才能をぎらりと光らせる期待の俊英がオーケストラを刺激する。──5月の東京都交響楽団定期演奏会に登場するクリスチャン・ヤルヴィは、クラシック音楽の常識に安住しない攻めの姿勢を貫く気鋭の指揮者だ。彼は、音楽家揃いのヤルヴィ家から、指揮界の重鎮である父のネーメ・ヤルヴィ、現代の指揮界を牽引する兄のパーヴォ・ヤルヴィに続いて世に出た才能。なかでもクリスチャンは現代音楽の優れた新作を積極的に紹介したり、オーケストラと民族音楽との共演など、領域を超えた挑戦に意欲をみせたりとアグレッシブな活躍をみせる。いま首席指揮者を務めているMDR響(旧・ライプツィヒ放送響)でも独創的なプロジェクトを展開するほか、世界各地のオーケストラへの客演では個性的な選曲で人気を博している。東京都交響楽団 チケット情報そのクリスチャンが指揮する都響定期Bシリーズでも、現代音楽でも特に人気の高いペルトとライヒの傑作が選ばれた。まずヤルヴィ家の故国エストニアが誇る作曲家、昨年80歳を迎えたアルヴォ・ペルトの作品から、《フラトレス》は静謐のなかに中世音楽のエコーが時空を越えて響くような神秘性が聴き手を包む人気作。そして、彼の代表作・交響曲第3番はヤルヴィ家の父ネーメが1971年に初演、彼に献呈された作品。〈ティンティナブリ様式〉(〈小さな鐘〉に由来する言葉で、シンプルな和声とリズム、テンポが生む静謐が美しいこのスタイルはペルトの名を一躍世界へ広めた)ばかりか、当時ソヴィエト政権の支配下にあったエストニアでは反動的とみなされていた現代的な語法を用いて、強靱な想像力が立ち上がるシンフォニーだ。そして、今秋80歳を迎えるアメリカの作曲家スティーヴ・ライヒ。音型の反復やずれを巧みに生かした〈ミニマル・ミュージック〉の先達として、リズムと音響の多彩と鮮烈をひらいてきた彼は、クラシック音楽の枠を越えて熱狂を呼ぶ存在だ。今回は2曲、まずグシュタード音楽祭(現在クリスチャンが音楽監督を務める)による委嘱作、2つのヴァイオリンと弦楽オーケストラのための《デュエット》は、クリスチャンも「輝き、陽光、愛、自信に満ちた、おそらく最も美しいメロディを持つ作品のひとつ」と激賞する作品。そして「4楽章からなる交響曲のよう」な《フォー・セクションズ》は、「真実を探究する旅」のようだとクリスチャンも語る。さまざまな変容の先にひらける「非常にパワフルで魅力的な」終楽章、オーケストラの巨大な昂揚に包まれる体験は生演奏でしか味わえないものだろう。まったく異なる個性をもつ作曲家ふたり、しかし「本質的には彼らの音楽は精神的に合致しています」とクリスチャン。人間性を問い、高い理想を追求する表現の道のり──その挑戦と喜びを、俊英指揮者とオーケストラとが興奮と共に分かち合うステージ、楽しみにしよう。5月18日(水)、東京・サントリーホール 大ホールにて。文:山野雄大(音楽・舞踊評論)
2016年05月13日「ラッドミュージシャン(LAD MUSICIAN)」の14SSコレクションのテーマは「Minimal Art Rock 70」。1970年に亡くなったアメリカの抽象画家、マーク・ロスコ(Mark Rothko)に捧げられた。デザイナーの黒田雄一は、ロスコのアートに関する哲学をデザインに投影している。マルーン、ブラック、オレンジ、ロイヤルブルーなどからなるカラーパレット。コットンリネンのニットには、モヘア素材を組み合わせてロスコの作品に見られるカラーブロックを表現。ボーダー風のジャカードニットも、色や素材、編み方を変化させて、ロスコが絵具を重ねて作り上げたグラデーションを服作りの技法で再現した。ジャケットやブルゾン、ロングシャツなどトップスは衿などの装飾を排除したミニマルなボックス型のシルエット。クロップド丈のワイドパンツやショートパンツはフロント端にタックを寄せ、細身のパンツには同色のエプロンを重ねてスクエアなシルエットに仕上げている。カモフラージュ柄は手書きで細かく描かれている。鳥の羽で表現した総柄のグラフィックは、ロスコと同時代に活躍した抽象画家のフランツ・クライン(Franz Kline)の絵画がモチーフとなっている。会場はスモークと照明を用いてロスコの絵画のような曖昧な矩形を浮かび上がらせ、アルヴォ・ペルト(Arvo Part )のピアノの旋律からショーがスタート。中盤からはピーター・ケンバー(Peter Kember)のプロジェクト、エクスペリメンタル・オーディオ・リサーチ(Experimental Audio Research)のノイジーな楽曲へと変化し、ロスコの抽象表現主義を音の演出でもなぞってみせた。
2013年11月12日