは金銭的負担の軽減、最近でいうと給食費の無償化とか。 ―給食費や修学旅行の無償化は、ある意味、トレンドですよね。 成澤区長 :どれも財政との関係もあるので、この先の少子化の状況次第では税収も減るので、今より支援ができなくなることもあるかもしれませんが、今は、その支援も必要だということでやっています。その中で、子どもそのものに対する支援って、何があるんだろうというと、実はあまりないのです。今後「子ども支援」をどう作っていくのかということは考えています。 ―それこそが、先ほど区長がいわれたような、「親子が一緒にいる時間」ではないかと思います。子どもは学校や学童も、もちろん楽しんでいるとは思いますが、子どもなりに「外の顔」で過ごしていると思うんですよね。家でリラックスできる時間を作ってあげるという意味でも、親が早くに家に帰るということは大事だと思います。 成澤区長 :そうですね。支援は、負担とのバランスでもあるので、「子ども起点」の視点を大事にして、これからも施策を考えていきたいと思います。 取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生 政治ジャーナリスト 細川珠生 聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
2025年03月20日2010年に全国の首長で初めて育休を取られた文京区の成澤廣修区長。その後、各地で首長や議員が男女問わず産休や育休をとるようになり、大きく社会が進展するきっかけとなりました。しかし世の中全体を見渡すと、男性の育休取得率は約3割(30.1%。厚労省令和5年度雇用均等等基本調査)にとどまっています。男性の育休取得のパイオニアでもある成澤区長、男性の育児参加について、どう思っているのでしょうか。 お話を聞いたのは… 文京区 成澤廣修区長 文京区本郷出身。暁星学園幼小中高、駒澤大学法学部卒業、明治大学公共政策大学院修了、修士(公共政策学)。当時全国最年少の25歳で文京区議会議員に初当選、第37代・第40代文京区議会議長、2007年、文京区長に就任。 >>文京区 区長の部屋HP ―首長さんとして初めて育休を取られてから15年。この15年の変化をどうご覧になりますか。 成澤区長 :父親の育児参加はこの15年で加速度的に進んだと思います。僕は制度としての育休ではないので(※特別職なので、特別休暇として。筆者注)、「なんちゃって育休」と言っていますが(笑)、当時は区役所でも男性職員の取得者は1人もいませんでした。それが、令和5年度は、77.8%。出産時に取得する「出産協力休暇」は有給ですが、これはほぼ100%なので、男性の育児参加は当たり前になっているといえますね。 ―77%というのは、男性の取得率としては高い方ですね。 成澤区長 :そうですね。ただ、女性は、取得期間が平均1年なのに対して、男性は、1日でも10日でも1年でも、カウントとしては「1」で変わりないので、取得率にこだわるのはあまり意味がないと思っています。とはいえ、男性の育児参加を社会が必要とし、それに社会がきちんと対応しているということは大きな変化かなと思っています。 ―育休の取得は、日数もですが、タイミングも重要ですよね。 成澤区長 :出産協力休暇に加え、「パパ・ママ育休プラス」で取りたい時に取れるようになっているので、ママが復職するタイミングや保育園に通い始めるタイミングで、短期で取るケースもありますね。ママが早めに復職するためにパパが長期で取るケースなど、それぞれのご家庭でカスタマイズしているように思います。 ―成澤区長が期待する男性の育休のあり方はありますか。 成澤区長 :僕は、育休より、長時間労働の是正が重要だと思っているんです。親のニーズに応えると、1時間でも長く預かって下さいということになるのですが、それは子どもの成長からすると、必ずしも望ましい形ではない。お父さんにせよお母さんにせよ、1時間でも早く会社から家に帰るという社会にしないとダメだと思うんですよね。育児時間と2人目出産へ向かう場合に相関関係があることは、厚労省のデータでも示されているのに、社会全体が、長時間労働是正に本気で取り組む方向にいっていないということは大きな疑問です。 ―子育て支援が子育て放棄支援になる、と私も都内の自治体で教育委員をしていたときに、議員さんからよく指摘されていました。 成澤区長 :長時間保育の方に議論が行きがちになるのは、卵とニワトリかもしれませんが、僕は、長時間保育の方に進めば進むほど、長時間労働は解決されないと思っています。公的なコストとしても、早く家に帰り、長時間保育にならない社会の方が、安くなるんです。 ―男性の育休取得が進まない理由に、「男が取るのか」とか、男性自身も自分の仕事とのタイミングなどで、「今、取れない」というような意識があります。仕事とのタイミングでいえば、本来、女性も同じ。そういった「意識」や「組織文化」のようなところで、成澤区長が育休を取られたことによって、区役所が変わったということはありますか。 成澤区長 :僕の取得後に、「男性職員の育児休業等取得促進実施要綱」というのを作りました。ポイントは、所属長である課長、あるいは部長が、部下に子どもが生まれるという話を聞いたら、その部下には育休を取る権利があるということを伝えるというところですね。取る方は「なかなか言い出せない」という悩みを聞いていたので、上司が勧めるという制度設計にしました。希望者は取りやすくなっていると思います。 ―他にも、ご自身で経験されたことによって得られた育児の知見というのはありますか。 成澤区長 :これまでもよく言ってきたのですが、自分が育休を取るときに、せっかく家にいるからと思って、本や役所の資料をたくさん持ち帰ったのですが、結局、育休の2週間の間に、一枚も読めませんでした(笑)。育児は四六時中、やることがあるというのは、体験によってわかりましたね。 ―お子さんや奥様に対して、経験されていなければわからなかったことだろうということで、よかったなと思うことはありますか。 成澤区長 :生後2カ月の子どもの成長を間近で見て、子どもとの接し方がマインドセットできたかなと思います。妻に対しては、自分ごととして考えることができるということが、一番違うのではないかなと思いますね。誰か(妻)から聞いて学んだことというのではなくて、当事者として参加できたということは重要だったと思います。 ―成澤区長は、当事者として子育て支援策を考えるお立場にありますが、当事者ではない首長さんや経営者の方が多いと思うんです。その場合はどうしたら良いと思われますか。 成澤区長 :男性が産婦人科医になってはいけないかといえば、そうではないですよね。事例を学び、経験を積むことで、立派な男性の産婦人科医になられている方はたくさんいます。それと同じだと思っていて、首長1人が政策を作るのではないので、当事者の意見に耳を傾け、先輩、後輩の話にも耳を傾け、その中にあるさまざまな気づきを積み上げていくことが大事だろうと思います。ただ、先ほどの長時間労働と長時間保育の話になると、対立を生んでしまうこともあるので、そうならないよう、両者の意見にちゃんと向き合うということは、政策を作る者として大事なことだと思っています。 ―育休取得も、決して強制はしない、とおっしゃっていましたね。 成澤区長 :取得した当時は、よくそう言っていました。子育てと、例えば住宅ローンを抱える時期が同時だとすると、育休によって給料が減るというのは当事者にとって大変だと思ったからです。今は、取りたいときに取れるなど、各家庭でカスタマイズすることができる環境を作ることと、そういう社会の風土造りが大事だと思っています。 取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生 政治ジャーナリスト 細川珠生 聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
2025年03月12日3月8日は、「国際女性デー」。女性のエンパワーメントをテーマに、世界中でイベントがたくさん開催されています。 その中で、1995年に世界189カ国が採択した、「北京宣言」と、貧困、教育、健康、暴力など、女性の地位向上とエンパワーメントを達成するために優先的に取り組むべき12の重大問題領域が「行動綱領」として採択され、今年でちょうど30年。この宣言と行動綱領が採択された「第4回世界女性会議」に当時、衆議院議員として出席していた小池百合子東京都知事に、日本における女性のエンパワーメントの30年、そしてこれからについて、お話をお聞きしました。 お話を聞いたのは… 小池百合子 東京都知事 1952年兵庫県生まれ。92年参議院議員初当選、93年衆議院議員初当選。以降、環境大臣、内閣総理大臣補佐官(国家安全保障問題担当)、防衛大臣、自民党総務会長など歴任後、2016年東京都知事当選(現在、3期目) >>都庁総合HP「知事の部屋」 ―1995年の「北京宣言」から30年となりましたが、当時、会議に出席されていた小池都知事として、日本、そして世界の変化をどうご覧になっていますか。 小池百合子都知事 :はい、この会議に出席していました。日本の政府代表が、当時の官房長官で、代表が男性でいいのか、と議論になったのをよく覚えています。この会議の成果としては、日本が世界の流れに取り残されないように、日本もやっとお尻に火がついた、やっと一歩前に進める、そんな節目の会議になったように思います。 ―今の世界の女性リーダーのラインナップを見ていると、この30年の間に、きちんとキャリアパスを作ってきたんだなと思うんです。リーダーとして登用されるための経験を当たり前のようにできている。その点、日本はどうなんだろうと思います。 小池百合子都知事 :意思決定の場に女性が存在すること、そしてそれが当たり前になれば、女性が社会の中で活躍する舞台も格段に広がっていきます。日本の場合は残念ながら、ジェンダーギャップ指数も146カ国中118位。「去年(125位)よりいく分上がって、下がらなくてよかったね」といった反応はどうかと思いますね。日本は国会をはじめ、多くの会議で、景色は真っ黒な背広ばっかり。この光景は、世界から見たら、非常に特殊に見えますね。 国内にいると、こうした光景が当たり前になっています。1人女性がそこに加わっただけでニュースになり、しかも、ああよかったねというゆるい反応で終わってしまう。こういう状況が、残念ながら長年繰り返されています。 ―ジェンダーギャップ指数を押し下げている要因の一つが経済と政治分野です。経済ですと企業での管理職、役員の登用率が低いということですが、政治も女性の政治家が残念ながら少ないですね。昨年の衆議院選で少し増えて15.7%、参議院の方は25.4%となりましたが、政治分野のジェンダーギャップ指数を改善しない限り、この順位が上がらないのですが、どういうことが必要だと思われますか。 小池百合子都知事 :女性自身もリーダーシップはもちろん、同時にフォロワーシップの両方を学んでいく必要があると思います。昔から、意思決定の立場である女性閣僚をもっと抜本的に増やすべきと考えているのですが、なかなか相応しい人はいないと思われているみたいなんですよね。 ―いないですか? 小池百合子都知事 :チャンスが与えられれば、しっかり活躍する方はたくさんいます。でも、間違いを起こしてはいけないからと、女性を選ぶことがリスクになると考える人がいるみたいで。 ―リスクですか? 小池百合子都知事 :むしろ女性が登用されない方がリスクだと思いますね。 ―その通りです。その中で、小池都知事は、「女性初」と言う冠がつくようなご経験を多数されてこられましたけれども、そのことについてはご自身ではどう思われていましたか。 小池百合子都知事 :私は、自分が選ぶというより、周りの方に認めていただいて選ばれるケースが多いですね。閣僚にしてもトップが選ぶわけで。選ばれた時はとてもありがたかったですし、いただいたチャンスですから、思い切ってやりたいことをやろうと。環境大臣の時に始めたクールビズも、キャッチコピーまで自分で考えたんですよ。当時の新聞の全面広告で「夏、男性がネクタイをはずせば、女性のひざ掛けがいらないオフィスになります。」と呼びかけました。 ―クールビズは、夏場、男性が軽装になることによって、女子はエアコンで過度に体を冷やすことがなくなるという効果は、やはり女性大臣だからこそ気づくことなのかなと思っていました。 小池百合子都知事 :省エネのため、ももちろんありますが、私、もともとエアコンが苦手でして。今でも、エアコンの向きを考えて座る席を選んだりするくらいです。でも、これは環境大臣だからこそだと思います。繊維産業を管轄している経産省では、ネクタイ業界などから反対されてしまい、前に進むのが難しかったと思います。 ―省エネにも、女性にも、そして軽装になって楽なのは、男性もですよね。「よかった」と思う人は、意外に多かったと言うことでもありますよね。 小池百合子都知事 :やはり「共感」ですね。大義ある政策を進めるには、受け手となる方の「共感」を得ることが大切です。ネクタイ業界にはだいぶ怒られましたが(笑) ―こうして女性が活躍して色々な視点から政策が考えられることは、すごくいいなと思うのですが、そもそも女性活躍の目標は、私は「自立」ということだと思うんです。経済的自立が精神的自立にもつながる。その観点から、都庁で取り組まれていることはありますか。 小池百合子都知事 :都庁の職員も、男女で昇進のチャンスは同じ。いま女性管理職の比率は約2割ですが、これを2035年までに30%に引き上げる目標を掲げています。まずは、女性職員にできるだけ管理職試験を受けてほしいと思っています。家庭と仕事の両立に悩む職員も少なくありません。こうした職員が気軽に利用できるキャリア・メンター制度もつくりました。 また、東京都では、「Women in Action」の頭文字をとり「女性活躍の輪(WA)」を掲げていて、企業の経営層と女性経営者、女性首長など、多様な主体を一つにつなげる取組を行っています。その一つに、政治分野の女性参画を進めるための「女性首長によるびじょんネットワーク」があり、全国の女性首長に参画いただいています。風向きは確実に変わっていて、知事就任時、東京23区の女性区長はお一人だけでしたが、現在は7名にまで増えました。 今日は記念に色紙に文字を書いてきました。「わ」は、リングの「輪」と和をもって尊しとなす、を意味する「和」の2つをイメージしています。 落款印は東京の象徴とも言える渋谷スクランブル交差点をモチーフに ―小池都知事はもともと、女性の自立ということを目指して人生の選択をされてきたのですか? 小池百合子都知事 :私の場合は母が、結婚しても、いつ何が起こるかわからないから、自分で生きていけるようにしないといけない、と言われてきました。そのためには自分が好きなことをしなさい、好きなことじゃないと長続きしないから、と。好きなことで自立して、自分の人生を歩んできた、ということです。 ―キャスターから国会議員になられて、その先に、都知事というお立場があって、これは想定されてきたことなのですか。 小池百合子都知事 :全然想定してなかったですね…。 ―どのあたりまでを目標とされてこられたのですか? 小池百合子都知事 :目標という意味では、海外、世界でしょうか。視野を広く持つことを常に意識してきました。 ―では具体的なキャリアは、何かご縁、みたいなものですか。 小池百合子都知事 :全部、ご縁ですね。節目、節目で声をかけていただいて。 ―その時に、やってみよう、と思われるのは、どうしてなんですか。 小池百合子都知事 :面白そうだから(笑)。それに、人のご縁を大事にしてきた結果かなとも思います。 ―なるほど。日本の女性は管理職にどう?と言われても、「いえ、私なんて」と奥ゆかしく遠慮する方が多いのですが、ここは、せっかく声をかけていただいたということに感謝しつつ、頑張ってみる、という意識も必要ですね。 小池百合子都知事 :私の場合、最初に声をかけていただいた時はテレビ番組のアシスタントとしてでした。生放送の番組で私が自分の考えを言うと、視聴者から「生意気だ」と苦情の電話がくるんです。実際に、自分でも抗議の電話を受けました。 ―ご自身で? 小池百合子都知事 :そうです。当時、女性は、大体「は行」で返せばいいと言われました。「はい」って聞いて、「ひ」はないですが、「ふうん」「へえ」「ほう」。それでいいって(笑)。「は」行ですませる。今じゃ考えられませんよね。 ―そんな経験を経て、メインのキャスターになられたときは、思いっきりご自分の色を出せる、って思われたのですね。女性の場合は、子育てを経て、新たなことにチャンレジして復職を目指すと言う人も多いのですが、それに限らず、女性だからこその自立へ向けた支援策は何かご検討されていますか。 小池百合子都知事 :再就職支援やリスキリング、最近では「年収の壁」問題への対応など、都の支援メニューを年々充実させています。根底にあるのは、女性のキャリア形成と、妊娠・出産といったライフイベントとの両立を支えたいという思いです。2年前に卵子凍結に向けた支援を始めました。説明会への申込者は累計1万5千人を超えるなど、大きな反響をいただいています。産みたい時期と産める時期にはギャップがあり、出産を遅らせている間に加齢をしてしまう現実があります。色々課題はあるのですが、ニーズにしっかりと応えていきたいと思っています。来年度の予算規模は今年度の倍の4,000件を予定しています。 ―選択肢を増やすということですね。 小池百合子都知事 :自分のキャリアメイクと、出会い、そして妊娠・出産といったライフイベントの間で、何を優先するか、何とか両立できないか、悩まれる方が大勢います。そのために卵子凍結は一つの手段だと思います。加えて、プレコンセプションケアは、若いうちから、将来の妊娠・出産に関する正しい知識を身につける点で大事です。それぞれの年代に合わせた支援策や普及啓発を行うことで、皆さんの自己実現を支えていきます。 取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生 政治ジャーナリスト 細川珠生 聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。 <東京都の女性活躍推進の取り組み> ▼女子中高生向け女子大学生との座談会 日時:3月16日(日)13:00~16:30 開催場所:東京ウィメンズプラザ(東京都渋谷区神宮前5-53-67) 参照URL: ▼女性活躍推進状況を確認・課題を分析できる「女性活躍推進度診断ツール」 参照URL: ▼ライフイベントや働き方の変更による生涯収支への影響を簡単に試算できるシミュレーター「イフキャリ」 参照URL:
2025年03月07日女性活躍と子育て支援について、国としてどんな政策を考え、実行しているのかを、2回にわたってお聞きしてきた内閣府副大臣の辻清人衆議院議員。4歳から17歳まで海外(カナダ、フランス)で生活し、日本で大学を卒業した後も、大学院とシンクタンク勤務で米国に滞在。人生のほとんどを海外で生活した、正真正銘の"グローバル人材"である辻副大臣の目に映る日本という国、そして日本の若者とは? お話を聞いたのは… 辻清人 内閣府・こども家庭庁 副大臣 1979年9月7日東京都出身、45歳。4歳から17歳までをカナダで、25歳から32歳までをアメリカで過ごす。京都大学経済学部卒業、米コロンビア大学公共政策大学院修了。米戦略国際問題研究所(CSIS)研究員。TOKYO自民党政経塾7期生。 ※辻の表記は一点しんにょう。 >>辻清人公式HP ―海外生活の長い辻さんには、日本というのはどんな国に映っていますか。 辻副大臣 :日本に来て感じたのは、特に政治や経済の分野ということになるかもしれませんが、社会問題に相対するときに、個人的な問題を、そのまま公的な問題に膨らます人が多いということですね。 ―どちらかというと、海外の方が、個人の問題から発展して社会の制度が変わるという印象を持ちます。 辻副大臣 :私の場合、海外と言っても西洋になるので、その観点からすると、個人の考えから結社してムーブメントを起こすというのは、確かにあります。しかし、社会のシステムや法律を作るときには、感情論と制度論はうまく切り分けられていると思います。「私が苦しんでいるから、周りもみんな苦しんでいるはず」という前提は、やはり西洋の場合はないかなと思います。 ―対して、日本は? 辻副大臣 :法律ではないけれど、みんながこう思ってるいから、こうしようという社会的な圧力があって、誰も決めてはいないけれど、それに従わざるを得ない空気があるような気がしますね。例えば、結婚とか、服装とか、あと何時に集まるとか。 ―空気を読むことが大事と考えられているところはありますよね。 辻副大臣 :そう。出社時間は9時なのに、8時半には集まるのが「普通」みたいな。8時50分に来る人はなんかちょっと変わってるというような、個人の感情が集まって集団心理になって、その集団心理っていうのは、結局、ともすればムラ社会とかいろんな言葉で形容されますけど、少なくとも私が経験した西洋の場合も、個人の考えはもちろんあるんだけれど、それと制度は切り離しているんですよね。始業は9時だから8時59分59秒に来ても、ちょっと遅いなとは思うけれども、間違ってはないはずなのに、99人が8時半にきて、1人だけ59分に来ると、何かの査定の時に、「あの人、ちょっとね」というような集団心理で誰かが傷ついてしまうことっていうのもあると思うんですよね。 ―それ、私もよくわかります。会議開始の10分前に行って、私以外みんな席についていて、会議の時間には決して遅れてないのに、「遅くなってすみません」と言うことに、すごく違和感を覚えました。 辻副大臣 :何となく周りの常識に合わせることで無駄な争いごとがなくなったり、何も議論をしなくても、1日が終わるというのは、まさに日本が良しとする「和」ということなんでしょう。ただ、法律でも戒律でもない、ある種の慣習というものをたくさん作っていて、それが制度とは別のところで動いているというのは、悪い部分もあるのではないかと思うんです。 ―いわゆる「同調圧力」のようなものだと思いますが、やはり多様性が尊重されていくのは、日本では難しいのかなと思ってしまいますね。 辻副大臣 :多様性のあるところでは、集団でもいろんな考え方があって、それに依拠するとまとまらないから、一つのルールがあると思うんです。ただ今回の大統領選を見ると、アメリカも、多様性のあり方を強烈に示してきた一方で、それに対して「どうなの」という思いに共感すると、それで勝ち抜くこともできた。そう考えると、日本もアメリカも、結局みんな同じ人間なので、現象としては同じことが起こりうるんだと思います。 ―政治家として、日本社会にいるからこそ感じることはありますか。 辻副大臣 :今、法律を作る仕事をしている身としては、日本のそれぞれのコミュニティにある自前のルールみたいなものを吸い上げるプロセスというのは、当初は面倒なことと思いましたが、日本は日本の文化があるので、それはとても大事なことだと、今は思います。ただ、それゆえに時間がかかってしまうことは、AIやサイバーなど、日進月歩で世界が動いている時に、ボトムアップ型より、国が主導して意思決定を速くして、国民を守らないといけない分野もあると思います。 ―若い世代には、政治との向き合い方として、どのようなことを期待しますか。 辻副大臣 :政治に対して、恐れずに議論し、参加してほしいですね。普段から議論や考えることをせずに、いきなり選挙のときにキャッチーな言葉を聞くと、それに流されてしまうと思うんですね。最終的に、国民は納税者、タックスペイヤーとしての責任として選挙に行ってほしいと、そう思っています。 ―最後に、辻さんは政治家としては、どのようなことを心がけたいですか。 辻副大臣 :我々のように現役の子育て世代の議員は、同じ世代の方々の意見を手厚く聞くということを心がけたいと思っています。今を生きる人たちに、より幸せになってほしい。稼いで、子育てもして。そのためにも、政治に興味を持ってほしいと思っています。 取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生 政治ジャーナリスト 細川珠生 聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
2025年03月07日こども政策・少子化対策、若者活躍を担当する、辻清人内閣府副大臣。ご自身も2人の小学生のお子さんを育てる現役子育て世代。子育て支援策は、市区町村がメニューの充実を加速させていますが、自治体の財政力の差に影響されることも懸念されています。地方からは、「本来、国の役割では?」という声も聞こえます。そこで、辻副大臣に、国が進める子育て支援策について伺いました。 お話を聞いたのは… 辻清人 内閣府・こども家庭庁 副大臣 1979年9月7日東京都出身、45歳。4歳から17歳までをカナダで、25歳から32歳までをアメリカで過ごす。京都大学経済学部卒業、米コロンビア大学公共政策大学院修了。米戦略国際問題研究所(CSIS)研究員。TOKYO自民党政経塾7期生。 ※辻の表記は一点しんにょう。 >>辻清人公式HP ―辻副大臣はこども政策もご担当されていますが、今、国として子育て支援策の柱というのは、どこに置かれていますか。 辻副大臣 :まずは全体としての底上げですね。こども家庭庁を設立した理由にもなりますが、昨年、こどもに対する政策経費を、2028年度までの3年間で3.6兆円を投じることを決めました。「こども未来戦略」で掲げた3年間の集中的な「加速化プラン」を実施していくことになります。 ―これまでに比べてかなりの増額ということになりますね。 辻副大臣 :そうですね。スウェーデンは、GDPの16%程度を使っているので、それに比べるとまだまだかもしれませんが、日本も10%の大台に上げるということにしています。子育ての中心は家庭であり、地域や学校だと思いますが、国としては、困窮家庭へのセーフティネットも必要という認識の上、それだけではなく、中間層の方々でも子育てはやはり大変だと思うのです。出産から始まって、育児休業を取得するのも保育園を探すのも大変ですよね。そういったライフステージごとに、こども家庭庁を中心にしっかり支援していくことが必要だと思っています。社会も生活スタイルも変わり、子育ても100年前とは違いますから。 ―具体的にはどのような内容ですか。 辻副大臣 :児童手当支給の所得制限を撤廃し、また、従来中学生までであった支給対象年齢を高校生年代まで拡充するとともに、3人以上のこどもを養育する家庭への第3子以降を対象とする多子加算額を月額3万円に増額しました。ひとり親家庭を対象とした児童扶養手当についても、就労収入の上昇等を踏まえた所得制限の見直しを行うとともに、生活の安定のため特に支援を要する多子世帯への多子加算額を拡充しました。令和7年からは、こども3人以上の世帯への大学等の授業料等の無償化の拡充を行うべく、令和7年度予算案を提出しています。 ―地域によってばらつきがないように、子育て世帯全体に関わる政策の実施ということですね。 辻副大臣 :私の選挙区は東京ですが、地方から「東京は財源があるからできるけれども、我々は財源がないからできない」とよく言われます。その不公平感がないように、国が一定程度水準をしっかり上げることは必要だと思っています。一方、地方が独自の政策をやりたいということに対して、他との足並みが揃わないからやめてくださいとは、もちろん言いません。むしろそれをやっていただいて、例えば東京や大阪が独自のことを試みて、それが国全体でやるべきことというふうに横展開するベストプラクティスの政策が今後出てくるかもしれないとも思います。ですから、地域の創意工夫というのは、国としては奨励したいと思っています。例えば、医療費は、色々な自治体でいち早く無償化の促進をしていますが、国としての政策とぶつかりませんし、仮にぶつかったとしてもそちらを優先するということはやっていこうと思っています。 ―医療費を無償化は、子育て世帯には大きいですよね。こどもって、本当によく病院にかかるし、予防接種も自費だと結構高いですからね。 辻副大臣 :そうですね。例えばこども政策に手厚い北欧などでも、こども政策に必要な経費がどこかというと、やはり医療なんですね。ただ、今、国の施策として足りないところには重点的に行っていきますが、それ以降、国がどこまでやっていくかということについては、社会のあり方を見ながら、常にその時々のニーズを把握していかなければと思っています。 ―子育ては確かに大変で、財政的にも時間的にも苦しい時もありますが、その一方で、子育てに専念することも含め、女性が社会にいることの方が優先され、そのための子育て支援をあまりやり過ぎてしまうと、では親の役割は何かとか、親子を離す方向へ持っていくことで良いのかということに疑問を感じることもあるんです。その中で、国が行う子育て支援が、国の考え方を表す一つになると思うのですが、その点はいかがですか。 辻副大臣 :こども家庭庁を作ったのは、まさに「こどもまんなか」で、こどもにとって良いことをしようということです。例えば、待機児童が発生しない体制づくりや、男性の育児休業取得率、これは最近3割を超えましたけれども、最終的に8割超えにするといった目標を設定しています。しかし、行政側として、人間がこうあるべきだっていうことを押し付けたいわけでもありません。社会はこうあるべきとか、家族のありようにまで国が口を出すことは極力やりたくないんです。一方で、「こうしたい」ということに関しては、なるべく実現できるようにしたい。私も公職に就く人間ですが、1人の親としては、「こどもと一緒にいたい」という親の気持ちはやっぱりあるんですよね。 ―政治家だとプライベートは犠牲になって当たり前のように思われてしまうところもありますが、子育て現役世代の政治家の方は、今は、積極的に子育てに参加しているという話も聞きます。 辻副大臣 :職業に関係ないと思いますが、24時間、こどもをどこかに預けて、では親として楽しいかといったら、決してそうではないと思うんですよね。朝早く起きることも面倒かもしれないけれど、その面倒なことを全部取り除くようなことに国が手を出すのはやはり良くないと思うんです。 ―私も20歳になったこどもをこれまで育ててきましたが、こどもから学び成長させてもらうこともとても多かったと思っています。そういう部分をもっと声を大にして言わなければ、と思います。 辻副大臣 :人って、誰かを助けたい、誰かのために役に立ちたいという気持ちがあると思うんです。その対象の一つがこども、とも言えるのではないかと思っています。 子育て現役世代の辻副大臣だからこそ、リアルタイムで感じる親としての思い。それを政策に反映されることを期待したい。 取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生 政治ジャーナリスト 細川珠生 聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
2025年03月05日トランプ氏が大統領に復帰した米国では、多様性を重視する社会のシステムにブレーキがかかろうとしています。 そんな中、日本はまだまだ多様性を進める途中段階。その一つが、女性活躍です。リーダー層にもっと女性を増やすためには、仕事と両立できるような子育て支援策は欠かせません。 そこで、第2次石破政権で、こども政策・少子化対策・若者活躍・男女共同参画等を担当する副大臣の辻清人衆議院議員に、お話をお聞きしました。 お話を聞いたのは… 辻清人 内閣府・こども家庭庁 副大臣 1979年9月7日東京都出身、45歳。4歳から17歳までをカナダで、25歳から32歳までをアメリカで過ごす。京都大学経済学部卒業、米コロンビア大学公共政策大学院修了。米戦略国際問題研究所(CSIS)研究員。TOKYO自民党政経塾7期生。 ※辻の表記は一点しんにょう。 >>辻清人公式HP ―責任あるポストへの女性の登用率をみると、少し足踏み状態です。女性のための施策だけではなく、男性への施策も必要ではないでしょうか。 辻副大臣 :女性活躍の推進には、内閣府ではもう四半世紀も取り組んでおり、男性の理解を得るための施策の必要性も以前から指摘されてきました。これにどう取り組むかというと、大きく3つあると思います。 ―男性の真の理解がないと、本当に進みません。どのような「3つの方法」でしょうか。 辻副大臣 :1つは、政府として数値目標を掲げて、見える化をしていくということです。もちろん政治の分野も同様です。もっといえば、男女隔てなく、色々な職業に就くということに対して、社会が受容することが必要だと思います。「管理職には男性が就くもの」という偏見がまだあるんですね。これは私の体験ですが、小学生の娘に、「社長ってどんな人」って聞くと、「男性」と言いました。「何でそうなの?」と聞いたら、読んでる本や漫画に出てくるからだと。 ―社会のイメージがまだまだ固定化しているということですね。 辻副大臣 :日常生活の中で、このポストにはこの性別の人が就く、という凝り固まった常識を変えていかないといけない。数を増やすこともですけれど、男女の隔てなく誰でも色々な職業に就けるという社会を作らないといけないと思っています。 ―女性の登用という数を増やすだけでも、現状の多くは男性側が登用するので、男性の意識改革も必要だと思うのですが。 辻副大臣 :方法の2つ目は、女性を増やすことによって、男性にとっても働きやすさにつながるなどのプラス面があるということを強調していくことだと思います。 50年前に比べても、女性の社会進出って飛躍的に増えていますよね。それによって社会にはさまざまな変化が起きていますが、日本の社会が崩れたかというと、私はそうではないと思っています。むしろ諸外国と比べてもまだまだ少ない状況なので、ライフステージによって制限されるものを撤廃することも必要ですが、男女ともにバランスよく仕事をすることによって、男性にとってもよい部分、働きやすさにつながる部分を伝え、各界のリーダーが男性の理解を促進する、これが実はすごく大事だと思うんですね。 ―各企業でもエンゲージメント調査の方法を工夫して、良い部分をアピールすることは大事ですよね。男性側も、「数少ないポストを女性枠で取られてしまう」と被害者意識を持つケースもあります。 辻副大臣 :8割、9割男性のところが5割女性になったら(自分たちは)どうなっちゃうんだっていう、まるで自分たちが追い払われてるような被害者的な立ち位置でこの議論をしても平行線だと思うんですね。 私も決して一方の肩を持つのではなく、いわゆる人間の生き方として、社会全体の中で、働きたい人が働きたい場所で働いて、それが国全体としてもプラスになるっていうことが当たり前であるべきだと思っているんです。エビデンスを示しながら、恐れる必要がないことを伝えていけば、身構えている男性たちとも協力していけると思っています。 ―政治の分野ではどうですか。 辻副大臣 :政治家の候補者として色々な女性に声をかけることも必要ですが、圧倒的に男性比率が高い現職の議員にも、理解を促進していただく働きかけをしないといけないと思うんです。双方が何か気まずい感じになると、女性議員も大変な状況に陥ってしまいます。 ―私も企業で、執行役員以上で女性一人という状況で取締役をやっていましたが、そんな感じでした。常に、会社にとって「異物」でしかないような…。 辻副大臣 :意図せず目立ってしまうんですよね、紅一点と言われながらやるっていうと。細川さんも苦労されましたか。 ―強くないので、精神的にボロボロになりました(笑)。 辻副大臣 :本当にお疲れ様です。あとは、方法の3つ目になりますが、やはり教育だと思います。誰もが、自分のしたいことを見つけて、そのしたいことを行っていくという人生ですね。 健康寿命という観点からいくと、生きている間に自分がインプットしてアウトプットできる期間って意外と短いんですよね。その期間に、いかに日本人として生まれた人に充実した生活を送ってもらうかっていうこと。「私はこうだからこれができない」、世の中の事情が原因で前向きになれないというようなことは、なるべく取り払いたいと思うんです。男女の問題もその中の一つだと考えています。 偉そうな言い方に聞こえるかもしれないけど、国や地域が、そういうものをなくして、世界に羽ばたいていってほしいって思っています。これは国益の観点からも、個人の観点、親の観点からも、大事なことだと思っています。男女に平等に門戸を開くことは、国の仕事でもあり、地域の仕事、教育の仕事でもあるんだと思うんですよね。 次回は、辻副大臣の考える子育て支援・こども政策についてです。 取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生 政治ジャーナリスト 細川珠生 聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
2025年02月03日「日本はケアラーに冷たい国」という働くママの伊藤たかえ議員。「ヤングケアラー支援法」を成立させて後、「ダブルケアラー支援法案」を国会に提出した。 お話を聞いたのは… 伊藤たかえ参議院議員 1975年生まれ、名古屋市出身。1998年に金城学院大学文学部を卒業後、テレビ大阪に入社。報道記者として事件取材やドキュメンタリー番組を制作。2006年、資生堂を経てリクルート入社。2016年リクルートでの育休中に参議院議員選挙に初出馬。子育て世帯のリアルを日々永田町で訴え、個人の問題と捨て置かれてきた課題を、それは社会の課題・政治が取り組むべきと“これまでの国会にはなかった”政策提言に努めている。 >>伊藤たかえ公式HP ―日本はケアラーに冷たい国、というのは? 伊藤議員 :日本において育児や介護は未だに “家庭内で完結させること”ですが、イギリスでは1970年代から家族ケアラー支援が注目されていました。ヤングケアラー支援に早くから着手出来たのもその為です。 1999年には「ケアラーを支援する事こそが、ケアを必要とする人を支援するための最良の方法のひとつ」と政府が表明し、ケアラーが心身の健康やキャリア、自由時間等、自身の資源を枯渇させることなくケアを全うするには、社会的な支援がどうしても必要になると訴えました。 あの自主自立の国アメリカですら、コロナ禍におけるビルドバックベター法※1を成立させる過程では、「ケアラーをケアしなければ、やがて社会は崩壊する」との共通認識が、政治家たちの間にはあったと聞きました。日本はケアラー支援後進国です。 ―それは、なぜなんでしょう。 伊藤議員 :日本の“男は仕事、女は家庭”という固定的性別役割分担意識だけが理由ではありません。女性が家の中で家事や育児、介護も全部引き受けてくれれば、家庭内での福祉は完結します。自助が効いていれば、共助や公助に染み出てこないので、行政は福祉予算を使わなくていい。高度経済成長で人口増加フェーズ、働き手も事欠かない時代はそれが合理的だったのかもしれませんが、今は違います。どこも人不足で、女性の力が必要なのであれば、自助に頼るモデルは成立しません。私はケアに着目した法律を書いているのは、そんな課題感からです。 ―「ヤングケアラー支援法(子ども・若者育成支援推進法改正案)」を今年(2024年)6月に成立させましたね。 伊藤議員 :2019年から国会で28回質問して、ようやく、です。ヤングケアラーとは育児や介護、障がいのある兄弟のケアや日本語の理解が不十分な親の通訳等を日常的に過度に行っている子どもや若者のことです。日本の“家族の形”には変化が起きています。ケアを必要とする人が増える人が増える一方で、家族の中にそれが担える人は減少し、子ども達にそのしわ寄せがいっている現実があります。 国会質疑を始めた当初は「ヤングケアラーなんて名前つけたって、それはお手伝いのことでしょう? 自分たちも子どものころはお手伝いをしてきたし、そうやって大人になっていくものだ。子どもを甘やかしちゃいけない」と、わざわざ注意しに来て下さる先輩議員もいらっしゃいました。ようやく今、ヤングケアラー状態にある子ども達を自治体間格差なく支援するための、法律上の明確な根拠規定を手に入れました。 ―家族の世話をするのは当然だという考えがある中で、特に子どもだとなかなか言い出せないですよね。 伊藤議員 :ヤングケアラーは、生まれた時からそれが当たり前だったから、自分がヤングケアラーだと気付いていなかったり、思春期特有の羞恥心から自身の窮状を隠していたりします。自治体に相談窓口があっても、そこに辿り着く情報も交通費もありません。ヤングケアラー支援法は、子どもが子どもらしい時間を過ごせるよう、友達と遊んだり、勉強したり部活に打ち込んだり。それに、ヤングケアラーを放置すれば、介護等の長期化を背景にそのままビジネスケアラー、ダブルケアラーに移行していきます。介護離職が社会問題化している中で、ヤングケアラー問題を放置するわけにはいかないんです。 ―たしかに入社した会社でいきなり『家族のケアがあるので時短とります』って、なかなか言えない風土がありますよね。 伊藤議員 :入社したばかりのころって、自分の居場所をつくることに誰だって必死です。われわれの世代は“ワークライフコンフリクト”世代。会社の中で大事な仕事を任されたり、部下が出来たりするタイミングと、家の中に育児や介護が生まれるタイミングが重なる。その両方とも大事で、どちらも頑張りたいからこそ、肉体的にも精神的にも時間的にも衝突が生まれる。まさにわが家がそうでした。この生々しい記憶をもとに先般、育児と介護の両立を支援するための『ダブルケアラー支援法案』を参議院に提出しました。実態把握のための調査を義務付け、それに基づく具体的施策を行うよう政府に求める内容です。 ―実は私もダブルケアでした。父が脳梗塞で要介護者になった翌年に、息子が生まれて、亡くなるまで6年半、身体介護。その後、母が認知症になって、私の子育ては介護と共存していました。当時は「ダブルケア」という言葉もなくて。 伊藤議員 :それは本当に過酷だったと思います。そういったダブルケアの経験をした人の感覚が、もっと政策立案の現場にあればいいのですが…。 ダブルケアラーは2012年(2016年公表)時点で25.3万人だったのが、2017年には29.4万人と、5年間で約4万人増えています。そしてその9割が30~40代の働く世代です。政府に対応を問うと、育児はこども家庭庁で、介護は厚労省。所管省庁がないから答えられないというのです。社会で起きていることを政策化する力が足りない人たちが意思決定の場にいるのは、社会にとって深刻です。 ―親の介護のことなども、人に話すと「実はうちも…」と、悩んでいる方が結構多いこともわかりましたね。 伊藤議員 :色々な人に(外に向かって)話してもらうことで、社会変革をしようと思っています。介護や、あと(子どもの)反抗期もですが、‘世の中ごと(よのなかごと)’にしていくには、みんなが喋った方がいいんです。第1世代の人たちがね、あまりに頑張りすぎちゃったと思うんですよね。「やれます、できます、元気です」って。 ―そうしないと、仕事が回ってこないって思っていました。私も。 伊藤議員 :そういうことですよね。それによって、よりスティグマ化してしまう。顕在化しないと、それに対する政策や制度ってできていかないんです。でも今は逆。噴出させる方にバネを利かせていかないといけない。今国会の中で起こっていることも、私一生懸命お伝えします。『違うんです、聞いてください』って。(国会の)外に向かって言いますので、外の方協力してくださいって。ぜひ、よろしくお願いします! 子育てや、親の介護のこと、子どもの反抗期、そして自分自身の体の変化ーその中でも仕事をやり続けることに歯を食いしばってきた世代から、苦しいこと、困っていることはなんでも口に出して、みんなで解決する方向へ知恵を絞り、社会の制度やあり方を変えていくことこそ、共助であり公助であろう。伊藤議員は、政策立案における実体験の重要性と、社会制度改革の必要性を繰り返し強調していたが、政治の側にそのような受け皿があるのは、心強い。 ※1ビルドバックベター(Build Back Better)法: ※参照資料 イギリス更年期革命 イギリスの「更年期革命」は、ダイアン・ダンゼブリングさんという一人の女性が始めたメイク・メノポーズ・マター(Make Menopause Matter)「更年期を社会課題に」という運動。15万人が賛同し、2021年10月には議会ではじめて更年期症状への対策を盛り込んだ法案が審議され対策室が設置された。治療費の補助や企業の対策への働きかけのみならず、更年期症状に対する正しい知識を得るべく中学校で更年期症状を教えることが義務化されるに至った。(伊藤議員のHP の記載内容を筆者が編集)。 取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生 政治ジャーナリスト 細川珠生 聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
2025年01月20日首都・東京には、多くの外国人が訪れ、また外国人の居住者も増えています。グルーバル人材の育成は、日本が注力するテーマの一つ。「東京は国際都市として、世界の大都市と競争できる人材育成を進めたい」という小池百合子東京都知事に、東京都が進めるグローバル人材育成について伺った。 お話を聞いたのは… 小池百合子 東京都知事 1952年兵庫県生まれ。92年参議院議員初当選、93年衆議院議員初当選。以降、環境大臣、内閣総理大臣補佐官(国家安全保障問題担当)、防衛大臣、自民党総務会長など歴任後、2016年東京都知事当選(現在、3期目) >>都庁総合HP「知事の部屋」 ―グルーバル人材の育成について、どのようにお考えですか。 小池百合子都知事 :世界は広いです。英語はもちろんのこと、他の言語ができれば、情報量も増えます。そして人脈も増えます。ビジネス一つとってみても、そのチャンスが、2倍、3倍、4倍へと広がっていくのです。日本国内1億2千万(人)よりも、世界80億(人)のマーケットを目指した方がいい。そういう考えで進めてきました。 世界を舞台にビジネスチャンスを増やす機会も、東京で作られているとお聞きしました。 小池百合子都知事 :スシテック東京(SusHi Tech Tokyo)という国際イベントの中で、スタートアップカンファレンスを開催しました。東京発のイノベーションの創出と未来の都市モデルを発信する国際イベントで、当然、英語ベースでの開催です。昨年は82の国と地域から参加者が集まり、434社のスタートアップが出展するなど、開催わずか2年目でアジア最大級にまでなりました。 ―スシテック(SusHi Tech)というネーミングも面白いですね。 小池百合子都知事 :Sustainable(サステナブル=持続可能)な都市をHigh Technology(高度な技術力)で実現するという意味です。昨年のスタートカンファレンスでは、参加者は倍増、商談件数は3倍弱など、初開催の2023年に比べ、実績を大きく伸ばしています。社会人に限らず、学生が主体となってセッションやピッチコンテストを運営するなど、様々な方による出会いや交流がありました。 ―まさに、海外に目を向けるとチャンスが増える、という実績を東京都が示しているということでもありますね。 小池百合子都知事 :次は、今年5月に「SusHi Tech Tokyo 2025」を開催しますが、スタートアップが海外都市との交流や投資家との商談を行う機会を一層充実させたいと思っています。東京は、国際都市としてロンドンやニューヨークなど、世界の大都市と競争しています。その競争の舞台で活躍できる人材を育てていく必要があります。若者たちが夢に向かってチャレンジでき、グローバルに戦える土壌づくりが重要です。世界を舞台に活躍できる英語力、そして教養を身につける後押しをしっかり進めたいですね。 ―英語力は当然としても、それだけではない、主体性や多文化への理解なども、グローバル人材としては大事ということですね。都は、「TOKYO GLOBAL GATEWAY(体験型英語学習施設)」の設置や都立高校生の海外派遣研修なども進められています。 小池百合子都知事 :体験型の英語学習施設「TOKYO GLOBAL GATEWAY」については、都内2か所(江東区青海、立川市)に設置し、大変多くの学校で利用されています。その他にも、都内の公立中学校の3年生を対象とした「英語スピーキングテスト」を2022年度から始めました。都立高校の入試で、この結果を活用しています。みなさん、(英語の)読み書きはできるけれども、話す方はちょっと、とおっしゃいますが、英語のスピーキング力の向上はとても大事なことです。昨年から、高校の授業料を所得制限なしで実質無償化しましたが、重要なのはそこで何を学び、成長するかです。自ら未来を切り拓く力の育成など、人間としての総合力を高めていくことが、日本の強さになると確信しています。 グローバルで活躍する人材の育成もまた、「自己実現ができる都市」と言える。首都であり国際都市である東京の強みを最大限活用したグローバル人材育成策の推進を期待したい。 取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生 政治ジャーナリスト 細川珠生 聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
2025年01月15日成人年齢が18歳へ引き下げられてから、今年で3回目となる「成人の日」。 新成人(2025年1月1日現在、18歳に達している人)の推計は109万人で、過去最少だった昨年より3万人増えたとのこと。 それでも、新成人のおおよその親世代である第二次ベビーブーム世代からは約半減しています(1995年の新成人は209万人)。親世代そのものが減少しているので、新成人、つまり出生数が増えていくということはなかなか難しいということが、少子化が加速している実態でもあります。 一方、例年、9月の「敬老の日」を機に、高齢社会の実態が浮き彫りになります。 2024年の 高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)は、29.3% と過去最高になりました。75歳以上の後期高齢者も16.8%、80歳以上でも10.4%であり、 日本の高齢化率は世界200の国・地域中で最高です。 2025年は、年あたり270万人もいると言われている 「団塊の世代」が全員75歳以上の後期高齢者になる こともあり、今後、ますます高齢化率も上昇。2040年には34%程度まで上がると予想されています。対して、15歳未満人口は11.2%。 年々下げ止まりができない出生率 かつて、第二次安倍政権以降、出生率の目標を「1.8」としていましたが、最後に1.8になったのは、1984年。以後は、1.8を超えることは一度もなく、2023年は過去最低の1.20でした。出生数も、72.7万人と過去最少でしたが、2024年はさらに下回り、69万人と、70万人を割り込むと予想されています。 2020年の国政調査では、70万人を切るのは2030年代後半と予測していたため、 少子化は予測を上まわるペースで進んでいる ということになります。 出生数が100万人を切った2016年以降、9年を経過し、生まれてくる子どもの数は約3割も減っているのです。出生数が低下し、寿命が伸びれば、ますます、「少子高齢社会」の実態は顕著になっていきます。 これからより顕著になる社会の課題 少子高齢社会となって何が困るかといえば、15〜65歳の生産年齢人口※の減少による人手不足、消費や生産の減少による経済力の低下、人口増を前提とした社会保障制度の行き詰まりにより、年金受給や医療サービスの低下など、国力や生活に直結する課題が挙げられます。 これらはすでに看過できない状況となっていることも事実です。特に社会保障制度については、現役世代の負担により現在の受給者を支えるシステムであるため、すでに減少している現役世代の負担を増やし、受給を減らすことで制度を維持していますが、これが「老後の不安」に結びつき、消費の抑制や、非婚化、少子化の原因となっていると考えられています。 課題解決に必要なこととは? これらの課題を解決していくには、発想を転換しながら、さまざまな方策をおこなっていかなければなりません。例えば、社会保障制度については、本来、人口減を前提とした制度への転換を図る必要があります。長く議論はされているものの、実行には至っていません。 経済力についても、労働生産性を高めるさまざまな方策や、規制、過剰な慣行などを排除することにより、徹底した効率化を進め、人手不足の解消などを図っていく努力が今も行われていますが、まだまだ余地はあると考えられています。 また子どもの数に応じて、教員の配置が決められていることから、少子化では教員の数も減らされますが、「個別最適な学び」のために、教員の加配もかなり行われるようになりました。 しかしながら、どのような「個別最適な学び」を行うか、その中身が重要であり、子どもが少なくなっている今だからこそ、それぞれの子どもの持っている力を最大限に生かすことのできるような教育に転換し、 「人造りは国造り」 という教育を今こそ現実のものとすることも、少子化時代だからこその政策ともいえます。 ところで、冒頭、新成人のことに触れましたが、成人年齢を18歳に引き下げたものの、かつて成人式と言われていた式典は「二十歳の集い」と名称を変えながらも、今もほとんどの自治体で20歳を対象に、お祝い会が開かれています。 ※生産年齢人口・・・社会の生産活動を中心となって支える、15〜64歳の人口。 文/政治ジャーナリスト 細川珠生 政治ジャーナリスト 細川珠生 聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
2025年01月08日12月の都議会定例会で第一子の保育料無償化や、低体重の赤ちゃんへの「ドナーミルク」の利用拡大など、新たな子育て支援策を表明した小池百合子東京都知事。 すでに、「018サポート」で0から18歳までの子どもに対し、所得制限なしの月額5,000円の支給や、高校・都立大学の授業料実質無償化、妊娠・出産時における育児パッケージや出産後のバースデーサポートの提供など、国に先駆けた子育て支援策は、自治体トップレベル。 「都は財源があるから」という地方からの批判の声もある中、小池都知事に、子育て支援政策についての考えを伺った。 お話を聞いたのは… 小池百合子 東京都知事 1952年兵庫県生まれ。92年参議院議員初当選、93年衆議院議員初当選。以降、環境大臣、内閣総理大臣補佐官(国家安全保障問題担当)、防衛大臣、自民党総務会長など歴任後、2016年東京都知事当選(現在、3期目) >>都庁総合HP「知事の部屋」 ―妊婦を対象に1万円分の育児パッケージを配布する「とうきょうママパパ応援事業」など、とにかく充実しています。 小池百合子都知事 :社会はすべて人間で成り立っていますよね。人間と、経済の力、守る力、国で言えば国防、都で言うならば防災、安全、こういったいくつかの鍵となる要素により国力が算出されるという考え方があります。ところが、これらが縮小してしまうと、社会の力がそがれる。 一方で、個々人が自己実現できる社会は豊かな社会だと思います。私はかねてから、自己実現ができる東京にしたいと思っています。その自己実現のため、ライフイベントをシームレスに、切れ目なく支援していく流れの一つに、この『とうきょうママパパ応援事業』があります。 ―(本事業と東京都出産・子育て応援事業を合わせると)妊娠時に6万円の支援を受けられるなど、出産前からのサポートがあるのには驚きました。 小池百合子都知事 :妊婦の方はさまざまな悩みや不安を抱えがちですから、保健師などの専門職が面接を行い、支援ニーズを把握するようにしています。さらに、シームレスという観点で言えば、結婚・出産前の段階、まず、『出会い』からサポートしています。AIマッチングシステム「TOKYO縁結び」や、いわゆる婚活イベントの提供には想定を超える応募をいただいており、反響は大きいです。 ―出産前という意味では、不妊治療への支援もありますね。 小池百合子都知事 :不妊治療については、以前から治療費の助成を行っていますが、(2022年に)国が保険適用としたことを契機に、都では不妊治療に伴せて行われる先進医療の費用をサポートしています。加えて今度は、無痛分娩のサポートをする方針を打ち出しました。出産された方が初産の時のような痛い思いをするのはもう嫌だという声が現実的にあります。日本はお腹の痛みを乗り越えてこそ、といったプレッシャーがありますね。いや、それより出産時の痛みを和らげることで、もう1人欲しいよねと考えてもらえればと思うのです。 ―子育て支援施策の実施主体は、基本的には区市町村ですが、東京都の役割というのは、どのようなものですか。 小池百合子都知事 :小池百合子都知事:「こどもDX」の一環として、都とGovTech東京が協働して、保育園探しから入園までの手続がオンラインで完結する保活ワンストップサービスを、都内3自治体で、2024年10月から始めました。 今、『手取りを増やす』という議論が盛んですよね。東京都は、忙しい子育て世代が 保育園探しから入園までの手続をオンライン・ワンストップで行えるよう に、保護者にとって時間や手間がかかる部分をデジタルで軽減する 「手取り時間を増やす」取組 を進めています。今後、都内に限らず他自治体でも使えるようにと、国と連携して全国展開していきたいと考えています。こうした先進的な取組を率先して進めるのが都の役割だと思います。 ―地方の自治体の方は、「都はお金があるけど、地方は同じようにはできない」とおっしゃる方もいらっしゃいますが。 小池百合子都知事 :それは自治体としての優先順位の付け方の違いですよ。地方自治として、都は自らの決定、つまり自治において進めています。東京都から毎年約1兆3千億円程度、地方へ財源が奪われている中で、都は見直すべき事業は見直すなど、無駄をなくす取組を徹底しています。東京では自己実現ができると、皆さんそれを期待してこられているのではないでしょうか。別に人さらいをやってるわけではありません。 ―財源のやりくりこそ、そのリーダーのお役目ということですね。 小池百合子都知事 :はい、そうですね。 ―東京で子育てすることのメリットはなんですか。 小池百合子都知事 :サポートがシームレスである点。出会いもある、やりたいことが選べる。経済的なポイントも大きいでしょうし、子育てをしながら自分のスキルを活用するチャンスがいろいろ選べる点も重要です。やはり自由な環境を自らが選べるということが大きいのではないでしょうか。 ―小池知事のおっしゃる「自己実現」ですね。 小池百合子都知事 :女性のエンパワーメントについても、男女平等という観点だけではなく、自分のやりたいことができるようにする。それは男性も女性も同じですね。女性の部分で足りないところを補うことも必要です。わかりやすい話で言うと、 少子化担当大臣はこの17年間に24人が務められています。大臣は多産、子どもは生まれない、のは笑えませんね。 ―少子化担当大臣の成果が出ていないという声はよく出ますね。 小池百合子都知事 :結婚も子育てもしたい男性も女性も一定数いるのに、それが叶えられていないわけですよね。それはなぜか。個人の側に立っていないからです。役所別に、内閣府の担当、厚労省、文科省の担当だとかは、個人には関係ないのです。東京都では、いろいろなハードルがありますが、まさに都民ファースト、都民の立場から考えて、この人生の段階ではこういったニーズがあると個人の側のニーズを考えながら、必要な施策を打ち出してきました。 子育て環境を整え、人を育て、自己実現が可能な都市・東京を目指す。小池都知事の推進力はやはりすごい。 取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生 政治ジャーナリスト 細川珠生 聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
2024年12月26日「我々は腹をくくっているんです!」と国会で「手取りを増やす」政策の実現に、覚悟を示した国民民主党の伊藤たかえ参議院議員。「103万円の壁」に続いて「ガソリン暫定税率の廃止」、「扶養控除の維持・拡大」と「年少扶養控除の復活」を実現すべく、奮闘中だ。伊藤議員のインタビュー2回目は、103万円の壁の進捗とガソリン減税、そして扶養控除や年少扶養控除についてもうかがった。 お話を聞いたのは… 伊藤たかえ参議院議員 1975年生まれ、名古屋市出身。1998年に金城学院大学文学部を卒業後、テレビ大阪に入社。報道記者として事件取材やドキュメンタリー番組を制作。2006年、資生堂を経てリクルート入社。2016年リクルートでの育休中に参議院議員選挙に初出馬。子育て世帯のリアルを日々永田町で訴え、個人の問題と捨て置かれてきた課題を、それは社会の課題・政治が取り組むべきと“これまでの国会にはなかった”政策提言に努めている。 >>伊藤たかえ公式HP 123万の壁を超えるには…厚すぎる「与党の壁」 ―「103万の壁」は、今、「123万の壁」になりましたが、「与党の壁」が厚すぎますね。 伊藤議員 :「103万円の壁」には、所得税の課税最低限の話と、扶養控除を受けられる上限年収の2つの意味がありますが、後者の特定扶養控除に関しては、2025年分所得から103万円から150万円に引き上げられることが決まりました。大学生年代のアルバイト問題は僅かながら前進します。一方で、前者の基礎控除の引き上げについての与党が示したのは、物価上昇率と同等の「123万円」に留まり、古川(国民民主)党税調会長の言葉を借りれば『話にならない』状態です。 ―123万で終わってしまうのですか? 伊藤議員 :いいえ、終わらせはしません。税調会長、政調会長の“上司”である幹事長が急きょ三党会談を行い、12月11日に自民党、公明党、国民民主党の幹事長間で合意した内容の実現に向け、「誠実な協議」を再開することになりました。 ―「178万円を目指す」というものですね。 伊藤議員 :はい。30年前と比べて最低賃金は73%増になっているので、年収の壁である103万円も73%増の178万円にすべきだというのが国民民主党の主張です。そもそも103万円という水準を決める時も、物価水準ではなく最低賃金を基にしているんです。自民党の税調会長は“税は理屈”と仰っていましたが、それならば、物価上昇率をもとに123万円だという与党より、最低賃金を鑑みて178万円だとする我々の理屈の方に分があります。 ―理屈は、物価上昇率ではなく、最低賃金の方にあるということですね。 伊藤議員 :そうです。 ―幹事長間では「ガソリン暫定税率の廃止」も確認されました。 伊藤議員 :画期的なことです。たとえばガソリンが1リットル183円だとすると、そのうち53.8円がガソリン税として課されているのですよ。これぜひ皆さん知って頂きたいです。今回、私たちが選挙で言ったのは、本来の税金である28.7円リットルに1974年から道路整備計画の財源不足に対応するための暫定措置として加算されている25.1円Lの「当分の間税率」(=暫定税率)の引き下げです。当初2年の約束だった暫定税率が続いてもう50年。いつまでやるんですかっていう話ですよ。 ―ガソリン税は、生活に直結する話ですよね。 伊藤議員 :特に地方はそうです。都内の山手線なら1キロに1つ駅がありますが、地方は家族みんなが車で移動している。ガソリン代の家計負担は都会の比ではないのです。加えて企業にとっても、輸送費が抑えられるので、利益や賃上げの原資になる。スーパーで売られている野菜などの食材も安くなります。 ―ガソリン代が1リッターあたり25.1円安くなるのは大きいですね。 伊藤議員 :はい。しかし肝心な“いつから廃止?”が決まっていません。与党との難しい交渉は続きます。 ―そのほかにも、国民民主党は16歳から18歳の高校生年代の子どもを育てる親の税負担を軽減する「扶養控除」の維持・拡大を求めていました。 伊藤議員 :与党は既に昨年段階で、扶養控除額を縮小する方針を決めており、結論を今年出すと明言していた為、特に強く反対しました。ここに来て公明党も一緒に反対して下さったお陰で、ひとまず現行水準を維持することになりましたが、これは方針撤回ではなく、判断を来年に持ち越しただけなので、こちらも引き続き交渉が続きます。与党は15歳以下を対象とする「年少扶養控除」はゼロなのに、「扶養控除」があるのは、制度上のバランスが悪いといいますが、それならば年少扶養控除を復活させるのが、少子化対策を喧伝する政治家の主張であるべきです。 ―年少扶養控除の復活はないのですか? 伊藤議員 :検討もしていないと言われました。異次元の少子化対策が必要というなら、子育て世帯の手取りを増やす政策に血眼になって頂きたいものです。手取りを増やすポイントは4つあると考えています。一つ目は何よりお給料が増えること。二つ目は控除の拡大を含め、税負担が下がること。三つ目は社会保険料負担が下がること。四つ目は、給付や無償化など、公的支援が拡充すること。この4つの内、1つたりとも欠かしてはいけません。「手当と控除の二重取りはダメだ」と言っているうちは、少子化対策のスタートラインにすら立てないことを、政治家は自覚すべきです。 ―その財源を、国民民主党は子ども国債で賄っていこう、と? 伊藤議員 :そうです。現在、財政法で認められているのは橋や道路をつくる為の建設国債のみですが、政府はその建設国債を、実は「育英会」や「大学ファンド」にこっそり入れています。そんなことをするくらいなら、堂々と「教育国債」の議論をすべきです。国づくりは人づくりと石破総理も所信表明演説で仰っているのですから、子どもたち、若者たちへの教育支出は、将来成長や税収増につながる投資的経費とみなし、絶対にケチらないでいただきたいと思っています。 ―今回の衆院選で少数与党になり、さまざまな交渉が表に出るようになってきましたね。 伊藤議員 :密室で国民生活に関わる大切なことを決めてしまう悪習を変えるチャンスだと思っています。加えてただ拳を振り上げるのではなく、具体的な対案を提示しながら反対する、現実的な交渉が出来るなど、まさに対決より解決の政治ができることを求められています。 政策実現には、国民世論の大きさも大事。私たちも、協議をしっかりウォッチしていたい。 次回からは、「第一子保育料の無償化」を表明した小池都知事の政策をフォローするので、乞うご期待。 取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生 政治ジャーナリスト 細川珠生 聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
2024年12月24日「まだ、ここにない政策を」 を信条とする、 伊藤たかえ参議院議員 は、小学校4年生と6年生の二人のお子さんを育てるママ議員。そして、今や、政治のキーパーティーとなった 国民民主党参議院国会対策委員長 でもあります。 複数の民間企業で働いたのち、当時勤務していたリクルートの育休中に出馬。 日本初の、育休中の国政出馬は大きな話題となりました。 現在は、超党派ママパパ議員連盟の事務局長などを務め、ママたちの、生活者の代弁者としても活躍中です。 他党の議員のお子さんやお孫さんも遊びに来るという、託児機能の充実した?議員会館の事務所で、「ここにない政策」の実現に邁進する伊藤議員の思いをお聞きました。 伊藤議員のインタビュー、 初回は、国民民主党のキーテーマである「103万円の壁」突破! について。 お話を聞いたのは… 伊藤たかえ参議院議員 1975年生まれ、名古屋市出身。1998年に金城学院大学文学部を卒業後、テレビ大阪に入社。報道記者として事件取材やドキュメンタリー番組を制作。2006年、資生堂を経てリクルート入社。2016年リクルートでの育休中に参議院議員選挙に初出馬。子育て世帯のリアルを日々永田町で訴え、個人の問題と捨て置かれてきた課題を、それは社会の課題・政治が取り組むべきと“これまでの国会にはなかった”政策提言に努めている。 >>伊藤たかえ公式HP 30年弱続いた103万円の壁がついに崩れる…? ―「103万の壁」、自民・公明との三党合意に漕ぎつけ、ついに崩せそうですね。 伊藤議員 :私たち(国民民主党)が求めている178万円を目指して、来年度から引き上げることが幹事長間では合意されましたが… ―税制改正ということで、党主導で決めても、税制調査会の壁は厚そうです。「178万円を目指す」という合意は、本当に実現するの?という不信感もあります。 伊藤議員 :最早、政党間の交渉といった意味合いをとうに超えて、この「103万円の壁」の着地金額は、国民の手取りをどれだけ増やせるかに直結しています。だからひくわけにはいかないんです。 ―「手取りを増やす」ということは、この「178万円」の実現でもあり、国民はそこに大きな期待しています。それなのに、自公はすんなりとは認めないのは、おかしいと思います。ところでなぜ「178万円」なのですか? 伊藤議員 :国民民主党には学生部があるのですが、彼女たちが言っていたのは、自分だけでなく周りも皆、バイトしながら学生生活を送っている。でも自分が『壁』を越えてしまうと、扶養控除の対象ではなくなってしまい、親の税負担がぐっと上がってしまうので、バイトできなくなるんだ』と。 ―学生の本分はバイトではなく勉強だという声もあります。 伊藤議員 :勿論です。しかし、今や学生の2人に1人が奨学金を借りながら学んでいます。長く続いたデフレの影響で親の所得は増えず、今はインフレで生活コストが上昇、国が運営費交付金を減額したことで大学は学費を上げています。べき論では片づけられない現実があります。 ―学生の声から始まった政策だったんですね 伊藤議員 :1995年の最低賃金は611円、2024年は1055円。この30年で、1.73倍になっているにも関わらず、課税最低限の額は据え置かれたままです。 学生は働きたいのに働けない、バイト先の店長さんも働いて欲しいのに働いてもらえない。誰得でもない状態を何とかしようと思いました。また、この政策は、学生やパートさんだけでなく、全ての働く人の課税対象所得が減るので、減税の恩恵は広く及びます。例えば給与所得200万円の人なら年8.6万円、300万円なら11.3万円、600万円なら15.2万円の減税になります。 ―主婦の収入と考えると、「女性の自立」という観点からは、178万円を超えると、一旦税や社会保険料の負担が増えるかもしれないけれど、もっと稼げば、その負担を超えますね。また将来の年金受給額が増える可能性もある。でも3号被保険者って、女性の働く「必要性」みたいなものを奪っているのではないかと思ってしまうのですが。 伊藤議員 :私も、ずっと働いてきたので、よく分かります。ただ、政治家として心しているのは、女性と一口に言っても、働きたい女性も、働きたくない女性も、そして働けない女性もいるということ。誰もがどの道を選んでも、その道が歩きやすいように舗装をする、それが政治家だと思うんです。 ―なるほど。 伊藤議員 :働くって、人生を豊かにする出会いや経験もあるので、一個人としては、次世代には働くことをおすすめします。でもだからといって、働きたくない人、働けない人が求める制度を否定することはありません。 ―伊藤さんご自身の経験は別としてですか? 伊藤議員 :働くことが正しくて、働かないことが正しくないって言った瞬間に、コンフリクトが生まれます。世の中に今あるコンフリクトって、働く、働かない、子どもがいる、いない、そういったものが、分断要素になっています。でも、どっちもいいじゃないと。どっちも素敵じゃない、どっちの人生も支えましょうという「当たり前」をつくっていくのが、今の私の仕事なんです。 ―子育て支援には関心がいくけど、産休や育休をとる人の職場で、分断が生まれていますよね。 伊藤議員 :私も37歳になるまで子どもを産み育てる人生を想像してきませんでした。不妊治療に行く上司、子どもが熱を出したからと退社する同僚の仕事を肩代わりして、土日に徹夜することもあったので、それ、すごくよくわかります。働くお母さんやお父さんを応援する声はあがってくるのに、しわ寄せが生じている人たちの声は、なかなか上がってこない。私は、確かに今、子育てしながら働く母親ですが、脳の半分はまだ、あの分断を生々しく感じていますので、上がってこない声なき声を拾いに行って、政策にしないといけないという、一種の使命感を感じています。 「まだ、ここにない政策」、つまり「吸い上げられていない声」を反映する政策の実現に邁進する伊藤議員が、子育て世代代表としても重視している「扶養控除」の継続と「年少扶養控除」の復活、そしてガソリン減税の暫定税率廃止などについて、次回、お伝えします。 取材・文/政治ジャーナリスト 細川珠生 政治ジャーナリスト 細川珠生 聖心女子大学大学院文学研究科修了、人間科学修士(教育研究領域)。20代よりフリーランスのジャーナリストとして政治、教育、地方自治、エネルギーなどを取材。一男を育てながら、品川区教育委員会委員、千葉工業大学理事、三井住友建設(株)社外取締役などを歴任。現在は、内閣府男女共同参画会議議員、新しい地方経済・生活環境創生有識者会議委員、原子力発電環境整備機構評議員などを務める。Podcast「細川珠生の気になる珠手箱」に出演中。
2024年12月19日安倍政権になって、最初に始めた議論は、大学入試改革、道徳や英語の教科化、そして幼児教育の無償化でした。幼児教育の無償化は、幼児期の義務教育化が期待されていましたが、現在は財源の関係で、年収要件を付けた経済的支援という形になっています。教育というよりは子育て支援の一つと考えた方が正しいでしょう。 最近になって、「教育の無償化」として、高校や大学まで、希望する人すべてが進学できるように、義務教育の後も無償化すべきという意見も聞かれるようになりました。ただ、幼児教育を無償化する財源の8000億円ですらなかったのですから、全ての教育を無償化するために必要な5兆円を国が配分するとは思えず、これはあまり期待しない方がよいと思います。 そして、子どもに習わせたいお稽古ごとの上位に入る「英語」。これは、3年後に5、6年生で教科化されることになりました。教科になるというのは、成績もつくということです。そなると、「中学受験でも英語が必要?」と不安になりますよね。これは基本的に受け入れる側の中学の判断になりますから、これからは中学受験のための英語を勉強しなくてはならないこともあるかもしれません。 ただ、大学受験のための英語がそうであるように、「受験のための英語」を学ぶことは、将来、実践としてはほとんど役に立ちませんから、本当に必要なことなのかどうか、学校側も、また親もしっかりと判断することが必要です。 また、今5、6年生が「外国語活動」として行っているものを、3,4年生に前倒しします。つまり早期に始めることで、より「使える英語」にするということを目指しています。 道徳の教科化については、いじめ問題への対応として始まったものでした。これも英語と同じタイミングで教科になり、やはり成績もつくようになります。とはいえ、なかなか数値での評価は難しいので、記述式での評価になる予定。 今、道徳の授業といえば、年間35時間は教えることになっているものの、運動会などの練習に振り替えられたり、お話を読んで考えるという授業方法から、国語との違いがわからないなど、真剣に取り扱われていない実態があります。教科にすることによって、物事の善悪を考えたり、思いやりの心を育てたりなどいう本来の道徳の教育がきちんと行われるようになることが、期待されています。 大学入試は、4年後に大学生になる今の中学2年生が受験をするときから、新しい制度になる予定です。数年間の試行期間を経て、本格的に変わるのは、そのあとになるので、今の段階では、まだまだどうなるのか不透明。でも方向性としては、1回きりの試験から、通年で機会がある、マークシートだけでなく記述問題も出るなど、少しずつ固まりつつあります。 講義式の一方通行の授業から、自分たちで課題を見つけ考える「アクティブラーニング」、コンピューターに早くから慣れ親しむためのICT教育など、小学校では3年後、中学校では4年後の本格実施に向け、今、様々な準備が進められています。ちょうど、子供がこの時期に差し掛かるという世代が多いみなさんにとっては、不安もことさら大きいことでしょう。今の教育も、ましてや自分たちが受けてきた教育は、全く参考にならないのではとも思ってしまいますね。 親として、こんなにたくさんある変化を、どう受け止めればよいのか。私は、まず親が、自分の子どもが生きていく将来の社会の姿を、一生懸命想像し、考えることだと思っています。 科学の進歩は目覚ましく、今、小学生の子どもたちが将来就く仕事の6割は、今ない職業だとも言われています。今の小学生が社会人になるのは、あと10年ちょっとのことです。進歩や変化は早いので、なかなか想像するもの難しいと思いますが、とにかく頑張って、一生懸命考えるのです。そしてその将来の社会で、どんな能力が必要になるのか、それをさかのぼって考えていくことで、今、子供に必要な教育も見えてくるはずです。 また一方で、社会がどう変わろうとも、「人」として必要なことは、どの時代も大きく変わるものではありません。例えば、人の気持ちを考えることができる、約束を守るなど人間としての基本は普遍的なものです。親としての責任は、子どもの将来に責任を持つことができるかということに尽きると私は思っています。今、親である自分自身が持っている最大の力を尽くして、一生懸命考え、想像し、責任を持って子供たちを、将来へ導いていきましょう。 春は別れと出会いの季節。進級や進学を控える子どもにとっては、一年間の締めくくりです。それを見守る親としても、なかなか感慨深い日々が続きます。新しい環境のスタートである4月の新学期よりも、親にとっては、「3学期の終わり」にこそ、子どもの成長を実感するように思うのです。 そして私自身も、今年、小学校を卒業する子どもに、成長への感慨深さと共に、何だか整理できない寂しさも感じています。ランドセル姿を見るのもあと10日。そんな進学や進級を控えた「別れと出会いの季節」に、これからの子どもたちの教育や、生きていく社会はどのようになるのかを、改めて考えてみるのもいい機会です。
2017年03月10日新しい年になって、1ヶ月半。とはいえ、母親にとっては学年末でもあるこの時期は、どちらかというと、「一年の締めくくり」感が漂う季節でもありますね。新年度の準備といっても、4月以降の予定が読めず、予定が立てづらかったりと、母親にとっては何ともやきもきする季節です。わが家も今年は小学校卒業、そして中学入学という節目の年なので、この春はイベント三昧。今は、卒業へ向けての準備に、親子それぞれが忙しいという毎日です。 「給付型奨学金」先行して一部4月から支給予定 子どもの成長は嬉しいものですが、それと共に、かかってくるのが教育費。節目の年は、それをなおさら実感します。しかし、吉報です! 子育て世代の家計の負担を減らすために、かねてから切望されていた大学の教育費のための「給付型奨学金」、つまり返済の必要のない奨学金が、漸く平成30年度から導入される見込みとなりました。 通う大学の国公私立別、また自宅から通うのか、そうでないかによって配慮されることになりますが、月額3万円を軸に支給されるようになる予定です。「私立で・自宅以外からの通学」の学生については、先行して来年度、つまり今年4月から支給される予定なのです。 また、これまで一定以上の成績をとっていることが条件であった「無利子奨学金」も、成績基準を実質なくして、約130万人が有利子・無利子のいずれかの奨学金を受け取ることができる見込みとなりました。 成績が優秀でありながらも、授業料の納付がむずかしい「授業料減免対象者」を、国公私立合わせて1万2千人増やす予定。都道府県が実施する「高校生等奨学給付金」と合わせて、義務教育を終えた後の、高等教育での教育の費負担が少しでも減らされる方向で国が動いています。これらすべて「予定」としたのは、今、国会で来年度、つまり4月からの2017年度予算案が審議中。これが成立しなければ、正式にスタートということにはなりませんが、ほぼ、この点においては「案」通り決まる見込みです。 学費を稼ぐために勉強よりアルバイトをするという悪循環 実は大学の授業料は、バブル真っ只中の1986年と比較すると、国公私立共1.8倍程度に増えています。一方、名目賃金は、1995年を100とすると、2012年は87(米180.8、欧149.3)で、賃金は下がっているのも事実。 親世代が苦しいし、学費を稼ぐために、勉強よりアルバイトに忙しい学生も決して少なくありません。なぜ大学で学ぶのかという意欲や目が必要ですが、可能性のある若者には、できるだけ勉学に勤しんでほしいと思います。大学でも、退学者を減らすために、相談体制を設けたりなど努力をしていますが、それだけに、直接経済的にサポートを得られる制度は、有難いものです。 子どもにかかる経済的負担の軽減がないと、勤労世代の消費も増えません。それらを総合的に考えると、増えていく高齢者の対策だけでなく、教育費への国の支出がもっとあっても良いと思います。それと同時に、大学へ行って何を勉強するのか、将来、それをどう生かしていくのかをしっかり考えて、進学してほしいと思います。
2017年02月15日クリスマス、お正月とイベント続きの年末年始。主婦や母親にとっては、ゆっくりする暇もなく、疲れがとれたのかたまったのかわからないまま、また新たな年が始まったという人も多いことでしょう。一年で一番寒くて、朝がツライこの時期を乗り越えると、あっという間に今年度も終わり。1学期や2学期に比べると半分の日数しかない3学期なのに、行事も多く、新年早々慌ただしく毎日が過ぎていきます。 昨年3月にこの 「ママは政治一年生」 の連載を始めて、それに合わせるかのように、政治の話題に事欠かなかった2016年ですが、今年も、政治の話題満載の一年になりそうです。 まずは、今月20日に、いよいよドナルド・トランプ氏がアメリカの大統領に就任します。経済、軍事、さまざまな情勢が全く予測できず、日本だけでなく、世界の国々、世界のリーダーたちが戦々恐々、様子見をしているような状況です。アメリカの産業を守るための策を講じることにも躊躇がないトランプ氏ですから、日本経済への影響も心配です。 日本のお隣・韓国でも、朴槿恵大統領の職務停止状態を受け、6月ごろには大統領選が行われると予想されています。3月にはオランダ、4月にはフランス、秋にはドイツでも選挙があり、アメリカ大統領選挙のようなグローバル化への懸念、難民問題などから国民の鬱憤や不安がどこへ向かうのか、国際的な協力の姿勢から自分たちの国さえよければいいという「○○ファースト」の意思が多数を占めることも予想されています。 では、日本の2017年は、どんなことが話題になってくるでしょうか。 2017年の政治のカギは何か 2016年、国内政治の話題・総ナメ状態だったのは、小池百合子東京都知事の誕生です。 今年は、6月に東京都議会議員選挙が行われるので、「知事VS都議会」(というよりは、「小池VS都議会自民党」と言い切ってもよい)の対決構図がどのように変化するか、大いに注目されます。 その前、2月には、小池知事になって初めて編成された東京都の予算案についての議会での議論が始まります。補償を含む築地市場の延期に係る諸費用など、知事が用意した予算で議会がすんなり納得するのか、注目されます。また、都議会自民党の大人気ない知事イジメをしている光景には、都民もウンザリしてしまいます。そんな態度では自分の立場も危うくなりますから、大人の対応で戦ってほしいですね。 また天皇陛下の生前退位についての法整備も、今年の早いうちにやらなくてはなりません。通常国会での優先議案です。そして、なんといっても、今年の政治の大きな課題は、国民一人一人の生活が少しでも上向くこと。 円安や株価上昇等で企業の業績はアップしているのに、国民一人ひとりのお財布状況はなかなか改善されていません。統計的には「実収入」は、2016年も前年に比べてわずかながら増えているのに、消費は相変わらず前年と比べると落ち込んでいるのが実態です。つまり、「つかわず、貯めこむ」ということ。それでは経済活動が止まり、ますます景気は良くならなくなってしまいます。 収入を得た人たちが消費するようになること 、これが2017年、日本の大きな目標です。これまでお財布の紐を固くしてきた母たちが、将来を不安に思うことなく必要に応じて消費できるかどうかはこの1年の政策によって変わってきます。 そのためにはお給料を上げること、将来への漠然とした不安をなくすために、実態をともなった「成長戦略」を本気で作ることが、政治の使命と言えそうです。 待機児童対策や働き方改革、介護離職ゼロ、給付型奨学金、大学入試改革などは個別政策ですが、ウーマンエキサイトの読者が気になる話題が今年も満載。この連載で、個別テーマも一つひとつ取り上げていきたいと思います。
2017年01月10日年賀状に、お正月の準備、そしてそして大掃除……。クリスマスが終わったと思ったら、まだやらなければいけないことはいっぱい。12月は主婦にとって、ママにとって「なんて忙しいの!」と声をあげたくなる時期ですね。 そんな慌ただしい12月は、政治も大忙しです。今年は特に、この年の瀬も押し迫って、ロシアのプーチン大統領が来日(それも初来日!)。そして26日には、安倍総理がハワイの真珠湾を訪問。来年1月に任期満了となるアメリカのオバマ大統領と最後の日米首脳会談を行うことになっています。 ビール税に住宅ローン減税、いったいどうなる? 今年は特に、政治の話題が年末まで事欠かないのですが、例年でも翌年度の国家予算の編成作業があるので、結構大変なのです。予算編成の前に税制の改正についても決めなくてはならなりません。ビールやエコカー、住宅ローンの減税はどうなるのかなど、日々の生活にも関わるだけに、チラチラと気になっている人も多いのではないかと思います。 103万円の壁だった配偶者控除が150万円に さて、今回注目の税制改正は、やはり「配偶者控除」についてでしょう。これまで妻の年収が103万円以下であれば適用されていた夫の所得から38万円を控除する「配偶者控除」の、妻の年収要件が拡大されることになったのです。 具体的には妻の年収要件を150万円以下まで拡大、その後は段階的に控除額を減らしながらも適用され、201万円を超えると控除の対象から外されることになります。 また、夫の年収も、これまでは制限がなく、妻の年収だけが条件とされてきましたが、今回の改正により、38万円の控除を受けられるのは夫の年収が1120万円以下の場合ということになります。その後、段階的に減らされて1220万円を超える夫の年収があった場合は、妻の年収が150万円以下でも控除は受けられなくなります。 配偶者控除は年収をコントロール、果たしてその結果は? 今回の改正のポイントは二つ。一つは、配偶者控除適用の年収要件を拡大することで、妻のパートなどの収入を少し増やすことができるようになるということ。もう一つは、夫の年収要件を設けることで、拡大する控除の財源が不足しないようにしようということです。 配偶者控除については、不要論と必要論が激しく対立しています。子育てや家事、介護などで働きたくても働けないという人も多い中、専業主婦という選択を否定するかのようにもとれるため、配偶者控除には一定の意義があるという考え方もあります。一方、子育てや家事、介護があっても、出来る範囲で働く(働いてもらう)ためには、年収をコントロールすることになる配偶者控除は不要であるという意見もあります。 今回の改正は、妻の年収は拡大しつつ、制度は残すという、いわば「折衷案」ともとれる内容となりました。人口減少社会の中で、労働力不足や税収不足の現実を考えると、誰もが納税者となる制度は大事かもしれません。世帯単位で考える日本の税制も、未来永劫今のままでいいというわけでもないでしょう。 とはいえ、子育てや介護などで十分に働く環境がない人も多いし、そもそも子育てと仕事の両立はそう簡単なことではないのです。 そういうことを幅広く考えながら、どんな社会を作っていくのか、そのために必要な税制は何かを、これからは真剣に考えていく必要がありそうですね。
2016年12月27日「政治のことよく分からない!」とはっきりいうのは恥ずかしい。そんな人のための連載「ママは政治一年生」を執筆する政治ジャーナリストの細川珠生さんに、これだけは知っておきたい! 2016年の重要な政治ニュースランキングをインタビュー! 第5位~3位 を発表した 前編 に続き、いよいよ 後編 の 第2~1位 発表です。 第2位 世界の女性リーダーたち 細川珠生――第2位は女性リーダーです。小池百合子東京都知事の誕生は今年の政治トピックとして忘れてはならないですね。初の女性都知事ということでも注目されましたが、それ以上に、 これまでの政治の文化を変える リーダーの誕生に、日本中が沸きました。 その後、 蓮舫氏が民進党の新代表 に就任し、野党第一党の党首が女性というのも、 旧社会党の土井たか子氏以来、30年ぶり のことでした。 世界的にも、女性リーダーの躍進は目覚ましいものがあります。 イギリスのテリーザ・メイ首相、台湾の蔡英文総統、 動向が不安定ながらも、 韓国の朴槿恵氏大統領 など、日本と関係の深い国は次々に女性リーダーが誕生しています。 アメリカも、ヒラリークリントン氏 に女性初の大統領という期待がありましたが、残念ながら、それは実現されませんでした。 ――日本も女性が政治を動かす時代が来たってことですね! 細川珠生――いえいえ、世界と比べるとまだまだ! 日本は、政治、経済、教育、健康分野を総合した男女平等度としては、 144カ国中111位。 女性首相を二人も誕生させている イギリスは20位 、女性大統領の誕生はかなわなかった アメリカは45位 ですが、この2カ国と比較しても、日本はかなりの低さ。 漸く都知事に女性が誕生しましたが、女性初の総理大臣、あるいは企業における女性管理職の増加は、まだまだ難しそうな気がします。 とはいえ、小池都知事には、これまでの男性政治家にはできなかったような都政を期待したいですね! 第1位 参議院選挙 細川珠生――第1位は参議院選挙です! 今年の政治のトピックとして最も重要なのは、参議院の通常選挙。 選挙の結果により、 日本国憲法の改正の発議が可能 となる、 改憲勢力が初めて3分の2を超えた ということも、戦後の政治にはなかったこととして、特筆すべきことですね。 また、この参議院選挙から、選挙権が「18歳以上」に引き下げら、 初めて高校生が有権者 となりました。 主に高校で、「主権者教育」も始まって、新たに有権者となった10代は、本当に一生懸命政治を考え、将来を考え、選挙に参加したことが、投票率にも表れました。 10代の投票率は45.45%と、20代、30代より高かった のです。 これからは、親子で政治をしっかりと考えていく習慣がつけば、10代の投票の意義もより高いものになるでしょう。 来年には、衆議院選挙 が行われると言われています。 来年もまた、若い世代の一票を期待したいと思います! 第3~5位の 前編 はこちら! (イラスト・インタビュー ちゃず)
2016年12月02日アメリカ次期大統領のトランプ氏へのさまざまな注目が集まる中、2016年は残りわずか。この一年、政治の世界ではめまぐるしい出来事が起こったけど、 「政治のことがよく分からない!」 とはっきりいうのは恥ずかしい。 そんな人のための連載「ママは政治一年生」を執筆する政治ジャーナリストの細川珠生さんに、 2016年のこれだけは知っておきたい! 重要な政治ニュース をランキング形式で教えてもらいました。 第5位 アメリカ大統領選 細川珠生――第5位はアメリカ大統領選です! 11月9日未明、オバマ大統領の次、 第45代アメリカ大統領に、ドナルド・トランプ氏 が選ばれましたよね。元ファーストレディで、上院議員、国務長官を務めた政治のプロ、ヒラリー・クリントン氏を僅差で破っての勝利に、アメリカのみならず、世界中が仰天したのは、世界のニュースで今年一番のトピックとも言えるでしょう。 実業家としての手腕はあっても、政治経験ゼロ。トランプ氏に会ったことがある日本の政治家も、選挙の時にはゼロという、異例中の異例の、アメリカ新大統領の誕生です。 ――トランプ氏が大統領になって、日本は大丈夫なんでしょうか…。 細川珠生――日本は、唯一の同盟国(日米安保条約を結んでいる国)として、アメリカは世界の国々の中でもっとも重要な国です。その日米安保条約 によって駐留している 日本国内の米軍の費用を、全額日本が持つべき だというのが、選挙中のトランプ氏の発言でした。 でも、日本に米軍が駐留しているのは、日本を守るためだけではなく、アメリカの世界戦略の一環でもあるのです。このあたりは、トランプ氏も、もう少し勉強してほしいというのが、日本側の本音。 また 「アメリカ第一主義」 を唱えるトランプ氏は、移民によって雇用が奪われること、質の良い日本製品によってアメリカの製造業が脅かされていると訴えていました。 市場開放を目指すTPPには反対 し、あくまでもアメリカの国益と、アメリカ人が損をしない、そういう政策をとることを選挙では訴えてきましたが、どこまで本気でやろうとしているのかが、世界の国々にとっては脅威なのです。 またオバマ政権で優先してきた、黒人やヒスパニック系、移民などへの政策は、軒並みくつがえされるとも言われています。アメリカ国内のみならず、世界が注視するトランプ次期アメリカ大統領。日米関係は世界の安定の上においても最重要でもあるだけに、来年も、トランプ氏から目が離せませんね。 第4位 子育て支援の政策 細川珠生――第4位は子育て支援の政策が進んだことです。安倍政権は、4年前のスタート時から、「女性の活躍」を、日本が変わるための重要な要素として、進めてきました。そのための 「待機児童ゼロ」「介護離職ゼロ」 は、最優先で取り組む政策と考えられています。 待機児童解消のために、これまでの施設保育(保育園の増設)だけでなく、 ベビーシッターの費用を公費で補助 することも検討中。また長時間労働を改善し、育児中の時短勤務の拡大やテレワークの活用、また男性の育児休業の取得増加など、今年になって矢継ぎ早に、多様な働き方を国の方針として進めていくようになりました。 ただ、長い年月の中で作られた日本社会の象徴とも言える「働き方」は、なかなかその文化を変えられず、すぐに成果が表れることを期待するのは難しいかもしれません。 ――細川さんが子育てをされている中で変化したなと思うことはありますか? 細川珠生――私は子どもを出産してから、全てベビーシッターを利用しながら仕事との両立をしてきましたが、これまで、シッターへの補助がなかったことを考えると、ようやく一歩でも前進、と思います。 すぐに日本の社会は変わらない、変えられなくとも、女性が結婚しても、出産しても、社会で自分の役割を得られるという社会を目指すのなら、どうすればよいか、根気よく訴えていくことが必要ですね。 子供の教育費を支援する 「給付型奨学金」 (返済の必要のない奨学金)や返済猶予の期間を設ける(働き初めてからすぐは、給与も少なく返済が困難であることに対応)も、来年度から実現の方向です。所得制限が設けられたりと、利用できる家庭は限定されていますが、第一歩ではありますね。 第3位 消費税 細川珠生――第3位は消費税です。2014年4月に、消費税が17年ぶりに増税し、8%となりました。法律により、一度延期はしたものの、 2017年4月に2回目の引き上げ を行って、最終的に10%になることが決まっていました。 今年6月に、安倍総理は 2度目の延期を決め、2019年10月 に行うと表明。その理由を、日本経済が本格的に改善していないことを挙げています。 消費税の増税は「社会保障と税の一体改革」の中で、決められました。その狙いは、今の 社会保障制度を維持 すること、そのための安定的な財源を確保するということです。しかしながら、10%まで引き上げを行っても、 子育て支援を含む社会保障制度の充実のためには、増税5%のうちの1% しか充てられません。 残る4%は、社会保障制度の安定、特に国の借金である赤字国債の返済に約3%、 7兆円 が充てられることになっています。 子育て支援のためには7000億円 しか充てられないことを考えると、ケタが一つ違ってびっくりしますね。 そもそも、日本の社会保障制度は、人口が増えていくことを前提に作られています。すでに人口減少社会となった日本では実態にあっていないことはあきらか。老後の安心が少子化対策にもつながることからも、増税の延期を繰り返すより、制度の根本的な改善が必要です。 第1~2位の発表は 後編 へと続きます! 後編はこちら→ (イラスト・インタビュー ちゃず)
2016年12月01日ブロッコリーにキュウリにネギ、はたまたほうれん草まで、緑の野菜片手に足早に駆けつける女性たち。向かった先は駅前の選挙演説。緑をトレードマークに選挙を戦う女性候補者・小池百合子氏の東京都知事選は、かつてないほどの盛り上がりを見せました。 野菜を持った女性たちの声援に囲まれる選挙なんて、私もこれまで見たことがありませんでした。都民だけでなく、日本中の関心を集めたことは、地方政治や行政に関心を持つ扉を開いたという大きな効果がありました。その選挙戦を勝ち抜いた小池氏は、東京都としては初めての女性知事となり、その後も途切れることなく、注目を集めています。 小池氏の動くところにはマスコミだけでなく、一般人もゾロゾロ。その見事なまでの発信力に、小池氏と対峙していると思われる旧態依然とした政治のおじさま方も、タジタジといったところではないでしょうか。 就任から100日以上が経ち、小池知事自らも、 「今度は(問題の)あぶり出しから、答えを出していくという段階」 と言うように、小池氏によって分かった数々の都政の問題を、どうまとめていくのか、解決していくのか、そちらに関心が集まっていくことになるでしょう。その「解決」が、都民も納得できるものかどうか、小池氏にとって、これからが政治家としての力量が問われることになります。 実際、小池百合子都知事になって良くなったの? 私はこの100日の小池氏の都知事ぶりは高く評価しています。その理由は大きく二つが挙げられると思っています。 一つは、都政の問題がよく分かるようになったこと。これまで都政だけでなく、地方政治、もっというなら、政治そのものに興味のなかった人にまで、都庁を例とした地方行政や議会のしくみや関係などに興味を持つきっかけができたことは、本当に大きな功績です。 都政の問題なので、都民以外の人にはあまり関係ないのではという不安をよそに、自分の住んでいるところはどうなのか、と関心を持つようになったなど、「小池ブーム」は全国に広がっていることを実感します。小池ブームの象徴は、「選挙戦での野菜片手に集まる女性」のように感じますが、私のインタビューに小池氏は「私は国会議員時代から、女性の支持の方が多いのよ」と答えていました。 つまり、小池知事の誕生は、必ずしも、今まで政治に関心がなかった人たちの目覚めによるものではなく、男女問わず、「何かを変えたい」「悪しき慣習のようなものを変えてほしい」という強い思いによるものだということも、今も9割近い都民の支持を得ている理由であると言えるでしょう。 「都民は気づかない」と思われていた私たちが変わる時 豊洲新市場の問題、オリンピックの競技会場建設の問題が象徴的に、優先的に進められてきましたが、その真髄は、「どうせ都民には気づかれない」という傲慢(ごうまん)とも言える都庁の体質の中で物事が決められ、その決定の根拠は何かと聞かれれば答えに窮す、そんな馴れ合い体質でした。都民の税金を財源に事業を行う以上、説明のつかないことは行うべきではありません。そのためには、「徹底した情報公開」しか手段はないでしょう。「都民は気づかない」という風土を、私たち都民も変えていかなえればならないのです。 私が小池知事を評価する二点目は、何事も「速い!」ということ。小池知事も、なにかにつけ「スピード感を持って」と発言しているように、さまざまな対応が本当に速いと実感します。豊洲やオリンピック関連の調査結果については、「中途半端」などという批判も出ていますが、両方とも、就任2ヶ月を前に、9月末には中間報告などを公表。「3ヶ月以内に」と言われても速い方だというのがこれまでの感覚ですから、これはものすごく速いスピードです。 また、都民の要望の多かった待機児童対策として、都庁内保育園を、これまた9月末に開所しました。都知事選をきっかけに、都政や政治に関心を持った人の受け皿を作りたいと言っていたことも、10月30日の「希望の塾」の開塾で実現。まさに超ハイスピードの有言実行は、政治家としての信用にもつながっていくことでしょう。 実は、私は20年近く前から、地方自治の改革に興味を持ち、かつて週刊誌で9ヶ月にわたり、全国の地方自治の改革ばかりを取材し連載していた経験を持ちます。そのころは、東京都は取材の価値なく、先進的な取り組みをしている地を取材し、東京に戻ってくると、改革など無縁の東京の空気が「ピタッと止まっている」と感じたものでした。 今は、講演などの機会で週に1度は地方へ行きますが、逆に、地方が「ピタッと止まっている」と感じることが多くなったのは、もちろん、さまざまな要因があるとはいえ、この東京の変化に驚きを隠せません。 地方自治の取材をしていた時も、その狙いは、「あの地でできるなら、この地でもできる」「そのために大事なのは、まっとうなリーダーを選ぶこと」「そしてそのリーダーを選ぶ権限は、私たちに有権者にある」ということでした。 政治は、そして社会は、私たちの手で変えられる。いえ、私たちの手で変えなくてはならないのです。小池知事が「希望の塾」の塾頭としてのあいさつの中で、「皆さんがプレーヤーに」と言っていたことは、そのような意味があると思います。
2016年11月09日最近、野菜、特にレタスなどの葉物が高いと感じませんか? どうも、9月の台風や長雨の影響か、日照不足でよく育っていないということのようだけど、野菜が高いのは、家計にも大打撃。かといって、家族の健康を管理する者として全く食べないというわけにもいかないし、主婦としては、スーパーに行くたびに頭を悩ませてしまいます。 生産者である農家の皆さまも大変でしょう。お天気の影響をもろに受ける農業や漁業は、安定的に作物が収穫できることに、どれだけの努力をされているか、頭が下がります。ここ数年の異常気象や、自然災害の甚大さを考えると、お天気の影響を受けずに、野菜が育ち、私たちの食卓にも安定して届く方法がもっと進んでいくといいのに、と思わずにはいられません。 そんなふうに農業を行っていくのが当たり前になるかどうかわかりませんが、私は、今、世の中で話題になっている、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)がその一つの契機になるのではないかと、期待しているのです。 今、行われている国会でも、TPPに関する審議が本格的に始まりました。でも、まだまだ「TPPって、一体なに?」と思っている人も多いし、野菜の値段の変動がなくなることになるのかよくわかりませんね。協議のメンバーだったアメリカも、次期大統領候補が共に慎重姿勢を見せていることから、日本もこれを進めることはいいことなのか、悪いことなのか、わからないことだらけです。 そもそもTPPって何? TPPは、太平洋を囲む12カ国(日本、米、カナダ、シンガポール、ニュージーランド、マレーシア、ベトナム、ブルネイ、オーストラリア、メキシコ、ペルー、チリ)が、さまざまな経済活動のために、連携のルールを作りましょうというもの。農産品に関するルールも含まれています。2年以上にわたる協議の末、昨年10月に参加12カ国で大筋合意しました。 どんなルールかといえば、輸出入の時にかかる関税の撤廃が象徴的な一例ですが、それ以外にも、知的財産権(例えば著作権の有効期限の延長や短縮)、サービス(携帯電話の国際ローミング料金の引き下げ)、出店の規制緩和(例えば外国でコンビニなどを出店に課せられていた資本規制が緩くなる)など、21分野にわたります。 農産品についてのルールは、「関税の撤廃」に含まれます。日本は9018品目の輸入品の95.1%について行うことが決まりました。ただ撤廃のタイミングは、例えば、ブドウやエビは即時だけれど、アジやサバは16年かけて行うなど、品目によって差があります。工業品については、全ての製品の関税が撤廃されますが、農産品については、参加国平均を下回る81%にとどまり、国内農産品への影響へ配慮したことが伺えます。 関税を撤廃するということは、日本の製品が海外(提携国内)で安く売れ、売り上げや利益につながる一方、海外からも安い輸入品が入ってくるということ。より国際的な競争力が求められることになります。でもそれは、全ての参加国に当てはまることです。それでもこの協定を結ぶことにしたのは、今やどの国も、自分たちの国だけでは経済発展に限界があり、環太平洋の12カ国で共に手を携えながら発展していくことを目指すという理由があるからです。 野菜高騰が再び訪れないためにはどうしたらいい? 日本の農産品は関税の撤廃率も低く、他の物に比べ保護されているという印象ですが、保護するだけでは、生き残っていけないのも現実です。そこで、例えば、野菜工場などをもっと進め、気候の影響を受けずに安定的に、しかも安全でおいしい野菜が生産できれば、日本の国内にとっても、海外との競争においても、有利になるはずです。漁業も、養殖技術が進んできていますが、農水業は後継者不足の問題も深刻。国際競争力と高めるために、新しい生産や経営体制を取り入れていくことも必要です。今までとは違った方法を生み出すいいチャンスとなるのが、このTPPとも言えるのです。 今年2月にTPPの署名式がニュージランドで行われましたが、署名後2年以内に、全ての国が国内法の手続きを終え、全ての署名国が国内法の手続きを完了してから60日後に発効することが決まっています。最長でもあと1年半。確かに、大変なこともありますが、「ピンチをチャンス」に、「レタスが高すぎて買えない!」ということがないように、農業従事者だけでなく、オールジャパンで知恵を絞っていくことが必要ですね。
2016年10月21日長雨や真夏に戻ったような暑さに苦しめられている日々が続いていますが、もう10月。季節は秋ですね。政治の世界でも「秋の臨時国会」と呼ばれる時期になり、政治家の方たちも、選挙区での活動より東京での国会活動が忙しくなってきました。9月26日に、第192臨時国会が召集され、11月20日までの66日間、国会での論戦が繰り広げられることになります。 「国会」とはよく耳にするものの、実はどんなふうに行われているか、「なんとな~く」しかわからない、もしくは「全然分からない!」という人も多いでしょう。去年の安保法制の審議の時には、女性国会議員もみなパンツスーツ直用で、大乱闘が起こりましたが、あとは、大臣が失言をした時など、何かハプニングが起きた時しか、印象に残っていないかもしれませんね。 9月26日に始まったばかりの国会も、8月に行われた内閣改造で新しく大臣になった人にとっては、初めての国会。問題なく答弁が進んでいくのか、安倍総理にとっても、緊張を強いられる場となりそうです。 全部で3つの「国会」があるって知ってる? さて、今回は臨時国会といって、正に読んで字のごとく、臨時的に開かれる国会です。そのほかには、通常国会と特別国会とあり、全部で三種類の国会があります。通常国会は、毎年一回開かれることが憲法で決められ(52条)、国会法で1月に召集(2条)、期間は150日(同10条)、そして延長は1回のみ(同12条)と細かく決められています。臨時国会については、憲法53条で、衆参いずれかの総議員の4分の1以上の要求があれば開催をしなくてはならないことになっています。 また議員からの要求がなくても、衆議院の任期満了による選挙の後と、参議院の選挙の後は、必ず開かなくてはなりません。今年の参議院選挙の後も、8月1日から3日までのわずか3日間ですが、臨時国会が開かれました。選挙の後の臨時国会では正副議長を選ぶこと、また衆議院選挙の後は、首班指名、つまり総理大臣を選ぶという最重要案件があります。臨時国会は期間は自由、延長は2回までできます。 また特別国会は、衆議院の解散による選挙の後に開かれる国会のことで、直近では、第188特別国会が2014年12月24日から3日間開かれました。 ところで、この「192」とか「188」などの回数ですが、いつからの通し番号だとおもいますか? 実はこれ、戦後の新憲法の下、新しく国会の制度ができてからの通し番号なんです。第1回は、1947年5月20日から12月9日まで開かれましたが、閉会してすぐ、12月10日から第2回が開かれました。今回の臨時国会は、6月1日に通常国会が閉会して、間に3日間の臨時国会があったものの、論戦という意味においては、約4か月ぶりとなります。終戦直後は、一日も休む暇なく国会が連続して開かれていたことを考えると、それだけ、決めなければならないこと、新しく制度を作らないといけないことがたくさんあったということがなんとなく伺えますね。 秋の臨時国会では何が議論されるのか さて、通常「秋の臨時国会」と呼ばれるものは形式上、総議員の4分の1以上の要求に基づき開かれるということになっていますが、毎年だいたいこの時期に開かれることが慣例化しています。昨年は、通常国会が95日間の長期延長を行い、1月26日から9月27日まで開かれていたこともあり、秋の臨時国会は開かれませんでしたが、これはかなり異例のことです。 今回の臨時国会では、まず経済対策としての3兆2800億円の第二次補正予算案の審議、またTPPの国会承認と関連法案の審議が行われる予定となっています。また総理大臣や他の大臣も出席して行われる予算委員会では、野党は、まずは経済状況が好転しないことへの責任追を行うことが予想されます。また天皇陛下の生前退位に関すること、北朝鮮や中国の軍事的脅威の問題なども取り上げられることになるでしょう。これは逆に野党が追及にあうことですが、二重国籍問題も話題になりそうですね。 また参議院選挙の結果、衆参両院で初めて、憲法改正の発議に必要な3分の2以上の議席を、改憲勢力が占めることになったことから、参議院では5年ぶりに憲法審査会も再開されることになっています。 12月にはロシアのプーチン大統領が来日し、ロシアに不法占拠されている北方領土の返還交渉が行われ、何かしらの進展があることが期待されています。その後、年明けには「解散総選挙」があるとも言われています。小池百合子東京都知事になって初めての都議会定例会も開かれ、そちらの動向も気になりますが、国会の方にも、ぜひ注目してみてください。
2016年10月01日野党第一党・民進党の新しい代表に蓮舫氏が選ばれました。岡田克也前代表の任期満了による代表選でしたが、参院選や東京都知事選での結果を受け、岡田代表は続投しないことを表明。26日から始まる臨時国会に備え、新代表や執行部人事を整えるというのが、今回の代表選の意味でした。 女性の活躍推進が目に見える形になった 容赦ない"口”撃が特徴で、強い女のイメージの蓮舫氏ですが、48歳、双子(一男一女)の母というところに、親近感をもつ人もいるでしょう。小池百合子東京都知事の誕生で、日本の首都・東京のトップも女性になり、野党第一党の代表も女性となれば、それだけでも「女性の時代」到来を予感させます。皮肉にも、野党が対峙する安倍政権が掲げてきた「女性の活躍推進」によって、女性がトップに就くことを後押しする世論が作られていたということも、一つの要因であると解釈できるでしょう。 蓮舫氏の登場で何が変わる? 野党第一党といっても、所属国会議員数は衆参合わせて147人。自民党の413人と比べると3分の1強の勢力しかなく、野党4党(民進、社民、共産、生活)が結集しても190人と、半分にも満たないことから、政権交代への道のりは現状ではかなり厳しいものだと言わざるを得ません。 そんなこともあり、野党共闘という選挙戦略の見直しもさることながら、そもそも野党第一党として、党の考え方、自民党政権と何が違うのか、どんな政策を出していこうとしているのか、根本からの練り直しが迫られています。その中で誕生した、蓮舫氏。初の女性という点からも、これまでの、男性中心の政治の世界で見落とされていた視点を存分に生かして、検討に値するような選択肢の一つを、有権者に提示していくことが、民進党に求められている重要な課題です。 政権交代が可能な野党が存在することは、政治の質を上げる上でも非常に重要です。その意味からも、民進党が政権を担える政党になることは、国民にとっても有益であると思いますが、その民進党の代表に選ばれた蓮舫氏は、二重国籍問題では大きな失点を作りました。 日本は、国籍法第16条で、二重国籍を禁じています。日本国籍を選択した場合、他国の国籍放棄は「努力義務」とされており、罰則規定もありませんが、法律上は違法です。特に、立法府、つまり法律を作る立場の国会議員が、二重国籍を「違法ではない」と言い切ることは、政治家として非常に問題。法律をどう考えているのか、大いに疑問です。この点については、26日から始まる臨時国会で、与党から追及も厳しくなるでしょう。 蓮舫氏が初の女性総理大臣になるのは難しい? 今後、二重国籍問題によって、蓮舫氏には「いばらの道」が待ち構えていると思いますが、一方、初の女性総理大臣候補としても、以前から期待が大きかった人物です。しかし、参議院議員である蓮舫氏には、その期待は夢のまま終わる可能性の方が大きいのです。日本は、有権者によって選ばれた国会議員の中から、総理大臣を選び、その総理大臣が各大臣を任命し、国会と内閣が一体となって国民に対して責任を負うという議院内閣制をとっています。総理大臣は、衆参両院で、それぞれ「首班指名選挙」を行い、過半数を得た人が選ばれることになっています。 もし、衆参が別々の首班を選んだ場合は、憲法の規定により、衆議院での議決が優先されることになります。首班指名だけでなく、予算案の議決や条約の批准などについても、衆議院の議決が優先され(「衆議院の優越性」)、また、総理大臣の専権事項である解散権が行使できるのは衆議院だけであることからも、これまでの総理大臣は、全て衆議院議員でした。 参議院議員ではいけないという明確な規定はないものの、これらの衆参の意義の違いを考えれば、蓮舫氏が参議院議員のまま、野党第一党のトップとして政権交代を目指すのは、やや非現実的と言われても仕方ないかもしれません。まずは、衆議院議員として党代表になること、蓮舫氏個人の最優先の課題はそこにあるとも言えます。
2016年09月20日7月は参院選、都知事選と続き、政治は大忙しでしたが、その後、安倍総理も夏休みを取ったりと、少しゆっくり過ごしていたかのような8月。でも、政治は相変わらず忙しく、動いていました。その一つが、国の予算を作る作業です。 教育から年金まで、子どもとあなたの人生に関係 国家予算なんて、関心のない人も多いでしょう。でも、ママたちでも大いに関係のある子育てや教育、そして老後の年金や介護、医療など、生活に直結することから国の防衛など、ちょっと遠いテーマまで、国の予算がなければ成り立たたず、実はとってもとっても重要。今回は、国家予算がどのように決まるかという仕組みを紹介しますね。 ここ数日、各省庁による「〇〇億円の概算要求」とか、「〇兆円の概算要求」という新聞記事が、連日一面に掲載されていました。その理由は、各省庁が来年度に向けて「こんな事業をするから、これだけの予算が欲しい」と財務省に概算を要求するのですが、その期限が8月末だったからなのです。 各省庁が事業を考え、予算案を組む基本となる方針は何かというと、毎年6月ごろまでに閣議で決められる「骨太の方針」というもので、今年は6月2日に「骨太2016」として閣議決定されました。 前日の6月1日に、安倍総理が記者会見を行い、消費税再増税を見送ることを表明しましたが、来年度も消費税は8%であることを前提に、再増税を延期した理由でもある経済の回復を優先するという方針も、この「骨太2016」にも盛り込んでいるのです。 各省庁は何を要求しているのか 例えば、厚生労働省は過去最高となる31兆1217億円で、その中には「働き方改革」として877億円、待機児童対策として1169億円、保育所などの受け皿整備に712億円、年度途中からでも保育園入園が可能となる「入園予約制」の導入を自治体に促すなどの事業案が盛り込まれています。 文部科学省でも、大学進学者への無利子奨学金支給者を2万4千人増員するための必要経費や教員を3000人増員分の経費などを計上しています。 各省庁は8月末を期限に概算要求を行い、その後、財務省の査定が行われます。その中で、事業そのものが削られたり、額が減らされたりします。ここに挙げた事業がそのまま実現できるわけではありません。 そこで、提出された概算要求の査定が行われている年末までの間、関係者、関係団体、あるいは自治体などが、国会議員に何とか減らされないよう「陳情」します。最終的には、例年12月20日に、財務省がそれらを「財務省原案」として取りまとめ、12月25日に閣議決定。翌年の通常国会に「予算案」として提出されて、衆参両院で審議、採決を行って、年度が替わる直前の3月末に予算が確定する、という流れになっています。 9月から12月までが来年度の予算獲得のためには重要 財務省原案が出てから閣議決定されるまでの間にも、復活折衝など、関係者にとっては“命懸け”の交渉が行われますが、国会に提出されてからは、無修正で成立することが「慣例」となっているため、実は概算要求が出てから年末までが、各省庁にとっては、どれだけ予算が獲得できるか重要な期間となってきます。つまり、9月から12月までですね。 平成27年度予算では、保育園・幼稚園の無償化が概算要求で計上されたにもかかわらず、財務省の査定で削られて、復活折衝を経て、何とか、5歳児だけ、それも所得制限を設けて無償化するという最低限の予算しか獲得できなかった、ということもありました。 国家予算の仕組みなんて、どうなっているのか分からなくて、ついつい無関心でいてしまいますが、私たちの生活には大きく影響することなので、ちょっと頑張って関心をもつと、また違った角度からの政治が見えてくるかもしれません。
2016年09月01日参院選の最中から話題をさらってきた東京都知事選も、いよいよ7月31日の日曜日には、新しい知事が誕生することになります。 それにしても、今回ほど盛り上がった都知事選はなかったのではないかと思うほど、参院選よりもたくさんの報道がなされたように感じますね。 そもそも、今回選挙が行われることになったのは、前知事の舛添要一氏がお金の問題で辞任し、連日その報道がされたことが背景にあるからでしょう。 舛添前都知事の問題は、春ごろから報道が始まり、約3ヶ月間「東京の話題」でいっぱいだったということになります。 事実上の候補者は3人。あなたの一票を誰に捧げるか さて、都知事選では、これまでで最多の21人が立候補していますが、事実上は、自民党・公明党・日本のこころを大切にする党が推薦する増田寛也さん、野党四党が推薦する鳥越俊太郎さん、どこの推薦も受けない小池百合子さんの、この3人で争われることになりました。 増田寛也さんは、直前の参院選でも国民から信任を受けた政権与党から推薦を受けているという信頼や、旧建設省出身で岩手県知事を務めたという経験から実務能力があることをアピール。 鳥越俊太郎さんは、ジャーナリスト出身ということで、都政の問題や都民の問題意識に「聞く耳」を持っていることをアピールしています。 そして、小池百合子さんは、現役の自民党衆議院議員ながら、自民党の推薦を得られなかったということから、組織(特に自民党の都連)の論理ではなく、都民が考える都政の実現を掲げています。 待機児童や高齢者の問題、首都直下型地震への対応など、東京が抱える問題についての各候補者の考えについては、三者三様ではあるものの、裏付けとなる財源については、知事になってみないと分からないという点も多く、候補者が掲げる政策はまだ実現可能性としては未知数です。 それに、何を一番重視していくのかということになると、都民も個々に関心が違うでしょう。都民の有権者は約1100万人。都民全員が納得できる政策など、なかなか難しいと思います。 都知事を選ぶ重要ポイントは? では、何を基準に都知事を選べばよいのかを考えると、私は「東京都知事の資質」として何を求めるのか、ということになると思っています。首都・東京のトップとしてふさわしいのはどういう人なのかということです。 舛添前都知事も、ご本人は頭脳明晰、申し分のない経歴をお持ちでしたが、公私混同など「資質」を疑うことが多々あったことで、都民からの信用を無くし、辞任することになりました。 それが今回の選挙の原点であるならば、都知事としてふさわしい資質のある人を選ばなくてはなりません。 東京都は、世界第三位の経済大国・日本の首都。人口は約1300万人で、都政の予算規模はスウェーデンに匹敵する13兆円。都庁で働く人も16万人もいます。これは先ごろ、EU離脱で話題になった英国で働く日本人の数ともほぼ同じ。その巨大組織を束ねる立場としては、やはり組織での指導力が必要です。同時に、首都の顔としの華やかさや話題性も必要です。 4年後の東京パラリンピック・オリンピックを控え、国を挙げて準備をしていくことを考えると、政権との関係も重要です。また、今回は、主な候補者が出そろったのが、告示2日前。参院選が重なったこともありますが、政党は候補者選定に手間取り、その過程では政党のさまざまな思惑が働いたことも、それなりに報道され、私たちの前にさらけ出されましたね。 政党の論理ではなく、都民のためにいかにあるべきかということをどれだけ考えているかということはとても重要です。 いよいよ、あと数日で新しい都知事が決まることになりますね。その新しい都知事を決めるのは、都民有権者です。ぜひ、東京都知事としてふさわしいと思う人を、しっかり考えて、投票に行ってほしいと思っています。
2016年07月30日第24回参議院選挙が終わりました。「争点がない」「無風選挙」などと言われ、東京都知事選の方にすっかり話題が取られていた選挙でしたが、終わってみれば、わずか2.09%とはいえ、投票率も若干の増加で54.7%。期日前投票は、全有権者の約15%の1598万6898人が行い、過去最多となりました。 あなたの一票が政治を変える 初めて10代が国政選挙に参加することになり、10代向けに、「主権者教育」が始まりましたが、それが大人世代にも影響を及ぼし、少しでも選挙の重要性、主権者としての国民の責任が自覚されるものになっていれば、18歳選挙権の意義はあったと言えるでしょう。しかし、やはり有権者の約半数しか投票に行かないのは「問題あり」ですね。 政治は、私たちの生活に直結するさまざまな制度を作っています。また国が進むべき方向性を示しています。私たちは、選挙でその制度設計や進むべき道を決める代表者を選び、国会に送り込んでいるのです。その意味からも、私たちの一票が政治を決める。「誰に入れたらいいのかわからない」「誰に入れても同じ」とあきらめる前に、「誰に入れるべきか」を真剣に考える努力が必要です。 消費税増税を延期したことによる経済対策は? さて、選挙結果は、安倍政権が目標としてきた「自民党と公明党の与党で改選議席(121)の過半数(62議席)の議席確保」を大幅に上回る70議席を獲得しました。ひとまず安倍政権は信任され、今後は、消費税再増税の再延期を決めた根拠である経済の本格回復を目指し、経済対策を行っていくことになるでしょう。 世界から見ても、日本は憲法改正のハードルが高い また、今回の選挙結果により、衆参両院で初めて改憲勢力が3分の2を超えることになりました。この「改憲勢力3分の2」というのは、日本国憲法第96条の、憲法改正には、衆参各院で、総議員の3分の2以上の賛成によって国会に発議することが必要であると定められていることを指します。 また、憲法改正にはさらに国民投票により過半数の賛成が必要です。この改正の要件は、諸外国と比べてもとても厳しいのです。OECD(経済協力開発機構)加盟34カ国中、二院制でどんな条項でも必ず国民投票を課しているのは、日本の他に、オーストラリア、アイルランド、そしてスイスの4カ国だけです。またこの3カ国も、国会での発議要件は過半数の賛成であり、日本がいかに憲法改正のために高いハードルが課せられているかがわかります。 これは、今の憲法が占領時代に作られたことに起因します。この憲法を作ったGHQ(連合国軍総司令部)が、簡単に憲法を改正させないように、あえて高いハードルを課したとも言われており、憲法ができて70年、社会も、また国際情勢も大きく変化しているにも関わらず、日本の憲法はそれに見合ったものに変えられない大きな原因となってきました。 ちなみに、世界各国の憲法は、時代の変化の中で、改正を繰り返してきました。駒澤大学名誉教授の西修先生の調査によると、アメリカ、フランス、イタリア、スイス、ドイツなど、主要国はすでに20回から60回近い改正を行っています。 憲法改正への動きが強まった今、すべきこととは 今回、改憲勢力、つまり憲法改正の必要性を訴える政党で3分2を占めたことで、憲法改正の議論は本格化してくるでしょう。とはいえ、議論はこれからで、その後、具体的な改正の条文が決められ、最後は国民投票で私たちが直接意思を示すことになっています。今から初めて憲法のことを学んでも、遅くはありません。国民投票が終わった後に「もっとちゃんと考えればよかった」などというどこかの国のようなことにならないように、これからしっかりと憲法に関心を持ち、考えていくことが、私たち有権者の務めです。
2016年07月11日参議院選挙が始まりました。6月22日の公示日から7月10日の投開票日まで18日間、候補者や政党の訴えが街のあちらこちらで聞こえます。 今回の選挙から、選挙権が18歳以上となり、新たに240万人の有権者が誕生。高校生の中にも投票できる人がいるということで、教育現場では「主権者教育」に力を入れています。また自治体の判断によっては、期日前投票の時間延長や、指定された投票所以外でも駅やショッピングセンターなど、人が多く集まる場所に投票所を設けることができる(共通投票所)など、より投票しやすい環境ができるもの、今回の大きな特徴です。その目的は、投票率のアップ。特に20代、30代の若い世代の投票率のアップに期待がかかります。 60代と20代の投票率は35%以上の開きが 選挙は年代が上がるほど投票率が高く、2014年12月の衆院選では、60代の投票率は68.28%。それに対して、20代は半分未満の32.58%でした。若い人たちが政治に関心を持つことは大きな課題ですね。ただ、若い人たちだけではなく、全体で見ても投票率はとても低いのです。特に参院選は、衆院選と比べても平均で5%くらい低く、55%前後が続いています(衆院は60%前後)。 ウーマンエキサイト読者のみなさんも、「選挙? うーん……」となかなか投票所に足が向かなかった経験があるのでは? 日曜日は出かける用事があるし、かといって、期日前投票もしそびれてしまったなどと、悪気はないのだけど、正直、選挙にはなかなか行かない、あるいは、他の用事との兼ね合いの中で、優先度が低いなんて言う人も珍しくないでしょう。そもそも、誰に入れたいいのかも分からないから、行かないというのが本音かもしれません。 しかし、今回の参院選はちょっと頑張って投票所に足を運んでください。選挙は民主主義の基本中の基本。政治は、私たちの社会のルールを決め、国の進むべき道を決めるところであり、私たちは選挙によって、その代表者たる議員を選ぶのです。「主権が国民にある」とはそういうことですね。みなさんの一票が子どもたちの未来にも影響してくるのです。 ママの一票が子どもの未来を切り開く 私たちの一票によって、国の方向性が決まり、また社会のルールが決められるということでもあります。民主主義とは主権者たる国民が政治に責任もつこととも言えます。 そして主権者としての国民が、唯一政治に参加できる機会が選挙なのです。テレビやネットなどで、情報収集はできるし、時には政治を話題にする機会もあるかもしれませんが、とにかく一票を投じなければ、意思表示をしたことにはならなし、政治に対する不満や期待も、一票を投じることによって、解決や実現へ近づくのです。 候補者のどこを見て選べばいい? ぜひとも、選挙に行ってほしいと思いますが、「どうやって判断したらいいのかわからない」という方のために、今回の選挙のポイント、いくつかお知らせしましょう。 判断材料となる公約は、最近ではマニフェストと呼ばれることも多いですが、できれば一度はさらっとでもいいので読んでほしいと思います。各政党のホームページにも掲載されているし、選挙期間中には新聞の折り込みで配布されます。 また新聞の記事としても掲載されます。今回の大事な政策は、「消費税再増税の再延期の是非と景気回復策」でありますが、それだけでなく、自分の興味あるテーマについて、政党を横断的に読み比べてみると良いと思います。 例えば、少子化対策については、各党どんな政策メニューを並べているのか、 年金や介護に関わる政策はどうか、エネルギーは? 教育は? と、各党の政策を「横に見る」と違いが見えてきます。 政権である自民・公明等は、これまでの政策の評価という意味もあるし、民進党を中心とする野党は、政権を批判し、それとは相反する政策を並べるのが常です。今回は特に、民進党、共産党、社民党、生活の党の野党4党で統一候補を出しています。 野党の政策を判断するときは、この4党の政策を合わせてみることも重要です。政策実行の裏付けとなる財源も大事。できる範囲でしっかりと公約を読んで、投票に行ってくださいね。
2016年06月23日6月1日に、1月4日から続いていた第190回通常国会が、150日間の会期通りに閉会したのと合わせて、安倍総理は来年4月に予定されていた、消費税10%への増税を延期することを表明しました。 2年前の2014年4月に、5%から8%へ増税して、一気に家計が窮屈になった記憶があるだけに、「増税延期はありがたい」と思った人も多いのでしょうか。 私自身も、家計を預かる主婦として、「来年4月にまた増税!?」と思うと、財布の紐は固くなるし、来年4月以降は、なお「買い控え」すると思ってきたので、ひとまずはあと3年半、増税の心配がないことはありがたいと思うのが、正直な気持ちです。 増税延期でリーマン・ショック級の世界経済の悪化? そもそも来年4月の増税も、当初は昨年1月に行うはずでしたが、2014年の11月に1年半の延期を決めました。 その時にはいかなる理由や条件もなしに、2017年4月には必ず増税すると安倍総理が表明して、それを争点に、延期表明の一か月後、2014年12月に衆議院の解散総選挙が行われました。 増税するまでの間に、経済状況を良くして、国民生活が増税に堪えうるようにするというのが、いわば「選挙公約」だったわけです。 公約ではありませんでしたが、もし増税を再び延期する場合は、「リーマンショック級の世界経済の悪化」や「東日本大震災並みの自然災害」が条件だと国会で答弁してきました。 来年の増税を判断するのに、この二点を判断基準にしてきたのは、次ような経緯からです。 今回の総理の記者会見では、現在の状況が「リーマンショック級の世界経済の悪化」や「東日本大震災並みの自然災害」にぴったりと当てはまるとはいっていません。あくまでも、今の日本の経済状況、国民生活の現実をみた上での「新しい判断」であると強調しました。 公約違反の批判は覚悟の上、今回の増税再延期の判断をしたことについて、参議院選挙で国民の信を仰ぎたいというのが、安倍総理の意向です。 一方、野党の民進党も増税延期を主張し、国会の終盤で「増税延期法案」を提出しましたが、安倍総理に対しては、経済状況が改善されていないということへの失政と公約違反を批判。これから参院選挙でもそこを格好の攻撃材料にしていく戦略です。 参院選挙、私たちはどこを見て選べばいい? 実際に、日本の経済状況は、世界の他の国と比べてもあまりよくありません。私たちにはあまり実感がない数値ですが、四半期ごとにでるGDPでは、今年1-3月期(速報値)は、前期比0.4%増でしたが、その前の期である、2015年10-12月期は前期比1.1%減。政府目標は年率で2%なので、目標到達はしてないという状況です。 ただ、リーマンショックの時は、7.2%減、東日本大震災の時は2.6%減ですから、確かにリーマンショック級、あるいは東日本大震災並みの経済状況の失速とは言い切れませんね。このあたりが、増税延期を判断するのに迷う点であったことは確かでしょう。 しかし、昨年の実質賃金は、前年に比べて0.9%減、今年4月の2人以上世帯の消費支出も前年同月に比べて0.4%減、3月は5.3%減でした。賃金が増えないのだから、支出も増えないのも当然ですが、一方で「買うものがない」という声も大きく聞こえることも事実です。 つまり、経済や産業の根本的な構造改革をしない限り、景気も、国民生活もよくならないのです。そのためには、あと10ヶ月後に増税をするのには、あまりにもリスクが高いと、私自身も思います。 改革・改善を行いながら経済を強くするには、もう少し時間が必要です。消費税の増税は、民主党政権だった2012年6月26日に、「社会保障と税の一体改革」として、関連8法が成立をして決まりました。その中には、「社会保障制度改革推進法」や「年金機能強化法」の他にも、「子ども・子育て支援法」や「改正認定こども園法」など、私たちにも関係のある法整備も行われていたのですが、その目的は、「社会保障の機能強化と制度維持、その財源確保」というものでした。 少子高齢社会である日本は、これから必要な社会保障費は益々増えていきます。ただ、だからといって、財源のためにひたすら増税していくということでよいわけはありません。根本的な社会保障制度全体の改革が必要です。参院選挙では、各党、各候補者がその点において、どのように考えているかをぜひ判断の一つにしてみてください。
2016年06月03日