アフリカンドラムにモータウン、ゴスペル、スウィングジャズ、ヒップホップまでをブラック・カレッジ・マーチングバンドの演奏スタイルで体感できる舞台『ドラムライン』が、8月9日、東京国際フォーラム ホールCで開幕した。HBCU(Historically Black Colleges and Universities)という黒人学生への高等教育を理念に設立された大学の中でも、マーチングバンドはアメフトのハーフタイムショーを担うなど花形的存在。それだけにHBCUカルチャーの歴史を2時間に凝縮した本作は、生きたアメリカンソウルミュージックを日本にいながらにして体感できる貴重な機会となっている。チケット情報ステージは音楽のルーツである『AFRICA“The Drum”』からスタート。鮮やかな民族衣裳を身にまとったキャストたちが、アフリカから“音”が世界に広がっていった様子を表現。その後は、ユニフォーム姿でいかにもHBCUらしい華やかなショー、さらにティナ・ターナーやテンプテーションズら60~80年代のナンバーを歌い上げるステージへ。マイケル・ジャクソン・メドレーや荘厳さと熱狂が共存するゴスペルライブなど多彩なステージを堪能したら、あっという間に前半は終了。休憩を挟んだ後半は、スウィングジャズの数々の名曲に酔いしれ、コミカルなドラムバトルで笑い、ラストは再び大迫力のHBCU流のショーと、見どころ満載。30名ほどのキャストたちはトロンボーン、トランペット、チューバ、パーカッションなどを演奏しながら、時にはユニフォームを着て整然と、時にはくだけたスーツ姿で粋に躍動感あふれるダンスを披露。マーチングバンドというイメージを超えたエンターティナーぶりに、客席から熱い拍手が贈られていた。初日は観客参加型フィナーレ『聖者の行進』で、チアリーディングの応援用ポンポンを持ってタレントの楽しんごもステージへ。キャストや観客らと楽しそうに踊りながら、最後は「ラブ注入」のポーズを決めて喝采を浴びるひと幕も。終演後に楽しんごとキャストたちとで行われた会見では、「演奏もダンスも歌も全てに興奮しました!」と高揚した表情の楽しんご。「昔、吹奏楽部でコントラバスをやっていたので、その時の思い出がよみがえって……」と意外な過去を明らかにしつつ、「最近小さなことで悩みがちだったんですけど、そんな悩みなんて吹っ飛んじゃいました。もっと頑張らないと!って気持ちになれました」と笑顔でキャストとハイタッチ。喜んだキャストからのハグのサービスに、ますます興奮が抑えきれない様子だった。東京公演は8月14日(日)まで。8月16日(火)から18日(木)まで兵庫県立芸術文化センターにて、8月21日(日)に東京・かつしかシンフォニーヒルズにて、8月22日(月)から23日(火)までは愛知県芸術劇場にて、8月24日(水)から25日(木)と28日(日)にKAAT神奈川芸術劇場にて、8月26日(金)に栃木県総合文化センターにて、8月27日(土)に群馬・ベイシア文化ホールにて公演。取材:佐藤さくら
2011年08月10日6月。と言えば、ジューンブライドですね。6月の花嫁は幸せになれると言われますが、“6月の花嫁”にならなくても、幸せになる方法はきっといくらでもあるはず。というわけで今月は、日常にもある幸せのヒントを描いた映画をご紹介します。初回にご紹介するのは、『扉をたたく人』。2009年アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたことでも知られる作品です。この映画、主人公を演じるリチャード・ジェンキンスがとてもいい。もちろん彼が、オスカーノミニーです。ジェンキンスが演じているのは、妻を亡くしてからずっとふさぎこみ、単調な毎日の中で、喜怒哀楽をほとんど見せない“閉じている”男。人との交流を避け、他者を受け入れることを拒絶した大学教授で、9.11直後のアメリカを体現したかのような人物です。そんな彼が、偶然出会ったのが不法滞在者のカップル。いままでの主人公なら、カップルとは単に通りすがりだったはず。ところが、シリア出身の男性の方が、アフリカンドラム“ジャンベ”の演奏者だったことが、出会いを決定的なものにするのです。彼らとの、そしてジャンベとの出会いにより、数々の感情が生まれ始めるというシンプルな物語なのですが、ちりちりと微妙に動き始める主人公の心が絶妙なタッチで描かれていて、妙に泣かせるのです。亡き妻がクラシックのピアニストだったこともあり、音楽が好きだった主人公は、アフリカのリズムに興味を持ちます。ここで少し心の強張りを緩めたことで、原始的で生命力に溢れたリズムが、次第に主人公の心に染み入ってくるのです。太鼓はかつて、コミュニケーションの手段として使われていたもの。確かに、トントントンと繰り返される音は、まるで扉をたたく音のよう。ジャンベの響きが、孤独な男の心の扉を叩いたということなのでしょう。ジャンベを通した交流を機に、主人公は人と関わることを徐々に恐れなくなり、やがて、笑い、焦り、怒り、悲しみなどが見え始めます。これらの感情こそ、人を人たらしめているもの。物語はその後、9.11後のアメリカが持つ理不尽な側面を象徴するかのような、決して喜びばかりではない展開へと進んでいくのですが、それでも鑑賞後はどこか優しい気持ちになります。一人の“閉じた”男性が、幸せになるための足がかりを見つけて、“開いていく”様を目撃したことで心が温かくなるのでしょうか。英語の原題は『visitor』。始めはちょっとSFっぽいなと思いましたが(笑=確か、以前こんなタイトルの宇宙人地球侵略ドラマがあった)、お見事。本編を観ていると、visitorという原題が持つ、より深い意味を感じられるはずです。この作品で、男性を変えるきっかけを作ったのは、それまで縁のなかったアフリカのリズム。このリズムだって、人種のるつぼであるN.Y.では、実は、見回せば常に隣にあったのです。なかったのではなく、見ようとしていなかったし、聞こうとしていなかったということ。人生にはこんなことが多いのかもしれません。自分が閉じてしまうことで、なかったことにしてしまう数々のもの。そんなものにも、幸せのきっかけが隠れているのかも。だとしたら、まずは“閉じず”に“開く”ことが幸せへの足がかりなのかもしれませんね。この映画を観ていると、以前観たフランスの秀作『愛されるために、ここにいる』を思い出します。こちらの“きっかけ”はタンゴ。『扉をたたく人』が気に入った方は、DVDをぜひ手にとって観てくださいませ。(text:June Makiguchi)■関連作品:扉をたたく人 2009年6月27日より恵比寿ガーデンシネマほか全国にて順次公開© 2007 Visitor Holdings, LLC All Rights Reserved.■関連記事:名脇役リチャード・ジェンキンス初主演作『扉をたたく人』試写会に10組20名様ご招待新作クランクインを控えたジョニー・デップをプエルトリコで発見!オスカーを翌日に控え、インディペンデント・スピリッツ・アワードが決定!
2009年06月19日