射手座生まれのあなたへ贈る詩「夜を旅して」【文月悠光 12星座の恋愛詩】
18歳という若さで中原中也賞を受賞した詩人の文月悠光さん。詩のみならず、今の世を生きる女性として、誰もが感じる“生きづらさ”や“孤独”を綴ったエッセイ集も話題です。
このたび、そんな文月さんによる、12星座別「恋愛詩」の連載がスタート。毎月、月ごとの星座を主人公とした一篇を執筆していただきます。さらに、その詩をモチーフとしたコイズミリカさんの美しいイラストもお届け!
切なくて愛おしくて胸がキュンとする…詩とイラストのコラボレーションをお楽しみください。
■射手座生まれのあなたへ
夜を旅して
旅をしたい。
たとえば、きみの見ている夢をのぞきに
こっそりと夜出かけてしまいたい。
そこに、わたしがいなくてもいいから。
眠るまぶたをノックして、
わたしの知らないきみを訪ねにゆくのだ。
空を染め尽くす
濃密なネイビーブルー。
思い出すのは、少女のころに
科学館で観たプラネタリウム。
愛と殺し合いの歴史を
星たちは毎夜、紡いでいる。
射抜かれた胸の痛みを
もう眠らせてはおけない。
冴え冴えと醒めた瞳のなかを
星は駆けていくのだから。
冷えていく夜気の鋭さを
弓矢のようにたずさえて、
わたしは夢の世界の使者となろう。