「今日、学校どうだった?」「べつに」。お迎えの帰り道、会話が続かなくてもいい理由

「今日、学校どうだった?」「べつに」。お迎えの帰り道、会話が続かなくてもいい理由

「今日、学校どうだった?」
「べつに」
「……そっか」

それきり会話は途切れて、ふたりで手をつないだまま、黙って歩く。ランドセルが背中で揺れる音と、遠くの踏切の音だけが聞こえる。信号で止まると、子どもはつないでいないほうの手で、ガードレールをこつこつ叩いている。何を考えているのかは、分かりません。

「今日は何があったんだろう」「楽しかったのかな、それとも嫌なことがあったのかな」「もう少し話してくれてもいいのに」。お迎えの帰り道で、こんなふうに隣の横顔を盗み見たことのある親は、少なくないと思います。

そして、「学校どうだった?」の答えが「べつに」だった日、あなたはなにひとつ失敗していません。

「べつに」は、会話の失敗ではありません


子どもは、学校でたくさんの言葉を使って帰ってきます。
先生の話を聞き、手を挙げて答え、休み時間に友だちと言い合い、給食で「それ嫌い」と言い、掃除の分担でもめる。朝から夕方まで、ずっと誰かとやりとりをしていました。

その1日を、校門を出た数分後に「どうだった?」とひとことで問われても、子どもの頭のなかでは、まだ何も整理されていません。「べつに」は、「話したくない」ではなく、「まだ言葉になっていない」に近い。

「べつに」と答えたその子が、夕食のあとや、お風呂のなか、寝る前の布団のなかで、突然「あのね、今日ね」と話しはじめることがあります。帰り道に聞き出せなかった話は、消えたのではなく、ただまだ出てきていないだけ。だから、帰り道に会話が続かなくても、聞き出さなくていい。「べつに」を、「べつに」のまま受けとって、かまいません。


「今日、学校どうだった?」「べつに」。お迎えの帰り道、会話が続かなくてもいい理由


黙って歩く時間にも、往復はある


「会話が続かない」と感じるとき、私たちは「言葉のやりとり」だけを数えています。でも、帰り道で交わされているものは、言葉だけではありません。

子どもの歩幅に、自分の歩幅を合わせる。手をつないだまま、子どもが急に立ち止まったら、こちらも止まる。石を蹴りはじめたら、蹴り終わるのを待つ。「あ、ねこ」と子どもが指をさしたら、同じ方向を見る。

これはすべて、往復です。言葉は一往復もしていなくても、あなたは子どもの動きを受けとって、返している。
子どもは、自分の歩幅に合わせてくれる手の感触で、「いま、この人は自分と一緒にいる」と受けとっています。


「今日、学校どうだった?」「べつに」。お迎えの帰り道、会話が続かなくてもいい理由
研究でも、こう言われています

4〜6歳の子ども36人の家庭での会話を録音し、脳の活動を計測したアメリカの研究では、子どもの言語能力や脳の発達に一番関係していたのは、親が一方的にかけた言葉の数ではなく、親子で会話を「往復」した回数でした。論文の著者であるレイチェル・ロメオ博士は、「大事なのは、子どもに話しかけることではなく、子どもと会話すること」と語っています(2018年に『Psychological Science』誌で発表された論文より*1)。


この研究が教えてくれるのは、「もっと話しかけなきゃ」と焦らなくていい、ということです。「学校どうだった?」と問いを重ねるのは、言葉を一方的に「流しこむ」ことに近い。それより、子どもが「あ、ねこ」と言ったときに「ほんとだ」と返す。その一往復が、ずっと子どもに届いています(語彙の話はこちら → 子どもの語彙力が伸びる家庭、伸びない家庭。決め手は「会話の往復回数」だった)。


「どうだった?」と聞きたくなるのは、その子の1日を知りたいからです。楽しかったなら一緒に笑いたいし、嫌なことがあったなら、一番先に気づいてあげたい。ただ、それは問いの形にしなくても、つないだ手からもう伝わっています。

「今日、学校どうだった?」「べつに」。お迎えの帰り道、会話が続かなくてもいい理由


「どうだった?」の代わりに使える、答えを求めない5つの声かけ


とはいえ、黙って歩く時間が長くなると、なんだか間がもたない日もあります。そんなとき、「どうだった?」の代わりに置ける声かけを、5つ挙げておきます。どれも、子どもが答えなくてもそのまま流れていく言葉です。答えが返ってこなくても、それでいい。返ってきたら、それは思いがけないおまけです。


  • ✓「今日、風が強いね」同じ空の下にいることを、ひとこと口にする
  • ✓「あ、ねこ」目に入ったものを、指さすだけにする
  • ✓「お母さんね、今日、仕事でちょっと失敗しちゃった」自分の1日を、先に差し出す
  • ✓「晩ごはん、カレーだよ」過ぎた1日ではなく、この先のことを予告する
  • ✓「そっか」子どもがぽつりと何か言ったら、それだけを返す

1つ目と2つ目は、「答え」ではなく「風景」を共有する言葉です。「風が強いね」に、子どもは「うん」とも「べつに」とも言わなくていい。ただ、隣で同じ風にあたっている人がいる、ということだけが伝わります。「あ、ねこ」も同じで、子どもが振り向いてくれたら、それでもう一往復です。

3つ目は、順番を入れ替える声かけです。「あなたの1日を教えて」ではなく、「私の1日はこうだったよ」を先に置く。聞き役でいなければならない子どもは、そこにいません。子どもが「ふーん」で終わらせても、「なにしたの?」と乗ってきても、どちらでもかまいません。


4つ目は、過去ではなく未来を向く言葉です。「どうだった?」は、子どもに1日を振り返らせる問いですが、「カレーだよ」は、ただ家に向かって歩く足を少し軽くするだけの言葉です。

5つ目は、聞き方の話です。フリーアナウンサーで株式会社スマイルボイス代表取締役の倉島麻帆氏は、話を聞くときの基本を「あいうえお」、つまりアイコンタクトと相槌、うなずき、笑顔、おうむ返しとオーバーリアクションに整理しています。(参考: こどもまなびラボ|東大生の親の9割が実践している「子どもの話を聞く」習慣)帰り道は、「おうむ返し」だけで足ります。子どもが「〇〇くんがさ」と言いはじめたら、「〇〇くんが?」と返す。「そっか」と受ける。続きを促さなくても、子どもが続けたければ続けますし、そこで終わっても、それはそれで会話の往復です。


「今日、学校どうだった?」「べつに」。お迎えの帰り道、会話が続かなくてもいい理由


手をつないで帰る道は、いつか終わります


「べつに」の帰り道は、ときどき、少し寂しい時間です。でも、あなたが隣を歩いているという事実は、会話の有無で変わりません。子どもは、その日の出来事を話さなくても、「今日も迎えに来てくれた」「一緒に帰った」ということを受けとっています。

そして、手をつないで帰る道は、いつか終わります。「もう手はいい」と言われる日、友だちと帰るからと先に行ってしまう日、お迎えそのものがいらなくなる日。そのとき振り返って思い出すのは、「どうだった?」に返ってきた答えの内容ではなく、ランドセルの揺れる音と、手の温度と、ふたりで黙って渡った横断歩道です。

だから、「べつに」と言われても、あなたは何も間違えていません。聞き出せなかった日も、間がもたなかった日も、隣を歩いたことに変わりはありません。***

明日のお迎えの帰り道、「どうだった?」を一回だけ飲みこんで、代わりに「風が強いね」とつぶやいてみてください。返事がなくても、それでいい。手をつないで、いつもの角を曲がる。それだけで、今日の帰り道はもう十分です。

よくある質問(FAQ)


Q. 「べつに」が毎日続くと、学校で何かあったのではと心配になります。聞かなくて本当にいいのでしょうか?A. 帰り道の「べつに」だけで、学校で何かあったかどうかは判断できません。心配なときは、帰り道で問い詰めるのではなく、夕食やお風呂、寝る前など、子どもが自分から話しやすい時間に「今日、なんかあった?」とひとこと置いておくだけで十分です。食欲や表情、朝の登校の様子がいつもと明らかに違う日が続くなら、担任の先生に様子を聞いてみてください。


Q. 5つの声かけをしても、まったく反応がありません。意味はあるのでしょうか?A. 反応がなくて構いません。5つの声かけは、答えを引き出すためのものではなく、「隣に人がいる」ことを伝えるためのものです。「風が強いね」に返事がなくても、子どもはその言葉を聞いています。返事がない日が続いても、声かけをやめる必要はありませんし、毎日する必要もありません。


Q. 帰り道は車です。運転中でも同じことができますか?A. できます。手はつなげませんが、後部座席の子どもと同じ信号を待ち、同じ景色を見ているのは同じです。「あ、ねこ」を「あ、救急車」に、「風が強いね」を「今日、渋滞してるね」に置き換えるだけで、そのまま使えます。バックミラー越しに顔を見るのも、ひとつの「アイコンタクト」です。


Q. 「どうだった?」と聞くのは、やめたほうがいいのですか?A. やめる必要はありません。「どうだった?」と聞きたくなるのは、その子の1日を知りたいからで、それ自体は愛情です。ただ、その問いに「べつに」と返ってきた日に、聞き方を変えて追いかけなくていい、ということです。「そっか」と受けて、隣を歩く。それで会話は失敗していません。


*1: Psychological Science|Beyond the 30-Million-Word Gap: Children’s Conversational Exposure Is Associated With Language-Related Brain Function(Romeo et al., 2018)
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