世田谷区を中心に、様々な得意分野を持ったお母さんたちが集まった、 デザイン・編集チーム。「楽しい」「心に届く」を大切に、デザイン、 編集、撮影を請負い、自ら出版、商品制作、情報発信もします。子育て、食、暮らし、旅、女性の生き方など様々なテーマの書籍や紙媒体の編集制作、記事執筆を行っています。
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子どもが宿題や習い事の練習をさぼったり、成績がふるわなかった時、つい強く叱りすぎてしまったり、時には罰を与えてしまったり…。もしかしたらそれは「教育虐待」かもしれません。『追いつめる親』『習い事狂騒曲』の著者であり、教育ジャーナリストのおおたとしまささんにお話をうかがいました。
認知度が上がり、世間の理解が深まりつつある、発達障害。ですが、まだまだネガティブな受け取り方をされることが多いように思えます。誤解されやすい発達障害の人たちを、独特なスタイルをもつ「少数派の種族」と評する信州大学医学部付属病院で子どものこころ診療部部長・診療教授である本田秀夫先生。そんな本田先生に、発達障害とは? 療育の本当の意味は? をおうかがいしました。
世の中は空前の片づけブームですが、いろいろなメソッドを試してみたものの、うまくいかないという人も多いのでは? そこで、ASD(自閉症スペクトラム)当事者であり『発達障害の人の「片づけスキル」を伸ばす本』の著者でもある言語聴覚士の村上由美さんに、少しの工夫で苦手な人でもできる「片づけのコツ」について、3回にわたってお話をうかがいました。。
NHK総合テレビ「あさイチ」の“スーパー主婦”シリーズで、“片づけの達人”として大人気の井田典子さん。「だ(出す)」「わ(分ける)」「へ(減らす)」「し(しまう)」というシンプルなルールで、数々の片づけが苦手な主婦の悩みを解決してきました。そんな井田さんに、「家の中のモノを数える」ことから始めるすっきりしたくらし、今からできる「年末年始の大掃除法」、「片づけを通して子どもに学んでほしいこと」についてうかがいました。
ママ友のオチのない長話に付き合わされたり、子育てに口をはさむ両親にうんざりしたり…。実はそれ、人間関係の「バウンダリー・オーバー(境界線越え)」が起こっている状態です。自分と他人の「境界線」をうまく引いたりコントロールできるようになれば、人間関係でストレスを感じるケースがぐっと減るのではないでしょうか。心理カウンセラー・おのころ心平さんに、心が軽くなる“人と自分の境界線の引き方”についてうかがいました。
バウンダリーとは、自分と他者の間にある境界線のこと。これまでは、自分の領域に侵入されて困っている側の話でしたが、最終回は 相手の領域に侵入 してしまう側の悩みを取り上げます。 「子どもに毎日の出来事を細かく聞いてしまう」「子どもの友だち関係が気になってつい干渉してしまう」といった 親子間でのバウンダリー・オーバー(境界線超え) を防ぐには、どうしたらいいのか? 『人間関係 境界線(バウンダリー)の上手な引き方』 (同文舘出版)の著者であるおのころ心平さんに、話を聞きました。 お話をうかがったのは… おのころ心平さん 一般社団法人自然治癒力学校理事長。ココロとカラダをつなぐカウンセラーとして、これまで2万4000件、約5万時間のカウンセリング経験を持つ。経営者、アスリート、文化人など多くのクライアントのセルフケアを請け負っているほか、パーソナル医療コーディネーターとして病院や治療法、医療選択もサポート。セミナー・講演回数は年150回を超える。 ・オフィシャルブログ ■子どもに「今日、何した?」としつこく聞いてしまう 子どもの園や学校でのようすが気になり、「今日は何をしたの?」「何が楽しかった?」「何かイヤなことなかった?」と聞いてしまう。親心からくる言動ではありますが、これもバウンダリー・オーバーなのでしょうか。 「本人がイヤがってなければOKなのですが、答えてくれないのに繰り返し聞いているのなら、それは 親から子どもへのバウンダリー・オーバー といえます。まだ小さいとはいえ、子どもには子どもなりの感情世界があります。あまりしつこくすると、小学校の中・高学年では 親用の顔 とふだんの顔を使い分けるようになってしまいますよ」(おのころさん) とはいえ、園や学校での様子をいっさい聞かずに、知らないでいるのも不安なものです。そこで、おのころさんが提案するのは、「 月に1、2回、親子でじっくりと話をする日 を設定する」という方法です。 「矢継ぎ早に聞かれるのは、子どもからしたら“言葉の機関銃”を撃たれているようなもので息苦しくなってしまう。あらかじめ『学校のことはこの日に話そう』と伝えておくと、子どもも心の準備ができます。もし人間関係や勉強などで問題を抱えていても、その日に向けて解決するように頑張ってくれるかもしれませんよ」(おのころさん) 大人と同じで、子どもにも良い日もあれば悪い日もあるのが当たり前。「今日どうだった?」と早急に結果を求めるのではなく、「最近どう?」くらいの長いスパンで話を聞いてあげるといいでしょう。おのころさん自身、3人の娘さんが小・中学生の頃には毎月1回、ひとりずつとデートしていたのだそう。 「家にいると、どうしても仕事や学校などほかのことが入り込んできてしまいます。2人きりで外出することで特別な空間を作り、 『あなたが一番だよ』 と伝えて、とことん甘やかしてあげる。そうすると 本音 が出てきて、『実はね…』とふだん話さないような話もしてくれていましたね」(おのころさん) きょうだいのいる家庭では、ぜひマネしてみたいアイディアです。 ■子どもの友人関係「ついつい口を出してしまう…」 子どもが成長するにつれて、気になるのが 友人関係 。子どもの自主性を尊重しなければと思いつつも、 乱暴な子や言葉づかいの悪い子 とはあまり付き合って欲しくない、と考えてしまう親も多いでしょう。 「でも、乱暴とか言葉づかいがというのは、その子の一面に過ぎませんよね。世の中には、大人だけに良い顔をする子もたくさんいます。子どもの判断で付き合っているのだから、きっとその友だちには違う面があるのではないでしょうか? 気になる場合は、子どもに 『お友だちのどこが好きなの?』『どういうところが良いの?』 と聞いてみるといいでしょう。そのうえで、『そんなに良いところがあるんだね』『良い部分を引き出してあげるあなたもすごいね』と、ほめてあげるといい。そうすると子どもはますます、相手の 良いところを引き出せる人間 に成長していきますよ」(おのころさん) たとえ今は“悪い子”に見えても、周囲から良い影響を受けることで変わっていく可能性は大いにあります。子どもの選択を尊重してあげつつ、成長を広い心で見守ってあげるといいでしょう。 ■子どもの宿題や支度「必要以上に手伝うのは過保護?」 幼少期なら、親が子どもの世話をするのは当たり前。でも、子どもが成長しているのにいつまでも介入し続けるのは、子どもの世界へのバウンダリー・オーバーです。 「いわゆる過保護の問題の背景には、 親側の不安 があります。宿題をやってあげるのは、自分が子ども時代に宿題で失敗した経験の影響かもしれませんし、身支度をやってあげるのは自分が忘れ物をして悲しい思いをした記憶が残っているからかもしれません」(おのころさん) 「恥をかかせたくない」「傷つけたくない」という親心は一見、子どものために思えますが、実は 自分の欲求 を満たそうとしているだけにすぎないのです。 「子どもには子ども自身の 感情世界 があり、園や学校、友だち、先生など、複雑な人間関係のなかで生きています。“脳の中の判断ルーム”を 親が占拠 するのは良いとはいえないですね」(おのころさん) 親と子の間にバウンダリーがあることを意識しておけば、もし超えてしまった場合も 同じ過ちを繰り返さない ように心がけることができます。 ママたちの人間関係はとても複雑。自分の領域に侵入されて困ることもあれば、自分が行きすぎて失敗してしまうこともあるでしょう。人間関係を円滑にしてストレスから身を守るために、 「バウンダリーを上手に引く」 という考え方を取り入れてみてはいかがでしょうか。 参考図書: 『人間関係 境界線(バウンダリー)の上手な引き方』 (同文舘出版) おのころ 心平 著 1,512円(税込) 24年間、のべ5万時間以上のカウンセリングから導き出した「病気にならない心理学」の本。快適でベストな人間関係を築くために、自分と相手とのバウンダリー(境界線)を引くことを提唱する。表情・しぐさ・言葉遣いをほんの少し変えるだけで「自分の領域」を守る方法や、バウンダリー上手な人になるためのテクニックを紹介。 イラスト/野原広子 取材・文/まちとこ出版社 渡辺裕希子
2018年08月07日心地よい人間関係を築くために、大切なのは 他者との間にバウンダリー(境界線)を引く こと。相手の侵入を許したままにしておくと、ストレスを抱え込んでしまい、病気になってしまう可能性もあります。 前回 までは「バウンダリー・オーバー(境界線越え)とは何か」「上手なバウンダリーの引き方」などをテーマに、“ココロとカラダをつなぐカウンセラー”として活躍しているおのころ心平さんにうかがいました。連載3回目となる今回は、 ママ友や両親、義理の両親 など、ママを取り巻く具体的な人間関係について、よりくわしくお聞きします。 お話をうかがったのは… おのころ心平さん 一般社団法人自然治癒力学校理事長。ココロとカラダをつなぐカウンセラーとして、これまで2万4000件、約5万時間のカウンセリング経験を持つ。経営者、アスリート、文化人など多くのクライアントのセルフケアを請け負っているほか、パーソナル医療コーディネーターとして病院や治療法、医療選択もサポート。セミナー・講演回数は年150回を超える。 ・オフィシャルブログ ■ママ友「付き合うのが苦痛…どうしたらいい?」 一般的な友人とは異なり、距離の取り方が難しいのがママ友関係。バウンダリーを超えてズカズカと踏み込んで来るママ友に、悩まされている人は多いでしょう。そこで、よくあるママ友の悩みについて、対処法をお聞きしました。 1. 長話が止まらないママ友 ひんぱんに呼び止めて長話をしてくるママ友。忙しいのに迷惑だけれど、今後の付き合いを考えると角を立てたくはない。そんな時にはどうしたらいいのでしょうか。 「あいづちを使って、相手の話のリズムを狂わせるテクニックを使ってみましょう。最初は『うん、うん、うん』と調子よくあいづちを打っておいて、肝心なところでは『うん』と言わない。または『そう、そう、そう』と言っておいて、ある時に『そう?』と語尾を上げてみる。そうすると相手が驚いて話の流れが止まり、切り上げるきっかけができます」(おのころさん) 第1回 で紹介した「手のひらを体の前に突き出してクルッと円を描く」という方法もおすすめです。 2. なにかと張り合ってくるママ友 なにかにつけて「私も」「私の場合は」「私の方が」と張り合ってくるママ友。会話を仕切って主役になろうとしたり、持ち物や洋服をまねしてきたりと、やっかいな存在です。 「いつも話の中心にいたがる人には、その人の好きな芸能人など憧れの人を聞き出してみましょう。会話の中心にその話題を持って来ると、張り合ってくることは少なくなります。一方で、もしあなたのまねをしてくるのなら、あなたの目標や夢などを一度ゆっくり話してみてはいかがでしょう。意外と良き理解者になるかもしれません」(おのころさん) 3. 愚痴ばかり言ってくるママ友 家庭や園、学校、職場など、あらゆる愚痴を延々と話してくるママ友。聞いているだけで、こちらまで暗い気持ちになってしまいます。 「愚痴を言う人は長年その考え方で生きているのですから、考え方を変えるのはかなり大変。ポジティブなアドバイスをすればするほど、相手に愚痴の材料を与えてしまいます。愚痴を言う人と話をするなら、最初の5分だけというように時間を区切りましょう。その後はスマホを見たりその場に通る人にあいさつをしたりと、空気を変えながら場を離れる機会を探るといいでしょう」(おのころさん) よほどの覚悟がない限り、相手を変えようとは思わないほうが良さそうです。 ■両親や義両親「ありがたいけどイライラする…悩んでいます」 多くのママが頭を悩ませているのが、実の両親や義理の両親との関係。孫の教育に口を出してきたり、こちらの生活に干渉してきたり。そんな時の対処法をお聞きしました。 1. 実の母親が孫の教育を押し付けてくる 子どもにとってはおばあちゃんにあたる実母が、小学校受験の情報を調べたり習い事をすすめてきたりと、教育を押しつけてくる。孫をかわいがってくれるのはありがたいけれど、教育にまで口を出されて迷惑をしている、というケース。実の母親だけに、どう伝えるか迷うところです。 「まずはなぜそんなに孫に関わりたいのか、理由を考えてみましょう。子どもや孫に期待する背景には、劣等感や不安が隠れていることが多いんです。自分が昔、勉強ができなくて辛い思いをしてきたのかもしれませんね」(おのころさん) 不安を与えないために「子どもはちゃんと頑張っていて、評価されている」と先に報告をしてあげるといいのだそう。 「それでも口出しをやめない場合は、『お母さんには関係ないでしょ』とガツンと言い、その後に『さっきはごめんね』といフォローするといいでしょう。お母さんは落ち込むかもしれませんが、言われた言葉はずっと残るので、2度と言ってこなくなるはずです」(おのころさん) 少し勇気がいりますが、気心の知れた親子だからこそ使えるテクニックといえます。 2. 同居している義理の母親が生活に干渉してくる 同居といえども、お互いの生活になるべく干渉しないのがルール。なのに、近所の人に「嫁が外出ばかりしている」「子どもの面倒を見ていない」と言いふらされている。こうした嫁姑の問題には、どう対処したらいいのでしょう。 「義理のお母さんの良いところを見つけて、あえて相手をほめてあげる、という手があります。ほめられると悪い気はしませんし、自分をほめてくれる人は良い人だと思うもの。すると意外と周囲に『うちの嫁はすごいのよ』と自慢するんですよ」(おのころさん) イヤなことを言われているのに、相手を持ち上げるのは納得がいかないかもしれませんが、親とはこれからもずっと付き合っていかなければいけません。そこはぐっと我慢。自分の器を大きくして、人間関係を良くすることに努めましょう。 次回は、子どもに対するバウンダリー・オーバーとその対処法についてお聞きします。 参考図書: 『人間関係 境界線(バウンダリー)の上手な引き方』 (同文舘出版) おのころ 心平 著 1,512円(税込) 24年間、のべ5万時間以上のカウンセリングから導き出した「病気にならない心理学」の本。快適でベストな人間関係を築くために、自分と相手とのバウンダリー(境界線)を引くことを提唱する。表情・しぐさ・言葉遣いをほんの少し変えるだけで「自分の領域」を守る方法や、バウンダリー上手な人になるためのテクニックを紹介。 イラスト/野原広子 取材・文/まちとこ出版社 渡辺裕希子
2018年08月03日いつもの旅に少しの工夫を加えることで子どもの成長をうながす「旅育」。 『家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ 旅育BOOK』 (日本実業出版社)の著者で旅行ジャーナリストの村田和子さんに、前回は、旅のプラン作りや準備のコツについてお聞きしました。 今回のテーマは、旅先での旅育。持て余しがちな移動時間はどう過ごしたらいいのか、親はどう関わったら良いのか、旅の思い出を定着させるテクニックなどをうかがいました。 お話をうかがったのは… 村田和子さん 旅行ジャーナリスト。1969年生まれ、1児の母。子どもが生後4カ月の時に家族旅行を開始し、9歳までに47都道府県を制覇。『All About』では2001年からガイドを務めているほか、『週刊文春』では子連れ旅行の連載、JALサイトの『初めての子連れ海外』ページを監修・執筆するなど、家族で旅をする魅力やヒントを多方面で伝え、2013年には子どもの生きる力を育む「家族で旅育メソッド」を発表。子どもが旅育を実践し中学入試で志望校に合格したことを機に『プレジテンドファミリー』『AERA with Kids』『日経DUAL』をはじめ雑誌・新聞・ウェブで注目を集める。 「家族deたびいく」 運営。旅行業務取扱管理者・クルーズコンサルタント。 ・公式ホームページ(トラベルナレッジ) ■話す・遊ぶで“退屈”を吹き飛ばす「移動時間」 ――子連れにとって、移動時間は大きな課題です。私自身、6歳息子と出かける時は、一緒に遊んであげなきゃと思いつつゲームやタブレットに頼ってしまうことがあります。 村田和子さん(以下、村田さん):ゲームをやること自体は悪くないんですよ。大人がスマホをさわっているのに、子どもにだけ「ゲームをしちゃダメ」というのは説得力がないですしね(笑)。 事前に「最初の30分は自由時間にしよう。ゲームをしてもいいし、ママもスマホを見るね。でもその後の30分はお話しようね」というように、時間を区切り、ちゃんとできたらほめれば、それも成功体験になります。最初、一緒にルールを決めると、子どもは案外守れるものですよ。 一番避けたいのは、子どもが騒いだらゲームを渡す、というやり方。騒げばゲームができるんだとなり、負のスパイラルにはまってしまいます。 そもそも、移動中は家族が一緒に過ごせる貴重なチャンスなんです。ふだんは聞けない学校や園での様子も、旅の楽しい雰囲気に押されて話してくれるかもしれません。会話だけではなく、小さなお子さんは簡単なクイズやしりとり、計算ができるお子さんなら車のナンバーで足し算クイズなどをすると、遊びながら自然と学びにつなげられます。 ■子どもの新しい一面を発見できる「旅の目標」 ――移動は大変というマイナスイメージを持つよりも、旅育に活用するといいんですね。旅先ではどう過ごすと、より効果的なのでしょうか 村田さん:なにか目標を持たせるといいと思います。未就学児なら、「元気にあいさつをする」「自分の荷物は自分で持つ」といった約束をして、ちゃんとできたら具体的にほめてあげる。 すると「できた」という成功体験が心に刻まれ、自己肯定力が養われていきます。旅先では親以外にも、仲居さんや施設のスタッフ、通りすがりの人など、いろいろな人がほめてくれる機会も多くあります。それまで気づかなかった子どもの長所をほめてもらえることもあり、親にとっても発見があります。 小学校中学年以上なら、会計係を任せる、時刻表を調べてもらうなどの役割をお願いするのも良いでしょう。考える力がついて学習に役立つほか、頼られることで自主性と責任感が身につきます。 ――親として、何かやるべきことはあるのでしょうか。 村田さん:子どもの「なぜ?」「なに?」にはとことん付き合うこと。今はスマホで一緒に調べればすぐにわかりますし、「どうしてだろうね?」と子どもが自ら考える時間を持つ方法もいいでしょう。 旅行中は時間に余裕がある分、子どもの小さな疑問や好奇心を見逃さないようにしたいですね。帰宅後にも図鑑で調べたり、博物館に足を運んだりして、学びを深めるのも良いと思います 親自身が興味を持って旅を楽しむことも大切です。例えば、めずらしい料理が出てきたら、スタッフの方に「これはなんですか? この土地のものですか?」と聞くのもいいでしょう。子どもは親をよく見ていて、親のマネをします。親のそういった姿に、子どももやる気になるものです。 ■旅の記憶を定着させる旅先からの「絵ハガキ」 ――旅行中はとても楽しそうだった子どもが、数日後にはすっかり忘れて日常に戻ってしまう。仕方がないのかもしれませんが、もったいなく感じてしまいます。 村田さん:子どもの毎日は刺激の連続ですから、放っておくと忘れてしまい、がっかりということもありますよね。私が実践しているのは、旅先から1枚の絵ハガキを送ること。後日届いた絵ハガキを見ながら「これ見たね」「こんなことしたね」と会話をすることで、旅の記憶が定着していきます。 絵ハガキは場所を取らないので、保存しやすいのもメリットです。最初はハガキからはみ出しそうな字でひらがなしか書けなかった息子が、だんだんと漢字を交えた長文を書けるようになり、思春期になると面倒がってひとことコメントだけになる(笑)。子どもの成長がダイレクトに残るので、後で見返すと面白いですよ。 ■中学受験直前まで続けた「週末旅行」 ――小さな頃から旅育を続けると、家族の思い出も増えていくわけですね。わが家は子どもが小学生になり、旅が難しくなったと感じてします。未就学児のうちに、もっと行っておけばよかったと後悔しています。 村田さん:小学生になると、どうしても週末限定になってしまいますよね。わが家の場合、金曜の夕方に出発して日曜に戻ってくる、というパターンが定番でした。 学校のスケジュールを見ながら、テストや行事に影響が出ない日程を選ぶので、旅行を決めるのはいつも直前でしたね。それでも、中学入試の直前まで毎月1回のペースで行き続けていました。 ――入試の直前まで! 試験前は勉強に集中させる家庭が多いなか、変わらずに旅を続けられたんですね。 村田さん:私は「旅育からの中学受験」と呼んでいるのですが、息子は小学5年生までは塾に通わず、旅で得た経験をベースに学びを深めていました。小さい頃から地図を見ながら旅をしていたので、日本地図は学校で習う前から頭に入っていましたし、その土地の産業や気候といった知識も体験とひもづけて役立ったようです。 小学校中学年からは、教科書に載っている史跡や絵画などを見に行く旅も、子どもの興味に応じてしていました。こうした体験は、単なる暗記ではなく、本質的な学びにつながります。 ――旅育で育った息子さんは現在17歳。息子さんご自身は、これまでの旅についてどう言っていますか? 村田さん:人と出会い、いろいろな体験ができたことがためになったと言っています。特に、素晴らしく美しい料理を作るシェフ、知識豊富で話上手なバスガイドさん、カツオをさばいてタタキにする方法を教えてくれた漁師さんなど、その道のプロフェッショナルとの出会いが印象的だったようです。 旅で身につけた力は、子どもにとって一生の財産となります。息子は17歳になり、旅育の経験を生かして、自ら人生を切り開く次のステージになりました。今までの経験から得た旅育の魅力やノウハウを、次世代の親御さんをはじめ多くの方に伝えたいと思い、 『家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ 旅育BOOK』 を執筆しました。多くの方が旅育を実践するきっかけになればうれしいです。 また、私も旅育の環境整備など、今後もライフワークとして「旅育」に関わっていきたいと思います。 親子で旅をできる時間は案外少ないもの。筆者も荷物運びを手伝ってくれたり、6時間のトレッキングを達成したりと、成長していく息子の姿に旅の力を実感しています。家族それぞれの形で、旅育に挑戦してみてはいかがでしょうか。 参考図書: 『家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ 旅育BOOK』 (日本実業出版社) 村田和子著 1,512円(税込) 旅を通じて子どもの脳を刺激し、自立心や感受性、行動力、考える力などを育む「旅育」。旅行ジャーナリストの村田和子氏が十数年の親子旅の経験をもとにした旅育の5つの基本メソッドと、実践するための25のヒントを紹介する。47都道府県の親子旅を経験した著者が選ぶおすすめスポットやモデルコースに加え、星野リゾート代表・星野佳路氏に聞いた「子どもにとっての旅の効果・効能」、茂木健一郎先生の旅×脳コラムなども掲載。 取材・文/まちとこ出版社 渡辺裕希子
2018年08月02日自分と他人の間にあるバウンダリー(境界線)に侵入を許している状態を、心理学的には 「バウンダリー・オーバー(境界線越え)」 と呼びます。長話や愚痴に付き合わされたり、張り合ってマウンティングを取ってきたり。放置しておくとストレスをため込み、体を壊してしまうことも! やっかいなバウンダリー・オーバーを防ぐにはどうしたらいいのか。 『人間関係 境界線(バウンダリー)の上手な引き方』 (同文舘出版)を執筆したココロとカラダをつなぐカウンセラー、おのころ心平さんに、相手に気づかれない「さりげなくバウンダリーを引く簡単なテクニック」をうかがいました。 お話をうかがったのは… おのころ心平さん 一般社団法人自然治癒力学校理事長。ココロとカラダをつなぐカウンセラーとして、これまで2万4000件、約5万時間のカウンセリング経験を持つ。経営者、アスリート、文化人など多くのクライアントのセルフケアを請け負っているほか、パーソナル医療コーディネーターとして病院や治療法、医療選択もサポート。セミナー・講演回数は年150回を超える。 ・オフィシャルブログ ■他人に踏み込まれる前に「上手に境界線を引く」4つのルール バウンダリー上手な人、すなわちバウンダリー・オーバーをされにくい人には特徴があります。「この人の領域に踏み込んではいけない」と感じさせる人になるには、どうしたらいいのでしょうか? おのころさんがおすすめするテクニックの中から、特に日常に取り入れやすい4つをピックアップしてご紹介しましょう。 1. 口角を上げる 「口角が上がっている人は幸せそうに見えるから、愚痴を言う人が寄ってきません。反対に、いつも不安そうにしている人には、おせっかいがやってきます」(おのころさん) 疲れているとつい口角が下がった表情になってしまいますが、無理やりにでもキュッと上げると、気持ちも変わってくるものです。嫌なことを遠ざけて幸せを呼び込むために、いつも口角の上がった表情を心がけましょう。 「ちなみに、両方の口角を上げると消化器官が上に持ち上がるといわれています。胃腸全体が制御される効果も期待できるので、一挙両得かもしれません」(おのころさん) 2.謎めいた雰囲気を作る ママ友や同僚に、自分や家族のことをなんでも話していませんか? もちろん、聞かれたことや基本的なことは話してOKですが、職業や趣味などすべてを開けっぴろげに話す必要はありません。自分の情報を制御することで、なかなか踏み入ることができない印象を相手に与え、周囲が自然とバウンダリーを引いてくれるので気楽です。 「芸能人や会社役員の方に共通しているのが、余計なことは話さないこと。職業柄、ほかの人が自分の領域に踏み込まないように、自然と境界線を引くテクニックが身についているのかもしれませんね」(おのころさん) 3.集団の中で突然、しばらく姿を消す 集団でいる時、フッと5分ほど姿を消し、また戻ってくるという方法も効果的です。 「これは僕もよくやるんですが、相手に『どこにいっちゃんだろう』というちょっとした不安を与えます。『この人には理解しがたい部分がある』と思われ、関係を変える良いきっかけ作りになります」(おのころさん) この方法は、SNSの世界でも応用可能です。例えば、ママ友のLINEグループが意味もなくダラダラと続いていると感じたら、機を見てスッとグループから抜けると良いでしょう。自分の基準を持って行動できる人は周囲から一目置かれて、バウンダリーに踏み込まれる可能性が低くなります。 4.物事を自分で決められる人になる 友人と約束する時、時間や場所の決定をいつも他人任せにしていませんか? あるいは、レストランでいつも誰かと同じものを注文していませんか? このように、自分で決めるリスクを引き受けず、相手に決定権を預けてしまう人は要注意です。 「こういう人は、相手に依存していながら『本当はこっちが良かったのに』と不満を持って生きている場合が少なくありません。自分の人生に主導権を取り戻すには、自分が決定するという習慣を実践してください」(おのころさん) 例えば、みんなで食事に行く際「この店にしようよ」と提案するなど、小さなことから始めてみましょう。ふだんから「この人は自分で決める人だ」という印象を与えておくと、人間関係においても主導権を握ることにつながります。 ■自分の領域から相手を追い出す「しぐさで境界線を引く」3つのテクニック 前章では、「バウンダリー・オーバーをされにくい人になる」テクニックをご紹介しましたが、それではもう遅い! 今、まさにバウンダリー・オーバーをされているという場合は、どうしたらいいのでしょうか? そんな時には、さりげないしぐさを使って意思表示をする方法がおすすめです。「特に手と腕を使うと、言葉以上に強力なメッセージが伝えられます」とおのころさん。日常生活に活用しやすい3つのしぐさをご紹介します。 1. 自分を守りたい時は「腕を組む」 ふだんから何気なく腕組みをする、という人は多いでしょう。これ以上自分のことを聞かれたくない時や、相手の意見に同意できない時には、意識的に腕を組んでみるといいでしょう。 「胸のあたりは、“セルフゾーン”と呼ばれています。自慢したい時には胸を張りますが、自分を守りたい時には前かがみになってしまいますよね。腕組みは、相手が自分の領域に入ってくるのを防ぐ代表的なしぐさです」(おのころさん) 2. 退屈な時は「左肩を下げる」 相手との会話に飽きてきた時におすすめなのが、左肩を少しだけ下げるしぐさ。 「カウンセリングをしている時によく見られるサインですが、これを意識的に使うことで『退屈です』『話題を変えませんか』といった相手へのメッセージとなります」(おのころさん) 逆に右肩を下げると、「不機嫌です」「がっかりしています」というサインになるのだそう。相手の怒りを買うことがなく、遠回しに気持ちを伝えられます。 3. 長話をとめたい時は「手を上下させる」 手を振る動きも、バウンダリーを引くために有効です。 「会話をしながら手を上下させることで、『この辺で決めましょう』と責任の所在を明らかにしたり、『もう話は終わりにしましょう』と時間的な制限を伝えたり、といった使い方ができます」(おのころさん) また、 第1回 で紹介した“手のひらを突き出してクルリと円を描くテクニック”もおすすめです。 次回は、誰にでも起こりうるバウンダリー・オーバーの問題を例に、おのころさんからのより具体的なアドバイスをご紹介しましょう。 参考図書: 『人間関係 境界線(バウンダリー)の上手な引き方』 (同文舘出版) おのころ 心平 著 1,512円(税込) 24年間で2万4000件、のべ5万時間以上のカウンセリングから導き出した「病気にならない心理学」の本。快適でベストな人間関係を築くために、自分と相手とのバウンダリー(境界線)を引くことを提唱する。表情・しぐさ・言葉遣いをほんの少し変えるだけで「自分の領域」を守る方法や、バウンダリー上手な人になるためのテクニックを紹介。 イラスト/野原広子 取材・文/まちとこ出版社 渡辺裕希子
2018年07月29日旅を通じて子どもの心と脳を育てる「旅育」。家族旅行はもちろん、帰省や日帰りのレジャーも、子どもを大きく成長させるチャンスです。特に、言葉を理解し始める3歳頃から基礎的な脳が出来上がる9歳頃までは、旅育のゴールデンエイジだといいます。 現在、6歳の息子を持つ筆者も旅育を実践中。そこで、 『家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ 旅育BOOK』 (日本実業出版社)の著者で、旅行ジャーナリストの村田和子さんに旅育についてお話をうかがいました。 お話をうかがったのは… 村田和子さん 旅行ジャーナリスト。1969年生まれ、1児の母。子どもが生後4カ月の時に家族旅行を開始し、9歳までに47都道府県を制覇。『All About』では2001年からガイドを務めているほか、『週刊文春』では子連れ旅行の連載、JALサイトの『初めての子連れ海外』ページを監修・執筆するなど、家族で旅をする魅力やヒントを多方面で伝え、2013年には子どもの生きる力を育む「家族で旅育メソッド」を発表。子どもが旅育を実践し中学入試で志望校に合格したことを機に『プレジテンドファミリー』『AERA with Kids』『日経DUAL』をはじめ雑誌・新聞・ウェブで注目を集める。 「家族deたびいく」 運営。旅行業務取扱管理者・クルーズコンサルタント。 ・公式ホームページ(トラベルナレッジ) ■3歳~9歳が「旅育」のゴールデンエイジ ――村田さんは、現在17歳の息子さんが生後4カ月の頃から親子旅を始め、9歳までに47都道府県を制覇されたと聞きました。当初はまだ、子連れ旅行が一般的ではない時代ですよね。 村田和子さん(以下、村田さん):「小さな子どもを連れて旅行なんてとんでもない」とよく言われましたし、施設側も子連れを受け入れる体制が整っていませんでした。その点、今は子ども向けの施設やプランが充実した宿がたくさんあり、新幹線や飛行機などのサービスも行き届いています。親子で旅に出るには、絶好の時代だと思いますよ。 ――確かにそうですね。私は5年前から親子旅を始めたのですが、おいしそうな離乳食やキッズミールがあったり、キッズルームや子ども向けのイベントが用意されていたりと、レベルの高さを感じます。 村田さん:それに、子どもにとって旅に出ることの重要性は増していると感じます。昔に比べて、今の子どもたちの世界はかなり狭い。子どもたちがふだんふれあう大人は、親御さん、幼稚園や学校の先生、習い事の先生、友だちのお父さんお母さんくらいではないでしょうか。 子どもは自分が知っている世界が社会のすべてだと考えがちなので、日常で自分の居場所が見つけられないと悩んだり、自暴自棄になったりする危険性があります。 実際、私の息子も、男の先生にほめられて自信になっていた「朝の元気なあいさつ」を、小3になり先生が変わった途端「そんなに大きな声を出さなくて結構です」と言われたことで混乱。旅先でもあいさつができなくなってしまったことがあるんです。 「これまでに、たくさんの人に元気なあいさつをしてきたけれどどうだった? そうだよね? 笑顔で返してくれた人やほめてくれた人が多かったよね? 担任の先生は価値観が違うかもしれないけれど、ママはすてきだと思うよ」と話し合って解決したんですが、子どもにとって学校や先生の影響がいかに大きいかを思い知らされました。 ――それは辛いですね。でも、息子さんがすぐに納得してくれたのは、やはり旅を通じて多くの人や価値観とふれあった経験が大きいんでしょうか。 村田さん:そう思います。息子はいかにも社交的で目立つという感じではないんですが、さまざまな地域で暮らす年代も異なる多様な人々との交流を通じて、懐の深い人間に育っていると感じます。 また、旅のトラブルを乗り越えた経験などから、何事にも「手をつくせば、なんとかなる」というタフさや、臨機応変に対応する力は身についたと思います。今の子どもたちが生きてくのは変化の時代ですから、旅育は大いに役立つと考えています。 ――受験勉強だけできればいい、という時代ではないですものね。子どもたちが成長する頃、「生きる力」がますます重要になっていると実感しています。 村田さん:私が提案している「旅育メソッド」では、生きる力を「自己肯定力・コミュニケーション力・知恵を育む力」の3つと定義しています。旅育で一番大切なのは、親子のコミュニケーションです。親のちょっとした心がけや働きかけで、この3つの力はぐんと伸びていきますよ。 特に、言葉を理解し始める3歳頃から、基礎的な脳が出来上がる9歳頃までは旅育のゴールデンエイジですから、積極的に旅に出ることをおすすめします。 ――そうなると、赤ちゃん時代に旅に出ることはあまり意味がないのでしょうか? 確かにうちの息子も、小さい頃の旅はまったく覚えていません。 村田さん:旅にはリフレッシュ効果もあります。親御さんが旅でストレスを解消して、ゆとりを持って子育てをできるのは、子どもにとって大きなメリットだと思います。 また、小さな頃の旅は忘れてしまうので意味がないのでは? と思いがちですが、本の中で脳科学者の茂木健一郎先生が解説してくださったように、記憶には残らなくても、子どもが成長した時、ものの見方や行動に影響を与えると考えられています。 ■「どこに行くか」より「何をするか」 ――周囲のママたちに旅育をすすめると、「楽しそうだけどお金がかかりそう」と言われることが多々あります。 村田さん:旅というと、どうしてもぜいたくなイメージがあるのかもしれません。でも、近場の日帰りレジャーやイベントに出かけるだけも旅育はできるんですよ。 ネットで検索すると、子連れ向けの施設やイベントはたくさん見つかります。肝心なのは「どこに行くか」ではなく「何をするか」。特にお子さんが小さいうちは、無理をして遠出をしなくても大丈夫。日常と違う経験をすることは、それだけで子どもの脳に刺激となります。 ――小さな子を連れた旅やおでかけでは、公共の乗り物や施設で迷惑をかけないか心配、という声もよく耳にします。 村田さん:小さくても旅をする仲間ですから、「どうせわからないだろう」と子ども扱いしないことが大切だと考えます。私は写真や地図を見せて「これからこの場所に行くよ」「電車に◯時間乗るよ」「眠りたい人もいるから、静かにしていようね」などと説明していました。 そして、上手にできたら「頑張れたね! えらいね!」と認めてあげると、子どもにとって成功体験となります。「電車に何分乗るから、その間は何をして遊ぼうか」と相談しながら、子ども自身が持ち物を用意するのもおすすめです。 ――自分で用意をさせると、自主性が身につきそうですね。でも息子が3歳の頃にリュックに入れるおもちゃを選ばせたら「全部持っていく!」と言い張り、荷物がパンパンになってしまった経験があります(笑)。 村田さん:3歳くらいだとまだ自分では気がつかないことも多いので、「全部使って遊ぶ時間あるかな?「持てる? ちょっと背負ってみようか。自分でずっと持つんだよ?」と親が助言してあげたほうがいいでしょうね。 ただ、可能な限り、最終的には本人の判断に任せるのが良いと思います。自分で言い出したことに責任を持つのも大事ですし、失敗から学ぶことも多いと感じます。 ■未就学児&低学年「旅育プラン」3つのアイデア 旅育のモデルプランは無数にあり、どんなプランがいいのかは子どもの個性や発達によってさまざま。「小学校中学年以上の子どもなら話し合いで決めるのも旅育の一環となりますが、小さいうちは親がナビゲートする必要があります」と村田さん。そこで、プラン作りのヒントとなる3つのアイデアを教えていただきました。 1.テーマを決めてとことん追求する! 子どもが興味を持っていることをより深めていくことで、探究心や集中力が育ち、自信にもつながります。例えば、電車好きの子どもなら鉄道博物館に行く、ユニークな観光列車に乗ってみる、鉄道会社のスタンプラリーに参加するなどの選択肢があります。食べることが大好きなら、フルーツ狩りや食品メーカーの工場見学もいいでしょう。 「これといって興味を持っていることが見当たらない、というお子さんは、親の趣味から子どもの成長に合ったものを選んで、お子さんに提案してもOKです。ただし無理強いは禁物。もし子どもが興味を持てないようなら、違うプランを試しましょう」(村田さん) 2.親子でいっしょに「初めて」を体験! 人生経験が豊富な親は、つい「上から目線」で子どもに接してしまいがち。 「親も子もどちらにとっても初めての体験なら、同じスタート地点に立つことができ、親子の連帯感が育まれます。例えば、見たことがない花や動物を見に行ったり、専門家のもとで簡単なトレッキングやアクティビティに参加してみたりといったプランがおすすめですよ」(村田さん) 子どもにとって、初めての体験は深く心に残るもの。小さいうちから親子で、たくさんの“初めて”に挑戦してみましょう。 3.家族で別々に過ごす時間を作る! 旅行中に親子別々の時間を作ってみましょう。子どもは、ホテルにあるキッズクラブや子ども向けの自然体験教室などに参加。親と離れて何かに挑戦することで子どもは一気に成長し、再会した際には「こんなことをしたんだよ」と家族の会話が広がります。 「もし、旅先にキッズクラブや自然体験教室などがなく、子ども1人で参加できる環境が整わないなら、ふだんとは違う家族の組み合わせで行動するのもいいですね。 例えば、ママと一緒に過ごすことが多い子どもは、パパやおばあちゃんと一緒、ママはひとりなど、いつもと違う組み合わせで行動すると、意外と発見もあり、うまくいって楽しめることが多いんですよ」(村田さん) 自分の子どもはどんなことに興味があり、どんな力を身につけさせたいか。上記を参考に、ぜひプラン作りに挑戦してみましょう。次回は、旅育の実践編として、旅先での過ごし方をお教えします。 参考図書: 『家族旅行で子どもの心と脳がぐんぐん育つ 旅育BOOK』 (日本実業出版社) 村田和子著 1,512円(税込) 旅を通じて子どもの脳を刺激し、自立心や感受性、行動力、考える力などを育む「旅育」。旅行ジャーナリストの村田和子氏が十数年の親子旅の経験をもとにした旅育の5つの基本メソッドと、実践するための25のヒントを紹介する。47都道府県の親子旅を経験した著者が選ぶおすすめスポットやモデルコースに加え、星野リゾート代表・星野佳路氏に聞いた「子どもにとっての旅の効果・効能」、茂木健一郎先生の旅×脳コラムなども掲載。 取材・文/まちとこ出版社 渡辺裕希子
2018年07月26日ママ友の長話に延々と付き合わされたり、子育てに口を挟む義理の両親にうんざりしていたり。不快な思いをしているのに「自分さえ我慢すればすむこと」と問題から目を背け、 ストレス を抱え込んでいませんか? それは、人間関係の 「バウンダリー・オーバー(境界線越え)」 が起こっている状態です。 “ココロとカラダをつなぐカウンセラー”として、24年間で2万4000件、のべ5万時間以上ものカウンセリング実績があり、 『人間関係 境界線(バウンダリー)の上手な引き方』 (同文舘出版)を執筆した おのころ心平さん に、ママたちがモヤッとする人間関係の境界線について、お話をうかがいました。 お話をうかがったのは… おのころ心平さん 一般社団法人自然治癒力学校理事長。ココロとカラダをつなぐカウンセラーとして、これまで2万4000件、約5万時間のカウンセリング経験を持つ。経営者、アスリート、文化人など多くのクライアントのセルフケアを請け負っているほか、パーソナル医療コーディネーターとして病院や治療法、医療選択もサポート。セミナー・講演回数は年150回を超える。 ・オフィシャルブログ ■人間関係の“境界線”を越えてくる人々「これって親切? それとも…」 「バウンダリーとは、 自分と他人との間の境界線 を指す心理学の用語です。例えるなら 車の一時停止線 のようなもので、状況によって線を超えざるを得ない場合もあるし、手前で止まった方がいい場合もある。とても曖昧(あいまい)だからこそ、そこには上下関係・地位・経済力・押しの強さや弱さなど、人間関係の パワーバランス が入り込んできます。 私のところには、家庭や会社、ママ友、近所付き合いなどさまざまな人間関係の中で バウンダリー・オーバー(境界線越え) を起こしてしまい、それが原因で体を壊した方がたくさん相談にいらっしゃいます」とおのころさん。 まずは、バウンダリー・オーバーの典型的な例をあげてみましょう。 1.妻が夫の脱ぎ散らかした洗濯物を片付ける。 2.親が子どもの宿題を勝手にやる。 3.ママ友の愚痴に毎日のように付き合わされる。 4.義理の母がアポなしで押しかけてくる。 5.上司が部下に上から目線のアドバイスをする。 いずれのケースもお互いに納得しているならOKですが、不快な思いをしている人がいればそれはバウンダリー・オーバー。一方が、もう一方の 領域に踏み込んでいる状態 です。1.〜2.は責任のバウンダリー・オーバー、3.〜5.は感情のバウンダリー・オーバーといえます。 ■悪気・自覚のない人にイライラ「3つの解決方法」 バウンダリー・オーバーで問題を複雑にしているのは、バウンダリーを超えている側に 悪気や自覚がない こと。 「彼らは、他人には自分と違う感情があるということが分からないんです。特に要注意なのは、何かにつけて 『あなたのためを思って』 と言いながら押しつけてくる人。本人は善意で動いているつもりなのでしょうが、深層心理では 自分の欲求を満たしたいだけ なのです。 例えば、留守中に隣人が自分の庭の草刈りを勝手にやっていたとしたら、どう感じるでしょうか? 本人はよかれと思ってやっています。こういう人は、放っておくとどんどんあなたの領域に踏み込んできますよ」(おのころさん) バウンダリー・オーバーは自然に解決できるものではないため、自分で何かアクションを起こす必要があります。では、問題にどう対処したらいいのでしょうか。まず大切なのは、相手の行動や言葉のうち、どの部分がイヤなのかを分析したうえで、 「ここからが自分の領域、ここからが相手の領域」 というバウンダリーをしっかりと引くこと。そのうえで、おのころさんは以下の3つの解決方法を挙げています。 1. 相手との関係を完全に断ち切る。 2. 自分の“器”を増やし、相手を受け入れる。 3. 相手に「嫌だ」「それはダメ」と意思表示をして理解してもらう。 「バウンダリー・オーバーを完全になくすには、1番目の方法しかありません。近所に嫌な人がいれば引っ越す、会社なら転職する、友人なら付き合いをやめるなど、関係を断ち切ればいいでしょう。 とはいえ、人間関係にはいろいろなしがらみがあり、簡単に住居や仕事、友人関係を変えるわけにはいかない場合がほとんどです。そのため、あまり現実的な解決策とはいえません」(おのころさん) 2番目の方法について、おのころさんは自分の人間関係を図にしてみることを提案しています。 「図を見ながら、子ども、夫、親、友人、同僚、部下、ご近所さんなど、どこまで自分が引き受けるのかを一度じっくり考えてみましょう。自分にその器があると思うならとことん付き合えばいいでしょう。でも、一番大切なのは自分自身です。自分が体を壊してしまっては意味がないので、無理をしないように気をつけてください」(おのころさん) 自分自身に余裕があり、かつ相手が両親や親友などの大切な人であれば、有効な解決法といえるかもしれません。 最も現実的で、かつ有効なのは3番目の方法です。ただし、直接的に「嫌だ」「やめてほしい」といった強い言葉をぶつけるのは得策ではありません。 「最近は打たれ弱い人が多く、他人に怒られることに慣れていません。相手の怒りを買ってしまうと、周囲の人にありもしないウワサ話を言いふらされるなど、やり返されてしまう可能性があります」。そこでおすすめなのが、 サブリミナルなトークとボディランゲージ を使って、さりげなくバウンダリーを引く独自のメソッドです。 例えば、長話を切り上げたい時には、 手のひらを体の前に突き出してクルッと円を描く 。私もよく使っている方法で、一見すると無意味な動きなのに、かなりの確率で相手は話を切り上げてくれますよ。相手の 潜在意識に語りかける ので、誰も傷つけることなく、少しずつ相手を自分の領域から追い返すことができます」(おのころさん) 相手が敏感な人なら一度だけでも効果がありますが、すぐには効果が見えなくても何度も繰り返すことが必要。繰り返していくことで、少しずつ自分の領域を広げることができます。次回は、こうした具体的なバウンダリーを引くテクニックを、いくつかご紹介していきます。 参考図書: 『人間関係 境界線(バウンダリー)の上手な引き方』 (同文舘出版) おのころ 心平 著 1,512円(税込) 24年間で2万4000件、のべ5万時間以上のカウンセリングから導き出した「病気にならない心理学」の本。快適でベストな人間関係を築くために、自分と相手とのバウンダリー(境界線)を引くことを提唱する。表情・しぐさ・言葉遣いをほんの少し変えるだけで「自分の領域」を守る方法や、バウンダリー上手な人になるためのテクニックを紹介。 イラスト/野原広子 取材・文/まちとこ出版社 渡辺裕希子
2018年07月24日これから夏にかけて日の出時刻も早くなり、朝日を肌で感じやすい季節。この時期に朝の目覚めに子どもと触れ合う「ふれあいマッサージ」を取り入れて、親子ともにスッキリ目覚める生活を始めてみませんか? 朝一番に子どもと触れ合うコミュニケーションを取ることで親子ともに一日の始まりがハッピーに。ベビーマッサージや産前産後のヨガに関する著作の執筆や講座、ワークショップを開催している、たらちね助産院院長の大坪三保子先生に、「ふれあいマッサージ」についてうかがいました。 お話をうかがったのは… 大坪三保子さん(たらちね助産院院長) 久留米大学看護専門学校、熊本大学医療技術専門短期大学助産学科卒業。たらちね助産院院長、助産師・看護師。子育て支援グループamigo顧問。母と子のウェルネス研究会幹事。『はじめてのベビーマッサージ』(保健同人社)、『安産のための体と心をつくるHappyマタニティ・ヨガDVD付』『キレイで元気なママになるHappy産後ヨガDVD付』(共に高橋書店)など著書多数。 ・たらちね助産院 ■「気持ちいいね」“第二の脳”といわれる肌をタッチ! 赤ちゃんとふれあいマッサージ 首が座った赤ちゃんからできる、乾布摩擦の技法を取り入れた「ふれあいマッサージ」。起き抜けにやさしくさすってあげることで赤ちゃんの代謝があがり、朝の目覚めがよくなります。スッキリ目覚められると日中も好奇心旺盛に活動でき、生活リズムがつきやすくなります。寝起きの体に働きかけてあげることで、食欲もアップ。腸も刺激を受けて便通もよくなることにつながるでしょう。 「赤ちゃんとの生活を楽しみながら、小さな子どもとの暮らしのリズムを家族で作っていくといいですね。赤ちゃんが受け入れてくれるところ、お母さまがやりやすいところから始めてください。 お日様の光や気温、湿度などを感じながら、赤ちゃんの機嫌や体の様子も一緒に感じていくことにだんだんと慣れていってください。ママやパパの手の感覚やぬくもり、声のトーンを赤ちゃんも楽しんでいますよ」と大坪先生。 ■歌いながら楽しみながら「ふれあいマッサージ」乾布摩擦の手順 赤ちゃんが目覚めてきたら、布団の上からやさしく歌いながらさすってあげることから始めます。好きな歌に合わせてさすってもいいですし、下の歌詞に適当にメロディを付けて歌ってあげてもいいでしょう。 1 赤ちゃんが目覚めてきたら、やさしく掛け布団や毛布にくるんだまま揺らしてあげます。 ♪おーいもほりゴーロゴロ、おーいもほりゴーロゴロ、おいしいおいもはできたかな~? 2 左腕から順番に四肢を軽くタッチしていきます。 ♪よっこらしょ、どっこいしょ おいしいおいもはできたかな~? 3 左脚をタッチ。 ♪おいしいおいもはできたかな~? 4 次に右脚をタッチしてから、右腕もタッチします。 ♪おいしいおいもはできたかな~? 5 両足、両手を一つずつ先から中心に向かってさすりあげます。 ♪あ~できてる、できてるきれいにしようね 6 腕を真ん中から外に向けて開くようにさすります。 ♪ゴシゴシ、ゴシゴシ 7 うつぶせにして背中とおしりをさすります。 8 背中からおしりにかけてぱこぱことタッピングしてあげましょう。 9 最後は子どもが大好きなくすぐり遊びでしめましょう。 大坪先生によると、お母さんはもちろん、お父さんが子どもにやってあげるのもおすすめとのこと。 「お母さんとお父さんでは『おはよう』と声かけるのでも、子どもの反応は変わります。子どもにとって安心・やすらぎの存在であるお母さんに対して、お父さんは社会性を感じる存在。朝にお父さんが声をかけて触れてあげることで、子どもはパッと目覚めのスイッチが入ります」(大坪先生) 赤ちゃんからお年寄りまで、何歳になってもできる「ふれあいマッサージ」。少し大きくなった子どもには、「おはよう」と声かける時にちょっとさすってあげる程度でもOK。代謝を上げるので、朝起きれなくなる思春期にもおすすめです。 ■「朝からふれあいマッサージ」で生活リズムをととのえる 子どもの目覚めをよくする「ふれあいマッサージ」ですが、子どもだけでなく、親の体、心にまで次のような好影響があるそうです。 1 親子のかかわりを深め、親子間で安心や安定が生まれる。 親子で楽しくふれあうことで一日の楽しいスタートが始まり、自立神経のバランスもととのうでしょう。 2 子どもへの理解が深まる。 毎日触ってあげることで、子どもの体調や気持ちの変化もよくわかるように。 3 親子のセルフケア力を高める。 親が子どもの体を意識してあげることは、子ども自身も自分の体の状態に関心を持つようになり、結果として自分に対してのセルフケア力もアップ。 「子どもの成長をうながしたい」「子どもとの生活リズムをどうしたらいいのか」「親子のコミュニケーションを楽しみたい」などと考えていたら、ぜひ試してみてください。 取材協力: NPO法人子育て支援グループ amigo 世田谷区松原を拠点に 2001年から「産前産後」に特化して活動、2014年5月より特定非営利活動法人に。“一緒に楽しく子育てしようよ!”を合言葉に、助産師や保育士と連携しながら、生まれてくる子どもたちとその親が、地域の温かい人間関係の中で支えられ、すこやかに成長していくことができるよう、出産・育児を支援。本マッサージは「あみーごのよみものnagi2」に掲載されており、amigoネットショップにて購入可能です。 取材・文/まちとこ出版社 石塚由香子
2018年06月11日「みんなが当たり前にできていることが自分にはできない」「ママ友とよく原因不明のトラブルになってしまう」…。発達障害が広く世間に認知されるようになり、これまでの経験から「もしかして自分も?」などと感じている方も少なくないのではないでしょうか? そんな大人の発達障害(グレーゾーン含む)に悩む人のために、日常生活を上手に過ごすための具体的なノウハウを紹介したのが「ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に暮らすための本」。前回は、片づけやスケジュール管理が苦手なママのための“上手に暮らすコツやツール”をご紹介しました。 著書の村上由美さんは、現在は言語聴覚士として活躍されていますが、実は4歳まで音声言語を話さなかったASD(自閉症スペクトラム)当事者です。そして、村上さんの旦那さんも、ASDに加えてADHD(注意欠陥・多動性障害)やLD(学習障害)の傾向もあり、大人になってからようやくそのことに気づいたそうです。 そんな、当事者でもあり、家族でもあり、支援者でもあるという村上さんが、三つの視点から編み出した、 発達障害の人が日々の暮らしがラクになるためのアイデア をおうかがいしました。 お話をうかがったのは… 村上由美さん 上智大学文学部心理学科、国立身体障害者リハビリテーションセンター(現・国立障害者リハビリテーションセンター)学院聴能言語専門職員養成課程卒業。重症心身障害児施設や自治体などで発達障害児、肢体不自由児の言語聴覚療法や発達相談業務に従事。現在は、自治体の発育・発達相談業務のほか、音訳研修や発達障害関係の原稿執筆、講演などを行う。著者に「声と話し方のトレーニング」(平凡社新書)、「アスペルガーの館」(講談社)、「ことばの発達が気になる子どもの相談室」(明石書店)、「仕事がしたい!発達障害がある人の就労相談」(明石書店、共著)、「発達障害の人が活躍するためのヒント」(弘文堂、共著)がある。 ■ママ友の世界は“究極の調整能力”が必要 ――今回は、ママの世界のコミュニケーションについておうかがいします。というのも、 前回 の片づけのお悩みと同様に、発達障害グレーなママからは、「ママ友とのおつき合いが苦手」という声もとても多かったのです。 村上由美さん(以下、村上さん):ママ友の世界は、まさに究極の調整能力が求められますからね。そもそもおつき合いが得意でない人は、ママ友に関しては、自分ができる範囲の境界線を引くことが大切だと思います。ここまでは一生懸命やるけどこれ以上はやりません、などというふうに。 もちろん断り方も大事です。「私には関係ないから」みたいな言い方をしたら、当然反感を買ってしまうので、誠意をもって対応すること。でも、それでも相手に伝わらなかったとしたら、それは仕方ないですね。相手によっては難癖をつけるのが目的な場合もありますから。 自分には及ばない、できないことは、必要以上に悩んでも仕方ないので、ある程度のあきらめも必要だと思います。 ――ママ友の世界は、子ども同士が仲が良い、同じ園や学校といった“縛り”があるため、断りにくく感じてしまうお母さんも多いかもしれませんね。 村上さん:子どものことを考えると、うまくつき合わざるを得ないのもよくわかりますよ。でも、自分の精神を病んだり、家族に悪影響を及ぼしてまでつき合う必要はないはず。「自分はどれくらいこの人たちと関わりたいのか?」ということを、きちんと見極めることが大切です。 また、ママ友の世界しか頭に入らなくなってしまっていると、つい自分の居場所はそこしかないような気がしてしまいがちですが、一歩引いてみれば全然違う世界があるのです。 実際、ママ友のことで悩んでいる方は、たいていほかのコミュニティーに入ったり、別の世界を見ることで、解決するケースが多いようです。物事に対する別の尺度が出てくると、気が楽になるんですね。 ――確かに。ただ、地域によっては、保育園・幼稚園から小学校、中学校まで1つしか選択肢がなくて逃げ場がないなんてケースもあるそうですが…。 村上さん:そういう場合は、気が合えばものすごく心地良いんでしょうけど、何かあったら途端にいづらくなってしまいますよね。そうならないためにも、リスクは分散して、いろいろな逃げ場を作っておきましょう。 趣味が合う友人や、独身時代の友だちなど、ママの世界とは違う世界のコミュニティーを意識して確保し、自分を一つの世界に閉じ込めないように心がけましょう。 今は、SNSなども上手に利用して、自分の趣味や好きなことで仲間とつながって息抜きしているお母さんも多いようですよ。SNSはトラブルになるリスクを懸念する人もいるでしょうが、最初は特定メンバーだけフォローしたり、アプリ設定で制限を設けたりして段階的な導入でリスクを抑えられます。 ■「ほどよいおしゃべり」って、実はとっても難しい ――男の人と比べて、「女の人は雑談が得意」などとよく言われますが、おしゃべりがすぎて「つい余計なことを言って相手を不快にさせてしまう」とお悩みのママもいました。 村上さん:こういう方は、相手が会話の中で何を求めているのか、上手に察知できないのでしょう。例えば、食事中など第三者がいる場で、人が悩みや愚痴を打ち明ける時は、相手に共感を求めていることが多く、そういった場合に現実的なアドバイスや意見をするのはあまり歓迎されません。 でも、ASD(自閉症スペクトラム)の傾向が強い人は、相手が聞き入れる体制にあるかどうかをほとんど考えずに話してしまいがちですし、ADHD(注意欠陥・多動性障害)傾向が強い人の場合は、思いついたことをその場の状況を無視して口に出してしまうことが多いので、相手の感情を害してしまうことが多いです。 その場の雰囲気を感覚的につかむことが苦手な場合、まず相手は自分から意見を聞きたいのか、それとも愚痴って気分転換したいのかを観察してから発言するようにしましょう。 ――具体的な方法としては? 村上さん:まず、相手がこの会話で何を重視しているのかを観察しましょう。例えば、ちょっと愚痴りたいだけなのか、何かアドバイスを求めているのかなど。 次に、相手の話を黙って聞いてみましょう。今まで見えてこなかった相手の悩みや感情が出てくることがあります。そして、相手が伝えたいことは何か? に焦点を絞って話を聞きましょう。 最後に、相手がひと息ついたり、話に区切りをつけるような言葉(例えば「まあ、仕方ないんだけどね」など)が出てきてから、自分の意見を言うようにしましょう。そして、相手が知りたくない、聞きたくないことは極力言わないように心がけることが大切です。 ――お話をうかがっていると、上手なおしゃべりって、かなり頭をフル回転させねばならない感じですね(汗)。 村上さん:言語聴覚士として、言語リハビリや療育支援の仕事をしていると、ご家族から「せめておしゃべりでもできるようになれば」と希望されることが多いのですが、でも、雑談するためには、実はとても高度な情報のやりとりをするスキルが必要なのです。 なかでも特に、非言語のコミュニケーション情報を操作するスキルがとても重要になります。会話は突然、主語や時系列、話題が変わるため、文脈から状況を推測する力が必要となり、発達障害の人にとっては難しいことが多いのです。 ――たわいもないおしゃべりは、誰でも簡単にできると思われがちですが、必ずしもそうではないのですね…。 村上さん:最近では、発達障害は広く世間に知られるようになりましたが、言葉がひとり歩きして、「困った人たち」というレッテルばかりが増えている印象もあります。でも、実は一番困っているのは本人ですし、周囲の人も「本人が何に困っているのかよくわからないから困る」という発想の転換が必要なのだと思います。 発達障害の人たちが、このようなライフスキルを身につけるためには、幼少期からのトレーニングが必要で、大人になった今はもう手遅れではないか? と思われる方もいるかもしれません。 でも、村上さんのお話によると、「本人がその気になった時こそが、実は一番良いタイミング」とのこと。「大人だからこそ、言葉だけで解釈したり、達成度を数字などの尺度で確認できる強みもある」そうです。 実際、村上さんは当事者でもあり、発達障害を抱える旦那さまと一緒に試行錯誤を繰り返すなかで、言葉で確認し合える大人同士だからこそ話がわかる面も多かったといいます。何を始めるのにも、遅すぎることはないのかもしれません。 参考図書: 「ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に暮らすための本」 (翔泳社) 大人になってから発達障害の症状に悩む人が増加しています。ここ10年で「発達障害」の知名度が飛躍的に上がったことで、「もしかして自分も…」と成人になってから気づく人が増えたのが最大の要因と思われます。発達障害の人には、「同時並行作業力が弱い」「段取りが取れない」 「ケアレスミスをする」「コミュニケーションが苦手」といった特徴があり、そうした症状に悩む人のために、上手に日常生活を過ごす方法を解説。 イラスト/高村あゆみ 取材/文:まちとこ出版社N
2018年05月31日「みんなが当たり前にできていることが自分にはできない」「ママ友とよく原因不明のトラブルになってしまう」…。発達障害が広く世間に認知されるようになり、「もしかして自分も?」などと感じている方も少なくないのではないでしょうか? そんな大人の発達障害(グレーゾーン含む)に悩む人のために、日常生活を上手に過ごすための具体的なノウハウを紹介したのが 「ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に暮らすための本」 (翔泳社)。 著書の村上由美さんは現在、言語聴覚士として活躍されていますが、実は4歳まで音声言語を話さなかったASD(自閉症スペクトラム)当事者です。そして、村上さんの旦那さんは、ASDに加えてADHD(注意欠陥・多動性障害)やLD(学習障害)の傾向もあり、大人になってからようやくそのことに気づいたそうです。 そんな、当事者でもあり、家族でもあり、支援者でもある村上さんが、3つの視点から編み出した、 発達障害の人が日々の暮らしがラクになるためのアイデア をうかがいました。 お話をうかがったのは… 村上由美さん 上智大学文学部心理学科、国立身体障害者リハビリテーションセンター(現・国立障害者リハビリテーションセンター)学院聴能言語専門職員養成課程卒業。重症心身障害児施設や自治体などで発達障害児、肢体不自由児の言語聴覚療法や発達相談業務に従事。現在は、自治体の発育・発達相談業務のほか、音訳研修や発達障害関係の原稿執筆、講演などを行う。著者に「声と話し方のトレーニング」(平凡社新書)、「アスペルガーの館」(講談社)、「ことばの発達が気になる子どもの相談室」(明石書店)、「仕事がしたい!発達障害がある人の就労相談」(明石書店、共著)、「発達障害の人が活躍するためのヒント」(弘文堂、共著)がある。 ■断捨離「モノが捨てられない」悩みを解決! ――著書を読んで、「発達障害と長くつき合うのは、愛情じゃなくてスキルが必要」という言葉に「なるほど!」ととても納得しました。そのスキルをまとめたのが、本書というわけですね? 村上由美さん(以下、村上さん):私は、かねてから、発達障害者の自立のカギは「時間、モノ、お金の管理ができること」と思っていて、最近ではそれに加えて「他人と協力できる場を持てること」「生き延びるための体力」も必要だと思っています。 これらは、発達障害の人がこの三次元の世界で生きるための接着剤のようなもの。これらを介さないと、この世界の人やモノとは繋がれないので、それぞれの苦手項目を解決するためのスキルをまとめました。 ――今回はその中から、「モノの管理(片づけ)」についておうかがいします。というのも、発達障害グレー気味というママからは「片づけができない」というお悩みが圧倒的に多かったからです。 村上さん:発達障害の人は、空間やモノへの捉え方が一般の人とは感覚的に異なるので、「片づけが苦手」という方がとても多いです。片づけについては、まず、自分にとってどういう状態が片づいているのかを明確にすることが大事です。 例えば、ホテルのような整然とした部屋が良いのか、多少散らかっていても日常生活に支障がない状態なら良いのか、などというふうに。 ――確かに、人によって定義が全然違いますものね。でも、自分の片づけのイメージ通りに「モノを捨てられない(減らせない)」という悩みも多いようですが、これはどうしたら? 村上さん:発達障害の人はモノの判断基準があいまいで、自分にとってのモノの役割を認識できていないため仕訳が苦手です。 例えば、ADHDの傾向が強い人は、興味や関心に惹かれてつい使わないモノに手を伸ばしてしまいがちですし、ASD傾向が強い人は、そもそも片づけの意味や必要性を認識していないことや、人から押しつけられるとうまく断れず不要なモノが増えてしまうことも多いのです。 発達障害の傾向が強い人は、自分の好みに合わないモノとつき合うのがそもそも苦手という特性を認識して、ある程度試してみて不要だとわかったら手放す覚悟が必要だと思います。 ――具体的な対処法としては? 村上さん:まず、似たようなモノ同士をまとめます。集めたモノを比較すると、モノ本来の目的や自分の判断基準が明確になります。そこから不要なモノを間引きするのですが、判断に迷ったらいったん保留にし、モノ本来の評価と自分の感情を表などに書き出して整理しましょう。 例えば、「使いにくいけど高価なモノ」は、モノ本来の評価は「使いにくい」、自分の感情は「高いから捨てるのがもったいない」になり、どちらが勝っているかがわかりやすくなるので決断しやすくなります。 また、「〇〇したら使うかも」などと、条件つきで判断に迷うモノは、実際に使ってみることで結論がでます。例えば、「修理が必要なモノ」は「お金をかけて修理してまで使いたいのか?」「そこまでするのは面倒なのか?」で判断ができるはず。 また、捨てるにはもったいないけど自分では使わないモノを処分するには、リサイクルショップや寄付などを利用するのが良いでしょう。 ■子どもの大量プリントやスケジュールはIT管理 ――家の片づけに加えて、子どもの片づけや学校の用意も加わって、お手上げ状態のお母さんもいたのですが、子どものモノの片づけはどうしたら良いでしょうか? 村上さん:基本はどの片づけもだいたい同じなのですが、まず「この部屋で何をするか?」というルールを決めることが大事です。 例えば、リビングは家族のパブリックスペースで、たくさんの個々人のモノが持ち込まれるので散らかりがちですが、「ごはんを食べる」「仕事をする」「勉強する」「遊ぶ」などと目的を決めると、だいたいの作業エリアが決まるので、そのために必要なモノを配置しやすくなります。 子どもが勉強するなら、テーブル回りに筆記用具の引き出しや勉強本の棚を設置したり、それにまつわるモノが回る仕組みをつくります。 また、子どもが片づけやすい状況になっているかも大事です。引き出しにラベルを貼って中身をわかりやすくしたり、きょうだい児がいる場合は棚を色分けするなど工夫しましょう。 …とはいえ、子どもがいる場合は、そもそも整然としたホテルのような部屋を目指すのは難しいので、ある程度の妥協は必要だと思いますよ。 ――なるほど。また、子どもの片づけといえば、学校からの大量に配られるプリントの管理もありますが、こちらの対策は? 村上さん:どんどんデジタル管理して、用済みの紙は捨てることです。紙情報は、処理して捨てるまでの流れを仕組みにしないと、どんどん積み重なって“地層化”になる一方ですよ。 また、紙は検索できませんが、データなら検索できるのでとても便利。ちなみに、私はクラウド・サービス「 Evernote(エバーノート) 」を利用していますが、ほかにもプリント管理に便利なスマホのアプリなどたくさんあるのでぜひ検索してみてください。きょうだい児ごとにタグづけすれば簡単ですよ。 また、IT管理は子どものスケジュール管理にも便利です。家族行事は、夫婦でGoogleカレンダーを共有し、子ども用には、プリントアウトしたモノを目につきやすいところに貼っておくことをおすすめします。子どもには、情報をITで理解するのはまだ難しいので、紙という具体化したモノで見せることが大事です。 ――スマホのアプリで管理するのは便利そうですね。 村上さん:パソコンやスマホ、インターネットは、発達障害者にとっては三種の神器のようなもの。世の中のIT化により、社会の仕組みが発達障害の人たちが苦手とする三次元の世界から、得意な仮想空間の世界へとシフトしてきています。これらの情報機器をうまく活用すれば、生活の質を上げていくことができるでしょう。 ――ちなみに、ITオンチのお母さんはどうしたら良いでしょう…?(汗) 村上さん:ITが苦手なお母さんは、トレイで管理することをおすすめします。目につきやすいところに「ママに渡すモノトレイ」を設置して、そこに子どもにプリントを入れてもらい、見たら即仕分けたり返事を書く、手帳やカレンダーに記入するというルールを決めましょう。 また、子どもがちゃんとプリントを出せたら、たとえ内心、当たり前と思っていても、ちゃんと言葉に出してほめることが大事。できなかった時に叱るのではなく、できた時にほめることで、子どもにプリントを出す行動が定着します。 ■「お客様」意識のパパ、「私がやらなければ」意識のママ ――なるほど。でも、いろいろお話をうかがって、これらを全部お母さんひとりでやるというのも大変ですよね…? 村上さん:本当にその通りです。お母さんがやるのが大前提になってしまっていますが、これはお母さんだけの課題ではありません。協力して助け合うのが、家族の大事な役割なのですから。 でも、日本の家庭は、たいてい奥さんが「プログラマー」になって細かくプログラムを組まないと、夫がうまく動いてくれないですよね(苦笑)。だから、「そんなの面倒くさくてやってられない!」と全部自分でやってしまうから、夫婦ケンカになってしまう。 ――おっしゃる通り(笑)。 村上さん:私が思うに、多分、大半の夫は家庭に対して「お客様」感覚でいるのだと思いますよ。でも、夫は家族の一員なのだから、それは違いますよね? ですから、夫に家庭での「お客様」意識を改めてもらうことが必要です。 そして同じように、お母さんも育ってきた環境や社会に求められて、家のことはすべて自分がやるものだと思いがちですが、そういう意識も変えていく必要があると思います。で、先ほどの、子どもができたらちゃんとほめるという話は、自分に対しても同じ。できて当たり前ではなく「できた私ってえらい!」と自分をきちんとほめてあげてくださいね。 片づけや家事は「できて当たり前」と思われがちなうえに、消耗する行為が多いもの。でも、できて当たり前ではないこと、できたら自分をほめてあげる習慣をもつことで、自分自身にも片づけの習慣が定着するかもしれません。 後編では、ママ友との「コミュニケーショントラブル」についておうかがいします。 参考図書: 「ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に暮らすための本」 (翔泳社) 大人になってから発達障害の症状に悩む人が増加しています。ここ10年で「発達障害」の知名度が飛躍的に上がったことで、「もしかして自分も…」と成人になってから気づく人が増えたのが最大の要因と思われます。発達障害の人には、「同時並行作業力が弱い」「段取りが取れない」 「ケアレスミスをする」「コミュニケーションが苦手」といった特徴があり、そうした症状に悩む人のために、上手に日常生活を過ごす方法を解説。 イラスト/高村あゆみ 取材・文/まちとこ出版社N
2018年05月24日発達障害があるなしに関係なく、 子どもの就学 は親にとって大きなイベントですが、障がいのある子を持つ親にとっては、就学先を考えることに加えて、さらにもうひとつ 大きな問題 があります。 それは、 放課後の過ごし方 。 学童 に問題なく通える子はいいけれど、障がいの程度によっては、学童利用が制限されることがあります。そこで代わり通うのが 放課後等デイサービス (※)です。 筆者の息子(自閉症スペクトラム)も、来年は小学生。就学先と並行して、いろいろな施設を見学に行っている最中です。そんな中で知ったのが、パソコンを学んだりサッカーができるという 放課後デイサービス「あいだっく」 。 普通の施設とは一風変わったプログラムを実施していることに興味を感じ、取材に行ってきました。代表の上田宏樹さんにお話を伺いました。 ※放課後等デイサービスとは、障がいのある就学児(小・中高校生)が放課後や長期休暇中に通うことができる施設のこと。対象は、障がいのある子ですが、障がい者手帳がなくても、専門家などから必要が認められれば通うことができます。 単に預かるだけでなく、子どもが楽しんだり成長したりできる場所を提供したい ―― 御社はもともと福祉系ではなく、様々なサービス業をしていますが、放課後等デイサービス(以下、放課後デイ)事業に参入したきっかけを教えてください。 上田宏樹さん(以下、上田さん): 私はサービス業が大好きで、世の中に独自の新しいことを作っていきたいという思いがあります。ある時、ふとしたきっかけで、放課後に行き場がなくて困っている子どもたちがいることを知り、「じゃあ、我々で居場所を作ろうよ」と、この事業に参入しました。 ―― はじめの放課後デイで、絵を描く「アトリエあいだっく」を始めたのはなぜですか? 上田さん: それまで放課後デイ事業は、単なるお預かり事業のような側面がありましたが、弊社がやるならば単に預かるのではなく、子どもたちが楽しんだり成長したりできる場所にしたい、と思ったからです。そして、働くスタッフもやりがいを感じられるような働き方をしてほしいと思いました。 もともと弊社がデザイン会社からスタートしたというのもあり、「子どもたちが自由に楽しく絵を描ける場所をつくろう!」と。民間独自のアイディアで福祉業界に新しい風を吹き込んでやろう! という意気込みもありましたね。 ―― 子どもたちは絵を描くことが大好きですものね。 上田さん: それが、私たちの予想に反して、最初の頃はみんなぜんぜん絵を描かなかったんですよ(笑)。でも、スタッフの情熱と子どもへの上手な働きかけ、子どもたちの成長で、少しずつ興味を持ってくれる子が増えてくれました。 「アトリエあいだっく」で子どもたちが描いた作品。ここでは絵画や工作などの作品作りを通し、時間や決められた流れに沿った集団行動を継続して行えるよう、サポートしている。 「アトリエあいだっく」詳細はこちら >> とはいえ、やっぱり絵には興味を持てず、体を動かす方が好きな子もいます。そこで、そういう子も楽しめるように、歌やダンス、楽器が楽しめる 「スタジオあいだっく」 を設立しました。 「スタジオあいだっく」では、通常活動や年二回の発表会を通し、歌、ダンス、楽器を集団行動で行うことをサポート。仲間たちと協力し合いながら活動することで、他者との関わりや集団で行動することの楽しさ、思いやりの心を養う。 「スタジオあいだっく」詳細はこちら >> その後、パソコンが好きな子もいたので、生徒全員がパソコンに触れられる 「パソコンあいだっく」 も設立しました。 「パソコンあいだっく」では、いろいろなソフトやハードを使用して、子どもたちが自分自身で「やりたいこと」を見つけて、タイピングの技術向上につながるようサポート。長時間課題に取り組める集中力も養える。また、作品発表や質問をすることで、自己主張や表現力の向上にもつながるという。 「パソコンあいだっく」詳細はこちら >> ―― 子どもたちのニーズに応えて、どんどん進化しているのですね! 月曜から金曜日まで、ワンパッケージで子どもたちはさまざまな体験ができますし、「あいだっく」として全体で情報共有して支援体制を考えられるのも、保護者にとっては心強いですね。 上田さん: 「はじめると決めたら赤字になってもつぶさない!」という覚悟で運営していますよ。飲食業のような他のサービス業と違って、運営が立ちいかないからといって、子どもたちを追い出すようなことは絶対にしたくないですからね。 チャンスは、すべての子どもに平等であるべき ―― 放課後デイの運営にあたって、「あいだっく」が大切にしていることは何でしょうか 上田さん: 子どもの表現方法の幅を広げることを大事にしています。障がいがある子たちは、いろんなことが制限されがちですが、そこを広げて、今までできなかった表現方法を見つけられる機会を提供できたらと思っています。 例えば、パソコンに関しては、よく保護者から「パソコンの練習するんですか?」と聞かれるのですが、そうではなくてパソコンはあくまで ツール 。パソコンで小説を書く子もいますし、絵を描く子もいますし、動画を作る子もいますし、話すのは苦手だけどチャットならコミュニケーションがとれる子もいます。パソコンは “自己表現の幅を広げるきっかけ” にしてほしいと思っています。 ――なるほど。 上田さん: 他の子どもたちは、放課後は自分で自由に遊びにいけますし、習い事にも行けます。でも、障がいがある子たちは、行動が非常に制限されてしまいます。でも、同じ人として、それは違う。チャンスはすべての子どもに平等にあるべきだと思うのです。 ―― 本当にそうですね。お友達のお子さん(自閉症スペクトラム)で、水泳教室の入会を断られた方がいました。水泳は命に関わる危険もあるので、受け入れ側も体制が整っていない場合は難しいのかもしれませんが、こうして様々なチャンスが奪われてしまうのは非常に悲しく残念でして…。 上田さん: だから、弊社は 「サッカーあいだっく」 も作ったのです。オリンピック開催が決まってこれからスポーツが盛り上がるという時に、他の子と一緒になって盛り上がれるように、と。 また、サッカーをはじめたもうひとつの理由は、保護者のためです。自分の子どもの試合を観戦することは、親の最大の楽しみ。そんな機会がないことも、親にとっても機会損失です。試合をした時に、私が何より感動したのは、お母さんたちの熱狂具合でしたよ(涙)。 ルールを守り、集団の中の一員という意識を持ちながら運動活動することを学ぶ「サッカーあいだっく」。サッカーを通して、探求心や協調性、コミュニケーション能力の向上を目指す。 「サッカーあいだっく」詳細はこちら >> いろんな人がいて当たり前な世の中になってほしい ――「あいだっく」では、文化祭や卒業式などのイベントもしているそうですね? 上田さん: 成果がわかる発表の場があるというは、子どもにとってもスタッフにとっても、やりがいのあることだと思います。みんなとても張り切って楽しそうでした。卒業式では、毎年号泣してしまいますね。今、卒業後もみんなが生き生きとしたつながりを持てる場を作れればと、例えば劇団なんかどうだろう? といろいろ考えているところです。 ――「ただのお預かり施設にはしたくない」という上田さん思いが、ここにも表れているのですね。 上田さん: 正直、僕はこの事業をはじめるまで、障がいのある方と身近に接する機会がなかったんです。だから、みんなにはもっと外に出て欲しいし、まわりの皆さんにも知ってほしいです。隣にいろんな人がいて当たり前、そんな世の中になってほしいと思います。 最近、盲目の方がR-1で優勝しましたけど、あんなふうに、障がいを持った人がどんどんいろんな場に出て、本人も笑いのネタにしちゃうくらいの自信を持って生きてほしい。そのために弊社ができることは何だろう? と、常に自分に問いかけています。 取材に同席してくださった、現場責任者である 柴岡康大 さんからは、「『あいだっく』では障がい者手帳のあるなしにかかわらず、 専門の相談支援員 がさまざまな相談に電話でお答えしているので、いつでも気軽にお問い合わせくださいね」との心強いお言葉もいただきました。 実際、診断が出ていない グレーゾーン の方からのお問い合わせはとても多いそうです。 「すべての子どもに平等のチャンスを提供したい」という「あいだっく」の熱い思い、福祉業界の枠を超えて、世の中にどんどん広がっていってほしいと思います。 放課後デイサービス「あいだっく」 >> 相談支援事業所「あいだっく」 >> 取材・文:まちとこ出版社N [PR] 放課後デイサービス あいだっく
2018年05月23日赤ちゃんの頃は「元気に育ってくれれば、それで十分」と思っていたのに、子どもが成長するにつれ「あれもこれもできる子になってほしい」とついつい願ってしまうのが、親の常。でも、世の中にはさまざまな幼児教育があふれ、どれを選べば正解なのか、わからなくなりますよね? そんなママのお悩みを、シンプルに解決してくれるのが、『「賢い子」に育てる究極のコツ』(文嚮社)が10万部を超えるベストセラーとなった 脳医学者・瀧靖之先生 。つねづね「子どもを賢く育てるには、 図鑑が一番! 」と話し、自らも図鑑を使った子育てを6歳の息子さんに実践している瀧先生が総監修した 「MOVEはじめてのずかん みぢかないきもの」 (講談社)が発売されました。 「図鑑を作るのが夢だった」と話す瀧先生の「こんな図鑑が欲しかった」のエッセンスがたっぷり入ってできあがった一冊。制作での思いや、図鑑の効果的な使い方などを瀧先生にお聞きしました。 瀧靖之先生 プロフィール 1970年生まれ。医師。医学博士。 一児の父。 東北大学大学院医学系研究科博士課程卒業。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター 副センター長・加齢医学研究所 教授。 東北大学加齢医学研究所および東北メディカル・メガバンク機構で脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達、加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。読影や解析をした脳MRIはこれまでに16万人にのぼる。「脳の発達と加齢に関する脳画像研究」「睡眠と海馬の関係に関する研究」「肥満と脳萎縮の関係に関する研究」など多くの論文を発表。学術誌はじめ新聞・テレビなど、マスコミでも数多く取り上げられ注目を集めている。『「賢い子」に育てる究極のコツ』(文響社)は10万部を超えるベストセラーに。 ■「はじめてのずかん」が子どもの好奇心の入り口に まずは最初に、瀧先生が提唱する「どうして図鑑が脳にいいのか?」をご紹介しましょう。 ・「わくわくする」好奇心を育てれば、自分の力で学べる「ぐんぐん伸びる子」に育つ。 ・いろいろな情報に触れられる図鑑は子どもの好奇心を育てる。 ・絵や写真があるので、言葉をつかさどる領域だけでなく、図形や空間を認知する領域など複数の脳の領域を同時に活性化できる。 ・図鑑で見たもの(バーチャル)を実際に見る(リアル)ことが子どもの好奇心を広げ、知識を定着させる。 上記をふまえたうえで、インタビューはスタートしました。 ── 今回、図鑑の総監修をしてみていかがでしたか? 瀧靖之先生(以下 瀧先生):小さな子どもでも楽しめるけれど、中身は本格的という図鑑があればいいのにとずっと思っていました。子どもは暗記力もすごいし、大人以上に好奇心が旺盛なので、はじめて触れるからこそ本物を見せたあげたいという気持ちを出版社と分かち合えました。 今回、まだ形のない段階から関わり、何度も何度も出版社とやりとりを重ね、かなりイメージ通りの「図鑑の入り口となる図鑑」ができあがりました。 ── 「はじめてのずかん」というだけあって、図鑑に触れる入り口となる図鑑なんですね? 瀧先生:図鑑というと小学校入学のプレゼントというイメージがあり、そのくらいの時期に初めて手にするお子さんも多いと思います。今までは、小学校入学前後の子どもに向けた本格的な図鑑か、子どもっぽいおもちゃのような図鑑しか出ていませんでした。 昔の僕みたいに図鑑が好きな子どもは初めから本格的な図鑑から入ればいいけれど、そうではない子どもでも興味をもって手に取り、図鑑の入り口になる1冊があればと思っていました。ここから先は、恐竜や昆虫、動物などの図鑑につながっていける「初めての図鑑」を作りたかったんです。 そのためにも、ただ「チョウ」とか「ゾウ」とかではなく、「クロアゲハ」とか「アフリカゾウ」などきちんと名前を伝えて、興味を持ってもらえるようにしています。子どもは機会的な暗記力がすごいので、あっという間に覚えてしまいますから。そして、デザインもほかのシリーズとそろえ、本格的な図鑑にしました。 ── 「2歳からの脳に効く!」と帯にありますが、2歳くらいでこの図鑑を手にするのがいいのですか? 瀧先生:言葉を吸収し、周りに対する好奇心もどんどん出てくるのが2歳くらいですが、もちろん、0歳からでも1歳からでも、3歳、4歳でも図鑑を楽しんでもらって構いません。ただ、「好き嫌い」がまだあまり出ていない早い時期からいろいろ見ておくと、大きくなってからも好奇心の対象を広く保てます。できれば早い時期から図鑑でいろいろな情報に触れていただきたいと思っています。 ■図鑑が苦手な親子だから楽しめる“しかけ”が満載 ──「読み聞かせ図鑑」というのもおもしろいですね。図鑑というと見るイメージがありますが、読み聞かせができるんですね。 瀧先生:子どもが楽しむためには親がまず楽しむことがとても大切なのですが、世の中のお父さんお母さんがみんな図鑑好きというわけではないと思うので、今まで図鑑にあまり触れてこなかった方でも気軽に子どもと楽しめる工夫にこだわりました。 ── それは世の中のパパママにとてもありがたいですね。 瀧先生:好奇心だけではなく、乳幼児期に愛着形成をすることは、その後の精神安定に非常に大切だと言われています。ぬくもり、声、笑顔など親子の愛着掲載がとても大事な時期なので、子どもひとりで読むのではなく、親子でコミュニケーションをとりながら楽しめるようになっています。 ── 具体的にはどのようなしかけがあるのでしょうか? 瀧先生:ほかの図鑑ではあまりないと思うのですが、写真の動物が吹き出しで話しています。もともとMOVEシリーズの特長である動きのある写真も子どもを引きつけますが、生き物が話すことで子どもの興味をよりひきつけやすくしています。そして、その吹き出しを読めば、誰でも簡単に読み聞かせができるんです。 それ以外にも、親子の会話のきっかけづくりになるコラムがあったり、子どもが大好きなクイズが載っていたりして、親子の愛着形成や言葉を覚えるコミュニケーションが簡単にできるようになっています。 ── たしかに「ゾウの足音ってどんな音」というコラムなど自分も知らないことが載っていておもしろかったです。 ■知的好奇心を育てるのは「図鑑で見たアレ」を「実際に目にする」 ── 親子のコミュニケーションのほかにこだわったことはなんでしょうか? 瀧先生:図鑑に載っていた動植物を目の前で見られたら「これが図鑑で見たアレなんだ」と興味が深まりますね。知的好奇心をいかに伸ばすかを考え、あえて身近なところを前半に取り上げました。 ── パッと目をひきそうなパンダやキリンなどではなく、ダンゴムシとかチョウなど「まちのいきもの」から始まっているところに挑戦を感じます。 瀧先生:あまりにも遠い世界のことを入れてもつながらないので、図鑑を見た後に身近なところで本物を見る、あるいは本物を見て「これは何だろう」と図鑑を見る、ということを双方向で繰り返すことで、知的好奇心は伸びるんです。そして題材は身近だけど内容は本格的。子ども扱いして幼稚じゃないことが大事です。 ■図鑑の正しい使い方、NGな使い方 ── ついつい、脳への効果を期待してしまいますが、この図鑑はどうやって使ったらいいでしょうか? 瀧先生:一番大切なのは、親自身が楽しむこと。「子どもに興味を持たせなければいけない」と重荷を感じる必要はまったくなくて、親自身が興味を持つところをパラパラめくって、ペンギンが好きならペンギンを、猫が好きなら猫をと興味をもったページを楽しんでいれば十分です。 ── 大人が楽しんでいれば、子どもも「楽しそう」と思ってくるわけですね。反対に、NGな使い方もありますか? 瀧先生:子どもに押しつけることは避けたいですね。勉強もそうですが、「やりなさい」というと子どもは嫌になりますから。 あとは、本棚の飾りにせず、テーブルなどいつでもパッと手に取れる場所に置いておくことです。そうすれば、外でチョウを見かけたり水族館に行ったりしたら、帰ってから「なんだろうね」とすぐに調べられます。 本棚にしまいっぱなしでは、「なんだろうね」と疑問を持ちながらも調べずに終わってしまうので、せっかくの好奇心が伸びずにもったいないですよね。 ── やはり「疑問に思ったことを調べる」ということが大切なんですね。忙しい時などつい子どもの「なんだろう」を聞き流してしまう自分としては反省します。 瀧先生:疑問に思ったことを調べる、というのは一生使える勉強の基本ですよね。「調べようね」と言って調べるのは、子どもにとってとても楽しいことです。まだ「勉強を勉強と思わない」小さな頃から調べる習慣がつくと、勉強しなければいけなくなった時に自分からどんどん調べることに抵抗がなくなります。 ── 最後にこの図鑑をぜひ手に取ってほしい、乳幼児のお父さん、お母さんにメッセージをお願いします。 瀧先生:いろいろなことに好奇心を持てるようになると、将来どんな道に進んでも、きっと役立ちます。身近な動物や植物にもちゃんと名前がついていて、おもしろい特徴があったりする。そんなことを教えてくれるのが図鑑で、図鑑は世の中の広がりを知り、世の中に興味を持つ最初の一歩になります。その「最初の一歩」として楽しめる図鑑が完成したので、ぜひ親子で楽しんでみてください。 参考図書: 「MOVEはじめてのずかん みぢかないきもの」 (講談社) 総監修に脳研究者・瀧靖之先生、生きものの監修に動物学者の今泉忠明先生をむかえ、読みきかせできる図鑑として親子で楽しむこともでき、小学校低学年のひとり読みにも最適です。 ファースト図鑑として、小さなこどもが出会う身近な生きものを網羅。 カブトムシ、ダンゴムシ、ゾウ、キリン、ドングリ、はっぱ…子どもたちの好きなものが詰め込まれています。 クイズやコラム、巻末には生きものが登場する昔話も! はじめて出会う自然の世界を、季節を感じさせる本格的なイラストとダイナミックな写真、NHKの貴重なアーカイブ映像で紹介します。 文・取材/まちとこ出版社 石塚由香子
2018年04月30日入学や進学など、年度切り替えのこの時期は、障害があるなしに関係なく、 親がナーバス になる時期。でも、発達障害のある子を持つ親にとっては、さらに頭を悩ませる時期なのではないでしょうか? 通常学級、通級、支援級、支援学校…わが子が安心して楽しく通える環境はどこなのか? 親は、就学問題に長い時間と労力を費やし、時には夫婦で揉め心をすり減らしながら、やっとの思いで わが子にベストと思える居場所 を決めます。でも、そんな親の努力をすべてひっくり返すような、無理解な担任の先生に当たってしまったり…。 そんな思い悩むことが多いこの時期、再びNHK総合テレビで発達障害をテーマにした特番 「超実践!発達障害 困りごととのつきあい方」 が放送がされます。 番組では、寄せられた約4000通の体験談から 「感覚過敏」「忘れ物・片付けが苦手」「読み書き計算が苦手」「コミュニケーション」 という代表的な4つのテーマを取り上げ、発達障害の当事者はもちろん、家族やその周囲がすぐに実践できる 「対処法」「周囲への助けの求め方」 などをできるだけ具体的に伝えていく。 さらに、「困りごと」「周囲の無理解」からどうやって人生を好転させたのか、その転機をとなった方法や出会いを描くほか、 栗原類 さんをはじめ一般の発達障害 当事者8人 をスタジオに招き、一人ひとり微妙に異なる困りごとに対する対処法をトーク。「どうすれば困りごとに対処できるか」「どうすれば人生楽しくなるか」「発達障害の人とそうでない人が共存するにはどうすればいい?」などを生放送で話し合う。 ■「発達障害」に対する社会の認知は高まってきたけれど… ここ数年で、発達障害に対する社会の認知は高まって、園や学校ではずいぶんと理解が進んだように思います。 でも、当事者や家族の目線から見ると、依然としてサポート体制が不十分で必要な配慮が受けられなかったり、相談したはずの困り事が放置されたままだったり、個々人の対応はまちまちだったり……まだまだ難しいと感じることが多いのが現実です。 今回の特番担当プロデューサーからも、「これまで発達障害については何度も放送してきましたが、 無関心層 へのリーチはまだまだだと感じています。しかし、そうした層に届かない限り当事者の困り事は解決しないため、繰り返しを恐れず伝えたいとも思っています」とメッセージをいただきました。 これ、まさに、その通りだと思うのです(冒頭でお話した、すべてをひっくり返すような無理解な先生がいることもしかり)。 でも、みなさん、日々自分の生活でいっぱいいっぱい…。当事者や家族でない限り、「大変そうだけどよくわからない」とか「障害を言い訳にしてない?」などとスルーされてしまうのも仕方ないことなのかもしれません。 ■自分が生きやすくなるためには「相手のことを知る」が一番の近道 そんな私も、息子が 自閉症スペクトラム と診断されるまでは、「大変そうだけど、結局よくわからない」の人でした。 障害について理解する前は、「親子でがんばればなんとかなる!」などと、ワケのわからぬ根性論で発達障害を改善しようとしていた時期もありました。そして、息子に無理強いをさせては、それが自分に跳ね返って、ますます自分自身がイライラしてしまう、そんな 悪循環 に陥っていました。結局、無理解は相手だけでなく、まわりまわって 自分自身をも辛い状況 に追い込んでしまうのです。 私は、息子を通して、「基本的に人(子ども)を変えることはできない」という当たり前のことを改めて思い知りました。相手(子ども)に自分の価値観を強いることは、トラブルと双方のストレスのもと。喜びや苦しみは現実と期待とのギャップで生まれ、相手(子ども)にできないことを求める行為は、結果、自分に対する ストレス を生むことになります。 ■「発達障害の人のため」ではなく、「自分自身のため」に ちょっと変な言い方かもしれませんが、今回の放送、「発達障害の人がより生きやすくなるために」というような道徳的な視点よりは、むしろ、 「自分自身がより生きやすくなるために」 という自分視点で見た方が、より幅広い方々に響くのかもしれません。 発達障害は、今や40人学級で2~3人の割合でいると言われているほど。子どものクラスメイト、親戚、会社、ママ友仲間にも、障害とまではいかなくても、グレーな方を含めれば「もしかして…?」と思われる方も少なくないでしょう。もはや避けては通れない問題です。 「なんであの人は、いつもあんな嫌な言い方をするんだろう?」とか「どうしていくら説明しても、あの人には話が通じないんだろう?」など、あなたが苦手に思っている人との、上手な付き合い方のヒントが得られるかもしれません。また、番組で語られる、コミュニケーションが苦手な方や生きにくさを感じている方が、自身の人生を好転させるために編み出したノウハウには、私たちの生き方にも参考になるところがあるのではないでしょうか? 今回、私は、息子のためではなく、 自分のため という視点で、番組を見たいと思っています。 文:まちとこ出版社N 【NHK 発達障害プロジェクト】 超実践! 発達障害 困りごととのつきあい方 放送日時:2018年4月30日(月・祝)午前8:15~9:59 NHK総合テレビ MC:中山秀征さん、近江友里恵アナウンサー ゲスト:栗原類さん(「あさイチ」で自分が発達障害であることを告白)ほか、発達障害のご本人(一般の方)8人と専門家
2018年04月28日GWに夏休みと、おでかけが楽しいシーズンがもう目の前! ピーク時期でも料金がさほど高くならず、未就学児は無料で利用できる新幹線は、子連れファミリーにとってお得で便利な移動手段です。 そこで、ピーク時期でも安く予約できるコツやおすすめの座席など、子連れで快適に利用できる 「新幹線の子連れ旅テクニック」 をご紹介します。 ■家族旅行なら未就学児は無料「新幹線の料金体系」 新幹線を利用する最大のメリットは、 未就学児(0歳〜6歳)の間は無料 で利用できること。飛行機は原則、国内線は3歳以上でこども料金がかかるので、3歳〜6歳の旅行は新幹線の方がお得です。年齢ではなく「未就学児」という区分なので、6歳でも幼稚園・保育園児なら無料。ただし、料金を払って乗車する 乗客1人につき、無料になる未就学児は2人まで 。例えば大人1人、未就学児3人で乗るなら、大人1人+こども1人分の料金がかかります。 自由席を利用する場合、無料の未就学児でも座席を1席使うのはOKとされています。一方、指定席なら大人のひざにのせるか、またはこども料金(大人の半額)を支払って1席分を確保するか、という選択になります。そのため、混雑していないオフシーズンなら自由席の方がおすすめです。 ただし、立ち客が出るような混雑時期は、自由席でも未就学児は大人のひざに座らせたりして、ほかの乗客に配慮するのがマナー。お正月やGW、お盆の時期の自由席車両では、 車内放送や車掌さんからの声がけ で協力を求められることもあるようです。 東海道新幹線「のぞみ」や東北新幹線「はやぶさ」など全席指定の新幹線も多いので要注意。指定席を購入する際は、乗車時間や子どもの体重、性格を考え、ひざにのせられるかどうか判断しましょう。 グリーン車やグランクラスを利用する場合、ひざに乗せるなら未就学児は無料。ただし、1席確保する場合はこども料金に加えて、大人運賃のグリーン券・グランクラス利用券が必要となります。これらの利用券には こども料金の設定がない ためです。 こども料金の設定がなくても、もちろん子連れで利用できます。ただし、グリーン車やグランクラスは静かで子連れが少ない空間なので、かえって気疲れする心配もあります。「せっかく高い料金を払ったのに、子どもが騒いでしまったから、 ずっとデッキに立ちっぱなし だった」ということも。 ■出発3日前までOK! ピーク時期でも「お得な新幹線きっぷ」を確保するコツ 新幹線のもうひとつのメリットは、GWや夏休みなどのピーク時期でも 運賃の変動が少ない こと。指定席特急券料金が上がりますが、通常期に比べアップは片道200円程度とごく少額。自由席なら、ピーク時期も閑散期も 一年中同じ運賃 で利用できます。 とはいえ、ピーク時期にJR東日本の「トクだ値」、JR西日本の「早得」などの割引きっぷを購入するのはかなり大変。きっぷは乗車1カ月前の午前10時から発売されますが、人気の日程・路線は発売と同時にホームページにアクセスしても手に入れるのは至難のワザで、早々に売り切れてしまうことも。 販売開始のさらに1週間前からは、JR東日本「えきねっと」、JR西日本「e5489」、各旅行代理店などで申し込める「事前予約サービス」もありますが、こちらは 早い者勝ちではなく抽選 なので、取れるかどうかは運次第。 そこでおすすめは、新幹線+宿泊のセットプランで申し込むこと。各旅行代理店や、JR東日本「えきねっと」、JR西日本「e5489」などで扱っている、交通機関と宿泊がセットになったいわゆるツアーパックで、新幹線のきっぷ販売開始前から申し込むことができます。 きっぷの申し込みは旅行代理店側が行うので、自分で手配するよりも取れる可能性大。価格も、個人で新幹線とホテルを別々に手配するより安く、プランによっては 出発3日前まで申し込みOK です。GWの日程でもまだ空席があり、要チェックです(2018年4月16日現在)。 ■子連れ旅なら「デッキ近く」「多目的室近く」の席がベスト! 子連れで快適に移動するなら、どの座席に座るかはとても重要。そこで、新幹線移動でのおすすめな席をまとめました。 1. デッキ近くの席 泣いたりグズったりすることが多い子連れでの乗車は、ハラハラドキドキの連続。のんびりと座っていられず、デッキに行って子どもをあやす機会が多くなりがちです。そこでおすすめなのが、デッキにすぐに出られるドア近く(車両の前方または後方)の席。特に最前列を予約しておくと、子どもが前の座席をけって遊ぶ心配もなく安心。足元のスペースにも余裕があるので、ベビーカーや荷物を置くこともできます。 2. 多目的室近くの席 多目的室は体の不自由な方のための個室ですが、空いていれば授乳やオムツ替えスペースとして使うことができます。設置場所は新幹線の種類によって異なり、例えば16両編成の「のぞみ」「ひかり」「こだま」は11号車、8両編成の「みずほ」「さくら」「ひかり」「ひかりレールスター」「こだま」は7号車、12両編成の「かがやき」「はくたか」「つるぎ」「あさま」は7号車(変更の場合あり)。多目的室の前には広々とした多機能トイレもあり、オムツ替え用ベッドも設置されています。 多目的室のある車両は家族連れに人気があるため、早めの予約がおすすめ。特に多目的室に近い最後列付近の席は、ベビーカー等の大きな荷物が置けるスペースがあるため、すぐに埋まる傾向あります。空きがない場合は、すぐ後ろの車両(「のぞみ」なら12号車)の前方席を狙うといいでしょう。 3. 車掌室近くの席 多目的室を利用する際には、車掌さんや車内販売員などに声をかけて鍵を開けてもらう必要があります。せっかく多目的室近くの席をおさえていても、タイミング悪く車掌さんが見つからずに子どもを抱えてウロウロ…なんてことも。であれば、最初から多目的室ではなく、車掌室近くの席を狙うのも手です。車掌室の場所も新幹線によって異なるので、きっぷを買う前に電話などで問い合わせておくといいでしょう。 単なる移動手段ではなく、旅の楽しみを満喫できるのも新幹線の魅力。車内販売で新幹線型の容器に入ったお弁当を買ってみたり、窓の向こうの景色を眺めながら会話を交わしたりと、日常とは違う体験が待っています。家族の思い出の1ページに、新幹線での移動を加えてみませんか? 文/まちとこ出版社 渡辺裕希子
2018年04月20日「長女っぽい」とか「末っ子っぽい」など、他人を見ていてなんとなく感じたり、逆に、他人から自分自身のことを指摘されたことがある、なんて方はとても多いのではないでしょうか? 「生まれ順」 は性格に影響する共通パターンがある――そんなところに目をつけて研究をしたのが、作家・心理カウンセラーの 五百田達成さん です。 五百田達成(いおた・たつなり)さん 作家・カウンセラー。東京大学教養学部卒業後、角川書店、博報堂、博報堂生活総合研究所を経て独立。サラリーマンとしての実体験と豊富なカウンセリング実績を生かした、人づきあいやコミュニケーションに関する実践的アドバイスが好評を得ている。執筆や講演の主なテーマは「コミュニケーション心理」「社会変化と男女関係」「SNSと人づきあい」「ことばと伝え方」。テレビや雑誌などメディア出演多数。主な著書に、35万部を超えるベストセラー「察しない男 説明しない女」シリーズ(ディスカヴァー)、13万部突破の「特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ」(新潮文庫)などがある。米国CCE,Inc.認定 GCDFキャリアカウンセラー。 著書: 『"生まれ順"でまるわかり! 一人っ子ってこんな性格。』 (五百田達成・著/ディスカヴァー・トゥエンティワン ¥1.080 (税込) HP: 五百田達成オフィシャルサイト 老若男女あらゆる人たちにインタビューを重ねた結果、性格は親ときょうだいとの関係性で決まる、との結論に至ったと言います。 そこから独自のメソッドを導き、分類したのが、「長子(きょうだいの一番上)」「末子(きょうだいの一番下)」「中間子(3人以上のきょうだいの「長子」と「末子」以外)」「一人っ子(きょうだいがいない)」の4つの「きょうだい型」。 ・「『きょうだい型』あなたはどのタイプ? 子育てのモヤモヤ・イライラの答えがここに」【“生まれ順”で子育てまるわかり! 第1回】 ・「長子」はどんな性格? 頼られ上手で甘え下手『アナと雪の女王』エルサそのもの【“生まれ順”で子育てまるわかり! 第2回】 ・「末子」はどんな性格? お調子者の「したたかアイドル」【“生まれ順”で子育てまるわかり! 第3回】 ・「中間子」ってどんな性格? こじらせ気味の“かまってちゃん”【“生まれ順”で子育てまるわかり! 第4回】 最終回となる第5回は、「一人っ子」についてお話をうかがいいます。 ■「一人っ子」は“マイペースな帰国子女” ―― きょうだいのいない「一人っ子」はどんなタイプなのでしょうか? 五百田達成さん(以下:五百田さん):「一人っ子」の性格をひと言でいったら、“マイペースな帰国子女”です。 きょうだいがいないという点では、ほかの「長子」「末子」「中間子」グループとはまったく異なる価値観を持って育ち、独自のルールで行動します。なので、「きょうだいがいる人たち」から見たら「一人っ子」は未知の存在。同じ人種だけど理解不能な行動に驚かされる、まるで帰国子女のような存在なのです。 ―― 確かに、一般的に「一人っ子」には個性的な人が多いように感じます。 五百田さん:「一人っ子」はそもそも「長子」と同じく、初めての子どもとして生まれ、親からたっぷりと愛情を注がれて育ちます。ですが、「一人っ子」の場合は下の子が生まれないので、自分が守るべき存在がいないことから責任感が育ちません。 また、親の愛情がほかのきょうだいに分散されることなく一身に注がれるので、とても素直な性格に育ちます。しかし、その分、親との関係が密接になるので、不思議と大人びた子どもに育ちます。 ―― 先ほどの“マイペースな帰国子女”という言葉を聞いて、「一人っ子」の著名人に、宇多田ヒカルさんを思いつきました。 五百田さん:「一人っ子」は、アートや芸術の世界で活躍される方が多いですね。例えば、宇多田ヒカルさんのほかに、村上春樹さんや坂本龍一さんなどもいます。 きょうだいがいる家庭では、一緒に遊んだりケンカしたりと、子ども同士もまれながら育つわけですが、「一人っ子」は家で一人で過ごす時間が多いので、絵を描いたり本を読んだりして感受性が磨かれるのでしょう。また、きょうだいがいない分、親のサポートも惜しみないので、自分のやりたいことを貫ける環境もあると思います。 ■「一人っ子」のママは“積極的に放置する勇気”が大切 ―― 5歳の男の子の「一人っ子」ママで、息子さんがあまりお友だちに関心を持たないと心配している方がいました。何か良いアドバイスはありますか? 五百田さん:「一人っ子」は、基本的に「人間関係オンチ」なのです。小さい頃からきょうだいとおもちゃを奪い合ったりケンカをしたりせず、人間関係の細かなニュアンスを体得せずに育つので、人付き合いが苦手です。こういった悩みがある場合は、積極的に家族以外のコミュニティに子どもを入れてはいかがでしょうか? 例えば、「ちょっとくらいのケンカは放置しよう」とルールを作ったうえで、「一人っ子」の子ども同士で集い、お互いに学ぶ機会をつくるとか。…で、今度の相談者のお母さんは、きっと、きょうだいがいる方ですよね? ―― 最後も当てられてしまいましたね(笑)。おっしゃる通り、相談者のお母さんにはきょうだいがいます。やはり、お母さん自身にきょうだいがいて、もまれて育った経験があるからこそ、「一人っ子」のマイペースぶりが理解できず、不安に思ってしまうのでしょう。逆に、「一人っ子」のお母さんであれば、「自分もお友だち関係はそんなものだった」と、それほど気にならないのでしょうね。 五百田さん:親は結局、自分が経験してきたことしか、子どもに教えられません。だからこそ、子どものことを理解するツールとして、この「きょうだい型」を役立ててほしいと思っています。 また、「一人っ子」に関してお母さんは“積極的に放置する勇気”を持つことが大切だと思います。150%子どもに関心を注いでいると、転ぶ前に守ってしまいがちですが、これでは子ども自身の学びの機会が失われてしまいます。 というのは、インタビューをした中で、こんな夫婦の話がありました。その女性の夫は「一人っ子」で、料理にまずそうな顔をするのに、何も言わないそうなんです。 そこで、妻が「まずいと思っているならちゃんと言葉で言って!」とキレたところ、初めて夫は「言わないと通じないんだ」とわかったそうです。小さい頃から、何も言わなくてもお母さんが察してくれる環境に慣れていたのでしょうね。 ―― 快適すぎる環境も考えものですね。さて、そんなユニークなコミュニケーションが特徴の「一人っ子」のやる気を引き出すような、ほめ言葉はありますか? 五百田さん:「さすが!」「〇〇ちゃんらしいね!」などです。「一人っ子」には、その子らしさにフォーカスしてほめる言葉が心に刺さります。 逆に、人間関係に関心の薄い「一人っ子」には、「助かったよ」と感謝を述べたり、「うらやましい」などとあこがれをアピールする言葉はあまり効果がありません。 ―― 逆に、叱る時はどうでしょう? 五百田さん:叱るというより、「何がダメだったと思う?」などと言って相手が納得するまで考えさせることです。納得できれば素直に行動を改めるのも、「一人っ子」の良い特徴。 逆に、「しっかりしなさい! あなたならきっとできるから!」などという期待やプレッシャーをかける言葉は、マイペースな彼らにはスルーされてしまうことでしょう。 人間関係にドライでマイペースな「一人っ子」。お母さんは“積極的に放置する勇気”を持ち、子ども同士のちょっとしたケンカには口を出さず、自分で学ばせることも大切なようです。 5回にわたって連載してきた連載「“生まれ順”で子育てまるわかり!」、いかがだったでしょうか? 「あるある!」と思った方、あるいは「必ずしもそうとは言えないな」と思った方、いろんな感想を持った方がいることでしょう。 今回の連載では、特に、子どもやお母さんとの関係にフォーカスして「きょうだい型」のお話をうかがいました。お母さんにとって子どもは、あまりに距離が近すぎて、客観的にみることが難しい存在です。こういった新しい視点を取り入れることにより、謎だったわが子の特性を理解するきっかけが得られたり、短所だと思っていたことが長所に思えてきたり、そんな新しい発見があったらステキですね! 取材・文/まちとこ出版社N
2018年04月18日「長女っぽい」とか「末っ子っぽい」など、他人を見ていてなんとなく感じたり、逆に、他人から自分自身のことを指摘されたことがある、なんて方はとても多いのではないでしょうか? 「生まれ順」 は性格に影響する共通パターンがある――そんなところに目をつけて研究をしたのが、作家・心理カウンセラーの 五百田達成さん です。 五百田達成(いおた・たつなり)さん 作家・カウンセラー。東京大学教養学部卒業後、角川書店、博報堂、博報堂生活総合研究所を経て独立。サラリーマンとしての実体験と豊富なカウンセリング実績を生かした、人づきあいやコミュニケーションに関する実践的アドバイスが好評を得ている。執筆や講演の主なテーマは「コミュニケーション心理」「社会変化と男女関係」「SNSと人づきあい」「ことばと伝え方」。テレビや雑誌などメディア出演多数。主な著書に、35万部を超えるベストセラー「察しない男 説明しない女」シリーズ(ディスカヴァー)、13万部突破の「特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ」(新潮文庫)などがある。米国CCE,Inc.認定 GCDFキャリアカウンセラー。 著書: 『"生まれ順"でまるわかり! 中間子ってこんな性格。』 (五百田達成・著/ディスカヴァー・トゥエンティワン ¥1.080 (税込) HP: 五百田達成オフィシャルサイト 老若男女あらゆる人たちにインタビューを重ねた結果、性格は親ときょうだいとの関係性で決まる、との結論に至ったと言います。 そこから独自のメソッドを導き、分類したのが、「長子(きょうだいの一番上)」「末子(きょうだいの一番下)」「中間子(3人以上のきょうだいの「長子」と「末子」以外)」「一人っ子(きょうだいがいない)」の4つの「きょうだい型」。 ・「『きょうだい型』あなたはどのタイプ? 子育てのモヤモヤ・イライラの答えがここに」【“生まれ順”で子育てまるわかり! 第1回】 ・「長子」はどんな性格? 頼られ上手で甘え下手『アナと雪の女王』エルサそのもの【“生まれ順”で子育てまるわかり! 第2回】 ・「末子」はどんな性格? お調子者の「したたかアイドル」【“生まれ順”で子育てまるわかり! 第3回】 続く第4回は、「中間子」についてお話をうかがいます。 ■愛情のエアポケットに陥りがちな「中間子」は“永遠の思春期” ―― 3人以上のきょうだいの「長子」と「末子」以外である、「中間子」はどんなタイプなのでしょうか? 五百田達成さん(以下:五百田さん):「中間子」の性格をひと言でいうと、“永遠の思春期”です。「中間子」は、はじめは「末子」として生まれチヤホヤされて過ごしますが、ある日突然、その座を新たに生まれた「末子」に奪われます。 そして、「長子」と一緒にいる時は下の子として扱われ、ぐいぐいと上から押さえこまれ、「末子」と一緒にいる時は上の子としてのふるまいを求められ、どんどん突き上げられる。まさに“中間管理職”的ポジションになるわけです。 そういった環境で育つので、人付き合いのバランス感覚は養われますが、繊細で感受性の強い性格になります。 ―― なるほど。確かに、一般的に「中間子」には、ちょっと“一筋縄ではいかない人”のイメージがありますね。 五百田さん:なんでも一番の「長子」と、無条件に愛される「末子」の間に挟まれ、「中間子」は愛情のエアポケットに陥りがちなんです。実際にインタビューをして、「『中間子』ってこんなにこじらせていたの!?」とビックリしたほどです。 多くの「中間子」が、「子ども時代に一番愛情をかけられなかった」とか「普通にしていたら親に気づいてもらえないから、注目されるには激しい自己主張するしかなかった」などと本気で告白しましたよ。「中間子」が親の関心を引くのは並大抵なことではないのですね。 ―― 愛情のエアポケットとは確かに…。でも、「中間子」には苦労人が多いせいか、社会に出て成功している人も多いですよね? 五百田さん:小さい頃から周囲の人間関係に敏感で、相手の気持ちを察して動く「中間子」は、ビジネスでの交渉や政治的な立ち回りが上手なタイプが多いのが特徴です。 著名人でいったら、ソフトバンクの孫正義さんやユニクロの柳井正さん。歴代首相の約半数が「中間子」というのもいい例です。 また、フィクションでいえば、アニメや映画化もされた少年漫画『キャッツ・アイ』の「来生瞳」。セクシーな姉と元気な妹に比べると、ちょっとキャラクターが薄い「瞳」ですが、自分のお店に刑事の彼氏を連れてくるなど、時としてとっぴな行動をとることがあるのが「中間子」の特徴です。 ■「中間子」には“ほかの子より5割増し”の愛情を注ぐイメージで ―― 私の周囲に、男の子3人きょうだいのお母さんがいて、「真ん中の子は、負けず嫌いで自己主張が激しく、一番扱いにくい」とこぼしていました。何か良いアドバイスはありますか? 五百田さん:「中間子」は愛情のエアポケットに陥りやすいので、ほかのきょうだいよりも5割増しくらいの愛情を注ぐイメージで接してあげてください。「この子だけちょっとひいきしてあげよう」くらいの比重で愛情を注ぐと、「中間子」はそこで初めて、平等に扱われていると感じられると思いますよ。 ほかのきょうだいに比べて、「中間子」はお母さんをひとり占めできる期間が短すぎるんです。だから、時にはお母さんと2人だけで遊びに行ったり、「自分は特別なんだ!」と思えるくらい、べったり過ごしてあげてください。 ―― 先に言ってしまいますが、この相談者のお母さん、実は同じ「中間子」なんです。先生の理論では、同じ「きょうだい型」は理解しやすいとあり、今までの相談ではまさにその通りでしたが、「中間子」ばかりは、なかなか一筋縄ではいかないのですね…。 五百田さん:さまざまな方々にインタビューをしてきましたが、やはり「中間子」が一番むずかしいと感じています。特に、この例は、同性の男の子3人きょうだいなので、ますます「中間子」への関心は薄くなっているはず。 こじらせると、「いつも自分だけ割を食っている」という被害者意識を募らせる危険性もあるので、相談者のお母さんはしっかり「中間子」との時間を確保して、甘えさせてほしいですね。ただでさえ愛情をいっぱい受けている「長子」と「末子」は、多少放っておいても大丈夫ですから(笑)。 ―― そうかもしれませんね(笑)。では、そんな難しい気質の「中間子」がうれしくなってしまうような、ほめ言葉はありますか? 五百田さん:「中間子」は常に周囲との関係性でものを考えるので、「うらやましい」とほめるのが効果的です。「〇〇ちゃんのママがすごいって言っていたよ」などと、他人を引き合いに出してほめるのも心に刺さります。逆に、単に「すごい」「えらい」などとほめても、客観的な評価は「中間子」にはあまり刺さりません。 ―― では、叱る時に効果的な言葉は? 五百田さん:「もっとできるはず」という言葉です。「中間子」を叱る時には工夫が必要。頭ごなしに叱っても機嫌を損ねるだけで耳に入りません。「あなたには期待しているの。もっとできるはずだから厳しいことを言うのよ」と、お母さんの愛情を込め、自分は期待されているという実感を持たせることが大切です。 愛情のエアポケットに陥りがちな「中間子」。常に上と下に挟まれて中間管理職のようなポジションにいるので、時には、お母さんがえこひいきするくらいの感じで接してあげてちょうど良いようです。 次回は、「一人っ子」についてうかがいます。 取材・文/まちとこ出版社N
2018年04月11日新1年生のママにとって、はじめての学童は謎だらけ。子どもたちは何をして過ごしているのか、学童の先生はどんな人なのか、おやつは何を食べているのかなど、気になることがいっぱいです。 そこで、子どもを現在、学童に通わせている5人のママが集合し、匿名で座談会を開催! 住んでいるエリアや、自治体運営(公立)か企業運営(民間)かによる違い、それぞれの良いところ、悪いところなど、洗いざらいホンネで語ってくれました。 参加者プロフィール Kさん :都内S区在住、小1男児のママ。平日は毎日、小学校内にある公立学童に通わせている。仕事がフリーランスのため、預かり時間は日によってまちまち。 Hさん :都内S区在住、小1男児のママ。小学校は私立に通っているが「地元の友だちを作って欲しい」との理由で学童は自宅近くの公立を選択。週3回、15時〜18 時頃まで利用。 Mさん :都内E区在住、小2女児のママ。入学当初は仕事の都合で預かり時間の長い民間学童に通わせていたが、転職をきっかけに公立へ。現在は週4回ほど利用。 Yさん :都内M市在住、高1女児・小3男児のママ。公立学校の施設で民間が運営する「公設民営」学童を週4日利用。新しい所長に代わった途端、学童のルールもガラリと変わり、不満がいっぱい。 Wさん :神奈川県K市在住、小2男児・年長男児のママ。長男は1年間だけ民間と公立を併用していたが、現在は公立のみ。学童の利用は週2、3回のみで、ほかは習い事に通わせている。 ■通ってみて分かった! 民間と公立の違いは? ―― みなさん、現在は公立の学童を利用されていますが、WさんとMさんは民間の学童も経験されているんですよね。民間と公立、両方経験して違いはありますか? Wさん :公立だと送迎に間に合うかが心配だったので、週2回だけスポーツクラブが運営する学童に預けていました。費用は水泳のレッスン代と送迎込みで月5万円。フルタイムで働いていると習い事の時間が取れないのですごく助かったのですが、やっぱりお金がきつい! 私の母がヘルプに来てくれるようになったこともあり、3カ月程度でやめてしまいました。小2の今は週3回公立学童、ほかの日は習い事に行かせています。民間でも公立でも変わらず楽しく通っていましたが、最近は学童に行く友だちが減ってしまったので「行きたくない」と言うこともありますね。 Mさん :以前は、仕事で家に帰るのが夜7時30分~8時近くなってしまっていたので、やむを得ず週5で民間学童を利用していました。民間の場合、学習系と外遊び系に大きく分かれるんですが、娘が通っていたのは外遊び系。転職して帰宅が早くなったのをきっかけに公立に移りましたが、娘は民間の方が楽しかったと言っています。 少人数なので保育園みたいに手厚くみてくれて、学童の先生もしっかり遊んでくれていたからでしょうね。家までの送迎が料金に含まれていたので、親としてもすごく楽でした。民間と公立の違いは感じました。 Hさん :でも、うちは普通の公立学童に預けていますが結構手厚いと思いますよ。施設長は孫のようにかわいがってくれるし、面談の時にも「気になることはなんでも話してください」と丁寧に応対してくれます。近くの児童館と連携していて工作などのイベントが豊富ですし、おやつも唐揚げなどの手作り系が多い。 月に1度は子どもたちがみんなでおやつを作る食育の時間もあるんですよ。人数が少ないアットホームな学童だから、できることかもしれません。 Kさん :うちが通っているのはHさんと同じ区の公立学童ですが、手作りのおやつなんてほとんど出ませんよ! プリンやゼリーなど、ジャンキーなものばかりです。子どもは喜ぶからまあいいんですが、同じ区でも学校によってカラーが全然違いますよね。 Mさん :うちの子どもが入学する前までは、学童におやつ自体がなかったんですよ! おなかを空かせてかわいそうだからと、当時の保護者が署名を集めたようで、子どもが入学する際には「持ち込みならOK」となったんです。 でも、条件がめちゃめちゃ厳しい。毎週月曜または土曜日に小袋に分けた1週間分のおやつを持参して、学童の先生に中身を説明しなきゃいけないんです。月曜日だと学童が開く9時に合わせておやつを届けていたら会社に遅刻してしまいますし、金曜の夕方にゴミを持ち帰るのも大変。 おやつの時間も短いらしく、ゆっくりと食べることができないので、わが家は子どもから「おやつはいらない」と2週間で言われてしまいました。子どもに聞くと、おやつを持参している子は少ないようです。 Yさん :うちなんて、おやつは煮干しと小さなおせんべいだけということも。うちの学童は公立小学校の施設を使っているけど運営は民間の会社という「公設民営」という方式なんですが、昨年、所長が代わってからはいろいろトラブルが…。 子どもが預かり時間より早く学童から帰され、家の前で一人で泣いていたこともありました。降所時間を守ってほしいと何度かお願いしたんですが変わらなくて、年に一度行われる「第三者機関による調査アンケート」に記入してやっと改善されました。 「こんな学童はもう辞めよう!」と思った矢先、抽選で父母会役員に任命され、辞められなくなってしまったんです…。 Hさん :学童に父母会があるんですか? うちは父母会がなく、地域のイベントの時には学童の先生や一部の父母が協力してお店を出しています。学童の様子を知るためには、こういうイベントに参加するのもいいかもしれません。 ―― 学童は保育園と違って分かりづらいですものね。みなさんのお子さんは、学童を楽しんでいる様子ですか? Kさん :ドッジボールをして楽しかったとか、スノードームを作ったとか、そういう報告はしてくれます。学童自体に不満はなさそうですが、夏休み明けからはあまり行きたがらなくなってしまいました。自立心が芽生えて、学童という枠の中で遊んでいるよりも、友だちと外で遊びたいと思い始めたようです。 Mさん :うちは積極的に友だちと関わるタイプではないので、迎えに行くといつも一人で本を読んでいます。親としては心配ですが、本人は別に気にしていないみたい。ただ、学童内にある読める本はほとんど読み尽くしてしまったので、学校の図書館の本を読ませてくれたらいいのに、とは話しています。同じ施設内なのに、そこは融通がきかないんですよね。 Hさん :学校と学童は同じ施設内にあるから、同じものだと勘違いしちゃいますよね。でも、実際は運営が違って、カゼでお休みする時も、学校と学童の両方に言わないといけないんですよね。 Yさん :そうですね。うちも、学校と学童の連携が全然取れていないのに驚かされました。学校の行事がある日に学童がイベントを入れてしまって、結局、学童イベントが予定を変更することもありました。 ■夏休みの「学童お弁当」問題、どう乗り切る? ―― みなさんのお子さんは、学童で宿題はすませてくるのでしょうか? Hさん :17時からの30分間は学習タイムと決まっているので、みんな宿題をしたり本を読んだりして過ごしているようです。でも、生徒数が100人を超えるようなマンモス校だとなかなかそうはいかないと聞きます。騒いだり遊んだりしてしまう子が多くて、なかなか統率がとれないみたいです。 Wさん :うちも17時からは学習タイムなんですが、そもそもその時間まで残っている子どもが少ないんですよね。16時過ぎにはみんな習い事に行っちゃうので、結局宿題は家でやることの方が多いかも。 Yさん :うちの学童には、学習タイム自体がないですね。1年生の頃はなんとなく勉強をうながしてくれていたんですが、所長が変わってからは一切なくなってしまい、外遊びだらけになってしまいました。だから帰宅して、私がごはんの用意をしている間に宿題をするように言い聞かせているんですが、ゲームばかりで全然やらない(笑)。 Mさん :学習タイムがないのはうちも同じですが、女子は言わなくても勉強するんですよね(笑)。毎日、夕方には友だちと一緒に宿題やドリルに取り組んでいるようです。 ―― みなさん、夏休みはどうされていますか? ふだんと違って、1日中学童で過ごしますよね。 Hさん :いつも通り、朝から夕方までがっつり預けています。午前中は部屋で静かに遊び、お昼を食べてからは外で遊んで、夕方には学習タイム、というのが大体のスケジュール。日によっては間にプールの授業があります。家にいても仕方ないですし、本人も楽しそうに通っていますよ。 Wさん :ただ、学校と違って、学童はスタートが遅いですよね。学校がある時は午前8時に校門が開くのに、夏休みになると学童の登所時間に合わせて、8時半と30分遅くなってしまう。これだと会社に遅刻してしまうので、何とかならないのかなといつも思います。 Yさん :うちも8時半開門ですが、オプション料金を払うと早めに預かってもらえます。30分早めると400円、延長は1時間で800円。運営が民間なので、そこはシビアですね(笑)。 Mさん :夏休みだけ民間に預けることも考えたんですが、高いんですよね。魅力的なイベントは多いんですが、いろいろ参加してたらあっという間に10万円を超えてしまいそう。結局、いつも通り公立の学童に通わせていたら、プールで皆勤賞を取ってしまい、喜んでいいのやら(笑)。 どこにも連れて行ってあげられなくて、親としては申し訳ないという気持ちがあります。せめてお弁当くらいは頑張ろうと思い、夕飯の残りものは使わずイチから手作りしています。おかずを包むラップに絵を描いたり、「今日もがんばれ!」とメッセージを書いたりすると、喜んでくれますね。 Wさん :残り物を使わないなんてすごい! 私はだいぶ手抜きを覚えましたが、子どもを「かわいそう」と思う気持ちは分かります。夏休みに限らず、毎日学童に行っていると自由がないですもんね。いつも同じ場所、同じ時間、同じ仲間では、そりゃあ飽きるだろうなと。 Mさん :自分たちが子どもの頃は親にいちいち行き先を言わなかったし、勝手に公園に行って道草していましたよね。今の子どもたちには自由がないし、そのことに気づきすらしない。うちの地域の学童は6年生まで通えるのですが、もし学童に行かなくなったとしても、友だちとうまく遊べるか心配です。 塾に行かせれば親としては安心かもしれませんが、不自由であることには変わりありません。せっかくの小学校時代を、子どもに制限させて過ごさせていることに不安を感じます。 Yさん :うちは今年の4月から、学童のない生活が始まります。当面は自宅勤務を増やしつつ、習い事をさせたり友だちと予定を入れたりで乗り切るつもりですが、夏休みをどうするのかは想像がつかないですね。 実家に預けたいとも思ったのですが、息子は友だちと遊ぶほうがいいみたい。「毎日、友だちとゲーム三昧ができる!」と妄想がふくらんでいるようですが(笑)、親としては頭が痛いです。 ―― 最後に、学童スタートを間近に控えた新1年生にアドバイスをお願いします。 Wさん :周囲に誰も知っている子がいない状態だと、最初は苦労するかもしれません。入学前から、知らない場所にいきなり連れて行かれるわけですからね。息子は誰とでも仲良くできるタイプなのに、学童ではしばらくポツン状態で心配したこともあります。 Mさん :学童は保育園と違って細やかにお世話してくれるわけではないし、親同士の付き合いもほとんどない。親の方が「保育園ロス」になるかもしれません。 Hさん :でも、子どもは大人に比べて順応性が高いから、なんだかんだで乗り越えて行くんですよ。小学校入学前の数日だけでもかなり鍛えられますし、1学期を終えると急激に成長します。そんなに心配しなくても大丈夫だと思います。 ―― 親は保育園気分でつい心配になってしまいますが、子どもの力を信じて遠くから見守ってあげるくらいが良さそうですね。本日はありがとうございました。
2018年04月11日「長女っぽい」とか「末っ子っぽい」など、他人を見ていてなんとなく感じたり、逆に、他人から自分自身のことを指摘されたことがある、なんて方はとても多いのではないでしょうか? 「生まれ順」 は性格に影響する共通パターンがある――そんなところに目をつけて研究をしたのが、作家・心理カウンセラーの 五百田達成さん です。 五百田達成(いおた・たつなり)さん 作家・カウンセラー。東京大学教養学部卒業後、角川書店、博報堂、博報堂生活総合研究所を経て独立。サラリーマンとしての実体験と豊富なカウンセリング実績を生かした、人づきあいやコミュニケーションに関する実践的アドバイスが好評を得ている。執筆や講演の主なテーマは「コミュニケーション心理」「社会変化と男女関係」「SNSと人づきあい」「ことばと伝え方」。テレビや雑誌などメディア出演多数。主な著書に、35万部を超えるベストセラー「察しない男 説明しない女」シリーズ(ディスカヴァー)、13万部突破の「特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ」(新潮文庫)などがある。米国CCE,Inc.認定 GCDFキャリアカウンセラー。 著書: 『"生まれ順"でまるわかり! 末っ子ってこんな性格。』 (五百田達成・著/ディスカヴァー・トゥエンティワン ¥1.080 (税込) HP: 五百田達成オフィシャルサイト 老若男女あらゆる人たちにインタビューを重ねた結果、性格は親ときょうだいとの関係性で決まる、との結論に至ったと言います。 そこから独自のメソッドを導き、分類したのが、「長子(きょうだいの一番上)」「末子(きょうだいの一番下)」「中間子(3人以上のきょうだいの「長子」と「末子」以外)」「一人っ子(きょうだいがいない)」の4つの「きょうだい型」。 ・「『きょうだい型』あなたはどのタイプ? 子育てのモヤモヤ・イライラの答えがここに」【“生まれ順”で子育てまるわかり! 第1回】 ・「長子」はどんな性格? 頼られ上手で甘え下手『アナと雪の女王』エルサそのもの【“生まれ順”で子育てまるわかり! 第2回】 続く第3回は、「末子」についてお話をうかがいます。 ■無条件の愛が注がれる家族のアイドル「末子」 ――「末子」はどんなタイプなのでしょうか? 五百田達成さん(以下:五百田さん):「末子」の性格をひと言でいうと、“したたかなアイドル”です。「末子」は、家庭の中で一番小さな存在。家族みんなにかわいがられ、いじられ、チヤホヤされ、まるでアイドルのような存在に育ちます。 ―― 前回の「長子」のお話では、「長子」は親の期待を一身に受ける存在と聞きましたが、「末子」と「長子」とでは、親の愛の形が違うのでしょうか? 五百田さん:はい。「末子」が親から受ける愛情は、「長子」のものとは少し形が違います。「長子」の子育ては親も気合が入りがちですが、「末子」になると、親も余裕が出てきて適度に手を抜くことを覚えます。 例えば、「上の子はちょっと厳しくしすぎちゃったから、下の子にはやりたいようにやらせよう」などと、「長子」には親の期待が大きかったのに対して、「末子」には無条件の愛が注がれるのです。 ―― なるほど。無条件の愛、よくわかるような気がします。 五百田さん:「末子」は親にとって最後の子ども。「ずっと小さいままでいてほしい!」などと、(心の中で)成長が止まるのを願う親もいるほどです。その結果、中学生になって声変わりが始まり出したような男の子にも、「〇〇君はいつまでもかわいいね~♪ ギュッツ♪」なんてことをしているお母さんも少なくないのではないでしょうか? 「末子」自身も、自分が家庭において、そういった「かわいがられるポジション」にいることをよくわかっています。そういう環境で育つので、「末子」には「長子」のような責任感やプライドは生まれず、周囲を楽しませようとするサービス精神やノリ、社交性が育つのです。 さらに、「末子」には、生まれた時から「長子」というお手本がいるので、どういう対応をすれば親からほめられるのか、叱られるのかがよくわかっています。だから、ますます器用で要領が良く、世渡り上手になっていくのです。 フィクションのキャラクターになりますが、「末子」の特徴を良く表しているのが、『ちびまる子ちゃん』のまる子です。のらりくらりとお気楽に生きながらも、ずる賢く世渡り上手で、でも、祖父や父からはひと一倍かわいがられるまる子は「末子」そのものです。 ■積極的に外の集団に出して、トップの役割を経験させよう ―― まさに、私の周囲にも「まる子」のような気質の末っ子に、どう接していいのか悩んでいるお母さんがいました。子どもは3人なんですが「私もパパもどうしても末っ子には厳しくできない」と。 五百田さん:3人も子どもを育てて、お母さんもお父さんも、もう子育てに飽きているんだと思いますよ(笑)。子どもにいろいろ言ってもきかないことがわかり、いい意味であきらめているのでしょう。こうなると家庭ではなかなか対処が難しいので、積極的に家庭以外の集団に入れてみてはどうでしょうか? 例えば、厳しいスポーツクラブや習い事に参加させて、強そうな同級生に負けるなどという経験を積み重ねることで、調子の良さだけでは逃げ切れないことを身をもって知ってもらうとか。逆に、集団の中で自分がトップになる、一番上になるような経験をさせるのも良いでしょう。 家庭内でも、何か責任のあるお手伝いを任せたり、「もう来年は小学生になるんだよ」などと、お兄ちゃんお姉ちゃんになることを意識させるのもおすすめです。…で、きっと、この相談者のお母さんは「末子」でありませんね? ―― またしても正解です! 相談者のお母さんは「長子」です。生真面目な「長子」は、「末子」の調子の良さにモヤモヤしつつも、なかなか厳しくはできないのでしょうね。 五百田さん:ちなみに、私は3人きょうだいの「末子」なので、相談者のお母さんの「末子」のことがよくわかります。もう、こういう甘えん坊「末子」は、早い段階で厳しい集団に放り込んだらいいんですよ(笑)。 ―― 私も3人きょうだいの「末子」なので、本当にそう思います(笑)。さて、そんなお調子者の「末子」のやる気を引き出す、効果的なほめ言葉はありますか? 五百田さん:「すごい!」「上手!」「頭良い!」です。子どもの頃からほめられ慣れている「末子」は、凝った言い回しよりストレートにノリ良くほめることが心に刺さります。 ―― 逆に、叱る時はどうでしょう? 五百田さん:「末子」に刺さるのは、「次から気をつけて」という言葉です。「起きてしまったことは仕方がないけど、この失敗から学びなさい」というメッセージが、要領の良い「末子」には効果があります。 逆に、効果がないのは、きつい言葉でガツンと叱ること。のらりくらりとうまくかわして逃げてしまう「末子」にはあまり効果がありません。 親の無条件の愛に包まれ、アイドルのように育つ「末子」。親が厳しく接するのは、ほぼ無理ともいえるポジションなので、早くに外の集団に出して、いろいろもまれて育つのが良さそうです。 次回は、3人以上のきょうだいの真ん中である「中間子」についてうかがいいます。 取材・文/まちとこ出版社N
2018年04月05日保育園や幼稚園、小学校の先生とは異なり、あまり知られていないのが 放課後児童支援員 、いわゆる“学童の先生”。「放課後に子どもと遊んでくれる先生」というイメージは漠然とあるものの、「資格は必要なの?」「子どもがケンカしたらどう対応するの?」「どうやってコミュニケーションを取ればいいの?」など、保護者にとっては 謎がいっぱい 。 4月から通い始める1年生のママはもちろん、すでに学童生活を送っている小学生の保護者も、この機会に知っておきましょう。 ■学童の謎その1:学童で働くのに資格はいるの? 学童保育では 小学校教員免許、幼稚園教諭、保育士 のいずれかの資格を持つことが求められています。とはいえ必須ではないため、自治体によっては、資格を持たない支援員も多く働いているのが現状です。 本当に子どもたちが安心して、楽しい放課後を過ごせるのか。学童保育の質が気になるところですが、2015年に専門職として 「放課後児童支援員」 の資格が新設されたことは朗報といえるでしょう。 放課後児童支援員とは、保育士・社会福祉士・教員免許のいずれかの資格を持っている人や、高卒以上で2年以上児童福祉事業に従事した人などが、都道府県知事が行う研修を受けることで得られる資格のこと。研修は16科目・合計24時間のみと短期間で、子どもを理解するための基礎知識や安全・安心への対応などを学ぶ内容となっています。 現在は、おおむね 40人の集団ごとに2名以上の放課後児童支援員 を配置すること(うち1名は資格のない補助員でも可)が義務付けられており、資格取得を後押しする機運が高まっています。 支援員の採用基準は、学童施設によってさまざま。例えば、全国71カ所の学童クラブを運営する 日本保育サービス では、二度の面接を実施しています。 「面接では、仕事に対する熱意に加えて、 コミュニケーションスキルや人柄 なども重視しています。子どもはもちろん、保護者も安心できるような方を採用する方針です」(日本保育サービス・阿部農さん) パワフルな子どもたちと外遊びをする機会が多いため、体力があることも必須条件といえるでしょう。 ■学童の謎その2:学童でどんな仕事をしているの? 子どもたちが学童へ集まり始めるのは授業が終わる13時半頃ですが、常勤の支援員は一般的に、朝10時頃には出勤しています。連絡事項を共有するミーティングや、その日に行われるイベントの用意など、事務作業を進めながら受け入れの準備を進めているそうです。 支援員の基本的な仕事は、子どもの 安全を見守りつつ一緒に遊ぶ こと。授業を終えて疲れた子どもたちがリラックスして過ごせるようにサポートしながら、おやつを提供したり、自主学習の時間を設けたりと、臨機応変に対応していきます。 保育園の先生と似ているように感じますが、違うのは自分でいろいろなことができるようになる小学生が相手だということ。子どもたちの自主性に任せつつ、必要に応じて間に入るといった対応が基本となります。 「子ども同士でトラブルが起こった時も、指導員は両方の話を聞くよう心がけています。例えばお友だちを叩いてしまった時には、なぜ叩いたのかという理由を聞き、叩く代わりにどうやって気持ちを伝えるといいのかなどを、叩かれてしまった子どものケアと合わせて話しています。子どもは1日経つと忘れてしまうので、その日に起きたことは その日のうちに解決 することも大切ですね」(日本保育サービス・阿部農さん) 2016年には全国の学童施設で288件の重篤な事故(治療期間30日以上)が報告されており、うち 259件を骨折が占めています( 「教育・保育施設等における事故報告集計(平成28年)〜内閣ホームページ〜」 より)。 子どもの安全を守るのも指導員の仕事ですが、近年は学童の 大規模化 が進んでいることもり、子どもひとりひとりに目が行き届かないのが現状。 「支援員を校庭や部屋の四隅に配置するなど、 死角を作らない工夫 をしています。施設が広い場合は、何かあったらすぐに対応できるよう各自がインカムを使用している施設もあります。また、不審者対策も子どもたちが安心して過ごすためにも重要です。子どもが何人利用しているのか、また何時に帰るといった情報も適宜、確認と共有をしています」(日本保育サービス・阿部農さん) このように現場でも対応しているようですが、何をするか分からないのが小学生。保護者も日頃からしっかりと、子どもに言い聞かせておきたいものですね。 ■学童の謎その3:支援員と親はどうコミュニケーションをとれば? 保育園の先生や小学校の担任とは異なり、学童指導員と顔をあわせる機会は限られています。コミュニケーションツールは、子どもに毎日持たせる 連絡帳 が基本。ちょっと気になることや相談したいことなど、遠慮せずにどんどん書き込むことで、互いの理解が深まっていきます。 また、ほとんどの学童施設では年に1〜3回の 個人面談 があり、直接相談することもできます。施設によっては父母会や学童主催のイベントなどもあるので、積極的に参加して交流を深めるのもいいかもしれません。 前述したように、放課後児童支援員には資格を持っていない人も多く、その質はバラバラ。不満を抱くこともあるかもしれませんが、大切なのはこちらの要望や疑問点をこまめに伝えること。相談をしながら一歩ずつ、信頼関係を築いていきましょう。 ・日本保育サービス 取材・文/渡辺裕希子
2018年03月26日「長女っぽい」とか「末っ子っぽい」など、他人を見ていてなんとなく感じたり、逆に、他人から自分自身のことを指摘されたことがある、なんて方はとても多いのではないでしょうか? 「生まれ順」 は性格に影響する共通パターンがある――そんなところに目をつけて研究をしたのが、作家・心理カウンセラーの 五百田達成さん です。 五百田達成(いおた・たつなり)さん 作家・カウンセラー。東京大学教養学部卒業後、角川書店、博報堂、博報堂生活総合研究所を経て独立。サラリーマンとしての実体験と豊富なカウンセリング実績を生かした、人づきあいやコミュニケーションに関する実践的アドバイスが好評を得ている。執筆や講演の主なテーマは「コミュニケーション心理」「社会変化と男女関係」「SNSと人づきあい」「ことばと伝え方」。テレビや雑誌などメディア出演多数。主な著書に、35万部を超えるベストセラー「察しない男 説明しない女」シリーズ(ディスカヴァー)、13万部突破の「特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ」(新潮文庫)などがある。米国CCE,Inc.認定 GCDFキャリアカウンセラー。 著書: 『"生まれ順"でまるわかり! 長子ってこんな性格。』 (五百田達成・著/ディスカヴァー・トゥエンティワン ¥1.080 (税込) HP: 五百田達成オフィシャルサイト 五百田さんは、老若男女あらゆる人たちにインタビューを重ねた結果、性格は親ときょうだいとの関係性で決まる、との結論にいたったと言います。 そこから独自のメソッドを導き、分類したのが、「長子(きょうだいの一番上)」「末子(きょうだいの一番下)」「中間子(3人以上のきょうだいの「長子」と「末子」以外)」「一人っ子(きょうだいがいない)」の4つの「きょうだい型」。 そもそもの「きょうだい型」について解説した前回 「『きょうだい型』あなたはどのタイプ? 子育てのモヤモヤ・イライラの答えがここに」 に続き、第2回は、「長子」についてお話をうかがいます。 ■『アナと雪の女王』のエルサは「長子」そのもの ―― 「きょうだい型」の中で「長子」はどんなタイプなのでしょうか? 五百田達成さん(以下:五百田さん):「長子」の性格をひと言でいったら、「きまじめな王様・女王様」。親にとって初めての子どもである「長子」は、親の惜しみない愛によって包まれ、その理想や期待を一身に受けて育ちます。 最も愛されているという自負に加えて、下の子の面倒をみてほしいという親の期待を守ってきた「長子」は、責任感が強くとても面倒見が良い傾向にあります。 ―― 確かに、親にとって初めての子というのは、思い入れが強いものですよね。わが家には2人子どもがいますが、上の子の赤ちゃん時代の写真はすごく多いのですけど、下の子は写真が少なくて、気がついたら大きくなっていた感じです(笑)。 五百田さん:親も最初は、子育てに気合が入っていますけど、だんだんと飽きて手を抜いていくのですよね(笑)。実際にインタビューをしていて、多くの親が「結局、一番上の子が一番かわいい」と告白しますよ。 ―― そういう親の気持ちをくみ取って、「長子」は、真っすぐと優等生タイプになるのでしょうね。とても素晴らしい特性だと思いますが、逆に、苦手なことは何でしょう? 五百田さん:「自分がしっかりしなければ!」という思いが強い分、人に任せたり甘えたりすることが苦手です。また、面倒見がいい分、気づかないうちに相手を支配しコントロールしようとする、ちょっと面倒な面もあるかもれません。 フィクションのキャラクターになりますが、「長子」の特徴を良く表しているのは、『アナと雪の女王』のエルサです。 ■効くほめ言葉は「ありがとう」叱り言葉は「しっかりしなさい」 ―― なるほど! そして、アナは「末子」の典型ですね(笑)。私の周囲に、まるでこの姉妹のような、生真面目な姉と自由奔放な妹を持つお母さんがいて、「伸び伸びした妹を見ていると、常に私の思いを察して動いてくれる姉にちょっと申し訳なさを感じてしまう」と言っていました。こんなお母さんの悩みを、五百田さんはどう思われますか? 五百田さん:「長子」は下の子に対して、自然と責任感が芽生えてしまいます。お母さんも、たとえ「お姉ちゃんなんだから」と言わないにしても、無意識に姉としてふるまうことを期待してしまっているのではないでしょうか? そんな雰囲気が積もり積もって、「私がしっかりしなければ!」と思ってしまうのでしょう。だから、時には「長子」だけ甘やかしてあげたり、「あなたが何をしてもお母さんはあなたのことを認めているよ」というサインを送ってあげましょう。 でも、このお姉ちゃんの特性は、全然悪いことではないですよね。もしかして、相談者のお母さんは「末子」ではないですか? ―― おっしゃる通り! 相談者のお母さんは3人きょうだいの「末っ子」です。 五百田さん:だと思いました(笑)。基本的に、「きょうだい型」では同じ「型」の相性が良いのです。だから、「末子」であるお母さんは、同じく「末子」である妹の気持ちはよくわかる。 でも、「長子」である姉の気持ちはわからないので不安になってしまうのでしょう。結局、親は自分が経験したことしか子どもに教えられず、それ以外のことはわからないので不安に感じてしまうのですよ。 ―― 確かに…。逆に、この相談者のお母さんが「長子」だったら、自由奔放な妹に対しての悩みがあったのかもしれませんね。 五百田さん:大切なのは、その子自身の個性を認めてあげることです。親がすべきことは、「あなたは本当に生真面目ね…。たまには妹を見習ってハメを外してみたら?」と姉のことを否定するのではなく、「いつも妹の面倒をみてくれてありがとう」と、素直な気持ちで感謝の気持ちを伝えることなのではないでしょうか? こうすることで、「長子」の性格がより強化されるかもしれませんが、ほめられて嫌な気がする子はいないでしょう。 ―― 「長子」をほめる時に一番“刺さる”言葉はなんですか? 五百田さん:もう素直に「ありがとう」です。「あなたのおかげで助かったよ」などと、お母さんの感謝の気持ちを伝えるのが一番。「長子」は自尊心が強いので、「小さい子の扱いがうまいね」などと小手先の対応をほめてもあまり効果はありません。 ―― では、逆に、「長子」を叱る時に有効な言葉はありますか? 五百田さん:「しっかりしなさい」です。そんな言葉、「長子」は言われすぎていて、もううんざりしてしまうのでは? とお母さんは思うかもしれませんが、そんなことはありません。もともと持っている強い責任感に火がついて気合が入ります。 逆に、回りくどい言い方をすると、きっちりした性格の「長子」からしたら「何が言いたいわけ?」とイライラ。逆効果になってしまうのです。 人一倍責任感が強く、面倒見が良くて、「ありがとう」「助かった」というストレートな言葉がうれしい「長子」。いつも「弟・妹の面倒を見てね」とお母さんはついつい「長子」に頼りがちですが、実はそうやって頼られることが、何より励みになっているところもあるようです。 次回は、「長子」の真逆のキャラクターともいえる、「末子」についてうかがいます。 取材・文/まちとこ出版社N
2018年03月25日「長女っぽい」とか「末っ子っぽい」など、他人を見ていてなんとなく感じたり、逆に、他人から自分自身のことを指摘されたことがある、なんて方はとても多いのではないでしょうか? また、わが子を見ていて、「長女が真面目すぎて心配」「末っ子がいつまでも甘えん坊で困る」「一人っ子のせいかマイペースすぎる」など、子どもの性格に、きょうだいの有無や生まれた順番が関係しているのでは? などと感じたことあるお母さんもいるのではないでしょうか? 「生まれ順」 は性格に影響する共通パターンがある――そんなところに目をつけて研究をしたのが、作家・心理カウンセラーの 五百田達成さん です。 五百田達成(いおた・たつなり)さん 作家・カウンセラー。東京大学教養学部卒業後、角川書店、博報堂、博報堂生活総合研究所を経て独立。サラリーマンとしての実体験と豊富なカウンセリング実績を生かした、人づきあいやコミュニケーションに関する実践的アドバイスが好評を得ている。執筆や講演の主なテーマは「コミュニケーション心理」「社会変化と男女関係」「SNSと人づきあい」「ことばと伝え方」。テレビや雑誌などメディア出演多数。主な著書に、35万部を超えるベストセラー「察しない男 説明しない女」シリーズ(ディスカヴァー)、13万部突破の「特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ」(新潮文庫)などがある。米国CCE,Inc.認定 GCDFキャリアカウンセラー。 著書: 『不機嫌な長男・長女 無責任な末っ子たち 「きょうだい型」性格分析&コミュニケーション』 (五百田達成・著/ディスカヴァー・トゥエンティワン ¥1,404 税込) HP: 五百田達成オフィシャルサイト まずは、五百田さんが編み出した独自メソッド、生まれ順からわかる 「きょうだい型」 について解説しましょう。 ■親ときょうだいとの関係性で決まる「子どもの性格」 五百田さんは、老若男女あらゆる人たちにインタビュー。その結果、性格は親ときょうだいとの関係性で決まる、との結論にいたったと言います。 「子どもにとって、生まれてから独り立ちするまでの長い期間、密度の濃い関わり方をする 家族は小さな社会 のようなものです。『三つ子の魂、百まで』ということわざがあるように、幼い頃の環境やふるまい方は、大人になってからの性格に大きな影響を及ぼします」(五百田さん) そこで、五百田さんは独自のメソッドを導き、すべての人を次の4つの「きょうだい型」に分類しました。 ・「長子」:きょうだいの一番上 ・「末子」:きょうだいの一番下 ・「中間子」:3人以上のきょうだいの「長子」と「末子」以外 ・「一人っ子」:きょうだいがいない 「この『きょうだい型』とは、性別を問わず、あくまで『生まれ順』による分析のことです。例えば、『長女だけど末っ子』という人は『末子』になり、『長女だけど上にも下にもきょうだいがいる』という人は『中間子』となります」(五百田さん) ■生まれた時、すべての人は「一人っ子」か「末子」 「まず、『きょうだい型』のことを理解してもらうために、下記の図を見てください。見ての通り、すべての人は必ず 『一人っ子』か『末っ子』 として生まれます。 例えば、ある家庭で最初の子どもが生まれた場合、その時点では下にきょうだいができるとはわからないので、その子は 暫定で『一人っ子』 になり、その後、下にきょうだいが生まれた場合は『長子』になります。 一方、すでに上の子がいる家庭で子どもが生まれた場合は、 暫定で『末子』 となり、その後、下にきょうだいが生まれた場合は『中間子』となるわけです。 つまり、 『長子』と『一人っ子』は途中まで同じグループ で、 『中間子』と『末子』は途中まで同じグループ 、ということになり、ベースとなる性格は似たものとなります。 こうして生まれた時の状況によって形作られる性格を 『メイン性格』 、そして、下にきょうだいができるかどうかで決まる性格を 『サブ性格』 と呼びます」(五百田さん) ■親の期待が大きい「長子」「一人っ子」、注目度が低い「中間子」「末子」 「次は、それぞれの具体的な性格を知るために、下の図を見てください。生まれた時点で一人である『長子』『一人っ子』には、 親からの期待や注目 が大きく降り注ぎます。なので、このグループは、おおむね 真面目な生き方 をせざるを得ません。 一方、『中間子』『末子』は親からの注目度が低く、さらに上にはきょうだいがいる環境に生まれます。なので、このグループは 空気を読んだり周囲との調和 を重んじる性格に育ちます。 こうして『生まれ順』と『親からの影響』という2つの要素がかけ合わさって、4つの『きょうだい型』の性格が決定するのです」(五百田さん) これを踏まえて、五百田さんは、それぞれの「きょうだい型」の性格を、下記のように分析しました。 ・「お兄ちゃん(お姉ちゃん)なんだから」と、下のきょうだいの面倒を任せられることによって、責任感を身につける“きまじめな王様”「長子」。 ・生まれたときから兄姉という前例を見ながら、要領よく甘え上手に育つ “したたかなアイドル”「末っ子」。 ・上と下に挟まれ、自分のアイデンティティを模索し続ける “永遠の思春期”「中間子」。 ・親の愛を一身に受け、ひたすら天真爛漫に成長する “マイペースな天才肌”「一人っ子」。 ■「きょうだい型」にプラスα! 性格を形成する「4つの外部要因」 もちろん、この要素だけで性格が決定するわけではありません。ほかにも、性格を微修正する外部要因があるといいます。 「外部要因は、以下の4つ。 ・年齢差 ・性別 ・家庭環境や親の教育方針 ・家庭以外のコミュニティ きょうだい間の影響は、3~5歳差がもっとも強く表れます。逆に、歳が離れすぎている場合は、それぞれが「一人っ子」のような状態になります。 ちなみに、双子の場合はきょうだいの上下関係は希薄で、「2人で1人」のような特殊な関係を築くようです。 年子の場合も、年齢差が小さいため上下関係が薄く、双子に似た形態になります。年が近いため、何かと比べられがちな両者ですが、双子のほうがよりお互いを意識し特別な存在だと感じがちです。 家庭環境や親の教育方針という点では、例えば、祖父母などと同居している場合や、親が子どもに対して独自の教育を行っていたり、男尊女卑(その逆も同様)などの特殊な価値観がある場合は状況が変わってくるでしょう。 また、子どもは家庭だけで育つわけではありません。外部に濃いコミュニティを持つことで当然状況は変わってきます」(五百田さん) ■夫や子どもへの理解が深まる「コミュニケーション・ガイドツール」 「こうした『きょうだい型』を提案していると、時々、読者の方から『ステレオタイプ化するのは良くない』と言ったご指摘をいただくこともあります。 ですが、私が『きょうだい型』の話で伝えたいのは、他人の性格を決めつけたり、ステレオタイプ化することではなく、自分自身や周囲の人へ理解を深めるための ガイドツール として役立ててほしい、という思いです。 例えば、なぜかうまくいかない夫とのコミュニケーションや、わが子の子育てにおいて、『ウチの夫、なんでこんなに気が回らないのかわからなかったけど、こういう環境で育ってきたからなんだ』とか『この子はこういう個性なんだ』などというふうに理解につながりますよね。 『きょうだい型』を手がかりに、家庭での相手の立場や育ち方を想像することができ、相手の行動原理がわかります。それにより、 コミュニケーションがより円滑 になるのではないでしょうか?」(五百田さん) 五百田さんが提唱する「きょうだい型」の原理がわかったところで、次回からは、「長子」「中間子」「末子」「一人っ子」に分けた4つの「きょうだい型」について、それぞれの特徴や上手な育て方、さらにはお母さんと子どもの相性などについてご紹介していきましょう。 取材・文/まちとこ出版社N
2018年03月17日「自分は虐待をしているのではないか?」 1991年より都内で、子どもへの虐待防止のための電話相談などボランティアで支援を続けている民間団体の「子どもの虐待防止センター(CCAP)」には、相談者からこういった疑問を投げかけられることも少なくないそうです。 前編では、ベテラン相談員・Mさんに「虐待の境界線」をお聞きしました。続く後編では、子育てしにくい時代に、どうやってできるだけ怒らずに子育てをしていけるか、というお話をうかがいました。 ■児童虐待防止法も影響? 周囲の目がきゅうくつに感じる「現代の子育て」 ── 長年相談を受けている中でお母さんたちの相談内容が変わってきたという印象はありますか? Mさん:私の主観的な印象ですが、「周りに子どもがいるのが当たり前」の環境から、「子どもと接する機会がない、子どものはしゃぐ声や泣き声を普段耳にしない」という環境になってきているように思います。その中で子育てをするのは大変ではないかと感じています。 ── 今の環境は、お母さんたちにとってきゅうくつなのでしょうか? Mさん:電話相談を受けるなかでも、「スーパーで子どもがダダをこねてギャーっと騒いでしまったので叱ったら、周囲からは冷たい視線。通報されるのでは? といたたまれなくなって、買い物もそこそこに家に帰りました。ドアを閉めた途端、つい子どもに『何なのよ!』と怒鳴ってしまった。今、子どもはイヤイヤ期真っ盛りなのはわかっているのに…」などと話す方もいらっしゃいます。 ──私の周囲でも、「子どもを叱っていたら児童相談所の人が来た」という笑えない話を結構聞きますが、2000年に児童虐待防止法が成立して、通告が増えた影響はありますか? Mさん:通告は困っている親子を支援するためのものなのですが、お母さんたちは「助けられている」というよりは「見張られている」ように感じる面があるのかな、と感じています。 ──相談を受けているなかでお母さんたちのとまどいを感じているんですね? Mさん:小さい子の機嫌をコントロールするのは難しいことです。親ならそれをうまくできるはずというプレッシャーを受けて頑張るけれどうまくいかない、ということだと思います。 ── そんなきゅうくつな中で、どのように子育てをしていったらいいのでしょうか? Mさん:難しいことですが、少し心に余裕を持てたらいいですね。親も子育てしながら親として成長します。失敗したと思ったら「言い過ぎたね。ごめんね」と正直に伝えたらどうでしょう。「おやつ食べようか。本でも読もうか」と親子共に気持ちを切りかえられたらいいのでは? 子どもとの関係ってもっと広いし深いので、一つのことにとらわれすぎずにやっていってもらえたらいいな、と思っています。 ■自分の中の「コップの水=たまったストレス」をあふれさせないためには? ── 具体的にはどうすればいいでしょうか? Mさん:ストレスがたまりにたまった時って、コップにお水がいっぱいいっぱいの状態と似ていますね。表面張力でかろうじてこぼれていない状態のようなものです。だから、そこで何か起こると、最後の一滴となってコップに注がれ、一気に水があふれてしまうんです。 ── そうですね。子育て、家事、仕事とあふれそうな状況は私自身よくあります。そういう時は申し訳ないけれど、子どもに八つ当たり気味に怒ってしまう時もあります。 Mさん:皆さんそういう状況で電話をかけてくれるので、「子どもにやりすぎてしまった」「自分は反省している」「でも夫はこういうことをわかってくれない」と話していくと少し余裕が出てきて、子どもに当たってしまう今の自分が見えてきます。 だから、お母さんがいっぱいいっぱいになった時は、コップの水が一気にあふれないように、少し自分からこぼせるといいですね。子どもには成長段階があって、時期がくれば今まではなんだったのか? ということも多いです。 ── 自分の中のコップの水を減らすのが大切ということですね。具体的にはどのような方法がありますか? Mさん:今はいろいろなところで相談を受け付けていますから、こういう電話相談などにかけてみるのも一つの手だし、どこかに子どもを預けたり、休みの日は夫に預けて自分の好きなことをやる時間を少しとったり、というようなことをやって、しのいでいけたらいいのではと思います。 ── 子育てだけの世界から少し離れる、ということですね。 Mさん:1日24時間、365日お母さんをやっていると、すごく疲れますよね。だから、お母さんも1人になれる時間は必要ですよ、と話すと「食事もトイレもお風呂も、1人の時はない!」と初めて気づかれるんです。それでちょっとでも1人になれる時はないか、ホッとできるのはどんな時かを一緒に考えます。 ワンオペで育児されている方も多いですが、公的サービスなど使えるものは何でも使って、少しでもストレス解消できるといいですね。 ── 電話をかけてくるのもワンオペ育児の方が多いのですか? Mさん:多いですね。そういう方はワンオペという大変な状況のなかで、すごく頑張っているんです。なのに「もっとやらねば。大変だと思うのは子どもを愛していないからなのか」と自分を追い込んでしまっているのが本当に残念です。 ── まずは、自分が大変ななか頑張っている状況を自分でほめてあげて、心に少しでも余裕を持つことが大切なんですね。 ■「どういう時に怒ってしまう?」自分の怒りパターンを把握 ── そのほかに怒りすぎない方法はありますか? Mさん:そうですね。あとは怒りたくなるけれど、視点を変えると超かわいい子どもの姿を撮る“おバかわ写真”のような方法でしょうか。ギリギリの状況は変えられない、腹が立つのも仕方ない。でも、せめて腹が立つのを笑いに変えられたら、親子共にハッピーですね。 ── 笑いに変えるなど自分なりにしのぐ方法をちょっと探してみる、ということですね? Mさん:怒りすぎてしまう時って大体、同じパターンになっていませんか? いつものように親子のやりとりをして、気がつけばいつものように怒っていた。 そのようなやり取りになった時に、先ほどのおバかわ写真を撮るとか「あー始まった、始まった」と呪文を唱えるとか、その場を離れる、深呼吸するなど自分なりにしっくりくるものを探して、「あー、また怒っちゃった」と後悔せずにすめばいいな、と思います。 ── パターンを把握して、対処法をいくつか持っておくといいんですね。 Mさん:パターンのどこかを変えると流れが変わります。この言い方で話してみよう、このタイミングでこうしてみようなど、なるべく楽しくなるようなことに変えながらやってみる。それでダメだったら、「あ、ダメだったな。次はどの手でいこうかな」くらいの気持ちで。 ── それ以外に何かありますか? Mさん:子どもの行動を(a)好ましい、(b)やめさせたい、(c)してはいけない、のように3つに分けてみてはどうでしょう。 (c)は命にかかわるなど重大なことですが、(b)は時期を待つ選択もあるかもしれません。親も言い出すと意地になって引くに引けなくなる時期もあったりしますのであきらめる、というか、今すぐにどうこうしようとせず、ちょっと置いておくのはどうでしょうか。 ── 今日はありがとうございました。日々、子育てに困っているお母さんたちに向き合っているMさんのお話は大変参考になりました。 取材なのに、ゆったりとした口調で、こちらの話も丁寧に聞いてくださるMさんとのインタビューは時折、自分の子育て相談をしているような錯覚に陥りました。 そのMさんが「子どもを怒らない」ための対策としてあげるのが次の3つ。 1.1人でがんばりすぎず、できるだけ心に余裕を持つ。 2.自分が怒ってしまう原因などパターンを見つけ、(できれば楽しめる)対策を考える。 3.あきらめる(今は置いておく)。 ほぼワンオペで、コップの水もかなりギリギリの筆者自身の話も聞いていただき、「怒りたくないのに怒ってしまった」と後悔を繰り返す日々を抜け出す多くのヒントをもらったように感じました。長年、親身に困っているママたちに寄り添ってきているMさんのような方たちに話を聞いてもらうのも、とてもスッキリしそうです。 取材協力: 社会福祉法人子どもの虐待防止センター(CCAP) 子どもの虐待を早期に発見し、虐待防止を支援するために1991年に設立された民間団体。研修を受けた相談員と、医師、弁護士、臨床心理士、ソーシャルワーカー、行政経験者、教育関係者などが活動しています。CCAPでは、子育てに悩む方のための電話相談、母親のグループ(MCG)、CCAPペアレンティングプログラム講座「親と子の関係を育てるプログラム」などを行っています。相談の電話番号は、03-5300-2990(平日10:00~17:00 土曜日は10:00~15:00/通話料以外は無料) 取材・文/まちとこ出版社 石塚由香子
2018年03月10日「大きな声で子どもを怒鳴ってしまったら、児童相談所の人が来た。近所の人に通告されたみたい…」。 ママ友の飲み会で、このような笑えない話が出ることも決して珍しくない昨今。つい子どもを怒鳴ってしまい「自分のしていることは虐待ではないか!?」と不安になっているお母さんも少なくないのではないでしょうか。 「どこまでが虐待で、どこまでがしつけ?」という疑問を解消すべく、都内で1991年より虐待防止に向けて電話相談を始めとした支援をボランティアで続けている、民間団体の「子どもの虐待防止センター(CCAP)」にお話をうかがってきました。 ■一般的な境界線は? 東京都発行の児童虐待予防パンフに見る「虐待」 一般的には虐待とはどのような状況をいうのでしょうか。東京都発行のパンフレット「みんなの力で防ごう 児童虐待」(2017年度版)によると、虐待は、 1.身体的虐待 2.性的虐待 3.ネグレクト(養育の放棄または怠惰) 4.心理的虐待 という4種類があります。2016年度の東京都の統計データでは、約10,000件の中で、心理的虐待が55.0%、身体的虐待が24.7%、ネグレクト19.5%となっています。 そして、実母による虐待は53.8%、実父によるものが38.7%となっていて、お父さんよりもお母さんの虐待が多いようです。 また、同パンフレットによると、虐待は子どもたちに次のような「深刻な影響」があるとされています。 *発育・発達の遅れなどの身体症状。 *情緒不安定、感情抑制、強い攻撃性などの精神症状があらわれることがある。 ■「虐待かどうか」ママたちが気になるのはなぜ? お話をうかがったのは20年近く子育ての電話相談をボランティアで受けてきたMさん。「虐待としつけの境界線はあるのでしょうか?」という冒頭の質問に対して、やさしい口調で次のような返事がありました。 Mさん:電話相談でも「これって虐待ですか?」とたずねるお母さんはいて、皆さんものすごく心配していらっしゃいます。でも、虐待かどうか、その境界線を引いて仕分けすることに、どれくらい意味があるのかな、とはちょっと思います。 思いがけない答えが返ってきて、ハッとしました。なぜ自分たち母親は「虐待の境界線」が気になるのでしょうか? 法律に触れるようなことは犯していないはずだし、子どもも元気に育っている。 それなのに心配なのは、「自分の子育てはこれで大丈夫」という判断基準がない不安からでしょうか? 「虐待じゃない。しっかり子育てをしているよ」というお墨付きを誰からかもらいたいという気持ちなのでしょうか? 「自分は虐待の境界線を知って、どうしたかったんだろう?」。そんな気持ちとともにインタビューは進みました。 Mさん:私はまず、相談してきた方に「あなたはどう思う?」とお母さんの思いを聞いています。あるいは、「虐待ではないかを判断する立場ではないけれど、あなたが、自分がしていることをあまり良いことだと思っていなくて、今、困っているように感じられるのだけど…」と話すんです。 ── 虐待かどうかという答えを出さないんですね? Mさん:たとえ「それは虐待ではありませんよ」と言われても、「良かった。ホッとしました」と言って終わるものではありませんよね。モヤモヤを抱えているから電話をかけてきているので、しっかりその思いを聞かせていただきます。そして「少しスッキリしました」と言って電話を切ってもらいたいと思っています。 ── 確かに、「虐待ではありませんよ」と誰かが保証してくれても、お母さんたちの「自分の子育てはこれで良いのか」という心配がなくなるわけではないですもんね。 ■子どもを「かわいい」と思えない時があっても当たり前 Mさん:子どもがかわいく思えないと、自分のことを母親失格のように感じてしまうお母さんも多いのが気になっています。だだをこねて泣き叫んでいれば、かわいく思えない時だってあって当然なのに、「ダメな親だ」と自分を責めてしまうのです。 ── その気持ちよくわかります。私も、遠くから眺めている時と寝ている時はかわいいのになあ、と思うこともしょっちゅうです。 Mさん:お母さんにとって、子どもは大事な存在で、だからこそ精一杯努力しているわけです。でも努力が報われなかったり、ギリギリの状況になったりした時はかわいく思えなくても普通なんだ、と自分を許してあげていいと思います。 ── 子どもをかわいくないって思う気持ちがあってもいいんですね。 Mさん:大事だから放りだせないし、もっと子どものために良くしてあげたいし、だけどうまくできないからイライラもするし、腹も立つ。そして、そういう自分を責めてしまうんです。そんな時は寝顔を見て「かわいい!」というので十分だと思います。 ■怒ることはしつけではない…虐待としつけの境界線 ── 子どもは大切だから、なんとか良い子に育ってほしいと思うからこそ、うまくいかない時につい腹が立って怒ってしまうんですね。よく、虐待の事件で、「しつけのつもりだった」などという報道もありますが、この差をどう思われますか? Mさん:しつけというのは本来、子どもが自立していけるようにサポートすることで、決して親の感情をぶつけることではないと思っています。子どもが自分の生活をきちんと立てていけるように基本的なところ、例えば、社会で生きていける信頼感や他人との関係のベースになるものを築くためのものなのではないでしょうか? ── 感情をぶつけるのはしつけではない、ということですね。 Mさん:親が怒りすぎた時って子どもが失敗とか間違いをした時ですよね? 失敗とか間違いって、ふつう誰もがするものでしょう? だからそうした時に感情を爆発させるのではなく、どうすればいいかを教えられたらいいですね。 ── 例えば、どのように? Mさん:「なぜこういうことをしたの?」と聞くことから始めみてはでどうでしょうか? 例えば、子どもが友だちのおもちゃを無理やり取ったとしますよね。「○○ちゃんが貸してくれなかったから」などと言われたら、「遊びたかった気持ちはすごくよくわかるけど、取るのはいけないね。もう一度、また頼んでみようか」というように。すごく手間がかかることですけどね。 ──なかなか毎回対応するのは大変そうですね…。 Mさん:お母さんが全部それをするのは、神様ではありませんから、無理でしょう。でも、今は悪いことと怒ることがセットになってしまっていることに気付いてもらって、ちょっと冷静になれればいいな、と思います。 ── 子どもがいけないことをした時も、本来、怒る必要はないということでしょうか? Mさん:本当のしつけは、子どもに何がいけなくて、どうすればよいかを教えることだと思うんですよ。だけど、ただ怒って「謝りなさい」って言っていたら子どもは何を学ぶのかなと思います。 怒られたら謝るという、表面的なことだけ学んでしまうかもしれませんよね。「本当はどんな子に育ってほしいと思っていたか」を、思い出して欲しいですね。 ■子どもの存在を否定・無視することは「心理的虐待」 ── 虐待で一番多いのは心理的虐待なんですね? どのようなことが心理的虐待にあたりますか? Mさん:「お前なんか生むんじゃなかった」「Aちゃんと違ってお前はかわいくない」など、根本的に子どもの存在、人格を否定することです。 ── 頭にきてしまったら思わず言ってしまいそうですが…。 Mさん:やっぱり存在を否定することは避けたほうがいいですね。それ以外にも、ちゃんとできるまでお説教し続けるなど、やりすぎるケースがあります。こういうケースは、「自分の子どもはこうあるべき!」という、親の思いが突っ走っているように思います。 ── そのほかには? Mさん:冷たく突き放したり、何を言っても無視したりと、無関心にさらされることです。 ── 感情を示さない無関心も虐待となるのですね? Mさん:存在をスルーされるのはつらいことです。人間として育っていく過程で、子どもは喜怒哀楽を学んでいきますよね。あり得ない例えかもしれませんが、なんのつらいこともなくて、お母さんはいつもニコニコしていて、それで子どもが健全に育ちますかっていうと、それはそれで難しいと思うんですよね。 だから、やりすぎだなって思ったらセーブして、親子一緒に泣いたり笑ったりしていってはどうでしょうか? ──心理的虐待が続くと、子どもにはどのような影響がでますか? Mさん:自分に自信がなくなる、安心感がなくなる、落ち着きがなくなる、食欲がなくなる、元気がなくなるというようになってくるかもしれません。 ── 子どもの存在を否定することは言わない、そして、あとは怒らないほうがもちろんいいけれど、喜怒哀楽をお互いにやりとりをしている間は大丈夫ということでしょうか。今日はありがとうございました。 筆者自身も、娘たちをつい怒鳴ってしまったり、傷口に塩を塗るようにネチネチと叱ってしまったりすることもあり、それは心理的虐待にあたらないかな、といった思いも持ちながら向かったこの取材。 長年、電話相談で虐待や子育てと向き合ってきたMさんのお話から、「どこまでが虐待で、どこまでがしつけ?」という線引きよりも、親が子育てで困らないことと、子どもの存在を否定しないことが大切なのだと感じました。 後編では、子育てが大変な今の時代に、親がどのようにすれば心の余裕が持てるか、というお話を聞きました。 取材協力: 社会福祉法人子どもの虐待防止センター(CCAP) 子どもの虐待を早期に発見し、虐待防止を支援するために1991年に設立された民間団体。研修を受けた相談員と、医師、弁護士、臨床心理士、ソーシャルワーカー、行政経験者、教育関係者などが活動しています。CCAPでは、子育てに悩む方のための電話相談、母親のグループ(MCG)、CCAPペアレンティングプログラム講座「親と子の関係を育てるプログラム」などを行っています。相談の電話番号は、03-5300-2990(平日10:00~17:00 土曜日は10:00~15:00/通話料以外は無料) 取材・文/まちとこ出版社 石塚由香子
2018年03月09日華やかな一方で多忙なイメージがある建築の世界。その第一線で働くママ・パパたちは、子育てと仕事をどうやって両立しているのか。そのリアルな実態がわかるエッセイ集『子育てしながら建築を仕事にする(学芸出版社)』が刊行されました。 そこで、編著者で「キュープラザ二子玉川」の商環境デザインを手がけた3歳児ママ・成瀬友梨さんをはじめ、建築家パパの三井祐介さんと豊田啓介さんも参加したトークイベントに潜入! さらに後日、成瀬さんにインタビューし、 両立するための工夫や職場の環境づくり、働くママにとって過ごしやすい家づくり などのアドバイスをいただきました。 ■「あきらめること」から始まる仕事と育児 本でもトークイベントでも、多くのママ・パパが語っているのが 「あきらめる」 ことの大切さ。建築家は自分ですべての事柄を決定し、ディテールにとことんこだわる仕事ですが、育児が始まるとそうはいきません。 「仕事をしていると子どもが気になるし、子どもといると仕事が気になる。葛藤もありますが、最近は 鈍感力 が身についてきました。 例えば、忙しくても早く帰って家族と夕飯を食べたり、ビールを飲んですぐに寝ちゃったり。やってみると、結果はそう変わらなかったりするんですよね。すべてを自分がコントロールすることを あきらめることで、人が育つ という面もあります(豊田さん)」。 「私は、建築家の仕事と並行して7年間続けてきた大学助教の仕事を、辞める決断をしました。学生に対応する時間が足りなくなり、子どもと過ごす時間もボーッとすることが多く、体力気力の限界になってしまったんです。 今やっている仕事も、細かいところには目をつぶって スタッフに任せている 部分が多い。歯がゆい気持ちもありますが、今は我慢の時だと思っています(成瀬さん)」。 育児も同様で、すべてを夫婦だけでやろうとするのではなく、あきらめが肝心。ベビーシッターや病児保育を利用したり、近所の知り合いやママ友に保育園の送迎を頼んだりと、周囲に頼ることが大切だと話してくれました。 ■「スケジュール管理」と「得意分野」で分担 本に登場する夫婦は、育児・家事の協力体制が完璧! それぞれの仕事や家族の行事など、あらゆる予定をスケジュール管理アプリで共有し、互いに助け合っています。 「妻も仕事がかなり忙しいうえ、高齢の両親のサポートもある。だから、掃除や料理は僕がやることが多いんですが、家事は得意なので全然苦ではありません。 妻は、買うと高いからと夜中に教材を自作したり、科学の実験装置を作ったりと、子どもの自発的な学習を促すための時間を惜しまない。お互いが 得意なことを、自然と分担 している感じです(三井さん)」 「私は保育園への送り迎えや食事の用意、夫は掃除・洗濯・ゴミ出しなどを担当しています。私が出張の場合、夫は子どもにごはんを作って食べさせ、寝かしつけまでこなしてくれるので、本当にありがたい。2歳くらいまでまでは熱を出すことも多かったので、区の 病児保育 にはずいぶんお世話になりました(成瀬さん)」 ほかにも、ルンバや食洗機・食材宅配サービスを活用したり、ファミリーサポートやベビーシッターを頼んだりと、両立するための方法は家族によってさまざま。試行錯誤しながら、自分たちに合ったスタイルを模索しているようです。 ■「クリエイティブな時間=1人時間」を確保する方法 子どもが生まれるまでは1日中建築のことを考えていた建築家たちにとって、クリエイティブな時間をどう確保するかも重要な課題。仕事と子育てに追われる日々の中で、それぞれ工夫をしているようです。 「子どもを寝かしつけた後で夜中まで本を読んだり考えごとをしたり、もう一度事務所に戻って作業をすることもあります。また、他業種の人に会ったり、面白そうなイベントに参加したりと、自分の世界を広げることも大事。どうしても夜の外出が多くなってしまうんですが、 夫は快く送り出してくれます (成瀬さん)」 「夕食はできるだけ家族そろって食べたいので、子どもを 寝かしつけた後に1人で外出 して、時間を確保することが多いですね、近所に3、4軒ある行きつけのバーで、ビールを飲みながら思考をめぐらせたり図面をチェックしたり。深夜1時ごろに帰宅して就寝、翌朝7時に起きるというサイクルです(豊田さん)」 何かと忙しい子育て期に「自分だけの時間」を確保するのは難しいもの。お互いの仕事を尊重し合うこと、そして夫婦が同等に子育てスキルを身につけることが大切だと感じました。 ■ママ建築家・成瀬友梨さんにインタビュー! 働くママが子育てしやすい家とは? ――まず、この本を出版しようと思ったきっかけを教えてください。 成瀬さん:私は東京大学工学部建築学科の助教として学生の指導をしていたんですが、女子学生から「子育てと建築の仕事を両立する将来が想像できない。大変そうで、とても真似できない」と言われることが多かったんです。 才能ある若者たちが「仕事か、子育てか、どちらかを選ばないといけない」と考えているとしたら、本当にもったいない。そこで、実際に両立している人々を紹介することで「自分にもできる!」ということを伝え、背中を押したいと考えたのがきっかけです。 実際に、本が出来上がってみると、建築家に限らず、これから子どもを持とうとしている方や子育て中の方、会社のマネジメント層にも役立つ本になったと実感しています。 ――確かに建築家に限らず、子育てしながら働くことは「大変」というイメージが強いですよね。 成瀬さん:実際に経験してみると、自分の時間が減ってしまうのは大変なのですが、豊かになったことの方がずっと多いんですよ。以前は、仕事に夢中で休日も常にインプットの時間でしたが、子どもがいると強制的にペースダウンするので、季節による太陽の光や緑の変化に敏感になりました。 週末には公園で思いっきり遊んだり、保育園の友達家族と昼間からお酒を飲んだりと、世界が広がっていくのも楽しい。子どもができてからバリアフリーの大切さに気づくことができ、世の中には本当に多様な人がいることも知りました。 ――この本に出てくる建築家の皆さんは、会社の理解のもとで周囲と協力しながら仕事をしている印象を受けました。働くママが職場で協力を得るためのコツを、ぜひ教えてください。 成瀬さん:子育てだけが大変なのではなく、それぞれにさまざまな事情があると認識することが、大前提だと思います。そのうえで、ほかの人が困っていたらいつでも相談にのる、協力する、というスタンスでいることが一番大事なのではないでしょうか。 ――子どもがいると、家に対する考え方も変わってきます。建築家の目線から見て、子育てしやすい家とはどんな家だと思われますか? 成瀬さん:子どもが元気に動き回れるように、広くてのびのびした家がいいでしょうね。 実利的には、玄関が広いのが一番。子どもが小さいうちは、ベビーカーや三輪車などいろいろと置くものがありますし、宅配便の荷物をちょっと置いておくのにも便利です。玄関で子どもの支度をすることも多いので、狭いと苦労するかもしれませんね。また、玄関が広いと全体の印象として余裕があるように見える、という効果もあります。 ――最後に、働くママ・パパへのメッセージをお願いします。 成瀬さん:子育てを終えた方からは「子育ては大変だけど、さみしいくらいあっという間に過ぎてしまうもの」とよく言われます。その言葉を信じて、楽しんでいけたら素敵ですよね。私も怪獣のような子どもを抱えていますが、仕事も家庭も欲張りに生きていきたい。完璧じゃなくていいから毎日を大切にしていきたいと思っています。 参考図書: 「子育てしながら建築を仕事にする」 (学芸出版社) 著・編集 成瀬友梨 ゼネコン、アトリエ、組織事務所、ハウスメーカー、個人事務所等、異なる立場で子育て中の現役男女各8名の体験談を集めたエッセイ集。仕事と子育ての両立に奮闘しながら、欲張りに楽しむリアルな姿が見えてくる。 成瀬友梨 プロフィール 1979年愛知県生まれ。2007年東京大学大学院博士課程単位取得退学。同年に成瀬・猪熊建築設計事務所共同設立。と2010年〜2017年東京大学助教。地域・ライフスタイル・コミュニケーションという観点から建築を考え、シェアをキーワードに設計を行う。主な編著書に『シェアをデザインする』『シェア空間の設計手法』等。
2018年02月27日新1年生にとって、小学校よりもひと足早く、4月1日からスタートする 学童クラブや学童保育所 (以下学童)での生活。保育園以上に情報が少ないため、「毎日何をして過ごすの?」「おやつは何を食べているの?」「夏休みなどの長期休みの時期はどうしたらいいの?」など、気を揉んでいるママも多いと思います。 現在、保育園年長クラスの息子を持つ筆者も、そのひとり。そこで、 学童にまつわる悩みや不安・素朴な疑問 を、全国71カ所の学童クラブを運営する日本保育サービスのスーパーバイザー、阿部農さんに聞いてみました。 ■学校帰りに学童へ「一般的な半日スケジュール」 働く親を持つ子どもを対象にした学童には、大きく分けて公設公営(自治体が設立・運営)、公設民営(自治体が設立・民間が運営)、民設民営(民間が設立・運営)の3種類があります。そのうち、公設公営と公設民営の学童では通常、学校がある日は以下のようなスケジュールが一般的です。 【学童での一般的なスケジュール】 13時半頃以降 学校が終わり次第、子ども達が登所。連絡帳を提出して預かりスタート。宿題、読書など室内で静かに過ごす。 15時半頃 おやつの時間 16時頃 校庭、公園施設内などで自由遊び 17時頃 帰りの会1回目。順次下校し、残った生徒は室内で過ごす 18時頃 帰りの会2回目 18時〜19時頃 預かり終了 加えて、毎月の誕生日会やハロウィン、クリスマスなど、季節ごとのイベントも随時開催されています。自由遊びの時間には、けん玉やコマ、竹馬など、昔ながらの遊びを体験できる機会も。 「学童は、学校で頑張った子どもたちが、 ゆっくり過ごす場所 。予定をがっちり組むのではなく、子どもたちの様子を見ながら臨機応変に過ごし方を考えています」と阿部さんは話します。親としては宿題をすませておいて欲しいものですが、指導員は子どもたちに声かけはしますが、 強制力はない ため子どものやる気次第。「友だちと遊ぶ方が楽しいから」と、後回しにしてしまう子どもも多いようです。 なお、17時以降が室内遊びとなっているのは、「外が暗くなる時間ですし、子どもが疲れてきていることもあり、ケガが増える」という理由があるそうです。 夏休みや冬休みなど、長期休み中の預かり時間は8時〜19時が一般的。スケジュールは、午前中に勉強の時間、読書の時間がある場合もありますが、ほとんどの場合、通常日と同じように自由遊びがメインとなります。 働くママにとって頭が痛いのは、 毎日お弁当 を持たせる必要があること。 「業者に弁当を発注している自治体もありますが、子どもたちにはあまり評判が良くないんです。口に合わずに残してしまったり、逆に足りなくて力が出なかったり、といった声をよく耳にします。お弁当の時間は、子どもたちが家庭を思い出す大切な時間。友だちと中身を見せあいながら、うれしそうに食べていますよ」と阿部さん。 毎日のお弁当作りは大変ですが、時短レシピなどを活用して乗り切るしかなさそうです。 ■保育園と学童クラブ、どういったところが違うの? 筆者は世田谷区内の学童施設を見学しましたが、その感想は「保育園に似ている!」。室内で人形遊びをしたり、園庭ではしゃぎまわったりと、それぞれが好きなことをして過ごしている子どもたちは、のびのびと楽しそうに見えました。 実際、学童は「子どもたちの生活の場」という点で保育園と共通しています。大きく違うのは、子ども1人当たりの 指導員の数が少なく、面積も狭い こと。学童に通わせている先輩ママからも、「日によっては“芋洗い状態”になる」という話を聞いたこともあり、少々不安を感じていました。 「都内の場合、定員70人の施設なら 放課後児童支援員 や 教員免許 などの資格を持った常勤職員が3名(施設長やリーダーを含む)、アルバイトが2〜4名。特別な支援が必要なお子さんがいる場合はプラス1〜3人という体制が標準です。正直、人手が足りないと感じており、あと2名ほど指導員が必要だと感じます。ただ、指導員を志す人には熱意がある人が多いので、積極的に取り組んでくれています」と阿部さん。 子どもにべったりくっつくのではなく、子ども同士の関係を 「見守る」のが指導員の仕事 です。例えば、みんなと一緒に遊べない子どもがいたら、指導員が輪に入れるよう促しつつ、そっとその場を離れる、といった対応を心がけているそうです。 もうひとつ気になるのが、 おやつの中身 。筆者の息子が通う保育園では、毎日おいしそうな手作りおやつが出されていましたが、「学童ではほとんどが市販品です。でも、近所のパン屋とお肉屋さんから取り寄せてコロッケパンを作ったり、フルーツを提供したりと、子どもの健康を考えたものを出しています」 残念ですが、人手不足を考えるとやむをえないのかもしれません。ただ、最近は週に数回手作りおやつの日を設けたり、子どもたちにクッキング体験をさせたりと、 食育に力を入れる施設 も増えてきているようです。 ■学童生活スタートで「やるといいこと、やってはいけないこと」 親や先生に守られていた保育園とはガラッと変わり、新しい環境に飛びこんでいく子どもたち。学童での毎日を元気に楽しく過ごせるよう、親としでできることはあるのでしょうか。 阿部さんは「子どもの性格にもよりますが、もし可能なら 初日には親が送り迎え をして欲しい。慣れるのに時間がかかるタイプなら、初日は半日だけ、2日目は午後まで、というように 少しずつ預かり時間をのばして いくのがおすすめです」と話します。 施設側でも、お兄さんやお姉さんがお世話係として面倒を見てくれたり、名前を覚えるためにゲームをしたりと、受け入れ準備を整えてくれています。4月1日から入学式にかけて少しずつ慣らしていくと、無理なく通うことができそうですね。 逆に避けたいのは、 小学校と学童を同じ日にスタート させること。「新しいことが一度に2つ始まるのは、小さな子どもにとって ストレス 。疲れて体調を崩すことも多いんです」。また、困った時やトイレに行きたい時には、すぐに先生に言うように、子どもに言い聞かせておくことも大切です。 ほとんどの学童では連絡帳のやりとりがあるので、気になることはその都度伝えてOK。直接指導員にたずねたり、子どもがいない午前中に電話で相談したりするのもいいでしょう。指導員とのコミュニケーションをしっかり取りつつ、成長していく子どもを見守っていきたいですね。 ・日本保育サービス 取材・文/渡辺裕希子
2018年02月10日小学校入学まで、いよいよカウントダウン! 保育園や幼稚園とはまったく違う未知の世界に、ドキドキしている新1年生ママも多いのではないでしょうか? 筆者もそんな1人。「ひとりで学校に行けるのかな」「友達とうまくやっていけるのかな」「ちゃんと朝起きて自分で支度できるのかな」など不安でいっぱいです。 そこで、小学生ママにアンケートを行い、経験談や新1年生ママへのアドバイスなどを聞いてみました。 ■ひとりで学校に行ける? 親はいつまで付き添うの? 親が付き添ったり、あるいは園バスで送迎してもらったりと守られている保育園・幼稚園とは異なり、小学校は 子どもだけで通学 するのが基本。集団登校を行っている地域もありますが、そうではない場合は特に不安が募ります。小学生ママたちは、いつまで付き添い、どうやって一緒に行く友達を見つけたのでしょうか。 「最初の2週間は途中まで付き添ったが、5月には自分で友達を見つけて 『友達と行く!』 と親から自然と離れていきました(小2女の子ママ)」 「夏休み前までは保育園の友達との合流地点まで付き添っていましたが、近所に同学年の子が住んでいるのが判明。その子のママに声をかけて 連絡先を交換 し、一緒に行くように頼みました(小1女の子ママ)」 「出勤ついでに父親が付き添っていましたが、通学途中で親切そうな6年生の女の子に声をかけ、一緒に登校してもらうようお願いしました。それでも 1学期中は心配 だったので、待ち合わせ場所までは、父親が付き添いました(小2女の子ママ)」 「小学生なのに親が一緒に行くのは恥ずかしいようで、 最初からひとり で通っていました(小2男の子ママ)」 子どもの性格にもよりますが、「最初は親が付き添い、途中からは友達と行く」というパターンが多いようです。また、学童に通わせている家庭は下校が遅くなることも気がかりですね。 「最初は迎えに行っていましたが、日没が遅くなる 夏頃からはひとり で帰らせるようにしました(小2女の子ママ)」 「明るい時間はひとりで帰らせますが、 暗くなると今でも迎え に行っています(小1女の子ママ)」 このように、日没時間に合わせて、臨機応変に対応している声が多く集まりました。 ■事件・事故に巻き込まれないためにできること もうひとつ気になるのが、交通安全や不審者への対策。公益財団法人「 交通事故総合分析センター 」の調査では、歩行中の交通事故による死傷者数は7歳が突出しており、親から離れてひとりで外出する機会が増えることが要因とみられています。事故や事件に巻き込まれないために、どうしたらいいのでしょうか。 「子どもが登下校する時間帯にあわせて一緒に歩き、踏切や交差点、交通量が多い道路などの 危なそうな場所 を教えました(小3女の子ママ)」 「友だちとふざけているうちに 車道に飛び出す ことがあるから、気をつけるように言い聞かせました(小2男の子ママ)」 「 子ども用の携帯電話 を購入したほか、知らない人には付いていかないようにとしつこく言い聞かせました(小1女の子ママ)」 「通学路沿いに住む人には日頃からあいさつをして、 近所の人との関係づくり を心がけました(小2男の子ママ)」 交通ルールや不審者に注意することなどを教えるのはもちろん、親が地域や学校とつながりを持つことも大切。家庭だけではなく、大人がみんなで子どもたちを守ってあげるよう心がけたいですね。 ■毎日の支度や早寝早起き「生活習慣」どう身に付ける? 子ども自身が早寝早起きをし、支度をして出かけ、整理整頓までするのが理想。でも、わが家では、いまだに親が起こし、着替えを手伝い、片付けもやってあげている状態です。小学生になるにあたってどう自立させるのか、悩むところです。 「毎晩、早寝を心がけ、遅くとも9時半には寝かせるようにしました。たとえ宿題が終わっていなくても、『連絡帳に書いてあげるから寝なさい』と、 勉強よりも寝ることを優先 させました(小2女の子ママ)」 「保育園時代より起きるのが早くなるため、最初は 『ご褒美作戦』 を実行。カレンダーに早起きシールがたまったら、大好きなわらび餅をあげていました。すると、1カ月くらいで早起きの習慣が身につきましたよ(小2女の子ママ)」 「入学時に 『学校から帰ってきたらやることリスト』 を作りました。また、娘専用の棚を作り、自分で管理させています(小3女の子ママ)」 「忘れ物をしたり洗濯物を出さなかったりは日常茶飯事ですが、 自己責任 というのが、わが家のルール。ただ、周りに迷惑がかかる時は、忘れ物を学校まで届けることもあります(小2男の子ママ)」 「忘れ物が多かったのですが、あえて 手伝わずに放っておく ことに。結局、自分が困るだけなので、3年生くらいからまったく忘れ物をしなくなりました(小4女の子ママ)」。 親はあえて手を出さずに、子どもの自主性に任せているママが多いようですが、一方で「実は今でも、着替えから片付けまでつきっきりで世話しています(小1女の子ママ)」の声も。 周囲と比べてあせるのではなく、各家庭のペースで進めていくのが良さそうです。 ■環境の変化や毎日の勉強…ついていけるか心配 自由に遊べる園とは異なり、小学校は勉強の場。イスに座って先生の話を聞き、帰宅後には宿題をする。そんな生活についていけるのか、はたして退屈しないのか、という不安もあります。 「保育園時代が相当楽しかったようで、夏休みくらいまでは 『保育園に戻りたい』 と言っていました。あえて深刻にとらえず、『そんなに楽しい園生活でラッキーだったね』と軽く流していました(小2女の子ママ)」 「公文をやっていたこともあり、勉強する習慣は入学前から身に付いていました。 友だち ができてからは、学校生活を楽しめるようになったと思います(小1男の子ママ)」 「お勉強するというのがお姉ちゃん気分になり誇らしかったようで、張り切っていました。みんなの前で発表したり、ほめられたりという 快感を知った らしく、授業にはすぐに慣れました(小2女の子ママ)」 「小学校に上がる前に、授業中はずっと座っていないといけないんだよ、と言い聞かせました。最初は、なぜ学校に行くのか、授業の意味などわかっていないようでしたが、2年生になり 新1年生が入ってきた時に自覚 が芽生えた様子(小2男児ママ)」 「入学当初は子どもが頑張りすぎてしまい、 夏休み前に疲れ が出てしまいました。それ以降は、注意して見守り、様子が違う時は声をかけて話を聞くようにしました(小2男の子ママ)」 急激な環境の変化に、子どももママも戸惑うのは仕方ないこと。子どもの気持ちに寄り添ってサポートしつつ、「勉強は楽しいもの」「学校は楽しいところ」というメッセージを伝えていくのが大切なようです。 最後に、小学生ママたちからアドバイスをご紹介しましょう。 「小学生になると、子どもは自分で世界を広げていき、親は置いてきぼりになります。とはいえ、まだ子どもなので、 友達の親と連絡を取り合う などフォローが必要(小2女の子ママ)」 「子どもの前では、 学校や友達の悪口は言わない こと。勉強も毎日無理にやらせず、授業についていければOKという程度でいいと思います(小4女の子ママ)」 「親は心配してしまうけれど、やってあげられることはあまりありません。常に見守ってあげて、必要な時に すかさずサポート してあげればいいと思います(小2男の子ママ)」 あまりナーバスになりすぎず、子どもを信じて見守ってあげること。一方で地域とのつながりを作り、子どもの友人関係はフォローして、セーフティネットを築くこと。しっかりと準備をしつつ、親子ともに新生活を楽しんでいきたいですね。
2018年01月25日自閉症である息子さんを通わせたいと思える放課後デイサービス(以下、放課後デイ)がなかったことから、自ら「アイム」を立ち上げた佐藤典雅さん。そこから、息子さんや生徒の成長に伴い、フリースクールや就労支援、グループホームまで立ち上げてしまった。 それらの施設を立ち上げた理由も、やはり放課後デイ設立の時と同じように、 既存の施設に大きな不満 があったからだと言う。そんな佐藤さんに、現在の福祉業界の問題点や自ら立ち上げた施設への思いを語ってもらった。 発達障害のある子を育てる親たちにとって、最大のテーマは、 将来の自立や働き方 。 『療育なんかいらない!』 の著者でもある佐藤さんのお話の中には、きっと、発達障害の子どもの幸せな将来のために、親としてやるべきことのヒントがたくさんつまっているはずだ。 佐藤典雅(さとう・のりまさ)さん 川崎市で発達障害の子どもをサポートする放課後デイサービス「アインシュタイン放課後」「エジソン放課後」を運営している、(株)アイムの代表。自身の自閉症の息子さんの療育のために、息子さんが4歳の時に渡米して、ロサンゼルスで9年間過ごす。前職は、ヤフー・ジャパンのマーケティング、東京ガールズコレクションとキットソンのプロデューサーという異色の経歴の持ち主。福祉という範囲を超えた目線で、自身の息子さんの成長を見守りながら、発達障害児が社会で幸せに生きるための道を広げる挑戦をしている。著書: 『療育なんかいらない!』 (佐藤典雅・著/小学館 ¥1,296 税込) ※放課後デイサービス(= 放課後デイ):6~18歳までの障害のある子どもが放課後や学校休業日に利用できる、就学時向けの福祉サービスのこと。 ■子どもの将来について保護者が不安に思わないインフラの構築がテーマ ――前回の取材から1年ほど経ちました。その間、がっちゃん(佐藤さんの息子さん)の高校進学にあわせてフリースクールを設立したそうですね? 佐藤典雅さん(以下、佐藤さん):アイムの放課後デイには、たくさんの中学生の生徒がいるので、中学卒業後の進路は重要なテーマでした。というのは、高校って義務教育じゃないから支援学級がないんですよ。だから、支援学校に行くしか選択肢がないのですよ。 でも、既存の支援学校だと高校卒業証書はもらえないから、中卒扱いになっちゃうんですよ。どうせ就労支援に行くなら、あんまり関係ないかもしれないけど、親の心情的な観点からいくとちょっと残念だよね。 ウチが設立したノーベル高等学院は発達障害や自閉症の生徒に合った通信サポート校で、明蓬館高校の教育連携施設として、高校の卒業証書も取得できるんですよ。 ――がっちゃんの進路に、既存の支援学校を選択しなかったのはなぜですか? 佐藤さん:中学校までは義務教育だから、だいたいどこも手厚くやってくれるんですよ。でも、高校になった瞬間、何が始まるかというと「職業訓練」という言葉が出てきます。見学に行ったらわかると思うんだけど、ほとんどのところが就労の準備期間として、封筒やチラシを折ったり、縫物の練習をしたり、昭和の内職みたいな作業をさせているんですよ。 でも、普通の子が高校で青春を楽しんでいる時に、どうして障害者の子たちは就労準備しなくちゃならないのか? 親として、自分の子がそういう状況にいるのはしのびないよね。 ――それで、もっと楽しい高校をご自分で作ってしまったわけですね。ノーベルでは、日々どんなことをしているのですか? 佐藤さん:最低限、取得しなければいけない単位があるので、午前中は主に課題をしていますが、午後はもう自由! 好奇心旺盛なスタッフが、毎日いろいろなおもしろいところへ遠足に連れて行ってくれています。 最近では、足立区にあるアスレティック施設や渋谷ヒカリエで開催されていた「チームラボ」のイベントなどに遊びに行ってましたよ。 ――それは通常の支援学校とはずいぶん違いますね! 生徒はどれくらいいるのでしょうか? 佐藤さん:今、生徒は2人です。もともとフリースクールは赤字前提でやっている事業なんですよ。 でも、なぜ赤字でもやるかというと、今、ウチには放課後デイに通っている中学生の子たちがたくさんいて、その子たちのセイフティネットとして必要だから。アイムのテーマは、子どもの将来について、保護者が不安に思わないインフラを作ること。だから、赤字でもやらないといけない理由があるんです! ■市場から「置いてきぼり」にされる福祉の世界 ――支援学校と同様に、就労支援にも疑問を感じて、アイムで取り組まれているそうですね? 既存の就労支援のどんなところに問題を感じているのですか? 佐藤さん:いろいろありますが…例えば、就労支援に行くと、まず、みんなあいさつの訓練をさせられます。見学に行ったことありますか? 行くと、みんなが無条件に一斉に立って「いらっしゃいませ!」って言うから。 トイレ行く時だって、みんな「佐藤さん、トイレに行っていいですか?」って聞いてくるの。トイレ行くのにどうして許可が必要なわけ? みんなロボットみたいになっちゃうんですよ。 ――確かに、そういう雰囲気がある気もしますね…。 佐藤さん:でも、そもそも仕事において、あいさつってそんなに重要なの? それで売り上げが上がるんですか? 僕は、あいさつなんかより儲かる就労支援をつくることの方がずっと重要だと思ってます。 だから、福祉業界の人に「あいさつはいりません!」って言ったら、「佐藤さん、それでは社会性が身につきません」って言われました。じゃあ、普通の世間一般の会社の社員が同じようなあいさつをしているのでしょうか? あいさつをしなくてもいい業種はたくさんありますよね。それでも全ての社員は型にはまったあいさつをしないと社会性がないといえるのでしょうか? 仕事においてどこに価値を求めるのかという話なんですよ。 ――確かに…。 佐藤さん:どんな大手企業でも、行動パターンを変えられなければ、いつかはつぶれてしまうと思います。市場が変わっているのに、会社の倫理観、価値観、戦略、全部変えられないままでは、市場から置いてきぼりにされる。 学校や福祉の世界でも、これと同じようなことが起こるはずなんです。しかし、助成金によって雇用も給料も守られているわけで、福祉は保険点数でも守られているからつぶれることがないわけです。こんなの民間企業だったら、とっくに淘汰されていてもおかしくないです(苦笑)。 制度の枠組みで仕方ないのですが、そもそも行政からみて就労支援は「就職」でなく「介護」の延長線上にあります。なぜかというと、就労支援に配置される資格者は介護士なんですよ。これまでビジネス経験のない介護資格者がいきなり売り上げを求められるわけです。だから、発達障害の子たちのために利益分配を考えるのは、かなりハードルが高い話なんです。 ――そういう現状を、きちんと親が知って考えるべきなんですね…。 佐藤さん:お母さんはみんな、「将来この子が困らないように」って療育で訓練することばかりに夢中になっているけど、だれも「出口」のことを考えていないし調べてもいない。僕は、「出口」のことしか考えてなくて、それは就労です。その子が自分の力で就職できるのか否かという明確なラインがあって、そこしか見ていない。 今、支援学校を卒業した後の進路は、2つしかないんです。ひとつは、特例子会社に就職する。もうひとつは、就労支援に行く。一般企業に普通に就職できない子の出口は、就労支援しかないんです。 将来、わが子の就職が難しいと考えた時、親として考えるのは、どういう就労支援だったらわが子が充実した毎日が送れるかということ。そこしかないんです。既存の就労支援には、がっちゃんを通わせたいと思えるような施設がなかったので自分たちでやる必要性を感じたわけです。 ――特例子会社の方はどうなのでしょうか? 佐藤さん:特例子会社っていうのは、企業枠で障害者を2.3%雇用しなければならないという決まりがあって最低賃金が発生します。で、特例子会社は大手企業が多いから、ほとんどが都心にあって、オフィスで事務作業をすることができます。 でも、僕から見ると、特例子会社も就労支援も両方同じようなもんですよ。封筒やチラシ折ったり、昭和の内職みたいな仕事をしている。もちろん、その子がその仕事を楽しんでいればいいけれど。 ――でも、キレイなオフィスで働けて最低賃金が発生するなら、保護者にとったら就労支援より特定子会社に入るほうが理想的ですね? 佐藤さん:でも、特例子会社は民間企業だから、ある程度の基準を満たさないと入れないし、枠も限られています。加えて、都心のオフィスに通うために、通勤ラッシュにも耐えられる子が採用の前提となります。そうすると、当然、ある程度コミュニケーションがとれる軽度の子が採用されるんですよ。 ――そうすると先ほどのお話のように、重度な子は特例子会社には入れず、就労支援に行く進路しかない、というわけですね? 佐藤さん:ウチのがっちゃんは、まさにそこなんです。特例子会社に行く子たちは、比較的障害が軽いので、社会で働いて賃金を稼いで満足を得ることができます。でも、がっちゃんは給料をもらってもよくわからないから、「このつまんない作業はなんなんだ!?」で終わっちゃう。 ――働くことにおいて、がっちゃんの幸せはどこにあるとお考えですか? 佐藤さん:がっちゃんはあまりにも謎が多すぎてまだわからない(笑)。でも、親として、特例子会社に行くことががっちゃんの喜びにならないことはわかっています。だから、どういう就労支援だったら楽しめるのか、ということをずっと考えています。 がっちゃんはかなり自閉症ど真ん中なので、ウチの子のニーズを満たせれば、ほぼすべての自閉症児のニーズを満たせると思ってる。がっちゃんの問題を解決することが、幅広い子どもたちの問題を解決することにつながる。それがどういう就労支援なのかということを、いくつか実験しているところです。 ■就労支援もきちんと利益を追求、「儲からない仕組み」を根本から改革 ――その手始めとして、就労支援ルピアをアイムの傘下に入れたのですね? 佐藤さん:そうなんですよ、ルピアさんの協力で。おかげで、就労支援の仕組みがだいたいわかってきたので、来年のどこかで、ウチ独自のアートの就労支援を作ろうと計画しています。その後は、飲食の就労支援も考えています。カフェがいいのかビュッフェスタイルがいいのか…? どうやったら最小限の労力で最大限の利益を上げられるか、そこを必死に考えています。よく、福祉の世界は利益追求反対という風潮があるけど、資本主義の中で生きている以上避けられません。ビジネスとして利益をあげて、利用者の環境のために再投資をしていくために利益は大切なんですよ。 ――確かに、既存の就労支援って、あまり利益を出そうという雰囲気がないですよね…。 佐藤さん:そこが就労支援の大きな問題なんです。就労支援は保険点数でまかなってるから、つぶれることがない。だから、彼らは利益なんか出なくてもいいんですよ。危機感が非常に薄い! ルピアも最初は課題が大きかったですよ。当初はお店もボロボロでいかにも「福祉!」っていう感じで…。 だから、アイムでプロデュースしてオシャレに改装したんですよ。すると後日、店の責任者は「全然効果ない」って言うから、よくよく話を聞いてみたら、なんと就労支援だからという理由で週末にお店を閉めていたんですよ! もう、ビックリしちゃって(爆笑)。 お店、つまり小売りでしょう? 小売り店舗で土日閉まってるって、その時点で売り上げが出るはずもなく(笑)。福祉にいると、商品やサービスを提供するって時点で、就労支援も民間企業との競争になるっていう認識が薄くなるんです。もちろんその後、週末にお店を営業したら、案の上、売り上げは3倍になったわけで、みんなハッピー(笑)。 一般的な就労支援を見ると、仕事内容が、ビラを折るとかボールペンの組み立てだったりするわけです。こんなところに入るために、支援学校で3年間も訓練させられたの!? って思いませんか? ■既存の施設や他人に親は振り回されるだけ…子どもの将来はゆだねない! ――確かに。親子で一生懸命職業訓練して、でも、その先がそんな職場ばかりだったら浮かばれないですよね…。 佐藤さん:普通の就労支援でも、その子が働くことを楽しんでいればいいんです。でも、私から見たら、昭和の内職みたいな仕事をして時給100円の世界ですよ。実際にそれが合わずに引きこもりで終わってしまう障害者が多いと聞きます。 特例子会社にしても、お母さんがわが子の就職先にそこを目指して、二人三脚で支援学校で3年間一生懸命訓練しても入れなくて。「ずっとがんばってきたのに特例子会社に入れなかった」って泣いたり落ち込んだりしている姿をいっぱい見ます。 でも、全然落ち込む必要ないですよ!ってお母さんたちに言っています。だって、そんなところに入れなくたって、アイムがその子たちに合う就労支援を作ればいいだけのことでしょう? ――そうしたら、お母さんも子どもの将来について余計な心配しなくてすみますね。 佐藤さん:今ある既存の施設や他人に将来をゆだねると、親は振り回されるだけ。どうでもいいことで落ち込んだり泣いたりしてしまう。 よく保護者が「将来、この子が困らないように、しつけてる」とか「療育で訓練してる」って言うけど、こんなところに入れてもらうために、子どもの個性をねじまげてまで訓練する必要なんてないですよ。 大事なのは、その子自身をどうこうすることではなく、その子が生き生きと生活できる環境を与えること。だから、子どもがそのままでも安心して働ける楽しい就労支援を、アイムは目指します。そのために、ウチは「就労継続支援B型」をやるんです! ウチは「移行支援」には手を出さず、どんつきである「継続支援B型」をやります。(※) だって、たとえばうつ病とかなら、訓練してまた社会復帰できる可能性もあるかもしれないけど、自閉症は治らないから、訓練を受ければ復帰できるというわけじゃないじゃないですよね? それに「移行支援」では2年間しか訓練を受けられないから、最終的には「B型」に突っ込んで、「はい! おしまい!」なんですよ。その先のことは彼らにはあまり関係ないから。でも、これだとうちの息子の場合は困るわけですよ。 ※就労支援には、「就労移行支援」と「就労継続支援」の2タイプがあります。「就労移行支援」とは、一般企業への就職をサポートする訓練支援(2年間限定)なのに対して、「継続支援」は一般企業への就職が困難な障害者に就労の場を提供する支援です。さらに、「継続支援」には「A型」と「B型」の2タイプがあり、「B型」は「A型」の仕事が困難な障害者が対象となります。 ■健常者が「うらやましい!」と思うような就労支援を提供したい ――アイムで就労支援を立ち上げるにあたって、さまざまな施設を見学に行かれたと思うのですが、参考になりそうなところはありましたか? 佐藤さん:学ぶべき就労支援はたくさんありますよ。例えば、名古屋にある「世界の植物と昆虫のお店『APERO HYLE』」。虫好きの自閉症の子たちが昆虫や植物を育てて、それを売るの。ヘラクレスオオカブトとか高価な虫は1匹3万円ほどの値がつくんですよ。1日の売り上げが10万円あるから「B型」なのに、最低賃金も払えてるの! すごいなぁ〜って。 ――さまざまな施設を見学されて、アイムの方向性は決まりましたか? 佐藤さん:ウチは川崎に3種類違う就労支援をもちたいと思ってます。だいたい3タイプくらいあれば、すべての生徒を対応ができるかな、と。アートの就労支援は決まったので、今年中に設立します。あとの2つは、案は出ているけれど、その時の状況や人材など、いろいろな要素が絡んでくるから、今のところリサーチにとどめています。でも、2年以内には作る予定です。 ――相変わらずすごいスピード感ですね。 佐藤さん:福祉や教育は業界の特質として変わりにくいっていう前提で考えた方がいいですよ。だから、自分で作った方がずっと早いわけ。今の福祉制度をうまく使って、アイムでは新しい視点で就労支援を提供したいと思っています。 もちろん、働く本人たちが楽しいっていうのが大前提なんだけど、一番重要なのは、健常者が「ここに通いたい」「こんな素敵な場所で楽しそうな仕事ができていいな」って思えるような施設を作ることだと思うんですよね。 障害者がなんでかわいそうに見えるのか、それは、みすぼらしい場所にいるからだと思うんですよ。だから、うちのテーマは、健常者がうらやましいと思える職場を障害者に提供することなんです。 ――保護者も、福祉に頼るだけでなく、自ら行動を起こすべきなんですね。とはいえ、普通のお母さん(私)は佐藤さんのように、ガシガシ動ける自信もないのですが(苦笑)。 佐藤さん:じゃあ、川崎に引っ越してきて、ウチに通えばいいじゃないですか(笑)。最近では、療育をしないというアイムの方針が浸透して、それに賛同する保護者がウチに通いたいと遠方から引っ越してきてるんですよ。 だから、ウチの生徒になったら、ちゃんとアイムとして最後まで面倒を見たいなと思っています。今年の秋から、グループホームも始めました。放課後デイ→フリースクール→就労支援→グループホームと一つのレールを敷くことで、保護者の不安を取り除き、発達障害の子育てを明るいものにしたいと思っています。 「すべての子どもがあこがれるような居場所を。健常者がうらやむような職場を」と、驚くような勢いで、発達障害の子どもたちの充実した人生のためのインフラ作りを進める、佐藤さん。その原動力は、「親として子どもに納得できる環境を与えたい」という想いだった。 誰もが佐藤さんのように動けるわけではないが、障害を持つ子の親であれば、誰しも同じ想いを持っているのではないだろうか? わが子の幸せな働き方ってなんだろう? そのために、私は親として何ができるだろう? 改めて考えさせられた取材だった。 取材・文/まちとこ出版社N
2018年01月25日発達障害児とその家族を支えるため、発達障害の正しい理解のための講演活動や、発達障害児を持つ家族のための相談支援活動などを行っている団体、一般社団法人「発達障害ファミリーサポートMarble(マーブル)」。 その代表理事を務める 国沢真弓さん は自身も、高校生になる自閉症児の母であるため、「当事者家族」の視点からのお話にはとても説得力があり、温かみのある方です。本業がアナウンサーであるため、周囲への「伝え方」のアドバイスは、なるほど! と深く納得できるものばかり。 500名以上の発達障害児の家族の相談にのってきた国沢さんに、今回うかがったのは、発達障害の子どもを取り巻く、周囲との上手なコミュニケーション方法について。同じく発達障害の息子を持つ筆者が、「カミングアウトはするべきか?」「するとしたら上手な伝え方は?」、また「身近に発達障害児がいる場合、周囲はどう働きかければいいのか?」などを聞きました。 ■カミングアウトにあえて障害名を言う必要はない ――発達障害の程度が重い場合は、あえて説明しなくても周囲は自然とわかるかもしれませんが、グレーな場合はわかりにくいですよね。特に説明する必要を感じない場合は、黙っていてもいいような気もしてしまいますが、身近なところにはカミングアウトした方が良いのでしょうか? 「私が相談を受けた中では、カミングアウトした方が良いケースが多かったです。ただし、その際に、障害名をあえて言わない方が、結果的に良かったようですよ」 ――障害名をあえて言わないのはなぜでしょうか? 「保育園や幼稚園だと、保護者が顔を合わせる機会が多いので、保護者の人となりが大体わかるのですが、小学生になると保護者の顔が見えにくくなってきます。 残念ながら、中には噂好きのお母さんがいて、障害名だけ切り取って周囲に言われてしまったという例もあります。もちろん、障害名を伝えてうまくいくケースもあるので一概には言えませんが、カミングアウトする際は、どういう保護者がいるかわからないという想定で考えた方が良いと思います」 ――具体的には、どう伝えれば良いのでしょう? 「上手くいった、ひとつの例をご紹介しましょう。『ホップ・ステップ・ジャンプの伝え方』…と私は名付けているのですが(笑)。まず“ホップ”。ユル~リと、子どもの具体的な行動を伝えます。例えば、『授業などの予定が急に変わると、混乱して泣いてしまうこともあるかと思います』とか『息子の〇〇は気持ちが高ぶると時々、乱暴な行動に出てしまうことがあります』など。 ただ、この時、できればマイナス面だけではなくプラス面も話してほしいです。例えば、『小さな子には優しかったりするんですよ』など、良い面もくっつけると、聞いた時の印象が和らぎます。 次に、“ステップ”として、子どもの行動に対して親として努力している姿勢を伝えます。例えば、『本人が行動を改められるように、1カ月に1回ほど専門家に相談に行っています』などというふうに『何もしていない訳ではないんだよ』と知らせます。 最後に“ジャンプ”として、『〇〇のことで、何かありましたらお知らせください』と、いつでも受け入れる姿勢でいるということも伝えておく。そうすると、『ちょっと子どもはやっかいだけど、この保護者は何かあった時に聞く耳を持っているんだ』と、周囲も安心してくれるでしょう。本当は、しんどいんですけどね(汗) そして余裕があれば、最後に『今日は、話す前は緊張しましたが、親子ともども、楽しい学校生活を送りたいと思っているので、1年間よろしくお願いします』などと前向きな言葉で締められたら、グッド! ちょっとハードルが高いかな(笑)。でも、こんな順番でお話しすると、周囲に受け入れてもらいやすいようで、1クラスに2~3人は、応援してくれる保護者が出てくるケースをたくさん見てきましたよ」 ――なるほど。受け入れる姿勢を示すことはとても大事ですよね。では、もし、実際に子どものことで保護者からクレームがきた場合は、どう対処するのがベストでしょうか? 「『周囲から子どものことでクレームがきた』という相談も、とても多いです。例えば、通常学級では『〇〇君がいると授業が進まない。支援学級にうつった方がいいんじゃないんですか?』なんて言われてしまうことも、残念ながらあります。そういう時は、もし、わが子が授業を中断しているのが事実だとしたら、まず謝ることが大切。 そのうえで、『この子の居場所ができるように、クラスメートに迷惑がかからないように、学校と話し合いをしているので、もう少し見守っていただけますか?』とか『今、事態が改善されるよう、専門家にも相談をしています』などと、こちらが努力している姿勢を示しましょう。と言っても、こういう局面で、このように伝えるのは、すごくエネルギーを使いますよね。私も、相談する方のつらさがわかるだけに、なんとか力になれたらと思うんですよ」 ■発達障害の子どもに対して、周囲はどう対応すべき? ――次は、逆の立場から考えた時のことをお聞きします。例えば、身近に発達障害の子どもがいた場合、周囲はどう接したら良いのでしょうか? 「周囲が『歩み寄りたい』という気持ちを持ってくれたら、とてもありがたいです。発達障害の子どもの性質と接し方のコツを、周囲のみんながわかってくれたら、その子だけでなく、きっとみんなも楽になると思うんです。 事実、障害児がいることで、その子を落ち着かせるために一致団結したり工夫したり、クラスがすごくまとまるケースもあるんです。…と言うことを、私たちのような“障害児の親サイド”から言ってしまうと、ちょっと押しつけがましいかもしれませんが(笑)。でも、実際、そういう例はあるんですよ」 ――「あの子はいろいろ問題行動を起こして迷惑」というふうにとらえるのではなく、「どうすればみんなが快適に過ごせるか?」というふうに視点を変えるのですね? 「そうです。『授業を中断されて迷惑』とばっさり切り捨てるような一面的な考え方ではなく、『同じ教室に困っている子がいて、どうすれば解決できるか』を多面的にみんなで考える。その子が落ち着けば、自分たちへの飛び火も消えて、お互いに過ごしやすくなるはずですから。 ただ一方的に、その子ばかりを特別扱いするというのではなく、みんなにも良いことがあるということを知ってもらえたら良いですね」 ――具体的には、周囲はどう接したらいいのでしょうか? 「発達障害児に接する基本は4つです。 1つは、話しかける時は『おだやかに・短く・肯定的な表現で・具体的に・わかりやすく褒める』。例えば、『廊下は走っちゃダメだよ!』ではなくて、『静かに歩きましょう』。『ちゃんとやってよ!』ではなくて、『〇〇を□時までに△△にしまいましょう』というふうに。 2つ目は、あらかじめ予定を伝えることです。例えば、今日1日のスケジュールなどを表にして、『どこで、何が、いつ、誰が』を明記してわかりやすく伝えます。 3つ目は、その子が集中できる環境を整えることです。好きなモノを手に握らせるなど、ほかにもその子が落ち着いていられるように工夫します。 4つ目は、感覚過敏に配慮することです。発達障害児は知覚・触覚・嗅覚・味覚・平衡感覚が鋭かったり、逆に鈍かったりすることが多いので、近くで大声を出さないようにしたり、急に体に触れたりしないように、その子どもに合わせて配慮します。 これら4つのことを組み合わせてやっていくと、落ち着いてコミュニケーションを取れることが多いと思います。 すごくたくさんあって、大変という印象を持たれる方も多いかもしれませんね! けれど、こういうことを実践して、実際、発達障害の子どもが落ち着いて、クラスにいることができたら、それは周囲の皆さんの“努力賞”だと思いますよ」 ――なるほど。でも、このコミュニケーション方法って発達障害児だけではなく、すべての子どもに同じように役立ちますよね? 「もちろん、発達障害児だけではなく、すべての子どもに有効な方法だと思います。私もこの対応法が身に着いてから、ずいぶん変わりました。 例えば、忙しい時に子どもがミルクをこぼしたりすると、以前は『もう…! 何してんの!』みたいに怒ってしまっていたけど(苦笑)、息子への対応法が身についてからは『これでキレイにふきます』とサッと布巾を渡せるようになりました。私がイライラすると息子がそれに影響されて大変になってしまうので、自分の身を守るためでもあるんですけどね(笑)」 ――対応法が、すっかり体に身に着いたのですね! 「10年以上、発達障害児の子育てをしていると、ずいぶん変わりますよ(笑)。難しいことかもしれないけれど、周囲の皆さんにも、どんどん対応法を知ってもらえたらうれしいです。上手に対応できた子は、きっとクラスの中でも『えっ、すごいじゃん!』と羨望(せんぼう)も集まって、その子も鼻高々になるかもしれません。 そうやって、お互いコミュニケーション方法を学ぶことで、お互いの理解が深まるような、そんな環境になれば素敵ですよね」 集団の調和を乱す子を、単に『みんなの邪魔』と言って排除するのは簡単です。でも、排除するだけでは、そこからは何も学べませんし、成長もありません。自分も、いつ“障害を持つ側”になるかはわからない…。障害を持った時に、悲嘆したり絶望したりすることがないように、誰もが尊重される、暮らしやすい社会が実現できると良いなと、心から思います。 ただし、発達障害の子どもが何に困っているかを考え、相手の立場を理解し、一緒に楽しく過ごす方法を考えるのは、手間も忍耐力もとても必要です。けれど、それを根気よく進めていくことで、子どもたち(もちろん子どもだけではなく私たち大人も)は、かけがえのないものを学んでいくのではないでしょうか? 国沢真弓さん プロフィール フリーアナウンサー、自閉症スペクトラム支援士、一般社団法人 「発達障がいファミリーサポートMarble」 代表理事 <役職>ペアレント・メンター、三鷹市相談支援事業「ママサロン」相談員 、三鷹市知的障害者相談員、三鷹市発達障害児親の会「モンブランの会」会長、社会福祉法人「清陽会」評議員、児童発達支援施設「すこっぷ調布」アドバイザー、三鷹市教育支援推進委員会委員。 <経歴>都立新宿高校、聖心女子大学文学部歴史社会学科を卒業。富士通株式会社を3年勤務後、アナウンサーに転向。NHKテレビ「きょうの料理」「婦人百科」の進行を約10年務めたほか、多数のテレビ・ラジオ番組に出演。海外特派員、番組企画構成も担当。ナレーション・司会は各500回以上務め、厚生労働省主催「世界自閉症啓発デイシンポジウム」の総合司会を毎春担当。「3歳までの子育ての裏ワザ」「こんな時どうする?子どもの友達・親同士」(PHP出版)など共著多数。 <現在の活動>一般社団法人「発達障がいファミリーサポートMarble」代表理事として、「発達障害」や「伝える力UP」といったテーマでの講演を、全国で行っている。また、「ペアレントメンター」として保護者や支援者の相談に応じるほか、障害児の家族が気軽に参加できるイベントやお喋り会の開催等を行い、家族の元気を応援している。(詳しくはホームページをご覧ください)。 取材・文/まちとこ出版社N
2018年01月20日発達障害の子育てママの座談会で、よく話題にのぼるものの一つに、 夫の無理解や無協力 があります。「無」とまではいかなくても、子どもの障害をなかなか認めようとしなかったり、療育や児童精神科などに行くことに乗り気ではなかったり、というお父さんがどこにも一定数はいるようです。 そんな時、知ったのが一般社団法人「発達障害ファミリーサポートMarble(マーブル)」。発達障害児とその家族を支えるため、発達障害の正しい理解のための講演活動や、発達障害児を持つ家族のための相談支援活動などを行っている団体です。代表理事の 国沢真弓さん は自身も、高校生になる自閉症児の母であるため、「当事者家族」の視点からのお話にはとても説得力があり、温かみのある方です。また、本業がアナウンサーであるため、周囲への「伝え方」のアドバイスは、なるほど! と深く納得できるものです。 そんな国沢さんに、発達障害の子育てに協力的ではないお父さんや、育児に口出ししてくる祖父母への対策法をうかがいました。 ■発達障害はグレー診断な子ほど夫の理解が得られにくい ――発達障害の子育てにおいて、ママの間でよく「夫が子どもの障害を認めてくれない」とか「夫が育児に協力的じゃない」という愚痴を聞くのですが、国沢さんの周囲でもこういった相談は多いですか? 「今まで、保護者の相談を約500名ほど受けてきましたが、そのうち半数以上が、知的に遅れのない発達障害児(通常の学級に在籍して通級や校内特別支援教室などを利用しているようなお子さん)のお母さんからの相談です。その中で、夫の無理解や無協力という相談はとても多いですよ」 ――発達障害はグレー診断なほど、夫の理解が得られにくいというわけですね。 「子どもとの会話が成り立たなかったり、説明しても理解できなかったりすれば、お父さんも『うちの子、何かある?』と思わざるを得ませんよね。でも、例えば、週末に家族の中だけで接していて、会話もほぼ成り立っている程度だと、たとえ外で問題行動があったとしてもお父さんにはなかなか、わかりません。 『これくらい、男の子だったら当たり前じゃん?』とか『俺も昔そうだったよ』『個性だよ』という一言ですまされたり、ひどい時には『お前は、なんでそんなに障害児にしたがるんだよ!』なんてお母さんが怒られてしまうこともあるそうです」 ――障害と個性の線引きは、専門家でも判断が難しいと言われていますものね。では、知的に遅れがない発達障害のケースでは、ほとんどのお父さんは、わが子は問題ないと思っているのでしょうか? 「いえ。私は、お父さんも本当は薄々わかっていると思いますよ。『なんでこんなに育てにくいんだろう?』とか『なんでこんなに癇癪がひどいんだろう?』という違和感は持っていると思います」 ――そうすると、わかっているのに認めたくないということ? 「私がいろいろ相談を受けてきて思うに、男の人はとてもナイーブなんです。その点、女の人はとてもたくましいですね。もちろんお母さんだって、わが子の障害が判明した時はショックを受けて泣いたり悲観したりはします。 でも、いろいろなところに相談して発散したり、専門家に助けを求めたりして、お母さんはさまざまなことを学びます。そうやって子どものことを苦しみながらも少しずつ受容し、子どもへの接し方もどんどん上手になり、プクプク…と浮上していくことが多いのです。 一方、お父さんは、お勤めの関係などで、子どもと一緒に過ごす時間が物理的にとれないケースが多いため、専門家やドクターと接する時間もなかなかとれないまま、子どもに障害があるということを認める機会を逃してしまいがちなんです」 ■子どもが大きくなった時こそ父親の出番 ――お母さんはどんどん学んでいく一方で、お父さんは置いてきぼりになりがちなのですね。 「夫婦で子どもに対する意識もスキルもどんどん離れていき、お父さんは家族の中で孤立してしまう…といった悩みを、お父さん自身から聞くことも多いんですよ。さらに、追い打ちをかけるように、一緒に過ごす時間が多いきょうだい児も、お母さんと一緒にどんどん学んでいくから、気がついたらお父さんだけがポツ~ン…って。でも、お父さんには、『お父さんにも教えて』と素直に言えないプライドがあるんですよね(苦笑)」 ――そうなると、お母さんは「じゃあ、もういいわよ! 私が全部やるから!」となるか、「この人にはもう期待しない」とコミュニケーションをあきらめちゃいそうですね…。 「ただでさえ、お母さんは子どものことでいっぱいいっぱいなのに、夫にまで配慮していられない! という気持ち、よくわかります。でも、子どもが大きくなった時のためにも、ここはなんとかお父さんを積極的に子育てに巻き込む機会を早期にどんどん作った方がいいと思います」 ――子どもが大きくなった時のため、というのは? 「発達障害というのは、男の子の割合が非常に多いのです。男の子の場合でも、小学校低学年くらいまでなら、お母さんの力でも主導権をにぎることができます。そのため、この時期ならば、お母さんのペースで日々の暮らしを仕切っていくことも、なんとかできるのです(まぁ、子どものタイプにもよりますが…)。でも、高学年くらいになると、お母さんが主導で物事をやっていくには限界があります。 だって、男の子のトイレやお風呂に、高学年になっても一緒について行くわけにはいかないでしょう? その他、進路の問題や、思春期特有の難しい問題も出てきます。そうした時に、お父さんの出番となるのです。でも、急にその年齢になって『お父さん! お願いします!』と言っても無理なので、早い段階からどんどん子育てに巻き込んだ方が後々のために良いと思うのです」 ――なるほど。確かに健常児だって、男の子の思春期対応法は、お母さんには難しいですものね。では、夫を積極的に育児に参加させるには、具体的にはどうしたらいいのでしょうか? 「大事な局面には必ず連れて行って、夫を頼る姿勢をみせてみてはどうでしょうか? 例えば、小児科や療育の面談など、ここぞ! という時は絶対に同席してもらうようにして、『あなたがいないと場がしまらない』とか『あなたがいないとちょっと心細い』とか頼ることで、男の人のやる気を引き出したり」 ――お母さんがお父さんのやる気をうまく引き出すということですね。 「大事な局面に夫婦2人で参加した方がいいのには、別の理由もあります。例えば、一人でドクターへ面談に行った場合、聞くこと、答えること、話を受け止めること、書き留めること、即座に判断すること、これ、全部お母さん一人がやらなければならなくなります。 専門家の時間は限られているので、いろいろ言われてワーッと終わっちゃうと、家に帰ってきた時に『あれが言えなかった』『これが聞けなかった』と不完全燃焼で終わり、悶々としちゃうことも多いのですよね。 その点、2人いれば、お父さんが質問している間に大事なポイントを書き留めたり整理したりできるし、状況を客観的に見ることもできます。もちろん、直接先生と会って話すことで当事者意識が育つので、お父さんのためにもなると思います。そういう状況を作るのが、難しいご家庭もあると思いますが。可能なら…ということです」 ■疲れたり迷ったりしたら…心強いペアレント・メンターの存在 ――非協力的なお父さんを育児に巻き込むには、お父さんをわが子が集団にいるシーン(例えば、園や学校の普段の様子やイベントなど)に積極的に連れていくのが良いと聞いたことがありますが、どう思われますか? 「お父さんは、集団の中にいるわが子の姿を見る機会が少ない方も多いので、理解をうながすには良い方法だと思いますよ。ただ一つ落とし穴があって、男の人って実はナイーブなので、集団の中で、わが子とほかの子どもとの違いを目の当たりにして、ガーンとショックを受けて落ち込んじゃうケースもあるんですよ。 で、その後、お母さんがいくら誘っても、園や学校に行くのを避けるようになってしまった、そんな相談を受けたことも、たくさんあります」 ――すでにさまざまなことを乗り越えてきたお母さんとしては、「傷ついてる場合じゃないでしょう~!」と思ってしまいそうですが…。 「お気持ち、よくわかりますよ(笑)。でも、男の人はそういう生き物と割り切って、『パパもショックだったよね。私も初めて見た時はショックだったんだよ』と寄り添いつつ、『うちの子みたいな子が落ち着けるように、こんな療育があるみたいだよ。一緒に見学行ってみない?』という感じに、だんだん専門領域の世界に引き込んでみてはどうでしょう? お母さん、大変ですね!(笑) たとえば、理論で入る男の人には、専門書をさりげなく渡してみるのもいいかもしれません。そういう方法で、実際に夫が協力的になったというご夫婦もいましたよ。 ――なるほど。専門書から理解を促すのは良い方法かもしれませんね。 「お母さんは本当に大変だと思います。でも、これは大きくなった時に返ってくる「保険」だと思ってあきらめないで、早い段階から協力的な夫になってもらえるよう働きかけてほしいです。ここでガツンと切っちゃうと、夫婦関係が険悪になってしまったり、離婚という選択にもなりかねません。そういった例も、たくさん見てきました。 逆に言うと、お父さん役も担っているシングルのお母さんは、大変な負担のなか、とても頑張っているんです。本当に、身体が心配です」 ――発達障害の子育てにおける、お母さんの負担はとても大きなものなのですね…。 「そうですね。でも、しんどい時は、どんどん専門家に頼りましょう。もちろんママ友や先輩ママに頼るのも良いけれど、私は専門的な訓練を受けたペアレント・メンターをおすすめします」 ――ペアレント・メンターって何ですか? 「ペアレント・メンターとは、自分自身も発達障害の子育てを経験し、さらに相談支援に関する一定のトレーニングを受けた親のことです。私も資格を持っているんですよ。 2010年から、厚生労働省もメンターの養成に力を入れています。発達障害の子育てに関する悩みや相談を抱えた親に対して、気持ちに寄り添い、その親にとって必要な情報(病院、療育、学校、福祉サービス、地域の情報など)を提供したりしています」 ――実際に発達障害の子育てをしている方だと、専門家とはまた違った安心感がありますね。 「発達障害児の子育てでは、すべての情報が親に集中します。しかも、情報は多岐に渡ります。 療育機関の専門家、医療機関のドクター、心理士、作業療法士、園や学校の先生、療育ママ友、家族、親せき、近所の人…いろいろな人から『ここが良いわよ』『これをしたら良くないわよ』という情報が、すごい勢いで入ってきます。そこから、親はわが子に必要なことを取捨選択するわけですが、そのプロセスは想像以上に大変です。 ペアレント・メンターは親に寄り添い、一緒に情報を整理し、今後の道を一緒に考える役割を担うので、とても心強い存在になると思いますよ。同じ仲間として、先ほどお伝えしたような、お父さんへの上手な接し方などもアドバイスしてくれます。ストレスがたまったり、子育てに疲れてしまったら、こういった専門家に頼るのも手だと思います」 ■祖父母世代には、「専門家の意見では…」で対応 ――周囲には、義理両親(もしくは自分の両親)の子育てへの口出しに悩んでいるお母さんもいましたが、祖父母関係の相談は多いですか? 「10年前くらいはとても多い相談でしたが、最近は少し減ってきたように思います。逆に、孫のことを理解しようと講習会に積極的に参加したり、自分も何とか役に立ちたいという祖父母の方も増えてきました。 とはいえ、まだまだ『そんな子育てだから、子どもがワガママになるのよ』とか『もっと、こうしてみたら伸びるんじゃないの』とか、ひどい例では『うちの家系には、こんなことをする子はいない』といったことを言われてしまうことも残念ながらあります。 そんな時は、大変つらいと思いますが、すべてキッチリ理解してもらおうと思わず、上手に受け流して、別のところでストレス解消をしましょうね。 自分たちより長く生きて、自分のスタイルを確立している人たちの認識を変えることは、とても大変です。ただ、言われっぱなしも悔しいので『専門家に相談してすすめていますので見守ってください』などと、自分たちも自己流ではなく、ちゃんと考えて子育てしている、ということはアピールしておくといいかもしれません。で、ほかのところで毒を吐く(笑)。同じ思いをしている仲間は、意外にたくさんいますよ」 ――ちょっと極端な話ですが、お姑さんのちょっとした子どもへの体罰に悩んでいるお母さんもいました。良くないことをすると、手をつねって教えるという。 「お嫁さんが『嫌だから止めてください』という言い方をすると角がたつから、専門家の名を借りてみてはいかがでしょう。たとえば、『専門家から、そういうことを続けるとほかの子に暴力をふるうようになるって聞いたんです』などと伝えてみるとか。 もちろん、ただの『嘘』になってはいけないので、専門家にも、その件を相談してみる。『義理の母が、しつけと称して子どもの手をつねるんですけど、こういうことを続けていると、この子がほかの子をつねる可能性もありますよね?』と聞いて『可能性あるね』と言われたら、それを『お墨付きのアドバイス」』にする。専門家の意見と言えば説得力が増すので、さすがのお姑さんも自制するのではないでしょうか? 『伝え方の工夫』、これは、発達障害児の子育てで、とても必要な力だと思います」 ――確かに、「専門家の意見では…」という言葉は効果ありそうですね。 「私は、これを学校の先生対策にも利用していますよ。例えば、生徒を大きな声で叱る先生がいて、それが怖くて、指示されても全然動けなくなった子がいるとします。そんな時、『児童精神科の先生に相談してみたら、大きな声がすごく苦手みたいなので、席を後ろにしていただけませんか? もしくはイヤーマフをつけさせてもいいですか? このままだと学校に行けなくなって不登校になる可能性もあると言われたんです』というふうに。 親が『大きな声で叱るのはやめてください』とだけ言うと、ただのクレームみたいに思われてしまうけど、専門家の指示であれば対応せざるを得ないでしょう。周囲を上手に説得したい時は、専門家の意見を上手に借りるのも一つの手だと思いますよ。 『伝え方』を工夫をすれば、双方の関係は悪化せず、子どもの状況が改善される…そんなケースを、私はたくさん見てきました。こうして見てくると、お母さんには、たくさんの力が要求され、本当に大変ですが(涙)、一緒に励まし合って、乗り越えていきましょうね! 国沢真弓さん プロフィール フリーアナウンサー、自閉症スペクトラム支援士、一般社団法人 「発達障がいファミリーサポートMarble」 代表理事 <役職>ペアレント・メンター、三鷹市相談支援事業「ママサロン」相談員 、三鷹市知的障害者相談員、三鷹市発達障害児親の会「モンブランの会」会長、社会福祉法人「清陽会」評議員、児童発達支援施設「すこっぷ調布」アドバイザー、三鷹市教育支援推進委員会委員。 <経歴>都立新宿高校、聖心女子大学文学部歴史社会学科を卒業。富士通株式会社を3年勤務後、アナウンサーに転向。NHKテレビ「きょうの料理」「婦人百科」の進行を約10年務めたほか、多数のテレビ・ラジオ番組に出演。海外特派員、番組企画構成も担当。ナレーション・司会は各500回以上務め、厚生労働省主催「世界自閉症啓発デイシンポジウム」の総合司会を毎春担当。「3歳までの子育ての裏ワザ」「こんな時どうする?子どもの友達・親同士」(PHP出版)など共著多数。 <現在の活動>一般社団法人「発達障がいファミリーサポートMarble」代表理事として、「発達障害」や「伝える力UP」といったテーマでの講演を、全国で行っている。また、「ペアレントメンター」として保護者や支援者の相談に応じるほか、障害児の家族が気軽に参加できるイベントやお喋り会の開催等を行い、家族の元気を応援している。(詳しくはホームページをご覧ください)。 取材・文/まちとこ出版社N
2018年01月14日筆者の息子が発達障害の疑いをかけられた時、ネットにかじりついて情報収集する中で、たどり着いたのが ABA という療法でした。ABAとは、アメリカの心理学者スキナーが創始した学問体系のことで、日本語では 「応用行動分析学」 と呼ばれます。 人の行動の原因を内部(心)ではなく、人を取り巻く環境に求める考え方で、自閉症など発達障害の子どもに非常に有効なアプローチ法とされています。最近では、このABAを取り入れた療育療法が非常に多くなっています。 でも、専門書を読んである程度の考え方は理解したものの、「具体的にどう子どもに接したらいいのか?」はわからずに困っていました。 そんな中、とても役立ったのが、shizuさんの著書 「発達障害の子どもを伸ばす 魔法の言葉かけ」 (講談社)でした。発達に遅れがある子どもへの具体的なアプローチ方法が書かれており、日々の生活の中で、子どもとの関わり方にたくさんのヒントを得ることができました。しかも、その考え方は、発達障害だけでなく上の子(定型発達)の子育てにも同じように役立ったのです。 著者のshizuさんの息子さんも、3歳の時に自閉症スペクトラムと診断されており、ちりばめられたご自身の体験エピソードには、とても重なるところがありました。「私だけじゃない」「やればできるかもしれない」ととても励まされたのです。 そんなshizuさんに、 「ABAを利用して発達障害の子どもを伸ばすにはどうしたらいいのか?」 をテーマにお話をうかがいました。 ■3年間できなかった滑り台、ABAでたった30分で滑れるようになっちゃった!? ――ABAは素人が専門書を読んで理解するにはなかなか難しい学問ですが、わかりやすく言うと、shizuさんはABAをどういうものだとお考えですか? 「私は、ABAは親子の関係を笑顔に導く1つの学習方法だと思っています。子どもが生きやすく生きるために、「できないこと」を「できた」に導きやすくする有効な働きかけだと思います」 ――具体的には、どんな手法なのでしょうか? 「ABAの醍醐味のひとつに、スモールステップというものがあります。これは、ひとつの課題をできるだけ細かいステップに分け、1回の目標達成レベルを低くして、そのステップを一つ一つ達成しながら成功体験を重ねていくというもの。それが子どもの自信となって大きな課題達成につながるというわけです。 この手法で取り組んでいくと、まるで魔法みたいに、全然できなかったことがコロッとできるようになっちゃったりするんですよ」 ――著書の題名も「魔法の言葉かけ」ですものね。実際に、魔法のような出来事はありましたか? 「私が関わった子で、滑り台がまったくできない子がいました。3歳の時に滑り台でひどい尻もちをついてしまって、以来3年間、滑り台を断固拒否していたんです。でも、身体的な原因ではないし、私はその子の様子を見ていてできる可能性は十分あると思い、スモールステップで取り組んでみました。そしたら、たった30分足らずで滑れるようになったんですよ!」 ――3年間できなかったことが30分で!? 具体的にはどうやったのですか? 「目標値を滑り台の下の方から、70センチくらいに設定し、ちょっとずつ登って滑ることを繰り返しました。その都度「すごい! ここまでこられたね!」とほめて、だんだんと目標値を高くしました。下の方から登れば、手を離すだけでスーッと滑りますよね? だから少しずつ滑り台の感覚を楽しめると思ったのです。私も後ろからついて子どもの恐怖心を和らげました」 ――なるほど。逆から少しずつ滑らせて、恐怖心を取り除くというワケですね。 「滑り台の上まで登れたお子さんを見て、ご両親は本当にうれしそうで、何度もほめていらっしゃいました。そしたら、その子はすごくうれしくなって、1つできたことから自信がどんどん広がったんです。大きく揺れることを拒否していたブランコも大きく揺らして乗れるようになり、ジャングルジムも2段目までが精いっぱいだったのに、一番上まで登れるようになったんです。 これ、全部その日のうちにできるようになったんですよ。その後、市内の滑り台めぐりをして、児童デイサービスでの散歩の時間にも『滑り台のある公園はありますか』とリクエストしたそうです。それまで、その子はあまり自分のやりたいことを積極的に言うタイプじゃなかったそうで、ご両親は積極性が出てきたこともとても喜んでいました」 ――自分ができたことはもちろん、お父さんとお母さんにほめられたことが、ものすごくうれしかったんでしょうね。 「子どもにとって、親のほめ言葉は何よりのご褒美です。どんなささいなことでも、できたことに対していっぱいほめてあげてほしいです」 ――スモールステップを成功させるコツはあるのですか? 「まず、親が『できる』と信じること。子どもは親が思っていることを敏感に察知するので、信じて『できるオーラ』を送ることが大事です。 だからと言って、親のエゴで『この歳で滑り台ができないなんて恥ずかしい』とか『みんなができるんだから』というのは違いますよね。それは、親が子どもを思い通りにコントロールしたいと思っているだけ。 そうではなくて、滑り台って本来、子どもにとってとても楽しいモノ。その楽しさを味わえたらいいよね、というイメージをふくらませてほしいです」 ――親のエゴを押し付けるのは違う、ということですね。 「言葉かけも大事です。親目線で『やってごらんなさい』と言うのではなく、子どもと同じ目線になって『ちょっとやってみようよ! 〇〇ちゃんならきっとできると思うな』という感じで。NHKの歌のお兄さんやお姉さんみたいに、思わず子どもの気分が乗っちゃうようなノリやテンションで盛り上げるのもコツですね」 ――子どもがチャレンジに不安を感じたら? 「子どもが不安を感じていたら、まずは、不安に寄り添ってあげることが大切。いったんはスルーして、気分が戻ってきたら『ちょっとだけやってみる?』とうながしてみてはどうでしょうか? 時間を空けるとスルッとできちゃうこともあるので、1回であきらめずに何回かはトライしてほしいですね」 ――でも、もしそれでもダメだとしたら…? 「たとえ滑り台の一番上まで登れなかったとしても、『ここまでできたんだね! すごいね!』と、必ず成功体験で終わりにしてあげることが大事です。 『あとちょっとだったのに!』という捨てセリフは厳禁。どんなにわずかでも、自分で踏み出せてそこまでできたということを、まずは認めてあげてください。また、ちょっと難しそうだったら、子どもの苦手な動作を背後から補助するような形で、親が少しだけ手助けしてあげることも有効です」 ――他にうまくいかない課題に取り組むときに心がけた方がいいことはありますか? 「子どもの興味あることに寄り添って、課題の設定を工夫することも大切だと思います。 例えば、こんなお子さんがいました。その子は平仮名を覚えるのが苦手で、カードで『あ』『い』『う』…と教えても、上の空で全然頭に入らない。そこで、その子が大好きな戦隊モノを利用することにしました。戦隊キャラの写真と名前(平仮名)をゲーム感覚で一致させて、その子の興味を引き出す仕掛けを作り、平仮名を読む行為自体が楽しくなる方法で取り組んだのです。 そうしたら、その子はどんどん平仮名を覚えて、後にお母さんから『文章も読めるようになりました!』と報告がありました」 ――「教える」というより、その子の「興味を引き出す」仕掛けを作る。そして、それが楽しいと思えれば、後は、自らどんどん吸収してくれるというわけですね。親もそんな子どもの成長がうれしい。子どもも笑顔&親も笑顔、親子の関係を笑顔にする、まさにウィン・ウィンの方法ですね。 ■ABAを行ううえで、親が気を付けるべきこと ――スモールステップがとても有効なやり方だということはよくわかりました。では、課題を少しずつクリアしていけば、何でもできるようになるのでしょうか? 「いいえ。一点注意しなければいけないのは、何でもかんでもスモールステップで繰り返しやれば身に付くわけではないということです。 滑り台の例のように、ちょっとした勇気やきっかけ作りでクリアできそうな課題はスモールステップが有効です。でも、平仮名の読み書き、算数など、さまざまな工夫をしてもどうしてもうまくいかない場合、もしかしたら学習障害が絡んでいる場合もあるかもしれません。 その場合は、『これは生まれ持った特性なのでは?』と考えを切り替えることも大切です。そのことも頭にとめておいてほしいです(文字の読み書きにはビジョントレーニングが有効な場合もあります)」 ――ほかに、ABAを行ううえで気をつけておくべきことはありますか? 「よく、家で机に座って子どもにガッツリABAの課題をやらせる、という話も聞くのですが、体を動かすことや外に出て五感を生かすことも大切にしてほしいと思います。五感を働かせることは、視機能、脳機能を伸ばすのにも大切だと思いますよ。 あと、ABAはちょっと間違えると、『指示して動かす』ということに終始しがちな危険性があるので、子どもに選択させることを常に意識してほしいと思います。 例えば、どんなに障害が重いお子さんであっても、食べ物の好き嫌いはあるはずです。『はい、お菓子よ』とあげるだけではなくて、『どっちが食べたい?』と選ばせる。選ぶというのは楽しみでもあるので、どんなにささいなことでも自分の意思で選ぶという体験を重ねてほしいと思います」 ■客観的視点が大事! ABAは親子の笑顔を引き出すアプローチ ――最近では、ABAの認知度が高くなって、家で実践している方も多くなってきたようです。でも逆に、それがうまくいかないと、自分と子どもの努力不足だと追い詰められてしまう方もいるようですが…。 「確かに、向き不向きがあるかもしれません。そんな時は、そもそもABAは子どもの笑顔を引き出すアプローチということを思い出してください。そこを外れて『なんでできないの?』『どうしてあなたはいつもこうなの?』というふうになってしまったら本末転倒ですよね…」 ――私もそんな時期がありました(苦笑)。つい「あなたのためなのよ!」と力が入ってしまって…(苦笑)。 「私もそうだったのでよくわかりますよ。でも、お母さんが『これができないと困る』と思って一生懸命やっていても、子どもは全然困っていなかったりするんですよね(笑)。 困っているのは、子どもじゃなくて、実はお母さんの方。お母さんが、他人からどう見られるかを気にしてやっていることの方が多い気がします。そんな時は、ちょっと立ち止まって『今の私って人の目を気にしてる?』と自分のことを客観的にみることが大事です」 ――確かに(苦笑)。当時は、「普通に近づけたい」という私のエゴが、常に頭のどこかにあったように思います。 「私も息子が自閉症と診断された当初は、とにかく『普通に近づけたい』と夢中になっていた時期がありました。でも、その結果、課題をなかなかクリアしない息子を追いつめ、見事に失敗しましたけどね(苦笑)。 普通にこだわったり、周囲からどう思われるかにとらわれると、子どもの悪いところ・できないところばかりが目についてしまい、悪循環に陥っちゃうんですよ」 ――そういう時って、もはや自分のことが見えなくなっているはず(汗)。自分のヤバさに気づくサインはありますか? 「常に子どもが教えてくれるはずです。子どもに笑顔があるかどうかです。子どもに笑顔がなかったら、きっとその時、お母さんにも笑顔がないと思いますよ。お互いに笑顔がないのなら、家庭でのABA(療育)はいったんお休みしましょう」 ――いろいろお話をうかがっていると、もちろんABAは子どもの力を伸ばす可能性に満ちているけれど、それ以前に、お母さんの心の健康の方が大事という気がしてきました。 「そう。子どもうんぬんよりも、まずはお母さんが自分自身を大切にすることが何より大事。だって、同じことが起こっても、自分に余裕がある時は『あらま~』って笑えるけど、余裕がない時だと『何やってんのよ!』って怒っちゃったりするでしょう? 物事をどう受け取るかはすべて自分次第なんですよ。 借りられる手は全部借りて、まずは、お母さん自身の心を満たすことを考えましょう。子どもが見たいのは親の笑顔ですから。あと、何もかも完璧を求めすぎず、『まぁ、いいか』というゆるい心を持つことも大事です」 ――確かに、発達障害の子育てで「ゆるさ」は大切ですね。発達障害児のお母さん(私?)って、常に、子どもの将来の心配をするのが癖のようになっちゃっているのですが、ここらへんはどうしたら? 「みなさんが不安に感じているのは、まだ、実際には起きてない予期不安ですよね? だとしたら、起きてない不安を延々と考えて苦しむのはムダじゃないですか? まずは、不安を感じているという自分の気持ちを『~って思っちゃうんだね。わかるよ』と認めて受けとめ、『また出てきたあ! 私って本当に悲劇のヒロイン好きだわ~』って笑い飛ばしちゃうのもひとつの方法です。思考癖に気づくことが大切です」 ――先のことは誰にもわからないはずですものね。 「もう、『なんか知らないけど、この子はきっと大丈夫!』と決めてしまいましょう(笑)。先のわからないことはプラスに考えた方が楽しいし、それに、人はみな、決めてから行動を起こすでしょう? だったら、『大きくなった子どもの笑顔を思い浮かべ、今、サポートできることは?』と応援団として行動を起こすのです。 それでも不安に押しつぶされそうになった時は、どうか、この言葉を思い出してみてください。それは、『今の子どもの姿がすべてではない』ということ。これは、私がお守り代わりに心にとめている言葉です。 親が信じて、コツコツ働きかけていれば、きっとうれしい成長があります。今の姿だけを見て将来を悲観せず、子どもの可能性を信じて、楽しく働きかけていきましょう!」 「今の子どもの姿がすべてではない」 ――著書を読んで以来、私がずっと心にとめている言葉です。shizuさんのこの言葉は、いろいろな局面で私の心を楽にしてくれました。 子どもの可能性を信じてコツコツ働き続けることの大切さ、そしてそれ以上に、子どもと自分が笑顔でいることの大切さを、改めて感じた取材でした。 参考図書: 発達障害の子どもを伸ばす 魔法の言葉かけ 著者 shizu/監修 平岩 幹男 11万部13刷のロングセラー。手を洗うときの言葉かけ、食事をしながらの言葉かけ、いっしょに料理をするときの言葉かけ、散歩のときの言葉かけ、遊びながらの言葉かけ―ABA(応用行動分析)を利用した「言葉かけ」をすれば、楽しみながら家庭で子どもの力を伸ばせることを紹介した一冊。 shizu プロフィール 自閉症療育アドバイザー。講演会などで、日常生活の中で子どもの力を伸ばす楽しい関わりや言葉かけを紹介。家族に笑顔を増やすため、親が心掛けたい子どもへの気持ちの持ち方も伝えている。無料メール講座『発達障害の子と楽しく生活する7つのコツ』配信中。講演会の詳細はブログ参照。 ブログ: 「発達障害の子どもを伸ばす魔法の言葉」 取材・文 まちとこ出版社N
2018年01月07日子育てをしていると思い通りにならないことも多く、ついついイライラしてしまいませんか? 仕事や家事で手一杯だと気持ちに余裕もなくなり、ますますイライラしがちです。そして、そんな自分に余計落ち込む負のループに陥ってしまいます。 そんな時、手軽で簡単なセルフケアを知っていれば、 イライラも解消 できるかも。いつも自分のことが後回しになってしまいますが、たまには自分をいたわってみませんか? 子どもだってママが元気で笑顔なのが一番のはず! 2児のママでもある鍼灸(しんきゅう)師の 高橋みど里先生 にイライラを解消するお手軽ケアを教えてもらいました。 ■魔法のツボ その1:まずはよどんだ「気」をめぐらせる、足の甲にある「太衝」 イライラが日常化している場合は、体内で「気」がうまくめぐらず停滞している「気滞(きたい)」の状態になっている場合が多いそう。気持ちの緊張状態が続き、体内にたまったよどんだ気は、心だけでなく体にも大きな負担がかかるそうなので、まずは気を上手にめぐらせてイライラを解消しましょう。 例えば、カッ―と頭に血がのぼってついつい子どもを怒鳴りつけたくなる時。足の甲で、親指と人差し指の骨が交わるところにある「 太衝 (たいしょう」というツボをイタ気持ちいいくらいの強さで押しましょう。ここは、「気」と「血(けつ)」の流れをスムーズにするツボなので、イライラした気持ちを静めてくれます。 ■魔法のツボ その2:心に余裕がない時はさすってみよう、胸の間の「鳩尾」 「ストレスがたまっているなあ」と感じたら、胸の真ん中あたりを手のひらでさすったり押したりしてみましょう。そのあたりには精神安定に効果的な「 鳩尾 (きゅうび)」というツボがあるので、やさしくさすることで心が落ち着きます。 ■魔法のツボ その3:疲労から来るイライラには足の指を広げよう イライラの原因は、「気滞」による気のよどみだけでなく、心身ともに疲れて元気の出ない「 気虚 (ききょ)」からくる場合もあるそうです。体が疲れていると「いつもは気にしないのに…」と思うようなことでもついイライラしてしまいます。 そんな時は、足の指をグッと広げるのが効果的。ペディキュアを塗る時に使う足の指を広げるグッズなどを利用すると便利です。足の指を開くと、足の裏がしっかりと大地につき、足裏の「 湧泉 (ゆうせん)」というツボから大地のエネルギーを吸い上げることができます。 ■番外編:嗅覚からリラックス! 香りもイライラ解消に効果的 ちょっと 強めの香り も、よどんだ気をめぐらしてくれるのに効果的です。いつもの食卓にちょっと香りをプラスしてみませんか? 例えば、サラダにグレープフルーツを足したり、香りの強いコショウをふってみたり、吸い物にみつばを入れたり……。 それ以外でも、レモンなど柑橘系は料理にも取り入れやすく、気のめぐりをよくしてくれるのでおすすめです。お気に入りの香りを生活に取り入れてみてはいかがでしょう? 子どもは可愛いけれど、子育ては本当に大変で、時にはイライラしてしまうもの。そんな時に効果的なツボ押しなどのケアを知っておけば、「あっ、今イライラしそう…」と思った時に、すぐ気持ちを落ち着かせることができますね。 逆に、「あれ? なんか 子どもがイライラ しているな」と思った時にやってあげるのも効果あり。ぜひ試してみてください。もちろん、子育てに家事に仕事に…とがんばり過ぎず、「ちょっとさぼる日」を作ってみるのもおすすめです。 参考図書: 「子育てをラクにする魔法のツボ」 (Kindle版) 高橋みど里著。今日から簡単に自宅でできる、子どもの心と体を元気にするケアを紹介した一冊。親子の心と体を元気にする、手軽な東洋医療ケアを使った育児の入門書。 高橋みど里 プロフィール 鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師。国家資格取得後、オーストラリアや日本国内で鍼灸マッサージに従事。現在は障がい児向けの訪問医療マッサージ『cocoroll』も手がける。著書に『お灸で冷えとり』『子育てをラクにする魔法のツボ』、共著に『とつきとおかの安心ママ手帳』がある。 イラスト:すずきあさこ
2017年12月31日