新聞・雑誌・WEBサイトなどに映画評、映画コラム執筆の他、ラジオ出演、講演など、幅広いメディアで活動中。思わず応援したくなるのは、味のあるヨーロッパ映画の小品。新作映画を本音で語るブログ「映画通信シネマッシモ」を毎日更新中。趣味は海外サッカー観戦。大の猫好きで、茶白、ミックスの愛猫ふくと同居中。
映画の中に登場する猫に注目して、作品の見どころや猫ポイントと共にご紹介するこのコラム。今回ご紹介するのは、日本映画『 こま撮りえいが こまねこ 』(2006年)。 もの作りが大好きな子猫の女の子・こまちゃんと仲間たちのほのぼのとした日常を描くアニメーション。 ◆あらすじ 山の上のおうちに暮らすこまちゃんは、もの作りが大好きな子猫の女の子。趣味は映画作りで、衣装や小道具など、映画に必要なすべてのものをせっせと手作りし、一生懸命に作品を作っています。ある日、ピクニックに出かけたこまちゃんは雪男に遭遇しビックリして逃げ帰りますが、失くした人形を届けてくれた雪男に、また会いたくなって出かけて行きます。 そんな中、こまちゃんは内気な少女・いぬ子とも知り合いますが、いぬ子はお友だちになりたい気持ちをこまちゃんに上手く伝えられずにいました…。 ◆時間と愛情をかけて作られた手作りのアニメーション NHKの人気キャラクター“どーもくん”を生み出した合田経郎とスタッフによるこのパペット(人形)アニメーションはコマ撮りアニメという技法で作られています。それは、静止している物体をひとコマ(ひとコマは24分の1秒)ごとに少しずつ動かして、照明・セット・カメラポジションを変えながら撮影するという、気の遠くなるような作業。1日わずか数秒分の映像しか撮影できません。 膨大な時間と労力をかけて完成した映像は、CGでは決して得られないあたたかさがあって、手作りっていいなぁと思わせてくれます。本作で描かれるのは「はじめのいっぽ」「カメラのれんしゅう」「こまとラジボー」「ラジボーのたたかい」「ほんとうのともだち」の5話。中でも「はじめのいっぽ」は、文化庁メディア芸術祭の優秀賞を受賞した秀作です。 素朴なエピソードと可愛らしいキャラクターに癒されますが、がんばりやの主人公のこまちゃんが、もの作りの素晴らしさを体現するなど、テーマは思った以上に奥深い! ストーリーに盛り込んだ映画作りへの情熱からもわかるように、作り手の映画への愛情がこの作品の隠れた魅力です。 ◆この映画の猫ポイントはここ! 茶白猫のこまちゃんは、素直で好奇心旺盛な女の子。こまちゃん以外にも、機械いじりが趣味のラジボーや、こまちゃんのおじいちゃん(通称・おじい)も猫キャラです。人形のひとつひとつのパーツをミリ単位で動かして作ったコマ撮りアニメは、その丁寧な仕事ぶりを反映して、とても表情が豊かです。 何よりも驚くのは、キャラクターが皆、言葉を「ニャ~」や「ニャニャッ」としか発しないのに、ストーリーや喜怒哀楽の感情がカンペキに伝わってくること。猫とのコミュニケーションに、言葉はいらない! 思わずそんな気持ちになります。可愛らしくて優しくて、ちょっぴり寂しがりやのこまちゃんに、誰もが癒されることでしょう。 時間と愛情をたっぷり注ぎ込んで作られた“こまねこワールド”は、口コミでじわじわと評判になり、続編『 こまねこのクリスマス ~迷子になったプレゼント~ 』も作られました。ぜひ、大切な人と一緒に楽しんでほしい作品です。
2015年05月15日映画の中に登場する猫に注目して、作品の見どころや猫ポイントと共にご紹介するこのコラム。今回ご紹介するのは、仏・独・ユーゴスラビア合作映画『 黒猫・白猫 』(1998年)。 陽気なロマ(ジプシー)の人々がさまざまな騒動に巻き込まれるドタバタ・コメディーです。 ◆あらすじ ドナウ川のほとりで暮らすロマ族のマトゥコは、一獲千金の夢を追っては失敗ばかりしている自称・天才詐欺師。ロシアの密輸船から石油を買いますが、逆にだまされて大金を失ってしまいます。 マトゥコは何とか金を取り戻そうと、石油列車ハイジャックを計画するも、新興ヤクザのダダンの企みで失敗。マトゥコの息子ザーレはセクシーな美女イダと恋仲なのですが、マトゥコは借金返済の代わりに、ザーレと、ダダンの妹との結婚を勝手に承諾してしまいました。さぁ、どうしましょう…?! ◆ハチャメチャで泥臭いコメディーが新鮮 旧ユーゴ出身の監督エミール・クストリッツァは、世界中の映画祭で山ほど賞をとっている名匠で、映画好きなら絶対に無視できない存在。特に、旧ユーゴの内戦の悲劇を描いた作品で高く評価されていますが、時には本作のように楽観的で底抜けに明るい小品も作ってくれます。 この映画の背景は、監督自身が幼い時から親しんだロマの人々の、陽気で人間味あふれる世界。石油列車ハイジャック事件と結婚式での花嫁脱走劇を軸にした、奇想天外、予測不能の愛と友情の物語が、エネルギッシュに繰り広げられます。 個性的すぎるキャラ、ヘンテコなルックス、カオス(混沌)そのものの物語と、中身はあきれるほどハチャメチャ! ブンチャカ、ブンチャカとにぎやかなジプシー・ミュージックは、実はクストリッツァ監督自身が参加するバンド“ノー・スモーキング・オーケストラ”によるものです。 バルカン半島の伝統音楽をベースに、ロック、ジャズ、スカなどをミックスしたサウンドは、明るさの中に哀愁が漂っていて、映画全体を魅力的に彩っています。わかりやすいハリウッド映画とはひと味違うムチャぶりにあっけにとられるかもしれませんが、この“ドタバタ感”こそがクストリッツァ流の人生賛歌。難しいことは抜きにして楽しんでしまいましょう! ◆この映画の猫ポイントはここ! この映画の公開時のキャッチコピーは“ニャニがニャンでも愛で突っ走るのよ!”。どうです、これだけでも猫好きの胸に響きませんか? 物語の節々でちょこちょこ登場する黒猫と白猫は、いつも一緒にいて、いわば映画のマスコット的な存在です。人間たちの大騒動をあきれたようにみつめる猫たちは「人間っておかしな生き物だニャ~」と笑っているに違いありません。 猫以外にもアヒルやブタなど、多くの動物たちと、愛すべきおバカな人間たちが入れ乱れるハイテンションの物語は、まさかの展開でハッピーエンドへ。このファンキーすぎる映画のラストでは、2匹の猫たちは結婚式の立会人まで務めるという活躍ぶりでした。 結婚と葬儀を見守る黒猫と白猫は、生と死、幸福と不幸の象徴なのでしょう。「両方があってこそ人生なのさ!」と言わんばかりの猫たちの、達観した表情が実にステキです。
2015年05月08日映画の中に登場する猫に注目して、作品の見どころや猫ポイントと共にご紹介するこのコラム。今回ご紹介するのは、日本映画『 すーちゃん まいちゃん さわ子さん 』(2012年)。 職業や境遇が違う3人の女性が、日々の暮らしの中で小さな幸せをみつけながら前向きに生きていくハート・ウォーミングな物語です。 ◆あらすじ カフェで働く料理好きのすーちゃん、OA機器メーカー勤務のキャリアウーマンのまいちゃん、自宅でWEBデザイナーの仕事をするさわ子さんの3人は、かつてのバイト仲間。十数年後の今も友情は続いていて、時間をみつけては集まっています。仕事、恋愛、結婚、貯金、介護…。それぞれに悩みを抱える彼女たちは、今まで歩んできた道を振り返り「本当にこれで良かったの?!」と自問するのですが…。 ◆自分らしい生き方を自分の手でみつける姿に共感 ベースになっているのは益田ミリさんの4コマ漫画。等身大のアラサー女性たちが、日常のささやかな出来事で傷ついたり、喜んだりする姿は、きっと誰もが「あるある!」と共感するはずです。 すーちゃん、まいちゃん、さわ子さんの悩みは、片思いや不倫、結婚に親の介護など、なかなかシリアスで切ないんですが、映画は、それらをやんわりとコミカルに描いていて、彼女たちのそれぞれの決断を優しいまなざしでみつめています。 料理好きのすーちゃんが作るおいしそうな料理や、ナチュラルなファッション、のんびりとしたライフスタイルと、見どころも多彩。テイストは日常をさらりとスケッチするような穏やかさですが、内容は単なる癒し系ではありません。だって、独身アラサー女性が頑張って生きるには、ほのぼのばかりもしていられませんものね…。 だからこそ、心が折れそうな時、そばにいてくれる女友達の存在が、本当にありがたいのです。本作に登場する男性キャラのダメッぷりと好対照の、女同士の確かな友情には励まされました。演じる柴咲コウさん、真木よう子さん、寺島しのぶさんら、実力派女優たちがいつもと違う雰囲気で魅せるアンサンブルの妙や、ふっと漏らす本音のセリフ(心の声?)の鋭さも、見逃せません。 ◆この映画の猫ポイントはここ! 自宅でウェブデザイナーの仕事をしている39歳のさわ子さんの家には、ミーちゃんという名前の茶白の猫がいます。母と二人で、寝たきりの祖母の介護をするさわ子さんは、もし自分が家を出れば母が一人で祖母の面倒を見ることになると思うと、結婚や恋愛に踏み切れません。 そんな時、きままに出歩くミーちゃんを見て「好きな時に出ていけるっていいなぁ…」とつぶやきます。猫の特徴的な性質の“気ままで自由”をうらやむ、さわ子さんの本音が思わず出たセリフでした。 どうやらミーちゃんは完全なインドアキャットではなく、自由に外に出ているにゃんこのようですね。ある時、何日も帰ってこないミーちゃんを懸命に探すと、実は、みんなが心の中で少しだけ負担に思っていたおばあちゃんのふとんにもぐりこみ、寄り添うように眠っているではありませんか! 勝手きままに見えて、一番さびしい思いをしている人のそばにちゃんといる。これこそ、愛猫家なら実感できる、猫の“美徳”だと思うのです。
2015年05月01日映画の中に登場する猫に注目して、作品の見どころや猫ポイントと共にご紹介するこのコラム。今回ご紹介するのは、フランス映画『 猫が行方不明 』(1996年)。 パリを舞台に、行方不明になった猫を探すヒロインが、さまざまな人と出会うことで成長していくヒューマン・コメディーです。 ◆あらすじ パリに住むメイクアップ・アーティストのクロエは、休暇で海に行く間、愛猫のグリグリを猫好きのおばあちゃんのマダム・ルネに預かってもらいます。でもバカンスから戻るとグリグリが行方不明に! 多くの人を巻き込みながら、グリグリの大捜索が始まりますが…。 ◆猫探しの中で巻き起こる恋と騒動 パリを舞台にした映画には、おしゃれでスタイリッシュな作品が多いのですが、この映画の舞台は11区という活気ある庶民的な地区。パリっ子たちの飾らない暮らしぶりが垣間見える、親しみやすい作品です。行方不明になった猫を探すというミッションで活躍するのは、頑固だけど気のいいマダム・ルネが中心になったおばあちゃんネットワーク。あっという間に情報が伝わるかわりに、噂話が多いのが玉にキズ…。 さまざまな人種が登場するのも、移民の国フランスらしいところです。主人公のクロエは、迷子になった猫を探すことで、以前はまったくつきあいがなかったご近所の人々や、自分とは違う世代の人間と触れ合うことに。さりげないロマンスも盛り込まれたキュートな物語は、さながらパリをスケッチするような軽やかさです。 監督は『百貨店大百科』や『スパニッシュ・アパートメント』などで日本でも人気の、セドリック・クラピッシュ。小粋な恋愛と、ままならぬ人間関係をサラリと描く作風で有名ですが、その実力は本格派です。コメディタッチの群像劇である本作では、ベルリン国際映画祭で、映画批評家協会賞を受賞しています。 ◆この映画の猫ポイントはここ! 行方不明になる猫グリグリは、濃いチャコールグレーの美しい猫。背中にちょっとだけ小さな白い斑点があるのがアクセントです。グリグリという愉快な響きの名前は、フランス語で灰色(グレー)の意味なんですが、映画ではほとんど黒猫に見えますね(笑)。猫好きのクロエにとって“猫がいない”状態は、恋人がいない彼女の寂しさや不安と重なっているのでしょう。猫探しはいわば彼女の幸福探し。思わずクロエに共感してしまうのはそのためです。 グリグリは、主人公を演じるギャランス・クラヴェルが実際に飼っている猫ちゃん。登場する他の猫たちも皆、出演者の飼い猫だそうです。どうりで自然な表情をしていました。物語では、なにしろグリグリは“行方不明”なのであまり画面には登場しませんが、パリの下町には猫がたくさんいて嬉しくなります。 終盤にグリグリは意外なところから姿を現しますが、それは結局、探していた“幸せ”はすぐそばにあったということ。グリグリを探して遠まわりした時間もまた、決して無駄ではありません。その証拠に、最後にはクロエにも恋の予感が! 猫と同じようにヒロインの心も迷子になったけれど、気付いたのは、幸せを発見できるかどうかは自分次第だということ。それから、当たり前の日常こそが愛おしいということも。ヒロインがにっこりとほほ笑む幸福感に満ちたラストに、心がほっこりします。
2015年04月24日映画の中に登場する猫に注目して、作品の見どころや猫ポイントと共にご紹介するこのコラム。今回ご紹介するのは、オーストラリア映画「シャイン」(1995年)。実在の天才ピアニスト、デヴィッド・ヘルフゴットが、一度は精神を病みながらそれを克服し、一流のピアニストとして復活する姿を描く感動の音楽ドラマ。 ◆あらすじ オーストラリア在住の青年デヴィッド・ヘルフゴットは、子どもの頃から天才ピアニストとして活躍しますが、息子を束縛する父親の支配下にありました。しかし彼は、友人の励ましに支えられ、父の反対を押し切り、英国の王立音楽院に留学することになります。めきめきと才能を発揮するデヴィッドでしたが、昔、父から課題として与えられたラフマニノフの難曲に取り組むうちに、あまりのストレスから精神に異常をきたしてしまいます。母国に戻り精神病院で過ごしていたデヴィッドに転機が訪れたのは、ある女性との運命的な出会いでした…。 ◆困難を乗り越えて輝いたピアニストの生き様に感動 オーストラリア出身の天才ピアニスト、デヴィッド・ヘルフゴットの苦難に満ちた半生を描く感動的な伝記映画は、音楽映画としての魅力はもちろん、ハンディキャップを乗り越えて強く生きた人間の実話として見ごたえたっぷりの秀作です。ゆがんだ愛情で息子を支配した父親の呪縛から主人公を解き放ったのは、やがて彼の妻になる女性ギリアン。彼女のおおらかな愛情が、繊細な魂を持った天才を穏やかな幸福へと導きます。 劇中に登場するピアノ曲はすべてデヴィッド・ヘルフゴット本人による演奏で、その超絶技巧の演奏テクニックは、まさに神業です! 主人公を演じるジェフリー・ラッシュは、オーストラリア出身で、舞台でのキャリア20年以上の大ベテランの名優ですが、本作で見事にアカデミー賞主演男優賞を受賞しました。「人生は続く。途中で捨てたりせずに生きていく」というラストの言葉に、誰もが勇気をもらうことでしょう。 ◆この映画の猫ポイントはここ! この映画は、主人公デヴィッドの不思議な独白でスタートします。「僕はネコ。僕はネコだよ。ネコの…、ネコの気持ちが分かる。なぜかな。悲しいネコ。僕は悲しいネコ。ネコって不思議だ。不思議、不思議、本当に不思議。僕はネコにキスをする。いつもね。塀の上のネコ、いつもキスをする」。この長い長いセリフ、いったいどういう意味なんでしょう? 幼い頃のデヴィッドは、あたたかい愛情を知らず常に父親からコントロールされていました。そんな自分が、塀の上にうずくまって身動きさえできない悲しい猫に思えたのかもしれません。主人公が想像した猫のイメージがそんな不幸な姿だったなんて、猫好きにはちょっと寂しい気がしますね。 でもご安心を。ちゃんと本物の猫も登場しますよ。英国に留学し、ついに自由を得たデヴィッドの下宿のピアノの上には、グレーと白の長毛の猫がいます。この猫とは、缶詰の食事を分けあって食べるほどの仲良し。オーストラリアに戻ってからも、オンボロのピアノの上にちょこんと乗ったキジ猫の姿があります。これらの猫たちはすべてチラリとしか登場しませんが、最初は悲しい心の象徴だった猫が、最後には、傷つきやすい天才ピアニストを愛らしい姿で優しく見守ってくれている。何だかホッとしました。
2015年04月03日映画の中に登場する猫に注目して、作品の見どころや猫ポイントと共にご紹介するこのコラム。今回ご紹介するのは、日本映画「陽だまりの彼女」(2013年)。10年ぶりに再会した男女の不思議な恋模様を描くファンタジックなラブロマンス。 ◆あらすじ 広告代理店の新人営業マンの浩介は、取引先で、中学時代の同級生・真緒と10年ぶりに再会します。転校生だった彼女は、昔はイジメられっ子でしたが、今では、仕事ができる美しく魅力的な女性に成長していました。浩介と真緒は互いに初恋だった当時の記憶がよみがえり、再び恋に落ちて、つきあいはじめます。やがて結婚を意識して一緒に暮らし始めた2人でしたが、真緒には浩介に言えない、ある重大な秘密がありました…。 ◆女子の胸をキュンとさせる要素がいっぱい “女子が男子に読んでほしい恋愛小説No.1”と大評判で、女性から絶大な支持を受けている、越谷オサムの同名ベストセラー小説が原作です。現在と過去を交錯させながら描く、幼なじみの男女の恋物語は、切なくて、温かくて、ロマンチック!舞台となる湘南のキラキラした海を淡い光でとらえたロケ映像が、不思議すぎるラブストーリーを魅力的に彩っています。 主人公のカップルを演じるのは、嵐の松本潤さんと上野樹里さん。奥手で内気、彼女もできないさえない青年役が、あの松本潤さん?! いくらなんでも無理があるのでは(笑)。一方、思わず「!!」な秘密があるヒロインを演じる上野樹里さんは、フワフワした不思議ちゃんの雰囲気がぴったりハマッています。 ◆この映画の猫ポイントはここ! 今回の猫ポイントを語るにあたって、ストーリーのネタバレをしてしまうことを、どうかお許しください。冒頭に登場するグレーの美しい猫にまずご注目! 江ノ島にある廃屋周辺にはたくさんの猫がいるし、ヒロインの真緒とは浅からぬ関係らしい、夏木マリさん演じる謎の老婆のそばにもいつも猫たちの姿が。そう、真緒は、実は猫なんです! 子猫の時に、自分の命を救ってくれた浩介に恋した真緒は、やがて悲しい運命が待つことを承知で、人間になることを選択します。 真緒が実は猫だという、物語最大の秘密は、猫を飼っている人なら映画が始まってすぐに分かってしまうかも。何しろ彼女のしぐさは、高いところにヒョイと登ったり、魚を見るとつい手が出たり、ポカポカとお日様が当たる場所で丸くなって眠ったりと、猫そのものなのですから。それにしても、秘密を知った後の浩介の順応の速さにはビックリ。やっぱり愛は強し! ということなのでしょうね(笑)。 猫が人間の女性に変身し、生涯一度きりの恋をする。ありえないと分かっていても、猫好きにはたまらなくステキに思えてなりません。そういえばヒロインの名前の真緒(マオ)は、中国語の発音で猫の意味なのだそう。すべての記憶が失われ、2人の恋もまた、まるで夢だったかのように終わりを告げます。でも、どうか悲しまないで。ラストには、ちょっと嬉しくなるワン・シーンが用意されているので、ぜひ最後まで見てくださいね。
2015年03月27日映画の中に登場する猫に注目して、作品の見どころや猫ポイントと共にご紹介するこのコラム。今回ご紹介するのは、オランダ映画「ネコのミヌース」(2001年)。突如、人間の女性に変身したネコが、偶然知り合った引っ込み思案の新聞記者を助けて大活躍するファンタジックなコメディー。 ◆あらすじ ノラ猫のミヌースは、トラックからこぼれ落ちた薬品をペロリと舐めたため、なんと突然人間の女の子に変身してしまいます。猫のしぐさは抜けないものの、人間であることを楽しむミヌースは、偶然知り合った、新聞記者ティベの秘書になることに。引っ込み思案な性格のため、まともな取材もできないティベでしたが、猫のネットワークを駆使してスクープを提供するミヌースのおかげで、たちまち売れっ子記者になります。そんなある日、ミヌースとティベは、街の有力者のよからぬ噂を知ることになります…。 ◆演技派女優の見事な“キャットウーマン”ぶりに注目 原作は、オランダの国民的女流作家で児童文学者アニー・M・G・シュミットの同名小説です。日本で上映される本数は決して多くないオランダ映画ですが、主演のカリス・ファン・ハウテンは、ハリウッドでも活躍する国際派女優なんですよ。演技派でシリアスな役が多い彼女ですが、本作では、元猫で今は人間という“難役”を、コミカルかつチャーミングに熱演。高い木にヒョイと登ったり、魚に目がくぎ付けで怪しげな動きをしたり、揺れるものについ手を出してしまったりと、猫っぽいしなやかなしぐさに、ぜひ注目してください。 さらに! この作品、ファッションにうるさいおしゃれ女子の胸をときめかせるキュートな演出がいっぱい。屋根の上やお部屋の中は、あえて作りものっぽいセットで、ドールハウスのようだし、ミヌースが身に着ける洋服やアクセサリーが、すべてグリーンで統一してあったりと、ポップなビジュアルが可愛い! 物語は、勧善懲悪のファンタジーですが、ちょっぴり恋愛要素もあるので、大人も子どもも楽しめる楽しい作品です。 ◆この映画の猫ポイントはここ! ミヌースは、もともと、全体に白っぽくて耳の部分だけが少し灰色の猫ですが、物語の中ではほとんど人間の姿です。それでも本物の猫たちとはバッチリ話が通じるので、街の噂話や情報に精通している猫のネットワークを駆使して次々に特ダネをゲットするのが痛快!たくさんの飼い猫、ノラ猫たちが、毎晩、集会を開いては、おしゃべりに興じているなんて、考えただけでも楽しくなりますね。 猫たちが結束して懲らしめるのは、動物愛護団体の会長でありながら実は動物嫌いの工場主。自分の私利私欲のために動物を利用しようとしていることを知って怒った猫たちは、俳優顔負けの“演技”で悪者をやっつけてしまいます。大活躍のあと、ミヌースは、猫に戻るか人間のままでいるかの選択を迫られることに。自由を愛する猫の素晴らしさと、人間として愛し愛される喜びの両方を知ったミヌースの決断とは…? それは映画を見て確かめてくださいね。 それにしても恐るべし、猫ネットワーク!この世に猫が知らないことなんて、何ひとつないんじゃないかしら? この映画を見た後は、猫の前で、もう内緒話はできませんよ!
2015年03月20日映画の中に登場する猫に注目して、作品の見どころや猫ポイントと共にご紹介するこのコラム。今回ご紹介するのは、日本映画『 グーグーだって猫である 』(2008年)。東京・吉祥寺を舞台に、天才漫画家と彼女の周囲の人々との日常を、温かなタッチで描くヒューマン・ドラマ。 ◆あらすじ 吉祥寺に住む売れっ子漫画家の麻子は、愛猫サバの突然の死のショックで漫画が描けなくなってしまいます。ある日、麻子はペットショップで一匹の小さなアメリカンショートヘアーの子猫と出会うことに。グーグーと名づけたその猫のおかげで麻子は元気を取り戻し、状況は好転。心優しい青年と出会い恋の予感を感じたり、アシスタントたちと新作のアイデアを意欲的に語るなど、すべてがうまく動き始めた矢先、麻子は突然の病の宣告を受けてしまいます…。 ◆一人と一匹の幸せな関係に心がホンワカ 原作は、「綿の国星」などで知られる少女漫画の巨匠・大島弓子の作品で、第12回手塚治虫文化賞短編賞を受賞した同名エッセイ漫画です。漫画の才能は天才的なのに、内気で傷つきやすいヒロインを、最近ではすっかり女優としての風格を増した小泉今日子さんが繊細に好演。 ラブストーリーからヒューマン・ドラマまで、人間描写には定評がある犬童一心監督いわく、この作品のテーマは「人も動物も自然も、みんなが対等に、この地救上で頑張って生きている」ということだそう。う~ん、当たり前のようでいて、なんて深いテーマなんでしょう! ほのぼのとした日常の中にも、それぞれに悲しみや喪失感があって、それでも生きていくことの素晴らしさはかけがえのないものだと、おだやかな語り口で教えてくれる物語です。 それにしても、一人と一匹ののんびりとしたライフスタイルが何ともすてき! 見ているこちらもいつのまにかホンワカした気持ちになってしまいます。吉祥寺の街のゆったりとした雰囲気や、共演者に、上野樹里さんや加瀬亮さんら、主役級の俳優たちを揃えて、何気に豪華キャストなところも見どころです。 ◆この映画の猫ポイントはここ! 内気なヒロイン・麻子の心を癒すアメリカンショートヘアーのグーグーの可愛らしさには、誰もがノックアウトされるはず。一緒にご飯を食べて、一緒にお散歩をして、一緒に眠る。ただそれだけのことなのに、なんて幸せなんでしょう。グーグーは、物言わぬ猫ですが、麻子のとっては単なるペットではなく、りっぱな人格(猫格?)を持った大切なパートナー。グーグーの存在を自分の人生の中でしっかり感じていたからこそ、終盤に卵巣ガンと宣告されても、「このコのためにも元気になろう!」と、きちんと病気に向き合うことができたんだと思います。 そうそう、映画の冒頭に登場し、天国へ行ってしまう13歳の茶白猫のサバ(フランス語で「元気?」の意味)の可愛さもまた捨てがたい。これぞニャンダフルライフ! 猫と暮らす幸せをしみじみと感じさせてくれる、あったかい映画です。
2015年02月25日映画の中に登場する猫に注目して、作品の見どころや猫ポイントと共にご紹介するこのコラム。今回ご紹介するのは、アメリカ映画「N.Y.式ハッピー・セラピー」(2003年)。怒り抑制セラピーを受ける気弱な青年が過激なセラピストに振り回されるハートフル・コメディー。 ◆あらすじ 子どもの頃からいじめられっ子で、内気な青年デイヴは、飛行機内でのトラブルのせいで逮捕されてしまい、判事の命令で“怒り抑制セラピー”を受けるハメになります。ところがセラピストのバディは患者よりもブチ切れることが多い超・エキセントリックな人物。すべてにおいて型破りのバディに振り回されっぱなしのデイブは、恋人のリンダの心配をよそに、次第に自分の中の怒りを爆発させていきますが…。 ◆現代のストレス社会を笑い飛ばす風刺コメディー コメディー界の大スター、アダム・サンドラーが患者で、名優にして怪優のジャック・ニコルソンがセラピスト? この設定だけで笑いがこみあげてきそうですが、心理療法や物理療法などのセラピー大国であるアメリカでは、何か問題があると「セラピーに行きましょう!」ということになるんだそうで、意外にもリアルな設定のようです。 とはいえ、この映画、心を静めるために、名画「ウエストサイド物語」の劇中歌「すてきな気持ち(I Feel Pretty)」を大声で熱唱するなど、ぶっ飛んだシーンのオンパレード。ハリウッドお得意のドタバタ劇が展開します。実はこのトンデモないセラピーには驚きの秘密があって……おっと、これは映画を見てのお楽しみでした(笑)。 そうそう、この映画の隠れた見どころは、豪華なカメオ出演者たち。ジュリアーニ元NY市長や、NYヤンキースの選手たちが登場し、全編ニューヨークロケによる都会的なコメディーに花を添えていました。ストレスだらけの現代社会を笑いで風刺しながら、気弱な青年が、きっちりモノが言える大人に変わる、さわやかな成長物語に仕上がっています。 ◆この映画の猫ポイントはここ! 何事にも優柔不断な主人公デイヴが働いている会社は大手ペット製品会社。課長代理という、これまたはっきりしないポストの彼は、上司から仕事を押しつけられては、せっかくの手柄をいつも横取りされている、トホホな性格です。彼が考えた新企画“おしゃれネコ”のアイデアは、メタボ気味のネコちゃん用のウエア、いわゆる“デブ猫専門服”。社内で飼われているらしい茶トラ猫・ミートボールがこの新製品のモデルです。 心優しいデイヴは、ミートボールのことをとても可愛がっていて、嫌味な上司に向かってついに気持ちをブチまけるクライマックスでは「デブ猫と呼ぶな!傷つくんだぞ」とピシャリと言い放つ姿に、思わず拍手(笑)!ミートボールがこの上司のランチを横取りして食べるシーンがこれまた笑えます。でもね、このニャンコ、ちょっとメタボすぎるのも事実なんです。 大切な猫ちゃんが健康で長生きするためには、飼い主さんは、体重管理にはくれぐれも注意してあげてくださいね。猫愛と人間愛に満ちた、なんとも憎めない作品でした。
2015年02月13日映画の中に登場する猫に注目して、作品の見どころや猫ポイントと共にご紹介するこのコラム。今回ご紹介するのは、韓国映画『 愛してる、愛してない 』(2011年)。結婚5年目にして別れを決めた夫婦の感情のすれ違いを、繊細に描いた大人のラブ・ストーリー。 ◆あらすじ 建築家の夫(ヒョンビン)と編集者の妻(イム・スジョン)は結婚して5年目の夫婦。出張に行く車の中で突然妻が別れを切り出します。「私、出ていく。好きな人ができたの」「…分かった」。夫はいきなりの妻の言葉に一瞬だけ沈黙しますが、怒るでもなく、穏やかに受け入れます。やがて妻が出ていく日が来ますが、その日はひどい嵐で、外に出ることができません。そこに一匹の子猫が迷い込み、さらに子猫を探して隣の夫婦が訪ねてきます。きまずい空気の中、2人の別れを引き延ばすように、雨が降り続きます…。 ◆韓国映画らしからぬ静けさに注目 原作は、日本の小説で、直木賞作家・井上荒野の短編小説「帰れない猫」。日本でも人気の韓国映画は、泣く、笑う、怒るなどの感情が、日本映画のそれよりも数倍激しく、クドいくらいはっきりしているのが特徴なんですが、この映画は違います。セリフや説明が少ない映画って、逆に観る側の想像力が膨らむんですよね。何事もはっきりしている韓国映画の中にもこんな実験的な作品があるなんて、ちょっと意外な感じがします。 映画は、別れを決めながら、互いにまだ心のどこかで想いを残している夫婦の微妙な感情を丁寧にすくい取っていきます。本当は引き留めてほしい。浮気して家を出るのにどうして怒らないの? 妻はどこまでも優しい夫のあいまいな態度にいらだちます。優しすぎる夫は妻を愛しているのに「行かないで」の言葉が出ない。この夫婦、本当に別れてしまうのか、あるいは元のサヤに収まるのか。先読み不能の展開は、緊張感たっぷりです。まだお互いに好きなのに、どうして別れちゃうのよ?! と、見ているこちらがヤキモキ(笑)。イケメン俳優ヒョンビンの抑えた演技や、演技派女優イム・スジョンの微妙な表情の変化は要チェックです。 ◆この映画の猫ポイントはここ! 映画の中盤、大雨で家の中に閉じ込められた夫婦が出かけることもできずにいると、ベランダにグレーの子猫が迷いこみます。愛らしいその子猫は、淡々とした物語に起伏をつける大切な役目。それだけではなく、出ていくと決めても心に迷いがある妻の内面と、見知らぬ家に迷い込んだ子猫の不安を重ね合わせるという、なかなかしゃれた演出なのです。夫婦は子猫にミルクを与えたりしながら、雨が止むまで…、物陰に隠れた子猫が出てくるまで…と、言い訳を胸に別れの時を引き延ばします。 やがて現れた子猫の飼い主によると、子猫の名前はハル。首輪には電話番号が書いてあり、物陰から出てきたら電話してと伝言していきます。子猫が家に帰るとき、この夫婦は果たしてどうなっているのでしょう。韓国映画のイメージを覆してくれる、この静かなラブ・ストーリーでは、頼りなく不安そうな子猫が不安定な夫婦愛の象徴になっていました。2人を世間から切り離すように、降り続く雨の音が、とても印象的な映画です。
2015年01月24日映画の中に登場する猫に注目して、作品の見どころや猫ポイントと共にご紹介するこのコラム。今回ご紹介するのは、アメリカ映画『 インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌 』(2013年)。才能はあるのにさっぱり売れないミュージシャンが、トラブル続きの日常から逃げ出すように旅をする1週間をみつめる物語です。 ◆あらすじ 1960年代のニューヨーク。グリニッジビレッジのライブハウスでフォークソングを歌い続けるシンガー・ソングライターのルーウィン・デイヴィスは、音楽への情熱と才能はあるのに、さっぱり人気が出ません。見知らぬ男に殴られたり、恩人を怒らせたり、女友達から妊娠したと告げられたり、彼の毎日はトラブルばかり。音楽の道をあきらめようとしても、それさえもうまくいかないルーウィンは、シカゴの音楽プロデューサーに会うため、自分を見つめ直すため、ギターを抱え、一匹の猫と一緒に旅へ出るのですが…。 ◆ボブ・ディランが憧れた幻のシンガーがモデル 1960年代に実在した伝説のフォークシンガー、デイヴ・ヴァン・ロンク。この名前を知っている人は、かなりの音楽ツウです。あのボブ・ディランが憧れていたという無名のミュージシャン、デイヴをモデルに描かれるのは、うまくいかない人生に悪戦苦闘する、サエないフォーク歌手のとぼけた1週間。ドジで文無しで宿無し。でも友達はちゃんといる。いいかげんに生きているようで、あくまでもフォークにこだわっている。ヘタレなのか、根性があるのか判別できない不思議キャラが、実に味があってイイ感じなんです(笑)。 監督は、社会になじめない人々の悲喜劇を描かせたら天下一品のコーエン兄弟。音楽センス抜群の監督らしく、本作でもサウンドが重要な役割をはたしています。主演のオスカー・アイザックをはじめ、出演者全員が吹き替えなしで見事なギター・プレイや歌声を披露。特に、最近では俳優としても評価が高いミュージシャンのジャスティン・ティンバーレイクが歌うフォーク・ソングの完成度の高さは素晴らしい! ◆この映画の猫ポイントはここ! 主人公ルーウィンが仕方なく預かり、成り行きで一緒に旅をするのは、いつもしっぽをピンと立てて歩く茶色のトラ猫。恩人夫婦の飼い猫であるこの猫は、ルーウィンがうっかり開けた窓やドアを狙って外に出てしまいます。しまった! どうやって連れ戻そう…。猫を飼った経験がある人なら、この状況、きっと思い当たるのでは? ルーウィンに抱っこされながら旅をするトラ猫は、最初は人違いならぬ猫違い、さらに旅の途中ではルーウィンの相棒になりかけていたのに、なんと車に置き去りにされてしまうという受難の運命に。それは、ついてない毎日を送りながら、それでも歌うことをやめないルーウィンのひょうひょうとした人生に、どこか似ています。 物語のラストでは、再びライブハウスで歌うルーウィンの姿が。彼が歌い終わった後に、無造作な身なりの無名の若者が、ギターを抱えてステージで歌い始めます。その若者こそがボブ・ディラン。ひたむきに歌う名もない歌手たちの思いが受け継がれる瞬間です。そうそう、ルーウィンの旅の相棒のトラ猫の名前はユリシーズ。ギリシャ神話の英雄オデュッセウスの英語名です。長い長い苦難の旅の末に、ついに家にたどりつく英雄と同じように、トラ猫のユリシーズもまた、自力で飼い主の元へ戻っていくのです。
2015年01月15日映画の中に登場する猫に注目して、作品の見どころや猫ポイントと共にご紹介するこのコラム。今回ご紹介するのは、日本映画『 猫侍 』(2013年)。貧乏侍の剣豪が愛らしい白猫と出会い、やがて江戸を挙げての猫派と犬派の大抗争に巻き込まれるという人情時代劇です。 ◆あらすじ 江戸時代。かつては百人斬りと恐れられた剣豪・斑目久太郎(北村一輝)は、今ではしがない浪人暮らし。ある日、久しぶりに仕事が舞い込みます。それは、犬を愛する親分から、敵対一家の親分が飼っている愛猫を暗殺してほしいという極秘依頼。久太郎は大金につられて引き受けますが、踏み込んだ屋敷で彼を待っていたのは、愛らしい白猫・玉之丞(たまのじょう)でした。うっかり癒された久太郎は、そのまま玉之丞を長屋に連れ帰るのですが、やがてそれは犬派と猫派の大抗争へと発展していきます。 ◆剣豪と猫と癒し 異色のコラボ もともとは、連続ドラマとしてテレビで放送され、ひそかに人気だった癒し系コメディー時代劇ですが、ジワジワと口コミで評判が広がり、まさかの長編劇場版が製作されました。「ねこタクシー」や「幼獣マメシバ」などの小動物ドラマシリーズを手がけてきたスタッフが、剣豪VS猫VS癒しという異色のコラボレーションを実現。大作ドラマからインディーズ映画まで、幅広く活躍する北村一輝さんが、いつも眉間にしわを寄せている強面(コワモテ)の、でも心優しい剣豪を演じています。 主人公とツンデレ猫のコミカルな関係は、この映画の魅力のひとつ。久太郎は、かつては“まだら鬼”と恐れられた剣豪ですが、実は彼、“人は斬れども猫は斬れず”。さぁ、困りました。劇場版では、そんなコメディータッチのストーリーに加え、猫派と犬派の争いから、久太郎の敵となる凄腕の用心棒との宿命の対決など、スリリングな見せ場も。さらに、仇討を狙う若侍や、猫番のお女中のけなげなエピソードなど、なかなか多彩です。 ◆この映画の猫ポイントはここ! 愛らしい姿で剣豪の心をとりこにする白猫、玉之丞。食べ物の好みがうるさく、久太郎を困らせるなど、愛らしくもわがままなにゃんこです。演技はすべて本物で、CGはいっさいなしというから驚き! 玉之丞を演じているのは実は3匹の白猫で、あなご(14歳)、さくら・大人(15歳)、さくら・若(4歳)のプロのタレント猫たちです(年齢は撮影当時)。違いがわからないほどそっくりな猫たちですが、共通しているのは、そのつぶらな瞳。あんなに可愛い顔でみつめられたら、もうキュン死しそうです! 終盤には、犬派と猫派の争いが激化してお互いのペットが敵の手に落ちてしまいます。そこで行われるのは人質交換ならぬペット質交換。ここから激しいバトルへと突入するのですが、久太郎がみせる、猫を抱いたままの殺陣(たて)は、圧巻! 演じる北村一輝さんの超絶アクションがすごいのですが、ものおじしない玉之丞のりりしい表情もまた最高です。ただそこにいるだけで、周囲の人々の心をつかむ玉之丞。劇場版の続編を望む声が多いのもうなずけます。 =================== 劇場版「猫侍」Blu-ray&DVD発売中 Blu-ray:5,800円(税抜)/DVD:4,700円(税抜) 発売元:「猫侍」製作委員会/販売元:株式会社KADOKAWA メディアファクトリー (c)2014「猫侍」製作委員会
2014年12月25日映画の中に登場する猫に注目して、作品の見どころや猫ポイントと共にご紹介するこのコラム。今回ご紹介するのは、ロシア映画『 こねこ 』(1996年)。大都会に迷い込んだキジトラの子猫チグラーシャと仲間たちを、自然体でフィルムに収めた、猫たちの大冒険の物語です。 ◆あらすじ モスクワに住む裕福な音楽家一家の子供たちマーニャとサーニャが、一匹の子猫をもらってきます。チグラーシャと名付けられた愛らしい子猫は、ある日、窓辺からトラックの荷台へ転落! 家から遠く離れた通りまで運ばれてしまいます。一家は総出で子猫を探しますが、見つかりません。見知らぬ町をさまようチグラーシャは、町に住むたくさんの猫たちに助けられながら、飼い主の家を探すのですが…。 ◆猫と同じ高さの世界を体験 映画は、チグラーシャが飼い主の元に戻るストーリーと、地上げ屋に立ち退きを迫られる猫好きの貧しい男性のピンチを猫たちが力を合わせて救うというサブ・ストーリーが融合。おとぎ話のような設定がある一方で、ロシアでも社会問題になっている格差や、人間と動物との関係性にも目配せした物語は、子どもたちはもちろん、大人も十分に楽しめる内容です。 監督のイワン・ポポフは、ロシア最大の映画撮影スタジオ・モスフィルムの技術スタッフ出身というだけあって、猫と同じ高さでとらえたカメラワークがとてもリアル! 時に地面に近いほど低く、時には建物の屋根から。猫が見る世界を擬似体験できるので、猫たちの気持ちに寄り添うことができます。 ただし、ハリウッドの動物映画やアニメによくあるような、言葉を話したり、擬人化したりという演出や、CGなどはいっさいありません。あくまでも猫の動きや表情をいかした、自然体の映像が魅力なのです。 ◆この映画の猫ポイントはここ! チグラーシャとは、ロシア語で子トラちゃんの意味。このコの可愛さには、もうメロメロです。でも、一家にもらわれてきたばかりの頃は、好奇心旺盛でいたずらばかり。カーテンは引き裂く、食器や花瓶は割る、フルート奏者のパパの楽器ケースにフンまで! 猫を飼った経験がある人なら、このやんちゃぶり、わかりますよね。 この映画には、たくさんの猫が登場します。特に天涯孤独で多くの捨て猫の面倒を見ているフェージンという男性のもとに身を寄せている猫たちの名演技にはビックリ。シャム猫は飼い主の足を上手にくぐり抜け、白黒ブチ猫は2本足でジャンプ! 猫たちのリーダーでチグラーシャを助けるトラ猫ワーシャのりりしさには、惚れ惚れしました(笑)。 自由できまぐれ、人間の言うことをきかず我が道をいく猫を、ここまで芸達者な“役者”にしたのは、世界一の猫遣いと言われるアンドレイ・クズネツォフ氏。実は、猫好きのフェージンを演じているのがこのクズネツォフさん自身なんです。哀愁漂う孤独な男性フェージンが、猫のサーカスを夢見るシークエンスは、幻想的な名場面でした。猫映画の決定版という宣伝文句も納得のこの映画、たしかに猫たちの可愛さは天下一品ですが、猫に無償の愛情を注ぐ、貧しくも心優しいフェージンこそが、物語の本当の主人公なのかもしれません。
2014年12月12日映画の中に登場する猫に注目して、作品の見どころや猫ポイントと共にご紹介するこのコラム。今回ご紹介するのは、日本映画『 舟を編む 』(2013年)。辞書作りに情熱を注ぐ人々の姿をあたたかなタッチで描くヒューマン・ドラマです。 ◆あらすじ 大手出版社、玄武書店に務める馬締(マジメ)光也は、言葉に対する並はずれた感性を買われて辞書編集部に配属されます。携わることになった「大渡海」は、略語や若者言葉も取り入れた、今を生きる人のための生きた辞書。ベテラン編集者や老学者、辞書に興味を持ち始めたチャラ男など、個性派ぞろいの辞書編集部の面々と共に辞書作りに励むマジメでしたが、ある日、大家さんの孫娘で板前修業中の美女・香具矢(カグヤ)に出会い、ひと目惚れします。マジメは、言葉のプロでありながら、好きな人への言葉がみつからず悩むのですが…。 ◆一生の仕事と恋 主人公の成長に注目 原作は本屋大賞を受賞した三浦しをんさんの同名小説。辞書を舟に見立て、編集作業を編むと表現するセンスがステキです。言葉という大海原に舟を漕ぎ出すイメージが湧いてきませんか? 主人公のマジメは、その名のとおり真面目人間で、かなりの変わり者。人と接することが苦手だった彼は、辞書作りという一生の仕事にめぐり合い、本物の恋に出会うことで、やがて、人ときちんと向き合える頼れる編集者になっていきます。映画はコミカルな成長物語になっていて、松田龍平さん演じる主人公の、不器用だけど一生懸命な生き方が魅力的です。 辞書編さんは完成するまでになんと15年! 24万語収録の辞書を作り上げるという、気が遠くなるような作業は、途中で会社の方針が変わって辞書作りに暗雲が立ち込めたり、一緒に頑張ってきた仲間を失ったりと、さまざまなドラマが。辞書作りのノウハウの裏話が、これまた面白い! 何より「言葉は人をつなぐ」という大切なメッセージは、しっかりと心に残ることでしょう。 静かな感動を呼ぶこの秀作は、第37回日本アカデミー賞で、最優秀作品賞ほか、最多6部門を受賞しました。 ◆この映画の猫ポイントはここ! 人付き合いが苦手な変人のマジメの親友は、学生時代からずっと住んでいる古いアパートに住み着く茶色のトラ猫。トラさんと呼ばれるこの猫は、飼われているのか、近所の猫なのか、はたまたノラなのかは不明です。 でも、マジメが一目ぼれするカグヤとの出会いのきっかけがこのトラさんなんですから、かなりの重要キャラといえますね。マジメの部屋での、編集部の仲間が集まる飲み会でも、さりげなく仲間に入っていたりするトラさん。“もの言わぬ最高の友”というスタンスが、いかにも猫らしいじゃありませんか! その後、マジメとカグヤは結婚。12年後にトラさんによく似た子猫が現れた時、二人は「トラさんそっくりね」「トラさんの孫かも」という会話を交わし、その子猫を飼うことに。トラじろうと名付けました。マジメの成長と、長い長い辞書作りには、いつも茶トラ猫が静かに寄り添っています。不器用な親友をそっと応援しているかのようでした。 =================== 「舟を編む」DVD&ブルーレイ発売中 通常版DVD:3,800 円(税抜)/ブルーレイ:4,700 円(税抜) 発売元:アスミック・エース/販売元:松竹 (c)2013「舟を編む」製作委員会
2014年11月30日映画の中に登場する愛らしい猫。そのキュートな姿に思わずキュン! としてしまった経験、猫好きのあなたなら…ありますよね? 人を癒してくれる猫は、自由できまぐれ、時にミステリアスな動物です。猫が重要な役割を果たしたり、あるいは、そこにいるだけで登場人物の気持ちを表現したり。そんな映画を、作品の見どころや猫ポイントと共にご紹介します。 アメリカ映画『 素晴らしき日 』(1996年)は、ニューヨークを舞台に、ミシェル・ファイファーとジョージ・クルーニーという美男美女が、バツイチ&子持ち同士で恋に落ちる、ハートウォーミングなラブストーリー。 ◆あらすじ 敏腕建築家のメラニー(ミシェル・ファイファー)と人気コラムニストのジャック(ジョージ・クルーニー)は、子どもが課外授業に行く朝、集合時間に遅刻した事から知り合います。メラニーの息子サムとジャックの娘マギーは学校が一緒。ビジネス最前線にいる親たちは、仕事上大切な日を乗り切るために、お互いの子どもを時間を決めて預かることに。 初対面の印象が最悪だったからか、メラニーとジャックはケンカや皮肉ばかり。それでも、大変な1日の中で、一緒にトラブルを乗り越えるうちに、次第に惹かれあっていく…という物語です。 ◆素直になれない大人たちの恋をサポートするのは? 最悪の出会いから、最高の恋へ。ハリウッドが今も昔も得意とするロマンチック・ラブコメディーのスタンダードである本作の背景は、1990年代。携帯電話がやけに大型だったり、今ならネットで簡単に調べられるようなことに時間がかかったりと、少し懐かしい描写がいっぱい。 仕事と子育てを両立させながら頑張るシングルマザーのメラニーが、男性中心の業界でキバッて生きている姿に、共感する女性も多いのでは? メラニーを演じる演技派美人女優ミシェル・ファイファーの、本音と建前が満載のセリフは特に要チェックです。素直になれない大人たちの恋をサポートするのは、わずか5歳のサムとマギー。大都会で生きる、ちょっとおませな子どもたちの名演技にも注目してくださいね。 ◆この映画の猫ポイントはここ! この映画で、子どもたちと共に、恋のキューピットを務めるのが猫。ジャックの娘マギーは、大の猫好きです(マギー愛用の猫型リュックがカワイイ!)。物語の途中でマギーが迷子になるのも、グレーのキジ猫を追いかけてしまったから。 そこから大騒動が始まるのですが、この猫の子どものうちの1匹はボブと名付けられて、ジャックとマギー父娘に引き取られることに。離婚後、女性とのつきあいは火遊びばかりだったジャックが、ペットの子猫を飼うことになる展開は、彼がやがて良き家庭人になることを暗示しているのでしょう。 さらにこの映画には、ユニークな猫の登場場面が! ジャックの上司は、なんと、会社のデスクの引き出しの中で猫を飼っています。長毛のキジ猫で、名前はロイス・レーン。 新聞社内を自由に歩き回っているこのニャンコ、あろうことか、メラニーの息子のサムの金魚を食べてしまった(!)ようなのですが、このことが、ジャックがメラニーの家を訪問し、ついに2人が結ばれるきっかけとなっていきます。金魚にはホントにお気の毒ですが、猫らしいエピソードで恋愛の手助けをする、最高の名脇役でした。
2014年11月21日