「ホラー漫画家はみんな怖がりだと思います」伊藤潤二が明かす"怖いもの"に、オダウエダ植田も共感
grapeでは、2025年9月からお笑いコンビ『オダウエダ』の植田紫帆さんとの書評連載企画を開始!
漫画を愛してやまない植田さんによる選りすぐりの漫画を、毎月1作品ずつ紹介してもらいます。
第8回目を迎える今回は…番外編。
記念すべき第1回目を飾った『伊藤潤二傑作集11 潰談』の生みの親であるホラー漫画家・伊藤潤二先生と、植田さんの異色対談が実現しました。
日本が世界に誇るホラー漫画家と、お笑いのプロからも「本当に面白い」と評価されるお笑いタレントの対話が引き起こす化学反応とは…。100分近くにも及んだ対談の様子をお届けします。
記事の最後には、サイン本プレゼントの情報もありますよ!
撮影:grape編集部(左から伊藤潤二先生、植田紫帆さん)
オダウエダ植田が明かす、伊藤潤二との出会いとは?
――植田さんは以前から伊藤さんの大ファンだそうですね。伊藤さんを知ったきっかけは?
植田:
私の母親は漫画が好きだったんですけど、「ホラー系は絶対に読んだらアカン」と言われていて。でも、言われれば言われるほど興味が出てくるわけじゃないですか。
小学校1~2年生の頃、いろいろな漫画を読める場所に行った時に、普段読んでいるようなメジャーな漫画とは雰囲気の違う表紙のものをたまたま目にして、それが伊藤先生の『血玉樹』でした。
人の体から木が生えていたり、さらにその木は血の玉を実らせていたり…。その異様さに「なんだこの漫画は」と衝撃を受けたんです。
さらに小学校3~4年生の時、祖母の家のテレビでたまたま流れていた『墓標の町』の実写ドラマを観て、「なんだこれは…!」と(笑)。
そこから時が経ち『ギョ』を手にして、「なんだこの奇妙な漫画は…」と思ったら、「あれ、昔同じ先生の作品を見たことがあるかも」と気づいたんです。調べたら『血玉樹』も『墓標の街』も伊藤先生が描かれた作品だと知り、すべてがつながった感じがしました。
中学生の頃からは、伊藤先生の作品を探してめちゃくちゃ読み漁るようになっていましたね。私の中で、ホラーの始まりは伊藤先生です。
伊藤:
ありがとうございます。植田さんはそれだけホラー漫画を読まれているのに、お笑いの第一線で活躍されているのが意外というか…。植田:
親からお笑いも「見ちゃダメ」と言われることが結構多くて…。
「見たらアカンけど、見たくなる」というのはどのジャンルにも通じてはるんですかね。『ちょっと悪いことをしている感じ』ではないですけど、好奇心がくすぐられると言いますか(笑)。
撮影:grape編集部
植田:
先生は幼少期から器用だったんですか?
伊藤:
手の動き自体は悪かったです。親指が長いみたいで、ペンを持つ時に邪魔なんですよね。「これがなきゃいいのに」と思ってました。
ただ、物を作るのは好きでやってましたね。理想だけは高く持っていたので、「こういうものを作りたい」と思うとそれを目指して、途中でやめるのを繰り返してました。
植田さんはお笑いは幼い頃から?
植田:
そうですね。親もお笑いが大好きだったので、すごく身近にありましたね。私は得意なことが本当に少なくて。不器用で運動もできないし、小学校の時に目立てるものがなかったんですよ。
ある時友達と喋っていて「笑ってもらえる」というところから、「笑かすのは好きだな」と思って。「お笑いのプロになる」とかそんなことは全然考えてなかったんですけど、「今ここにいる目の前の人たちを笑かしたい」っていう気持ちはありましたね。
伊藤:
植田さんは、プロのお笑いタレントの方にもウケていますよね。本当にすごいと思います。
植田:
ありがたいことに、優しいみなさんに救われてます(笑)。
撮影:grape編集部
ホラー漫画家・伊藤潤二が「本当に怖い」と感じるものとは
植田:
先生って怖いものとかあるんですか?こんだけ怖いものを描かれてはるから。
伊藤:
怖いものだらけですね。ホラー漫画家をやってる人は、みんな怖がりだと思います。
若い頃は対人恐怖症でした。人の視線が怖くて…。
植田:
「視線が怖い」というのは、私も人見知りなのでめちゃくちゃ分かります。コントをやっているとお客さんと目線が合わなくていいので…。
伊藤:
分かります。お客さんの前でトークショーをするのは本当に苦手です。「どこを見たらいいの?」とか思ってしまって。
昔だったら泣き出してると思います(笑)。植田:
私もです。今もまだ苦手なんですけど、幼い頃の自分からしたら「よう頑張ってるな」と。
撮影:grape編集部
伊藤潤二の天敵は虫?
伊藤:
いろいろ怖いんですけど、あとはゴキブリとかムカデとか、カマドウマとか…。
植田:
カマドウマ、気持ち悪いですよね!(笑)。でも先生の作品には、キモい奇怪な形の虫が結構出てきますよね。
伊藤:
自分が怖いので、「読者も怖がるかな」と思って(笑)。人がカマドウマを食べる漫画とかも描いてますから。
植田:
幼い頃は大阪の住宅地に住んでいたので、カマドウマの存在を知らなくて…。知った時は「バッタのボスみたいな生き物がおったんだ」と思いましたね。
伊藤:
後ろ脚が異常に長くて、触角もやけに長くて背中が丸くて…。
昔住んでいた古い家は、トイレが裏庭にあったんです。トイレに行く途中に地下の物置があって、その中にたくさんいました。
目が合うとピョンピョンとこちらに飛んでくるんですよ。ジャンプ力がすごくてやたら高く飛ぶので、うまく着地できずに脚をバタつかせます(笑)。
植田:
うわー!(笑)。「自分が苦手なことをしてる」という、『生き物のルール』としても気持ち悪いというか、恐ろしい…。
伊藤:
しかも、体を起こすと脚を「バタバタ」として、また飛んでくる(笑)。
植田:
先生は幼い頃にそういうのを目にしてしまって、それが今も目に焼きついてはるんですかね(笑)。
撮影:grape編集部
ホラー漫画家とお笑いタレント、アイディア出しの共通点とは
ホラー漫画界の重鎮、ネタがひらめく瞬間明かす
植田:
伊藤先生はどういう時にネタを思いつきはるんですか?
伊藤:
ラジオの話がヒントになることもあります。歯科技工士を兼業でやっていた頃に職場でラジオがかかっていて、そこから情報を得て、情報をそのままではなく連想ゲームのように発展させていくみたいな…。
気に掛かる情報が耳に入ったら、それを頭の中で「ああでもない、こうでもない」とこねくり回しているうちに、面白いネタが生まれることはよくありましたね。植田:
歯科技工士というお仕事的に、ちょっと手を動かしながらというのがむしろいいんですかね?
伊藤:
そうですね。毎回似たような作業で、手を動かすことに頭を使わないので、脳がフリーになっている感覚はありました。
あとはお風呂に入ってシャワーを浴びる時、水の音しか聞こえなくて脳がすごく自由になるんですよ。「登場人物の次の行動がどうしても思いつかない」と息詰まった時に、諦めてお風呂に入りシャワーを浴びているうちに、「あっ!」とひらめくこともあります。
お風呂で思いついたアイディアはこれまでにすごくたくさんあるので、お風呂がなかったら、漫画家を続けてなかったと思います(笑)。
植田:
私のほうから「お風呂の関係者の方、ありがとうございます」と言いたいです(笑)。
撮影:grape編集部
ネタを思いつくきっかけはホラーもお笑いも同じ?
伊藤:
植田さんはどういうシチュエーションで思いつきますか?
植田:
私もたまに、お風呂でアイディアを思いつくことがありますね。
あとは先生がおっしゃっていた「単純作業をしながら」というのは、身に覚えがあるシチュエーションです。単純なパズルゲームをやっている時に「あのボケ、こうしよう」や「ネタの原案をこう広げよう」と思いつくことがありますね。
あとは散歩している時も結構頭が整理されます。でもその時は「あそこのくだり、どうしようかな」とか、もともとあるものを整理することが多いです。
結局『ネタの種』を思いつくタイミングは、さっき先生が言ってはったように、ふとした瞬間だと思います。
伊藤:
ホラーもお笑いも同じなんですね(笑)。
植田:
思いつくきっかけは本当に近いですね(笑)。
伊藤潤二とオダウエダ植田が『潰談』を読み解く
伊藤:
やっぱり面白いネタを思いついた時は笑っちゃいますか。
植田:
笑っちゃいますね。人が死んでるオチなのに、内容がぶっ飛びすぎていてめちゃくちゃ笑ってまうことはよくあります。
伊藤:
死んでも笑っちゃうというのは不思議ですよね。
植田:
ですよね…。「なんかちょっと笑ってまう」みたいな感覚は、先生の作品からもすごく感じるといいますか。書評を書かせていただいた『伊藤潤二傑作集11 潰談』でいえば、『地縛者』ですかね。なんか笑っちゃいますよね。これは『死』とはまた違った意味での命の終わり方が表現されてますけど。
伊藤:
そうですね。なんでこんなの描いたんだろう(笑)。
たまに『潰談』『グリセリド』とか調子いい話もあるんですけど、この11巻を描いていた時はちょっと精神状態がよくなかったです(笑)。『死刑囚の呼鈴』とか…。
植田:
『死刑囚の呼鈴』は本当に嫌な話ですよね。確かにこれは、先生の様子がおかしくないと描けないかなと(笑)。
初めて読んだ担当編集さんもびっくりしたでしょうね。
撮影:grape編集部
――『グリセリド』の名が挙がりましたが、この話を思いついたきっかけはなんでしょう?
伊藤:
中学生くらいの時、ニキビができやすくて、潰して遊んでいたんですよね。潰すとチュルチュルと螺旋を描くなど、出方がいろいろあって(笑)。そういうのを漫画にしたいなぁって思って描きました。
植田:
先生の作品はどこかかわいげがありますよね。
「どうだ…俺の活火山から…吹き出す脂は…」というセリフも大好きです。ページを捲ったら1ページ丸ごとデカい活火山…!悪夢ですよね。
伊藤:
これは完全に笑わせようとしてますね(笑)。歯科技工士学校に通っていた時に、お坊さんをしていた校長先生のつてで、三重県のお寺で修行体験をする旅行をしたんです。
暑い夏の夜に、油で固まったようなギットギトの布団で寝たんですよ。その時に「油って気持ち悪いな」と思って。
植田:
『グリセリド』の舞台は焼肉屋さんでしたよね。家に溜まった油の嫌な感じが、実際に経験されてないと描けないだろうなと思っていたので納得です。
伊藤:
生まれ育った家も、柱が真っ黒になっているような本当に古い建物で、料理による油もこびりついていて。
植田:
そうなんですね…。私の祖母の家も『ザ・和風』な家で、煤(すす)系の黒い感じがこびりついていて、じとっとした雰囲気をすごく思い出します。小さい時に裸足で歩いていたら、足の裏が真っ黒になることもありましたからね(笑)。
©ジェイアイ/朝日新聞出版
異色な2名の意外な共通点は『ゴミ屋敷』!?
植田:
あと、弟と母親の3人で暮らしていた実家がゴミ屋敷だったんです。ゴミの奥に母親がいたり、ゴミの真ん中で弟とゲームをしたり(笑)。
伊藤:
私の仕事場もゴミ屋敷です。取材が来る時は前日に片付けて、終わるとまた元通り。
なんでゴミ屋敷になるのか不思議なんですけど、ゴミ屋敷ってなんか楽しいんですよね(笑)。
植田:
ワクワクしますよね、落ち着くといいますか(笑)。今の一人暮らしの家は結構きれいにしているんですけど。
伊藤:
部屋をきれいにするコツは何かあるんですか?
植田:
親を反面教師にして、ちょっとでもゴミが出たらすぐに捨てるようになりました。恐怖症とは違うんですけど、今は「アカン、ゴミを1個でも放置してたらゴミ屋敷だな」という観念があります。
伊藤:
『ゴミが出たらすぐに捨てる』というのがコツなんですね。植田さんのYouTubeを拝見したら、冷蔵庫とかも、手の届くところにすべて置いて座椅子に座ってらっしゃいましたね。
植田:
ゴミ屋敷に見慣れている方はすぐに気づくような、物ぐさが出てますよね(笑)。
撮影:grape編集部
ホラーを描く際にぶつかるコンプライアンスの壁とは…
伊藤潤二が明かす、コンプライアンスに対する意識の変化
植田:
私、伊藤先生がコンプライアンスの壁にぶつかったことがあるのかが気になっていて。
この前たまたま怪談師の方とお話した時に、「『ここの神社が怖くて…絵馬とかにも人を呪う、みたいなことが書いてあって…』という話をしようとしたら、テレビでは放送できないと言われたことがある」とお聞きしました。厳しいですよね。
ホラー作家としても、そういうことはあるんですか?
伊藤:
先天性疾患などをホラーの題材にすることは絶対に禁忌ですね。
それから、デビューしたての頃、病気の主人公が富江と遭遇する話を描いたんですが、これについてはネームの段階で「ホラー漫画で病気を扱う時は病気を茶化すことのないように」と、最初の担当さんから口酸っぱく言われていましたね。
先天性疾患はもちろん、精神疾患も引っかかります。『富江』に登場する高木先生というキャラクターは、精神異常者で精神病院に入れられている設定なのですが、病院の窓に鉄格子を描いたら「鉄格子はやめてくれ」と当時の担当さんから言われました。
今は普通の病院に描き換えるとか、開放的な表現になっているらしいですね。
植田:
難しいですね…。鉄格子があるだけで、おどろおどろしい感じが出ますからね。
伊藤:
あとは異形な生き物やモンスターなどを描く時、「弱者として描かず、加害者として描いてほしい」と言われたことがあります。プロの仕事をするということは、そういう部分にも気をつけなきゃいけないんだなと思いましたね。
撮影:grape編集部
伊藤潤二&オダウエダ植田がモキュメンタリーについて思うこと
――近年のモキュメンタリーブームに対して、各々意識していることや感じていることはありますか。
伊藤:
私は実際にあった事件とかを扱うドキュメンタリーが好きで、もしかしたら劇映画よりも好きかもしれないのですが…。
ドキュメンタリーは作り物じゃない面白さというものがある一方、フィクションの面白さとドキュメンタリーの面白さを合体したモキュメンタリーというのは、すごく革新的でいいことを考えたなと。
植田:
「やったな」と思われはるんですね(笑)。
伊藤:
そうですね。ただ、最近いろいろなモキュメンタリーが増えていますが、面白いと感じるかどうかは結局のところ内容かなという気がします(笑)。内容が面白ければ、モキュメンタリーしても、劇映画にしても面白いなと。
植田:
いや、かなりそうかもしれない…。本当に面白いフェイクドキュメンタリー作品とかは、ファンタジーとかいろんな形にしても面白いやろうな、というのはすごく分かります。
それをあえてこの形にしているのは、ディレクターさんごとの強い想いがあるんやろうなと思いますね。
現代のモキュメンタリーは、リアルな事実を断片的に映しますよね。軸となるストーリーを提示せず、「みなさんで余白を埋めましょう」と考察する作業そのものの面白さがあると思うんですよ。
先生は逆にテーマを描き切るといいますか、我々の想像を超えた展開を描いてくださるというか。ちょっと種類の違う恐怖だと思うんですよね。伊藤:
モキュメンタリーの面白さは「現実にあり得るな」と思わせるリアリティーがあってこそだと思うので、リアリティーからギリギリ逸脱しないバランスが大事だと思いますが、私の漫画は現実にはあり得ないことを平気で描いてしまうところが違う点だと思います(笑)。
――最後になります。おふたりにとって、ホラーとはなんでしょうか。
伊藤:
初めて読んだ漫画が楳図先生のホラー漫画で、それ以来ほかの分野に全然興味がなくなりました。子供時代から親しんでいて、ホラーばかり見ていたので、一言で表すなら「ホラーは童心に帰るもの」です。
植田:
親からずっと「見ちゃダメだ」と言われていて、こっそり読んでいたのが先生の作品なので、むしろ子供の頃に「ちょっと大人になれたような気がする」といいますか、なんか背伸びをしてるというか。
こっそり楽しむという意味では、『秘密の快楽』かなと思います。
撮影:grape編集部
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撮影:grape編集部
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[文・構成・取材/grapeマンガ編集部エラチヒトシ]