新国立劇場演劇公演『骨と十字架』が、本日9月1日(金)より無料映像配信される。期間は1ヶ月、新国立劇場ウェブサイト内の「新国デジタルシアター」( )、新国立劇場YouTubeチャンネル( )から視聴可能となっている。『骨と十字架』は、2019年に小川絵梨子演劇芸術監督就任のシーズンの締めくくりとして、小川自身の演出で上演された、劇団パラドックス定数を主宰する劇作家・演出家の野木萌葱による書き下ろし作品。進化論を否定するキリスト教の教えに従いながら、同時に古生物学者として北京原人の発見に関わり、一躍世界の注目を浴びることとなった実在のフランス人司祭、ピエール・テイヤール・ド・シャルダンの物語だ。『骨と十字架』より撮影:宮川舞子■あらすじローマ、イエズス会本部。テイヤールは、敬虔な司祭として神に身を捧げる一方、古生物学者として人類の進化の道について探求する日々を送っていた。イエズス会は、彼の信仰のあり方に対してキリスト教の教義、神の御言葉に矛盾するものとして、彼の処遇を問題視することになる。テイヤールに科せられたのは、ヨーロッパから遠く離れた北京への赴任だった。どうしても譲れないものに直面したとき、信じるものを否定されたとき、人はどうなっていくのか、どう振舞うのか……立場を異にする男性5人の聖職者による濃密な会話劇は、上演時に大きな反響を呼んだ。1ヶ月間の無料映像配信というまたとない貴重な機会に、ぜひ堪能して欲しい。<配信情報>■配信メディア新国立劇場ウェブサイト内 新国デジタルシアター新国立劇場YouTube チャンネル■配信内容2018/2019 シーズン演劇『骨と十字架』日本語上演収録日:2019 年7 月25 日(木)作:野木萌葱演出:小川絵梨子美術:乘峯雅寛照明:榊 美香音響:福澤裕之衣裳:前田文子演出助手:渡邊千穂舞台監督:藤崎遊出演:神農直隆 / 小林隆 / 伊達暁 / 佐藤祐基 / 近藤芳正
2023年09月01日新国立劇場の2018/2019演劇シーズン、そのラストを飾る舞台『骨と十字架』(作=野木萌葱、演出=小川絵梨子)が7月11日(木)、小劇場にて開幕する。芸術監督である小川の依頼で、野木が初めて新国立劇場に書き下ろした、男優5人(神農直隆、小林隆、伊達暁、佐藤祐基、近藤芳正)による会話劇だ。主宰する劇団パラドックス定数のほか、外部への戯曲提供でも注目される野木の劇作の持ち味は、緊張と興奮をあおる小気味の良い言葉の応酬。実在の事件や人物を題材に、言葉によって増幅する臨場感が、独創性あふれるフィクションを骨太に立ち上げる。そんな流麗な会話を生み出すご当人は、実に慎重に、穏やかに、言葉少なに自作を見つめる慎ましい人だ。「最初に依頼のメールをいただいた時は、宛先を間違えていらっしゃるのでは!? 私でいいのか、できるのか!?とプレッシャーを感じましたね。小川さんからはとくに細かい要望などはなく、ただ『“ディストピア”を題材にして、お願いします』という言葉をいただきました」劇作の糸口は、主に図書館で見つかることが多いそうだ。今回の物語の中心人物、カトリック司祭であり古生物学者であるピエール・テイヤール・ド・シャルダンも、図書館で手にした一冊が初めての出会いだった。「本を読んで、うわ、これは手強いわ、でも興味が沸いてしまったな…と思ったんですね。出会ったな、という感覚でした」。キリスト教的進化論を提唱し、当時、進化論を認めていなかったローマ教皇庁から教義に反する異端者と責められるテイヤール。後に北京原人を発見して脚光を浴びるこのフランス人学者を題材に、野木の中でドラマが走り出した。ある人間の、迫害に屈することなく信仰と学問に向けて貫いた信念、その生き様が、彼を取り巻く人々との躍動感あふれるやりとりから浮かび上がってくる。テイヤール(神農)と、彼を心配する弟子リュバック(佐藤)、鋭利な視点で彼に助言する司祭リサン(伊達)、コトを穏便に済ませたいイエズス会総長(小林)、そして執拗にテイヤールを糾弾する検邪聖省の司祭ラグランジュ(近藤)。5人の実在するキャラクターの見事な配置、その物語展開は綿密なプロットから生まれたものと早合点したが、野木は笑顔で首を振った。「とくに“これを書こう”と準備してはいないんですね。今回も、学問と宗教の狭間にいた、一人の司祭の姿を描こう!と最初に思ったわけではなくて……。登場人物も、この人はこういう人と決めることはしていません。強いて言えば、書きながら人物が勝手に動き出す……、その感覚は強いと思います。……ってそんな人物が動いて、書くなんて言ったら、瞬殺で台本が上がると思うんですが、それはありえない(笑)。もちろん迷走もします。言葉にすることから逃げているわけではないのですが、書いている瞬間は、自分でも捉えきれていないところがありますね。私がお芝居で“素敵だな”と思うのは、俳優さん同士の“あいだ”に生まれるものなんです。なので、テイヤールという人がいた。その周りの4人が、関わりたくもないのに、関わらざるを得なくなった。そうして4人それぞれが変わっていき、テイヤール自身にも変化が訪れる。あくまでも、その“あいだ”に目が行くんですよね」神懸かり的な創作過程に興味は尽きないが、控えめな語り口は、すでに台本は現場に託した、そんな潔い姿勢ゆえのものかもしれない。「稽古場には、台本を読むところまでは同席しました。小川さんが「これ」とか「それ」といった言葉がどこにかかるのか、そういった細かいところまで丁寧に読み解いていくのを見て、おお〜、自分ではそこまで考えが及ばなかった!と気付かされることばかりでしたね。立ち稽古になってからは、もう見ていません。お呼ばれしたら伺うかもしれないけど、自分から図々しくは行けないだろ、と(笑)。もうこのお芝居は役者さんのもの、スタッフさんのものですから」。それでも稽古が佳境に差し掛かった頃に、稽古場に立てられたセットを目にして心ときめいたという。「わあ〜!って反応になりました(笑)。最初の本読みの段階で、すでにすごいな!って思うセットが立っていたんですが、それがさらにグレードアップしていましたので!」。生きた言葉を鮮やかに生み出す作家、野木が望むのは、人間同士の関係性を目の当たりにすること。その“あいだ”の妙を、徹底して戯曲を探る小川演出のもと、巧者揃いの男優陣がどう表すか、確かめたい。取材・文:上野紀子
2019年07月10日