最終回と二つの見守る星:【彼氏の顔が覚えられません 第45話】
地獄に仏か、と思った。けれど数十秒後に裏切られた。
「でも、まずは俺たちと一緒に飲もうよ。それから探すでも遅くないだろ」
「え、でも終電が…」
「いいじゃん、たまには終電も逃しちゃおう。せっかくのアンラッキーを俺たちとラッキーに変えよう。カバン忘れたのだって、きっと俺らと仲良くしてろって言う神の意志なんだよ」
意味不明なことを言われ、腕を捕まれる。痛い、と思うくらい強く。逃げられないように。
「ちょっ…離してくださっ…」叫ぼうかとするけど、震えて声が出ない。誰か、助け…。
「お、おい…俺の、彼女に…なにしてんだ、よ…」
聞き覚えのある、潰れたテナーボイス。
「カ、カズヤ?」
「えっ…おぉ、なんだよ、彼氏持ちかよ…行こうぜ」
私から手を離し、あっさり離れていくチンピラたち。声をかけてくれた男性を見る。長い髪、ギターケース、ステージで着てたのと同じ服装…。
そして、急にへなへなっと地面に崩れ落ちる様子。
「ふあ、ビビった…」
このヘタレっぽくて残念な感じ…やっぱり、カズヤだ。
「探したぞ…カバン置き忘れてるって聞いて、慌てて…」
と、差し出す。ごてごてムダな荷物の入ったカバン。重かっただろうに。