事前に練習内容を共有しないのでアシスタントコーチの準備が無駄になったり、練習でしてないことを試合で求める年上コーチ。練習も単調で子どもたちの成長が見えづらい。いくつか改善したら子どもたちの楽しさも増幅すると思うのでお願いしたいが、年上コーチと上手く付き合い方が難しい......。と悩むスクール代表からのご相談をいただきました。ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、コーチ間のコミュニケーションについてアドバイスを送ります。(取材・文島沢優子)池上正さんの指導を動画で見る>>(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)<<絶えず口ゲンカ、相手の気持ちを考えない、準備・片付けをしない子どもたちの意識改善をどうすればいいか教えて<お父さんコーチからの質問>こんにちは。私はサッカースクールを運営している者です。コーチスタッフは10代から50歳代の幅広い年齢層です。私はスクール運営・代表として、各年代(U-6からU-13以上)で自分のチームの選手に合う練習方針を考えております。しかしながら50代のコーチの指導方法(U-12以上担当)に疑問を持つ事が増えてきています。気になることがあれば対話をしていきましたが、あまり改善がみられません。やはり年下の私(40代)から指示されることが気持ちよくないのでしょうか?これまでにあったことです。・事前に練習内容を共有しないので、アシストコーチの準備が無駄になった・声かけが曖昧で「一生懸命やる」を紐解いて伝えてほしいが、具体的な説明をしない・練習でしてないことを試合で選手に要求するので、選手はコーチの指示でしか動けなくなる・練習が単調で工夫が見られないため、選手たちの成長が見えづらい今までたくさんの選手を見てきてくれたことに対する感謝や、送迎などたくさんやってきてくれているため、こちらもしっかりと言い出せない部分もあります。そして何より教わっている子どもたちは「楽しい」と発します。運営者としては、「もっとこうしたら子どもたちの楽しいは増幅するだろうし、成長速度も変わり卒業してからでも色々な所でサッカーを楽しめる」と思っているため、改善をお願いしたく悩んでいます。年上50代のコーチスタッフとの正しい付き合い方のアドバイスを頂けたらうれしく思います。<池上さんからのアドバイス>ご相談ありがとうございます。選手と指導者との間に円滑なコミュニケーションが必要であるように、コーチ間の共通理解は重要です。その点からすると、ご相談者様のお悩みは、やはりコミュニケーションの問題だと感じます。■修正を求めるときは、こちらがどれだけ心を開くかがカギ相手にいわゆる修正を求めたり、新しいものを提案する場合は、こちらがどれだけ心を開くかがカギになります。例えば、50代のコーチスタッフを攻撃するような言い方ではなく「みんなでより良くなりたいから、こんな考え方はどうでしょう?」といった表現で話をしてはいかがでしょうか。逆に、「どうして変わらないのか?」「時代が違います」というような否定的な言い方では、コミュニケーションができません。基本的な構えとして、この50代のコーチが言うことを聞いてくれないという感情をもって話してしまうと、なかなか伝わらないでしょう。サカイク公式LINEアカウントで子どもを伸ばす親の心得をお届け!■正論であっても言い方によってはすんなり納得してもらいづらいご相談文に書いてあるように、チームの子どもたちは楽しいと言っています。であれば「子どもたちは楽しいと言ってくれているのでいいチームだと思う。ただ、もっとよりよくするためにこうしませんか?」「ここを話し合いませんか?」「僕らももっと学び合いたい」と提案することをお勧めします。あるいは「子どもがうまくなる」「こんなふうにしたほうがもっと楽しくなるかもしれません」という言い方です。私自身、「子どもに対する言い方がやさしいですね」とよく言われます。それは、相手のことを正しくリスペクトしているからだと思います。さらにいえば、その姿勢は大人に対しても同じです。私はこう思いますけどいかがですか?という言い方をします。それ間違っていますよとか、そうじゃなくてこっちがいいですよみたいな言い方はしません。もしそれが正論だとしても、言い方によっては、すんなり納得してもらいづらいからです。■本人が言わないのなら、こちらから尋ねるなど歩み寄りをまた、ご相談文に「練習内容を共有しない」「一生懸命やれと言う言葉を紐解いてほしい」といったことが書かれていますが、まさにコミュニケーションの問題です。例えば、その50代のコーチが何も言わないのであれば、周りのコーチたちも何も準備しなければいいのです。あるいは準備が必要だと思えば、「何が必要ですか?」と尋ねればいいと思います。「準備が無駄になる」と書かれているということは、そのベテランコーチに何も聞かずに準備しているようです。他のコーチはアシスタントなのですから、核になるメインのコーチにいったん聞く必要があります。もしかしたらメインコーチは「何も聞いてくれない」と思い、アシスタントの方々は「何も言ってくれない」と考えているのかもしれません。ひと言「今日、どうしますか?」と聞けば住む話です。「一生懸命の意味」についても、尋ねればいいことです。子どもがさぼっているのか、やっているけれどいまひとつ夢中になっていないのか。例えば「考えながらやれ」の一言でも、「何を見て、伝えたのですか?」とやんわり尋ねてみてはどうでしょうか。こちらから歩み寄る必要があります。■コーチ同士のミーティングで提案するという手も「練習でしてないことを試合で選手に要求するので、選手はコーチの指示でしか動けなくなる」についても、そのことをかみ砕いて実例を挙げて話してみましょう。「こないだこんなことがありましたが、子どもたちが指示でしか動けなくなるかもしれないと少し思ったのですがどうでしょう?」コーチのミーティングやコーチ会議など、皆さん行っているはずです。その場で提案してもいいかと思います。「すべてを教え込むのではなく、子どもたちが自分で考えて学んでいくことに軸足を置いた指導ってどうでしょうかね?」■指導者間のコミュニケーションが取れている方が、子どもも楽しくサッカーができる(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)つまり、「すべてを教え込むのではなく、子どもたちが自分で考えて学んでいくことに軸足を置いた指導ができていない」とか「そこに転換すべきだ」といった主張ではなく、あくまで提案です。そのような視点で「練習が単調で工夫が見られないため、選手たちの成長が見えづらい」ことについても「もっと楽しくなる練習ってないですかね?」と提案してみましょう。コーチ同士のコミュニケーションがとれているほうが、子どもも気を遣わず楽しくサッカーができるはずです。池上正さんの指導を動画で見る>>池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
2023年07月14日