SOLOがお届けする新着記事一覧 (8/14)
あっという間に2016年も残り数か月となりましたが、皆さまは年初に目標を立てていましたか?私は自分に対して「1日1純喫茶」を課しました。こちらは文字通り、「必ず1日に1軒以上どちらかの純喫茶に寄る」ことを指します。現在までは無事に遂行しており、この記事がアップされる頃には恐らく、340軒程訪問済みとなっているはずです。毎日飽きもせず、様々な純喫茶を巡って過ごしているのですが、平日は会社員ゆえの制限時間があるため、基本的には業務後の夜にしか出掛けられません。本当は遠くの街へ赴き、気分転換をしたいと思っても、翌日のことを考えるとせいぜい片道1時間以内の移動が現実的です。幸い職場のある駅はどの方面にもアクセスが良いため、毎朝満員電車に揺られながら頭の中で路線図を広げて、帰り道に寄る純喫茶を考えることがささやかな楽しみです。今回は平日に行ける場所の中で、最も現実逃避の気分が味わえる浅草の純喫茶のことを。浅草は独特の雰囲気があるためか、地下から地上に出ると、空気が紅く染まったような錯覚を覚えます。平日でも観光客たちで賑わう雷門を通り過ぎて、歩くこと数分。「純喫茶マウンテン」という店が見えてきます。店名に「純喫茶」と付けられているのが今では貴重で嬉しくなります。難波里奈『純喫茶、あの味』難波さんの新刊『純喫茶、あの味』にご興味がある方はこちらから!
2016年10月14日「一番美味しい〇〇がある純喫茶を教えてください」このような活動をしていると、多く聞かれる質問の1つです。「この方にとって美味しいものとはどのようなものだろう?」と考え、あらゆる純喫茶のメニューを次々に思い浮かべていくのは楽しいと同時にとても悩ましいことです。味覚というのは千差万別で、私がいくら美味しいと思っていても一緒に食べたり飲んだりしている人が同じように感激しているかどうかは、本当のところ分からないのですから。しかし、分からないのであればせめて自分が自信を持って美味しいと思える店を薦めてみて、残念ながらそちらが好みでなかったなら、また違う店を薦めてみれば良いのだ、と思うようになりました。例えば、東京の美味しい珈琲について尋ねられた時には、まっさきにこの店をお知らせすることにしています。名前は「神田伯剌西爾」。といっても所在地は神保町です。書泉グランデというとても好きな書店の横道にあり、橙色のひさしを掲げ、階段を降りた地下にある店です。店内は2つの空間に分かれ、入口から見て右側は禁煙席、左側は喫煙席となっています。右側の個室のような空間は、曜日や時間帯によって貸切ができるのも嬉しいところ。左側の広めの空間には囲炉裏もあり、どこか和の懐かしい雰囲気を感じながら、淹れたての美味しい珈琲をいただけます。「珈琲は好きだけれど、そんなに詳しいわけではない…」そんな方は多いと思いますが 私もそうで、初めて入る純喫茶ではだいたい「ブレンドコーヒー」を注文します。こちらのメニュー表は、豆の名前の横に苦味と酸味の目安が分かりやすく記されているため、好みの味を選びやすいのですが、酸味があまり得意ではなく苦味と甘みのある味をお好みでしたら、是非一度「ペルーチャンチャマイヨ」というまるで呪文のように片仮名が並んだ珈琲を飲んでいただきたいです。こちらを薦めるとほとんどの方が「美味しい」と気に入ってくれる、私も大好きな珈琲です。珈琲だけでは口さみしい時のために、美味しいケーキも充実しています。私が良く注文するのは、「サンマルク」か「コニャックショコラ」。どちらも程良い甘さで珈琲が進んでしまうので、思わずお代わりをしたくなります。ついついあたたかい珈琲ばかり注文してしまうのですが、こちらのアイスコーヒーには通常のガムシロップの他に、コーヒー専用の茶色いシロップの2種類のシロップが提供されます。他ではあまりない珍しいものですので、冷たいものを飲みたい気分の時には、ぜひアイスコーヒーもいかがでしょうか?Text/難波里奈
2016年09月30日以前、イベントでご一緒したホットケーキ研究家のトミヤマユキコさん(著作に『パンケーキ・ノート』等)が興味深い話をして下さいました。それは「ホットケーキの美味しい店は、火加減の上手な店だから、タマゴサンドなどの卵を使用した料理も美味しいところが多い」という話。聞いた瞬間に「なるほど!」と思わず膝を打ったものでした。確かに言われてみると、今まで訪れたホットケーキを名物とする店では、タマゴサンドも同じように人気メニューであるとマスターたちから聞いたことがあったのを思い出したのです。例えば、休日になると開店前から行列が出来る人気店、東京・平井の「ワンモア」。「カク1!」「マル2!」(※「カク」はフレンチトースト、「マル」はホットケーキを指します)など威勢の良い注文の声がひっきりなしに飛び交い、その暗号のような言葉の間に「タマゴサンド1!」という注文も多く挟まれていたのです。また、メニューにホットケーキはありませんが、ジャンボで美味しいプリンが有名な虎の門「ヘッケルン」もマスターの気まぐれによって食べることが出来る幻のメニュー、ふわふわ熱々のオムレツサンドも夢のように美味しいのです。今回ご紹介する大阪・東梅田にある「サンシャイン」も例外ではありませんでした。駅構内を出ることなくたどり着ける純喫茶は、雨の日や暑い夏に重宝します。東梅田駅の改札からすぐ、しかし初めての方には少し分かりにくい場所にあるにも関わらず、常に満席が続く人気店です。ご家族で営業されていて、扉を開けた瞬間に「いらっしゃーい」とにこやかに迎えて下さるアットホームな雰囲気にほっとします。空いている席に腰掛け、名物のホットケーキを食べようと決めながらも何となくメニューを眺めていたところ、視界に入り気になってしまったオムそばに注文を変更しました。この時、冒頭のトミヤマさんの言葉がぱっと浮かんだのでした。「これも美味しいに違いない」。期待しながら待つこと数分。ボリュームのある焼きそばをくるりと包んでいる卵焼きは、向こう側がうっすらと見える程の絶妙な薄さ。当たり前のように運ばれてきた皿の中に見えたのは1日にたくさんの卵を焼き続けているからこそ出来る職人の技。その卵の薄さは焼きそばの香ばしさを邪魔せず、黙々と口に運んでしまう美味しさのバランスを作り出しているのです。そして、最初は断念したはずのホットケーキですが、せっかくの旅先で食べずに帰るのはもったいないと自分に言い訳をして、結局ふわふわの分厚いホットケーキも注文し、大満足で店を出るのでした。Text/難波里奈
2016年09月16日「純喫茶は店内の様子が分からないから少し入りにくい」「マスターが怖い人だったらどうしよう」「実は珈琲が苦手…」と純喫茶に興味をもっていらっしゃる方でも、通い慣れるまでにはそのような葛藤があることが少なくないようです。そのような初心をすっかり忘れてしまった今日この頃ですが、「1人では入りにくい」という方に対しては、出来ることなら同行してそのひとときをご一緒したいところが本音です。しかし、なかなかそうもいかないため、少しでも不安を取り除いて扉を開けるきっかけを作れたらと思います(何軒か通っていくうちに次第に慣れ、様子が分からないことさえも楽しめるようになる時期がくると思います)。こちらの連載をご覧下さっている方の大半を占めていると思われる女性に向けて、1つアドバイスしたいと思います。それは「店主が女性の店を選ぶこと」です。絶対というわけではないですが、今までの経験を基に考えると、女性店主が営む空間は純喫茶ならではの「素っ気なさ(慣れてきたらこれは本当に良いものです)」が少し薄れ、初めての人でも訪れやすいような雰囲気を醸し出しているところが多いような気がします。例えば、神保町駅近くの交差点からすぐの地下にある「トロワバグ」。店内の様子は地上からは分からないのですが、扉を開けた時に漂う清潔感のある雰囲気にほっとすることと思います。赤いベロアの椅子が並ぶきちんと掃除された店内には活き活きした花が飾られ、珈琲の注文が入る度に良い香りが漂うのです。何を食べても美味しいですが、人気メニューのグラタントーストは現在の店主である三輪さんのお母様が大切にしていたメニュー。今は亡き初代ママさんの思い出の味を求めてやってくる人たち、また初めてやってくる人たちに美味しいトーストを提供すべく、三輪さんは日々手間と時間のかかる仕込みをこなしています。そして、やわらかい雰囲気をまといながらもカウンターの奥で珈琲を淹れる様子は凛としていて見惚れるほど格好良いのです。まったり美味しいかぼちゃムースもおなかの余裕があれば是非食べて頂きたい一品です。「変わらないものを大切にしながらも、今に寄り添っていきたい」と以前話して下さった三輪さん。現在では、ご自身もお好きなワインも楽しめる空間となるそうです。Text/難波里奈
2016年09月02日「店の名前から勝手な想像をしてしまって入ったことがなかったから、こんな素敵な店だとは思わなかった。これからは1人でもたくさん通いたいな。」一緒に夕飯を食べるために連れていった友人が、ふとこんなことを言いました。訪れたのは、亀戸駅の目の前にある「珈琲道場 侍」。ホームから看板は見えるものの、店は階段を上がった二階にあるため中の様子がすぐには見えない。それが理由なのか、「気になってはいたもののまだ入ったことがない。」という話を今までに何度も聞きました。店名のインパクトだけでなく、メニューも一筋縄ではいかない興味深いものばかりであるこちら。一杯ずつ丁寧に淹れられるあたたかい珈琲や8時間かけて抽出される特選水出しブレンド(夏場は注文に対して生産が追い付かなくなるため、泊まり込んで様子を見ているそう!)、ストレートコーヒーやアレンジコーヒーの種類も豊富で、ブルーベリーやバラの香りのついたフレーバーコーヒーなど珍しいものも揃っています。更に、食事メニューのネーミングも他では見かけないセンスです。例えば、こちらの店のカレーやハンバーグはどちらもご飯の上にルーがかけられ、熱々に焼かれたドリア方式なのですが、それぞれ「殿様カレー」と「将軍ハンバーグ」と名付けられています。メニューを見ているだけでいくらでも時間が過ぎてしまいそうなくらい楽しいのですが、更なるサービスとして特筆すべき点から3つ紹介します。1つめは、入口の扉を開けるとすぐに目が合ってしまう大きな甲冑。まるで中に誰かが入っているような存在感です。2つめは、カウンターのテーブルにそってずらりと並んだロッキングチェア。ゆらゆら揺れながらリラックスした時間を過ごすことが出来ます。こちらは公園のブランコに乗りながら煙草を吸っていた社長の思いつきにより取り入れられたそう。3つめは、なんといっても働く店員さんたちのユーモアあふれる接客。男前な店員さんたちの中でも特にお薦めしたいのは、出会えたら思わず嬉しい気分になる社長。「ほらほら、ちゃんと書いた?『ここは男前喫茶です』って。僕は口下手だからね、自信があるのは顔だけだよ、あっ、今日は化粧ノリが悪いから写真はやめてね。」など愉快なやり取りをしながらも店全体に気を配る丁寧な接客と迅速な作業が素晴らしいのです。まるで「大人の遊園地」のようにわくわくした気持ちを味わえる侍でいつもとは違った時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。Text/難波里奈
2016年08月19日「タマゴサンド」というと皆さんはどのようなものを思い浮かべるでしょうか?店ごとに個性が光り、同じものはないところが面白い純喫茶メニューですが、「タマゴサンド」にも地域ごとの特徴があるようで、一般的に、東ではゆで卵をつぶしてマヨネーズや塩こしょうと和えたサラダタイプが、西ではふわふわに焼き上げられたオムレツタイプが多いとされています。私は東京で生まれ育ったのですが、純喫茶に夢中になりそのようなことを意識するまで自分の中では「タマゴサンド=タマゴサラダが挟まっているもの」という認識でした。実際、幼い頃に母が作ってくれたタマゴサンドはゆで卵が半熟だったり固ゆでだったりの違いはありましたが。一度もオムレツタイプだった記憶はないのでした。どちらのタイプも美味しく、優劣をつけることは不可能なのですが、私の場合ふと食べたくなってしまう時、思い浮かべるのは焼き立てで熱々のオムレツが挟まれたものでした。先日のこと。私は夢の中にいて、どこかの純喫茶にそれはそれは美味しいタマゴサンドがあると聞き、遠方まで食べに来ているところでした。その純喫茶はかつて訪れたことがあるような、まだ見たことがないような空間。というのは窓から差し込む光が眩しすぎたため店内の輪郭がぼやけてしまっているのでした。注文を済ませ、運ばれてくるのをそわそわして待っている。今日はこのタマゴサンドのために朝食も食べずに急いで朝一番の電車でここへやってきた。あと数分後、どれだけの幸せに包まれるのだろう!……ところが、夢らしい夢だったおかげでここで目覚めてしまったのです。夢の中とはいえ、評判のタマゴサンドを食べ損なってしまった悲しみ。仕事が終わったら必ずや夢で想像していた味を上回るサンドイッチを食べよう、この日はその強い思いだけで夜を迎えました。そして、真っ先に思いついた学芸大学の雑伽屋を目指し、ベーコンとオムレツに加えてチーズもトッピングし(通常メニューでは2種類の具を選べますが、+100円でさらに具を増やせるとのことです)、贅沢な美味しさにすっかり満足したのでした。濃厚なクリームがたっぷりなアイスウィンナーコーヒーも一緒に。Text/難波里奈
2016年08月05日(c)zoetnet全長13メートルのタイガー・シャーク、巨大なサメが大きな水槽に入れられ、ホルマリン漬けにされている。これまた巨大なガラスケースの内部に牛の頭部が入っており、それに蛆虫から孵った大量のハエがたかっている──などなど、「死」を連想させるグロテスクな作風で知られ、存命中の美術家としては最高額で作品が取引されるともいわれている、デミアン・ハースト。美術館で作品を目にする機会はあっても、そんな人の作品を実際に購入して家に飾って置いておく、なんてことは普通あまり考えません。……考えないのですが、実は数ヶ月前、都内ギャラリーでこのデミアン・ハーストの版画展がやっていたんですよね。作品自体は版画なので、ハーストの代表作にあるようなグロテスクさはほとんどなかったのですが、それでも、あのデミアン・ハーストの作品です。版画たちに付けられていた値段は、1枚だいたい40~60万円ほど。40~60万円といったら、もちろん気軽にポンと出せる金額ではないですけど、まったくもって手が届かないわけでもないじゃないですか。デミアン・ハーストの作品って、買えるんだ!? と思ったのが、私にとっては静かな衝撃だったのです。後悔しない買いもの、3つのコツ女性も30代が近くなると、不動産であったり車であったり、あるいは時計であったりブランドバッグであったりと、大きな買いものを経験する人も増えてくると思います。一方、幸か不幸か私はこれまでの人生で、まだ大きな買いものをする機会には恵まれていません。しかし、そんな私がいつかしてみたいと夢見ている大きな買いものが、現代アート。一部の専門雑誌以外では特集されることもあまりなく、まだまだ一部の人の趣味に留まっているアートの購入ですが、私はこの趣味がもっと一般に普及したらいいのにと思っています。その理由はというと、現代アートは多くの場合、世界にたったひとつの一点モノか、写真などでも数点しかこの世に存在しないからです。どういうことか。もちろん私もまだまだ経験値不足ではありますが、最近なんとなくわかってきたこととしては、後悔しない買い物のコツは3つあります。1つは、「たくさんの人の声を参考にする」こと。昨今はどんな製品でも、ネットで簡単に口コミを調べることができます。もちろん、口コミやレビューに頼りすぎるのはどうなんだと考えもするんですが、たくさんの人が「いい」といっている商品は、やはり「いい」確率が高いのは否定できません。2つは、「自分と価値観の似ている人の声を参考にする」こと。作家やブロガー、友人知人、上司に親戚などだれでもいいのですが、自分と考え方が似ているだれかが買った商品を参考にすると、これもけっこう当たります。私は最近、「お金の使い方とモノの買い方で、人生観というやつがわかってしまう……」で紹介した山内マリコさんのエッセイ 『買いものとわたし~お伊勢丹より愛をこめて~』に載っていた、レインファブズというメーカーのゴム製のスニーカーを買いました。そしたらこれが、歩きやすいし、デザインもいいし、ゴム製だから梅雨も気にせず外出できるしで、大当たりだったのです。いい買い物をした!そして最後、3つめが、「自分の思考力と直感力を使うこと」です。そしてこれがいちばん難しい。一億総レビュー社会も現代アートの前では用をなさずレビューや他の人の情報に頼りにすると、確かに買いものにおける失敗は少なくなります。だけどそのぶん「自分で考えて買う」力は衰えていってしまう。しかしその点、現代アートの購入は、そもそも一点モノか数点モノですから、「他の人の声を聞く」という手が封じられています。「たくさんの人の声」も、「価値観が似ている人の声」も、モノが一つしかないのだから参考にならない。となると、これはもう自分でとことん考えて判断するしかないのです。前述した山内マリコさんのエッセイには、この「現代アートを買った話」も実は登場します。「買う(かも)」という目線でギャラリーや美術館、あるいは街中へ出ると視点が変わるし、もっといろいろなことを調べたいという気にもなってきます。現代アートの購入は、思考力と直感力を使うから、いつか来るそのときに備えて、それらを鍛えるようにと頭が動くんですね。アートの購入、実際やるかどうかは別にして、候補としてだけでも頭に入れておくと、モノに対する新たな価値観が獲得できるかもしれませんよ。Text/ チェコ好き
2016年07月07日元外資系バリキャリ生活から一転、料理家/ライフスタイルデザイナーとして丁寧な暮らしへとシフトした太田みおさん。都会暮らしでも季節の声に耳を傾け、「旬」な自然を楽しみたいおひとりさまに贈る“シティガールの歳時記”です。憂鬱な梅雨こそ“梅しごと”でテンション上げてこ!(c)太田みお【梅寒天ゼリー】<グラス4-5個分>梅シロップ 150ml水 350ml粉寒天 4g1. 小鍋に水と粉寒天をいれ、火をつける前によく混ぜ合わせておく。中火にかけて煮とかしながら、2分間沸騰させる。2. 火をとめて、梅シロップを加えてかき混ぜる。3. 器に流し入れ、冷蔵庫で冷やし固める。Text/太田みお
2016年06月21日お酒と料理と食べ歩きをこよなく愛する、食ブロガーのツレヅレハナコさん。彼女が紹介した「桃モッツァレラ(内田真美さんのレシピ)」や「味噌バター白菜鍋(重信初江さんのレシピ)」は、ネットで大きな話題となりました。そんなハナコさんが、夜遅く帰ってきて一杯やりたいとき、一人でもすぐに作れるとっておきのおつまみと常備菜のレシピを教えてくれる連載です。しょうゆと卵黄がにおいをマイルドにする決め手生にら1把も余裕で食べられちゃう!『女ひとりの夜つまみ』(ツレヅレハナコ/幻冬舎)とにかく簡単! すぐできる!ひとり呑みの楽しみがぐっと広がる手作りつまみを紹介。一日の最後がちょこっと楽しくなるレシピとエッセイが満載です。『女ひとりの夜つまみ』(ツレヅレハナコ/幻冬舎)第1章 10分で飲みたい!第2章 最近、野菜が足りてない第3章 肉を食わせろ!第4章 魚だって食べたい第5章 果物で泡か白第6章 1回作って3回飲もう第7章 材料は少ないほどうれしい第8章 シメタンの誘惑第9章 大好きな店のアレ第10章 ホムパの神様、ありがとう!
2016年05月09日元外資系バリキャリ不健康生活から一転、料理家として丁寧な暮らしへとシフトした太田みおさん。とはいえ、独身の忙しい生活のなかで「“ていねいなごはん”なんか作ってる余裕ない…!」という気持ちも分かりすぎるほどよく分かるという太田さんが、おひとりさま女史のための、気軽だけどちょっとオシャレな週末ごはんを提案する連載です。ホームパーティーの格が上がる!? 作りたてのリコッタチーズ「自家製チーズづくりなんて、めんどくさいこと無理無理!」とはじめから拒否反応を示すにはもったいない、簡単で美味しいチーズの作り方があります。鍋に、牛乳、レモン汁、塩をいれて火にかけるだけで、3分で浮き上がってくる「リコッタチーズ」です。臭みやクセもほとんどなく、低脂肪でさっぱりとフレッシュにいただけて、口当たりはふわふわと柔らか。ミルク本来の甘さがほんのり楽しめる、最高に美味しいチーズなのです。来客の際のデザートに、はちみつやフルーツと一緒にだして、「このチーズ、作りたてだよ〜」とさらっと紹介すれば、特別なおもてなし感がアップ! おひとりさまのちょっと特別な朝ごはんにもぴったりです。できたてのリコッタチーズは、フルーツやはちみつとシンプルに頂くのももちろん最高に美味しいのですが、これが実はさまざまな料理に使える優秀なチーズなのです。豆腐とマヨネーズの間のような感覚でサラダに和えてみたり、パンケーキやスコーンに焼き込むとふわふわとした食感と良い香りが立ち上がり、お店のような仕上がりになります。今回は最も簡単な、3つの材料でたった3分でできるリコッタチーズの作り方をご紹介したあと、それを使ったふわふわキッシュのレシピご紹介します。リコッタチーズ(c)太田みお4. 1の具材を3に均等に入れたあと、2の卵液を具材が浸る程度に流し込み、最後に表面に粉パルメザンチーズをふりかけたら、200度のオーブンで20分を目安に焼いてできあがり。(各オーブン個体差ありますので様子を見ながら調整してください)Text/太田みお
2016年05月06日(c)Traveloscopyお買い物と女性。女性といえばお買い物が大好きな生き物であるとされ、世の中には女性作家による「お買い物エッセイ」という一大ジャンル(?)まで存在しています。山内マリコさんの『買い物とわたし〜お伊勢丹より愛をこめて〜』も、そんなお買い物エッセイのなかのひとつ。ただ私は正直、この手のお買い物エッセイに共通して見られるある語り口が、今までいまいちしっくり来なかったのです。たとえば、『買い物とわたし』で取り上げられた記念すべき最初の一品は「プラダのお財布」なのですが、こういう素敵なものを買った後の女の人は(彼女が仕事ができる人であればあるほど)こういうのです。「またこういう素敵なものを買えるように、お仕事がんばろう!」。だけど、「こういう素敵なものを買うためには、また汗水流して働かないといけないのね……それならもう素敵なものはいらないから、家で寝てたい」と思ってしまうアラサー女性だって、いるはず。というか、ここにいます! 山内マリコさんのお買い物エッセイは、従来通りのお買い物エッセイが好きな女性にもおすすめだけど、そんな家で寝てたい系のお買い物で大きな喜びを得にくい女性にもおすすめなのです。プラダのお財布を買った山内マリコさんさて、それまで使っていたイルビゾンテの二つ折り財布に別れを告げ、伊勢丹新宿店で約9万円するプラダのお財布を買った山内さん。高揚した気分で店を出たあと心中でつぶやいたのは、「仕事がんばろう……」という一言だったようです。「仕事がんばろう!」と「仕事がんばろう……」の間には、越えられそうで越えられない高い壁が存在していると思うのは、私だけでしょうか。後者には、そこはかとない「トホホ感」があり、私などでもちょっと共感できます。プラダのお財布の後に『買い物とわたし』に登場するのは、たとえば〈「冷え知らず」さんの生姜トマトチキンカレー〉。山内さんはこのレトルトカレーが大変好きだったそうなのですが、なんと販売が終了してしまい、自宅にただ一つ残った賞味期限切れのトマトチキンカレーを前に「開封しようか、それともいっそオブジェとして飾っておこうか」と悩むのです。そう、私が読みたいお買い物エッセイはこれだった。ブランド物、長く使えるこだわりの品、オーガニックの洗剤、そういうのももちろん素敵なのだけど、人がものを買うのはいつも伊勢丹なわけではないじゃないですか。いつも行っているコンビニで売っていたレトルトカレーが好きだとか、「富山のお土産シリーズ」のます寿司のピアスだとか、そういうものについて書いているお買い物エッセイが私は読みたかったわけです。あと、「私が選び抜いたこだわりの品」ばかりを書いているわけではないところも読みやすいですね。たとえば、セレクトショップで1万円もする白くておしゃれな傘を購入した山内さん。しかし、その日のうちに汚れがすごく目立つということに気付き「白は失敗だった」と悟ります。気分が高揚していると、「白は汚れる」というだれでも知っているような事実が意外な盲点になってしまうこと、ありますよね……。「仕事がんばろう!」の瞬間お買い物で素敵な品を買うことによって「仕事がんばろう!」という気にはなかなかならない私ですが、よくよく思い返してみれば、「ああ、この瞬間のためにまたがんばって働かなければ……」と思うときが、そういえばあることはありました。それは、旅行に出かけるときの飛行機が離陸する瞬間。旅行真っ只中の、観光地巡りをしているときは特に何も思わないのですが、飛行機が滑走路を走って機体がふわっと浮くあの瞬間、そうあの瞬間だけは、確かに「働かなければ……」と思います。航空券のチケットが高いからかもしれませんが、あの「ふわっ」がもたらしてくれる開放感は、筆舌に尽くしがたいものがあります。私は何のために働いて、何が欲しくてお金を使うんだろう? ある人にとってそれはブランド物のお財布や鞄なのかもしれないし、ある人にとってそれはコンビニのお菓子やレトルトカレーなのかもしれません。お酒を飲む瞬間、ギャンブルで儲ける瞬間、飛行機が離陸する瞬間、美味しいものを食べる瞬間。『買い物とわたし』は、自分の欲しい物と、お金の使い方と、働き方を考え直す上で、なかなか示唆をあたえてくるエッセイだったように思います。今日、あなたは何にお金を使いましたか?Text/ チェコ好き
2016年04月28日迫害から逃れ、故郷に帰った火星人を待っていたのは……(c)Flóra「人は」なのか「日本人は」なのかわかりませんが、「滅びゆくもの」への強烈な思慕ってありますよね。破滅へ向かっていくことが読者にはわかっているけれど、それに立ち向かって命をかける者たち……新選組とか特攻隊とか。『スター・レッド』はまさにそれ。宙に浮いた階段————しかも途中で崩れているような————を下っていくような、ヒリヒリした緊張感があります。火星の未来を知ってしまったセイと謎の異星人エルグが、行動を共にしながら火星、ひいては宇宙の仕組みに迫り、自分たちの運命に逆らっていくのです。萩尾望都作品は全体的にアンニュイなムードなのも心奪われる理由ですね。70年代は、「超能力者を迫害する」という話がめちゃくちゃ多いです。というか、「超能力者は迫害するもの」と決まっていたかのような勢い。異端に対する畏怖の念からなのか、なにか排他的な意識を感じますね。性差別も大きかった時代ですから、男性を社会の中心と考えると、異端である女性の考えや主張は排除されるという鬱憤を、マンガで晴らしているとも考えられます。たいてい主人公は迫害される側なんで、少女マンガではひたすら「差別はいけないよ」「差別をされたら悲しいよ」と訴えてきたんですね。さすがだなあ。そして、70年代の少女マンガは、悲劇が多いんです。ラストがまた苦しくて切なくて、悲しい。エルグやセイ、そして火星人たちはこのあとどうなるの〜!? と、読むたびに本に向かって叫んでしまいます。で、ほんとどうなるんでしょうか、萩尾先生!Text/和久井香菜子
2016年04月27日(c)vl8189みなさんは、「ゾンダーコマンド」って言葉を聞いたことはありますか? この言葉は、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所で、ユダヤ人である同胞をガス室に送る任務に就いていた、特殊部隊の人たちのことを指すのだそうです。ゾンダーコマンドはほかの囚人たちとは引き離された状態で数ヶ月働いたあと、最終的にはナチスによって、抹殺される運命にあります。アナタまた今回は、いやに重い話を……とお思いになるかもしれませんが、この「ゾンダーコマンド」を主人公にした映画がありまして、タイトルは『サウルの息子』。2015年に、カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した作品です。全国で公開している映画なので、もしこれを読んで気になった方がいたら、お近くの映画館を探してみてください。強制収容所の「リアル」に迫る?さてこの作品、少々特殊な構成で作られています。物語のあらすじとしては、ゾンダーコマンドである主人公・サウルがガス室で出会った彼の息子らしき少年の遺体を、ユダヤ教の教義にのっとった正式な方法で弔おうと奮闘する、というものです。なのでてっきり、サウルを中心に描くユダヤ人の悲劇……みたいな話なのかと思いきや、そういうわけでもありません。この映画のいちばんの特徴は、なんといってもカメラワーク。カメラは基本的にサウルの背中を映し出し、見えるのは彼の頭や肩、そしてその前方にあるぼやけた強制収容所内の映像です。ガス室から出てきた裸の遺体が、ただモノのように積み上げられていく光景はなんともおぞましいですが、はっきりと映るわけではないので、映像的にはそれほどショッキングでもありません。強制収容所の凄惨な光景を、申し訳程度にあるストーリーと一緒に延々と映し出していくというのがこの作品なのですが、監督のネメシュ・ラースローは、これが長編デビュー作だそうです。おそらくラースローの狙いは、「ユダヤ人が遭遇した強制収容所の悲劇」というわかりやすい物語を観客に提示することではありません。強制収容所内の映像をただ流すことで、「ここに映っているものはいったいなんなのか?」「サウルという男はいったいどんな人間だったのか?」と、そういったことを観客自身の頭で考えさせたかったのではないかと、私は思ったんですよね。もっともっと、多様な視点を獲得しようまあ、というわけでテーマは重いのに物語性が弱く、盛り上がる場面もなく平坦でという、なかなか楽しみづらい作品ではあります。だけど、この映画から私たちが得ることができる教訓も、もちろんあります。それは、一方的に提示されるわかりやすい物語を信じなくても良い、ということです。戦争映画というと、どうしても重苦しい悲劇を連想してしまいますが、実際はどうだったのか。たとえば、これとは別に『厳重に監視された列車』という、ナチス占領下のチェコを描いた戦争映画があるんですけど、この作品の主人公である青年の最大の悩みは、自分が童貞であること! です。おまけに映画に出てくる駅員は、勤務中におしりにスタンプを押したりしながら呑気に遊んでいたりするので、ちょっと「悲劇」ってかんじの映画じゃありません。そして、今回紹介した映画に登場するサウルは、強制収容所を扱った戦争映画の主人公としては、おそらくちょっと異例の存在です。彼は英雄ではないし、それほど賢くも、特別心優しくもない。これを観ることによって、従来の、いわゆる戦争の映画とは、少々異なる体験ができるはずです。それらしき言葉で語られる真実らしきもの、というのは世の中に無数にあります。仕事はこういう姿勢で臨むべきとか、女性はこうしたほうが幸せになれる、とか。とはいえ、みなさんだって、それを頭ごなしに信じて悩んでいるわけではないでしょう。親の世代と我々はちがうし、そんなものなくても幸せになれるということもわかっている。だけど、わかってはいるけれど時々心が揺らぎそうになる。そんなときに自分を助けてくれるのは、多様性に富んだ視点です。仕事に悩んだから仕事の本を、恋愛に悩んだから恋愛の映画を、というのも悪くはないですが、たまにはこんな一風変わった強制収容所の映画を観てみる、というのもなかなか良い刺激になるはずです。そして、アウシュヴィッツの物語に、またあなたの人生の物語に、既存の価値観に捉われない新しい解釈を、加えてみてください。Text/ チェコ好き
2016年04月22日出版社勤務のかたわら、無類のおいしいもの好きとしてブログやTwitter、Instagramで、日々の飲み歩き&食べ歩きや自炊弁当、ホームパーティーの様子などを発信している食ブロガー・ツレヅレハナコさん。当サイト『SOLO』でも、ひとり呑みに嬉しいおつまみレシピを伝授してくれる『ツレヅレハナコの夜のひとり呑みレシピ』を好評連載中です。そんなハナコさんが、待望のレシピ本である『女ひとりの夜つまみ』(幻冬舎)と『ツレヅレハナコのじぶん弁当』(小学館)の2冊を連続刊行。それを記念して、去る3月18日(金)に「夜のツレハナ料理教室」なるイベントが開催されました。著書の中からおつまみにもお弁当にもなる2品をチョイス、さらにホームパーティーにもぴったりのスペシャルメニューを、ハナコさん直々に教わることができるこの企画。定員わずか20名の激レアイベントとなった当日の様子をレポートします。記事の最後には、レシピもご紹介しますよ!スパイスを利かせた肉ダネをピーマンに詰めたトルコの定番惣菜『ツレヅレハナコのじぶん弁当』(ツレヅレハナコ/小学館)『ツレヅレハナコのじぶん弁当』(ツレヅレハナコ/小学館)人に見せるためでなく、自分がホッとできるお弁当を!Instagramの「#ツレハナ弁当」の投稿が話題沸騰。働くあなたに捧ぐ、地に足の着いたお弁当レシピです。・朝5分弁当・たまご偏愛弁当・巻くおかず弁当・マイスタンダード三色弁当・おかず1品弁当・炊きこみごはん弁当・野菜増量弁当・異国の香り弁当・買ってきたものアレンジ弁当・汁ものバンザイ弁当 …and more!!
2016年04月22日純喫茶のマスターというとどのような方を思い浮かべるでしょうか?蝶ネクタイを締めた白いシャツと黒いパンツスタイルで正装した物静かな方、トレードマークになっているエプロン姿が見慣れた元気な方、清潔でパリッとしたシャツに身を包んだ穏やかな方…。今回は立ち寄れば思わず元気になってしまうような明るくてユーモアあふれるマスターのいる純喫茶を紹介します。足を運んでくれる人たちには応えたい難波里奈『純喫茶へ、1000軒』難波さんの新刊『純喫茶へ、1000軒』に興味がある方はこちらから!
2016年04月15日本格料理が味わえるリトルアジア記念すべき第1回は、スタイリッシュなみなとみらい地区……の裏手にある、横浜飲みの聖地・野毛から。呑兵衛おじさんの街として近寄り難かったエリアだけれど、最近はおしゃれなバーも増えて人気急上昇中の注目スポット。とはいえ、初見参ではどこへ足を踏み入れていいのやら!? と、尻込みしちゃう。ましておひとりさまで「誕生日を祝いたい!」なんて言いだす勇気も、正直ない。▲過去に提供したケーキの一例。無料で名入れもしてくれますなお、リョウちゃんのバースディスイーツは当日だと「スイーツの盛り合わせ」(1,000円~)になりますが、3日前までの予約であれば「スタンダードショートケーキ」、1週間前なら「オリジナルケーキ」(3,000円~)も可能。好きなキャラクターをあしらったデザインや、ケーキ屋さんでは頼みにくいオリジナルメッセージも承ってくれます。友人を驚かしたいときにもオススメです!※表記はすべて税込み価格です。【店舗情報】■151‐A(イチゴイチエ)住所:神奈川県横浜市中区野毛町1‐50‐1 A1野毛壱番館A号室電話番号:045‐325‐7967営業時間:18:00~翌2:00定休日:第3日曜日
2016年04月15日あなたのすぐそばにあるかもしれないドラッグの罠(c)by bradleygeeドラッグへの第一歩は、本当に簡単なことから始まるのだと思います。私が今、そういうものと縁のない生活をしているのは、単に身近に触れる機会がなかったからです。強い意志があってその世界に入らなかったわけではありません。芸能人でなくても、飲みに行けば誘いの場所はあったのだし、若い頃はそれこそ他人に責任を負っているわけでもない。目の前に甘い誘惑があったら「試してみよう」と思ったかもしれません。ほんの軽い気持ちでたばこを吸い始めたように。そうして加奈子はドラッグを入手し、なんでもないことで人志とはうまくいかなくなり、そして売人をするまでになってしまうのです。「まとまったお金があれば人志とふたりで南の島に行ける。そしたらもう一度前みたいにうまくやれるって……。私、バカだよね……」誰だって幸せになりたい。できれば誰かと。恋人同士のふわふわとした甘い時間は、非現実的で夢をみるようでしょう。でも生きていくのに、どんなに甘い関係の二人でも、現実から目を背けてはいられないのです。生活していくお金、未来を考える力、愛情とエゴのバランス。加奈子と人志には、これらの現実に目を向ける力がなかった。だから壊れてしまったのだし、加奈子は安易なほうへ流れてしまった。ドラッグを目の前に出されて「やってみる?」と言われたとき、きっぱりと断れるほど意志の強い人はどれだけいるでしょう。安易で声の大きなものは、簡単に心の小さな傷口に入り込んでくるのだと思います。人間はそんなに強いものじゃない。だけどそれを拒まなければ、一生戻ってこられない。人はどれだけ試されているのかと思います。でも、これほど相手に溺れて、前後不覚になるような恋、してみたいですね。Text/和久井香菜子
2016年04月11日学校がある街には必ず素敵な純喫茶がある?難波里奈『純喫茶へ、1000軒』難波さんの新刊『純喫茶へ、1000軒』に興味がある方はこちらから!
2016年04月08日1人1人に向き合った高架下の純喫茶難波里奈『純喫茶へ、1000軒』難波さんの新刊『純喫茶へ、1000軒』に興味がある方はこちらから!
2016年04月01日どんな環境や境遇も、本人にとって恵まれているかどうかはわからない(c)yanivbaヒースが頼ったのは、「なにかをしなければ認めてくれない」親でも、「学校の名誉のために優秀でいて欲しい」先生でもありませんでした。ヒースのすべてを受け入れてくれる近所の医師や、とあることがきっかけで知り合った中年男性のインディアン(あだ名)でした。この作品は、若い人たちの持つコンプレックス、葛藤、必死に生きるさまを描いていて、読むと胸が詰まります。人は誰でも(誰でも!です)、自立したいと思い、自分を理解してくれようとする人を求めるのだと思います。私、この作品にけっこう影響されたかなと思います。20代で結婚して、すぐに離婚を決めたあと、カラオケBOXで深夜のバイト、昼は派遣で事務、夕方はHP作成と、あれこれ仕事を掛け持ちしてました。これがヒースになった気分でものすごく楽しかったです。実家で疎外感を感じていた私には、ヒースの孤独にもたいへん共感を持ちました。インディアンは、ヒースの父親に「あなたは私よりもヒースのことを理解しているようだ」と言われて、こう返します。「理解しているわけじゃないですよ。理解しようとしているだけです」父親は、高校でトラブルがあり、長く休んでいたヒースに転校するように勧めます。「いい学校を選んでおいた」と。ヒースは、「もうたくさんだ!」と資料を破り、出て行ってしまいます。「よかれ」と思ってやることが、ヒースにはことごとく裏目に出てしまうと、父親は悩みます。何を悩むことがあるのでしょう。そんなの、簡単なことじゃないですか。「元の学校に戻るのは辛くはないか? お前はどうしたい?」って聞けばいいんですよ。でも、そんな簡単なことがわからないから、うまくいかない人がたくさんいるんですね。Text/和久井香菜子
2016年03月31日元外資系バリキャリ不健康生活から一転、料理家として丁寧な暮らしへとシフトした太田みおさん。とはいえ、独身の忙しい生活のなかで「“ていねいなごはん”なんか作ってる余裕ない…!」という気持ちも分かりすぎるほどよく分かるという太田さんが、おひとりさま女史のための、気軽だけどちょっとオシャレな週末ごはんを提案する連載です。生姜のポカポカ効果を引き出すには、加熱が必須今週末にも桜の見頃を迎えそうな東京。「花冷え」という言葉もありますが、一時的な冷え込みに見舞われることもあるなど、体調管理が大切な季節です。さて、今話題の「酢しょうが」はご存知でしょうか?お酢と生姜、ダブルの効果で血行を良くし、体を芯からあたためてくれる効果が期待できる、注目の食材です。生姜に含まれる「ショウガオール」という成分は、身体の芯から熱を作り出す作用を促してくれる効果が期待できます。この「ショウガオール」を引き出すためには、生姜に熱を加える必要があります。生姜をスライスして熱を加え、酢に浸けるだけでできる「酢しょうが」を使った美味しいレシピを2つご紹介します。体を芯からポカポカにあたためて、季節の変わり目のこの時期を乗り切りましょう!酢しょうがの作り方(c)太田みお3.2に●の合わせ調味料を加えて一煮立ちさせ、水溶き片栗粉を加えながら混ぜて、再び煮立ったら、溶いた卵を加えてふわっと卵が浮いてきたところで一混ぜする。器に注ぎ、三つ葉をのせてできあがり。おいしく摂れて、体に良い効果を与えてくれる「酢しょうが」レシピ、ぜひ試してみてください。Text/太田みお
2016年03月30日(c)by @sage_solar「君みたいなスカスカ女には限りなくうんざりだよ。はっきり言わせてもらえればね」おいおいおい。こんなことを男性にいわれたら、普通はブチ切れますよねこっちだって。実際、これをかのホールデン・コールフィールドにいわれたガールフレンドのサリー・ヘイズは、この後むちゃくちゃにキレてさらに泣いています。そりゃそうだ、だれがスカスカ女だよ。唐突に話を始めてしまいましたが、ホールデン・コールフィールドとはもちろん、『ライ麦畑でつかまえて』の主人公である、高校生の男の子です。それで、今回はこれに基づいて、少し(だいぶ)変な話をするのですが、もし地球に隕石が衝突して恋愛のプロと称される方々が全員この世を去ってしまい、私がアラサー女性のための婚活塾を始めなければならなくなったとしたら、私はもう真っ先にこの『ライ麦』を課題図書に指定します。パートナーが欲しい女性は、この小説を5回くらい通読してください。ホールデン・コールフィールドは、モテないさて、物語のなかのホールデン君は16歳です。高校生に手を出すわけにもいかないし、なぜいい年になった我々がパートナー欲しさにこの小説を読まなければならないのか、と疑問に思う方もいることでしょう。しかし、私はみなさんに、この神経質で融通が利かなくて、さらにガールフレンドに暴言を吐いたり唐突に泣き出したりするこの扱いづらい少年が、15年後、どんな男に成長しているかちょっと想像してみて欲しいのです。15年後、31歳の男になったホールデン君は、まあ間違いなくモテないです。たとえルックスが良かろうと、お金を持っていようと、有名企業に勤めていようと、神経質で融通が利かなくて何を考えているのかよくわからないところは、きっと16歳の頃とあまり変わっていないだろうから。女性って、そういう男性を敬遠しますよね。まあ、せっかく行ったデートでスカスカとかいわれたらこっちだってちょっと黙ってはいられません。だけど31歳のホールデン君、たしかに厄介なやつであることは変わりないんですが、でも確実に、悪いやつではないんですよ。それは、この『ライ麦畑』という小説を読めばわかります。なぜ彼はこんなに神経質なのか。なぜ彼はこんなに融通が利かなくて、不器用なのか。その心理は、小説のなかにすべて書いてあります。そしてそれは決して他人事というわけでもなく、あなた自身もかつてどこかで、少なからず経験してきた感情でもあると思うのです。なぜ彼が面と向かってスカスカなんていったのか、その背景にあるものが、小説を読めばおぼろげながら理解できることでしょう。『ライ麦畑でつかまえて』は、パートナーへの要求水準を下げる!?私が主催する架空の婚活塾において、なぜ課題図書が『ライ麦畑でつかまえて』なのか、そろそろわかっていただけたでしょうか。架空の生徒さんたちにお伝えしたいのは、神経質で、融通が利かなくて、スマートさの欠片もないような不器用な男でも、悪いやつじゃないんだから別にいいじゃんってことです。気がよく回って話が面白い男性もたしかに魅力的ではありますが、彼らとはまたちがった魅力が、31歳になったホールデン君たちにはあるように、私は思います。悪いやつじゃないし、ちょっと頭の中身を解剖させてもらってのぞいてみれば、彼らだってそこまで複雑なことを考えているわけじゃありません。きっと、こちらが理解を示して話合えば、そこそこわかりあえる仲になれるんじゃないかと思います。だから、いわゆる「結婚向きな」「モテる」「明るい」男性じゃなくたって、十分にパートナーとして考えることはできるよ、って私は生徒さんに伝えたいのです。妙齢の女性が『ライ麦畑をつかまえて』をはじめとするサリンジャーの小説を読むことで、パートナー候補となる男性の間口を広げることができるのではないか、というのが私の仮説です。もちろん、独身街道を爆走していたって本人が楽しかったらそれはそれで別に全然いいんですけどね。まあしかし、婚活塾の課題図書に何を選ぶか、というのは考えてみるとけっこう意見が分かれて面白いかもしれません。あなただったら何を選ぶでしょうか、塾長さん?Text/ チェコ好き
2016年03月25日銀座からほど近い昭和の空気を残す純喫茶(c)『ローヤル』皆さんは、「好きなのに緊張してしまう街」はありますか。私にとってその一つが銀座です。大人になれば自然とその街の空気に溶け込めるのではないかと期待していたのですが、今でも緊張してどこかぎこちなくなってしまいます。それゆえに、多少遠回りになるとしても、比較的近いJRの有楽町駅や新橋駅で下車してから目的地へ向かう癖がついてしまいました。同じように感じる方は、華やかな空間へ入るための心の準備としてお気に入りの純喫茶でひと息つく時間を作ってみてはいかがでしょうか。今回は、JR有楽町駅前にある昭和の空気を色濃く残す純喫茶を紹介します。銀座から近いこともあり、中央改札口へ出るとファッションビルが立ち並ぶ眩しい光景が広がりますが、その近くにある東京交通会館は50年以上の歴史があり、館内には当時から変わっていないような懐かしさを感じる飲食店も多数。中でも圧倒的な広さを誇り、いつも賑わっているのが「ローヤル」です。掲げられた看板に「純喫茶」とあることは今では貴重。入口には食品サンプルが並ぶガラスケースも健在です。(c)『ローヤル』空間は大きく2つに区切られ、どちらもゆったりと腰掛けることの出来る赤くて低い椅子が特徴的です。白いシャツに黒いパンツスタイルといった正装の男性ウエイターの接客はきびきびとしていますが、注文の品が来た後は放っておいてくれる気遣いが居心地良さの理由かもしれません。人気のハニートーストは食後のデザートにはありあまるほどの分厚さでありながらも、たっぷりバターとはちみつの美味しさでいつの間にか完食を。(c)『ローヤル』「お元気ですか?」「相変わらずね。そちらも元気そうで。」何度も繰り返したマスターとのやり取りの中に「でも、いつまでこのビルで続けていけるのかなあ。」とマスターのつぶやきが混じり、続く言葉を失ってしまいました。駅前にある便利さは再開発と隣合せであることは承知の上ですが、次々と景色を変えて華やかになっていく街の近くには、ローヤルのように変わらない憩いの場がいつまでもあってほしいと勝手ながら強く願うのでした。Text/難波里奈難波里奈『純喫茶へ、1000軒』難波さんの新刊『純喫茶へ、1000軒』に興味がある方はこちらから!
2016年03月25日by gabofrいきなり変な話から始めますが、みなさんは「トペス(TOPES、TOPE)」って聞いたことありますか?これは、メキシコをはじめとする中南米の国々の道路にある、「人工の隆起物」のことを指すのだそうです。なぜ道路にそんなおかしな隆起物があるのかというと、ラテン系の方々って車を運転するときにあまり制限速度を守らないらしいんですね。そこで、道路にわざわざ隆起物を作って、標識などで「この先にトペスあり」みたいな警告をする。それを見たら、速度をゆるめないと、トペスのせいで車体がものすごい衝撃を受けてしまいます。だから、ラテン系の方々もトペスの標識が目に入ったら、仕方なく車の速度を落とすのだとか。このトペスという隆起物、中南米の国々の道路には、本当にたくさんあるんだそうですよ。UFO村、カピージャ・デル・モンテさて、ラテンアメリカを代表する小説といえば、コロンビアの作家、ガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』がありますよね。祖父と父と息子と3代にわたって同じような名前の登場人物が出てきたり、超現実的なことが次々に起こるので、少々読みにくい小説としても知られています。かくいう私も、実は大学生の頃から幾度となく挫折を繰り返してきていたのですが、新しい名前が登場するたびに家系図を見て本に線を引く、という地道な作業を行なったら、このたびなんとか通読することに成功しました。いやー面白かった!近年稀に見る達成感です。この『百年の孤独』でいちばん有名なシーンといえば、小町娘のレメディオスが、庭先でシーツに包まれながら空へと舞い上がり、そして消えてしまうところでしょうか。しかし、東洋の国に住む我々からするととても幻想的に思えるこのシーンも、ラテンアメリカの世界では普通にあること、つまり「現実」である──我々の考えている「幻想」と「現実」は、別世界へ行くとしばしばその枠組みを失ってしまう。そんなことを、イギリスの批評家は「マジック・リアリズム」と呼んだりもしました。いまいちピンと来ないという方がいるかもしれないので、もう少し補足しましょう。あのですね、アルゼンチンの中部に、「カピージャ・デル・モンテ」っていう村があるらしいのです。「カピージャ・デル・モンテ」、通称UFO村。村の東にそびえるウリトルコという山の頂上付近にしばしば謎の発光物体が現れることで知られ、村の人のほとんどがUFOの目撃者であるといいます。私たちがまわりに「UFOを見た!」なんていおうものなら年不相応の不思議ちゃんと見なされ避けられるのが関の山ですが、この村では、タクシーの運転手さんも、レストランのおばちゃんも、子供たちも、みーんな普通にUFOを見ているらしいのです。このUFO村の話を聞いたとき、私は「これぞラテンアメリカ、マジック・リアリズム!」と心が躍りました。みなさんも、UFO見たくないですか?リナ・ボ・バルディの魔術的建築真面目な話をすると、文学や芸術、それから旅行のすごいところは、自分が当たり前の「現実」だと思っているものでも、地球の裏側らへんまでいくと実は全然そんなことなかった、と気付かせてくれるところにあります。世間は狭いですが、地球はやっぱり広いのです。もう1つ、ワタリウム美術館で3月27日まで開催されている、『リナ・ボ・バルディ展』。リナはブラジルの女性建築家ですが、彼女の設計した「サンパウロ美術館」は、無機質な高層ビルが立ち並ぶなか、突如現れる巨大な赤の建築が目を引きます。こんな夢に出てくるみたいな建物が、本当に存在するんだろうか?私は、これもやはりラテンアメリカが生んだセンスであり、マジック・リアリズム的だ、と展示を見て思ったのです。ちなみに、冒頭で紹介したトペス。標識があると思って速度をゆるめたら結局なかったり、標識がないので特にスピードを落とさずに運転していたらドスンと来た、なんていう話も聞いたことがあります。なんだか傍迷惑な話にも思えますが、トペスのあるべきところにトペスがなかったり、ないはずのところにあったり、シーツに包まれて昇天したり、UFOを目撃したり、夢みたいな現実の建築があったり──たぶん私たちは、もっと自由に、もっと広い世界で思考してもいいのです。もしあなたが、ストレスで肩がガチガチに凝っちゃったりしたときは、意識をラテンアメリカのあたりまで、ぽーんと飛ばしてみるといいかもしれませんよ。Text/ チェコ好き
2016年03月18日新宿の喧騒を忘れる空間(c)『らんぷる』繁華街は美味しいレストランや素敵な洋服店などが軒を連ねるとても楽しい場所ですが、あまりの人の多さに疲れてしまうこともしばしばです。特に休日は賑わうため、ひと休み出来るカフェや喫茶店は満席であることが多く、休むためにも列を作って待たなければならないことも多いのではないでしょうか。特に新宿は混雑が激しく、自分のペースで歩くのも困難なほどです。しかし、そんな時にふらりと訪れても入店可能で、珈琲やレモンスカッシュを飲みながらほっと一息つける純喫茶があります。新宿駅東口から三丁目方向に向かう飲食店が並ぶ商店街の中に浮かぶ黄色い看板が目印の「らんぶる」です。(c)『らんぷる』外からは一階部分しか見えないため、初めて訪れた方はこぢんまりとした喫茶店だというイメージを持つのではないでしょうか?しかし、扉を開けて左側にある階段を降りていくと、そこにはまるで舞踏会場のように広く天井の高い空間が現れます。赤いベロアの絨毯と座り心地の良さそうな赤いソファ、さらに下のフロアへと続く大きな階段に目を奪われます。地下階にはあわせて200席ほどあるため、よほどでない限り入れないことはなく、待ち合わせにも安心して利用することが出来ます。(c)『らんぷる』名曲喫茶として愛されてきたこちらでは現在でこそCDを使用しているようですが、かつては膨大な枚数のレコードが日々流れていたそう 。周りの喧騒が嘘のように落ち着いた空間でぼんやりと座っていると疲れもどこかへ飛んでいくような気がします。余談ですが、店を任されている三代目の店長は学生時代の友人です。当時はもちろんそのような話をしたこともなかったのですが、数年前に開催された飲み会で見覚えのある顔を見つけ、交換した名刺にはなんと「新宿らんぶる店長」と記載されていたのです。すでに純喫茶に夢中だった私は飛び上るほど驚いたのでした。長い間疎遠だったにも関わらず、最近では時々一緒に珈琲を飲んだり、撮影場所として協力をしてもらうなど頻繁に連絡を取るようになり、純喫茶が再び繋いでくれた不思議なご縁に感謝するのでした。Text/難波里奈(c)純喫茶へ、1000軒難波里奈 (著)難波さんの新刊『純喫茶へ、1000軒』に興味がある方はこちらから!
2016年03月18日20代後半、年収250万ちょっと、恋人なしのおひとりさま女性・沼越さんが、“運命の物件”を求めてモデルルームを巡り歩く日々を描いた漫画『プリンセスメゾン』。『モチイエ女子web』との連動企画として『やわらかスピリッツ』に連載され、女性読者を中心にあたたかい共感とささやかな勇気を与えている本作の作者・池辺葵さんに、女性の人生と住みかの関係について前後編でお話を伺いました。 今回は後編です。■前編「おひとりさまが家を買ったっていいじゃない!」はこちら家を買うという決断には損得ではないその人だけの理由が必要『プリンセスメゾン(1)』(池辺葵/小学館 ビッグコミックス)――『プリンセスメゾン』で“運命の物件”を探す沼越さんは、20代後半で年収250万ちょっと。住んでいるのも古いアパートの1階と、かなり地に足の着いた設定ですね。池辺葵さん(以下、池辺)最初から、マンションが買えるぎりぎりの年収の人の話にしたいと思ってました。『モチイエ女子web』の人にもかなり取材や試算をしてもらったら、“年収250万”という表現でもダメで、“年収250万ちょっと”が本当にぎりぎりの最低ラインらしいです。――作中には「単身女性の住宅ローンは審査が下りにくい」とったセリフがあったり、シビアな現実も描かれていますが。池辺でも、ローンってもっと組みづらいものだと思ってたんですけど、取材をしてみて、思ってたよりなんとかなるんだとも思いました。銀行にもよると思いますが、派遣社員でも3年以上勤めていればローンが下りるとか、頭金をいくら払えるかによってもだいぶ変わるとか。持ち家は買った家自体が担保になるから、保証人に関してはむしろ賃貸のほうが厳しかったり、単純にスペックや数字だけで決まるわけじゃないんだなって。――1巻で「努力すればできるかもしれないこと、できないって想像だけで決めつけて、やってみもせずに勝手に卑屈になっちゃだめだよ」という沼ちゃん(沼越さん)のセリフがありましたが、本当にそうなんですね。池辺でも、実際のところ20〜30代の若いうちに自分の家を買う決断ができる単身女性ってそう多くないと思うんです。仕事が中心で家には寝に帰るだけとか、将来どうなるのかまだわからないって人なら、買う必要ないと思うし。沼ちゃんがそこまでして家を買おうとしていることに、どうやって説得力を持たせるかは悩みました。――2巻で、沼ちゃんが持ち家にこだわる理由というか背景が、初めて明かされたのはそのためですか?池辺それも実は後付けの設定なんですけどね(笑)。持ち家は将来的に資産になるから、長期的に考えると賃貸のほうが高くつきますよ、とか言われても、じゃあ買おうとは思えないじゃないですか。結局、損得ではなくて、たとえ高くても家を持ちたいという、その人だけの強い理由が必要だなと思って。自分の生き方や幸せの価値観を見直す作業、それが家探し ――そんな沼ちゃんの姿を見て、不動産屋の人々も次第に応援を始めて、沼ちゃんと深く関わるようになっていくんですよね。池辺最初は、沼ちゃん以外にもいろんな人が出てくる群像劇にしようと思っていて、不動産屋さんの人たちもあんなにずっと出てくる予定じゃなくて。でも、描いてるうちにみんながんばって生きてほしいなってかわいく思えてきちゃって、沼ちゃんが不動産屋さんの人たちと徐々に関係を築いていく展開に自然となっていきました。――最初はファミリー向けの物件や、都心の高層マンションを見ていた沼ちゃんが、だんだん自分に本当に必要な条件を絞っていきますよね。なんだかそれが、人生における就職や結婚に似ているなと思いました。池辺そうなんですよ。家探しって、自分の生活や生き方を見直したり、自分にとっての幸せって何か考える作業にもなるんだなと、描いていて思いました。実際に東京でかなりの賃貸物件を見て回ったんですけど、東京の住宅事情にカルチャーショックを受けて。――え、どんなところにショックを受けたんですか?池辺私の実家の方だと十分いい部屋に住める値段でも、びっくりするくらい狭くて。東京の人は、家に関してはみんなすごく優しいんだなーと思ってしまったんですよね。でも、家ってそこまで気に入ってなくても実際住んでみたら慣れちゃうし、どこに住んでも自分が受け入れさえすれば馴染んでいくんだろうなって。それは持ち家を買うにしても同じで、どんなに気に入った理想の物件でも、暮らすうちに絶対何かしらの欠陥はあって100点にはならないと思っていて。何かひとつ自分にとって譲れない魅力があれば、あとは我慢できるのかなと思うんですよ。担当編集K(以下、担当K)すごい、まるで好きな人と結婚する話をしてるみたいですね(笑)。そういえば、20代のうちは家を買うことにリアリティを持てないけど、40代になるともうローンが組めなくなる、というのも出産のリミットに似ていますね……。今どう生きたいかを考えたら持ち家もいいかも、と思えた『プリンセスメゾン(2)』(池辺葵/小学館 ビッグコミックス)――家を買うつもりがない人も、もし自分が家を買うとしたらというのを真剣に考えてみると、自分の人生にとって大事なものや生き方を見つめるいい機会になりそうですね。担当K実際に家を買った単身女性にも取材をしたんですけど、みなさん「いざとなったら最終的には売ればいい」と言っていたのに驚きました。私はどうしても、持ち家を資産や投資と考えることができなくて、愛着を持って一生愛でるものだと思ってしまうので。池辺ただ、持ち家も自分の人生を彩るツールのひとつにすぎないから、そこまで一生ものと考えて情を持つ必要はないのかなって思ったりもするんです。自分の状況が変わって要らなくなったら、売って明け渡せばいいのかなと。これまで家を買うなんて興味もなかったけど、この連載を始めてから、家を買えるっていいなって思うようになりました。――そこをもう少し軽やかに考えられるようになったら、生き方のパターンも増えそうですね。池辺今住んでいる家は賃貸なんですけど、カウンターキッチンで選んだんです。私にとってはそれだけでテンションが上がって毎日が楽しくなる。あとすっごいつらくても、幸せな気持ちになれるんですよ。家賃は希望より少し高かったんですが、少しの間だけ、と思い切りました。すごく貯金したところで、人間死ぬときは1円も持って行けないんだって思って。将来のために、今少しの不自由さを我慢するのもいいことだと思うけど、上手に使って今を楽しく生きるのもいいのかなとも。どんなに大変なことになっても、絶対なんとかなるってどこかで思ってるところがあって。浪費に気をつけないとですね。本当の贅沢とは高価なものを持つことではなく、心の有り様だとおっしゃる(そして贅沢とは悪いことではない)森茉莉さんの「貧乏サヴァラン」を再読して原点に戻らないとです。――家を持つことを、将来への投資とか、老後のための保険と言われても、正直ピンとこない人は多いと思います。池辺私も少し前まで老後のことを考えてたんですけど、最近はもう死を考えるようになって(笑)。どこでどんなふうに死ぬんだろうと思ったら、自分が今どう生きたいのかをすごく考えるようになりました。そう考えたとき、ふと、自分が死ねる家があったらいいなって思って。まあ、実際は病院で死ぬことのほうが多いやろうけど。サスペンスとか見てると、ご年配の方が「死ぬ時は自分の家で死にたい」と言うシーンをたまに見るんです。それ、前までは何でやろって思ってたけど、最近、その気持ちがちょっとだけ分かるようになりました。――家のことに限らず、人の目を気にせずに、今の自分の幸せのためにがんばれる沼ちゃんのような生き方ができたらいいですね。今日はどうもありがとうございました!(プロフィール)池辺葵2009年、『落陽』でデビュー。洋裁店で働く女性が主人公の『繕い裁つ人』(講談社)は、2015年1月に中谷美紀主演で実写映画化もされた。他の作品に、喫茶店を舞台とした群像劇『サウダーデ』(講談社)、老婆の夢と現実を描いた『どぶがわ』(秋田書店)などがある。現在、『やわらかスピリッツ』(小学館)×『モチイエ女子web』にて、『プリンセスメゾン』を連載中。2月12日に最新刊第2巻が発売された。
2016年03月14日旅先でのモーニングの楽しみ(c)『珈琲美学アベ』旅先で目的の駅に着いた時、皆さんはまず何をしますか?私はいつも駅周辺の純喫茶を探します。気分を切り替え、珈琲を飲みながら一日の予定を組み立てるためです。日帰り旅行が可能で好きな街の一つとして思い浮かべるのは、長野県松本市。美しい自然があり、美味しい洋食屋、松本民芸用品を基調とした雑貨屋などが軒を連ねるコンパクトな街は、散策に最適です。かつて何度も訪れた馴染みのある場所に、純喫茶に関する打合せのため出掛けてきました。今回は、何気ない話から繋がった純喫茶でのこの先も続いていくご縁について話します。(c)『珈琲美学アベ』今回の旅の目的の一つは松本市で行うイベント会場として利用させてほしいというお願いのために訪れた『珈琲美学アベ』でした。交渉の途中、さらに東京で行うイベントでも珈琲を淹れる実演をして頂けないかと提案しました。すると急な依頼にも関わらず、マスターは「面白そうだから」と二つ返事で快諾して下さったのです。その優しさと決断力のおかげで先日開催された東京でのイベントは大盛況に終わることが出来ました。(c)『珈琲美学アベ』そんな素敵なマスターがいらっしゃる珈琲美学アベは松本駅から歩いて数分。看板や入口のマットに描かれている髭を生やした男性のイラストが目印です。彼の名前は「セニョールアベ」。店名の通り、こちらは二代目マスターである安部さんとご子息の三代目で営まれています。純喫茶が年々減少していく原因の1つとして「後継者不在」が挙げられるため、すでに頼もしい後任者がいることには純喫茶愛好家として感動しました。店内には、現在ではあまり見かけなくなった電話ボックスがあり(携帯電話で通話したい時に使用されるそう)、骨董品と思われる古めかしい黒電話が現役で使用されているなど、至るところにマスターの美学を感じることが出来ます。(c)『珈琲美学アベ』メニューには選べるモーニングセットやモカクリームオーレなど美味しそうな文字が並びますが、必ず珈琲もご一緒に。長い年月をかけて習得したマスターの技による「完全抽出」珈琲が自慢の一品です。実際にネルドリップで珈琲を淹れる作業を拝見しましたが、抽出後の珈琲粉の表面はまるでとろけたチョコレートのようになめらかでした。熱い珈琲を一口飲めば、レシート裏にある「悪魔のように黒く、天使のように優しく、恋のように甘い、珈琲のひととき…」という文言にも納得。長い間愛されている純喫茶には何度も会いたくなるマスターの存在が欠かせないものだとしみじみと思うのでした。Text/難波里奈(c)純喫茶へ、1000軒難波里奈 (著)難波さんの新刊『純喫茶へ、1000軒』に興味がある方はこちらから!
2016年03月14日旅先でのモーニングの楽しみ(c)「KAKO花車店」皆さんは早起きは得意でしょうか?仕事など何か用事がある場合はやむを得ないですが、私はできるだけ休みの日はゆっくり寝ていたいというのが本音です。しかし、旅先では純喫茶で頂く個性豊かなモーニングが楽しみで、いつもより早く目を覚ますこともしばしば。焦げ目の美しい厚切りのトースト、みずみずしいサラダ、半熟のゆで卵や丁寧に焼かれたベーコン、体にしみわたる熱々の珈琲。想像するだけで翌朝が楽しみに。店によって提供されるメニューは様々なので食べ比べるのも楽しいものです。そしてモーニングといえば、珈琲一杯で驚くほどのサービスが豊富な名古屋を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?そんな中から今回は運ばれてきた時に思わず感嘆の声が出てしまう美しいトーストモーニングを食べられる純喫茶を紹介します(c)「KAKO花車店」名古屋駅から徒歩数分、かつて花車町と呼ばれた地域でとても人気の店「KAKO花車店」。こ ちらは名古屋で初めて自家焙煎コーヒーを始めたお店だそうです。熱々のうちに頂くと強い苦味を感じますが、冷めるとやわらかい味になり最後まで美味しく頂ける珈琲はさすが。ぐるりと見渡すと、アーチ型の天井、重ねてきた年月を感じさせる艶のあるテーブル、窓のステンドグラス等、こぢんまりとした店内の中にたくさんのこだわりを見つけることが出来ます。(c)「KAKO花車店」目移りしてしまう豊富なメニューの中から是非ご注文頂きたいのは「シャンティー ルージュ スペシャル」。四分割されたトーストにバターが塗られ、その上には餡、生クリーム、コンフィチュールがのせられています。コンフィチュールは季節の果物を使用しているので都度変わるそう。丁寧に手作りされていて購入することも可能で餡がのっているところに名古屋の喫茶文化を感じることが出来て嬉しくなります。一切れ毎に違う味を楽しめるところが魅力的。営業時間内なら注文可能ですが、モーニングの時間帯の価格がとてもお得です。名古屋にお住まいの方、これから旅で行く予定のある方、美しいモーニングを食べて気持ちを整えてからお出掛けするのはいかがでしょうか?Text/難波里奈(c)純喫茶へ、1000軒難波里奈 (著)難波さんの新刊『純喫茶へ、1000軒』に興味がある方はこちらから!
2016年03月04日フツーの王道恋愛マンガに見せかけて、男子がド変態!?(c)『メフィストフェレスは誰?』(吉原由起/小学館 フラワーコミックスα)既刊2巻キャッキャ楽しければいいというのが娯楽。漫画はまあ娯楽ですよね。でも、なにか知的な情報があったりとか、うなるようなトリックがあったりとか、心理描写が繊細だったりとか、「単なる娯楽じゃない」と思えるものが評価を得るのだと思います。『メフィストフェレスは誰?』は、婚約者に裏切られた女の子と、牧師さんの物語です。特にキリスト教に詳しくなれるわけでもなく、深い心理描写があるわけでもなく、言ってみればフツーの恋愛マンガです。「もしかして牧師さんは人を呪い殺せる力があるとかのファンタジーなのかしら?」と一瞬考えてみましたが、そんなこともなく、超能力も悪魔も魔神も出てきませんでした。そうだったそうだった、作者の吉原由起さんが描くお話は、たいていフツーの、身近な世界が舞台の、小難しい話はいっさいナシの、恋愛マンガなんだった。でも私、彼女の作品が大、大、大好きなんです。吉原さんは元美大生とのことで、絵はすっきりしていて上手で、男子はイケメンです。でもどの作品も、そのイケメンが“ド変態”なんです。クールで冷静なんだけど、シレッとした顔で主人公を困らせます。イケメン牧師の言動は、腹立つんだか、かっこいいんだか! 『メフィストフェレスは誰?』では、主人公の奈々子が浮気した婚約者に激情して、割れたワインのビンを投げつけようとするシーンがあります。そこにものすごくタイミングよく駆けつけた牧師さんが止めに入り、ケガをしてしまいます。ちょっといい人なのか牧師さん?と思っていると、その後、ことあるごとに「あいたた誰かさんに割れたワインのビンでぶっ叩かれた傷があいたたたた」とかシレッと言って、奈々子を思い通りに操るのです。奈々子が牧師さんに告白するシーンも見どころです。その返事は「知っています」なんです。知っていますって?で、あんたの気持ちは?腹立つんだか、かっこいいんだか!その後で、奈々子に「自分の彼女のフリをしてくれ」と頼むときも、「いいですよね、あなたは僕のことが好きなんでしょう?」ですよ。腹立つんだか、かっこいいんだか!良識的で善良で、ときに強気な主人公を、変態イケメン牧師が振り回す。ホント、ただそれだけのお話なんですけど、めちゃくちゃ面白いんです。もう大人になって長いと、少女漫画に出てくるような都合のいいイケメンなんていないってわかってますよね。なので、ひたすら女に都合のいいキャラにはあまり共感できなくなっていきます。でも、吉原由紀さんの描くイケメンは、よくあるドSでもなく、クールでもオレ様でもない。他に類を見ない個性派です。絵も笑いも、すごくセンスがある感じ。ところでこの牧師さん、少女漫画によくあるトラウマ持ちなんですが、これ実は誤解なんじゃないかなーとか予想してますが、みなさんいかがでしょう?Text/和久井香菜子
2016年03月04日