わが子の左ききが気になる… 右ききになおすべき?【どうして9割が右ききとなったのか? きき手の不思議 第2回】
■左ききは、右ききになおしたほうがいい?
――先生、聞きたいことがあります。わが子が左ききだった場合、右ききに矯正すべきでしょうか? 矯正するなら、それは簡単にできるのでしょうか? 今のままでいいのか… と心配になるお母さんが多いと思います。先生はどのようにお考えですか?
八田先生:先に「きき手が変えられるのかどうか」についてお話しておきましょう。基本的にきき手の変更は簡単ではありません。
――やっぱり難しいんですね…。
八田先生:でも絶対に不可能というわけでもありません。例えば運動動作の経験が少ないものは経験量が多いものと比べ、変えやすいといえるでしょうね。
――経験の少ない動作ですか?
八田先生:そうです。
手足の運動動作は幼児期からの繰り返しによって「過剰学習」をしているんです。大脳皮質下で記憶された運動動作はこの学習で強化され、そのうち意識しなくても自動化されていきます。
――自動化…。
八田先生:無意識に動いてしまうような感じです。きき手が変えられるケースがあるとすれば、この過剰学習の程度が少ない、あまり繰り返してやったことがない片手動作ですね。例えば初めて出合う道具や器具を使うときの片手動作、であれば可能かもしれません。
■きき手の変更=得意じゃないことを強いること
――ではいずれにせよ、小さなうちに矯正したほうがいいということですね…。
八田先生:う~ん。
変えられるケースは0ではないけれど、きき手の矯正についていえば、私は「矯正の必要はない」と思います。
――矯正の必要はない…?
八田先生:そうです。その理由は左きき、つまり右ききでない人がなぜ存在するのか、ということに関係します。非右ききには左手の運動機能が優れる遺伝子情報を持っているケースがあります。遺伝子情報に逆らって変えようとするのは「得意でないことを強いること」と同じで、本来なら発揮できる優れた能力を取り出させないことと同じだと思いませんか?
――きき手を矯正することは、子どもの持っている優れた能力をとりあげてしまう可能性がある… ということでしょうか?
八田先生:はい。非右ききは遺伝子情報だけでなく、環境の要因でも生じることがあります。例えば、胎児期ですね。男性ホルモンの分泌に環境の要因が作用して、遺伝子情報どおりにならない。
出産したときの環境が要因となって右脳に支障が生じ、遺伝子情報どおりにならない。そんなことも考えられるんです。
――遺伝子だけじゃなくて、生まれてきた環境にきき手が影響されることもあるんですね。
八田先生:そうです。幼児期までの脳は脳神経ネットワークが柔軟でしなやかです。だから、もし遺伝子情報どおりのきき手にならなかったとしても運動機能は補われます。成長に問題はありません。
きき手を矯正させてしまうのは、そうした身体の自然な補正機能を無視してしまうことになるのです。
左ききがどんな仕組みによって決まっているか、はっきりとは分かりませんがどんな仕組みを想定しても私は矯正をすすめることはないでしょう。
――子どもが本来持っているものを発揮させてあげるためにも、きき手の矯正は慎重に考えたほうがよいのかもしれませんね。
遺伝子や生まれてきた環境により決定した「きき手」。きき手を強制的に変える、ということはもしかすると子ども本来の力を奪ってしまうこともあるかもしれない…。なかなか知ることのできない「きき手」の疑問が解消でき、とても勉強になりました。
参考図書:
『
左対右きき手大研究』(化学同人)
八田武志 (著)
「なぜ右ききが多いの?」「きき手はどうやって決めるの?」「スポーツ選手は左ききが有利?」などなど。世の中の「きき手」にまつわる素朴な疑問や噂について、研究例を基に紹介。きき手の不思議を探求する一冊。
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