2016年12月13日 11:00|ウーマンエキサイト

柿ピーは人生そのものだった【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第5話】



そんな世の中の真実についに気付いてしまった私の目の前に、満を持して現れた至高のおつまみ、それが「柿の種・ピーナッツ抜き」であった。

……インターネットで見つけた時、「こ、これは……!」と雷に打たれたような衝撃が走った。

今まで、なんで無用の修行をしていたんだ私は、と。
そもそも、たかが酒のおつまみ。思考力を身につけた大人なんだから、ピーははじめから回避すればよかったのだ。柿、柿、柿、柿。堂々とそれを繰り返してよかったのだ。にもかかわらず、苦々しいピーを回避しないことに、さも大義があるかのように自分を偽ってきた。
愚かだった。

後ろ向きな姿勢で食べてきた無数のピー達への追悼の念とともに、ついにわが家に、6パック入りの大箱で届いた「柿の種・ピーナッツ抜き」。黄身だけで作る卵ご飯と同じくらい、ある意味でこれは大人にだけ許された究極の贅沢とも言えるかもしれない。子ども達にはまだ早すぎるのではないか。筋力を十分につける前に近道を教えるようなものではないのか。そんなことを思いちょっと悩ましくも感じた。ところが、学校から帰ってくるなり「柿の種・ピーナッツ抜き」を見た息子が、悲鳴をあげて言った。

「ピーナッツ抜き!? そんな柿ピーに存在価値なんてない!!」

えっ……私は仰天した。
単に無駄な苦であるピーの価値をそんなに高く見積もっていたなんてまさか息子はドM?! 柿ピーをめぐる、わが家の思想的対立の火ぶたが切って落とされた、かに思えたが、よくよく話を聞くと、考えれば当然のことがわかった。

息子は、ピーナッツが好きだったのだ。

私の体から分裂してこの世に登場し、私の調理したもの、私の買い与えたものを食べて成長した息子が、まさかピーナツ好きになろうとは。

血が繋がっていたって、一緒に暮らしていたって、親と子は別人なのである。
柿ピーは人生そのものだった【新米ママ歴14年 紫原明子の家族日記 第5話】
イラスト ハイジ


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