浮気心か? お試しデート【彼氏の顔が覚えられません 第38話】
俺の恋人、ヤマナシイズミは人の顔が覚えられない。だから、二人でデートの最中にも人違いをやらかしたことがある。
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服を見たいとか言って。イズミが入りたがる店は、高級店が多い。絶対買えないのに、見るの好きなんだな、というのはわかった。場違いなところに入るのは気が引けて、「30分くらいしたら店の前で落ち合おう」と言って一旦わかれ、戻ってきたら。
店の前で、イズミが別の男に話しかけてて。驚き、慌てて駆け寄って、「おい…誰だよお前」って。
けれど男の方も、ポカンとした表情で。
「あ…君が、カズヤって人? いや、なんか間違えられちゃったみたいで…」
言われてイズミも、
「え? あ、す、すみません。服の色が、同じだったから」
服の色。確かに俺も、その場にいた男も、黒いシャツを着ていた。でも、顔見たらわかるんじゃないか? 見たところ、俺より鼻がデカく、目も大きい気がした。
けれど、現に間違えたのだから仕方ない。男には謝り、イズミは責めたてたりしなかった。「ごめんね」そう謝られたが、「いいよ。
俺、B型だから気にしない」なんて。
本当はすごく気にしてた。こんなにずっとそばにいるのに。部活も長いこと一緒にやっていたのに、いまだに顔が覚えられないなんて。俺のことなんかずっと、眼中になかったんだな、と。
だが、俺がそんなモヤモヤを抱えて不満そうな顔しても、イズミには伝わらない。にらんでも、「どうしたの、そんなに見つめて?」と無表情で言う。まるで感情など持たないように、いつも真顔で。