言葉や文化を越えたパフォーマンスを武器に、国内外で活躍するサイレントコメディー・デュオ、が~まるちょば。彼らが結成当時から目標のひとつとして掲げ、近年ではすっかり定着しつつある大規模な全国公演を、4年連続で今年も敢行する。そこで、が~まるちょばのケッチ!(=赤いモヒカン)とHIRO-PON(=黄色いモヒカン)のふたりを直撃し、意気込みを聞いた。が~まるちょば公演のチケット情報今回の全国公演、実はこれまでにない構成となっている。主に長編作品を上演する『が~まるちょばサイレントコメディー JAPAN TOUR 2012』と、テレビやストリートでもおなじみのモヒカン・スーツスタイルでのショー『That’sが~まるSHOW!』の2演目で全国を巡るのだ。その意図をケッチ!は、「これまで『~が~まるSHOW!』は公演の中の1パートだったんです。でもこれだけをもっと見たいというお客さんの声があると同時に、僕らももっとやりたいと思った。その両者の思いが合致して、こういった形になったんです」。気軽にが~まるちょばの世界を堪能でき、また観客参加型のネタが多いのも、広く『~が~まるSHOW!』が人気の理由だろう。そんな『~が~まるSHOW!』、やる側の魅力を尋ねると「アドリブがきくところ(笑)」とHIRO-PONが即答。「まさにガチンコ勝負ですし、お客さんにはライブならではの生き生きとした感覚をより楽しんでもらえると思いますよ」と続けた。一方『サイレントコメディー~』で上演されるのは、2001年に初披露された西部劇。パントマイムをやる上で重要なのは、「見る側が持っているイメージを借りること」だとHIRO-PONは言う。つまり認知度の高い“西部劇”は、サイレントにしやすい素材なのだ。「でも……」とはケッチ!。「かと言ってなにかひとつの映画などに集約してしまうと、逆にそれが足かせになってしまうことがあります。だから『それ西部劇でよくあるよね』っていう、みんなが知っているであろうエッセンスだけを取り入れて作ろうと心がけました」。さらにHIRO-PONはこう明かす。「ツアーでやった長編の中では、今までで一番古い作品。そういった意味で原点回帰と言いますか、が~まるちょばの初期衝動が垣間見える作品だと思います」。彼らが自分たちの作品について語る時、まず「ほかでは見られない」ということを挙げる。特に長編の場合、「言葉を使わず、はっきりとストーリーをわからせ、しかも笑えるものはほかにない」と。彼らのその揺るぎない自信と、パントマイムの可能性を模索し続ける情熱は、今年もまた全国の観客を笑顔へと変えていくことだろう。『が~まるちょばサイレントコメディー JAPAN TOUR 2012』は8月31日(金)のKAAT神奈川芸術劇場を皮切りに、宮城、広島、高知、大阪、福岡、新潟、札幌、名古屋、静岡、東京と各地を回る。また、『That’sが~まるSHOW!』は9月1日(土)にKAAT神奈川芸術劇場、その後石川、静岡、東京ほかにて上演される。取材・文:野上瑠美子
2012年04月26日「最初に白黒でサイレント映画を撮ると言ったときの周りの反応?『何を考えてるんだ?』、『頭がおかしくなったのか?』って感じでしたよ」。ミシェル・アザナヴィシウス監督は穏やかな笑みを浮かべながらそうふり返る。街を歩けば大音量の音楽があふれ、映画どころかTVでまでも3Dの映像や数百万分の1秒の瞬間をとらえた色彩豊かな映像が流れる現代において、あえて白黒とサイレントで新作映画を作ろうという発想は周囲にはさぞや酔狂な試みに思えたことだろう。だがそんな不安の声をよそに本作はフランス国内のみならず各国で絶賛を浴び、ついにはアカデミー賞で史上初となるフランス映画の作品賞受賞を含む5部門を制覇した。まさに歴史にその名を刻むこととなった名作はどのように生み出されたのか?日本での公開を前に来日を果たしたアザナヴィシウス監督に話を聞いた。物語の舞台は、サイレント映画からトーキーへ映画産業が大変革を迎えた1920年代後半から30年代のハリウッド。サイレント映画で比類なき人気俳優として活躍しながらもトーキーの台頭で没落していくスター・ジョージと、逆にトーキーの時代の新たなスターとして成功の階段を駆け上がっていく新人女優・ペピーの姿を描く。10年以上前から本作を構想していたという監督だが、決して奇をてらって白黒のサイレント映画を作ったわけではない。「何よりも重要なのは良いストーリーと魅力的な登場人物でした」という言葉通り、白黒の映像やサイレントありきではなく、これらの要素はジョージとペピーの2人の物語の魅力を最大限に引き出す“道具”として使用されているのだ。監督は、音やセリフが「ない」からこそ生まれ、活かすことのできた新たな発想が重要な役割を果たしたと明かす。「(セリフによる)会話がないということは、私にとっては“壁紙”のようなもので、それ自体を意識する必要はありませんでした。いかに物語を語るか?という点で通常の映画もサイレントも目指しているものは同じです。白黒の映像だけでそれをどう表現するかとなるとその難しさにばかり目が行きがちですが、白黒の映像だからこそ開放される表現というのもあるんです。実際、通常の映画では使わないような映像も、サイレントだからこそ取り込むことができました。とにかくサイレント映画をたくさん観て、その“ルール”を頭に叩き込み、表現の限界値を知る。その限界値の中でほかの映画にはできないようなことができたと思っています」。そもそもサイレント映画の脚本というのはどういったものなのか?監督は俳優たちにどのような演出をしていったのだろう?ここでもやはり、「ない」ということを逆手に取った監督の発想が活かされたようだ。「脚本にはインタータイトル(挿入字幕/映像の合間に流れる字幕による会話などのセリフ)は書かれていますが、いわゆる俳優が覚えて読むようなセリフは一切書かれてません。役者からするとそういうものがあった方が演技がしやすいと思ったかもしれませんが、僕にとっては俳優がどんなセリフを言っているかというのは重要ではなかったので、あえて読ませるようなことはしませんでした。そういうわけで現場でセリフのやり取りはないわけですが、それよりも彼らをどう配置するか?彼らをどう動かせば物語がリズムよく回るかということの方が大切です。やはりセリフがないということはネガティブに捉えられがちですが、それによって俳優たちは別の表現を生み出すことができたと思います。いわば現場でのやり取りは、彼らにとってそれが有意義だと理解させる作業でもありました」。印象的なのが、ジョージの控室を訪れたペピーが彼の上着に袖を通し、自らを抱きしめるシーン。ペピーのジョージに対する憧れや愛情が静かに伝わり胸がキュンとさせられるが、このシーンはどのように生まれたのだろうか?「あのシーンはフランク・ボーゼイジ監督の『第七天国』(’27/第1回アカデミー賞監督賞、主演女優賞など受賞)のヒロインが男性のジャケットを着てみるというシーンにインスパイアされました。ほかにもいくつかの要素が組み合わさっているのですが、自分の手で自分の体を触ってみたり、他人の服に袖を通してみるという、子供がよくするような遊びのような感覚が表れていると思います。ただ、シーンについてどのように発想されたかというのを論理的に説明するのはすごく難しいですね(苦笑)」。このヒロイン・ペピーを演じたベレニス・ベジョは監督の大ヒット作『OSS 117 私を愛したカフェオーレ』(※第19回東京国際映画祭最高賞受賞作)にも出演している監督のミューズであり、同時にプライベートでのパートナーでもある。そんな彼女に対し監督は称賛を惜しまない。「近くで見ていたからこそ分かりますが、すごい努力をしてペピーの役を作り上げていきました。アメリカのあの時代の女優のジェスチャーやカメラと女優の関係というものまで会得して、全てを含めてペピーになりきっていたと思います。素晴らしい女優ですが今回、自分にピッタリの役に出会い、その人物造形に成功したことで、これからほかの監督も彼女に役をオファーしやすくなったと思います」。ちなみに家庭でも2人は映画について話をするのだろうか…?「もちろんです(笑)。特に今回、彼女はシナリオの段階からどういう作品になるか耳にしていましたから、私と同じくらい作品に近い距離にいて、この作品が出来上がっていく過程にどっぷりと浸かっていました。私と彼女との会話もこの映画に関することが多かったし、シネマテークには一緒に通って古い映画を観ていました。ただ、もちろん映画以外の現実もまた別のところにキッチリと存在するわけで、“監督と女優”という関係性を私生活に持ち込まないようには気を付けていました。現場で指図しリードするのは私ですが、私生活で何かを決めるのはどちらかというと彼女の方ですよ(笑)」。オスカー受賞に至るまでの数か月におよぶ賞レースの喧騒、受賞後の周囲の熱狂について監督は「嬉しく思っていますよ」と語り、今回の受賞をさらなるチャンスとして捉えているようだ。「今回の受賞でこの映画がより存在感を高め、より多くの人に知られることになりました。それによってより多くの“自由”を私は手にできたと感じています。幸いなことに映画監督は英語をしゃべれなくてはいけないという問題はありませんから、たくさんの可能性を与えられたと思っています」とハリウッド進出に含みも…。ちなみに、本作の撮影にあたっては白黒の映像のニュアンスを確認するためカラーバージョンも撮影していたとか。改めてカラーバージョンに興味は?と尋ねると「むしろ白黒のままで3Dにする方が興味があるね」とニヤリ。今後、世界を舞台にどのような新たな作品を生み出していくのか気になるが、まずは『アーティスト』でエスプリの効いた映画讃歌をお楽しみあれ!(photo/text:Naoki Kurozu)© A.M.P.A.S.R■関連作品:アーティスト 2012年4月7日よりシネスイッチ銀座、新宿ピカデリーほか全国にて公開© La Petite Reine - Studio 37 - La Classe Americaine - JD Prod - France 3 Cinema - Jouror Productions - uFilm■関連記事:モノマネ芸人・福田彩乃、今度は“犬”モノマネを習得?アカデミー賞最多5部門受賞の注目作!『アーティスト』試写会に10組20名様ご招待中谷美紀、オスカー像は「米の重さ」?『アーティスト』監督が緊急来日!【アカデミー賞】華麗なるレッドカーペットファッション!~ホワイト&メタリック編~【アカデミー賞】最高栄誉はハリウッド愛を贈るフランス映画『アーティスト』へ!
2012年04月06日新旧の名作を2本立て上映している東京・渋谷の映画館、シネマヴェーラが日本未公開作を含むサイレント映画の傑作を上映する「映画史上の名作番外編サイレント小特集IV」を17日(土)から開催する。その他の写真本企画は、映画史に名を残す傑作をフィルム上映する特集「映画史上の名作」の番外編で、長らくスクリーンで上映されてこなかった作品や日本未公開の作品の中から、サイレント映画だけを厳選して上映するシリーズ。4回目となる今回は、モノクロームのコントラストが美しいドイツ映画の名作『カリガリ博士』や、フランス人監督ジャン・エプスタインの『アッシャー家の末裔』 、特撮映画の古典的傑作『ロストワールド』などを上映。さらに、映画史にその名を残すハロルド・ロイドやD・W・グリフィスの短編集も上映する。シネマヴェーラは、2008年より国内外から収集した16mmフィルムに独自に字幕をつけ直し、パブリックドメインとなったクラシック作品の上映プロジェクトを行っている。現在、映画上映はデジタル化が進んでいるが、本館には“フィルムで映画を観る喜び”を感じられるプログラムが数多く用意されており、今回の特集も映画ファンにはたまらない内容になっている。映画史上の名作番外編サイレント小特集IV3月17日(土)から30日(金)までシネマヴェーラ渋谷で開催※毎日2本立て、終日入れ替えなしの上映
2012年03月15日