肉体関係がなくても慰謝料が発生するケースはある?
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不倫といわれると、「配偶者以外との肉体関係を結んでいる」と考える人が多いのではないでしょうか。
「肉体関係は結んでいないよ」と言われたとしても、配偶者が自分以外の異性と親密にしていると、あまり気分がいいものではないと感じる人もいらっしゃるかと思います。
実際に肉体関係を結んでいることが発覚すれば、離婚という選択肢を選んだり、慰謝料を請求することも考えられますが、肉体関係を結んでいない場合は、慰謝料の請求はできるのでしょうか?
今回は肉体関係がなくても慰謝料が発生するのかといった点について解説したいと思います。
■肉体関係がなくても慰謝料が発生する場合がある
肉体関係がなくても、その行為が婚姻共同生活の平和を侵害する場合には、慰謝料が発生することはありえます。
例えば、性交渉に類似する行為をしていたり、同棲している場合など、婚姻破綻に至らせる可能性が高いといえる程度の異性との交流・接触がある場合には、性交渉そのものはなくても慰謝料が発生しうるといわれています。
実際に慰謝料が認められたケースをご紹介します。(※1)
裁判所の判断は、次のようなものです。
「被告(=不貞相手)と元夫の間に肉体関係があったとは明確に言いきれないが、被告は元夫に対して、元夫に対する好意を示す内容で、しかも身体的接触を持っている印象を与える内容のメールを送っている。
それは、原告(=元妻)がこのメールを読む可能性がある状況下だったから、そのようなメール送信は、婚姻生活の平穏を害する行為であって違法である、とされました」
元夫はブラウザメールを利用しており、原告がそのIDとパスワードを知っていることは想定できた、とされています。結論的には、30万円の慰謝料が認められています。
他にも、被告(=不貞相手)と夫の関係について、肉体関係の存在は認めなかったものの、密会を重ねて二人きりの時間を過ごしたことについて、社会通念上相当な男女の関係を超えたものといわざるを得ず、被告(不貞相手)の態度と、夫の原告(妻)への冷たい態度には因果関係がある、等と述べて44万円の慰謝料を認めました。(※2)
以上より、肉体関係がない場合でも、慰謝料は発生し得ると考えられます。
また、肉体関係を結んでいなくても、浮気相手と度を超えた親密な交際を続けたことによって夫婦間の婚姻関係が破綻したと裁判官が評価してくれた場合は、婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条1項5号)があることを理由として離婚が認められることになると考えられます。
■肉体関係を結んでいても慰謝料が発生しないケースはある?
逆に、肉体関係を結んでいても慰謝料が発生しないケースもあります。
典型例は、肉体関係を持った時点で既に婚姻が破綻していた場合です。
「肉体関係を結んだ時点で夫婦の婚姻が破綻していた場合には、特段の事情のない限り慰謝料は発生しない、なぜなら、既に婚姻が破綻している以上、婚姻共同生活の平和の維持という権利がないからだ」と述べて慰謝料請求を認めませんでした。
(※3)
また、配偶者がいると知らず、そのことに過失はない、という場合にも慰謝料は発生しないと考えられています。
ただし、不貞相手が勤務先の同僚である場合や、年齢や交際の状況から既婚者である可能性がある状況があるにも関わらず既婚者かどうかを確認しなかったような場合は、過失があると判断される可能性があります。
一方で、相手が独身だと名乗っており、その言動や客観的な状況から、独身者と信じても仕方がないと考えられるような場合は、過失がないと判断され、慰謝料は認められないと考えられます。
※1東京地方裁判所平成24年11月28日判決
※2大阪地方裁判所平成26年3月判決
※3最高裁平成8年3月26日判決
*著書:弁護士 近藤美香(秋葉原よすが法律事務所。家事事件を専門的に取り扱い、500件以上の家事事件を取り扱った経験を持つ。JADP認定の夫婦カウンセラーの資格を保持している。)
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