喃語(なんご)とは?出典 : 喃語とは、赤ちゃんが言葉を覚える前に発する、意味を伴わない声のことを指します。「なむ」「ばばば」「だだだ」など、口や舌を使うことで出すことのできる声で、2つ以上の音がつながっているものです。赤ちゃんは、喉から出す音を変化させたり、違った音声を組み合わせたり、繰り返したりしながら、それを自分で聞いて楽しんでいます。一人でいるときにも、自発的に声を出すことが多くなるので「声遊び」をしていると考えられています。最初は「あう」、「まん」など短い喃語しか発することのできなかった赤ちゃんは、この「声遊び」をしていく中で、だんだんと「あぶぶぶ」「あむあむ」「んまんまんまんま」など長い喃語を発する機会が増えてきます。喃語が出るときには、新生児期のときよりも体の動きが活発となります。リズミカルに上下に手を動かすバンギング(bangging)が、機嫌のよいときに出るようになり、また顔の表情も豊かになってきます。そして、だんだんと手足を動かしながら、喃語を発することが増え、発声そのものが思いや感情を伝える「道具」としての役割をもつようになってきます。これまで泣くことでしか気持ちを伝えることのできなかった赤ちゃんは、喃語を発することも大好きな養育者と関わるためのひとつの方法であることがわかるようになります。それまでは大人の働きかけに受け身で反応するだけだった赤ちゃんが、自ら相手に対して働きかける、コミュニケーションの主人公に生まれかわろうとしているときであるといえます。赤ちゃんの喃語が出てきたときには、相槌をうったり、声をかけてあげたりと応答的に返事をしてあげましょう。相手と「通じ合っている」喜びや心地よさを体験することで、赤ちゃんはやりとりをすることに対して前向きな気持ちをもつことができます。赤ちゃんがよく育つためには、大人とのコミュニケーションが欠かせません。喃語はいつからいつまで?子どもの言葉の育ちのステップ出典 : 赤ちゃんが私たち大人のように、言葉を使いコミュニケーションをとることができるまでにはどのようなステップがあるのでしょうか。ここでは、赤ちゃんの言葉が育っていくステップについてご紹介します。Upload By 発達障害のキホン①泣く生まれてきてすぐの頃には、赤ちゃんは空腹や排泄などの不快な状態を表すために泣きますが、これは体の内部の不快な状態を表しただけで、特に養育者に向かって訴えたものではありません。②クーイング生後間もなくは、泣くことでしか自身の身体の状態を示すことのできなかった赤ちゃんはやがて、「くー」や「あー」などの、柔らかい声を出すようになります。これは、赤ちゃんが「心地よい」「気持ちよい」と感じるときに多く発する声でクーイングと呼ばれています。クーイングは、だいたい生後2ヶ月頃に見られます。音を作る器官が少しずつ育ってきている証拠です。③喃語そして、骨格が整い、口の奥にある音を作る器官が成長することにより、「あう」「あむ」や「ばぶ」などの、2つ以上の音のある声である喃語を発するようになります。やがて、8~9ヶ月頃を過ぎると、周りの人や自分が発した音声が、意味のあるものとして取り入れられてきます。また音の調節と発声、肺から出る空気のコントロールができるようになり、発する喃語の発音もはっきりしてきます。④指さし喃語が出るようになってから、3~4ヶ月くらいが経つ頃には、徐々に喃語は少なくなり、その代わりに指さし、身ぶり手ぶりが増えていき、嬉しい、楽しいなど自分の気持ちを伝えられるようになってきます。この時期になると、言葉を話す一歩手前だといえます。⑤一語文、やがて二語文へそして、ある特定の音声(マンマならマとンとマという音の組み合わせ)が、どの人にとってもほぼ共通するモノと結びついていくことがわかり、一語文という意味をもった言葉になります。一語文が喃語と異なるのは、意味のともなう言葉であるという点です。例えば、「犬」という意味をともなった「わんわん」、「ご飯」という意味をともなった「まんま」などです。言葉は、子どもが伝えたい事柄に対して、大人がそのものの名前を伝えていくことにより獲得されていきます。「まんま、ちょうだい」などの二語文が出るのは、一語文が出るようになってから、6~8ヶ月経過した頃です。最初のうちは片言でしか話すことができないですが、徐々にはっきりと話すことができるようになってきます。池川明 /監修『はじめてママの妊娠・出産・育児ブック』2010年/日東書院/刊喃語がなかなか出ない……。原因は?出典 : 母子手帳やインターネットや書籍には、月齢ごとの赤ちゃんの発達について沢山の情報が溢れています。子育てをする中で、そのような情報と比較して、不安になることがあるかもしれません。しかし、体重や身長、運動能力などと同じように、言葉の育ちのスピードは、赤ちゃん一人ひとり異なります。赤ちゃんの育ちにおいて、「この時期にこれこれができるようになる」という基準は非常に曖昧なものです。喃語も、おおよそ生後5~6ヶ月に出るという基準はあるものの、赤ちゃんによって生後6ヶ月よりも早く喃語の出る赤ちゃんもいれば、1歳頃になってから喃語が出る子もいます。赤ちゃんが喃語を発するまでには、体や心の中でいくつかの準備が行われ、整えられていく過程があります。一つは聴覚や、喉の筋肉、運動機能の発達などの身体的な基礎の発達です。二つ目は、社会的な基礎の発達です。例えば、養育者にあやしてもらえることが嬉しくて微笑みを返すなど赤ちゃんと養育者がお互いにやりとりを行っているという関係性の基盤が出来ていることが重要です。赤ちゃんの喃語が出ない要因には、以下のようなものが考えられます。人が声を発するためには、咽頭部という喉の奥のスペースが必要ですが、下顎や喉を包んでいる骨格が未成熟な場合には、その空間が狭いために、2つ以上の音からなる喃語を発することはできません。またその他に、2つ以上の音から喃語を発するためには、はじめに吐き出す空気の量をコントロールしてセーブしつつ、声を出すために必要な声門という部分を閉じたり開いたりする機能が整っている必要があります。赤ちゃんの骨格がまだ成熟していなかったり、声門の開閉機能が整っていないなど、身体的な基礎が未発達であるために、喃語が出ない可能性があります。言葉の獲得は、音を聞くことから始まります。赤ちゃんは、お母さんのお腹の中にいるときに耳の機能ができあがり、お腹の外の音を聞くことができるようになります。赤ちゃんが自発的に喃語を発するためには、聴覚の機能が整っている必要があります。周囲の大人の声や、環境音、自分の出した声を耳で聞き取ることにより、喃語は促されていきます。厳密には、聴覚に障害のある赤ちゃんも「あー」「うー」などのクーイングの音声は出ます。ですが、自分の出した声を聞き取ることができないと、自分が発声しているという感覚が薄まってしまい、次第に喃語を発することが少なくなってきます。赤ちゃんが喃語を発声しない原因のひとつとして、赤ちゃんと養育者の間にコミュニケーションをとる関係が築けていないということが考えられます。赤ちゃんは、養育者からお乳をもらったり、泣いているときにはあやしてもらったり、またクーイングの声をあげたら反応をしてくれたりと、お世話をしてもらう中で、養育者に対する信頼感を築いていきます。養育者のやさしげな表情や声、匂いなどの養育者の情報が赤ちゃんの頭の中に記憶され、「いつもの養育者=よい気持ちにさせてくれる大切な人である」と、なんとなくわかるようになります。赤ちゃんの養育過程では、養育者があやして赤ちゃんが笑顔で応える、そして、その笑顔に養育者がまた応えてあげるというやり取りが繰り返されます。他にも、「養育者が視線を合わせる⇒赤ちゃんも視線を返す」といった視線のやり取りもよく行われます。こうした養育者と双方向的なやり取りの繰り返しは、赤ちゃんにとって非常に心地のよいものです。こうした体験の積み重ねが、相手とコミュニケーションを交わし、再び心地よい気持ちを味わいたいという動機を引き出し、赤ちゃんの喃語を促します。心地よい気持ちの体験が積み重ねられていないときには、赤ちゃんの中にやりとりを行おうとする気持ちが芽生えないために、喃語が出ないということが考えられます。スターン,D.N.小此木啓吾他/著.訳『乳児の対人世界』1989年/岩崎学術出版社/刊秦野悦子/著『①ことばの発達入門』2001年/大修館書店/刊発達障害のある子どもの乳児期の特徴のひとつとして、喃語を含めて、言葉がなかなか出ないという症状があります。発達障害とは、先天性の脳の機能障害です。自閉症スペクトラム障害をはじめとする発達障害のある赤ちゃんは、コミュニケーションや人との関わりを作ることなどの社会的な基盤が育ちにくいという特性があります。人と人とのコミュニケーションは、喃語を含む言葉によるものだけではありません。例えば、養育者と視線を合わせたり、養育者の働きかけに対して微笑みを浮かべたりすることもコミュニケーションです。養育者との間で視線を交わしたり、働きかけに対して微笑みを浮かべたりすることが少ないときには、発達に遅れがあることも考えられます。しかし、喃語が出なかったり、養育者とのやり取りを積極的に行うことのない場合にも、その赤ちゃんが必ずしも発達障害であるとは断定できません。乳児期の赤ちゃんの育ちには個人差が大きいため、医師や臨床心理士などの専門家でも発達障害があるかどうか診断を下すことは難しく、診断がおりるのは赤ちゃんの年齢が上がってきてからとなります。喃語や言葉の発達の相談先は?出典 : これまでに何度か述べてきたように、乳児期の赤ちゃんの発達には大きな幅があるため、身体の成長などとともに、喃語が急に出てくることは決して稀なことではありません。しかし、専門家に相談してみることで、療育の機会の提供や、思ってもみなかった子育てに関する情報を得られることもあります。気になることがある場合には、専門機関を訪れてみるとよいでしょう。小児科というと、子どもの風邪や病気の診断、治療をするイメージをもつかもしれませんが、子どもの発達に関する悩みごとの相談にも乗ってくれます。より子どもの発達に詳しい専門機関などの情報も持っているので、地元の専門機関を紹介してくれる場合もあります。行政や自治体が実施主体となって行っている事業です。子育て中の親子が気軽に集い、交流や子育ての不安・悩みを相談できる場を提供 することを目的として各地域に設置されています。無料で相談をすることができます。0~17歳の児童を対象として、育児の相談、健康の相談、発達の相談など、さまざまな相談を受け付けています。必要に応じて、発達検査を行う場合もあり、無料で医師や保健師、心理士、言語聴覚士などから支援やアドバイスをもらうことができます。基本的に予約制なので、あらかじめお住まいの市町村のHPなどを見て確認するようにしましょう。乳幼児健診は、各市町村の保健センターなどで行われているもので、赤ちゃんの病気の早期発見や予防と早期発見、そして順調に発達しているかどうかを確認するための検査です。保護者が普段の子育てで疑問に思っていることや、なかなか話す機会がない不安などを専門家に相談できる場でもあります。また、乳幼児健康診査は、同じ月齢期の赤ちゃんを育てる保護者も来ており、子育てを同じくする人と情報交換できる場所でもあるので、上手に活用しましょう。赤ちゃんの育ちが「早い」か「遅い」かは判断できるの?出典 : 育児の中で、よく聞かれるのは「遅いか早いか」というスピードについて心配する声です。ですが、赤ちゃんの育ちを遅いか早いかというスピードだけで捉えるのは不十分です。赤ちゃんの育ちはそれほど単純ではありません。赤ちゃんの育ちは、「順序や方向性」という縦の関係と「他の領域の育ちとのつながり」という横の関係というふたつの軸から理解することが大事です。■縦の関係:順序や方向性子どもは発達していく際、ある一定の順序をたどります。わかりやすいのは、「ハイハイする→立つ→歩く→走る」という順序です。子どもが「走る」ことができるようになるためには、発達の順序をさかのぼって、乳児期に「ハイハイする」状態が達成されていることが大切であることはわかると思います。これが縦の関係です。赤ちゃんの育ちは、同じスピードで進むのではなく、あるとき急に前に進んだり、時にはしばらく停滞する時期があったりと、波があります。ですが、そこには決まった順序と方向性があるのです。■横の関係:他の領域の育ちとのつながりそして横の関係とは、子どもの育ちにおける、さまざまな領域の互いのつながりのことです。ここでいう領域とは、運動発達、他者とのコミュニケーション、言葉の発達などです。喃語が遅れている場合には、そのほかの領域でも遅れが重複してみられるケースがほとんどです。つまり、喃語という「言葉」の領域のことについて考えるとき、赤ちゃんの運動能力の育ちや、情緒面の育ちについて同時に考えることが必要です。ですので、赤ちゃんの育ちに寄りそう際に、喃語の発声のみを促そうとしても、発達を手助けすることにはなりません。喃語が出ないときには、赤ちゃんが発達のどの段階にいるのかどうか把握をして、赤ちゃんの生活全体に対して働きかけていくことが大切になります。お医者さんが教えてくれない発達障害についての疑問 - 自閉症 アスペルガー LD ADHDを含む発達障害児の発達促進の臨床開発研究機関|日米発達障害研究院喃語を引き出すための工夫出典 : 赤ちゃんの喃語が出てくるには、子どもと養育者のコミュニケーションの積み重ねがあります。最初は抱っこをすることによる養育者の体温や匂いを感じることから始まり、また、視線を合わせたり、微笑みがシンクロしたり、音声のトーンを真似したりという、やりとりが生まれ、進展していきます。人とふれあうことの心地よさこそが喃語の発声を促していきます。前の章で、赤ちゃんの生活全体に働きかけることが大切だと記しました。このような考え方をベースとして、喃語を引き出すための工夫についてお伝えいたします。赤ちゃんが喃語を発するためにはある程度の訓練が必要です。赤ちゃんは、喉の筋肉や音を作る器官の成長に伴い、思い通りの音を出すために準備をしている段階です。なので、大人はその準備を支える役割を担ってあげることが大切です。具体的な方法は、赤ちゃんに、口の動きがよく見えるようにゆっくりと、そしてはっきりと話しかけることです。生まれたばかりの赤ちゃんは視力が弱いために、遠くにあるものは見えないので、赤ちゃんの顔の近くで話しかけてあげるとよいでしょう。ある実験によると、母親が赤ちゃんに話しかけるときに特有の、ゆっくりとした抑揚のある少し高めの声は、赤ちゃんの注意を引きつけ、脳を活性化させる効果があると検証されています。このような働きかけを行うことで養育者の口元の動きに引きずられるようにして口を動かして模倣しようとする姿が見られます。また、赤ちゃんが声を出すための準備をお手伝いするために、赤ちゃんを笑わせる方法があります。ここで指している笑いとは、微笑みとは異なり、「キャッキャ」「ハッハッハ」と声をあげて笑うというもので、喃語と同じく2つ以上の音で構成されます。赤ちゃんが喃語を発するためには、息を吐き出すコントロールをすること、喉の奥の空間が広がっていることが必要な要素なのですが、笑うときにはそれらのことが赤ちゃんの体で行われます。よって、赤ちゃんの笑い声を促すことで、自然と喃語を発しやすくなるような赤ちゃんの体づくりをすることができるのです。正高信夫/著 0 歳児の言語習得と四肢運動の発達 2002年/『バイオメカニズム学会誌』Vol.26 ,No.1上記では、赤ちゃんが思い通りに声を出すための工夫についてお伝えしました。こちらでは、その「思い」を引き出すための工夫についてお伝えします。赤ちゃんの表情や行動から、その心を察して気持ちに寄り添い、働きかけを行うことによって、乳児に「通じ合っている」喜びや心地よさを体験させてあげます。具体的な働きかけとは、微笑みを返すことや、「そうなのね」と相槌を打ってあげたり、「気持ちいいのね」と赤ちゃんの気持ちを代弁するような言葉がけをするなど、さまざまなものが挙げられます。赤ちゃんはお母さんをはじめとする養育者からの働きかけによって、心地よい思いを経験します。その経験が積み重なることで、養育者ともっと関わっていきたいと、人とのコミュニケーションに対して強い欲求をもつことができます。このように外界への前向きな意欲をつくりあげていくことと結び合わせながら、子どもは育っていきます。育ちを考えるときに常に立ち返っていく原点は、養育者と赤ちゃんとの心地よいコミュニケーションなのです。加藤ひとみ・大國ゆきの/著 「幼児期の言葉の獲得 〜幼児期の発達特性と幼稚園での教育」2015年/『東京成徳短期大学紀要』48号白石正久/著『発達の扉<上>』1994年/かもがわ出版/刊まとめ出典 : 赤ちゃんの喃語は、言葉を話すまでの大切なステップのひとつです。このコラムでは、赤ちゃんの育ちを捉えるために大切にしたい視点を中心に、喃語が出ない・遅いときの原因や、喃語を引き出すために生活の中でできる工夫や相談先についてお伝えしました。乳児期の赤ちゃんの育ちは、身長や体重のように大きな個人差がありますので、長い目で見守ってあげることが大切です。養育者との心地のよいやりとりが、言葉の育ちを促していきます。赤ちゃんの気持ちに寄り添ってあげながら、一緒に過ごすことのできる時間を味わいたいものですね。
2016年09月30日