デザイン会社を経て、イラストレーターに。文芸書・ビジネス書等の装画や挿絵。広告や食品パッケージのイラストなど幅広いジャンルに関わっています。
パパイラストレーター田渕正敏の家族に仕事に「下請け」感が漂う日常を綴ったイラストコラム。くらしの中で起きる小さくて、大きな事件や気づきに内心で大興奮する日々を、パパの目線からお送りします!
去年の秋に引っ越して、息子は4月から新たな保育園に通わせることにしました。入園前日、妻がいつもより夜更かしして慌ただしく持ち物の準備をしている。 あらゆる持ち物に息子の名前を書き入れ、チェックシートを見ながらリュックに詰め込んでいく。入園に必要な物の準備はほとんど妻に任せっきりだったので、申し訳なく思って声をかけた。 僕「なんか僕ができることある?」 妻「あ!帽子の日よけ!」 僕「帽子の日よけ?」 妻「次の園では帽子に日よけを付けないといけないの」 僕「ほう」 妻「私よりあなたの方が器用だからやってみて〜」 ということで、何年ぶりかに裁縫セットを持たされて「帽子の日よけを作るプロジェクト」のマネージャに指名されてしまった。 我が家ではこれまで、保育園で必要になった裁縫系アイテムを全てバアバ(妻のお母さん)に手作りしてもらっていた。 園用のカバンも布団カバーも「すぐにネット通販ビジネスを始めるべきです!」と助言したくなるほど素晴らしい出来だった。 しかし今回の「日よけプロジェクト」はバアバに発注するには時間がなさ過ぎたので、裁縫ド素人の僕が何とかするしかなかった。 まずは息子が1歳の頃に使っていた日よけ付き帽子をクローゼットから引っ張り出して、日よけの構造を観察する。 布2枚が縫い合わされているだけの単純な作りなのに、縫うのはとっても難しそう。 家にはミシンがなく手縫いでクリアするのもかなり厳しそうな予感がした。 取りあえず仮でも良いからザックリ完成まで進めてみようと思い、妻が予め用意していたかわいい雲模様の布を床に広げて日よけの形の図面を引いた。 図面通りにはさみで切って同じ形の布を2枚用意する。 見本では2枚重ねた布の縁をもう1枚別の布で覆って縫ってあるのだが、手縫いでは難しいので2枚の布を裏返しに重ねて縁を縫って袋状にしてまた裏返すというやり方に変更。 作り方を途中で変更したことにより日よけは一回り小さくなってしまった。「取りあえず、取りあえず」と呪文のように言い訳を唱えながら作業を進めた。 その結果、日よけっぽい物が出来上がった。 それを帽子に取り付けようとしたら園の帽子はゴムで伸縮するタイプだったので、そのゴムを避けて奥の方に縫い付けるとさらに日よけが小さくなった。 「それで首まで隠れるの?」と妻にツッコまれながらも、見た目には日よけ付き帽子が仕上がった。 本日はタイムアップで妻からは「まあ、良いんじゃない…」としぶしぶ合格点をいただき、ひとまずはこれでしのいで、すぐほつれちゃったりするようならバアバに発注しましょうということで落ち着いた。 妻「あっ!でも待って!雲が縦!!」 僕「クモガタテ?」 妻「ほら!雲が縦!!」 僕「わあ!雲が縦!!」 縫うことに必死で妻に指摘されるまで全く気付かなかった。 急いでいたとは言え、絵を生業とする身としてはあるまじき愚行を働いてしまって落ち込んだ。 …入園準備は計画的に。 つづく
2017年04月11日息子に限らず、眠る時間を惜しんで遊び続けたいと願う子どもは多いはず。 息子が2歳の頃にはほぼ100%だったお昼の寝かしつけの成功率も3歳になり体力がついて、どんどん落ちている。 寝ても30分で起きたり夕方に寝たりと不規則さが目立つようになった。息子の場合は眠たくなっても「眠たい」とは絶対に言わない。 体力の限界まで遊んだある晴れた日には「まぶしい!」と言ってグッと目を閉じて「まぶしい…まぶしい…眠くない…まぶしいだけ」と繰り返しながら粘った。 またある時は急に黙り込み厳しい目つきで宙をにらみ続け、こちらから「少し寝る?」と尋ねようものなら即座に号泣するのだった。 親としては息子が昼寝をしている間に済ませたい家事がいくらでもあるので、いくつかのパターンで寝かしつけを試みる。 まずはオーソドックスなやり方だが、昼寝して起きた後の計画を話して納得させて寝かせる方法[成功率60%]。 妻がミニカーで遊ぶ息子の相手をしている。 息子「困っている人はいないかな〜」とパトロール中。 妻「助けて〜。火事だ〜。」 息子「消防車、放水始め!ジャ〜」 この流れを4セットも繰り返すと大人は眠くなる。 妻「そろそろ寝よう?」 息子「やだ!もっと遊びたい!」 妻「お昼寝してから続きをやろう」 息子「やだ!今が良い!今が良いのっ!」 僕は今この瞬間を精一杯楽しみたいのだという一点の曇りもない主張が発動すると、説得する言葉も無くなってしまう。 室内でできることよりも「昼寝から起きたら公園行こう」など、外に出ないと実現できない提案がおすすめです。 次は少しアレンジして、寝る前に一つのイベントをクリアして息子の欲求を満たしてから寝かせる方法[成功率75%]。 僕「じゃあ寝る前に1冊だけ絵本を読もう」 息子「これが良い!」 僕「よし!読んだから寝よう」 息子「次これが良い!」 僕「1冊だけっていったでしょ」 息子「もう1冊が良い…(半泣き)」 僕の体力・気力がある時はここからさらに2、3冊読む。 それでも息子の欲求が満たされない時は、 僕「はい、おしまい」 息子が前のページをめくり「この子の名前誰だっけ?」とオリジナルクイズを始めて粘る。 最後の手段はとにかく外で走り回って疲れさせる方法。[成功率80%]。 方法でもなんでもないけれど、結局一番効果があるのはこれ。。。体力の限界が来れば着替えもせずに眠ってしまう。休日はただただ晴れてくれと願うばかりです。 インドア派の息子を公園に連れ出すことに成功しても、遊びといえば落ち葉拾い、小枝集め、砂場遊びが中心でズーッとどこかに腰掛けて遊んでいるので 「あ、こんな長い枝あったよ!」「こっちドングリいっぱいあるよ!」 などと遠方から声をかけて呼び寄せて歩数を稼ぐのでした。 いずれの方法も効果が出なかったある日、息子は相変わらず元気にパトロールを繰り返している。 妻の忍耐の限界が近づき、だんだんと息子の呼びかけに答えることが出来なくなってきた。 息子「困っている人はいないかな〜」 妻「いないんじゃない」 こうして世界に平和が訪れた。 …しかしその直後、息子の「いるでしょっ!!」で大泣きの大恐慌が始まるのであった。 つづく
2017年04月04日我が家では息子のお風呂を僕が担当していて、0歳の時からほぼ毎日一緒にお風呂に入っている。 生まれて間もなくの沐浴では、ぬるま湯に入れた瞬間に笑顔で寝てしまうというような天使っぷりを見せていた息子も近頃は、風呂上がりに僕の髪の毛を指さして「お父さんの髪の毛ゴワゴワ」と父親をイジるようになってしまった。 ある日の息子「お母さんのシャンプーいっぱいだね〜」 僕「そうだね〜。5つもあるね〜」 息子「お父さんのは?」 僕「無いからコレ(息子のを)使わせてもらってるよ」 息子「僕の使っちゃだめでしょ!」 僕「明日買ってくるね…」 なかなか手厳しい息子だけど、お風呂での掛け合いの時間はとても楽しい。しかし、とある一件からお父さんと入りたくない状態が始まって悩んだこともあった。 我が家は息子が生まれる前からよく銭湯に行っている。息子が2歳の時、そろそろ一緒に連れて行っても楽しめるんじゃないかと思って出かけてみた。 案の定、息子はとても機嫌が良く、途中で妻と別れても平気で鼻歌交じりに男湯ののれんをくぐった。 しかし脱衣所に入った瞬間、ビタッと動きが止まり、おっさん・おじいさん達が裸でうろうろしている空間を引きつった顔で見ていた。 みるみる泣き顔になり号泣し始めたので、急いで服を脱がせて中に入った。立ちこめる湯気の中にはさらに大勢の男たち、息子はパニックで抱きついてきた。 息子を抱いたまま、体を洗おうとシャワーの前に腰掛けると隣のおじさんが豪快にかけ湯。水しぶきにおののく息子をかばい体をさっと洗うと露天風呂に移動し10秒ぐらい入ってすぐ脱出。 全く体を暖められないまま脱衣所へ避難する。 すると2度目の脱衣所でも「おがーさんがいい〜。おがーさんがよかったああああ!」と大号泣してしまい、知らないおじさんから「そうかそうか」と慰められる始末。 しかし、そのおじさんも漏れなく屈強な男で息子は放心状態。 2歳ではちょっと早かったか…と後から反省、湯気の中から裸の大男たちが次々に姿を現す光景は確かに怖いよな。 銭湯ショックで毎日お父さんと一緒だったお風呂がしばらく無くなり、「今日もお母さんとお風呂が良いの〜」と言われる寂しい日が数日続いた。 銭湯からも足が遠のいていたが、それから数ヵ月後、妻と息子で行った長野旅行で女湯に入ることになり、ご機嫌で入っていたとの報告に胸をなで下ろす。 我が家の銭湯ライフは再スタートした。 先月、近所の銭湯が一日限定の柚子湯だった日に家族三人で出かけた。脱衣所に入ると息子は慣れた様子で「お風呂から出たらイチゴ牛乳かな〜」と口笛でも吹きそうな勢いだ。 さっさと服を脱いで体重計に乗ったり足つぼを刺激したりして遊んでいる。「おっさん!入るぞ」と軽くツッコんで中に入る。 体を洗ったら早速お目当ての柚子が入った露天風呂へ。湯船に浮かんだ柚子は想像していたいわゆる柚子とは違う晩白柚(バンペイユ)というサッカーボールのような巨大な果実だった。 その露天風呂には外国人さんが一人で入っていて息子と目が合うと、ニコッと微笑んでプカプカ浮かんだ晩白柚を息子に向かってゆっくり押して流してきた。 僕はキャッチボールをして遊んでくれるのかなと微笑ましく見ていたら、息子は怖かったらしく体に柚子が当たらないようにヒョイ〜ヒョイ〜と一玉一玉を強ばった顔で避けていた。 その様子はまるで水上ドッジボールの交流戦。 怯えた息子は僕にだけ聞こえる小さな声で「上がる」と言って隣の誰も入っていない柚子風呂に移動した。 柚子を独り占めして幾分声も大きくなった息子はようやく銭湯を楽しみ始めた。 二つ抱えて浮き袋にしている。少しのぼせた僕は露天風呂脇のイスで休憩。すぐに息子も寄ってきて同じようにイスに座って「何でイスがあるの?」と不思議そうにしていた。 露天風呂を出て少し冷えた体を温めるため、最後に室内の風呂に浸かって「10数えたら上がろうか」と言って二人で数える。 二人で「…しーち、はーち、きゅーう、じゅう」 息子「おーまけーの、おーまけーの汽〜車ぽっぽ〜」 ありがたくおまけの汽車ぽっぽをいただいて17秒で風呂を出た。脱衣所ではルーティンのように体重計と足つぼを済ませる息子。 休憩所では念願のイチゴ牛乳を飲み干して「くあ〜」と一息。汽車ぽっぽ好きの3歳とはとても思えない姿。 息子はこの日の柚子湯がたいそう気に入ったようで、寒い日のブロック遊びでは銭湯を営業し、いつも大繁盛している。 建物には細かなこだわりがあり、必ず2〜3階建てにして屋上に露天風呂を設置、スーパーボールを柚子に見立ててくつろぎの空間を演出している。 露天風呂の脇に涼むためのイスを設置しているのには笑ってしまった。 つづく
2017年03月28日住んでいるマンションの不動産会社が主催する任意参加の防災訓練が行われた。 緊急・防災の備えはもちろんのこと、引っ越して間もないので、ご近所さんと顔見知りになりたいという気持ちもあり参加することにした。 風邪気味の妻を部屋に残し息子と開催場所の駐車場まで歩いた。駐車場には任意参加にも関わらず50世帯ぐらいが集まっていて、さらに近所の消防署のご厚意により消防士が来てくれていた。 子ども達は訓練そっちのけで消防車の見学を始めている。 子ども達には「消防車は訓練後にたっぷり見せてもらえるから」と言い聞かせて、いざ訓練開始。 本日の避難訓練の流れは 1、避難場所の確認 2、消火器の使い方 3、倒れている人を見つけた時の対処の仕方 4、AEDの使い方 1.避難場所の確認を終えて2.消火器の使い方の講習が始まった。 消化器は2台しか無いので挙手制で数組限定で順番にやることになった。 恥ずかしい話ですが僕は、消火器もAEDも実際に使った経験が無かったので(小・中学校であったかもしれないが覚えが無い)、この機会に挙手してやってみようと思っていました。 前の人がやる様子を見ながらイメージトレーニングをする。消防士が「次どなたかやってみたい方はいらっしゃいますか?」と言ったので、「よし」と手を上げかけたその時… コンマ数秒早く息子が挙手。目を輝かせて消火器を見ている。 2歳の頃、消防遊びに熱中していた息子は毎日のようにおもちゃのポンプ車で火事現場に駆けつけて消火活動に勤しんでいた。 消火を終えた帰り道で公園に寄り道して「消防車を停める駐車場がないよ〜」と嘆くシュールな遊びだった。力強く手を挙げる息子の心はもう消防士。 「一緒にやる?」と誘ったら「一人でできる!」と鼻息が荒い。ここで「まだ一人じゃできないよ」と言ってしまうと自尊心を傷つけるかもしれない。 ここは「お父さんもやりたい!」とこちらも子どもになって懇願する。「…ん〜。。。良いよ!」と何とか了承を得て、目標の三角コーン目がけていざ放水! 消火器から放たれた水は三角コーンを飛び越えて持ち主が不明のBMWに勢いよく浴びせられた。 「ごめんなさい〜!」と叫ぶと周囲から笑い声が聞こえて一安心。 「水だから大丈夫ですよ〜」とどこからか持ち主らしき声も聞こえた。次に3.倒れている人を見つけた時の対処の講習が始まった。 マネキンを相手に発見から119番通報をして救急車を待つ間に心臓マッサージでつなぐという流れを実践する。 消防士は心臓マッサージによる蘇生率の高さ、応急処置の必要性を力説していた。講習とはいえ、隣に子どもがいると緊急事態がとても身近なことのように思えてくる。 参加者のほとんどが子どもを持つ家庭だからか、急に緊張感が増したように感じた。 最後は4.AEDの使い方。 AEDには数種類の仕様があり、今回はフタを開くと電源がONになるタイプのものだった。 ポンプ機能を失った心臓に電気ショックを与えて正常に戻す装置という程度の知識はあるものの、実際に使うには見えないハードルを感じていた。 しかし手順は簡単で、それも全て順番にアナウンスがあるので迷うことは無かった。 当初感じた見えないハードルの正体は人命に関わることで間違った使い方をして失敗するのではないかという恐怖心だった。 それも適切な指導で克服、これならできると思えた。 そして最後はお待ちかねの消防車見学で、入れ代わり立ち代わり子ども達が記念撮影を楽しんだ。 防災訓練は終了。家に戻ると「お母さんも来たら良かったのにね〜」と優越感に浸りながら本日の武勇伝を語っていた。 つづく
2017年03月21日休日に息子と様々なおもちゃで遊べる施設に出かけた。その施設にはボードゲーム、カードゲーム、積み木崩しゲームなどが豊富にそろっていて、好きなゲームを選んで机に運んで自由に遊べるシステムになっている。 2歳の時にも一度訪れたことがあり、その時にはまだ単純な仕組みの遊具でしか遊べなかったので、3歳になって遊べる遊具が増えたのではないかという狙いがあった。 係のお姉さんに3歳でも遊べるようなものを尋ねると「カエルのおもちゃ」をすすめられた。お姉さんは息子に対して「カエルのおしりを指で押さえるとピョンと飛び上がるんだよ」と動く原理を説明してくれた。 しばらく遊んでいると、隣の席にいた5歳ぐらい?の女の子が「これやりたい」と言って近づいてきた。カエルのおもちゃは沢山箱に入っていたので半分ぐらい分けてあげた。 すると係のお姉さんはその女の子にも説明を始めた。「このゲームは容器のフタをゴールにしてカエルを飛ばして多く中に入れた方が勝ちになるゲームです」と競争するゲームとして説明していた。息子も見よう見まねでカエルを放り込み始めた。 その後、棒倒し、すごろくゲーム、カードゲームと勝敗のかかったゲームを繰り返すうちに息子の競争心に火が付いた。「次はコレ!」「次はコレ!」と興奮した様子でおもちゃを運んでくる。 興奮しすぎて「絶対に僕が負けるぞ〜!!」と謎の宣言をしながら棒倒しの棒を抜いたり、「とりゃー!」とすごろくのサイコロを遠投したりとハチャメチャな死闘が続いた。 戦いに疲れ果てて抜け殻になった僕たちは、お姉さんに「ここには競争するゲームしかないのですか?」と助けを求めるように聞いてみた。すると全プレイヤーが力を合わせてゴールを目指す勝敗の無いゲームを紹介してくれた。 そのゲームは果樹園で育てた果物をカラスに荒らされる前に全部収穫するというのが目的で、ルールはだいたいこんな内容でした。 1、円形の木のカード4枚の上に果物を4つずつ載せます。正方形の道カード5枚を並べて片方の端に果樹園の門、もう一方の端にカラスを置きます。 2、各プレイヤーは順番にサイコロを振って出た果物を共通のカゴに入れていく。(赤の目が出たらリンゴ1個、黄色は洋なしというように) 3、サイコロには1面カラスの目があってカラスを出してしまうと一歩ずつカラスが果樹園に近づいてくる。 カラスが5回出ると果樹園に到達してしまうので、それまでにみんなで協力して果物を全部取り入れろというのがゲームの主旨だ。 プレイヤーに共通の敵を設定して団結させるという発想が、悪趣味な処世術のようだなあと思いながらも、遊び始めると「赤の目が出た!リンゴ1個!」「黄色だ!洋なし1個!」「うわあカラス出た!やばい!」と、まんまと団結して盛り上がってしまった。 息子はこのゲームが気に入ったようで何度も何度も繰り返した。サイコロ6面中5面が果物なので、普通にやっていればだいたい成功するようになっている。 だんだん飽きてきた息子は、サイコロを転がらないように真下に落としてカラスを出すという暴挙に出始めた。 確かにこのゲームは果物を全部収穫することよりも、カラスが段々近づいてきて恐々とするところに面白みがあるように思う。カラスとまさかのタッグを組んだ息子は果樹園を荒らし尽くし、悪魔のような笑みを浮かべた。 その後、別行動で映画を観終えた妻と合流しビュッフェのお店に昼食を食べに行った。一通り食べ終えてデザートを取りに行くと残り少なくなったケーキの取り合いになった。 最後のケーキを無事ゲットして、席に戻ると「ご苦労」と言わんばかりにそのデザートを独り占めするカラスが現れた。ゲーム中の不敵な笑みが蘇る。 「一人でぜ〜んぶ食べちゃう」誰かこのカラスを早く退治しておくれ。心の中で叫んだ。 つづく
2017年03月14日「保育参加」を体験してみた。「保育参加」とは保護者が1日限定で保育園での生活・保育士の役割を見学・体験できるシステム。春には引越先の保育園に転園予定なので、卒園までに体験しておきたいと思い、仕事をやり繰りして行ってみました。 朝9時に息子とともに登園、朝のあいさつから始まりその後の過ごし方は子どもに決めさせる。 最近インドア派の息子も父が来ているせいか高揚して「一緒に散歩行こう!」と誘ってきた。保護者が来ることにある程度慣れている子ども達は、矢継ぎ早に声を掛けてきて盛り上がっている。 息子のクラスは発熱で外に出られない子を除く14人で公園に出かけることになった。 2人1組で手をつないで公園まで(子どものペースで)20分ほど歩くコース。車が通る道は息子と2人で歩いていても危なっかしいのに、14人の子どもを保育士の先生3人(僕を除く)で引率する。 出発前からとても緊張感があり、先生は口調こそ優しいが真剣に子ども達に注意事項を伝える。 それでも子ども達は僕という異分子が気になってしまいチラ見しては笑っている。普段なら思いっきりリアクションしてあげたいところだけど「しっかり先生のお話聞こうね」と保育参加の身であることを肝に銘じた。 出発の際、まずは誰が誰と手をつなぐかでひともめ。僕は息子とAくんと3人ペアになった。 先生「出発!」子ども達「進行〜!」で園門から歩き出す。口々に「ベロベロバッ!ベ〜ロベロバッ!」と呪文を唱えながら街をねり歩く小さな部族。 先頭に立つ先生は進行方向に注意を向けさせるために常に子ども達に話しかける。 先生「今日は公園にカメさんいるかな〜?」 Aくん「いないでしょっ!(怒)前もいなかったでしょっ!」 Bくん「いないよね〜」 先生「そっか〜。じゃあ畑のおじさんいるかな〜?」 Aくん「いないよっ!ほら見て!ねっ!」 先生「う〜ん」 子どもに会話を広げようなんて気遣いがあるはずもなく、先生は必死で話題を振っていた。 子ども達は思い思いに散歩を楽しんでおり、「お前は砂漠の放浪者か」と言いたくなるようなだらしない歩き方で急にゆっくり両膝をついて止まり列を乱す子。 出発からずーっと律儀に「ベロベロバア」を連呼するストイックな子。ポスターを見つけては引っ掻く子。車(ジープ)のうんちくがあふれ出す子。バスの行き先に詳しい子。地蔵に話しかける子。猫を追いかける子…など目まぐるしい世界がそこにはあった。 先生はその一つ一つを見逃さず注意し統制を保っている。このようにバラバラな子ども達が車・自転車が通る度にピタッと歩みを止め「右見て〜左見て〜」と安全確認を繰り返す姿に先生方の努力を垣間見た。 たどり着いた公園で僕はただただ立ち尽くしているだけで、両手に抱えきれないほどの松ぼっくり、どんぐり、BB弾を手に入れることができた。14人の子ども達が人海戦術で公園に落ちているそれらを拾い集めてくるのだった。 そしてそのままの状態で今度は鬼ごっこ。頂いた品を放棄することは許されず、大荷物のまま走り回った。 その後、子ども達の中で流行っている遊びなのかどうかは謎のままだが、公園にあるはずの無い「人参」を探す旅に出ました。 「畑じゃないから人参はないよ〜」というセリフを気に入ってもらえたようで、子ども達はみんな笑い転げていた。 保育園に戻る時間になって、帰りは誰と手をつなぐか問題でまたひともめ。 先生「行く時と同じ人と手をつなぎましょう」で泣く子が続出。 その時Cちゃんが「先生オシッコ〜」 先生「保育園まで我慢できそう?」 Cちゃん「うん」 緊急事態にみんな泣き止んで早足で帰路につく。途中やはり皆の個性が噴出するも「Cちゃんがトイレ行きたいから!」の呼びかけでみんな我に返り、Cちゃんは無事トイレに間に合った。 12時、子ども達にとっても僕にとっても楽しみな給食の時間。僕は保育園の給食に特別な関心があった。保育園に毎日提出する日誌がある、それによると息子はほぼ毎日給食をおかわりしている。 家では完食することの方が少ない息子、その息子がおかわりするという保育園給食の謎を解き明かしたかった。 その日の給食は中華そば・油揚げと小松菜の煮浸し・プチトマト・リンゴ。その中でも野菜がメインの小松菜の煮浸しに注目、家では確実に残すであろうメニューだ。子ども達は支度のできた順に一列に配膳の前に並び自分で席を見つけて「いただきます」。 息子の支度が遅かったため同じ席には座れなかったものの、離れたところから給食の食べ方を見守った。メインの中華そばを食べ始めるのを見て僕も同じ中華そばに手をつけた。 「おいしい。けど薄い。冷たい。」これが率直な感想。子ども達がどんどん給食を平らげて3回も4回もおかわりする姿に驚いた。ふと息子を見ると副菜皿まで全部ピッカピカに。 保育園では子どもの味に大人が合わせていて、家では大人の味に子どもが合わせているということに今更ながら気付くことができた。 食事中も容赦なく先生に向けて子ども達からのリクエストが飛び交う。 「先生、鼻出た」「先生、こぼれた」「先生、グイってやられた(押された)」「先生、集めて(皿の隅に残った麺をスプーンで集めて欲しい)」 リクエストが聞こえた後の先生の動きは素早い。自分が食べる手をすぐに止め立ち上がり、「鼻出た」と助けを呼ぶ2歳児にはティッシュの位置を目で確認することも無くサッサッスッ(イラスト参照)とあっという間に対処する。 30人ほどいる子ども達をどこから見ているのか、食べこぼしもすぐに処理するし、お話に夢中の子ども達のケアも忘れない。保育のプロに感心しきりの一日でした。 その後はお昼寝の時間。保護者が見ていると興奮して寝られなくなる子がいるからという配慮から、次は子ども達が目を覚ます15時にまた来てくださいということになった。掃除を手伝ってから一旦保育園を出る。近くのカフェで時間まで仕事をしてまた保育園に向かった。 15時になるとお昼寝の部屋に入っても良いという許可が出たので、中に入る。窓からきれいな光が差し込む部屋で布団を並べて寝ている30人の子どもが1人また1人と寝ぼけ眼で起き上がっていく。ある子が「起きた〜?」と眠そうに誰かに声をかける。誰かが「う〜ん」とけだるい声を発する。 しばらくみんな布団でぼんやりしている。こんなに穏やかな光景は見たことがない。先生達と布団を畳み終えると、みんなで一緒におやつを食べて保育参加は16時までで終了。またお迎えの時間(18時)に出直すというのも大変なので、その時間で息子と一緒に保育園を出た。 帰り道、朝とは違う散歩コースを息子に案内してもらって僕が知らない息子だけの思い出の場所を色々と教えてもらった。卒園まで2ヵ月…。僕はしんみりしていた。 その後、息子から「次はいつ来る?」と言われる日々が始まり「チャンスは一回きりなんだ」と説得している毎日です。 つづく
2017年03月07日こだわり息子のこだわり方は、なかなかややこしいというお話です。 スーパーにグラノーラを買いに行きました。お目当ての陳列棚を見つけると息子の動きが怪しい。同じ商品なのに、列の後ろの方から取り出したいらしい。 手前の商品が崩れてしまうので「全部同じものだから前から取って」と言っても「これがいい〜!」の一点張りで奥の方に手を伸ばす。 こういう流れが2、3回続くとかなりしんどいので崩れた棚は自分で直させるようにしたのですが、その並べ方が独特で、箱を積み木のように積み上げるので嫌になります。 家に着くと廊下で急に「抱っこがいい!」。 僕は背中にリュック、両手に買い物袋を持っていたので「後でしてあげる」と言って前に進むと、「ここでして欲しい!」と得意の一点張りが始まります。 抱っこをする地点まで指定し、そこから動きません。 なんとか説得して部屋にたどり着いてからも「廊下のあそこでして欲しかったのー!」と駄目押ししてくるので、 「じゃあ、お父さんのリュックと買い物袋持ってくれる?」と言うと、 「こんなに小さい手だから無理なの〜」と、か弱さアピール。 夕食時、お次はみかんのむき方でもめる。みかんをご機嫌でむき終えた息子は「見て〜タコさーん」とタコ型みかんの皮を披露してきた。 「ホントだ〜タコさんみたい〜」と返すと「タコさんはもっと足がいっぱいなの!」となんとも理不尽な怒り方。 就寝前には寝相を巡って妻と激突。息子は妻の隣で妻に対して直角に寝転び妻の顔を足で蹴り始めるので、小競り合いの末に布団に収納される。 冬でも掛け布団を嫌い、遊牧民のように寝室内を移動し、朝になって部屋の片隅で発見される。 目が覚めると僕の作業場にダッシュしてきて仕事を妨害した後、無言で出窓に腰掛けて外の景色を眺めている。 僕の部屋の窓がお気に入りの場所のようだ。僕は息子が窓枠に収まって外を見ている姿が好きなのでそれを見たいがために部屋を片付けるようになった。 息子のややこしいこだわりもたまには良い効果を生んでくれるのでした。
2017年02月28日保育園の先生やお友達のママが妊娠しているのを知った息子は、お腹の中に赤ちゃんがいるという不思議に取りつかれている。 「僕もこーんなに小さかったの?」と人差し指と親指の間隔をギリギリまで縮めて尋ねてきた。 「そうだよ」と答えると「卵がマンションにぶつかってパカって(割れて)生まれたの?」と重ねて聞いてきた。 どうやら絵本で見た「ばいきんまん」の誕生シーンを覚えているらしい。 「お母さんのお腹の中でこれぐらいまで大きくなって外に出てきたんだよ」 「お母さんがお腹の赤ちゃんの分までいっぱいご飯を食べて大きくなった」 と伝えても、まだあまりピンと来ていない様子の息子だったけれど真剣に聞いていた。 ふと思い立ってアルバムに残してあるエコー写真を取り出して見せてあげた。 一枚目の写真を取り出すと、妻の妊娠が分かった時のことを思い出した。 子どもという言葉を聞いてすぐに有頂天になってしまった僕に妻は苛立っていて、少し冷静になった僕は確認するまでは静かにしていようと思った。 そして、大きな期待と不安を一緒に抱えて、妻と二人で初めての産婦人科に行った。 待合で一人の時間、心細くて気持ち悪くなって病院備え付けのウォーターサーバを何度も往復して冷たい水を飲んだ。 興味の無い雑誌をめくり、部屋に飾られた作者も分からない絵画を見つめ、止まったような時間を過ごしていた。 「赤ちゃん元気ですよ」 お医者さんのその一言で全ての重圧が無くなって、「お〜」と感嘆の声を上げた。(妻の姿にも驚いた)そして最後に先生がエコー写真を見ながらお話をしてくれた。 ほとんど黒の写真の中にツブツブがいくつか確認できる。 お医者さんが指で示す先のツブが生命体であるらしい。 先ほどの感動とは裏腹に「これがいかにして育つのだろうか?」という新たな期待、不安が生まれる。 30歳の僕が3歳の息子と同じように生命の不思議に夢中になった瞬間だった。
2017年02月21日朝型人間の僕は午前4時起床で自宅アトリエの机に向かっている。 早朝の静けさの中でペンを走らせるこの瞬間は一際集中力が高まる貴重な時間となっている。 が、しかし午前7時、アトリエに忍び寄る足音。 ドタドタドタっ! ノックの音も無くガチャッとドアが開き静寂は破られる。 「お父さん!遊ぼ!」息子登場。 「ちょっと待って、今お仕事中!」 「ぼくもお仕事する~」 といういつもの光景。 僕のペンを奪い取り迷い無くグルグルを描き始める息子の頭の中を想像してみると… これはマズい。 「イラストレーターはお絵描きをするだけのお仕事じゃないんだ。まず依頼主がいてね…」 なんて説明が通じるはずもないので、ひとまず息子が知り得る範囲のお仕事(職業)を息子の頭に詰め込んでみる。 「ほら、昨日家にお爺ちゃんからの荷物を届けてくれたのはクロネコヤマトの配達員のお仕事だし、 保育園の帰り道に大きな穴を開けて道路工事していたのは建設会社の人のお仕事、 これから朝ご飯で食べるパンはパン屋さんがお仕事で作ってる。 他にもまだまだお仕事はいっぱいあるんだよ。」 こうして息子がたどった、なりたい職業の変遷はというと… まずは大好きなアニメ「アンパンマン」の「しょくぱんまん」に憧れ、 街中でいつも見かける宅急便のミニカーを手に入れると配達員に思いを馳せ、 ダンプカーを間近で見た時にはタイヤのサイズに圧倒されタイヤを作る人になりたいと言い出した。 その後ダーギリンガーという未だ謎の職業も飛び出し、 そして2017年、辿り着いた職業は… 年始に保育園で獅子舞に噛んでもらった衝撃により、 なりたい1位にその獅子舞がランクイン! 「大きくなったら、お父さんも噛んであげる」 という宣戦布告によりこの一幕は閉じた。 保育園の先生の後日談 「獅子舞に噛まれてみんな泣いていたのに息子さんひとりだけ泣きませんでした。 転んでも獅子舞に噛んでもらったから大丈夫と言って立ち上がりました。」 息子は獅子舞を怖いものではなく有り難いものとして受け取ることに成功したようです。 息子が立派な獅子舞になれますように。
2017年02月14日はじめましてイラストレーターの田渕正敏です。妻と3 歳の息子と暮らしています。 子どもが生まれてからは不思議なこと面白いことの連続で自然と日記をつけるようになりました。 僕は自宅兼アトリエで仕事をしており、昼は仕事で絵を描いて夜は息子と遊びで絵を描くような生活をしています。 2~3 歳になるとこだわりのようなものが芽生えたようで、粘土遊びをしていてもそれが炸裂します。 一緒に作り始めてもいつの間にか息子は発注者、僕は受注者になります。 だんだん息子より真剣になってしまったりする僕ですが、息子は手を動かすよりも「(キャラの)体もつくる(つくれ)」だの「ほっぺ(のパーツ)が無い」だのと、指示出しの方が多いディレクタータイプ。 完成して「良い感じ?」と見せると、「合格」。やかましわ! そして数秒後には踏み潰してスクラップ。 王様です。妻がその様子を見て一言。 「マジでやかましいわ!」と心中で叫び、しかし求められる仕事を正確に仕上げるのが下請けの心得なりと気持ちを落ち着かせる。それが次の仕事に繋がるのだ。 そして粘土再開。完成品を息子に手渡す…。 家族に仕事に「下請け」感が漂う僕の日常ですが、くらしの中で起きる小さくて、大きな事件や気づきに内心で大興奮する日々を、パパの目線からお送りしたいと思います。
2017年02月08日